「国四、両蓮昇浄(りょうれんしょうじょう)……霊製、肆紅刀(しこうとう)!!」
龍の右手首と左手に装備されている刀の刃(やいば)が深紅に変色する。
「国四剣(こくしけん)か……七星術師(しちせいじゅつし)の力を君が持っていたなんてね……漆刀の表、か……」
七星術師 ―― 表七階霊星術師(おもてしちせいれいせいじゅつし)。それが正式なところだ。漆刀同様過去に創られた特殊能力者のことである。漆刀はそれその物に『闇』の力を持つのに対し『光』を司るのがそれを使う術師である。その双方はそれぞれ属性を持ち、光と闇が一体であったとされている。それが別々に残された過程は定かではないが、本来漆刀を完全に扱えるのは七星術師だけと言うのは事実のようである。
自然全てをその力の元にし、七星術師の長(おさ)とも言える『自(し)』。それに続き、『風(ふう)』、『雷(らい)』、『炎(えん)』、『水(すい)』、『氷(ひょう)』、『地(ち)』の七属性の術師を総称してそう呼ぶ。そして、龍はその第四属性炎の力の持ち主。表国四術霊星霊能者(おもてこくしじゅつれいせいれいのうしゃ)である。
「四星の力をなめるなよ……国四、龍義召霊(りゅうぎしょうれい)!我が剣に宿れ!」
龍が叫びと同時に空間の避け間から一体の炎で出来た龍が召還され、見る間に二振りの剣に吸収されていった。
「なめて何かいないさ。むしろ敬服すらしているよ………けど、俺もそろそろ力を見せようかな……きっと驚くよ、龍……俺の武器を見たらさ……おいで……鬼士華、操兵、轟霊角―――」
三体の魔物は刀の形に戻り手招きをした神取の側に跳んできた。
「―――合(ごう)連(れい)、呪(しゅ)霊(れい)仁(じん)刀(とう)!」
三振りの刀は神取の手に収まったかと思うと、強大な衝撃波を作り上げた。
「グアッ!」
思わず高木の捕らわれている方面に飛び退く龍。
「どうだい龍、素晴らしい武器(ちから)だろう。俺が創り上げたんだ。参刀の合体をねぇ!!」
「漆刀を合霊(ごうれい)した、だと……」
「そうだよ………」
ようやく剣から発せられていた衝撃波が止んだ後、神取のその言葉に龍がそちらの方を向いた。そこには漆黒の大剣を掲げている神取の姿があった。
「この黒光りする艶、何とも言えないだろう?まさに闇の漆刀にはぴったりの姿だよ」
「………テメェ………腐ってるな。そいつ等はなぁ、漆刀はなぁお前の玩具じゃねぇんだよ。だいたい、巫山戯んじゃねぇよ……それがどうした……?俺に、それで勝てるとでも言いたいのか?えぇ、なめるなと言ったはずだぁ!!」
言った瞬間、龍の左手にしていた剣が離れ、その場に落ちた。
「それが、答えだ……」
剣で龍の落ちた剣を示し、そう冷たく言う。それはもう、完全に何処か巫山戯ているようなそれまでの神取ではなかった。先程一瞬だけ見せた戦闘を楽しむ者の顔に変わっていた。
「……これが、神取……」
龍は改めて自分の敵に回した男の顔を見る。そして………。
「なるほど、面白いじゃねぇかよ―――」
そう呟くと、ゆっくりと左手を開き落ちた剣を引きつけ、神取に躍り掛かった。
「―――楽しもうぜ、神取(アニキ)、この戦闘をよお!」
「そうだな……ハアァッ!」
龍の斬りつけてきたモノをやはり手で受け止めると、大剣を振りかぶる。
「チィ……」
ようやく手に戻ってきた剣でそれを防ぎ、右手を一端戻したが、直ぐに懐中から拳銃を抜き取り、連続でトリガーを引く。
それをまともに受けた神取は一瞬怯んだものの直ぐに体制を立て直し、大剣で銃口を切り捨てた。更にトリガーを引こうとした為その衝撃で、龍の手元で拳銃が暴発した。
「グワッ………」
とっさに手から銃を放そうとしたが、既に時遅し。銃は龍の手を巻き込み四散した。
左手にあった剣を落とし、右手を強く握る。
「――――!!」
声にすらならない悲鳴が、その痛みの強さを象徴している。
「どうした、龍?まさか、その程度の傷で、俺との遊びを棄権する気じゃネェだろうなぁ……あぁ、龍?」
「……………」
激痛に歪む龍の顔を見ながら、そう罵る神取。
「ガ……グガアァァーー!!」
叫び声と共に、龍は焼け爛れた右手を突き出し突進した。そして………。
「無駄だ。その激痛では集中力を保つので精一杯なはず。剣を振るうことなど…………―――― 何!?」
「……調子に、乗るなぁーーー!!」
身を翻し龍の突きを躱した神取であったが、その方向が龍の向かって右だった為、即座に右に腕を返した切っ先はその右腹部を捕らえていた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…………ヘヘヘ、まだ、これから、だゼ――」
息を切らしながらも、神取の方を振り向き、そう苦笑してみせる龍。
「――コ、ク、シ………レイエン、ソウ、エンセン、ジン・リョう・れつ・龍・怪……!ハアアァァァ!!」
叫びと共に、落とした剣が浮き上がり、龍の負傷している右手に突き刺さった。
「私はな、正直戦闘というのが苦手でね、攻撃に関する能力が限りなくゼロに近いんだ。だから、悪いが無防備な相手以外に殺人は出来ないんだよ。つまり、お前の相手は出来ない。私の攻撃程度でお前をどうにか出来るとは思っていないからな。しかし、お前に私を捕まえることは出来ない。理由は、言わなくても分かるだろうが、私の急所を捕らえることはお前には不可能だからだ」
「ほざくな……」
銃を握り直す斉藤。
「そうだ柿崎、良いことを教えてやるよ。テメェはよう、既に俺の手中に居るんだよう!!俺の得意とするモノは、罠(トラップ)。見事にはまってくれたなぁ、柿崎」
「罠!?……ハハハ、冗談を言うな。私の体に触れてすら居ないお前が、私を罠にかけただと?」
「ああ、そうだ。テメェの額になぁ……今撃った弾はただの銀弾じゃねぇ。そいつが、トラップだ」
「何!?」
慌てて額に手をやり、そこにねじ込まれている弾丸を抜き取ろうとする柿崎。
「……ン、あぁ!……コイツが、罠だと?どう見ても、ただの銀だが……」
「フン……――」
柿崎が銃弾を抜き取るのを見届けるとそう薄笑いを浮かべる斉藤。
「――そう、そいつはただの銀の銃弾だ。だが……これで、ゲームオーバーだ!!」
斉藤は何をするでもなく、ただそう叫んだ。そして―――
「グ、ワアァァァ………」
柿崎の雄叫びにも似た悲鳴が室内に木霊した。その声に驚いた職員達がドアを開け室内に入ってくる。
「柿嵜漣。霊能法違反、殺人、凶器所持違反、死体遺棄、その他の容疑で緊急逮捕する。………なぁ、柿崎、切り札は最後まで取っておくモンだぜ……まぁ、今さらどうにもならねぇか……」
それを聞いた職員たちはただ困惑するだけだった。
「龍!?」
龍が取った行動の異議が解らずに目を見開く神取。
「ハ、ハハ………どうやら、成功、した、ようだな………」
乾いた笑いを浮かべながら、そう言いながら上目遣いで神取を見る。
「貴様、何をした……?」
「………どうせ焼くんなら、このぐらいはな………」
そう言いながら右手の剣を抜き取り、強く握ってみせる。
「国星四之星はなぁ、炎を司るんだ……そして、こいつが、国四拳自炎連(こくしけんじえんれん)。炎の拳だ!!」
「………そうか。焼け爛れた手を更に熱することで自滅に近い状態にし、霊力を一気に上げる……面白いことをするな。だが、それで勝てると思うなよ!!」
「ハッ、ほざきやがれ……こっからが、国四の本番だぜ!!」
「黙れええぇぇ!!」
神取が地を蹴り、龍との間合いを一気に詰める。
「鬼士華……楼呪斬(ろうじゅざん)!! 」
「チィッ!合体させたと言ってもそれぞれの力も使えんのかよ、だが、その程度……」
神取の楼呪斬――連続に繰り出される切っ先の付き――を炎に包まれている右手でカバーしながら―――
「出ろおおぉぉ!!アエシュマ・ダエヴァ、網剪!!」
魔法陣を空に放り投げた。魔法陣が展開されると、城島から奪取した魔獣アエシュマ・ダエヴァと妖怪網剪。
「ほう……アエシュマ・ダエヴァ……霧嶋、いや、城島から取ったのか?」
「取ったなんて人聞きの悪い言い方すんじゃねぇよ……重要症物件を刑事として徴収したまでだ」
「なるほど……だが、それをどうするつもりだ?」
「どうする……?こうするんだよう!……仁・両・烈・龍・怪、先・両・圓・斎・浄、国炎(こくえん)、合連、呪(しゅ)妖(よう)仁(じん)刀(とう)!」
龍の印が完成するや否や、マエシュマ・ダエヴァと網剪の体が光に包まれた。そして、それはそれぞれに光の筋に変わり龍の右手首と左手に装備されている刀に吸収されていく。
「合連!?馬鹿な、その呪は俺があみ出したモノ……お前に使えるはずが……」
「……そうなのか。コイツはお前が考えた呪なのか……通りで聞いた事ねぇと思ったぜ。だが、その中身は物に霊気を送り込むのと大差はねぇ。違いは霊気じゃなくて、他のモノと言うだけだ。それなりの霊(れい)知(ち)と能力があれば、造作ねぇとは言わねぇが、まず不可能な呪じゃねぇ……」
「………馬鹿な……そうだとしても、この印は神の力を借りるモノ……ハ!!四星神(しせいじん)」
「ご名答。俺は四芒星(しぼうせい)の呪事者(しゅじしゃ)だ…………さて、俺の剣もそろそろ出来上がるみてぇだしなぁ……続き、いこうじゃねぇか……神取……」
その言葉が示すように、段々と龍の両手から光が消えていっている。そして、しばらくの後、そこに位置するモノはそれまでの刀の形状にあらず、一回り程太くなった深紅の刃があった。
「今度は、俺から、行くぜぇ!!……国四、回真剣(かいまけん)!!」
叫びながら地を蹴り神取の頭上を取る。そして、体を捻り、反転しながら、神取の首筋に剣を突き立てる。はずだった。が、そんなモノをあっさりと食らう神取ではない。
直ぐさま自分の頭の後ろに大剣をやり、龍の刃を流す。それに弾かれ龍は地に戻る。
「チィッ!ハズレか……なら、これは……豪(ごう)進(しん)、烈火、炎獄翔!!」
剣を交差させ、その中心部に右手の炎を伝わらす。そして、炎球(えんきゅう)を霊製し、斬りかかる。剣が神取の腹部に届くか届かない程度の位置で交差されていた剣を左右に開く。それは、中に溜められていた炎求を一気に解放した。
「グワッ!」
腹を焼かれ、さしもの神取も後退りをし、膝を落とした。
「どうだ!!」
剣を構え直し、睨み付ける龍。
「……流石だな……こうなってはあれを使いしかないか……あまり卑怯な手は使いたくなかったのだが、まぁ、多少は仕方あるまい……」
腹部を押さえながら立ち上がると、多少蹌踉めきながらそう呟き、目を閉じる。その瞬間、神取は龍の目の前から十メートル程離れた場所 ―― 高木の掲げられている十字架の前 ―― に移動していた。
「……?……!?テメェ、まさか……」
「たぶん君の予想は当たっているよ、龍――」
その声は、戦いを止めるつもりなのか龍と話していた時の神取に戻っている。
「――彼女には悪いけど、俺も出来るだけ傷は負いたくないんでねぇ、君の動きを止める為に、彼女には少し、いや、かなり、か、痛い目にあってもらうよ……」
「止めろ!神取……」
「何を今さら。これは戦いなんだよ。卑怯とか、そう言うのは戦場ではただの言葉。何の意味も持たないのさ。それに、君達警察だって、俺の仲間を何人も捕縛したりしてるでしょ?それと同じようなモノなんじゃないかなぁ……?」
「……幸香………分かったよ神取、もう好きにしろ……」
そう言うと龍は両手の剣をその場から消し去った。代わりに懐に手を入れると、拳銃を抜き取り、それを構えた。
「龍?分かっているだろうけど、捨てるのは剣だけじゃあないよ。それも、邪魔だからさぁ、捨ててよ」
それはまるで子供を戒める親のような口調だ。
「うるせぇ、これが最後だ……」
言葉と同時にトリガーを引く龍。
「君、仲間も消すんだ……」
そう言うと神取は高木の後ろに隠れた。当然ながら高木を盾にしたのだ。
「フッ……」
その行動に薄笑いを浮かべる龍。
「龍、狂しく(おかしく)なっちゃったのかな?」
高木に龍の銃弾が当たる瞬間、神取のその呟きが聞こえた。だが、その言葉を真っ向から否定する現象がその寸前に起こっていた。
「………リュウ、あまり無茶をしてもらっては困る。素体であるこの体に係る負荷を押さえるのはこれで結構大変なのだ………」
そう言って、両腕を振りほどくようにして十字架から外れ空中に浮いている。それは――
「そうか。そいつァ悪かったな、だが、お前の霊力なら充分護ってくれるとは、思ってたんだがな。ユカ……」
「まぁ、それはな……」
空中を移動しながら龍の元に移動しているのは、十字架から解放された、ユカ ―― 幸香 ―― であった。
「………君、か……高木幸香のもう一人の人格って言うのは……」
十字架の後ろから、そう神取の声が聞こえたが、その最後は龍のごく近くで聞こえた。
「そうだが……そんなことより、お前がカンドリか。こそくな真似をするヤツだ」
そう言った幸香の手には幾つかの霊玉が握られている。
「まぁまぁ、そう言わないでよ。俺には俺の楽しみ方って言うのがあるんだからさ……でも、人質を取られちゃったのは正直痛いなぁ……本気で、殺しに掛からなきゃ……」
「その心配ならば要らない。私とリュウを止めることは、お前には不可能だからだ」
「それはどうかな。俺の力は、それほど柔ではない……」
「!!……ユカ、一気に決めるぞ!」
神取の口調の変化に気付いたリュウはそうユカに声をかけると、いつの間に再霊製したのか二振りの剣を手に突進した。
「国四、粒(りゅう)連(れん)、協(きょう)極(ごく)刺(せき)!!」
その掛け声と共に、両手の剣が粒子のように分解され、怒濤の如く神取に突き刺さる。
「―――――!!!!」
その連射された攻撃に悲鳴すら上げられない神取。
そして、その攻撃が終了され、神取が膝をついたと同時にその直ぐ後ろに二体の魔物 ―― 網剪、アエシュマ・ダエヴァ ―― が現れた。龍が放った剣の粒子の中に統合されていた二体も同様の粒子に変化し、神取を貫いていたのだ。そして、それはぶんかいされていた体が元に戻ることに準じ、それぞれが剣から分離されたのである。
「そこまでだな……」
そう呟いた龍だったが、それも事切れたように直ぐその全身を地に着け、倒れ伏した。
「リュウ……?」
慌てて駆け寄るユカ。そして、神取の意識が失われたと同時に異空間は収縮し、元の神取カンパニーの社長室へと姿を変えた。そしてまた、漆刀 ―― 鬼士華、操兵、轟霊角 ―― もそれぞれの刃物へと姿を戻しその床に転がっている。
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