「………幸香も城島の能力に気づいたか……さて、どうする……!」
『龍、待ちなさい!これ以上の勝手は許さないわよ!!』
突然そう言って龍の無線に高木の声が入ってきた。
「ハハ、しょうがねぇか、あいつも怒らすとやっかいだからな……」
龍はそう言いながら速度を落とし、そして道の右端に止まった。

「どうしてあなたはそうなの!」
高木は龍を見付けるや否や車を降り、そう間髪入れずに詰め寄った。
「な、何だよ……いきなり……」
そう言いながらたじろぐ龍。
「何だじゃないでしょう!このチームの責任は私にあるの、一人でも自分勝手に行動されるとハッキリ言って迷惑なの!何なら課長に頼んで龍外してもらおうか!!」
「………」
高木の勢いに圧倒されてか、龍はわずかに口を開けるだけで沈黙させられている。
「聞いてるの!」
龍がゆっくりと後ずさりを始めたのを見て、高木は更にそう言った。
「あ、ああ……ま、まぁそう怒るなよ、な、幸香……俺が悪かった……だからよう………ほら手塚たちも居心地悪そうにしてんじゃねぇかよ……」
車の中の手塚たちに視線を向けると龍はそう助け船を出した。
それに従って高木が車の方を向く。
「………」
顔を見合わせて曖昧な表情を浮かべる二人。
「……。とにかく!」
「………」
「私の指示に従ってもらうからね!」
「あ、ああ………」
「『ああ』ぁ……?」
「……はい……」
「分かったらあなたのバイク戻して」
龍が(まぁ渋々と言った感じではあったが)肯いたのを見て高木は車に戻るとそう言った。
「……戻す?」
高木の言葉にそう素直な疑問詞を浮かべる佐々木。
「ん?あれ、二人とも、もしかして知らない?龍のおもちゃ――バイクね、小さくなるのよ。ネ、龍」
「あ、ああ………ちょっと、待っててくれ、今やる………」
心底疲れた口調でそう言いながら自分の愛車に向かって印を組む。
「先・両・圓・斎・浄、偽姿(ぎし)、戻(れい)………」
龍の言葉が終わるか終わらないくらいにバイクは光を発し、見ている間に、その体積を減らしていった。
そして、その大きさが手のひら大になると、それは光を失い、龍の右手の上に飛び上がるようにして乗った。その物は折り紙で折ったような小さな二輪車だった。
「それって……」
その光景を見ていた佐々木がそう言いながら龍の手の上を指差す。
「ん?ああ、これか」
龍はそう言いながら軽く逆の手でそれを摘み上げると、佐々木に放って寄こした。
あわててそれを手に取る佐々木、そして、それを見ている高木と手塚。
「それが、式神よ」
龍から受け取った紙の物を目の前にして不可思議な表情(かお)をしている佐々木を見てそう高木が言った。
「さっき話したでしょ」
「話した?ってことは、何だ、お前等知ってんじゃねぇか。まぁ、厳密にはそれは式神とは言わねぇけどな。そいつは、“傀儡(くぐつ)”って言う物だ。まぁ、早い話、式神が人間みたいに意識を持って、傀儡が機械みたいなもんだと思ってくれりゃいいや。勿論、その想像主によってはどちらにも意思を与えることは可能だけどな。まぁ、影から想像主が操っていることから意思があるように見えるなんて事もあるけどよう」
「クグツ……」
「まぁ、そんなことはどうでもいいわ。それより、ほら龍、乗って」
高木はそう言いながら龍たちを促した。
「それじゃ、佐々木君」
「は、はい!」
「どうかしたの?ま、いいわ。とにかく一度、署に戻って」
「わかりました」
佐々木はそう胸を撫で下ろすように答えると、車線を変更した。

「で、何で戻ってきたんだ?」
捜査一課の中に入るや、龍はそう高木に詰め寄った。
「何でって、決まってるでしょ。鑑識にさっき甕内君が持ってきたって言う液体とあなたが昨日持ってきた何とかって石の報告を聞く為よ」
「そんなもん一々戻ってこなくても、無線とかいくらでも手段はあるだろう?」
「…………そう、じゃ、あなたには結果は教えてあげないわ!」
「何でそうなるんだよ!だいたいお前は一つもそうだ!自分勝手に捜査しやがって!」
「どっちが自分勝手なのよ!あなただって、今日もそうじゃない。人の話なんか何にも聞かないで、直ぐ一人でどっかいっちゃう!」
「あのなぁ………」
二人が口論を始めたのを見て一課の面々は「またか」といった表情をしている。どうやらこの二人の口論はおなじみのようだ。
「はぁ、まったく………オイ、高木、静戒!」
そういって、ゆっくりと席を立ち上がり、ため息混じりではあるが、一括を入れたのは、大村であった。どうやら本城の言う別件から戻ってきていたようである。
『は、はい!!』
二人の声が重なり、速攻で大村の前に足を急がせる。
「お前達なぁ、もう少し仲良くできんのか?もう二人とも子供じゃないんだから」
「そんなこと大村さんに言われなくても解ってますよ。ただ、幸香が……」
「何言ってんの!」
「お前等、私の言っていることが本当に解っているのか?!」
『…………』
「もういい。それより、鑑識に用だったな。一時間前までの結果なら届いて、高木の机の上に置いてある。それ以上必要なら直に顔を出せ。どちらにしても、あまり迷惑をかけるなよ」
「……はい」
「……分かりました」
珍しく素直にそう返事をすると二人はそろって高木のデスクの上の新しくファイリングされた捜査資料に向かった。
「……なぁ、幸香、この『城島邸前――液体』って何だ?」
「ああ、それ。城島がいったん姿見せて消えちゃったことは知ってるでしょ?それが起きた時、城島の家の前で採取された物よ。って、さっきその結果を見に来たって言ったばっかりでしょう!」
「……まぁな……と、すると、これは塩化ナトリウムなんかが検出されてるとっから“聖水”って訳か」
「あなたが言うんならそうなんでしょ?」
「………」
「で、一応聞くけどあなたはこの後どういう風に行動するつもりだったの?」
「もう少し、城島の気を追うつもりだった。けど、もういいわ。それより、鑑識行ってくるな。この水の現物を見てぇからよう」
そう言うと、龍は早々に一課を後にしようとした。
「待ちなさい!」
龍の背に向かいそう声を上げたのはもう、言わなくても判るとは思うが高木である。
「何だよ……」
振り向きながらそう言う龍に数歩近づき……。
「私も行くわ」

「すみませんねぇ」
「いやいや、別に構わないよ。こっちもこれが仕事だからねぇ。あ、これだろう?」
そう言いながら鑑識官は龍が言った液体を取り出した。
「あ、多分そうです」
「ねぇ、龍、これから何が分かるの?」
「ん?まぁ見てろよ………」
そう言うと、龍はシャーレに入ったそれを机の上に置き静かに眼を閉じた。
その瞬間、今までただの透明な液体だった、それは一瞬で蛍光色の緑色に変化した。
「何、これ!?」
「………また、ですか……」
驚愕の声を上げる高木に対し、鑑識官はさも当然と言った口調である。
「………」
しばらくすると、龍はゆっくりと目を開いた。その頃には、液体ももとの、無色透明なものに戻ってきた。
「龍、何したの!?」
「ちょっと、な。じゃ、ありがとうした」
龍はそう言うと高木をよそに、鑑識から出て行った。
「ちょっとじゃない!龍、待ちなさいよぉ!」
そう言いながら龍を追う高木を見て、苦笑する鑑識官の姿がそこには見受けられた。

「なぁ、俊、どう思う?」
手塚は佐々木に入れ立てのコーヒーを渡しながらそう言った。
「どうって、何がだ?」
それを受け取りながらそう相づちをうつ佐々木。
「静戒さんと、高木さんのこと」
「だから、どういうことだよ?」
「あの二人って、仲悪いのかなぁ……?」
「ああ、そう言うことか。何でだ?もしかして、武、高木さんのこと好きなのか?」
「な、何言ってんだよ。そんなガキみたいなこと聞くなよ!」
そう口では言っているが明らかに同様はしているようだ。その証拠に、周囲の者の反応を見ている。しかし、その時は大村以外の全員が出払っているようで、その大村も、扉は開いているが隣の資料室に行っているらしく、一課内に二人の会話を聞いていた者はいなかった。
「そう向きになるなって。けどまぁ、お前の気持ちは置いといても、ああ、しょっちゅう喧嘩されてても困るよなぁ……
」「そ、そう。それを言いたかったんだ」
今の焦った口調が直らないままで、手塚はそう言った。
「まぁ、そう言うことにしといてやるけどさ……。なぁ、捜査って、基本的には二人一組でやるもんだよなぁ」
「ああ……」
ようやく落ち着きを取り戻した手塚は、自分のデスクに向かいながら、そう答える。
「だからよう、高木さんとお前、俺と静戒さんとで組んで捜査しねぇか」
「!何でそうなるんだよ」
「何だ?嫌なのか、何なら俺が高木さんと組んでもいいぜ」
「そう言うこと言ってんじゃねぇよ。だいたい、あの二人が納得するかどうか……」
「その心配はいらねぇだろう――」
ピーピーピーピー――――
手塚が更に言葉を続け用とした時、室内の無線機がなり出した。
「その話はまた後でな……」
そう言うと、手塚は無線機の通話スイッチと録音スイッチを押しメイクに口を近づけた。
「一課……」
『こちら本庁405(よんまるご)、聖鈴川(せいりんがわ)脇の林で、見本不明死体発見。至急応援頼みます』
「了解」
そう返事をすると、その無線を切り、直ぐに警視庁の全車両に手配をかける。
「こちら警視庁。巡回中の全車両に告ぐ、聖鈴川脇の林で、見本不明死体発見。至急応援求む。繰り返す。こちら警視庁――」
「んじゃ、行くか?」
手塚の無線連絡が終わると、佐々木はそう話しかけた。
「ああっと、その前に、大村警部に一応伝えとかねぇとな」
「……いや、もう分かった。今資料室からも聞こえていたからな。それはいいとして、静戒と高木は何処に行った?」
「さぁ、さっきは鑑識に行くって言ってましたけど。それからは……」
「そうか。まぁいい。気を付けて行ってこいよ」
「はい。行くぞ、俊!」
「ああッ!」
二人がそう言って一課を後にしたほんの数秒後、ほとんど入れ違いに龍と高木が一課に顔を出した。
「ん?何だ誰もいねぇなぁ」
「ホントだねぇ。何か進展でもあったのかなぁ……」
「そう言うことだ」
二人が歩を進めながら部屋の中央辺りまで来たとき、後ろからそう言ったのは大村である。
「大村警部」
「大村さん」
「今さっき、聖鈴川の林から死体が上がったと知らせが入った。手塚達もそれで出て行ったぞ」
「へぇ、そうですか」
「のんきな返事をしていないで、お前達も出たらどうだ?」
「ええ、行きますよ。なぁ、幸香」
「え、うん。そうね」
「ああ……あ、そうだ、行く前に一つ大村さんに、って言うよりも、警察組織に聞きたいことがあったんですが……いいですか?」
「……私に答えられることならな」
「そうですか。ならどうして、この遠藤弁護士のヤマに捜査本部を設置しないんですか?」
『!!』
龍のその言葉に大村の顔色が変わった。明らかに何かを知っていて話したくないと言った表情だ。
「何か特別な意味があるんですね……大村和義さん」
そう言う龍の顔には、取り調べの際に犯人を自供に追い込むときのような相が現れていた。
「………悪いが何も話せん……」
「……………そうですか……まぁ、いいです。それじゃあ、行ってきます。行くぞ、幸香」
「え、あ、うん………」
高木はそうぎこちない返事を返すと龍に続いた。