「あ、気が付きました……?」
目を開けると、目の前に飛鳥の姿があった。
左右に首を振るとそこは何処かの池の畔のようだ。
「ここは………ン?」
ここは何処かと言うことは………さておき……何で俺はアスカが見えるんだ……?
「……アスカ……俺……」
「え?」
「お前が見える……」
「え……えぇぇぇ!?見えるってホントですか?でも、いったい何したんです、鷹久さん?」
「いや、俺にも……あ、トキ……」
「トキ……?」
「そうだ、アイツは何処へ!アスカ、トキ見なかったか?」
「トキが、どうかしてたんですか?」
「いや、アイツが……」
思い、唇をふれる……。
乾いてない……。
「トキがさぁ……」
先ほど見えるようにしてくれると言った後のことを、飛鳥にザッと話した。そして、俺が生き返れないかもしれないと言うことも……。
「………どういうことですか……?」
「え?」
「何でトキにそんなこと頼んだんですか!」
いつにない強い口調でアスカはそう俺に詰め寄った。
「な、なんでって………アイツは生きるものの為の神なんだろ?だったら、その方が……いいかなぁと」
「………そう、ですよね。鷹久さんは生き返りたいんですよね。当然、ですよね……でも、ボクも、鷹久さんの為に………あ、何でもないです」
目を伏せながら、数歩後ずさりをする。
「……ゴメン、アスカ」
「いえ、いいですよ。それよりも……今は鷹久さんが生き返る方が大事です。もしもトキの言っていることが確かなら、霊界の鬼が鷹久さんの霊体を狙っていることになります」
「お、鬼!?」
さすがにその言葉にはたじろぐ。
今まで、生きている時はそんなもの迷信だと思っていたが、こうして死んで死神とか閻魔とか知ってしまうと、鬼って言うモノの存在も認めないわけにはいかなくなってくる。
「鷹久さん、急ぎますよ!この神社の何処かに霊体はあると思います!ボクも出来るだけはお手伝いしますが、自分の霊体は自分で守って下さい!」
アスカがそう言って俺の手を取ったとき、既に日は完全に落ちていた。
「なぁ、あれ、か……?」
「え、ええ、たぶん、そうです……」
神社の本堂の屋根の上、見た目身長三メートルはあるんじゃないかと思うような、巨体が立っていた。
勿論生きている人間には見えないらしい。
その下で掃除してる巫女さんは至って平然だ。
「一応聞くけどよう……」
「はい……」
「俺が、アレと闘るのか?」
「え、ええ、そうなります……ボクも、出来るだけはお手伝いしますが……まさかあんなのが派遣されてるなんて……」
その巨体の足の下に、輝きを帯びている球体のようなものがある。
「………アレが……俺の霊体か」
「――そ、あんたのね」
「え?……お前、トキ!」
「トキ、何であなたがここに!」
「今更何言ってンのさ、用件もあたしが何するかも判っているはずだよ」
「それは……」
「なぁ、アスカ、トキ、どっちでもいいから、アイツがいったいどういうモノなのか説明してくんねぇか?」
「あ、はい……――」
「ああ、あの鬼かい――」
『――アレは………!?』
二人の声がハモり、それと同時に二人は驚嘆の顔つきをした。
「どうした?」
「あれは、霊界のモノじゃありません!」
「そう、アレは……」
『魔界の……剛鬼角(ごうきかく)!!』
「魔界だぁ!?」
思わず声が大きくなる。
「ええ、アレは……霊体を食べる魔界の鬼です……あの、鷹久さん……」
アスカは申し訳なさそうに俺を見上げると言葉を詰まらせた。
「アスカ……?」
「いいよ。あたしが言う。あんたのってか、今のあたし達の力じゃアレをどうにかするなんて不可能なんだよ……」
「………って、ことは……」
「そ。経過は違っても霊界の思い通りになったってこと」
「やめて……」
「え?」
うつむいていたアスカの呟く声に、トキは顔を向けた。
「やめて……」
「アスカ?」
「霊界は……少なくても私は……こんなの嫌だよ!」
―― 私? ――
「私は、鷹久さんを、生き返らせるって、約束したんだから!待ってて、私が何とかする!」
「アスカ!」
飛び立とうとするアスカをトキの手が捕まえる。
「トキ、やめてよ、放してよ!」
捕まれた腕を振りほどいて、アスカは鬼に向かって突っ込んでいく。
「アスカあぁぁぁーー!」
思わず叫ぶが俺の声は既に届いていないらしく、アスカは進んでいくばかりだ。
「トキ、アイツを……アスカを止めねぇと!アイツ、死んじまうんじゃないのか!?」
「……厳密には、死なんて言葉じゃ括れない……でも、人で言うし、ううん、それ以上の消滅が待っていることは、確か……」
「だったら、助けてくれよ!アスカを」
叫びながら、俺は自分の頬に暖かいモノを感じた。
――泣いてる?
周りの風景がぼやけて見えてくる。
涙腺がゆるんで涙がこぼれ落ちている。
「な、何、泣いてンだ……俺?」
「あんた……そんなに………分かった。ホントは商売敵だから、このままってのが本心なんだけど……」
トキはそう言うと、俺の手を握った。
「行くよ!」
そのまま、アスカと鬼めがけて飛び出した!
「でも、消滅しても、怨まないでね!」
「な、何いぃぃぃぃぃーー!!ちょ、ちょっと待てよぉぉーー!!」
「もう遅い!」
俺たちがアスカの所に着いたとき、アスカは地面にうずくまっていた。
鬼は、何故か霊体をそのままに何処かへ行ってしまったらしい。
「アスカッ!」
駆け寄りその身体を抱きしめるように持ち上げる。
「たか、ひさ、さん……ボク……」
一人称が戻ってる……。
「アスカ、あの鬼は?」
「あ、トキ……だい、じょうぶ……たかしさ、さんの、霊体は……魔界の、モノには……見えないように………ボクが、加工……したから……………」
「加工って……あんた、自分の霊力ほとんど使って……解ってるの?あたし達は、霊力が無くなったら消滅しちゃうんだよ!!」
え……?
「そ、それ、ホントかよ!」
「え、ええ……ホント、です。でも、ボクは……まだ、大丈夫、です、か、ら……」
「あんた……バカだよ。たった一人の人間の為に……今まで死んだ人間に死期を伝えるときも、魂の回収の時も、感情なんか出さなかったのに!あたしが何度言っても。なのに、何でなの!?なんで、この男だけ……」
「………何で、だ、ろう……ね……ボクにも、わから、ないよ……」
「もういい!喋るな……トキ、俺は、アイツと闘うことが出来るか?あの鬼と」
「……な、あんた、何無茶なこと」
「無茶は分かってる。でのなぁ、ホントの年は違っても、こんな小さな女の子一人死ぬ寸前まで追いつめられて……黙ってられるかよ……」
たぶん、俺はアスカやトキに比べて霊的にはるかにひ弱だと思う。だが、これは気持ちの問題だ。
「ふん……まったく、バカばっかり……でも、いいよ。手を貸してあげる。あんた、何か得意なスポーツとか武道とかって、ある?」
「得意な……?そうだなぁ……何でもいいのか?」
「うん、だいたいはね」
「なら、バスケ……後は水泳と、卓球」
「………なんか、もっと普通な競技ないの?野球とかサッカーとかさぁ……でもま、バスケット、か……ま、何とかなるかな。じゃ、ボール造って」
「は?」
「聞こえなかったのかい?ボールを造って」
………ボールを、造る?
話の流れからしてバスケットボールを俺に造れッて言ってるんだろうけど……あんなモン造ったことないしなぁ……。そもそも、製造法なんか知るわきゃないし……。
「どうやって、造るんだ?」
「………あ、そか。あんた、まだ霊気の使い方が分からなかったんだよね。えっと……なんて言ったらいいのかなぁ?」
『イメージして下さい……』
えっ?
誰だ……?
『鷹久さん……ボールを、イメージして下さい。手元にバスケットのボールがある姿を』
……アス、カ……?
「アスカ!」
『すみません、身体がまだうまく動かないので、意識だけで言葉を送っています。とにかく、ボールを、手の中に、イメージして下さい』
――イメージ……。
――ボールが、手の中に……、ある……。
手元が急に暑くなっているのが分かった。
「これは……」
「あ、で、出来るじゃないか……そう、それでいいんだよ。あとは……」
『出来ましたね。でも、それは外観だけです。今度は中身を……。ボールの中は本来空気かも知れませんが、これは空気じゃダメなんです』
「あとは、そのがらんどうの球体の中身を造るんだよ。中にはギッシリと、なんでもいい。何でもいいから、何かがつまっているのを考えるんだ」
『もしくは、同じようにだんだん小さくなる層があることを』
アスカとトキが、頭の中と耳に言葉をかけてくる。
ボールの中に……何かが……層……。
手の中で暑くなっていたそれは、少しずつだが、その重みを増していた。と、それと反比例して、俺の体力というか……霊力はだんだんと消費していった。
身体中の、力が、抜ける……。
「………ック……」
歯の間だから息を押し出しながらも、俺は神経を手に集中させながらも、全身を支えた。
このままじゃ、倒れちまいそうだ……。
「タカヒサ!その調子だ……ホントは、あたしがやってやりたいんだけど、あの魔界の鬼には、あたしの力じゃどうにもならないんだ。でも、人間の力なら消し去ることも不可能じゃない。いいかい?あんたは、それを続けるんだ。その間に、あたしが、彼奴を捜してくるから」
「トキ……」
「黙って!余計なことを考えるんじゃないよ……いいね」
トキはいいながら空中に飛び上がるとやがて見えなくなった。
チッ……情けねぇよな。あんな、見た目女の子達に護ってもらってよぉ……。
ったく、どいつもこいつも……俺を……――
「――俺をなめるなああぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」
叫び声を上げたと同時に、それまで造っていた球体を俺は自分で握りつぶした。
「巫山戯ンなよ……アレは、俺ンだ……」
光り輝いている物体 ―― 自分の霊体を見据えると、俺は一気に駆けだした。
「あと、もうちょい……」
手を伸ばし、ソレに触る。
と、同時に、身体の中から何かが抜け落ちているような感覚に襲われた。
「これは……」
『借り物の霊体が抜け出ようとしているんです。あとは、ソノ、鷹久さんのホントの霊体と意識を、波長を等しくすれば、体に入るはずです』
「そっか……よしッ!」
『悪いが、そうはさせねぇよ。コイツは、俺の食事だからなぁ。お前が触ってくれたおかげで、あの死神の結界が解けたよ。礼を言うぜ、小僧……』
ソレは、トキを片手にぶら下げながら、目の前でそう喋った。
俺のせいで、アスカの捨て身が……。
「て、テメェ……剛鬼角」
『ほぉ、人間が知ってるとはなぁ……ま、このヤセ神にでも聞いたんだろう……正直、どうでもいいがな』
そいつは、俺がふれている霊体を手にすると、屋根から飛び降りた。
『消滅したきゃ、相手してやるよ。きな、小僧』
「………巫山戯るな……俺ンのだって、言っただろう……今なら半殺しで許してやる、そいつを――俺の霊体を離せ」
『は、ハハハハ……教育が行き届いてねぇなぁ……長いものには巻かれろって、言われなかったか?』
「黙れ……」
俺は片手を開くと、そこに再び力を込めだした。
『ほぉ、霊気を放出できるか……面白い。が、そんなことしたら……コイツも砕けちまうぜ』
剛鬼角は、ふざけ半分に霊体を揺すってみせる。
が、それがヤツの間違いだった。
逆の手に捕まれていた、トキがそれを掴んだからだ。
「あんたには、あげないよ……」
『チビが、まだ生きてやがったか……さっきの死神と言い、ウザくてたまらねぇよ』
「そうかい?なら、離れてやるよ」
トキは言葉と同時に軽く目をつぶると、一瞬光を帯び、剛鬼角の腕の中から消え去った。
「たかだか鬼ふぜいが、神を、なめないでほしいね」
「トキ、大丈夫か?」
「ああ、あたしは。そんなこといいから、これを」
「そだな……っと、悪ぃんだけどよぉ、そいつ、もうしばらく持っていてもらえるか?完全に生き返っちまったら、力が落ちちまうきがするんだ……その前に、あのバカ鬼、ぶちのめすからよぉ。いいだろ?」
「あ、あんた、何考えて!?そんなこと……最悪あんたが死んじまうんだよ!いや、消滅しつまうんだよ!!」
「わかってる。けどよぉ、こんなん、ほっといていいわけねぇだろ?だから、俺が倒す。トキは、アスカを連れて、霊界に行っていてくれ。俺もじき行くから」
「言っても、無駄なんだね」
「ああ……」
「分かった……死ぬんじゃ……ううん……生き返りなよ」
「承諾……」
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