「どうなっているんだ……!?」
思わず本城の口からその言葉が漏れた。それは、本城が再び龍に向かって叫んだ時のことだ……。
「静戒!!」
その瞬間、何か目には見えない力に押され、本城はそこの壁を破り、取り調べ室内に引き入れられた。
「グワッ!」
本城の両腕、両足、体、頭。全てにコンクリートの壁に押し当てられ圧迫される痛みが感じられる。そして……。
「……ンッ……なんだ……これは?」
何故かあれだけの痛みを伴ったのに、本城の体にはこれと言って外傷はなかった。そこで、体を起こし、改めて三人に目をやる。そして、龍の肩に手を掛けたとき……。
「!!!」
龍、高木、霧嶋の体が一瞬にして消え去ってしまったのである。それは、龍が自分の愛車を消し去った時と類似していた。
そして、三人が消え去った後を見ると、それぞれが居たはずのそこには、人の形を象った紙が一枚ずつ落ちていた。
城島が仕掛けた式神の本体である。
「ン?どうやら場が割られたらしいなぁ……」
本城が式神を暴いた時、城島にそう反応が見られた。
「どうした、城島?」
剣を交えながらもそう問う龍。
「……何でもない……俺のことより、自分の身を案じな!!」
「ああ、だが、その言葉そのまま貴様に返すぜ!!」
城島の剣を弾きながら、そう言い一足(いっそく)後に跳ぶ龍。
「先・両・圓・斎・浄……轟(ごう)漣(れん)、烈火(れっか)、炎獄翔(えんごくしょう)!!」
言いながら左手を前に突き出す龍。そして、その手の平から業火が解き放たれた。
「チィッ!!甘いわぁ!臨(りん)・獣(じゅう)・精(せい)・殊(しゅ)・経(きょう)、雷帝、招来!」
叫ぶ城島の上に何処からともなく雷(いかずち)が飛来した。
「ほう……雷使いか……ユカ……言霊はまだ創れるか?」
城島の動きを見て、それから上を向きながら、ユカに向かってそう声をかける龍。
「創る内容による……」
三体の魔物を相手に対峙しているにも関わらず、息も乱れなければ、余裕すら見せながら龍の預けた霊刀を手に捌きながらそう答えた。
「そうか……なら、俺の霊気を込められる爆発物を霊製して欲しい。できるか?」
「問題ない。だが、そのには霊刀、少々姿を変えても良いか?」
「ああ、好きにしろ……なら、出来上がったら声掛けてくれ」
「分かった……」
そのユカの言葉を合図に再びそれぞれの敵に向かって攻撃を仕掛ける双方。
「『陽』、『押』、『零』進!」
三つの霊玉をそれぞれ、轟霊角、鬼士華、操兵に投げつけるユカ。
それぞれは、付着と同時に、輝を帯びながら、轟霊角を熱を発し燃やし、鬼士華をかなり遠い壁に叩き付け、操兵を凍てつく氷矢(ひょうし)で貫いた。
「これでしばらくは余裕が作れるな……。さて、リュウのモノを創るか……籠(ろう)・霊(れい)・爆(ばく)、この三玉でいいかな……さて……『研』進!」
三つの霊玉を霊製し、すでに作られていた霊玉を龍の霊刀に向かって使うユカ。
すると、今まで剣の形をしていたそれが、段々と形を変え始めた。柄は鍔を境にL字型に曲がり、鍔はその全体の大きさを広げていった。そして、その完全な変形が終わった時、ユカの手の中には剣はなく、代わりに一挺に銃が持たれていた。大きさから言うと、だいたい小型のライフル程度の物。形状は、分かる人にしか分からないかも知れないが、主に二十世紀に活躍した、M16ライフルを思わせる物だ。
それぞれの霊玉に気を送り、薬莢の形に霊製し直すユカ。そして――
「リュウ、多少手荒いが受け取れ……」
言いながら銃のマガジンにそれを込め、再び本体にマガジンを戻す。
「?……って、ちょっと待て……」
ユカの行動を見て、たじろぎながらそう言う。
「何余所見してんだよう!」
龍の視線が自分からユカに変わったのを見て、城島は剣を横断に薙いだ。
「ウッ、ウワッ!!ッテ、な、何しやが、る……!」
先ほど自らに落とした雷の力を帯びている城島の剣が、龍の体を一時(いっとき)麻痺させる。
軽く掠っただけだったはず……。なのに、これほどの電撃が……。
龍の脳裏にそんな言葉が過ぎる。
「殺し合いの最中に、隙を見せるからだ……さぁ、そろそろ死ねぇい!」
叫びながらも城島の剣は更に龍の体を切り裂く。
しかし、龍もそれを黙ってなすがままにされているわけではない。紙一重で躱してはいた。
が、それでも城島の剣から発せられる電力は衰えることを知らず、龍の体の中に電撃を加えていく。
「いくら避けても無駄だ……静戒、お前の体力を消耗させるだけだ」
城島の言葉が龍に冷たく刺さる。
「う、うせぇ……ユ、ユカ、は、早く……」
言葉を喋るのもやっとになってきているようだ。
「いい加減に……死んじまえよぉぉ!!」
叫びながら剣を片手に持ち替え、一気に龍の腹を貫こうとする城島。
「ヤ、ヤベェ……ナァ……」
そう言う時、龍に右手が剣を放した。
「フン……」
鼻で笑いながら城島は速度を増し、龍に詰め寄る。その瞬間 ――
龍の剣に向かって何かが発射された。その主は勿論ユカ。撃った物は霊玉である。
三連続で放たれた霊玉の後者が前者に追いつき三つが一つの物体になる。
普通の銃でこれをやった場合、間違いなくその場で爆発してしまうであろう。が、しかし、ユカの放った物は霊玉である。霊製せし者の力加減や、微妙に調節される銃器内での暴発の強さによって、そのようなことをすることは可能である。
そして、一つの球体が龍の剣の柄に当たった。
「……!」
その物の出現に一瞬ひるむ城島。
「ハ、ハハ……」
乾いた笑いを浮かべながら、何とか動かせる右手でそれを拾おうとする龍。
「ン!?させるかぁ!」
しかし、城島が放った雷撃で、それは龍の後ろに弾かれしまった。
「ナ……テメェ……」
呻きながらも何とかその場に体を起こす。そして、精一杯手を開き、落ちている剣を呼び寄せる。
「いつまでも、小賢しい真似すんじゃねぇよ!!」
城島が再び剣を振るおうとした時、即でで剣を取った龍がそれを受け止めた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……チィッ……うぜぇ……国四(こくし)、霊練総炎千(れいえんそうえんせん)……――」
息を切らしながらも、確実に剣に霊気を込め出す龍。
「?!ま、まさか……その呪は……」
「――仁(じん)・両(りょう)・烈(れつ)・龍(りゅう)・怪(かい)……気炎(きえん)……朱理しゅ(り)、光練(こうれん)、爆進(ばくしん)、烈火、炎獄翔!!」
先程と同様の炎獄翔の呪を唱え終え、その力を解放させる。そして、その力は全て流の霊刀に注がれた。
「や、やはり、国霊神(こくれいじん)……」
城島の声が心なしか震えて聞こえる。
剣を振るうと、紅い刃(やいば)が、文字通り火を噴く。
「城島……クタバレ……」
静かにではあるがハッキリと殺意が籠もっているのが分かる。
剣を片手から両手に持ち直し、城島に突進しながら剣を横縦十文字に振る。だが、それで倒せる城島ではない。
「無駄だ……」
龍の剣を受け流しながら、そう冷ややかな口調で言い放った。
しかし、龍の目的は、今は、城島を倒すことではなくなっていた。それは自分に気を引きつけるため故の行動。目的は……。
まさしく空間の裂け目と言っていいだろう。ただ何もない場所――取調室の机の上に位置するその空間に直径十五センチほどの穴が開いていたのだ。
本城が城島の式神を暴いたと同時にそれは現れた。おそらくは、城島自身が龍達を倒した後に脱出するための口なのだろう。
それを見付けたのである。
「これは……?」
その場にいたのが、本城でなくてもその疑問詞は浮かべただろう。そして、それが何なのかは本城には理解し難いモノだった。
龍がその場にいたのならば、さも当然のように『結界の入り口』とでも説明するだろう。
しかし、本城、大村。その場にいた二人にはそれが何なのかは判らなかった。しばらくの間は……。
その穴が開いたのを見付けてほんの二、三分ほど経った頃、その穴から爆発音や金属を合わさるような音がしてきた。そして、呻き声にも似た叫び。
どうやら中には何者かが居るようだ。
そのぐらいの見当はついた。だが、だからといってどうすることもできない。それが現状だ。
「なぁ、埜田……」
独り言にも近い口調で斉藤は結界に封じられている埜田に話しかけた。
「……お前、何で神取なんかについた?」
『………』
黙ったまま、静かに結界に身を委ねている埜田。
「さっきお前が言っていた自分の蘇生か?なら、悪いがそれは不可能だ……」
『………』
更に言葉を閉ざす。
「理由はいくつか有るが、その中で俺がもっとも指示するのは、蘇生術は死して良くて三日間ほどの者でなくては成功しないからだ。が、それ以上の期間を過ぎた者に掛けた事例はある。しかし、結果は、失敗。その理由は簡潔だがな。術者の能力不足。それが主要因だ。だが、強い者が挑めば成功するというわけでもない。俺の仲間でも犯人特定のために害者を蘇生させるという捜査方法を取る者はいる。だが、白骨死体などは不可能だ。また、お前のように、本来戻るべき体が既にない者もな……」
『かもな……』
そう言う埜田の声が聞こえていないのか、あるいは、聞こえていないふりをしているのか、斉藤は更にたんたんとした言葉を続けた。
「それは術師の腕ではない。まぁ、式神のようなモノを作り、それに憑依させる形で蘇生させるという手はある。だが、それは本当に蘇生と呼べるのか?勿論、霊気を多く帯びている者は幽体となった後も、自身の体を霊製することは可能だろう。俺もそれに近いモノを目にしたことはある。だが、それを行う場合、その者は全霊力を使い果たすことになる。だが、霊力で構成されている体を維持するにはその力が必要……よってそれも不可能となる。その上で、神取はお前をどうやって蘇生させるというのだ?」
斉藤はタバコを吹かしながら、目を閉じ埜田に顔を向けた。
『俺はそこまでは知らねぇよ……だが、ヤツはそう条約を結んだ』
「条約?そんな物、俺に言わせれば何の意味もないな……もし俺が神取の立場ならば、動かなくなったお前というコマをいつまでも取っておくことはないだろう。また、もし、お前がこの策に勝利したとしても、そこまで。つまり、それなりの力を持つ物は消す。そう言うことを考えると思うがな」
『その時は、神取も俺が消してやるよ』
「くだらん……」
吐き捨てるようにそう言うと、斉藤は自分のデスクの引き出しからモデルを一挺取り出した。型は、オートマチックの拳銃。それも、P−90同様の改造銃である。
「埜田……俺と取引をしねぇか?」
『取引?』
「そうだ。お前は本城洋一を殺りたい」
『……』
黙ってはいるが、『そうだ』というように、肯いてみせる。
「その上で交渉だ。お前に本城を殺らしてやる」
『何!?』
さすがにこの斉藤の言葉には驚きを隠せない埜田。
『どういうつもりだ……仲間を売るのか?』
「そう言うことになるな……だが、俺の目的は本城の死ではない。埜田勝弥という、お前の実力だ」
タバコをデスクの上の灰皿に押しつけると、席を立ち埜田の前にやってくる斉藤。
『……少し話を聞こうか……』
「ああ……まぁ、ゆっくりと、と言うわけにはいかねぇがな。いつ本城が戻ってくるか判らねぇからな……」
『ああ……』
「内容は簡単だ――」
埜田の前に座り込むと、斉藤は埜田に自分の意思を伝えだした。
「――お前は本城を殺れる。俺は、お前の戦力を得れる。それだけだ。詳細は、お前の力に対抗できるのは今現在の組織内では、俺達心霊課のメンバーだけだ。その上で、俺達はお前が本城を狙っても一切の妨害、護衛はしない」
『オイ、いいのか?お前、自分の首が飛ぶぞ……超常現象を解決するのが仕事じゃねぇのか?』
「ああ、そうだ。だが、超常現象ではなく見せかけて殺ることぐらいは可能なはずだ」
『まぁ、少なくても、不可能ではないな……』
「ならば、俺達が出ないように演出すればいい。だが、もしヤツ以外に攻撃を仕掛けた場合は、問答無用でお前を消す。
」『俺は逃げるかもよ……』
小馬鹿にしたようにそう言いながら薄笑いを浮かべる埜田。
「それならそれでいい。それなりの対処をするまでだ。それはいいとして、その特権を条件に、捜査上お前の力が必要になった時だけ、力を貸してくれればいい。どうだ?」
『………何故本城を売る気になった?』
「気に苛ねぇからさ……あのヤロウの、すました顔がよう……常に部下に目を掛け、自分を謙遜して生きてやがる……それに何より、あのご立派な警官面がよう……」
『気に苛ない、か……悪いが、その話は蹴らしてもらう……俺はなぁ、今時馬鹿みてぇだがよう、仲間を殺るようなヤツにはつかねぇんだよう!!本城はテメェの手で消す。貴様等の力なんて借りられるか!!』
「そうか……まぁ、強制はせん……ならば、ここで、もしくは神取の元で消されるんだなぁ……無様によう……」
言うと、手にしていた銃を埜田に向け連射した。
斉藤の指が何度となくトリガーを引き、その度に束縛されている埜田の体が踊る。
『ガハッ!!』
思わずそう呻き声をあげる埜田。
「黙れ……俺は本城のようになぁ、敵に情を見せるほど人間できちゃいねぇんだよう。今は、少しでも使えるかと思ったから声を掛けてやったが、気に入らねぇならそれまでだ。もう一度、死の淵で藻掻け……」
立ち上がりながら冷徹な視線でそう言い放つと、斉藤は埜田に背を向け、再び自分の席に着いた。
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