第二話 よし!

翌日
「セナー、もう起きなぁ」
「ふみゃー、まだ眠いよぉ」
そう言っている彼女の目の前に時計を突きつける。
時刻は12時30分。
ま、あたしが起きたのも10時頃なんだけどね。
「もうお昼だよ」
「あぅ、ご飯作ってくれたの?」
お昼ってだけで、ご飯なんだ……この娘こんな生活しててよく太らないよなぁ。別に運動とかもやってないだろうし……羨ましいヤツ。
「……あたしが作らなきゃ誰が作るの?」
「うーん……どっかの親切な人」
………この娘、小さい頃飴とか貰って誘拐されてないか?
「まったく、セナの部屋何もないんだもん。ひょっとして、毎日ファーストフードとかコンビニ弁当とか、カップ麺?」
「そんなことないよぉ」
ま、冗談で言ったんだけどね。さすがに女の子だから料理くらいするだろう。
「冷凍食品もあるよぉ」
前言撤回!
あのアイスの後ろにあったのは冷凍食品か……まぁ、最近のは結構栄養価とかも高いけどさぁ……それでも、いいのかなぁ?
ま、学食で栄養摂ってるのかな……。



あたしは起きてから、悪いとは思ったけど、冷蔵庫を開けてみた。
「まったく、前に来たときもそうだったけど、ホント何もないなぁ」
って言っても、空な分けではない。果物とかチョコレートとか、イースト菌とかは入ってる。まぁ、簡単に言ってしまえばお菓子作りの材料は入ってるわけだ。
「お菓子作れるんなら普通の料理できそうだけどなぁ……」
言いながら、冷凍部分を開けたら――
「――わぁ!!」
アイスが雪崩落ちてきた。
箱アイス、カップアイス、棒アイス……etc
その後ろに何かあったけど、あえて見ずに一生懸命元に戻した。

「しょうがない……家から何か持ってくるか」
まぁ、食べ行ったりしてもいいんだけど、あたしも料理は嫌いじゃないので作ることにした。
「セナは……」
まだ寝てるか。
部屋を覗くと、幸せそうな寝顔をしながら寝息をたてている。
「しょうがないなぁ……ま、メモ残してっと……」
机の上に、簡単なメモを残して、パソコンの横にある部屋の鍵を手に取った。
どうせ同じ寮なので鍵の形状はそんなに変わらないから見れば分かる。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
そう言って部屋を出ようとしたとき、一瞬彼女の目から涙がこぼれたように見えたのは、あたしの気のせいだろうか。

セナの部屋二階で、あたしの部屋は四階だ。
棟は同じ二年の棟なんだけど、どうやら下から埋めていくらしく、変な時期に入ったあたしの階は上にあるわけだ。
ちなみに、屋上に行く階段のすぐ横なので、外に出たいときは屋上に行っている。この寮、変なところに拘っていて、屋上が凄いのだ。
どう凄いかというと、基本は一面芝生。で、小さいながらに池がある。その上、何故だか鉄棒や滑り台、果てはジャングルジムや砂場まであるのだ……ちょっとした児童公園のような感じだ。
もう中学生なんだから、こんなのいらないのになぁ。
あ、でも、入学してすぐの頃には懐かしさと物珍しさで、ブランコや鉄棒では遊んでた。たまにやると結構はまるものなのだ。
あ、ちなみに、作った理由を前に先輩に聞いたんだけど、“黄昏れるのに近くにあるといいから”らしい……。よくドラマとかアニメであるブランコに座って夕陽に当たっている女の子。アレをやるため……。
まぁ、それがドコまでホントなのかは分かんないけど。

「ただいまっと……」
まぁ、言ったところで当然ながら誰からも返事はない。と、言うか、あったらかなり恐い。
「さぁて、何あったっけかなぁ。と、その前に着替えるか」
部屋の作りは当然ながらセナの所と一緒だ。なので、彼女の自室の場所同様、あたしのプライベートルームもその位置にある。
部屋に入ってクローゼットの中から、着替えを取り出して、バスルームへ。
と、制服を脱ごうとポケットに手を入れたとき、あたしは昨夜セナの部屋から見つけた物を思い出した。
ポケットの中から、それをそっと取り出す。
三センチ四方くらいの立方体のそれは冷たいレンズを光らせていた。
「!」
あたしは思わず、ソレを水道の蛇口の下に持って行き、上から思い切り水をかけた。
これで……壊れるよねぇ。
あ、でもこのカメラの映像を何処かで誰かが見ていたのだとするなら……。
で、でも、ソレだとしても、堂々と出てくるなんてことはないよね……。
頭でそう言い聞かせても、やはり不安は残る。
「あーもう!」
叫ぶとあたしは服を脱ぎ捨て、バスルームに飛び込んだ。
が、そこでまた別の不安があたしを襲う。
「まさか……ないよねぇ……」
昨日セナのところで見た場所を一応確認する。
「……よかった……」
よかった?よかったじゃないよ!セナのトコには………………セナ、ゴメンm(_ _)m

熱いシャワーがあたしの肢体を流れる。
「はぁ……これからどうしよう」
シャワーを止めて、髪から滴る水を感じて、床を見つめながらあたしはただそれだけ何度か呟いた。

「――このくらいでいいよね」
幾つかの食材と調味料をビニール袋に詰めて持つと、あたしは部屋を出てセナの部屋に戻った。

「ただいまぁ」
…………。
どうやらまだ寝ているらしい。
ま、いいけどね。
よし、朝ご飯……?じゃないな。お昼ご飯作ろっと!
「何にしようかなぁ。メニュー決めて材料持ってくればよかった」
袋の中から幾つかの材料を取り出し、メニューを悩む。
まぁ、簡単な物でいいだろう。
何かないのかなぁ。あ……。
冷蔵庫の横にあるガラス張りの棚の中に食パンがあるのが見える。
「使っちゃって、いいよね?」
言いながらソレを取り出す。一応賞味期限を確認して……明日までか。
「これでいいよね」



「ふぁ〜〜」
あくびをしながら目をこすって彼女が食堂に現れたのは、あたしが起こしたときから五分ほどしてからだった。
………ン?パジャマ、着てる?
いったいいつ着替えたんだ……?昨夜は確かに二人とも制服のままだったよねぇ。
ま、いっか。
「セナ、顔洗ってきな」
「うん……大丈夫ぅ」
……何が?
「いっつもそう?」
「何が?」
「だから、朝起きてから」
「え?いつもは、朝起きたら着替えて学校だよ」
いや、そうじゃなくて……。
「……ま、いいや。じゃ、ご飯にしよ。冷めないうちにさ」
「うん」
そう言って、食卓に着く途端に何故だか彼女の目は覚めたようだ。
「コレ、ホントにアキちゃんが全部作ったのー!?」
何て言うか……ベタな驚き方だなぁ。
「ま、まぁね」
「凄いよ!」
「あ、セナ、食パン使っちゃったけど……よかった?」
「ほえ?食パン、あったの?」
「……うん」
「そっか、うん。いいよ別に。ソレより食べよ食べよ」
「………うん、そうだね……」

メニューは結構軽食。
フレンチトーストとピザトースト一枚ずつに、昨日余ったホットケーキを一口大に切って、油で揚げたドーナツ。
ベーコンエッグと野菜炒め(セナって、生野菜食べないから……;)、コーンスープ。
それにホットはちみつミルクだ。
我ながらほんっと手抜きだなぁ。
ま、セナは満足してくれてるみたいだからいいけどね。でも、これくらいは自分で作ろうよ……。
「美味し?」
「うん♪」
スプーンを銜えながら頷く彼女は何だかとっても幼く見えた。
ホントに同い年なのかなぁ……。

でも、元気だよなぁ……。
あんなの毎日来てるのに……あたしだったら、泣いちゃうよ……いや、ソレじゃあ済まないかも……(;_;)
と、セナの顔を見ると、一瞬強ばったように見えた。
「セナ……?」
「ン?どうしたの、アキちゃん食べないの?」
その時はいつもの彼女の可愛い笑顔だった。
「ううん。何でもない。あ、今日はどうしようか?」
「え?」
「学校も休みだしさぁ。どっか行かない?」
「うん♪」
あたしはカップに口を付けながら顔を隠してそう言った。
本心は遊びたいとかじゃない。彼女をこの部屋から連れ出したい……。
ま、どうせ大した所までは行けないんだけどねぇ……所詮中学生だしさ。
「で、セナ行きたいところある?」
「どこでもいいよぉ」
「そうだなぁ……よし!」
ホントは、この選択肢はあまり使いたくないんだけどねぇ……。

「で、どうして俺がここに居るんだ?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみれば?」
「………って、分かるかああーー!」
ならやらるなよ……。
この目の前で叫いているのはあたしの兄、大城鴇斗(おおきときと)二五歳。
今さっき思いつきで呼び出したのだ。ホントはあんまり気は進まなかったんだけどなぁ。
「解んなきゃ思い出して……」
「………」



「――やっほ、お兄ちゃん」
『ン、なんだ亜喜か』
なんだって……判って出たんじゃないのか……いや、むしろ妹のケイ番くらい登録しておいて欲しい……。
『で、何か用か?』
「今日、暇?」
『ああ、もの凄い忙しいわ』
何だ、この棒読みは……。
「そっか、暇なんだ。ちょっと頼みあるんだけど、来てくれないかなぁ?」
『忙しいって言ってるだろう』
口ではどういっても、この口調の時は決まって暇である。もし本当に忙しいなら、口調が早口になってもっと怒鳴ってくるはずだ。
「ねぇ、いいじゃん。そんなこと言わないでさぁ、寮まで来てよ。車で」
『お前なぁ……何で俺がお前のために車出してやらなきゃならないんだよ』
「そんな……可愛い妹の頼みが聞けないって言うの?」
『自分でそんなこと言う妹は可愛くない』
酷ッ!!
まったく、どうするか……遠出するのにお兄ちゃん使おうと思ったんだけどなぁ……よし、しょうがない……友達売るみたいでヤだけど……。
「あたしじゃなくてさぁ、セナをちょっと連れ出したいもんでねぇ……ダメ?」
ダメ元で猫撫で声を出してそう言ってみる。
と……。
『……そう言う問題じゃないだろう』
お!声に勢いが無くなってきた。もう一息だな。
あたしはそう思うと、ケータイのマイク口を手で押さえて、セナを手招きした。
「ン、何?」
「セナ、悪いんだけどさぁ、ウチのお兄ちゃんに“お願いできませんか?”って言ってくれない?」
「んー、いいけど……何で?」
「いいから、どっか遠く行きたくない?」
「いきたいっ!」
そんな力一杯笑顔で言われたら……あぁ〜、テレビ電話携帯だったらコレでお兄ちゃん一発で落とせるのにぃ!
ま、そんなこと言っててもしょうがない。
「じゃあ、セナ、お願いね」
「ウン☆」
『亜喜、何やってんだよ……オイ、もう切るぞ』
「あの、お兄さん?」
『ン?』
スピーカーから僅かに聞こえる声からお兄ちゃんの動揺が見える。
「お願いできませんか?」



「思い出した?」
「ああ、だいたいはな……」
「ロリコンッ!」
思わずあたしは言い放つ。
セナが可愛いのは認めるけど、だからってセナが言った途端表裏ひっくり返すか?普通。
結局、お兄ちゃんはあたしがセナに代わってから数分でやってきた。
普段なら十数分でかかる距離をだ。何で捕まらないんだろう、不思議だ……。
「何だよ、いきなり!」
「事実でしょ?中学生に何て態度とってんだか……でも、なんで、ロリコンなのに、あたしの言うことは聞いてくれないのよ!」
「お前、何いきなり言ってンだ。俺はシスコンじゃねぇっての」
「へぇ、じゃあ、ロリコンは認めるんだ」
「グッ……」
あたしの鋭いツッコミにたじろぐお兄ちゃん。
「ど、どっちにしてもだ。俺は亜喜のために来た分けじゃないんだからな」
「あーはいはい、分かった分かった。だからロリコンなんだよぉ」
「う、うるさい!」
そんなに動揺しなくても……。
「あの、お兄さん……」
そんなあたし達を見ながら、セナが話しかけてきた。
「何かな?」
見るとあのふざけた顔じゃなくて、かなり真面目な顔してる。
オイオイ、なんなんだその応対の差は……声のトーンすら変わってるぞ。
「本当によかったんですか?もしかしたら、忙しかったんじゃ……?」
「そんなこと無いよ。丁度暇だったからね。それに、僕もちょっとドライブに出たかったし」
……僕って、誰?
まったく、我が兄ながら情けないというか、恥ずかしいというか……。
ン……まさか……まさねぇ……。
「ねぇ、お兄ちゃん!」
「ンだよ、うるせぇなぁ」
コイツは……。
ま、言い争うだけ無駄なので次に進む。
「お兄ちゃんの趣味の中に盗撮とかストーカーとかって、ない?」
「………は?」
「いや、ないならいいんだけどね……ちょっと、ね」
そうだよね。いくら変態兄でもそこまではなしいよね。でも、もしそうだったら、あたしはセナにどうやって謝ろう……;
まぁ、その時はこの馬鹿兄を好きにしてもらおう。あたしにはそれくらいしかできない。

「で、俺は何処に行けばいいのかな?」
車の鍵に着いてるキーホルダーのリングを指に掛けてクルクル回しながら、お兄ちゃんはぶっきらぼうにそう言った。
「うーん……セナ行きたいところない?」
「特に……でも、ドコでもいいなら……水族館に行きたいなぁ」
俯きがちに言うセナに……。
「よし、じゃあそうしよう!明日も日曜だから学校休みだよね。なら、そこそこは遅くなってもいいよな……じゃあ、ココなんてどう?」
やっぱり……。
いつの間にか取り出したのか、観光案内付きの地図をセナに見せてる。
やっぱ、犯人か?
まぁいいや。いや、よくはないんだけど……取り敢えずは今はここから離れよう。
「お兄ちゃん、取り敢えず車出してよ」
「へいへい……」
………いつか殺す。

「じゃあ、今言ったところでいいかな?」
「あ、はい……」
何か、セナ、元気、ない?
まぁ、当然と言えば当然なんだけど、起きてからはそうでもなかったのに、お兄ちゃん来てから……何か、変だなぁ……。
「じゃ、行こうか」
そんなセナを知ってか知らずか、お兄ちゃんは車を出した。

「ふぁぁ〜」
あたしとセナは後部座席にいる。横にいるセナが眠そうに目をかきながらあくびをした。
「ン、セナ眠ければ寝ててもいいよ」
「う〜ん……大丈夫ぅ……それに、眠っちゃったら、運転してもらってるお兄さんに悪いし……」
「そんなこと気にしなくていいよ。俺運転好きだしさぁ」
「そうそう、こんなのに気遣うことないから、ね」
「お前なぁ、こんなのってことないだろう!」
「そんなこと言ってないで、集中しないと事故るよ。セナが」
「……わぁったよ」
お兄ちゃんはそう言うと、一瞬こっちを向いた顔を戻した。
・・・面白いなぁ。
「でも、セナちゃん、気にしなくていいからな。ちゃんと着いたら起こしてあげるから」
「――あたしがね。お兄ちゃんに起こさせたらどうやってやるかもの凄い不安だもん」
「どういう意味だ!」
「心当たりがないなら大声出さないでよね」
「このガキは……」
「ハイハイ、ガキだと思うんなら、ガキの言うこと一々気にしないの」
「まったく……あ、そうだ亜喜」
「ン、何?」
「お前、今いくらくらいある?」
「何、藪から棒に」
「いいから応えろ」
「まったく、妹の財布当てにするようになっちゃおしまいだよ」
ホントに……ま、いいけどね、あたしは別に。
「うーんとねぇ、ギリギリ五千くらいかなぁ」
「五千かぁ……」
悩んだように声を上げるお兄ちゃん。
何だ、何をしたいんだ……?
「ま、ソレでいいや」
「は?」
それでいいって、どういうコト?まさか……。
「貸してくれ。四千でいいから」
「Σ!ダメだよ!ってか、何言ってるの!」
「いや、すぐ返すからよぉ。もうじき高速だろ」
「うん……それで?」
「高速乗ったら、降りるまで金下ろせねぇからよぉ。途中サービスエリア停まるのヤなんだよ。でだ、降りるときに金がいるんだよ」
「それくらい知ってるよ」
「だから貸してくれって」
お兄ちゃんはそう言いながら、何故かオーディオの音量を一気に下げた。
「下りたら返してくれるの?」
「ああ」
そして、声のトーンも落ちていた。
何かあったか?
「それと、お前、声でかいぞ」
そう言いながら、片手をハンドルから話して後ろを指す。
あたしは自分の横を見ると……セナは眠ってしまっていた。
あたしに寄りかかって……何であたしは気づかなかったんだろう……?
ま、いいや。
と、なるほどね、それで。
ホントにセナのこと気に入ってるんだなぁ。
あ、でも、あたしの時もこのくらい気は遣ってくれるか……。何だかんだ言っても、兄って自覚はあるんだろうなぁ。
「分かった。じゃあ、はい」
あたしは財布から千円札を四枚出すとお兄ちゃんに渡した。
お兄ちゃんはソレを受け取り、エアコンの風の出るところのペットボトル立てに置くと、再び前を向いた。

しばらく走ってから、お兄ちゃんは急に声を掛けてきた。
「亜喜」
「何?」
「何かあったのか?」
え……。
「何かって……何が?」
「ソレが判らねぇから聞いてるんだろ……お前もそうだが、彼女の様子がおかしかった」
おかしかった……あたしは、別に何とも思わなかった。むしろ、あんなの届いてるのに、平然でいられるセナを凄いと思っていた……。
それを、お兄ちゃん……。それに、あたしの様子もって……あたしも普段通りにするようにしている……なのに……。
「亜喜?」
「あ、ゴメン……実は……………………」
言っていいのかなぁ……でも、お兄ちゃんが様子が変だって気づいてるなら、黙っているのも悪い気がする……でも、だけどセナのことだし……。
「お前さぁ、出る前に盗撮とかストーカーとかとか言ってたけど、それと何か関係あるのか?」
………隠しても………しょうがない……かな。
「実はね……あ、でも、話す前に約束して。絶対誰にも言わないって」
「少しは信用しろよ」
「信用はするけど……約束して!」
「ああ……それで?」
どっから話そう……やっぱ、始めから、かな。
決意すると、あたしはセナの頭をそっとあたしのいた位置に倒して助手席に移ろうとした。
「お、オイ、危ないだろ!」
「今はギア使わないんだから大丈夫でしょ。それよりお兄ちゃん手退けて」

「昨日ね、あたし、セナの部屋に泊まったんだ」
サイドブレーキとギアを跨いで助手席に着くと、あたしはそこから話し始めた。
「ほぉ〜、お前そう言う趣味だったのか?やめた方がいいぞ、同性愛なんて」
な、何言って……!!!
「い、いきなり何言ってンの!」
「冗談だよ……そんなに怒るなよ」
「続き話さないよ!」
「悪かったって……ンで、セナちゃんの部屋泊まって、それから何したんだ?」
「何したって……」
どういう意味で言ってるんだ……。
「オイオイ、黙るなよ。別に変な意味じゃないぞ」
「わ、分かってるよ!…………そ、それでね――」
何とか落ち着きを取り戻そうと、軽く深呼吸をしながらあたしは続きを話した。
まったく、ホントに何考えてんのよ……!
「――セナの部屋で、漫画読んでたんだけど……」

一通り話したとき、セナの声が聞こえた。
「たす……けて……」
「セナ?」
「セナちゃん……?」
「………zzZ」
寝言・・・?
「寝言だったみたいだな……しかし、そんなことが……で、ケーサツには届けたのか?」
「それは、考えたんだけど、やっぱそんなこと出来ないよ。だって、セナの色んな写真も添付できてるんだよ。当然ソレも資料だから持ってかれちゃうでしょ?」
「そりゃ、まぁなぁ……それじゃ言えないな……で、その相手の名前、何だ?」
「名前はわかんないけど、アドレスは、確か……シャイン……アット、ユーネット……だっけかなぁ」
「ソレそのままローマ字読みか?」
「ううん……えす、えっち、あい、えぬ、いーで、shine……」
「“死ね”……」
「え……」
「ソレって、シャインじゃなくて、死ねじゃ、ねぇのか?」
シ、ネ……死ね……。
確かに、ローマ字読みすればそうなる。でも、普通に考えてメールアドレスにそんなの付けるなんて思わなかったから……シャイン・ユー……貴女に光をってことだと思ってた。
でも、お兄ちゃんの言う通りだったら……。
思わずセナの顔を見る。
どんな夢を見ているのか、彼女は笑みを浮かべながら静かな寝息を立てている。
「“貴女は死ぬ”……」
「最悪……“お前を殺す”だな。お前みたいにシャインって、取られることを狙って“kill”とかにしなかったんだろう……」
だとしたら……。
「コレはただのストーカーなんかじゃないってコト……?」
「……最悪はな……ま、もっとも、ソレがシャインじゃないって確証もないけどな」
口調から苦笑いを浮かべているようだ。
でも、もしも“死ね”だったとしたら、今日はセナを連れ出して正解だった。
まぁ、そうは言っても、もう二ヶ月も前からだ……今更という気がしなくもないけど……この寝顔見てると……
「まったく、自分のことなのにねぇ……」
悪いとは思っても、勝手に笑みがこぼれてしまう。
ホントに……自分のことなのにねぇ……。

それから十五分ほど走って、目的の水族館に着いた。
走っている最中、あたしは勿論、お兄ちゃんも殆ど言葉を発さなかった。
別に話したくなかった訳じゃない。少なくてもあたしは。でも、何故か殆ど言葉を交わすことはなかった。
勿論、セナを起こしたくないってのもあったけど……それ以上にあたしは…………考えていた。
ホントに、いったい誰がやったんだろう………ゆるせないよ………。

「セナー、着いたよぉ」
「………zzZ」
反応ないし……まったく……。
「セナ」
「…………うぅー」
体を揺すると、そう反応だけは返ってきた。
「セナってば……ほら、着いたから起きなよ」
「ふぁ〜〜……寝てないもん」
どこがだ・・・。
「寝てたじゃん」
「きっとソレはアキちゃんの気のせいだよ………で、ここドコ?」
車内を見回して、その上で窓から辺りを見てセナはそう言った。
ソレが十分寝てた証拠なんだけどねぇ……。
「水族館だよ。セナ行きたいって言ったじゃん」
「ふみゃ……そうだっけ……?」
「そうだっけって……ウチのお兄ちゃんに車出してもらってさぁ……覚えてない?」
「あぅー……そう言われればそんな気もする……」
まったく、しっかりしてよ……まぁ、こんな感じだからいくらかへーきっぽくいられるのかも知れないけどなぁ。
それに、そんなところが可愛いんだけどねぇ。
「――セナちゃん、起きたか?」
「あ、お兄ちゃん……」
あたしはセナの寝顔を見て、お兄ちゃんの顔を一瞥した。
「そか……まぁ、しょうがねぇんじゃねぇのか……もう何日もまともに寝てねぇみてぇだしよぉ……」
え?
昨夜もちゃんと寝てたし……今も別に変じゃない……。
それでも、ちゃんと寝てないなんて言えるってコトは……やっぱり、お兄ちゃんが犯人なの?
「な、何でそう思うの?」
「何でって……セナちゃん……俯きがちになってること多くなかったか?目の下にクマ出来てる。たぶん隠そうとしてたんじゃないのかなぁ……それに、中学生でこれだけ肌が荒れてるのは普通じゃない……血行とかは悪くないさそうだから、栄養的なモノじゃない……と、すると、一番考えやすいのは睡眠不足……あと、ついでに言うなら……悪いが、この寝顔はあまり幸せそうとは言えない……」
言われてセナの顔を改めてみると、静かに寝ているとは思うけど、何となく不自然に見えた。それに、今まで気づかなかったけど、彼女の顔は勿論手首とか関節にも肌荒れがおきている……。
………なんか、お兄ちゃん、凄い……。
「で、でも、昨夜も今車の中でも普通に寝てたよ」
「お前がいたからじゃないのか?」
「え」
「お前がいたから、安心して眠れたんだよ、彼女は……かなり不安だったんだろうなぁ……ま、そんなこと言っててもしょうがねぇから、取り敢えず……」
「う、うん……そうだね…………………って、お兄ちゃん何してるの?!」
「なにって……」
お兄ちゃんは何のつもりか、セナの足に手をかけてた。
「セナどうするつもり!」
「そんな大声出すなよ……さっきよりも、静かに寝てるからさぁ……起こすのは、かわいそうだろ?だから、取り敢えず抱いていこうかとな」
いいながら、開いている方の手をセナの首の後ろに回し、中腰だった状態から立ち上がった。所謂お姫様だっこの状態だ。
「亜喜、何してんだ?行くぞ」
「あ、あ、うん」

「あ、そうだ……ちょっと待っててくれ」
この水族館は、周りが自然公園のようになっている。
入り口に近いベンチに自分の上着を敷いてセナを寝かせると、お兄ちゃんはそう言ってその場を去ろうとした。
「ドコ行くの?」
「金降ろしに」
ああ、そうか。
「あ、コレ」
納得しているあたしに、羽織っていたYシャツ着を脱ぐと放ってソレを寄こした。
……寒そ……Tシャツ一枚で……。
「で、何?」
「彼女の枕に」
それだけ言うと、小走りで何処かへ去っていった。
「枕に、ねぇ……」
ま、渡されたんだからいいだろう。
あたしはソレを丸めると、セナの頭を持ち上げてその下に敷いた。
「はぁ……まったく……この娘は危機感とかないのかねぇ……」
そんなことを言うと、ふとお兄ちゃんの言葉が頭をよぎった。
―― お前がいたから、安心して眠れたんだよ ――
そんなこと言われてもなぁ……そう言うのって、普通は彼氏とかが言われることじゃないのかなぁ。
ま、セナはその手のことに無頓着って言うか、疎いって言うか……どっちにしてもそんな感じの娘じゃないんだけどねぇ。
でも――
「――彼氏でもいればいいのになぁ……セナにも」
言いながら、何となく彼女の頬をつついた。
ホンット可愛いのになぁ(^o^)
全くの無防備の彼女は余計にそう思えた。

カシャ!
シャッター音が聞こえた。
あんなモノを見た翌日だから、イヤでも気になってしまう。
音源を探すと、どっかの家族連れが写真を撮っていただけだった。
「ま、普通はそうなんだろうけど………はぁ、お兄ちゃん遅いなぁ……」
行ってから、およそ十分くらいが経過している。
「そうだねぇ……で、お兄さんドコ行ったの?」
………ン?
「セナ、起きたの!?」
「……何で?起きちゃいけなかった・・・?」
いや、そうじゃないけど……あまりにも唐突だもんで……。
「あ、お兄ちゃんね、お金降ろしてくるってどっか行っちゃったんだ」
「そうなんだ……」
何故だか残念そうな顔をする。
何なんだ……?
「あ、アレ……?」
「ン、どうかした?」
「ボクの荷物は?」
……ン?荷物、そんなの持ってたっけか?
「結構大きいバッグなんだけど……」
「きっと車にあるんじゃないかなぁ。お兄ちゃん、セナ抱いてたからそこまで持てなかったんだよ。戻ってきたら聞いてみよ」
「う、うん……」

「あ、アレ、お兄さんじゃない?」
お兄ちゃんが去っていった方向とは逆を指さしてセナがそう言った。
………うん、たぶんそうだよ……でも、何で逆から?
行った方向から帰ってこようよ。
「よ、待たせたな……あ、セナちゃん起きたんだ」
「はい……済みません……寝ちゃって」
「いいって。それより、行こ」
「あ、あの、ボクの荷物……」
「ン?荷物なんかあったっけ?」
「ええ・・・トランクに入れさせて貰ったんですけど……」
「ああ、なら取り行こうか」
「はい!」

「あ、コレ?」
そう言ってお兄ちゃんが取り出したのは、かなり大きめのバックだった。運動部とかが持ってるスポーツバッグのソレに似ていた。
「セナ、コレ何入ってるの?」
「う、うん……ちょっと、ね」
「重そうだなぁ。持とうか?」
「い、いえ……大丈夫です。ソレに……――」
「――大切な物なんだ」
「は、はい」
俯きがちに言うセナ。
・・・。
何か、二人の世界に入ってないか?
あたしが声を掛けにくい空間に見えるのは気のせいだろうか?って、声掛けなきゃダメだろう!あのロリコン兄にセナは任せられない!
よし!
「早く行こう、お兄ちゃん!」
お兄ちゃんの上着を投げつけると、持つとあたしはセナの手を取って歩き出した。

「中学生は……子供でいいのか……えっと、子供二人と大人一人」
窓口でチケットを買ってから、あたし達は中に入った。