小野寺剛司は小さなバイクショップを経営していた。
年齢は五十も越え、そろそろ重い大型バイクを駆るには体力的にきつくなってきた頃だ。
店の名前は過去の尊敬する人物のことを思ってか“TACHIBANA RACING(タチバナレーシング)”と、名付けた。
この店を始めてもう二十年以上にもなる。
客の入りは上々とはいかないが、それでも、別に食べていくのに困るほど少ないわけではない。
彼の独自のチューニングのファンが多いためだ。
彼は、店のシャッターを閉めると徐に奧を見た。
其処にあるのは、過去に尊敬する内の一人から譲られた一台のバイクだった。
車種名はCYCLON(サイクロン)。
かつてショッカーの魔の手から世界を救った男の愛車だったマシンだ。
ゆっくりと近付くとそのグリップを握りゆっくりと車体をさすった。
それは、彼の安らぎの心を持てる時間の一つだった。
と、突如小野寺のそんな静寂を破る邪魔者が現れた。
ゆっくりとではあるが、お世辞にも丁寧とは言えないやり方でシャッタ−を叩いてきたのだ。
「小野寺さん、いますか?」
若い男の声だ。
この店には、所謂世間のはみ出し者と言われるような連中が来る。が、彼等は小野寺にとって我が子のような存在だった。
口調が悪く態度がでかい。その上、日常はバイクを駆っての暴走行為。
だが、それは世の中が悪いせい。小野寺は日々そう思っていた。彼等は何も悪くないのだ。ただ単純にバイクが好きで、だが、その心の表現方法が不器用なだけ、だと。
「誰だ?」
今日もそんな連中の一人がバイクの修理や点検を頼みにやってきたのだと思った。
「いつも勝手に裏から入ってくるじゃないか。どうしたんだ。今日は?客にでもなってくれるのか?」
冗談交じりにそんなことを言いながら、渋々と、シャッターを開ける。
「小野寺さん、いえ、こういった方が用件は解りやすいかもしれませんね……二代目、立花籐兵衛さん、お願いがあってきました」
男はヘルメットを小脇に抱えて言った。
†
『………どういうコトかなぁ?静戒さん』
その子供の姿をした者は空間を切って現れるなりそう言った。
「どうというと?」
『ボク、二人ともに待っててって言ったはずなんだけど……何で、あのカナギって、お兄さんは居ないの?』
「俺達にも事情があるんだ。少しは甘く見て貰いたいが、問題があるなら奏魏を呼び戻すぜ」
『ふぅん……ま、いいや。じゃあ、お兄さんにだけ、いいこと、教えてあげる』
「いいこと?」
『そ……お兄さん達の言う、DEVIL……ボクが消してあげたから』
「何!?」
『壊滅させたかったんでしょ?DEVIL』
「あなた、何言ってるの……そんなあっさりと――」
『あっさりねぇ』
高木の言葉にからかうように言うソレ。
「幸香、コイツの言ってることはたぶん本当だろう」
「龍……」
†
「私にできることなど何もない」
サイクロンのボディーを磨きながら小野寺はそう言った。
「しかし、貴方はあの立花籐兵衛の意志を次いでこの店を始めたんでしょ」
男――奏魏は詰め寄って言った。
「だったら何だと言うんだ?」
「貴方にしか、頼めないんです。そのサイクロン号を越えるマシンを――いえ、バイクの知識を、俺に下さい!」
†
「それで、お前の望みは何だ、小僧」
『望み、ねぇ……あ、その前にその小僧って言うのやめてくれないかなぁ。ボクにも名前はあるだしさ。まぁ、正しい発音は人間の音領域を越えちゃうけどね……だから、そうだなぁ……セイドって、呼んでよ』
「……ならセイド、お前の望みは何なんだ」
静戒は、改めてソレ――セイドを見ると言った。
その視線に満足したように頷くと、セイドはゆっくりと全身を浮かせながら言った。
『DEVILと一緒さぁ、基本的にはね』
「!」
その言葉に高木の顔が凍り付く。
それも仕方のないことだろう。そのままセイドの言っていたことを鵜呑みにするならば単独で一組織を壊滅させたものがそれと同じコトを行うというのだ。
が、静戒の顔には――うっすらで殆ど分からない程度だが――笑みが浮かべられていた。
『アレ、静戒さんは、嬉しいみたいだねぇ』
どうやら、セイドにはその笑みが見て取れたらしい。
「嬉しそう、か……ま、違うと言えば嘘になるな」
「龍ッ!」
高木が叱咤する。
「幸香、そう騒ぐなって……俺だってそれがいいことだなんて思ってねぇよ。けどな、コレで助け出せるツテがまだ出来ただろ……奴等をよぉ」
「奴等って……仮面、ライダー、を……?」
「ああ、DEVILが滅んじまってそのままだったらどうにもならねぇじゃねぇかよ。けどよぉ――」
『無理だよ、静戒さん』
「何だと」
†
「何度も言わせないでくれ。私には無理だと言っている」
「何故なんです!貴方は立花籐兵衛の意志を次いでこの店を開きバイクを扱ってるんじゃないんですか!」
再び言う奏魏。
「意志を次いで……そんなに格好のいいもんじゃない。ただ、ただ単に憧れているだけさ。会長――立花さんと、隊長の滝さん、ソレに、本郷さん一文字さんに……ただの憧れがに乗じて起こした店だ。ま、ほんの趣味の一貫さ」
「嘘です!」
小野寺の言葉にそう言いながら詰め寄る奏魏。
「嘘じゃない」
「ソレじゃあ……それじゃあ何で湧輝の……杜若のマシンの設計をしたんですか!」
†
「そう。無理ね」
言って入ってきたのは奏魏を連れ出した神谷だった。
「……」
黙って神谷の次の言葉を待つ一同。
「だって、彼等はもうこの世にいないんですから」
「――ッ!?」
神谷のその言葉に一同は凍り付き、セイドだけは満足そうな笑みを浮かべた。
「テメェ!もう一度言ってミヤガレ!!」
今にも飛びかからんばかりの勢いで言う静戒。
「龍!抑えて!!」
そして、ソレを止める高木。
また、黙って見守るその他の捜査員達。
「どういうコトだ!仮面ライダー達がこの世にいないだと!寝ぼけたこと言ってンじゃねぇよ!!」
『どうかなぁ……寝ぼけているのはお兄さん達の方だと思うけど』
カイトは言って地に足を着いた。
「何だと」
『MASKED RIDERは……今、この世界から消えかかっているんだよ。“同化”と言う現象によってね』
「ドウカ?」
「そう――」
答えたのは神谷だった。
「――過去の資料を見つけたの。彼等が、ショッカーやデストロン、ドグマなどと戦った記録。そして、彼等自身の記録を。そうしたら実に興味深い物が出てきたわ。ソレは――」
†
「湧輝のマシンを設計したのは貴方だ。湧輝のオヤジさんの設計かと思ったが違った。警察の情報網って言うのはかなり広いんです。駆使すればこのくらいは探れます」
奏魏の言っていることは半分嘘だ。コレは奏魏が調べたことではなく、資料や小野寺のことを聞いて想像したに過ぎないこと。つまり、鎌を掛けただけだ。
「ソレは――」
奏魏の言葉に一瞬顔を伏せたが、意を決したように見ると小野寺は言った。
「――彼を守るためだ。彼の父親と私は旧友だった。科学者としてではないがな。ただの、バイク乗りとしてだ。そして、時々彼から出てくるMASKED RIDERという言葉に、私は身を切られる思いだった。彼は、驚くべきコトを言い出したんだ……奏魏君、と、言ったな。何故彼等が……仮面ライダーがそう呼ばれ、そして、バイクを駆るか分かるか?」
「え……」
奏魏には小野寺の言葉の意味が分からなかった。
「ショッカー――」
小野寺は奏魏の返事を待たずに続けた。
「――彼等は戦闘要員として本郷さんを改造した。しかし、脳改造の瞬間に逃げられてしまった。そう言われ、そして、本郷さん自身もそう言っていた。が、ソレが真実だと誰が言い切れる?私はねぇ、聞いてしまったんだ。本郷さんの脱走を助けた緑川博士のお嬢さんのルリ子さんに……それは、博士がルリ子さんだけに語ったものだった。ライダーは……生態兵器などではないと」
†
「生態兵器ではない?」
「そう」
腕組みをして言う神谷。
「どういうコト、何ですか?神谷さん」
高木は顔をしかめながらも、聞く。
「……生態兵器ではないというのには確かに語弊があるわ。正しくは……生態兵器の過程を追って完成するマシン」
「マシン!?」
『ふふ……』
静戒が叫び、セイドが微笑む。
「ショッカーは、自分に刃向かうことを覚悟の上でバッタ人間――仮面ライダー本郷猛を逃がしたのよ」
「――ッ!!」
仮面ライダーの名を、そして本郷猛の存在を知るものの目が見開かれ、声にならない驚愕が襲う。
そして、短い沈黙が訪れた。
「……悪い……セイド、部屋を変えたい……いいか?」
『……うん、いいよ。ボクももう少し聞いていたいしね。でも、ソレには余計な知識を得て欲しくない人達もいるからね……どこ、行くの?』
「警視庁の地下に今は使われていない武器庫がある。今は空き部屋だ。其処に」
『わかった。それじゃ、先行ってるね』
言うと、セイドは空間に消えた。
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