いきなり銃口をに付けた。
「柿嵜漣防衛庁装備課長、何故このようなところに?」
場所は警視庁からそう遠くないところの裏路地。その一角で斉藤は柿嵜の姿を捕らえた。そして、忍び寄ると、有無を言わさず拳銃を顳顬に突きつけたのである。
「お、お前は……」
「ああ、そう言えば自己紹介がまだでしたねぇ。私は、警視庁迷宮・怪事件心霊捜査課の斉藤仁という者です。以後お見知りおきを……自己紹介も済んだところで、署までご同行いただけますか?」
普段敬語など滅多に使わない斉藤がそう言うと凄味がある。と、言うよりも、恐怖に近い印象を与える。
「ど、どうことだ。それに、こんな事をしてただで済むと思っているのか……」
両手を誰に言われたわけでもないが、挙げながら柿嵜はそう震えた声で言った。
「ただで……まぁ、そうは思っていませんよ。しかしですねぇ、凶器所持の現行犯としてあなたを拘束することはできます」
そう言うと、右足で柿嵜の背中を蹴り上げる。
「ネタは上がってんだよう……」
蹴り上げられた瞬間、柿嵜の衣服の中から拳銃とナイフが飛び出た。それも、ナイフにはご丁寧に血まで付いて……。
「さぁ、立ちな……」
静かにそう言い、銃口を仰け反る柿崎に向ける。
「わ、分かった……」
言いながらゆっくりと立ち上がる柿崎。その瞬間、斉藤の拳銃が火を噴く。
「なめた真似すんじゃねぇ……テメエの仕込み武器が分からねぇとでも思ってんのか、あぁ?柿崎よう……」
斉藤の銃弾は柿崎の左手を貫通していた。
「ああ、ついでに教えてやるよ。城島は俺達が押さえた。テメェに命じられたことも吐いたぜ。その件でそろそろが取れるはずだ……」
「ク……」
打たれた左手を押さえながら、ゆっくりと後ずさりする柿崎。
「てぇげぇに観念しろやぁ!!」
叫ぶ声が狭い路地に響き、同時に発砲する暴発音も響く。勿論撃ったのは斉藤だ。
だが、倒れたのも斉藤だった。
「……ナ……」
腹部が段々赤く染まって来ている。そこには一振りの刀が突き刺さっていた。
「テ、テメェ………」
「ハ、ハハ……ハハハハハ……わあぁッ!」
乾いた笑いを上げながら更に後ずさりをして、何かに躓いたのだろう。急に後ろに倒れ込む柿崎。
「ウ、グアァ……グァハッ!」
刺さっていた剣が抜き取られ吐血する斉藤。
「……な、何モンだ……」
何とか体を翻し、自分を挿した主を確認しようとする。
「……ア、アンタは………グハァッ!」
相手の姿を見てそう言った瞬間、後ろから――柿崎がナイフの柄で――首筋を付かれ、その場に倒れ伏した。

その頃、山岳は警視庁から車で一時間ほど行ったところにあるパチンコ屋に来ていた。
「ああ、これは山岳さん」
店長と思しき男が店に入ってきた山岳を見付け、声を掛けてきた。
「おお、田淵、豊泉、来てるか?」
「ええ、いつもの台で打ってましたよ。もしかして、仕事ですか?」
「よけいな詮索はするな」
それだけ言うと、左右の台の人々を分け、その台のところへ向かった。
「豊泉」
肩を叩きながら声を掛ける。
「……ンだよ、うっせぇなぁ……」
チンピラ風のその男 ―― 豊泉は、山岳の手を払い除けると、振り返りながらそう言った。
「悪かったなぁ、忙しかったか?」
「……や、山岳さん、俺は今は何もしてませんぜ……」
「まぁそう怯えるな。別にお前引っ張りに来たわけじゃない。少し、仕事、頼まれてくれないか?」
「ああ、そう言うことですか……で、何を……っと、ここじゃあ喧しいですから、外行きましょうや」
「ああ」
と、言う山岳の返事を聞く前に、豊泉は席を立って出口に足を急がせていた。
二人は外に出ると、歩道のガードレールのところに立ち、話を始めた。
「で、今度は何ですか?」
「この前の続きを頼みたい」
「この前のってえと、央朝の……」
「そうだ。もう無理か?」
「いえ、そんなことはありませんけど、ちょっとコイツがねぇ……」
と、親指と人差し指で穴を作り山岳に見せる。
「金、か……悪いが今はない。だが、お前の犯行を見なかったことにしてやるぐらいはできるぞ」
「ダンナ、俺は何もやってねぇって言ってるでしょ……それとも、俺が何かやったて言う証拠でもあるんですか?」
「デカが証拠も無しに脅しをすると思うか?証拠は、そこだ――」
山岳の指差す先には豊泉が所持している小さな手提げが。
「――その中に財布が三つ、いや、四つは入っているな。見たところ負けていたようだからな。今店から出るときに掏ったな」
「ハ、ハハ……山岳さんには敵わないな。分かりました。で、どういう事を探れば……?」
「この前と一緒だ。神取カンパニーの神取孝昇と央朝との関係だ」
「解りやした。では……」
「ちょっと待て、掏った財布は置いていけ」
そう言い手を出す山岳を見て、渋々財布を出したあと、豊泉は何処へともなく走っていった。

「さて、私も行くとするか……」
財布を返したあと、歩き出しながらそう呟き、山岳も何処かへ去っていった。

「着いたぜ……」
「ええ」
言葉を交わしながら車から降りる二人。
「行くか……」
「そうね……」
自動ドアを潜り、受付と札の付けられた場所に向かって歩いていく。
「神取社長に会いてぇんだが」
警察手帳を片手にそう受付嬢に言う。
「警察の方ですか……失礼ですが、アポはお取りですか?」
「いや、デカにそんな物は必要ねぇ。それよりいいから取り次げって」
「ですが、社長はアポを取っていない方とは……」
そんな二人のやり取りを見て、呆れ返った顔をしているのは高木である。
「ちょっと龍、何でそう言う言い方するの?ちょっと退いて――」
そう言い、龍を退かすと、応対を始めた。
「社長にある事件で疑いが持たれていましてね。ご本人に確認したいので、お時間いただけるか確認を取っていただけないでしょうか?」
「え、あ、はい。伺ってはみますが、どうか……?」
「それでもいいので、お願いします」
その言葉を聞きながら、その女性は手元の機械を操作しだした。
「何で俺じゃこういかねぇんだよ」
「あんた口悪いから。あ、そうだ。言うの忘れてたけど、神取社長に会っても、龍は何も言わないでね。私が聞いてみるから」
「何でだよ!」
「理由は言わなくても判るでしょ?」
「………」
「あの、社長がお会いになるそうですので、中央の直通エレベーターで最上階の百二十階までお上り下さい」
「解りました。有り難うございます」
そう言い軽く会釈すると、高木はそのエレベーターに向かって歩き出した。
「ん?ちょ、ちょっと待てよ、幸香」
その後を龍が追いかける。

「龍、絶対よけいなこと言わないでよ。うまく行きかけててもそのせいで全部ダメに成っちゃう場合だってるんだから」
「判ってるよ。俺だってじゃねぇんだから」
「変な考え持たないだけ子供の方がまだマシよ……」

数分後、地上百二十階に到着した。
「はぁ、だりいなぁ。何でこんな高ぇビルなんか造んだよ……登だけでこんな時間かかるとはなぁ……」
「下らない愚痴こぼしてないで、行くわよ」
口よりも先に足を出しながら高木はエレベーターを降りた。
「へいへい……」
長い廊下を通り、その間に五つの扉を潜り、幾つかの角を曲がると『代表取締社長室』のプレートの掲げられている部屋が見えた。
「見るからに『ボスの部屋』って感じだな」
大げさなまでに大きく、装飾の施されている扉の前に立ち、龍はそう呟いた。
「何馬鹿なこと言ってんの」
「馬鹿で悪かったなぁ……さて、行くか」
高木の返事を聞く前に扉のノブに手を掛ける。
「神取、入るぞ」
「……!って、ちょっと龍、せめて敬語使ってよ!」
「ん?まぁ気にするなって、どうせここまでの会話だって聞かれてんだろうからよう。今さら繕ったってしょうがねぇよ」
そう言いながら、一歩室内に入った瞬間、急に目の前に目映いばかりの光が溢れた。
「うわっ!」
「クッ!」
叫び声を上げる二人。
「どうも済みませんねぇ、ついついトラップを解除するのを忘れていました」
まだ眩ませられた目が完全に治る前に、前方からそう声が聞こえた。声の感じから言うと、年の頃三十前後と言ったところの男の物だ。
「大丈夫ですか?」
「……テメェが、神取か……」
目を擦りながら、うっすらと見えてきた目で相手の存在を確認し、そう言う龍。
「ええ。お初にお目にかかります。私が、神取カンパニーの代表取締役の神取孝昇です。まぁ、立ち話も何ですから、こちらへどうぞ……」
そう言うと、神取は龍達に背を向け、部屋の奥に向かって歩き出した。
「………」
黙って顔を見合わせて、頷き合うと神取の後に続く二人。

「課長、ここです」
龍達が神取に面会していた頃、本城と大村は首脳官邸内に設けられた内閣警備参謀室に来ていた。特に何かあるというわけではないが、森薗が現在はここにいるとのことなのでやって来たのだ。
そして今、室内の室長室前にいる。
「森薗室長、失礼します」
ノックをした後、そう言いながら扉を開く本城。そして、それに続く大村。
「………本城捜査一課長……あなたのような人が、首脳官邸に何のようで?」
室内に入ってきた本城の姿を見て、森薗はそう言った。明らかに迷惑そうな顔をしている。
「森薗警視官、お久しぶりです」
「そうね。私がここに来てからだから、三年、四年ぶりぐらいかしら。それで、今日は何のようで?私もそれなりに忙しいので、用件は手短にしてくださいよ」
「ええ。では、率直にお聞きします。神取孝昇、ご存じですよねぇ?」
「ええ。神取カンパニーの社長。色々国の予算の手伝いなどをしている方ですから、ここにいれば嫌でも聞く名前ですよ。彼が何か?」
「はい。警視官、神取が今しようとしていることについてはご存じですか?」
「……どういう事かしら?」
「……私たち警視庁の調べで、神取が警察組織の解体を計画していることが判明しました。その件はご存じではありませんか?」
「フ、フフフ……さぁ、私の耳には入ってきてませんねぇ。それと、その事について何か証拠でも?」
「いえ。ですが、間もなくそれも取れるはずです」
「へぇ、しかし、それは大変ですねぇ、もしそれが真実ならば、早いうちに手を打たないと……でも、何故それを私のところに?」
「あなたが、その件について神取と関わりがあると踏んだからです」
「………私はあまり冗談が好きではないのですけど……」
「冗談など言っているつもりはありません」
「………不愉快です。お引き取り願いましょうか」
「そうですか……ではお忙しいようなので、今日のところは帰ります。しかし、必ずまた来ますから。今度は逮捕令状を持って……では、失礼します。行くぞ、大村」
大村に合図をすると、森薗に一礼して、扉に向かった。
「本城課長……次に来るときは、あなたが名誉毀損で訴えられるときかも知れませんよ」
「そうならないよう、気を付けます……」
背を向けたまま、そう言うと、部屋を出た。

「総帥……本庁の一課長が来ましたよ。早めに手を打った方が………では、また後ほど」
留守番電話にそうメッセージを残すと、森薗は空を仰ぐように上を見た。
「……本当に、早めに何とかしなければなりませんねぇ……」
誰に言うでもなく呟きながら、目を閉じた。