「どうしたんだい、龍?」
「毒、入れやがったな……」
「まさか、そんなことしてないよ。ねぇ、曾我君……」
「………毒は、入れておりません。ただ……少々変わった豆を使っていますので……お口に合いませんでしたか?」
「変わった、豆だと?」
「ああ、あれかぁ。曾我、俺もあれは嫌いだと言っているだろう。すまないねぇ、龍。それ、能力を向上させるコーヒーなんだ。まぁ、能力と言っても霊能関係だけなんだけどね。ウチの会社で作ったモノなんだけど。あまり売れ行きがよくなくてさぁ、しょうがないから自分たち(身内)で飲んでるんだけど……まぁ、そのおかげで、能力者じゃなくても霊力が付いたヤツもいるけどね……」
そう言い、自分もカップから一口コーヒーを飲んだ。そして、カップから口を離すと、薄笑いを浮かべ―――
「やっぱり、美味しくはないねぇ……むしろ、不味いや……」
そう言いカップを置いた。
「……霊力が、付いた……まさか、殺戮者集団に……!?」
神取の言葉を聞き、顔をしかめそう声を上げたのは高木だった。
「………ご名答。よく冴えてるね。それとも、流石といった方が良いかな?」
高木の言葉に一瞬驚いた顔をしたが、直ぐにそう言い再び余裕の顔になる神取。
「それが、通り魔の真実か。そして柿崎が、その件の主犯……それも実験(テスト)だったという訳か……何処までも巫山戯たことしやがって……まぁ、今はそんなことどうでもいい。それより、続きだ。遠藤氏を殺害した後、城島は同様の方法で極神会に向かった。そして、霧嶋を殺害。さらに、自分を霊的に風化させ、霊体と幽体を霧嶋の体に移した。予め風化させられていた城島の体だが、その効果が出るのに多少時間がかかったようだな。ヤツの遺体が川で発見されてから、俺達のところで保管している間に消えたんだからな。あれは、お前の指金だな。ああ、一つ言うのを忘れていた。俺や幸香、それに手塚達に別々の場所で城島の姿を見せた理由は何なんだ?」
「あれ、そんなことしたっけかなぁ……うぅ〜ん。駄目だ覚えてないや。もしかしたら城島自身が勝手にやってたんじゃないの?アイツ、結構人弄ぶの好きだからさ。君達からかって遊んでたんだよ。きっと」
「つまり、テメェにゃ覚えがないと」
それに黙って肯く神取。
「まぁ、そう言うことにしといてやるよ。なら、続けるぜ。と、まぁ、そうは言っても後はもう言うまでもねぇか。埜田と城島に俺達のところに宣戦布告に来させて消すつもりだったんだろう?」
「それは誤解だよ。城島も事はそうだけど、埜田は勝手に動いちゃったんだ。俺は何も命じていないし、そっちの斉藤って男も城島に消させるつもりだったからね……」
軽く俯きながら口元に笑みを浮かべ、上目遣いで龍を高木の顔を見る。
「そうか。なら、柿崎に斉藤課長を襲わせたのは……?」
「それは予定の内。ホントは今言ったみたいに城島に殺らせるつもりだったけど、まさかアイツが漆刀の力を引き出す以前の問題程度の力だったとはねぇ。そこが予定外だったかな。他にも質問ある?」
「いや、もういい。飽きた……」
「飽きた?」
「ああ。テメェに説明すんのも、こうして喋ってんのもな……」
「そう。なら、そろそろ、やる……殺し合い」
そう言った神取の顔には、それまで見せていた穏やかな相は出ておらず、狂人者の殺意に満ちたモノだった。
「…………神取…………」
神取の変貌にやっとの思いで声を上げた高木。
「幸香………なら神取、始めようか」
高木を一瞥し、神取を見る。
「うん」
殺意をそのまま言葉にして発した。そんな印象すら受ける神取のその言葉は、戦闘の始まりを意味していた。曾我を一瞥し、それが合図なのだろう、曾我が部屋を出ると神取は空路仰いだ。
一瞬にして、取調室のとき同様に部屋が広がり、そして、何も存在しない漆黒の空間に変わった。だが、龍達にはそこでの視界は健在だった。
「ちょっと、待って下さい!!」
自衛隊の研究施設前でそう声が上がったのは龍と神取が戦闘を始めようとする少し前のことだった。
「ウルセェ、雑魚が……失せろ」
斉藤がそう言い、その自衛官を見ると一瞬にしてその物の動きが止まった。金縛りである。
「ああ、そうだ。柿崎は何処だ?ここにいることは割れてんだ。隠すと為になんねえぞ」
「か、柿崎、装備、か、課長……は――」
自由に動かすことすら困難な口で自己防衛の為にそう言う自衛官。
「――奥の、しょ、所長、室……に………」
「そうかい、ありがとよ」
そう言うと、斉藤は敷地内に入っていった。
「ここか」
研究所長室と札に貼られた部屋の前に立つと、そう言いながらドアノブの手を掛ける斉藤。
「チィッ!結界か……」
『斉藤、か?』
天井に着けられたスピーカーから相声が聞こえてくる。
「そうだが。柿崎、テメェに礼がしたくてなぁ……ここ、開けろ」
『開けたければ自分で開けたらどうだ?』
「………そうかい。なら………!!」
言いながら腰から拳銃を抜き取ると扉に向かって発砲する。
「入るぜ……」
ノブを回しながら扉を開け、ゆっくりと室内に足を進める。
「これは………」
室内を見渡し声を上げる斉藤。
「何か気に入らないか?私の趣味だ。気にすることはない」
中には、いくつものホルマリン漬けのモノが置かれていた。その中身は、人間。それも、全て首が切り取られている。
「何の、つもりだ?」
「ああ、ここにあるコレクションのことか?素晴らしいだろう?………説明には、こう言った方が良いかな?最近よく通り魔に襲われる人間がいるようだなぁ。その内の何体かが、首だけじゃあなかったか?」
「テメェ……だが、それにしちゃあコレクション(被害者)の数が合わねぇ……」
「それも大した問題じゃない。私がここに着任してからそれなりに時間も経っているからな……」
「狂ってやがる……なるほど、テメェが、神取が飼っている狂人者の一人か……」
「龍、こんな空間は気に入らないかな?」
「いや、上等だ」
「そう言って貰うと嬉しいよ。さぁ、構えな……」
「ああ………」
返事をした龍の手には既に剣が握られていた。そして、それと同時に神取の背後に参刀――鬼士華、操兵、轟霊角 ―― が姿を現す。
「イクゼッ!!」
言うが速いか、神取との間を一気に詰め剣を神取の腹部で一文字に薙いだ。が――
「甘いよ。龍……」
神取はそれを素手で受け止めると、反対にがら空きになっている龍の腹に拳(こぶし)を叩き込んだ。
「グガハッ……!!」
龍の口の周りが赤くなり、そのまま吐血する。
「龍っ!!!」
慌てて高木が龍に駆け寄り、肩を抱く形になる。
「君は……邪魔だよ。俺と龍の戦闘(遊び)を邪魔しないでくれ……」
神取の手が高木の頬に当たり、高木は横に放り出された。
「キャァーー!」
「テメェ、幸香に手ェ出すんじゃねぇ……」
起きあがった龍が神取を睨み付けそう言う。
「悪かったね。なら、彼女には奴等の相手をしてもらおうかな……イケ……」
神取の言葉にその後ろの三体の刀が変形する。そして、三人の魔物が高木の前に立った。
「……女、借りは返すぞ……」
そう言うと、鬼士華が高木を横腹から蹴り上げた。
「ガアァァッ!!」
余程強い力がかかったのだろう。高木の体は鬼士華の背丈よりも高く上がり、そして再び下に叩き付けられる。そして……。
「寝ている暇を与えたつもりはないが……」
今度は操兵がその腕を掴み何処かに叩き付けた。何処かというのは、恐らく壁であろう場所。何もない漆黒の空間の為、何処がそこの端なのかは定かではないが、高木が叩き付けられた場所が壁に等しい場所なのだろう。
「………――――」
既に悲鳴すら上げない高木。
「そう言うことだな……」
言って、軽く右手を開いてみせる轟霊角。その瞬間叩き付けられた高木の体が下に落ちずにその場に浮いた。正確には、支えられたと言うべきだろう。 壁から何かが生え、高木の体を十字架のような物に掲げられているのだ。
「女、まだ息はあるはずだ。仲間の死に際でも見物していろ」
轟霊角が高木に近付きながら言う。
「テメェ等……死すら値しねぇ……俺を敵に回したこと、後悔させてやるよ……」
俯きながら静かにそう言い、手にした剣を上に投げ上げる龍。
「どうしたの、龍?あの女のことで、気が狂っちゃたかな?」
神取のその言葉が終わる前に、右手を高く突き上げる。そして――
「国四……弐刀神舞(にとうしんぶ)……乱舞……―――」
龍の姿が一瞬にして神取の後ろに移動する。その右手には、いや、その手の甲には手首からの金具で固定された刀、左手には脇差し程の長さの刀が握られていた。
「―――散れ!!」
言葉と同時に神取が膝を落とした。
「……フフフ、フハハハハ……そうだよ。これが戦闘だよ。君の甘さに満ちたお遊びじゃなくてさぁ、これが戦闘なんだよ……いいぞ、いいぞ龍。もっと、もっと俺を楽しませてくれよぉぉ!!」
折れた膝を戻し、振り返りながらそう高笑いを上げる神取。
「そう言って、俺と本当に楽しめたヤツは、ほんの数人しかいねぇ。もっとも、それでも俺はこうして生きているがな。そしてな、お前はその数人には入れねぇんだよ。大人しく、クタバリな。神取……」
高木が捕らわれた頃、柿崎と斉藤の戦闘も始まっていた。
「…………」
「…………」
お互いにお互いを見据えたまま動こうとはしない。
「…………」
「…………」
「なぁ――」
対峙して先に口を開いたのは斉藤だった。
「――こんな趣味悪いモンおいて、それもテメェで殺った遺体おいてよう、ここの連中は何も言わねぇのか?」
「……答える必要はないと思うが……」
「まぁ、そりゃそうだな……それより、最後の警告だ。俺に殺られるか、自首するか、好きな方を取れ」
「……もう一つ選択肢はあるぞ。ここで斉藤、貴様が死ぬことだ」
「悪いが、その選択肢は却下させて貰うぜ。なんせ、あり得ねぇ事だからなぁ!!」
叫びながら地を蹴る斉藤。その手は、龍から渡された霊刀・漣仁斬を抜き放つ構えになっている。
「ハアァァッ!!」
居合いの要領で抜き放つと、それは柿崎の喉を捕らえた。かのように見て取れた。が、柿崎はいつの間に取り出したのか左手に持ったナイフでそれを受け止めていた。
「ほう、やるな……」
受け止められたのが分かると直ぐに一足後に引く。
「まさか、漆刀を持ってくるとはな……こちらも霊刀でなければ危うかった……」
「なら、こいつでも食らいな!」
扉の結界を解くのに使った拳銃を空いている左手で素早く取り出し、柿崎のナイフを持っている手を打ち抜く。
「――ッ!!」
ナイフが落ちた瞬間、斉藤の銃は再び火を噴いた。
一発、二発……そして、柿崎はその場に膝をついた。その両腿からは赤々とした血が流れている。さらに――
「これで、ゲームオーバーだ」
指がトリガーを引いた途端、柿崎が倒れ込んだ。
「まだまだ、だな……」
その声は、斉藤の背後から聞こえてくる。
「な………!?」
振り向いた斉藤の目に入ったものは、首のない全裸のモノだった。
「ここにあるモノはただのコレクションではない。私の代わりの体だ」
そう言って指を鳴らすと、全身の色が反転し、次の瞬間にはそれは皮膚から衣類になっていた。そして、首の付け根から頭部が生えていた。まるでキノコでも生える様に明らかにそこの切断部とはサイズの合わない首が……。そして、柿崎の顔が……。
「テメェ……死人使い(ネクロマンサー)、なのか……」
「ネクロマンサー、か。確かに近いかも知れないな。だが、決定的に違うのは私は死人に自ら入ることができると言うことだ。先程の体はもう何年も使っていたからな。丁度よかった。私は死ななければ別の体に入れないのでな。自殺するのも何かと躊躇するものがあってな。お前達が殺しに来るのを待っていた。まぁ、もっとも今は自営の為に自殺を選んだがな……」
「反魂秦生師(はんごんしんせいし)――憑依者(ひょういしゃ)と言う訳か―――」
剣を腰の鞘に収め、銃を右手に持ち替え構え直すとそう口を開く。
「―――上等じゃネェかよ……テメェみてぇな薄気味悪いヤロウが今まで国の中枢にいたかと思うと虫酸が走るぜ……」
「今まで……?勘違いしているようだなぁ。それとも、本気で私をお前一人の力でどうにか出来ると思っていたのか?私はこれからも官房副長官(ここの椅子)を離れるつもりはないがね。いや、それどころか、更に上に行くつもりだよ」
「……そうかい。だが、その戯れ言は俺を殺ってからほざくんだな……」
そう言い再びトリガーを引く斉藤。その銃口から発せられた銀の弾丸が柿崎の額に命中する。だが、柿崎は微動だにしない。
「……それで?」
そればかりか、そう言い薄笑いを浮かべていた。
「テメェ……不死身かよ……」
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