第一話 何?

「さってと、帰ろっかな」
上着を羽織ると、鞄を手に教室の窓を見た。
誰が開けたのか、僅かながらそこは隙間が出来ていた。
閉めようと手をかけると、取っ手は冷たく、寒々とする秋風がその隙間から入り込んでくる。
あたしは、急いで窓を閉めるとまだ残っている数人に声をかけ教室を出た。
「あ、帰るんだ……」
下駄箱で靴を履き替えようと、自分の場所を開けたとき、後ろから声をかけられた。
「あ、うん……一緒に帰る?」
「うん」
彼女は人懐っこい笑顔を見せると、荷物取ってくるからちょっと待ってて。と、早足に教室に向かっていった。

先に靴を履き替えると、あたしは真っ赤に染まった空を見上げた。
「もう完全に秋だなぁ……」
「そうだねぇ」
おっとりとした口調で同意を示す声が聞こえた。
「……あ、来た。あんたは、そんなボォーッとした風にしてるから転んだりするんだよ」
あたしは、ため息混じりに彼女の方を振り向き言う。
「うん。分かってる。でも、いいんじゃないかなぁ……ボクはアキちゃんみたいになれないもん」
「そう言うコトじゃなくて……」
ほぼ毎日と言っていいくらいに交わされるこの台詞。
そして、ここであたしは言葉を切る。
「じゃ、帰ろっか」
「うん」
ニッコリ笑う彼女の笑みは、いつも見ているけど、とても可愛いのだ。



彼女と知り合ったのは、あたしがこの学校に転入してきた朝だった。
それは、今から一年ちょっと前のこと……。

この学校は寮制のため、当然ながらあたしは一人で寮から学校に向かった。と、その途中で学校に行く道が分からなくなってしまった……。
寮と言っても、学校の敷地内にあるわけではない。学校から少し離れたところにある高台にソレは建っていた。学校からの距離はほぼ一キロ。遠いほどの距離ではないために、殆どの生徒が歩いて通学している。
その途中でY字になっている分岐路があるのだが、そこを間違えて入ってしまったのだ。
看板でもあればいいのになぁ。
その途中、普通ならあり得ないことだけど、彼女が居た。
……………。
「アレ、あなた、その制服、ウチのだよねぇ」
「え?」
先に声をかけてきたのは彼女の方だった。
見た目は、小柄で、あたしよりも頭一つ小さいくらいだ。薄く紅のかかったような長い髪がとても綺麗に見えた。
でも、なんで……?
彼女は別に道などがない茂みの中から現れたのだ。
「えっと……は、はい……今日から転校してきた大城亜喜(おおきあき)って、言います」
「そうなんだ。あ、ボクも自己紹介いる?」
「え………」
そんなこと言われてもなぁ……あ、何となくしたそうな顔してる気がする……。
「は、はい……じゃあ……」
「うん。ボクは金田」
結局名前だけ………ま、いいけど。
「でも、なんでこんな所に?」
なんでって……学校行くのに……って、言うかあたしが聞きたいところだ。
いきなり茂みの中から自分と同じ学校の制服を着た女性が現れたのだ。普通は不思議だろう。
「あたしは、学校行く途中で」
「だから、なんで?」
「なんでって……」
「………………………………あ、もしかして――」
数秒の沈黙の後……――ってか、この人ただボォ〜ッとしてただけのように見えたんだけど、何か考えてたのかなぁ――彼女は思いついたような顔をして言った。
「――途中道左に入っちゃった?」
「え……」
そんなこと急に言われても……うぅん。でも、もしかしたらそうかも。
「そうかもしれない」
「じゃあ、学校とは逆方向だよ。学校はそこを右に行ったところだから」
「あ、そうなんですか?!」
「うん……あ、あなた同じ二年なんだ。いいよ。敬語使わなくっても」
「え?なんで、二年って……?」
「胸の校章。その縁の色で学年が分かるんだよ」
「あ、そなんだ…………って、あの、それはいいんですけど――」
「だからいいって」
はぁ、そう言われても、いきなり初対面の人にタメ口ってのは……。
ま、いいか。この人もずっとそうだし。
「じゃあ……えっと、それはいいんだけど、あなたはここで何してたの?」
「ボク?ひなたぼっこ」
「は?」
別にこのあたしの疑問詞は不自然じゃないだろう。なのに、彼女は不思議そうな顔をした。
「何か…変?」
いや、変って言うか……。
「何で?何でこんな時間からこんなトコでひなたぼっこ?」
あたしは、さすがに初日に遅刻はまずいだろうと思って、普段出るであろう時間の三十分前に部屋を出た。
つまり、正直まだ登校には少し早いのだ。
それに、ひなたぼっこって……。
時期は初夏。
確かに芝生の上に寝っ転がって日差しを浴びるのは気持ちいかも知れない。
でもなぁ。
「気持ちいよ」
いや、それは分かってるんだけど……。
あたしはそう思いながら、何となく腕時計を見た。
え?もう、こんな……。
「あぁぁ!もう学校行かなきゃ!って、あなたは?」
「うん。もう行くよ」
そのゆったりした口調は今の時間を分かっていないのか、はたまた遅刻常習者か。
どっちにしても、これ以上彼女に付き合う義理はない。
「じゃあ、あたし行くから!」
あたしは彼女の背を向けると手を振りながら、走り出した。

と、コレがあたしと彼女との出会いである。
はぁ、改めて思い出しても、普通じゃないなぁ。

学校につき、職員室に顔を出してから、担任の先生に連れられて、クラスに行った。
月並みな挨拶を一通り終えて顔を上げたとき、当然ながらそこにはあたしの知らない顔ばかりが並んでいた。
はぁ、こう言うとき漫画とかだと、小学校の時に別れちゃった友達とか居たりするのになぁ。
ま、現実はそんなもんか。
あ、一人寝てるし。
赤みのかかった髪の女の子が一番後ろの席で寝ていた。
ン?
赤みのかかった髪?まさか……。
「大城の席は取り敢えず一番後ろの金田の隣だ。って、また寝てるのか……」
担任の大橋先生は疲れたため息をつくと、前の席の人にその金田さんを起こすように促した。
って、金田……。
「金田」
「ふぁ……?」
寝ぼけ眼をうっすら開けて、金田さんは面倒そうに頭を上げた。
「あ……」
やっぱり……。
でも、この人確かあたしが走り出したとき、まだボォ〜ッとしてた気が……。
「金田、お前の隣の席、大城になるからな」
「ふぁい」
………この娘、ダメだろう……。
先生も呆れた顔をするでもなく、一時間目の準備をするように言うと、教室を出て行った。
コレが日常か……?
ま、いいや。さて、席着かなきゃ。



何となく出会いを思い出してたけど、やっぱ変わった娘だよねぇ。
彼女の顔を見ながら改めて思う。
「どうしたの、アキちゃん?」
「ン、ううん。ちょっとね。それより、体育の時の怪我、大丈夫?」
「うん、一応。頭打っただけだから」
「だけって……」
まぁ、何言っても無駄だろうからやめよ。
「ま、いいや。ところでさぁ、これからどうする?」
「え、どっか行く?」
「何かあったっけか?」
「別にそうじゃないけど……眠い……zzZ」
「って、言いながら寝るなぁ!」
思わずツッコムあたし。
まったく、歩きながら寝るんだから……。
「ふみゃ……ああ、おはよ……」
「はぁ」
よくあることだけど、取り敢えずあたしは彼女の手を握った。
ほっとくとこの娘は間違いなく転ぶからだ。
まったく、容姿が可愛くておっとりした性格なんだから、もうちょっとしっかりすればモテるだろうに。
「ふぁぁ……アキちゃん好きぃ〜〜♪」
「あ、ああぁ……まったくぅ」
酔ってるって、時々感じるンだよなぁ……。
抱きついてくる彼女を抱えながら思った。

あたしは取り敢えず彼女を連れて、学校帰りによく行く喫茶店に入った。
「いらっしゃいませー」
「やっほ、ヒトミ」
「ああ、なんだぁ、アキとセナかぁ」
「なんだはないでしょ?一応客なんだし。ヒトミはバイト?」
「バイトならいいんだけどねぇ……事実上家の手伝いだからそんなに稼げないんだよ」
「大変だね」
「まぁねぇ……ま、いいや。で、またセナのお守り?」
「まぁ、そう言うことになるかなぁ」
「大変だねぇ。でも、余計なサービスはないからね」
彼女――クラスメイトの藍川仁視(あいかわひとみ)の家はこの店を経営している。暇なときは彼女も手伝っているのだ――は、あたし達を席に案内してくれた。
「注文決まったら呼んで。どうせ暇だし」
ヒトミの言う通り、店内にはあたし達を含めて五、六人しか人がいなかった。
まぁ、昼間は喫茶店、午後はバーって言う、所謂カフェバーだから、あたし達みたいな中学生が少ないのはさておいて、元々あんまり大きな店じゃないからしょうがないと言えばしょうがないんだけど……そんなんでこの店大丈夫なんだろうか……?
ま、あたしが心配したところでしょうが無いけどね。
「で、セナ……ったく……」
座った瞬間から寝てるし……まったくもう。毎日こうなんだもんなぁ……。
「せぇなぁ」
頭をはたきながら、起こす。
「みゃあ……眠い……」
学校でさんざん寝てて……。
「――セナ、起きな」
「ひゃ!!」
「ゴメン水忘れててね、はい」
「あ、ヒトミ……」
彼女は、セナの頬に冷たい水と氷の入ったカップを押し当てながらにこやかに笑った。
「冷たいじゃん!」
なんっか、コレもパターンだなぁ……。
いつもと同じやり取りを見ながら、あたしはメニューに目を通した。
って、言っても、頼むのはだいたい決まっている。
ま、ガクセーだしね……。
「ヒトミ、あたしはいつもの」
「わ、わたひもぉ……」
相変わらず水の入ったコップを押し当てられながら、セナもそう言った。
「オッケ、ンじゃ、ちょっと待ってて」
メニューを下げながら、あたしとセナの注文したものを手元の機械に打ち込んで席を離れていった。
「ふぁ〜お日様が気持ちぃ」
「ヒトミ、席代えてもいい?」
セナの言葉を聞いたあたしは片手を上げてそう言った。
「ン、どうしたの?」
「陽当たりがいいと、セナが余計寝ちゃう」
「ああ、そう言うことか。うん、いいよ。空いてる席テキトーに座って」
「はぁい」
返事をしたのはあたしじゃなくてセナだった。

「あ、ボク払うよ」
「ン?」
そろそろ帰ろうと席を立ったとき、そう言って、セナがあたしの手から伝票を取った。
「いいの?」
「ウン!」
そう言い、レジに伝票を持って行く。
で――
「980円になります」
「はぁい。あ、おじさーん、ヒトミちゃんの僅かなバイト代からひいといて――ウワッ!!」
言い終わる前にヒトミの放り投げたメニューがセナのコメカミ付近に炸裂した。
ヤルと思った……。
あたしは財布を取り出しながら、セナを支えてお金を出して店を出た。
「ヒトミ、ゴメンね」
彼女にそう小声で言ってから。

「で、大丈夫?」
「うん!」
何で……?
いっつも思うけど、何でこの娘はこんなに丈夫(?)なんだろう。
コメカミ入ったんだよ……角が。
まぁ、当たった瞬間は明らかにグッタリしてたけど……でも、あれからまだ数分だよねぇ。この回復の早さは何なんだろうなぁ?
「じゃあ、帰ろうか」
「うん♪あ、アキちゃん今日ウチ来ない?」
「へぇ、珍しいなぁ、セナがあたしのトコ来ることはあっても、セナが呼んでくれるなんて」
「うん、たまにはいいでしょ?」
「うん、いいよ。じゃ、帰ろ」
「はぁい」

「アキちゃーん、何か持ってきてぇ」
一応言っておくけど、あたしが居るのはセナの部屋だ。
ま、このウチ来るといっつもそうなんだけどねぇ。まぁ、勝手知ったる他人の家だからいいけどさぁ。
「ジュース開けていい?」
「何でも言いヨォ。あ、ボクのコーヒーかお酒あるぅ?」
ボクのって……普通こういうの家の住人がやるんじゃないのか?って――
「――コーヒーはいいとして、お酒はダメでしょ!」
「うぅー、アキちゃん細かいなぁ」
「細かいって、まだ未成年だよ。高校にも行ってないのに」
「えへへ(^^)」
まったく、えへへじゃないだろう……と、言うか、在るのか??一応、あたしはキッチンを物色して ―― あるし ―― こっそりと処分した。
「じゃ、コーヒーね?」
「うん」
「コーヒーメーカーあったよねぇ」
「うん、コンロの下の棚の中だよ。そこに、他のも全部入ってるからヨロシクねぇ」

飲み物を持って行くと、セナはベッドに寄りかかってパソコンを見ていた。
「はい。ブラックでいいんだっけか?」
「ブラック(仮)でいい」
なんだそりゃ……。
「ま、勝手にやって。一応砂糖とミルクは持ってきたから」
「はぁい」
返事はしているが、その視線と思考はたぶんパソコンの中にある。
「セナ、冷めちゃうから、テキトーに飲みなよ」
「うん」
さって、あたしは何しよっかなぁ。
と、言ってもコレと言ってすることはない。
宿題も、確か出てたけど……ま、帰ってからでいいや。明日は休みだし。
結局することないしなぁ……あたしも何か読も。
本棚の中をザッと見渡して、って言ってももう何度も読み返した物ばかりだけど。何故かあたしとセナはこういった趣味は合う。なので、セナが持っているものの大半はあたしも持っているのだ。
ま、そうは言っててもしょうがないので、その中でもお気に入りの何冊かを取り出してセナが寄りかかっているベッドに寝っ転がった。
表紙をめくりながら、セナが向かっている机の上に置いたジュースを手にとって口を付ける。
「セナ、コーヒー飲まないの?」
「飲むよぉ〜……でも、ちょっと待ってて。今いいトコだから」
いいトコって、何してるんだ?
起き上がって上から覗き込むように画面を見ると、何処かのホームページを見ていた。内容は、四コマを公開している個人サイトだ。
時々含み笑いを浮かべて。恐いって……。
あたしもこのサイトは知ってる。と言うか、セナに教えてもらったので時々見ている。これがなかなか面白いのだ。
そういや、この主人公って、セナに似てるんだよなぁ。雰囲気って言うか、ボォ〜っとしたトコとか、何か、ほんわかしてるトコとか……モチロン、可愛いトコもそうだけど。
しかし、四コマにいいトコとかって……あるのか?
「まぁいいや。あ、何か食べる?」
「何かって、何?」
「あー、何か食べたいものあれば言ってくれれば作るけど」
コレもセナの家来たときには普通。この娘は基本的に料理しないから、たまに来たときぐらいまともなものを食べさせなきゃ、そのうち栄養失調で逝くんじゃないかと思うからだ。
「え、今日泊まってくの?」
………話し飛びすぎ。
「何で、そうなる……」
「だって……ご飯作ってくれる→時間的に夕ご飯→一緒に食べる→片づけとか手伝う→「もう遅いから泊まってく?」って、ボクが聞く→勿論!!備考:明日は学校休みだし。って、ならない?」
そんな→付けて言われてもなぁ、しかもその笑みは何?
「まぁ、いいけどね。泊まっていっていいの?」
「やったー!」
返事の前に感想かぁ。ま、セナらしいって言えばセナらしいんだけどねぇ。
「夜が楽しみだねB」
Bって……普通に聞いたらヤバイよ、あんた……。
「で、何食べたいの?」
「アキちゃんが作ってくれるなら何でもいいよぉ」
「ああ、そう……」
「でもねぇ、メニュー悩んでるんだったら、ホットケーキがいい」
「……セナ、さっき自分で夕ご飯って言ってなかった?」
「ン?」
起きあがると、顎に人差し指を当てて小首を傾げる。
……可愛い……。って、そうじゃない!
「夕食がホットケーキなの?」
「変かなぁ?」
「……いや、いいよ。作るよ」
夜食にも何か作ろ……。
「やったぁ!」
それだけ応えてニッコリ笑うと再び画面に戻っていった。なんだかなぁ……。
さて、まだ時間あるし、あたしも読もっと。
あー、その前にちょっと今の四コマ見よ。セナが見てるって事はアップされたんだろう。
と、再び画面を覗き込むと、セナはWebサイト上でメールの送受信が出来るページが開かれて、新着メールを確認していた。
しょうがない。漫画読もうか。
が、本を開こうとした時――
『お手紙が来たヨン』
とあるアニメキャラの声で、そう告げられたのを聞いて、あたしは何となく画面に目をやった。
さっきと位置が変わったお陰で、画面の中身が見える。
メールねぇ……ま、人のメール見る趣味はないけど……何となく気になる。ま、人の性ってヤツかな。
差出人は【shine@you.net】
シャイン……?光?
件名は【待っているよ……】
所謂めーわくメールか……?
セナもそう思ったのだろう。マウスを操作し、削除を押そうとしたとき、再びメールが届いた。
差出人は同じ。
件名は【待っているから……】
正直あたしでもこんな物を見たくはない。
あたしはそう思って、漫画に目を移した。
が――『お手紙が来たヨン』
【キミを……待っている】
【セナ、キミを、待っている】
「何なの……コレ」
【カネダ セナ、キミのことは何でも知っている。だから、君に会いたい】
【待っているから……】
【待っているよ……】
【待っているよ……】
【待っているよ……】
【待っているよ……】
「やだ……」
【待っているよ……】
「また……」
【待っているよ……】
「ま、また、なの……これ……」
【待っているよ……】
「やめてえええぇぇぇーーー!!」
彼女の絶叫が聞こえた。が、新着メールを知らせるサウンドは鳴り続けている。
「セナ……?」
彼女の声に、あたしは起き上がってセナを見た。
「どうしたの?」
明らかにおかしいセナの様子に思わず駆け寄る。ま、それでもベッドの上だけど。
「こ、コレ……!!」
後ろを向きながら、セナはディスプレイを指さし叫んだ。
『お手紙が来たヨン』
『お手紙が来たヨン』
『お手紙が来たヨン』
………………
まだメールは来続けているみたいだ。
「……大丈夫だから……」
ベッドに顔を押しつけているセナを、あたしはそっと包み込んだ。
彼女の頭があたしの胸に触れる。
………震えてる………。
でも、しばらくするとホッとするような……とってゆったりとした感じを受けた。
………………
しばらくして、メールの着信音はなくなった。
「……セナ」
彼女が顔を上げると、とってもほんわかしたセナの笑顔があった。が、その瞳と頬は涙で濡れていた。

「……落ち着いた?」
さっき言っていたホットケーキを作ると、彼女の元に持って行った。
「セナ、言って。今のメールいつから来ていたの?」
「………」
「まぁ、言いたくなければいいよ。無理には聞かない。でもね、ここ何日かは来ていたんでしょ?だから今日あたしを呼んだ。違う?」
「……」
彼女は黙ったまま頷いた。
「そうかぁ……ストーカー……だよね、これって………ま、とにかく食べて。ホットケーキ焼いたからさぁ」
「……うん……」
彼女はメイプルシロップの入った小瓶を手に取ると、ソレをホットケーキにかけ、ゆっくりと食べ出した。

うーん……どうしよう。
あのメールが来てから、彼女は結局何も話してくれないまま夜になった。
いつの間にか、彼女はベッドに横になって寝てしまっている。
息づかいから、完全に眠っているようだ。
「さて、助けなきゃ……」
理由も何もないけど、あたしはそんな使命感に駆られた。
勝手にやっては悪いとは思いながらも、あたしは彼女のパソコンの電源を入れた。
ファンとハードディスクが回り出す。夜中で静まりかえっているので、昼間に比べてかなり煩く聞こえた。
「セナ、起きないでね」
今彼女が目を覚ましたら、きっとまた怯えてしまう。今は夢の中にいた方がいい。
さっきセナが見ていたサイトを立ち上げると、先ほど来たメールを確認しようと見たが、当然パスワードがかかっている。
でもまぁ、セナの場合は……と、誕生日を入力すると、やはりそこは開いた。
なので、受信メールのボックスを開いた。
途端――
『お手紙が来たヨン』
あわわわわわわ……!
彼女の方を向きながら音量を下げる、
「はぁ……」
彼女が起きていないのを確認すると、再び画面を見た。
すると、先ほどと同じメールが次々と来ている。
こう次々来られては邪魔で仕方ない。
あたしは、自動受信を解除して、今あるメールを古い順に開いていった。
一応削除フォルダも確認する。
と、やはりそこにも何十通もshine@you.netからのメールが捨てえられていた。
その中でもっとも古いメールを探す。
「………こんな前から……」
一番古いメールが来たのはもう二ヶ月も前だった。
「セナ、何で今まで何も……」
その頃から思い起こしても、別に彼女に変化は見られなかった。
……なんで、気づいてあげられなかったんだろう……。
うん、そんなこと悩んでもしょうがない。
とにかく、あたしが出来る範囲ででも何とかしてあげなきゃ!
取り敢えず、内容見るかな。
全てのメールは未開封だ。一番初めから来たときからかなりの量が一気に来ている。
最初のメールと今のメールが違うのは件名。
最初のメールは【キミを知りたい】
で、今は【待ってるよ】
つまり、何処かでこの送信者はキミ――セナ――を知ったのかなぁ?
でも、セナの何を……。
あたしのこの疑問は、最初から数えて、数百通目のメールを開いたときに解決した。
「何、コレ……」
そこには添付された画像が表示されていた。
影の方向から言って、学校帰りのセナとあたしだ。
隠し撮り!
その時、あたしは改めてそのメールの件名を見た。
【もっと知りたい】
!!!
同じ件名のメールを片っ端から開く。
その全てに一枚ずつ、セナの隠し撮り写真が貼付されていた。
――一枚目のように学校帰りは勿論。
――通学風景。
――あたしが初めてあった時みたいに、日向ぼっこをしている彼女。
――学校の体育の風景。
――望遠レンズを使ったのだろう、クラスの風景まで映されていた。
………。
そして、更に数百通メールをとばす。件名が同じだからだ。それに、もう見たくない。
次の件名は……【キミの全てを】
その件名のメールの一番最初の者を開く。
そこには、当然のように添付ファイルがあった。
――!!
――着替え
――入浴。
――寝顔。
――………。
まさかこの部屋にも、仕掛けられている!?
あたしは急いで、ページを閉じると、セナが起きないようにそっと部屋を出た。
目指すはバスルーム。

さっきの写真のアングルから言って、あるとしたらこの辺り!
目星を付けた場所を探す。
そして、十数分探したとき……。
「あった……」
正直、ホッとした……。
勿論、こんな物が見つかっていいはずがない。でも、何らかの方法で、直に見られていたら……そんなことを思うと、まだこの方がいい。
でも、今のでたぶん送り主もこっちが気づいたことが判ったはず。
早めに対処しないと……。
とは言っても……どうしよう……さすがにこんな事セナには言えない……。
でも、どっちにしても警察には行った方がいいよねぇ。
あたし達だけで解決するのは無理だろうし。
まぁそれでも、今あたしに出来ることをやってみよう!よし!!

あたしは部屋に戻ると、送られてきているメールに返事を書いた。
そして、全てのメールを未開封に戻し、眠りについた。
まぁ、正直ホントはここで寝たくなかったんだけどね。だって、ここにも仕掛けられてる可能性かなり高いんだから……。
そうは言っても、セナを一人にしとく訳にもいかないからねぇ……。