神取の意識が途切れたことを確認したユカは、社長室の通信機を使い警視庁捜査一課に通報した。そして、その一時間後、駆け付けた本城等によって神取孝昇は逮捕、龍は保護された。
そして、神取逮捕から三日後……。
「しかし、駄目かと思ったぜぇ。あの時、お前が霊製してた霊玉使って回復してくれなきゃマジで駄目だったかもな……」
「そうそう。解っているんなら感謝してよね。まぁ、この私はそんなこと全然覚えてないんだけどさ」
「まぁ、そりゃそうだろうな……」
そんな会話が聞こえているのは、警察病院の個室の中。神取カンパニーの件を終えたあと、倒れてしまった龍は、つい先程まで昏睡状態にあったのだ。
そして、ようやく目を覚ました龍と高木が会話をしている。もっとも、その高木も本庁に連絡を入れた後、例によって元の人格に戻る時気絶してしまったのだが。そのせいで、高木も病院から支給された寝間着姿だ。
「ところで幸香」
「ん?」
「あの後どうなったか分かるか?」
「え、あ、うん。私も昨日気が付いて教えてもらったんだけどね、大きいのは、神取カンパニーは当然倒産。その下にいた暴力団組織にも大々的に査察が入った。あとは、近々内閣が総辞職するみたい。その他には、あの関係していた要人とその内部機密を知っていたメンバーを総逮捕。あ、警察庁にもかなりの批判が出たみたいで、長官以下重要職が辞職したみたいよ。まぁ、大きいのはそれぐらいかな……」
「そうかぁ、かなり国中で出てンだなぁ、影響……。あ、俺達には飛び火してネェのか?」
「それは大丈夫。警視庁のトップは何人か止めさせられたみたいだけど、私達みたいなほんの一端までの影響はないみたい」
「ならいいか。あ、そうだ。神取は、アニキは、大丈夫だったか?俺最後の一発撃った時殆ど力の制御できなくて、もしかしたら……」
「それはないわよ。神取元社長は無傷だってさ。まぁ、精神的にはかなり来てるみたいで、取り調べの最中もかなり大人しかったみたいだけど」
「へぇ……あ、後もう一点。漆刀……あの場に落ちていたはずの神取が持っていた刀と、俺が放った妖魔二体はどうした?」
「えっと………あの凶器は証拠物件として押収されたはずだけど………」
「――その心配はないぞ、静戒」
高木が言葉を詰まらせた時、扉を開ける音とそう声が聞こえた。
「本城課長……――」
一本の筒を手に入ってきたのは、捜査一課長の本城だった。
「――心配はないって?」
「ああ。あの刀は斉藤がそれなりの手続きを踏んでお前が斉藤に渡した刀と同様に保管してある。ついでに、あの場に落ちていたお前の手帳から紙を取り出して、異形の者も斉藤が消していた。まぁ、私には何をしていたのか判らなかったがな……」
「そうですか。課長が……」
ホッとしたように胸を撫で下ろすと、頭の後ろで手を組み、体を寝かすと天井を見る龍。
「……ああ、そうだ静戒。これを斉藤から預かってきた」
そう言い、手に持っていた筒を見せる本城。
「……?課長が……」
受け取りながらそう疑問詞を浮かべる。
「ああ。私は自分で持って行けと言ったんだがな。何かは判らんのだが……」
「…………」
黙って受け取ったそれを見ながら片端の蓋のようになっている場所に手を掛ける龍。そして、それを開ける。すると、中から、龍の警察手帳とその筒より一回り小さいぐらいの巻物が出てきた。
「何、それ?」
物珍しそうにそう聞きながらのぞき込む高木。
「さぁ?」
そう答えて、取り敢えずそれを広げる。その時―――
「な……!」
「何!?」
思わず言葉を失うような強い光が部屋中の広がり、しばらく目も開けられなかった。
「ったく、何なんだよ……」
ようやくそれが収まり、再び巻物に目をやる龍。
そこには大きさは明らかに小さいのだが、神取が所有していた漆刀 ―― 鬼士華、操兵、轟霊角 ―― がくるまれていた。
「これ、まさか……課長、縮めちまったのか?」
「……静戒、ちょっといいか?」
龍の言葉にその三振りの刀を見る本城。
「……そうか。戻らなかったか……これはな、龍。現状の落ちていた物その物だ。私達が着いた時は既にこの大きさだった。斉藤が課に持って行った時、元に戻すとか言っていたが、どうやら無理だったようだな」
「そう、ですか……神取が無茶な使い方してたからなぁ、その影響かも知れねぇけど……まぁ、署に戻ったら、課長に俺が何とかするって言っておいて下さい」
「ああ、それは構わないが……さて、では私もまだ仕事があるから戻るとするか」
「あ、なら私も……」
そう言いかけていた椅子から立ち上がろうとする高木。
「待て、高木もまだ退院の許可は出ていないだろう。ここのところ立て込んでいたからな、せっかくだから少しは休養していろ」
「でも……もう大丈夫ですから。担当の医師に言えば……」
「いいじゃん、たまには休んだ方がいいぜ。でねぇと、ただでさえ固いその性格がカチカチに固まっちまうぜ」
「何でそうなるの!それは龍が柔らかすぎるだけよ!」
「そうさ。俺は柔軟性があるからな」
「あのなぁ、お前達少しは場所をわきまえろ。いくら個室は言え、周りに響くぞ……それに高木、お前一人居なくても機能しなくなる一課ではない。お前の穴は全員で埋めるから、もう一日だけでもゆっくりとしていろ。ではな……」
そう言うだけ言うと本城は部屋を出て行った。
「……さて、俺ももう一眠りするわ。何か全然疲れが取れねぇからな……何なら幸香、一緒に寝る?」
「………!何でよ!!」
顔を真っ赤にしてそう言い放つと扉に当たるように強く閉め、自分の入院している個室に行ってしまった。
「何だよ。冗談だったの……まぁ、いいや。俺もこの件は着かれたからな。それに、コイツも直さねぇとならねぇだろうし……寝よっと……」
巻物を元に戻し、筒にしまうと、手帳だけは枕元の台の上に置き、目を閉じた。
その翌日、龍は昼なお暗い心霊課室内に、高木は捜査一課にその姿を確認できた。どうやら二人とも職場復帰を果たしたらしい。
「龍、次のヤマの応援要請が来ているぜ」
小さくなってしまった漆刀と睨めっこをしてる龍に向かって、斉藤はそう言いながら一冊の捜査資料を投げて寄越した。
「………イテッ!って、課長何するんですか!?」
丁度頭に角が当たって落ちたその冊子を手にそう斉藤に文句を言う龍。
「聞いていないお前が悪い。次の要請だ。後一週間で時効のヤマらしい。直ぐ行け。容疑は殺人。場所も詳細も全て載っている、きっちり片づけるまで帰ってくんなよ」
薄笑いを浮かべながらそう一方的に言う斉藤。勿論それに逆らえる龍ではない。
「はいはい。判りました。それじゃ、行ってきますよ……」
まだ半分程しか補修されていない室内のロッカーに足を運びならそう答える龍。
「ああ、ちょっと待て龍。その前に、この部屋直してけ」
「エッ!ちょっと待って下さいよ。ここまでだって俺一人でやってるじゃないですか」
そう言うように、この部屋は霊的にではあるが龍が現在復元しているのである。本来はかなりの高度な呪法。物に対する一定間の時間を戻すモノを使い……。
「……フン……冗談だ。作業には困らん程にはなっているからな。だが、最後までやれよ」
「それは分かってますけど……ああ、そうだ課長、一つ聞きたかったんですけど、柿崎、どうやって討ち取ったんですか?」
「ああ、その件か。ヤツの憑依能力を利用させてもらっただけだ。別のモノに憑依する時は普通自分の意思とは関わらずにその目的対象に触れたと同時に中に入ってしまうものだ。まぁ、それも相性だがな……。それを利用し、ヤツの霊気を数値として計算し、それに一番近い銀の弾丸をぶち込んでやっただけだ……」
「………」
斉藤のその説明を受けて龍はしばし言葉が出なかった。それもそのはず……。
「……そりゃ、言うのは簡単ですけど、そんな計算ほんの一時でやって、それにあった銃弾って、そんなモン俺は分けてませんよ。それもやったんですよねぇ……よくできましたねぇ……」
「お前等と一緒にするな。俺は残念ながらお前等と違って能力がねぇ。その分知識と計算力をフルに使うしかねぇだろうが……」
「そりゃ、そうかも知れませんけど………まぁ、兎に角今はこのヤマ行ってきますね」
それだけ言うと斉藤の言葉も待たずに部屋を飛び出していく。
「………」
その様子をタバコに火を点けながら見送る斉藤の姿だけが、まだ瓦礫の残る室内に淋しく見えた。
「さて、まずは現場百回からだな」
そう言い、いつもの愛車に乗り走る龍の姿が見えたのは千葉との県境のところでのことだった。
−完−
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