「本城さん……部屋(ここ)からでれるか?」
しばらく攻防が続いた後、斉藤はそう本城に耳打ちした。
「………判らん。だが、どうするつもりだ?」
「俺もあんたもかなり息が切れている。すでに体力が限界に達しようとしてやがる。その前に、何とか龍を、いや誰でもいい。ヤツに対抗できる戦力を入れたい。俺が何とか食い止める。だから、その間に呼んできて欲しい……」
「……食い止める。無理だ……状況を保つので精一杯なはずだ」
「ああ、そうかもな。俺には龍や他の連中のように強い力はねぇ。だが、俺にも意地があんだよ。第一、俺はここのトップだぜ……それなりの切り札はある。そいつを使う。いいか、うまくいけばいいが、最悪の場合は二十分だ。それ以上は俺の体力が保たねぇ……」
「斉藤……」
「いいな。あんたが頼りだぜ!」
言うなり、斉藤は前方に飛び込んだ。
「埜田ぁぁ!食らいやがれぇぇ!!」
斉藤の指がトリガーを引く。残りの弾数は ―― 八発。予備弾を含めてもそれだけ。その内の一発が埜田に向かって発射された。
そして、それが埜田の体に当たるか当たらないかの内に、本城が室外に脱出に成功した。

「……斉藤、待っていろ……」
本城は一気に階段を駆け上り――
「静戒!」
叫びながら捜査い
「……あ、課長……」
しかし、そう返事をしたのは大村だった。
「大村、警部……静戒は!?」
「ああ、静戒ですか?今は、高木と一緒に霧嶋を取り調べていますが……」
「そうか、どの部屋だ?」
「第二です」
「分かった……」
単調な会話の末、そう言ってそこに向かおうとする本城を大村が引き留めた。
「あの、課長……例の件、裏が取れました」
「……そうか……悪いが、その話は後にしてくれ。それと、くれぐれも内密にな……」
「はい……」
返事をして本城を見送る大村。
「静戒!!」
叫びながら取調室のドアノブに手を掛け、一気に引き開けようとした。だが……。
「!!」
扉が開かない。その訳は、中が城島の結界によって空間が彎曲されているからなのであるが、そんなことは夢にも思うまい。
「何故開かない!?」
「中から鍵でもかけているんじゃないですか?」
冷静なだけなのだが、半ば暢気な大村の口調に本城は苛立ちを覚えた。
「大村、鍵は?」
「ああ、これです」
ポケットから鍵の束を取り出し、その内の一つを選び本城に渡す。
それを慌てた様子で受け取ると鍵穴に挿し、捻る。が、元より扉には鍵などかかっていないのだから、それで開くはずがない。
「……課長、一体どうしたんです?少し落ち着いて下さい」
そんな本城の様を見て、大村はそう言い質した。
「ああ、すまない、取り乱した。だが、今は何も聞かないでくれ……。しかし、どうにかしてここを開かなくては……静戒!!」
扉を叩きながらそう叫ぶ。

『本城を逃がしてどうするつもりだ?』
「さぁな……」
そう言いながら立ち上がるとシリンダーを開く斉藤。
「後七発……」
銀の銃弾を挿入しながらそう呟く。
『無駄だ……確かに俺に数発そいつをぶち込めばそれなりのダメージをう。だが、どんな強力な武器も当たらなけりゃ無意味なんだよぅ!』
「確かにその通りだ……――」
そう言いながら、埜田に向かって一直線に突進する。
「――だが、これならどうだ?」
ゼロ距離射程。銃口を埜田の腹部の突き当て斉藤はそう言った。
『オイオイ、それで当てられると思っているのか?俺は――』
次の瞬間、埜田は斉藤の後ろをとっていた。
『――空間を渡れるんだぜ……』
「フッ……掛かったな……」
『何!?』
埜田がその後再び姿を消そうとする前に、斉藤は銃がない左手からナイフを取り出していた。筋肉の、力の入れ方次第で手の平に落ちてくる仕込みナイフを。
そして、それを有無も言わさず埜田の体に押し当てる。
『グッ!き、貴様……』
元々霊体のため、血流こそ起こらないが、霊気の込められた純銀のナイフは深々と埜田の体に突き刺さった。
「チャカはフェイクだ……当然銃弾は全て抜いてある。そして、これが俺の切り札だ!」
言うが早いか、斉藤はいつの間に用意したのか札に包まれた銀の銃弾を埜田にばら蒔いた。
「特殊な結界を張った。しばらくは動くことすら叶わねぇだろう……」
静かにではあるが、確実に殺意のこもった言葉。
「……さて、残念ながら俺の力では貴様にトドメをさすことはできねぇ……だが、放って置いてもテメェはくたばる。さぁ、死のカウントダウンの始まりだ……」
そう言い放ち、自分の椅子に腰掛け、タバコに火を付ける斉藤。

「ダメだ……クソッ!!何か、何か手はないのか!」
扉を叩きながらそう毒づく本城。
「課長!!いい加減話してください!私も一課の一員です。いくらでも力は貸せます!!」
「大村………――」
大村の熱心の言葉に心を動かされたのか、本城は大村の顔を見た。
それに黙って肯く大村。
「――心霊課が占拠された……やったのは紅蓮の一見だ……」
「!!」
それを聞いて大村の顔が驚愕の二文字で埋め尽くされた。
「どういうことですか!?」
「言葉通りの意味だ。お前がさっき言った裏が取れたと言うこと。そして、それだけの隙を見せる分、紅蓮の内部は我々に有利な動きをしていると言うことだ。だが、逆に言えば、現在の紅蓮は追いつめられた野獣そのものだ。何をしてくるか判らん。それが、この結果だ……」
「………それで、心霊課の者は……?」
「斉藤が一人で今居る。静戒を連れてこいと頼まれた……だが……」
そう言いながら改めて取調室の扉を見る本城。しかし、当然そこには黙っているだけの物体があるだけで、開こうとはしない。
「課長……隣の監視室から鏡を割れば」
「あ、そうか、その手があったか……」
よし。と、ばかりに直ぐにその部屋に迎い、取調室からは鏡、その部屋からは透視ができるマジックミラーを覗く。中の様子は……。
「ちゃんと顎取りはしているじゃないか……何故扉が開かないんだ……?」
龍が霧嶋を取り調べ、その様子を記録する高木の姿が見えた。
「静戒!」
叫びながら、鏡を叩く本城。しかし、龍たちの反応は一切無い。
「……課長、割りますか?」
「……ああ……」
返事をして振り返る本城の目に、いつの間に用意したのかスパナを握る大村の姿が入った。
「……!」
本城の意思を確認し終わると黙ってスパナを振り上げ鏡に突き立てる大村。
そして、それが枠だけの物になると、そこから再び龍に声を開ける。
「静戒!!」
しかし、その場の誰からも反応はなかった。
「……?静戒、どうした」
更に声をかけるが、いっこうに反応はない。
それもそのはず、その場に居る三人は城島が作り上げた式神。いわば虚像だからである。

「リュウ……」
多少体力の落ちてきている龍の姿を見て、
「大丈夫だ……それより幸香、あ、幸香でいいのか?まぁ、どっちにしてもお前が出てきてくれて助かったぜぇ」
「私を呼んだと言うことか…?」
「ああ、お前に俺の霊刀を渡した時にな……普段の幸香には霊気は感じられねぇ。だが、それでもあの霊刀を保つことができるんなら、もしかしてと思ってな……そしたら――」
「案の定。と、言う訳か……」
「そうだ」
「だが、もし私が出てこなかったらどうするつもりだったのだ?」
「そん時は……そん時だ……」
「なるほど……表の私がお前に惹かれるわけが何となく解る気がする……」
「幸香が……?」
「そうだ。まぁ、私の思い違いかも知れないがな……さて、そろそろ躱してばかりというのも止めにするか」
「ああ……」
言いながら、魔法陣を再び手中に収める龍。そして、再び印を組む。
「行くぞ……それから……私も『ユカ』で構わない……」
そう言うと、ユカは霊刀を片手に鬼士華に向かって地を蹴った。
それを見て、その攻撃を妨げようと操兵がユカの前に立ち塞がる。
「小賢しい……――」
言うと同時に、ユカの体が操兵の横に飛んだ。そして……。
「――陽(よう)・爆(ばく)・零(れい)・押(おう)・研(けん)・幸(こう)・香(きょう)・衝(しょう)!!」
そう呪を唱えると、ユカの手中に八個の球体が現れた。そして、その内の二つを人差し指、中指、薬指に挟み、操兵と鬼士華に投げつけた。
「『爆』、『衝』進(しん)!!」
更にそう言うと、それぞれはそれぞれの目標に当たると同時に、操兵を爆破し、鬼士華を貫いた。
「ほう、貴様、言霊使いか……」
半ば悔しそうに、だが、何処か楽しんでいるようにそう言う城島。
「そうだ。私の能力は言霊……それが私の力の全てでだ……だが、ただの言霊使いではない」
「だろうな……普通の言霊使いならそれを勾玉にして維持させることは不可能だからな。それをあっさりとやる辺りからも、あんたがただの言霊使いだとは思ってねぇよ」
そう言いながら、魔法陣を小さく折り畳み手帳に収める龍。
「ン?奴らをしまう?何を考えている、静戒?」
そう疑問を上げたのは城島である。龍の魔法陣をしまう――網剪と、アエシュマ・ダエヴァを魔法陣に戻す――行為を見てそう言ったのだ。
「別に。ただ、今のユカの力を見たら、俺と二人だけで十分だと判断しただけだ」
「後悔するぞ……」
「させてみろよ……」
お互いにまだ全力にはほど遠い力で対峙している。そんな印象を見せるその二人の会話が、無音の空間内に聞こえた。
「食えねぇな。お前も……」
言うと、城島は小さく指を鳴らした。
すると、空間から一振りの刀が現れた。
「まさか、また染刀……!?」
「そう怪訝な顔をするな。俺達もそう何振りも染刀は持ってはいねぇ。コイツは俺の愛用の妖刀だ。静戒……確かお前、剣術が得意だったなぁ……相手しろやあぁl!!」
叫びながらそれで龍に切り込んでくる城島。
「チィ!テメェ、剣は振れねぇんじゃ……」
「ああ、だが、妖刀は俺よりも剣が勝手に動くからな……必要なのは剣技じゃねぇ、霊力の強さだからな。俺でも十分に扱えるのさ!!」
言いながら再び剣を振るう。
「ハッ!上等だ……だがなぁ、俺に剣でケンカ売るってことは、後悔するのは、お前になるってことになるなぁ……!先・両・圓・斎・浄、我(われ)に朱(しゅ)の力(ちから)、降資(こうし)しえん。朱(しゅ)理(り)、義(ぎ)秦(しん)、紅(こう)刀(とう)!!」
叫ぶと同時に、龍の手に深紅の霊刀が霊製された。