#8

空間を越えた理由……
『湧輝、デビルだ!』
「了解……」
杜若の体内内蔵の無線機に通信が届いたのは、いつも通りのパトロールの最中だった。
奏魏の言葉と同時に送信されてきた電子地図の情報が、杜若の脳内コンピュータに反応し敵の出現位置を明確に表す。
「近いな……」
呟くと、ハンドルを急激に切り返し、すぐ側の路地を入っていった。



「奏魏君、杜若君は向かったのか?」
「ええ。でも、風見さんとは連絡取れなくて」
「風見か……ま、アイツなら大丈夫だろう。何かあればすぐにかぎつけるさ。それよりも、仕上げだ。後は、この“ソウル・コンバーター”の接続部をベルトに合わせれば完成だ」
「はい。じゃあ、後は俺一人でできますから、結城さんは、FLASHのアタッチメントを仕上げてもらえませんか?」
「……わかった。何か判らないことがあれば聞いてくれ」



「湧輝、何考えてるのよ!」
原付を飛ばしながら、坂口は改めて昨日のことを思い出していた。
「デビルって、何なのよ!それに、湧輝が戦ってるなんて……まだ十八歳の何処に出もいる高校生のはずなのに……私も、何か……キャッ!!」
「――っと、大丈夫?」
坂口は、信号が赤に変わったことに気付かずに、危うく右折してきたバイクに当たりそうになった。
幸いだったのは他に走っている車がいなかったことだ。
対向車線から走ってきたバイクの男は、坂口が倒れる寸前にバイクから飛び降り、彼女の身体を支えた。
「大丈夫?」
そして、もう一度同じ台詞を言う。
「………あ、は、はい……!!!あ、す、すみません!怪我とか無かったですか!?」
「いや、俺は。それよりも、君の方は大丈夫かい?」
それぞれの単車を歩道に移動させてから、男は再びそう言った。
「はい。あ、あの……」
坂口の視線が横転してしまった男のバイクに向いている。
「ん?あ、ああ、アレはいい。気にしなくて。それよりも怪我が無くてよかった」
「え、で、でも……」
当然ながらフレームは傷つき、ハンドルも曲がってしまっている。
型は相当古い物のようで、今ではまず目にすることはないだろう。その為に、仮に修理をするとすれば部品があるかどうかも解らない。
「あのくらいなら自分で直せる。それよりもいいのか?急いでいたようだけど」
「あ、湧輝!」
坂口は男に言われ、自分が向かっているところを思い出した。
「湧輝?杜若か?」
「え、湧輝を知ってるんですか?」
「ああ、まぁな。一仕事終えたら彼の家に向かおうと思っていたところだ。今から行っても良いんだが……一緒に行くか?」
「え?」
驚いた顔をする坂口。
「君のもエンジンが少し傷んでしまったようだ。下手をすると完全に壊れてしまうからあまり動かさない方がいい。俺で良ければ送ろうと思ってな」
「送るって……」
坂口は再び男のバイクに目を移す。
当然、それは傷を負い僅かだが壊れている。
「アレなら大丈夫だ……ハリケーン!!」
男が叫ぶと、それは自ら起きあがり、黒ベースのその車体は青と白をベース色とするまったく別の車体に変わっていった。
「では、行こうか?」
「………あ、はい……」
呆気に取られながらも、坂口は頭の整理のできないうちにそう返事をしていた。
「俺は風見志郎、君は?」
バイクに跨りながら言う。
「……私は、坂口、絢耶です」



「風見、何処に行っていたんだ!」
風見が杜若の家に帰るなり、結城はそう怒鳴った。
「何処って、いつも通りだが……何かあったのか?」
「デビルが現れた。今杜若君が戦っているはずだ。場所は自分で判るだろう。早く行ってやってくれ」
「わかった。が、少し待ってくれ」
そう言うと、後ろを振り返る風見。
「ン……?」
その仕草に風見の後ろ――玄関の外の駐車場――に目を移す奏魏。
そして……。
「坂口!お前、何で?」
そう叫んだ。

「奏魏君、湧輝は?」
「アイツは今居ないよ。それより、どうしたんだ?」
「うん……」
風見と結城を見ながら、言葉を詰まらせる。
「結城、取り敢えず俺は行ってくる」
「ああ、分かった。気をつけろよ」
「ああ……」
応えると、風見は再び玄関を出てハリケーンに跨った。



「………何処にいやがる……」
FLASHのOシグナルは、確かに敵の存在を察知してる。
が、その姿はおろか、僅かな息づかい、生き物の発する気配すら感じられない。
しかし――
バアアァァァーーーッン!!
爆発音は再び聞こえた。
そして、FLASHの目の前で、密集している倉庫群の一編が削り取られた。
これで三度目。

そこは、港の倉庫が密集している場所。
杜若が駆け付けたとき、既にそこの倉庫の三分の一は爆破されていた。
「何なんだ……いったい。ホントにDEVILかよ……?」
今までのDEVILの活動と言えば、基本的には仮面ライダーである杜若の抹殺だった。理由は簡単だろう。
仮面ライダーさえ倒してしまえば、人間界でDEVILに逆らい行動を妨げられる者は居なくなる。
が、今度に限っては、何故か倉庫群の爆破だ。
それがいったい何を意味しているのか、杜若には予想も付かなかった。

『ボウヤ、そんなにキョロキョロして、あたしを捜しているの?』
初めて聞こえたそれは、聞く限りでは二十代の女性の声だ。
「DEVILか?」
改めて問うFLASH。
『そうね。そうなるわね。でもねボウヤ、あたし、その名前あんまり好きじゃないのよ。あたしのこと呼ぶなら名前で呼んで。あ、自己紹介がまだだったわね。あたしは、酷憐(こくれん)。惡紋(あもん)様の従順なる部下』
「AMON?」
『ボウヤは一生会うことのないお方だから気にしなくていいのよ。なんせ、あたしが遊んであげるんだから』
ソレ――酷憐は相変わらず声だけでそう言ってくる。
「御託はいらねぇ。死にてぇんなら姿を現しやがれ!」
『フフ……ボウヤ、悔しいのね。あたしが恐いのね』
「恐いだ?寝言は寝ていいな。俺がお前等を恐れるわけねぇだろ」
『そんな大声出さなくても聞こえてるわ。でもね、ボウヤにはあなたの内面が見えるの。ボウヤはあたしを、いえ、デビルを恐れている。いつか自分が殺されるかも知れないって。違う?』
「聞こえなかったか?寝言は寝て言えって。俺はお前等をぶっ潰す為に生まれ変わったんだよ。今更泣き言言ってられるか!!」
『ウフフ……』



「奏魏君、湧輝は、いったいどうなっちゃったの?」
杜若の家に上がった後、坂口は開口一番そう言った。
「坂口……あ、悪いけど結城さん、テスト、頼んでいいですか?」
「ああ、分かった」
奏魏は顔を曇らせると、外してくれと言う意味でそう言い。湧輝もソレに応えた。
「坂口、湧輝から、何か聞いたのか?」
結城が出て行ったことを確認すると、奏魏は改めて坂口を見ていった。
「何って……一通りは、だいたい……だと思う……」
歯切れ悪くそう言うと、坂口は目を伏せ、視線を奏魏の顔から床に移した。
「……そうか……」
ため息混じりに言いながら奏魏はおもむろに立ち上がった。
「ったく、アイツは何考えてんだよ……普通の人間は殆ど知らねぇってのに……寄りによって坂口に……」
「どういうこと?」
「彼奴等は……デビルは、仮面ライダーを狙っているんだ。だから、その関係者も狙われる可能性がある。それなのに……」
「え?」
「ン?」
「カメンライダーって、何?」
「………坂口、お前、何聞いたんだ?」
「えっと、湧輝が、FBIとかCIAとかの日本版に特殊な仕事を頼まれてるって。で、狂人的なカルト組織が、悪い実験をしてるのを調査するって言うのが仕事だって。普通の警官とか後、何故か相手に顔が分かってるから、湧輝のお父さんが前に科警研と関わりがあったから、そのツテで自分に来たって……で、カメンライダーって、何?」
「………アイツは……」
間違っちゃいないが……。
奏魏はそう心の中で付け加えると、坂口を見た。
「ああ、悪い悪い。何でもないよ。そうなんだよ。だから湧輝のヤツ今日も居なくてさぁ。今日もそれで行っちゃたんだ」
「何でそんなに明るいの?」
もっともな質問だ。
今坂口が口にしたことも常識で言ったら異常を期している。
「あ……悪い。そうだよな……だから、俺も少し手伝いをな。あ、今居た人もそうなんだ。あの人は科警研の人で……」
奏魏はとっさに結城のことをそう紹介した。
「そ、なんだ……でも、何で湧輝なの?それに、奏魏君も……」
「そんなこと言われてもなぁ……」
「あ、今の人警察の人なんだよよねぇ。ねぇ、聞いてみようよ!」
そう言われたところで、実際は過去から来た人間である結城にそんなことを聞くことはできない。
かといって、真実を話したところで、普通の人では信じてくれることすらないだろう。
「いや、話は湧輝がつけてあるし、それに、これやめるとアイツも俺も生活費稼げないから」
「生活費って、奏魏君は自分の家帰ればいいじゃない。それに、湧輝なら、ウチで何とかしてくれるように私が頼むから」
「あ、ウチさぁ、今か俗世界旅行行っちゃて、後一年くらい帰ってこないらしいんだよ。それに、湧輝はあの性格だから、たぶん嫌がるんじゃないかなぁ。お前の世話になるのは」
「そりゃ、そうかも知れないけど……」
と、その時奏魏の手元に置いてあった無線機がコール音を鳴らした。
ピ・ピー・ピー・ピー・ピー・ピー――
「何?」
当然ソレに反応する坂口。
「あ、ああ、湧輝からの通信だ」
ったく、アイツは……状況分かってるのかよ……。
「悪い、ちょっとあまり聞かせたくないモンでさぁ」
「何で?」
「何でって……湧輝から聞いたんだろ?特別な仕事してるって。だからさぁ……」
「………そうだけど、私ももう知っちゃったんだよ」
奏魏の言葉になおも下がろうとしない。
「そりゃそうだけど…………………わかった――」
しばらく沈黙をし、決意したように奏魏は呼び出しを着信にした。



「――双十、結構ヤバイ状況だぜ……」
『ヤバイってなぁ。こっちも結構やばいんだよ』
「何かあったのか?あ、まさか絢耶が来たのか?」
『そうだよ……』
「そうかぁ……ま、ソレはいいや。それより、風見さんは?」
『あ、ああ、今さっき向かったんだが……着いてないのか?』
「そっか。ならいいや。じゃ、取り敢えず切るな。絢耶のことは頼むわ」
『お、オイ!湧輝ッ!!』

「さて……いい加減出てきてくれねぇかなぁ。あんま待つのは好きじゃねぇんだよ」
『そんなに怒らないで。心配しなくてもボウヤとは遊んであげるから』
「ウゼェんだよ……もういい……自分で探ってやると」
『え?』
「エレクトロ・アイ!」
声と同時にFLASHの漆黒の瞳の中に僅かな赤い光が湧いた。
目には見えないわずかな光や熱さえも感知する。
V3にも付いている能力だが、同じ蜻蛉という祖体の為か、はたまた、杜若博士の何らかの思考か、FLASHはその力を使った。
それにより、その瞳には、熱感知をした温度表示の色合いが写っている。
「なるほど、カメレオンみたいなヤツか…………トウッ!」
地面の中に人型のような形をして、赤く光る部分を見つけた。
それを見ながら熱表示の瞳のまま、FLASHは空中に飛び上がった。
「FLASH、キーーック!!」
「――スクランブルホッパー!!」
FLASHがキックを放った瞬間、声が聞こえ、円盤状の物体が空中に投げられた。
それと同時に、FLASHが全身のバランスを崩し、地面に叩き付けられる形で降下した。
「………ッ!……風見さん……何すんだよ……」
起きあがりながらFLASHは抗議の声を上げた。
「杜若……よく見ろ……」
V3の瞳もまた、普段よりも明るい緑色を帯びている。
エレクトロアイを使っている為だ。
「何だよ……」
「アレは罠だ……いいか……トウッ!」
V3は、上空に飛び上がりながら、その全身を薄い黄色で覆われていく。
「ブイスリーー、キーーック!!」
先ほど杜若が見つけた熱を感知した場所に、キックを叩き込んだ。
V3の足が触れるか振れない程度のところで、その場所は急激に熱量を上げた。
そして――
バアアァァァーーーッン!!
先ほど倉庫の幾つもが爆破されたと同様の爆破が起こった。
「ッ!!!」
思わず佇むFLASH。
「風見さん……!」
「大丈夫だ」
声は爆炎の中から聞こえる。
そして、炎が収まり、煙も徐々に消えていった後、白く靡くモノが見えた。
「分かったか?お前は今アレに力を打ち込もうとしていたんだ」
「………そう、だったのか。でも、何であんたは……?」
「V3バリアー……大抵の力ならば防げるんでな」
「バリアー……あの薄く光っていたときのことか」
「ああ……さてと……」
V3は、視線を倉庫群の一角に移し、数歩歩みを進めた。
それに反応したかのように、再び酷憐の声が響く。
『フフフ……赤と緑の仮面ライダー、あなたの方がこっちのボウヤよりも面白そうね』
「……ヤツは、ここには居ない」
「いないだって!?Oシグナルには確かに反応があるんだぞ……」
「それは、アイツだ……」
V3の指さす方向には、既に爆破された倉庫があった。
元々は木材のようなものを保管してあった場所らしく、辺りには既に炭となった木片が散っている。
「あの中に、熱反応があるのが分かるか?」
「熱って……燃えてるせいじゃねぇのかよ?」
いいながらその場所を改めて見る。
と、そこの一端に明らかに周りよりも温度が高くなっている場所があった。
「……何だ……アレは?」
「爆弾だ。マイクとスピーカー、それにカメラ付きのな。おそらくは核の一種だろう……」
『フフフ……やっぱりあなたの方が面白いわね。そう、あたしはコレを使って、あなた達の動きを見ていたわ』
「酷憐…………けど、何でただの機械にOシグナルが反応したんだ……」
「それは、奴等の戦闘員と同じ方法で作られているからだろう」
「傀儡……チッ!ふざけやがって……ぶっ壊してやる」
『ボウヤ、それはやめた方がいいわよ。あまり衝撃を加えるとこの爆弾が爆破してしまうわ。衝撃はかなりのものよ。さっきの地雷とは比較にならないわ。さてと、あたしはもう退散するわ……じゃあね、ボウヤ、それに、あなたも……』
そう声がすると、電源を切ったように、音声は止んだ。
「風見さん……どうすりゃいい?またさっきみたいに、あんたが壊せねぇのか?」
「壊せる壊せないではない。どちらにしてもここで壊してしまったら、もの凄い爆発にこの周辺一帯が瓦礫の山になるぞ」
周囲は海と倉庫。
しかし、一、二キロ行けば、そこにはビル群が存在する。
もしコレが本当に核ならば、そこまで被害が広がるのは火を見るよりも明らかだ。
「仕方ない……」
呟くと、V3はその爆弾にゆっくりと近づいていった。
「ハリケーン……」
普段の様な口調は出さずに、静かに愛車を呼ぶ。
それに反応し、V3と爆弾の間に停車するハリケーン。
「杜若……いや、仮面ライダーFLASH、ここはお前の世界だ。絶対に護れよ」
「え?」
爆弾の横まで行くと、ゆっくりとそれを拾い上げる。
と、同時に、そこに赤く数字が表示された。
「やはり、触れるとタイマーが入るか……」
そこに表示されている数字は[0“03‘00.]から、どんどん数値が減っている。
ゆっくりとハリケーンに乗ると、そのままエンジンをかける。
海までの距離は約百メートル。
それを助走に、ハリケーンは加速をし出した。
「風見さん――!!」
「待て、風見!!」
丁度駆け付けた、ライダーマンの声が風見を一瞬だけ止めた。
「結城、今度は俺が世界を守る番だ……」
それだけ呟くと、ハリケーンは海に飛び出した。
その声は静かに小さな声であったが、FLASHの、そしてライダーマンの耳にも届いていた。

バアアアアアァァァーーーッン!!!!!!!!

鼓膜を破るような爆発音と共に、水平線にキノコ雲が上がった。