「ここ、だな……」
アスカの言う通りにイメージをして探して(?)見たところ、俺の遺体は結構あっさり見つかった。
しかし、本当に妙な気分だ。自分で自分を見てンだからなぁ。それも、目の前にあるソレは死んでるわけだ。
ホンット、訳分からんわ……。
「で、アスカ、どうするんだ?これ、直に入ったらヤバインだろ?」
「ええ、そうですねぇ。まぁ、体の再生が出来ればいいわけですから……」
そう言うと、アスカはどこからか一つ、大振りの鎌を取り出した。
「お、お前、何持ってんだよ!」
「そんなに驚かなくても良いじゃないですか。死神が鎌持ってるんですよ。絵とか見たことありません?」
そりゃあるけどよう……それにしても、いきなりそんな、アスカ自身の体にほぼ同等の大きさの鎌取り出されたら誰でも引くぞ……。
しかも、その鎌には二匹の蛇が……否、二つの頭を持つ蛇が絡み付いていた。そして、柄のほぼ中央に、太陽を模したような飾りのある天秤。
「……ソレが……」
思わず言葉が出る。
「え?」
「ソレが、死神の鎌ってヤツか」
「ええ、そうです。双頭の蛇は、もしも死を受け入れない人がいたときの制裁と、ボク達が一線を越えたときの制裁」
……一線を越えたときの制裁?
俺の考えを読まずか、読んでかアスカはソレについても語ってくれた。
「ボク達は、時として感傷的になるときがあるんです。あ、人もそうですね。感情がありますから……それで、そう言ったとき、この人は死なせたくない。なんて思うこともあるんですよねぇ……――」
そこで、アスカの見えない顔がいっそう暗くなるのが分かった。過去にそう言った経験があるのだろうか……?
「――だから、そうなってしまったときに、神様がボク達を噛み殺すように作ったのが、この蛇のもう片方の……紅い瞳の頭なんです。ホントは御法度なんですけど、ちょっとした儀式をすることで、他の人と“死の順番”を入れ替えることが出来るんですよ……で、ホントに希なんですけど、誰にも愛されて無くて、複数の人から怨まれている人って言うのが居るんです。だから、そう言う人と………」
そう言うアスカの言葉は、暗さを帯びている。
「アスカ……お前……もしかして……」
「………隠しても仕方ないですね。お察しの通り、ボクは一度その制裁を受けたことがあります」
アスカはそう言うと、フードを取り、降りていた前髪をそっとあげた。
そこには……。
「お前、その目……」
さっき顔を見たときには気付かなかった。
しかし、今はっきり見ると分かる。そこには、本来眼球があるはずの場所にはルビーに似た紅い石が嵌め込まれていた。
「この蛇に……食らわれました……」
言うアスカの光を帯びない瞳は、恨みとも悲しみともつかない表情を訴えていた。
「………あ、鎌の説明の途中でしたね」
フードをかぶり直すと、アスカは次に中央の天秤を見せた。
「この天秤は、死者の罪を量る秤です。もっと正確なものは閻魔様のとかにあるんですけど、一応簡単な計測が出来るんです。何なら、鷹久さんのも調べてみますか?」
「お、俺はいいや。ホントに死んだときでさ」
「そうですか」
何故だか残念そうに言う。
「………まぁ、いいです。あと、この鎌の用途として、生きとし生けるものの肉体からそれ以外を取り出すのと、生きとし生けるものの再生です。本当はそんなことあっちゃいけないんですけど、ごく希にもの凄く意志の強い方がいまして……そう言った方の魂を抜き出すときに一緒に肉体も傷つけちゃうこともあるんですよ。だから、その時用の蘇生の力があるんです」
「ほぉ……」
「だから、これを使えば、たぶん鷹久さんの体の修復は出来ると思います」
「なるほど……」
「じゃあ、いきますよ!」
アスカは言うなり鎌を振り上げ、俺の体を切りつけた。
「って、お前何やってんだよ!!」
「何って、話聞いてなかったんですか?」
「そりゃ聞いてたけど……」
「じゃあ、いいじゃないですか!」
ふくれっ面をするアスカ。
何で俺が怒られてんだよ……まぁ、俺の体を戻すってのが名目だからなぁ……。
そう思いながら、横目で自分の体を見ると……。
「特に、変化無いなぁ……」
「………そう、ですね」
既にそれなりに縫い合わされて、外傷じみたものも見えない俺の遺体は、コレと言った変化を見せなかった。
「で、でもですね。傷ついた身体とかを癒す力はあるんですよ。だから……」
「ま、入ってみれば解るんだろ」
俺はそう言うと、アスカの返事も待たずに寝るような感じで自分の身体に入り込んだ。
妙な感じだなぁ……自分の上に寝るってのも……。
と………。

身体が重い。
なるほど、これが身体があるってことか……って、つい最近まで生きてたんだからなぁ。
今度こそ夢か……って、ンなわけねぇか。
「アスカ?」
『はい?』
取り敢えず声をかけてみると、何もない空間から声が聞こえた。
「えっと、いきなりだけど幾つか質問、いいか?」
『ええ』
「何で、見えないんだ?お前の姿」
『うぅん……詳しくは分かんないんですけど、鷹久さんが一応でも生きていて、ボクが死者に近い状態だからじゃあないですかねぇ。鷹久さん、普段幽霊とかって見える体質ですか?』
「いや、そうじゃあないけど……なら、何で声は聞こえるんだ?」
『あ、それは、まだ完全に生き返った状態じゃあないからです。一応幽体と霊体が肉体に入ったとしても、その内のどれかがこの場合は借り物ですけど……まぁ、偽物なわけですから、そう言ったときは、生者よりも死者の方がむしろ近いくらないんですよ』
って、言われてもなぁ、今一“死んでる”って、実感がないんだよなぁ……。
まぁそうは言っても、自分は生きているって言い張ってもしょうがないから、ここはアスカに従うか。
「で、これから俺はどうすればいいんだ?」
『そうですねぇ、取り敢えずは力をつけて下さい』
「は?」
俺にはアスカの意図するところが全然解らなかった。
だいち、いきなり力をつけろとか言われても、どうしろと言うのだ。
『あ、えっと、ボクの説明不足でしたね――』
その通り。
『――簡単に言うとですねぇ、今、僕の声しか聞こえてないじゃあないですか。その状態をですね、姿まで見えるようにして欲しいんです』
………。
「………はい?それは、つまり、何をすればいいんだ?」
『率直に言っちゃうとですねぇ、人間の言うところの霊力ってのを上げてくれればいいんですよ』
「………――」
俺は一瞬言葉にならない何か、自分でもよく解らないがとにかく疑問詞を感じた。
「――はぁ!?出来るわけねぇだろ、そんなこと!だいたい、元々俺には霊感とか無いんだからな」
『無いって言っても、僕の声は聞こえてるんですよねぇ?』
「……あ、ああ」
『それが、霊力の力によるものなんですよ。えっとですねぇ、ちょっと説明すると、霊力って言うのは、死後の繰り上げなんです。人に限らず、生きとし生けるもの全ては死ねば大なり小なりは有りますけど、生きていたときの筋肉を使った【力】に位置する霊界での【力】を授かるんです。それが、霊力です。で、人によってはそれが生きているうちから出ちゃう人もいるんですよ。まぁ、そうは言っても、これは誰しもあり得ることなんですけどね。昔から、狐とか狸が人を化かすとか聞くでしょ?』
俺はそれに黙って頷く。
って言っても、俺自身には見えていないわけだから、一見したら訳分かんないだろうなぁ……。ま、いいけど。
『で、ですねぇ、そう言ったものは動物の方が人間よりも死期が近いからなんです。だいたい、生きていられる時間の半分を超すと霊力って言うものは勝手に出てくるんですよ。でも、人の場合いわゆる感度が弱いもんで、それを感じ取れないんです。まぁ、逆に言えば、感度がよすぎると、僅かでも解っちゃうので、子供の頃からなんてのもありますけど……と、ここら辺までは理解してもらえましたか?』
「………まぁ、だいたいは」
俺は曖昧な返事をする。
言いたいことは何となく解ったが、その意図しているところが今一納得というか、自分の中で整理しきれない。
『じゃあ、続けますね。今言ったように、今の鷹久さんには普通の人の何倍もの霊力が備わっているんです。だから、それを上げて、最低限ボクの姿が見えるように、ホント言うと、自分の霊体を感じ取れるくらいになってほしいんです。そうしてもらえないと、探せないですし……』
結構あっさり言うなぁ……ン?探せない……?
「オイ、アスカ、俺の霊体ってのは自分で探すんだろ?」
『そうです』
「なら、探せないってのは……最悪の場合、俺はずっとこの借り物ってことか?」
『いえ、そう言うわけにも……その貸し出しをしている霊体って、最長一月ぐらいしか貸してもらえないんですよ。だから……』
マジ?!
もしこの状態から霊体が無くなったら、俺はまた、死ぬ……ンだよなぁ……。
『………』
たぶん、表情でも読んだんだろう。アスカは僅かに項垂れたように頭を垂れた。
「どうすればいいんだ?」
『一番簡単な方法は、道具を使うことです』
「道具?」
道具って……時々色んな漫画とかで見るような、本来見えないモノが見えるルーペとかメガネとかか……?
『使って、みます……?』
「何でだ?その方が早いし、楽でいいんじゃないのか?」
『普通は、そう考えます、よね……でも、道具を使うってことは、それなりの労力を要するんですよ』
そう言われてもねぇ……そんなもん気にしてたらアッと言う間に一月なんか過ぎちまうからなぁ……。
「いいよ、別に。ンなん気にしていられる余裕ないしよお。それに、このまま居るよりも、出来るだけ早くまともに生きたいしな……」
『そう、ですね……』
当然、声だけだが、どことなく元気がない。
『なら……これを受け取った下さい』
そう言うなり、まるで空間を割ったように、そこに一つの懐中電灯みたいな物が現れた。
「何、これ?」
まぁ、普通の質問だろう。
『霊視ライトです』
さも当然のように答えるアスカ。
しかし……そう言われてもなぁ。
「で、どうやって使うんだ」
試しに電源を入れながらそう尋ねる。と……
「アスカ??」
『そうやって使います。それを照らした場所に、霊的な何かが有れば、それが照らし出されます。あ、出来たらすぐ切って下さい』
「え……?」
疑問には思ったが、言われた通り電源を切る。その途端……!
「ッ!!何だよ……これ……」
急激な疲れに襲われた。
五十メートルぐらい全力疾走したみたいだ。だから、大した疲れではない。が、身体は急な疲れせいで、もの凄い疲労を感じている。
『………いわば、電池を消費した状態です。懐中電灯、ずっと使ってると電池切れちゃいますよねぇ。その電池の代わりが、鷹久さんの霊力なんです。明かりをつけ続ければ、たぶん今は十分ぐらいなら持続できます。でも、そうしたとき、フルマラソンを全力疾走したような疲れと身体の痛みがあると思います。だから、せいぜい十秒、それ以上は危険だと思って下さい』
「………まぁ、今の状態ってのは、休めば、直るのか?」
『あ、えっと、霊力をためるには、体を休めるのと、多少の精神集中です。ホントは、お経か何か、霊的なものがいいんですけど……鷹久さん宗派って何ですか?』
「無教」
『だと思いました……じゃあ、しょうがないですねぇ……まぁ、何か集中できるものあったら、そのことでもしながら、“霊力上げたいなぁ”ぐらい考えて下さい。そうすれば、いくらかいいと思いますから』
いくらかって……だいたい、そんないい加減でいいのかぁ……?
「ま、やってみるけどよう……これから、俺はどうすればいいんだ?」
『取り敢えず、書き置きでも書いて、家出て下さい』
「はぁ!?家出るって、何だよそれ!」
『だってですねぇ、急に死体消えたら誰だって怒るでしょう?これから出かけるんですよ』
出かける、のか……ン……?
「どこへ?」
『鷹久さん、状況と、私の言っていること、解ってます?探しに行くんですよ!霊体』
あ、
何となく手を打つ。
『だから、早くして下さい!』