#7

それぞれの思い
「コレは殺人か……?」
上下黒のスーツを着た男は自分のデスクにつきながら新聞を手にそう呟いた。
「そうらしいね……そのうち所轄からこっちに来るみたいよ」
男の呟きに、そう女性の声がした。
「おお、幸香(ゆか)。おはよ」
男は、振り向きながらその女性に声をかける。
「あのねぇ、帰ってきたばっかで知らないでしょうけど、私は警部補に昇進したの。同期でも私の方が上官なの」
「で?」
「でって……もういいわ。あんたの相手してると疲れるから……」
「そう?では、伺いますが、高木(たかぎ)幸香警部補殿、FBI出向の私は、特進を蹴ったわけでして、本来ならば、あなたと同じはずでは?」
「……でも、蹴ったんでしょ?」
「そりゃなぁ、だって現場出れなくなったらつまらねぇだろ?」
「私は早くあんたと別れたいよ。静戒 龍(せいかいりゅう)」
「そんな冷たくするなよ」

そこは、警視庁刑事部捜査一課強行犯係の一角である。
そして、当然話している二人もそこの所属の刑事である。
静戒が見ていたのは、昨日起きた人間が蒸発するという件の新聞記事であった。

「で、このヤマは、ホントにウチに回ってくるのか?」
「らしいわよ。ま、もっともそれが一課とは限らないけどね」
「でも、殺人なんだろ?」
静戒は、デスクの中から一枚の紙を取り出し折りだした。
「らしいって言うだけよ。何らかの薬品とかだったら生活安全部とか二課とかの管轄になるでしょ?それにもしかしたら公安が動くかも知れないじゃない?」
「そりゃな……っと、ホラ」
静戒が差し出したのは、先ほど取り出した紙で織り上げた鶴だった。
「何、コレ?」
「折り鶴」
「そうじゃなくて……」
高木がそれを受け取り改めて見た瞬間、それは急に火を噴き、一瞬にして灰も残さず消滅した。
「!?」
思わず驚いた顔をする高木。
「そんなに驚くことじゃねぇよ。油を染みこませた紙を使って、折りながらだんだんと摩擦を加えていったんだ。で、折り上がってから、マッチをする容量で何処かで擦ればいい。そうすりゃ、発火するだろ?で、そいつが燃えている最中にそっと扇ぐ。ちなみに熱くなかったのは、その紙自体が樟脳でできてるからだ。樟脳ってのは手の上で転がしてりゃ熱かねぇんだよ。理解したか?」
「………」
取り敢えず黙って頷く。
「つまり、殺人でもあり得なくはねぇってことだよ」
「――大村警部、あの人間の消失の件、ウチに来ました!所轄との合同捜査です!」
一人の捜査官が入り口から飛び込むなりそう言った。
「言ってるそばから来たらしいぜ」
嬉しそうに静戒は顎に手を当て薄い笑みを浮かべた。



「何か用か?絢耶(あやか)」
携帯の着信を確認すると、杜若は電話に出た。
電話をかけてきた主は、杜若の幼馴染み坂口絢耶(さかぐち)だ。
『何かって、いきなり学校やめて何やってんのよ!』
「何って、いいだろ、どうでも。お前には関係ねぇよ」
『幼なじみが心配してあげてんのに。そう言えば、奏魏君も学校やめたみたいなんだけど、どうしたか知ってる?』
「ああ、今一緒に住んでる」
『男二人で!?』
「どういう反応だよ?って、何考えてんだよ?」
『べっつに。でも、ホント湧輝って奏魏君と仲いいよね』
「だからどうでもいいだろ?用なきゃ切るぞ」
『あああああ、待って待って!』
「うるせぇなぁ……」
杜若は携帯のスピーカー通話用のボタンを押すと、その場に置いた。
「で、何だよ?」
『うん。何で学校やめたの?』
「応える義務はねぇよ」
応えられるわけねぇだろ……。
「悪い。ちょっとやることあるんだ。じゃ、またな」
杜若は心の中でそう付け加えると、電話を切った。
「ったく、ほっといてくれりゃいいんだよ……」
「杜若、少しいいか?」
部屋の外から、声が聞こえた。
風見だ。
「ああ、いいっスよ」
「入るぞ」
「で、何かあったんですか?」
「ああ、俺と結城なんだが……南極に行こうと思う。この世界のライダーを助けに」
「……正気ッスか?」
「ああ。少なくとも、そこに行けば何らかの道は開かれるだろう。ここで敵を倒していることも大切かも知れないが、状況を打破する為には、こちらから打って出る必要がある」
「それで、いつ行くんで?」
「もう二,三日厄介になる」
「……わかった」



『なるほど、コレが仮面ライダーの力か』
『なかなか面白い連中ね』
『面白がってもいられんのではないか?』
『そうだな。我等の邪魔になることだけは確かだ』
殆ど光の無いその空間にそう四つの声が聞こえた。
四人に取り囲まれた状態の水晶に似た球体には、FLASHとV3の姿が映っていた。
『それで、どうする?』
『何をだ?』
『仮面ライダー達をだ』
『どうもこうもない。消すだけだ』
『なら好きにやってくれ。俺は興味がない。人間共を食ってる方が面白いわ。食うと同時に伝わってくる幾つもの何種類もの感情が俺の身体にも流れ込んでくる。この快感は一度味わうとやめられんぞ』
舌なめずりをしながら、長身のその男は言った。
先日、ビル群の中に現れ何人もの人間を消し去った者だ。
『相変わらず悪趣味ね』
一人だけが女性の声だ。闇の中に輝く赤い長い髪が美しく見える。
『ならば、裂斬(さざん)は外れればいい』
『ああ、そうさせてもらう』
そう言うと、長身の男はその気配すらも消しその場から居なくなった。
『では、我々だけで狩るか?』
『いや、そこまでしなくていいだろう。無理に我等が手を下す必要もない。適当な奴等に狩らせよう』
『だが、それで何人かの者を失ったのは事実だぞ』
『アヤツ等は、己の力を過信しすぎた』
『そうね。大した力もないのに無駄に暴れ回って仮面ライダーに倒された。たったそれだけのこと。今度は一応情報もあるわ。それに、奴等よりも強い者を差し向ければいいだけのこと』
『……そうだな……ならば、我が配下を遣るか』



「――そう、それでいい。後はこのスイッチ内部の……」
「あ、そうですね。なら、コレを使えば……」
「ああ、そう言うことだ。コレで後は、接続部を作り上げれば完成だな」
「よ。双十、できたか?」
奏魏と結城が何かを作っている研究室の扉を開き、杜若が入ってきた。
「ああ、結城さんのおかげで、お前用のアタッチメントも完成しそうだ」
「そっか、悪いな……じゃ、俺はちょっと出かけてくるな」
「こんな時間にか?」
外は既に夕陽もその殆どを隠し、既に闇が迫っていた。
「ああ、ま、大したようじゃねぇから、何かあったら呼び出してくれ」
「オッケ」
杜若が出て行ったのを見ると、奏魏は再び視線を手元に落とした。
「結城さん、本当に南極に行くんですか?」
「そのつもりだ。だが、勿論その前に君の物は完成させていく」
「……すみません」
「気にするな。俺は力じゃ、杜若君にも風見にも叶わないからな。こっちでしか役には立たないんだ」
笑ながら自分のこめかみの辺りを指しそう言った。



「よ。俺だ。部活は、もうないだろ?今から会えないか?学校の前まで迎えに行くから」
『わかった』



「悪いな。いきなり。それにそっちから電話あったときは勝手にきっちまって」
「そう思うんなら、取り敢えずなんか奢って」
「何でそうなるんだよ。ま、いいけどな」
杜若は、肩にかけたショルダーバッグの中にある茶封筒を思いながらそう言った。ここ何日かで倒したDEVILの者達に賭けられた賞金を受け取りに言ってきたときの封筒がそのまま入っている。

DEVILを倒して、役所か警察に行けば幾らかの報奨金がもらえる。そして、それが杜若たちの収入源になっていた。
勿論名乗り出るだけではなく、実際に倒したときの映像などの証拠物が必要だ。そして、それは役所にしても警察にしても、特殊に設けられた機関にのみに申請が可能なのだ。
その為に、その賞金すら公に発表されているわけではない。杜若の父親である、朋春が元々科警研――科学警察研究所――の出身だった為に生前に言われたものを杜若も聞いていたのだ。
その為に、それらの特殊機関では、杜若が改造人間でありDEVILと戦っていることは暗黙の了解となっていた。
誰も口には出さない。勿論本人もだ。が、その映像には明らかに人ではない仮面ライダーが映っている。
が、それは誰しもが言わぬ存ぜぬで通しているのである。もしコレを認めたならば、人権団体などは勿論のこと、諸外国からも驚異となるだろう。何せ、人を明らかに越えた存在なのだから。
過去のライダー達は、もっと公に活動をしていた。それは、それほどまでに敵が人間の世界に介入してきた為である。
が、DEVILに限って言えば、今のところそれはない。つまり、ライダーは表だって必要ではないのである。

「で、何のようなの?」
「お前に、話しがある」



学校からそう遠くない喫茶店。そこに一組の男女の姿があった。
「………どこまで、ホントなの?」
杜若の話を聞いた坂口は、蒼白の面持ちでそう口を開いた。
「全部だ。で、この金も警察から貰ったものだ」
茶封筒を片手にそう言う杜若。
「でも……じゃあ、今朝の新聞に載ってたあの記事も……その、デビルって奴等の仕業なの?」
「そう言うことだ」
「で、私にそんな話して、どうするの?」
「だから……お前が聞いたんじゃねぇか、何で学校やめたのかって」
「そりゃそうだけど……でも、そんなこと思わなかったから……」
「ま、深く悩むなよ。俺はいつも通りだし、お前ももうじき受験だろ?忙しいだろうからよぅ、気にすんなって」
「気にするよ!」
その瞬間、周囲の人の視線が二人に向いた。
「大声出すなって……あ、気にしなくていいですから」
「……ゴメン。でも――」
「ま、いいから。じゃ、俺帰るな。勘定はコレで適当にはらっとけよ」
財布から札を一枚取り出しそこに置くと、杜若は立ち上がり、店を出ようとした。
「あ、待って。私も帰る」
「そか?じゃ、送るよ」



「湧輝、何処行ってたんだ?」
「ああ、ちょっとな」
杜若が帰ってきたのは、既に日も変わる頃だった。