『奴等、来たようだな……』
『そうだね』
十字架に貼り付けられているのは、スーツ姿の男だった。
その足下には、半壊したヘルメットと右義手が落ちている。
『ねぇ、あんた、先に死にたい?それとも、死んでいく仲間の姿を見たい?』
子供に欲しいプレゼンを聞いているような口調で酷憐は、男――結城丈二に尋ねた。
「………」
『黙りかよ……』
手に持ったシミターの様な剣を首筋に当てながら獄憐は呟く。
『ま、どっちでもいいけどね。それも、今向かってる坊や達の態度次第だからね』
『酷憐、あまり遊ぶな。我等はどちらにしても始末するのみだ』
『判ってるよッ!でもいいじゃないか……こんな面白そうなことさ』
「………」
†
「おお、龍。よく追いつけたなぁ」
「うるせぇ、霊能力者なめンじゃねぇぞ!」
「霊能力者?って……所謂ソレ、ですか?」
FGは速度を抑え、静戒に並ぶと、尋ねた。
「何が言いたい?」
「いえ……ホントにそんな人居るんだって……」
「あのなぁ……俺から言わせりゃ、お前等みたいな連中の方がそうなんだよ」
「アハハハ、ちげぇねぇ」
少し前を走る杜若の声が聞こえた。
と、ほぼ同時に、一瞬空間が漆黒に見舞われたように思われた。
『ようこそ、冥界の入り口へ』
「……空間を移動されたらしいな」
静戒の呟きに、奏魏は、周囲を見渡す。
異空間に引きずり込まれたときに、変身が解かれてしまったようだ。
「……冥界……ここに、ライダー達が……」
『あぁ?悪いがここに奴等はいねぇぜ。ここはほんの入り口。仮面ライダー達はもっと深い闇の中だ』
「闇?」
『どうでもいいことだろう。どっちにしてもあんた達はここで死ぬんだからさ』
「御託はいらねぇよ……とっとと始めようぜ」
『何か勘違いをしているようだなぁ……』
杜若の挑発をそう受け流し、後ろに貼り付けられている結城に目をやる獄憐。
『お前達は我等に攻撃することは許されてはない。勿論、防ぐこともだ』
『そ。言いたいことは分かるね?坊や達』
「クッ……!」
「杜若、奏魏……お前等は奴等を滅せ……」
静戒は一歩前に出ながら二人に指示をし、右手で空中に何かの図形を描いた。
「龍……ッ!」
『あんた、聞いてなかったのかい?動いたら……』
「動いたら何だってんだよ……結城丈二を消すってのか?殺りゃあいいじゃねぇかよ」
「静戒さん!ダメです……そんな挑発をしては!」
「奏魏……少しはデカを信じな……集(しゅう)・光(こう)・陰(いん)・練(れん)・刀(とう)……………」
空中に何かを描きながら、そう呪を唱える。
と、その腕には紅の光を帯びた日本刀が握られていた。
「……アレが……霊力……」
奏魏が呟く。
『レイリョク…………霊能力者か……ほぉ、面白い』
『アニキ……また悪い癖が出たね……まったく』
獄憐の言葉に酷憐がため息混じりに言った。
『オイ、仮面ライダー……お前等は動くなよ……俺はコイツと遊ぶことにした。酷憐、奴等見張ってろ』
『わかったよ』
「ちょっと待てよ……そう死に急ぐなって……獄憐」
『死ぬのはお前だろ?』
「まぁ、いいぜ……ならよう、一つゲームをしようじゃねぇか。俺が死んじまったら、まぁ当然かも知れねぇけど、結城丈二は好きにしろよ。けど、俺が勝ったら結城丈二を解放しろ。もっとも、これは酷憐が了承しなくちゃダメだろうけどな……」
『……まぁ、いいだろう。いいな、酷憐』
『アニキが死ぬわけないだろ?ならそんなことは公約する必要はないだろう』
『それじゃ、ゲームにならねぇだろう』
「そうか……まぁ好きにすりゃいいや……取り敢えず……始めようか」
「――散れ……国四(こくし)、吉香樹流(きっかきりゅう)!」
先に仕掛けたのは静戒だった。
剣先から一筋の赤線が飛び出した。
『ほぉ!面白いなぁ!!!』
ソレを軽く蹴散らすと、獄憐は空間に消えた。
「チイッ!」
舌打ちをしながら刀を消すと再び空中に模様を描き出した。
「始層(しそう)、急炎如律両(きゅうえんにょりつりょう)!!ハァッ!!」
何処というわけでもなく、目の前の空間に右手を突き出した。
『グワッ!』
と、そこからいきなり獄憐が飛び出した。
「下らねぇ子供だましはするな……俺には通じねぇよ」
『ク、ハハハハ……いいなぁ、人間……面白れぇよ……なら、今度はこっちから行くゼェ!』
言いながら突き出した両手の指それぞれから怪光線を放出した。
「下らねぇ……」
再び霊製された刀を一振るいすると、怪光線は薙ぎ払われた。
「もっと本気でやれよ……それとも、人間相手じゃ本気になれねぇのか?」
『クッ……テ、テメェ!』
「オイオイ、怒るなよ……」
『巫山戯るなぁ!!!』
再び指先から怪光線を発し、それと同時に裂けんばかりに開かれた口から陵銀同様に光線を吐いた。
「ウゼェ……国四、炎獄焼(えんごくしょう)!!」
光線に対抗するように、静戒の握った剣が炎を放いた(はいた)。
「灰も残さねぇぞ」
静戒の呟きと共に、獄憐は業火に包まれ、しばらくの後……そこには足跡のような形をした黒ずみだけだった。
「弱いな……」
「……つ、強い……アレが、本当に生身の人間なのか?!」
奏魏が思わず驚嘆を漏らす。
「まだ終わってねぇぜ」
その言葉に、杜若は否定を指した。
「アイツ、空間斬って逃げやがった……」
「見えたのか、湧輝」
「ああ……」
「逃げられたか」
静戒も杜若に同意しそう呟いた。
「この時点で、ゲームは無効だな。まぁ、いいだろう……それよりお前等……そろそろ奴等を消せ。今の戦闘中にいくつか仕掛けを張った。結城丈二は俺が助ける。いいな、次にヤツが空間を斬って攻撃してきたときが合図だ」
静戒は囁くようにそう付け加えると、刀を握りなおした。
「龍……仕掛けって……?」
「なぁに、心配するな。助けるための物だ。俺等には被害はおよばねぇよ……っと、気が強くなってきやがった……そろそろ奴さん来るぜ」
「ああ………はぁ……」
ゆっくりを息を吐きながらポーズを取る杜若の腰にベルトが出現する。
それを見て奏魏も腰にはめられているベルトに、コンバーターを改めて装備する。
『変身ッ!!!』
二人の声が重なり、目映い光が発せられたとき、そこには二人の戦士の姿があった。
『散れい!!』
と、その瞬間、空間を切り裂いて獄憐が姿を現した。
その爪の先には、静戒の首筋がある。
「ヌルいぜ……獄憐」
が、獄憐のその行動は予測されていたようだ。
静戒は右手に持った剣を素早く逆手に持ち替えると自分の首を防ぐように持ち直した。
紅の刃に獄憐の爪が突き当たる。
「ンじゃ、そいつは貰うぜ、龍」
「ああ……任せた……」
「なら、俺の相手は酷憐か……」
それぞれはそれぞれの言葉が言い終わる前に飛び出した。
†
「結城丈二……待ってろよ……」
『馬鹿が…逃がすと思ってるのか?人間』
「馬鹿は、お前だぁ!」
静戒に飛びかかろうとした獄憐の顔面に拳をめり込ませるFLASH。
「楽しもうぜ、ザコヤロウ……」
『チッ……』
「――って、ことで、消し飛べぇぇぇーー!」
FLASHの回し蹴りが獄憐の米神に炸裂した。
当然ながら、衝撃で吹っ飛ぶ獄憐。
「さて、ウォーミングアップはこのくらいだな……獄憐、お前も本気で来いよ」
『いいのか?本気になって』
「早死にが希望なら、強制はしないぜ」
『それは貴様だ』
「ならいいじゃねぇか?楽しもうって言っただろ」
『ハハハハハ……死よりも辛い体験を望んでいるようだなぁ』
「ああ、かもな」
†
『ボウヤ、後悔しないうちにこれだけは言っておいてあげる』
「なにを、ですか?」
対峙しながら、FGと酷憐の両者は相手の動きを観察していた。
『命乞いなら早い方がいいって事だよ』
「どういう意味ですか?」
『………今なら、命だけで助けてやるってことさ』
「……言いたいことは、それだけですか?」
『どういうことだい?それと、その敬語がウザイんだよ……』
「ああ、それは失礼……なら、手っ取り早く行こう……死ぬのはお前だ。酷憐。言いたいことは、早めに言っといた方が無難だぜ」
『なら、試せばいいだけのことだーー!』
言うなり、FGの周囲の空間の温度が急激に上昇した。
「――ッ!!!」
爆破する!
FGがその言葉を口に出す前に、その周囲は爆音と煙幕に包まれた。
『所詮人間……頭に乗るんじゃないよ。今ので、木っ端微塵さ』
「…………だれが、木っ端微塵なんだ?酷憐」
煙幕の中から明らかにFGの――奏魏のモノと取れる声が聞こえる。
『!?!?』
思わず驚きを隠せない顔をして後退りをする酷憐。
「酷憐、冥土の見上げに、いや、死出の餞にって、言った方がいいか……ま、教えてやるよ。俺はな、幾つかの姿があるんだよ……当然、その姿によって何らかの力が秀でるわけだ。言いたいことは、判るな?」
『…………ッ』
煙幕の中から出てきた戦士の姿を見て、酷憐は改めて言葉を失った。
そこにいたのは、それまでの全身に数色をあしらった姿のライダーではなく、まるで鎧のような物を纏った戦士の姿だった。
その瞳は、怒りを表すように吊り上がり、全身は深い緑に覆われ、その背には甲羅のような物を背負っていた。
そして、右手に持った蛇の頭をあしらった鞭からは異様な威圧感を感じさせる。
『お、お前は何者だ……?』
「俺は、FGさ……ただ……少し姿を変えただけだ」
それは、静かにそう言うと、鞭を構え直した。
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