#9

警視庁
焦げ臭い臭いが漂う倉庫群。その一角は既に灰となり、そこから見える水平線にはまるで原爆でも撃ち放たれたかのようなキノコ雲が浮かんでいる。
そんな中、二人の戦士が絶望でも味わったかのように、呆然としていた。
その瞳は、それぞれ複眼のある仮面に覆われて解らないが、うち片方の覗かせている口の歪みから、悔しさが見て取れる。
その口を覗かせている方が、そっとその仮面を脱いだ。
その瞬間、全身を覆っていた強化スーツも消え去れ、スーツ姿の青年の姿となった。
それを見ながら、黄色に黒の複眼を持つ戦士も“変身”を解いた。
「風見……」
スーツの青年――結城丈二は、相変わらず歪んでいる口を開けて呟いた。
「クッ!」
それに伴い、もう一人の青年――杜若湧輝も歯の間だから息を押し出すようにして毒づく。

「……生きてるさ……」
しばらくの沈黙の後、杜若はそう言い、うっすらと笑みを浮かべた。
「生きてなきゃ、歴史がかわっちまう。風見さんもあんたも、自分たちの世界に戻れるし、少なくてもこの時代までは平和は誰かの手によって護られる。でなきゃ、最悪俺たちは存在しない」
「……空間時間軸による未来への影響、か……そうだな。俺が悩んでも仕方ないな。大事なのは、この世界の平和を護ることだな。風見が言い残したように……」
「ああ」
「なら、悪いが民間人は手を引いてもらおうか?」
杜若の同意に対して、そう声がした。
それと同時に、倉庫群の一つの影から、一組の男女が姿を現した。
「………!!」
「テメェ、見てたのか?」
結城が驚きの顔をし、杜若が睨み付けてそう言った。
「まぁな。ってか、ここ何ヶ月か続いてる不可解な事件の近くにいつもお前が居たからつけてたがけだ……まぁいい……取り敢えずお前等、何者だ?えぇ?――ッて、何すんだ幸香!」
男が話している途中で女の方が男を後ろからはたいた。
「………」
その様子を見た二人は当然唖然とする。
「すみませんね。ま、このバカのことはほっといてください。で、取り敢えず身の証を立てます。私たちは妖しい者じゃないですから」
そう言うと、女は、肩からかけたハンドバッグの中から、黒い手帳を取り出し、開いてその中の表紙ページを見せた。
「………警察?」
「ええ。私は高木。アレは、静戒です」
杜若の言葉に、応える。
「で、何のようだ?」
「簡潔に言いますと、何者ですか?あなた達」
「答える必要はないな。帰るぜ、結城さん」
「………結城丈二か………」
背を向ける杜若の言葉に、男――静戒は持ったタバコに火を付けながら言った。
「……知り合いか、結城さん?」
「いや……と、言うよりも俺がこの時代で知り合いが居るわけがないだろう」
「そりゃそうだな……あんた、何なんだ?」
「ああ、ちょっと前まで、FBIに行っててなぁ」
静戒はゆっくり近づきながら言葉を続けた。
「FBI?」
「ああ、ンで、半世紀ほど前の資料を見る機会があってな」
「何が言いたい……?」
結城の言葉に、静戒は口の端を上げ、笑みを浮かべた。
そして……。
「………SHOCKER…GELL SHOCKER…DESTRON………滝一也って当時の捜査官が残した捜査資料、それに、CIAに保管されていた機密資料に載ってたんだ。狂人的カルト組織、だろ?」
それに対する結城の顔が変わる。明らかに、それは驚きと言うよりも、戦意に満ちていた。
本人の意志とは関わらずに、結城の両手は上に上がろうとしている。
「結城さんッ!!」
杜若の制止が、結城を正気に戻した。
「ま、良く解んねぇけどよう、俺等は帰らせてもらうぜ。ついでに言うとだ、あんた等の力じゃ、俺等は縛れねぇよ」
結城はそう言うと、ポケットから、先に高木が取り出したような黒い手帳を取り出した。
同様に、その中身を開くと、それを世界に見せつける。
「………警視?!」
「解ったら消えな、完全縦社会の警察で上には逆らうなって、教えられなかったか?」
言いながら杜若はヘルメットに手をかけて、その様子を見ていた結城もバイクに向かった。

「待ちな!」
二人がそれぞれのバイクに跨ったとき、静戒の声がした。
それに振り向いた二人の目に入ったモノは、銃口を向け、トリガーに指をかけている静戒だった。
「下らねぇ縦社会の暗黙の了解なんざ、どうでもいい。大人しく来てもらおうか“仮面ライダー”」
「フッ……仮面ライダーだって解ってンなら、ンなんが効かねぇことも解ってると思うが?」
「それならそれでいい。が、動きを止めることはできるぞ」
「ほぉ」
杜若が嘲笑うように、挑発的の声を出すと、それを合図にしたかのように、静戒はトリガーを引き絞った。
銃口から発射された鉛弾は、二人の後ろ――杜若のバイクの退社を貫通させていた。
「足止めには、なっただろ?」
「ふはははは……あんた面白れぇなぁ……いいぜ、行ってやる。行ってやるけど、俺の相棒(バイク)の修理は頼むぜ」
「ああ、心配するな。それはやろう」
銃を収める静戒に、ゆっくりと近づきながら、笑みを浮かべる杜若。
「………」
その様子を、結城、高木の二人は双方から呆然と見ていた。



「よーし、完成だな」
誰も居ない家の研究室、奏魏は一人、バックルがやけに大きいベルトを作っていた。そして、それはようやく完成したようだ。
何日か前から結城と作っていたそれは、完成少し前に結城が作ったジュラルミンケースのような、専用ケースに収められた。
「さて、湧輝はまだ戦ってンのかな」
呟きながら手元の通信機のスイッチを入れた。

『……あんた面白れぇなぁ……いいぜ、行ってやる。行ってやるけど、俺の相棒の修理は頼むぜ』
『ああ、心配するな。それはやろう』
『ンじゃ、あんた等の車で行けばいいか?』
『そうだな。それと、結城丈二、お前にも来て貰うぞ。勿論車でだ。そのマシンは置いておけ。後で間違いなく回収し届けさせる』

「………湧輝」
『ン?なんだ双十、どうかしたのか?』
「どうかって、何処行くつもりだ?」
『警察。ま、心配するなって。何かあったら変身して逃げてくっからよう。ンじゃ、取り敢えず通信切るな』
「………ったく」
ため息混じりに言うと、携帯を取りだし、何処かへ電話をした。



「済みません、本当は杜若も連れてくるはずだったんですが、別件で先に来てしまってるようで……」
「いいえ、構いませんよ。その報告は私の耳にも入っていますから。それよりも奏魏君、君の言っていた協力者という者はどうしたの?」
「ええ、彼も杜若と一緒に……」
「そうですか。まぁ、それならそれで構いません」
「はぁ……」
杜若との通信を終えてから一時間後、奏魏もまた警視庁に来ていた。ただ、杜若とは別で、その目的地は……。
“警視庁科学部科学警察研究所”
「ところで所長――」
「いや、君はここの所属者ではない、名前でいいですよ」
「あ、そうですか……なら、維獅碕(いしざき)さん――」
奏魏が話している相手は、維獅碕浅御(あさみ)。科警研の所長である。
「――さっそくですが、これが変身ツール“FGコンバーター”です」
小ぶりなジュラルミンケースから取り出されたそれはかなり大きめな卵形のバックルの付いたベルトだった。
「これは、先に文書で送りましたように杜若の、M.R.FLASHの変身機能を元に、結城さんの強化スーツの圧縮解凍技術を合成したものです。つまり……」
幾つもの専門用語を交えながら、奏魏はそう、GFコンバーターの説明をした。



「ほぉ、コレが警視庁かぁ。初めて来たなぁ」
「そうかい。なかなかいい場所だろ。ま、住めば都ってのもあるけどな」
「アハハ……」
杜若と静戒は妙に気があったらしく、話しながら一課への廊下を歩いていた。
その後ろを、坦々と言葉を交わしながら結城と高木が続く。
「で、我々にいったい何のようだ?」
「来て頂ければ解ります」
「それは何度も聞いた。俺はこんなところであんた達と付き合っている暇はないんだ」
「………済みませんが、あなた達には聞いておかなければならないことが多々あります。その為に、しばらくの間、大人しくしていて下さい」
「………」

「着いたぜ。ここが俺等の仕事場だ」
一つの扉を開くと、そこには幾つもデスクが並べられたオフィスがあった。
「ま、普通の会社とそんなに差はないわな」
「そうだな。ま、いいや。あ、龍、この後さぁ、科警研に連れてってくれねぇか?」
「科警研?何しにだ?」
「いや、ちょっと連れが待ってるもんでよぉ」
「科警研でか?」
「そ。ま、この後でいいから」
「わかった。ンじゃ、早めに調書取らせてもらうぜ。まずはだ……」
衝立で間仕切られた空間にあるソファに腰掛けて、静戒は杜若と結城を見てそう切り出した。
二人が聞かれたことは、まず、あの異形の者は何なのか……。
「なぁ、悪いけど、先に科警研にちゃダメか?」
「何でだ?」
「いや、話すならさぁ、そっちに俺のダチが居るって行ったろ?それ交えての方がいいんだ。それに。その方が、話さなきゃ鳴らないことが減る」
「………………幸香、どうするよ?」
「いいんじゃないの。それに、警察内だから……では、行きますか」



「よ、双十」
一通り説明が終わったところで、そう脳天気な杜若の声がした。
「………杜若、君?それに、あなた達、どうして?」
維獅碕は、突然現れた二人を見て、言葉に詰まった。
「維獅碕さん、済みません……この人達が、ここに来た方が話が楽だというもので……」
「礼の不可解事件あっただろ?あの、関係者だ」
「……それは知っています……まぁ、話は私からしてもいいですが……」
維獅碕は困った顔をしながらも、二人にソファを勧めた。

「で、なんで湧輝がここにいるんだ?それに風見さんはどうした?」
「……なぁ、双十、それは後で話すからよう、先に龍達の用件を済ませないか?」
「………ま、いいけどな」
口調を暗くする杜若を不審に思いながらも、承諾する奏魏。

………
………
………

何十分かの時間が過ぎ、杜若と奏魏は維獅碕の言葉を交ぜながら静戒と高木に言える範囲の状況を説明した。
「………信じろっていうの?」
話が終わったとき、一番初めに口を開いたのは高木だった。
「信じて貰うしかない」
「そうですね。しかし、先に言ったように、今話したことは、警察のトップは知っています。こんな言い方は失礼でしょうけど、あなた達末端は、もうじき動くなと言う命令が出るはず。この件は、俺と杜若、それに結城さんと風見さんに任せてもらえませんか?」
「……ちょっと待った、風見志郎ってのは……確か仮面ライダーV3,だよなぁ……そいつはどうしたんだ?」
静戒の問に、杜若と湧輝の顔が曇った。
「風見は……死んだ……」
「えっ!?」
「悪い。双十、詳しいことは帰って話す。だから、今は何も聞くな」
「あ、ああ……」
「そう言うわけなんで、俺等は帰るわ。双十、お前の方の用件も済んだんだろ?」
「ああ、一応な。けど、まだ寄るとあるぞ」
「………何処だよ」
「警視総監トコ」
「………」
その名詞を聞いた、静戒と高木は絶句した。



「龍、何であんた等、ここにいんだよ」
「上の命令なんでな。それに、迷惑はかけねぇよ」
「まぁ、いいじゃないか、湧輝。警察の人がいると何かと楽だぞ」
「あのなぁ……結城さんも何か言ってくれよ!」
「俺は、この時代の人間じゃないからなぁ……何と言えないな」
「………」
警視庁から出た後、三人は車で、二人はバイクで、それぞれに杜若の家兼研究所に向かった。

警視庁のトップは、約五十年前に行われた、FBI捜査官滝一也と改造人間との活躍の再現を考えていた。
そして、帰国した静戒に、その滝のポジションを与えたのである。