山岳は豊泉と別れたあと、神取カンパニーと関係のある暴力団組織を点々としていた。
「久しぶりだな、……」
「どうも、山岳さん。せっかく来ていただいても、今は薬のネタはありませんよ」
「いや、今日はそうじゃなくてなぁ、お前等の親組織の神取のところの顧問弁護士知っているかと思ってな?」
「神取……ああ、神取コーポレーションのですか……知りませんねぇ。と言うより、お門違いじゃありませんか?ウチとあんな大会社とは関わりはありませんよ」
「そうか……なら、言い方を変えよう。紅蓮会との関係はないとは言わせんぞ」
「紅蓮……」
「そうだ。神取が経営していた組織だ。その二代目が経営しているのが神取カンパニーだ……それでも、知らないか?」
「あ、ああ、今思い出しました。確か、央朝真弓とか言う女ですよ」
「知ってるんじゃないか……なら、その央朝真弓と神取が何かたくらんでる。なんて言うネタはないか?」
「さぁ、ウチも情報屋じゃないんでねぇ……それに、紅蓮が二代目になってからウチとは付き合いがありませんからねぇ……」
「そうか。ならいい。邪魔したな」
そう言うと、その事務所を出て手帳を見る。
「これで五軒目か……過去の紅蓮と関わりのある組織を当たっても、所詮は無駄か……まぁ、あと一軒見舞ったら、一度署に戻ってみるか……他の面々から情報があるかもしれんからな……」
「それで、どう言ったご用件で?」
「先程受付の方からの報告でお聞きかも知れませんが、社長とある事件との関わりがあるという情報がありまして」
「ほう、そうですか……まぁ、色々な分野に手を出していますので、恨まれたりとかはよくするんですけどね。それに、脅迫状の類などのよく届きますから。まぁ、一々相手にはしていませんけどねぇ。それで、どう言った事件なんですか?」
「ええ。では、まず、城島兼司と霧嶋享士という者をご存じですか?」
「キジマ………ああ、確か逃亡中の脱獄犯でしたよねぇ……狂気殺人犯とか……それと、キリシマキョウジ、ですか……ああ、名前は知っていますよ」
「白々しい……テメェなぁ――」
「龍!黙ってて……」
「………」
龍を制すると、再び言葉を続ける。
「失礼しました。それで、霧嶋とはどう言った関係で?」
「ええ。お恥ずかしい話ですが……もう、ご存じだとは思いますが、私の父が紅蓮という名の暴力団組織をやっていましてね、その時の舎弟だった男の名ですよ」
「その時のだ……」
「龍……」
「悪いが幸香、言わせてもらうぜ……おう、神取、テメェとなぁ、霧嶋は勿論、城島との関係もかなり深くあるだろうが、それと、自民党の幹事の央朝真弓、元刑事で今は幽霊の埜田勝弥、防衛庁の装備課課長の柿嵜漣、内閣警備参謀室長の森薗謹子、官房副長官の曾我新弌。それ等とも関係があるだろう……まだネタは揃っちゃいねぇが、直に判ることだ……吐けよ……」
「……何を言ってる……証拠も無しに変な言い掛かりは止めてくれないか……」
それまでの温厚な態度と一変する神取。
「証拠か……今言ったメンツについては確かにねぇ……だがな、先言った城島との関係は物証があるぜ」
「え?」
「ナニ……」
龍の言葉に疑問詞と取れる高木と神取の声が重なる。
「ご希望とあれば見せてやるよ……」
龍はそう言うと、印を組み―――
「コイツはウチの課長から勝手に借りてきちまったモンだが――」
そう言っている龍の手にはいつの間に霊製したのか、一振りの刀が握られていた。
「――コイツが証言してくれるよ――」
―――呪を唱えだした。
「――国四、霊練総炎千、仁・両・烈・龍・怪、、姿を見しえん。漣仁斬、!」
龍の持っていた刀が蒸発でもするように消え去り、代わりに和装の一人の男が龍の前に立っていた。
「漣仁斬、この空域の中に三振りの柒刀がいるな……そいつ等を呼べ」
『心得た……』
そう返事をすると、男 ―― 漣仁斬は、右手を軽く振り、空を仰いだ。
『鬼士華、操兵、轟霊角……姿様見せん……』
『………何だ………漣仁斬……お前に呼び捨てられる覚えはないが……』
そう言いながら空間を裂いて現れたのは轟霊角だった。
『その通りだ……』
『柒刀の中でも弱者である貴様に招集される覚えもない』
言いながら次に現れたのは操兵と鬼士華。
『我は汝等のように戦術に長けていないだけだ……基本の能力値では劣っているとは思わぬが……』
『吐かしやがれ……』
「漣仁斬、止めろ。それともう消えていい。そんなことより神取、この三体お前の柒刀だよなぁ」
龍の言葉で、漣仁斬は姿を消し、何故かそれにつられるように三体の柒刀も姿を消した。
「柒刀……伝説の妖刀か……まぁ、日本での形が刀なだけで、あらゆる形を取るようだが……確かにその三振りは私の刀だ。だが、それが証拠とは?」
「この三体になぁ、城島の霊気がこびり付いてんだよう!柒刀と言やぁそうそう手に入るモンでじゃねぇ……そんなモンを城島みてぇなチンピラ風情が持っているとは思えねぇ。テメェ今の剣だと認めたなぁ、なら、何故城島の気が付いてんだ?」
「………」
龍の啖呵に黙り込む高木。
「………なるほど、龍、お前とは所詮は敵同士と言うことらしいな」
「ああ。だがなぁ、テメェに龍なんて呼ばれる覚えはねぇ」
「まぁそう言うな、龍。実の兄に向かって……」
「え!?兄って……」
高木の驚愕の声が上がる。
「そんなことはどうでもいいだろう。俺とテメェが敵同士なら尚更な」
それに対して、特別驚いている様子のない龍。
「龍、知ってたの?」
「何が?」
「何がって、神取社長が自分の兄だって」
「ああ。ついこの前な、課長に聞いた」
それは今日の朝、龍が心霊課に入ってきた時、斉藤の口から語られたことだった………。
「おう、早いじゃねぇか龍」
「ええ。昨日は帰っていませんから……」
「そうか。そうだ、丁度いい、お前の耳に入れておきてぇことがあんだけどよう……」
「そう言いますと……?」
「ああ……」
斉藤はそう言うと、ゆっくりと口を開いた。
「簡潔に言うがな、神取孝昇はお前の兄貴だ。お前の母親、静戒と、先代の紅蓮総統、神取行蔵との間にできたな。勿論お前の親もその二人だ。俺の調査でだが、お前の母親はあまり父親について話さなかったらしいなぁ」
「ええ。母自体どんな人なのか俺にもよく分かりませんし……」
「そうか、ならついでに教えといてやるよ。お前の母親はなぁ、昔の紅蓮の中にあった組織、の会長だ」
「………そうですか……」
話を聞き終わると龍はそう言って斉藤の顔を見た。
「なんだ、あんまり驚いてねぇみてぇだなぁ……まぁ、ヤツと対峙する時それがどう出るかだな……まぁ、何なら忘れてくれても構わねぇけどよ……」
「ええ。これでもそれなりに気丈夫な方ですから……しかし、神取が………まぁ、俺にはたいした問題じゃありませんから……」
「そうか?ならいいがな……ん?どうやら一課の二人が着いたようだな」
……………。
「私と課長が着く前にそんなこと話してたの……」
「ああ。だが、俺にはそんなことどうでもいい。それより神取、生死を賭けたバトル、やらねぇか?」
「……下らない。龍、お前は本当に変わらないな。その血の気の多さといい、無駄に力を使いたがるところといい……母親そっくりだな」
「うるせぇ……」
「悪いが、今日は引き取ってもらおうか」
「そう言われて素直に帰ると思ってんのか、ええ、よう」
「ああ。お前は直ぐに帰りたくなるはずだ……何故なら――」
神取はそう言うと軽く指を鳴らした。その瞬間、急に高木がその場に蹲った。
「………幸香……テメェ、幸香に何しやがったぁ!!」
「心配はするな。軽い昏睡状態に陥っているだけだ。放って置いてもしばらくすればその状態は直る。が、それ相応の処置をとらなければ後遺症までは保証できないがな」
「……巫山戯んじゃねぇ……殺すぞ、テメェ……」
「そう熱くなるな。私にそんな世迷い言を言っている暇があるなら、彼女を介抱してやる方がいいと思うが……?それとも、彼女がどうにかなってしまうのを覚悟の上で私と対峙してみるか、龍」
「………覚えてやがれ……次来る時は、ただじゃすまねぇからな……」
そう言うと、龍はその場にしゃがみ高木を抱きかかえた。
「帰りは気を付けるんだな。まぁ、死なないようにな」
「…………」
龍は神取の言葉を無視し、上ってきたエレベーターに向かった。
「ああ、そうだ龍、お前の課長に、『お大事に』と、伝えてくれ」
「………どういう意味だ?」
「帰れば解るだろう……」
「…………」
それ以上問い詰めることなく、神取に再び背を向けるとエレベーターに乗り込んだ。
「……どういう事だ!!――」
本城が怒鳴り声を上げたのは、龍が神取カンパニーを出た頃だった。
「――……まぁいい。直ぐに戻る。あ、いや、病院か?」
『いえ、それが署の方に』
「分かった、なら、早急に戻る。できるだけの処置はしてやってくれ」
『はい。分かりました』
通信の相手はそう言うと回線を切断した。
「課長、どうしたんです?」
「斉藤が、何者かに襲われた……」
「斉藤課長が……何故……」
「判らん。だが、このヤマに関係がないことはないだろう」
「……だとは思いますが……兎に角、直ぐに戻りましょう」
「ああ……」
本城は返事をして車に乗り込んだ。それを見て大村も運転席に乗り込む。
「神取側も、相当焦っているのか……それとも、奴等のシナリオ通りに事が進んでいるだけなのか……どちらにしても、急がなくては……」
「………」
車を走らせて間もないうちに本城はそう言った。大村は黙ってハンドルを握る手に力を入れる。
「……斉藤……お前は何を……」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ………ウぅぅ……グ……」
横になりながら息を切らし、ベッドの上で呻く斉藤。
「斉藤課長……いったいどうしたんです!?」
裏路地の中、偶然通りかかった巡回警官に警視庁まで運ばれた斉藤は、取り敢えず署内の医務室に連れて行かれた。
「ハァハァ……だらし、ネェ……俺が、こうも、あっさり……ウッ!――」
腹部からの血は止まるどころか更に勢いを増して流れている。
「――手塚……本城と、龍に、連絡を取れ……」
「解りました。それはやります。だから、そんなに喋っちゃダメです!斉藤課長、死にますよ」
「ハハハ……死んだら、そん時は、それで、いい………だが……ウッ!」
斉藤の腹部を押さえる手に力が入り、それと同時に斉藤は意識を失った。
「どうやら、血量が限界を達したようです。しかし、ここの設備ではこれを止血することは……」
医師はそう言うと、目を伏せ、手塚に背を向けた。
「あの、俺、今言っていた二人に連絡とってきます」
と、言い医務室を出た。
直ぐに携帯を取り出すと、本城の番号に掛ける。
「あ、課長、斉藤課長が、大怪我をして―――」
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