#6

新たなる敵
『テレビをご覧の皆さん、分かるでしょうか?これが、先日の調査で発見された火星の巨大クレーターです』
そこは、富士山の旧気象観測所を改装して造られた宇宙観測所である。
その中の一室から、中継で緊急の放送が行われていた。
人工衛星を通しての画面を指しながら、リポーターがそう話している。
『僅か三ヶ月前までは、その影も、このようなクレーターが出来るであろう要因の隕石や流星群なども観測されていませんでした。しかし、つい三日前、NASAの発表を機に、全世界の人工衛星が改めてこのクレーターを確認しています。直径はおよそ地球の半分。深さは最深部では地球の全長の倍!いったい、何故このような物がッ?』
そう言い、リポーターはマイクを画面の端に向けた。
カメラが動き、その先にいる人物が映し出される。見た目五十過ぎと言った感じの、恰幅のいい男性だ。
テロップ表示から、その人物の素性が知れた。
『 ―― 日本宇宙観測開発局局長(にほんうちゅうかんそくかいはつきょくきょくちょう) 城南大学宇宙生物学科教授(じょうなんだいがくうちゅうせいぶつがくかきょうじゅ) 大畠(おおばたけ) 功一郎(こういちろう) ―― 』
肩書きから言って、日本における宇宙生物の権威のようである。
『教授、これはやはり何らかの生物によるいわば、人為的なことが原因なのでしょうか?』
『そうですねぇ、それまで一切の観測が行われていない以上、隕石などの衝突によるモノというのは考えにくいです』
『と、言うことは、やはり教授の仰っているように、これは三ヶ月前に南極で確認さえ多ブラックホール現象と関連があると?』
『少なくとも、私はそう考えています。宇宙から何らかの生命体が地球に介入し、およそ今の人類では考えつかないことを行っていると……』

そこまで見て、奏魏はテレビをきった。
「湧輝、宇宙からの介入だってよ」
「ま、間違っちゃいねぇんじゃねぇか?人には計り知れないってところで似たようなモンだからな」
「そりゃそうかも知れないけどよう……風見さん、どう思います?」
「どう?いいことだと思うが。むしろ、そう判断していてくれた方が、我々も動きやすい。デビルの連中や我々仮面ライダーのことが公になれば、奴等が凶行に出るかも知れないし、我々も動きにくくなる」
「そう言うことだ。奏魏君」
「そうか?そうは言うけどなぁ、あんた等ももう分かったはずだぜ、この世界はあんた等の居た世界の延長線上にある。そして、あんた等を含めた十一人のライダーは、奴等の本拠地、冥界にいる。これまでの悪の組織とライダーの戦いを知っている者は、そう少なくないはずだ。たかだか五十年ほどの歴史だぜ?あ、今何年か言ってなかったなぁ」
「そう言えば、今は西暦何年なんだ?」
「2021年です。そして、湧輝以外で、ライダーが現れたのは、1988年に現れたのが最後です」
「88年……と、言うことは、三十年は、平和が続いていたと言うことか?」
「………何とも言えねぇ、少なくとも、DEVILのような組織は居なかったはずだぜ。もっとも、その間も人間同士でなら色々バカやってたようだがな……どっちにしても、ライダーの歴史は大したことない。一般人は絶対知ってるぜ」
「……そうだな。杜若、君の言うことは分かる。だが、風見の言うことも分からなくはないだろう?民間人がいれば当然戦いはしにくくなる」
「そりゃ、まぁな……」
襲刀と沈玄を倒してから二日後、風見と結城の二人は、杜若の家で、この世界の状勢を調べていた。と、言っても、基本的には、杜若と奏魏に聞いた部分が多いが……。
その間に、デビルが、デストロンやショッカーのように、民間にあまり従事していないと言うことが分かった。
つまり、あくまでも目的は仮面ライダーであり、その為の手段に人的被害はそれほど使わない。
その理由は分からないが、そのおかげで人々はデビルとライダーの戦いは知らずにいる。
「が、それもいつまで続くかだな……」
杜若がそう呟いた。



翌朝、風見と杜若は二人でパトロールに出かけていった。
「――風見さん……行こうってのか?」
「そのつもりだ。だが、今はまだ機ではない」
「機ではない、ねぇ……じゃあ、その機ってのはいつなんだ?」
「それは、俺よりもお前達の方がよく解って居るんじゃないのか?」
「さぁな。だが、南極にどうやっていこうってんだ?」
「決まり切っていることを聞くな。俺は、ライダーだ……」
「確かに……」
杜若はニヤッと笑ながら、マシンを加速させた。
何処に出もある街並みの一角、行き交う車と人の中、二台のバイクが併走しながら走って行く。
丁度二台のマシンが過ぎ去ったとき、空間を割って何者かが現れた。
『………この街か………壊すのも面白そうだ………』
空間を割って現れたのは、見た目人間。
しかし、当然人間が空間を渡るなどと言うことが出来るわけがない。つまり ―― 人ならぬ者。
『ま、それだけじゃあなぁ……さて、どうやって遊ぶかな……』



「こんなものでいいんですか?」
「ああ、それと奏魏君、コレと、コレあるかなぁ?」
「あ、ちょっと待って下さい。確かここに……あ、コレですね」
奏魏と結城は杜若の家の地下にある研究室で、ライダーマンのカセットアームを直していた。
「ところで、奏魏君、一つ聞きたいんだが、FLASHには初めからカセットアームの設計はあったのか?」
「どういうことですか?」
「彼に貸したカセットアームの接続部に無理にはめ込んだ後があった。彼の言ったように規格が合っているならばそんなことは起きないはずだ。そうだろう?」
「………そうですね………厳密には、FLASHにはカセットアームのシステムはありません。あるのは、予備の腕をはめる為の取り外し機関だけです」
「予備の腕……」
思わず自分の機会の腕を握る結城。
「FLASHは、五体がバラバラになることが可能なんです。その為に、よほどの重傷でもそのパーツのみを交換することで再起可能です……もっとも、そのおかげで湧輝……あ、杜若はかなり自分の身体が嫌いなようですが……」
「五体をバラバラに……!?」
結城は、ライダーマンになる為に、特殊な義手を使った。しかし、それはヨロイ元帥に言われ、全身の予備機関になるよういわばロボットのようなモノを造っていた途中の物であった。まだ結城がデストロンにいた頃、結城はヨロイ元帥にもしもの時の身体の予備の製造を命令された。その試作品として造った物がライダーマンの義手である。
つまり、最終的には……。
「俺は、FLASHを造ろうとしていたのか……?」
結城は呟くように目を伏せそう言った。
「え?」
「……いや、何でもない。それよりも、FLASHの予備の腕の接続部があったら見せて欲しい。もしかしたら、彼用のカセットアームを造れるかも知れない」



『そうだなぁ……ハントでも楽しむか』
口元に浮かべられた不敵な笑みが、その人の形をした悪魔の心を強く表していた。
『獲物は幾らでもいるからなぁ……』
高層ビルに反射する太陽光に照らされ、その姿は一瞬消えて見えた。
と、それと同時に、何人かの人間には世の中が闇に見えた。
『――――!!』
悲鳴すら上げることなく、まるで霧のように何人かの ―― 外回りのサラリーマン、買い物帰りの主婦、散歩中の老人、遊びに行こうとしていた子ども達、………、……… ―― 人間が、闇に帰した。
『ハハ……ハハハハハハハッ』
両手を上に挙げながら、空を仰ぎそう高笑いを上げる人ならぬ者。
それと同時にまた人混みの中から数人の人間が消失した。
消え去った人の隣に、向かえに、前にいた人は当然驚嘆の表情を浮かべる。
そして、その瞬間、原因の分からないものに怯える人間の自己防衛機能が働き、人々はその場に佇み微動だにしようとしなかった。ただ動くのは、その見開いた両眼のみ。まるでそれだけが別の生き物のように忙しく眼球は上下左右に動き回る。
「さて、次の獲物は、どいつかなぁ……?」
それが両手を下げ、そう言ったとき、周りの人々の身体は次の防衛機能を作動させた。すなわち……逃。
「――わああぁぁぁぁーー!」
「――きゃあぁぁーー!!」
「――なんなんだよっ!」
「――助けてぇぇ!」
それぞれに叫び声を上げながらその者の周りに円を描くように ―― 蜘蛛の子を散らす様にとはまさにこんな様子だろう ―― 走り去ろうとした。
『そう怯えるなよ……すぐに俺の世界に送ってやるから……ま、それは次の機会にだがな』
そう言葉だけを残して、その人に似た人ならぬ者は空間に消えた。



「結城さん、これ、コレ見て下さい!」
しばらくカセットアームの改造をするという結城を置いて奏魏は地上に出ていた。
が、しばらくして、携帯テレビを片手にあわただしく地下に降りてきた。
「どうしたんだ?」
「コレ、これ……」
言いながら画面を結城に向ける。

『――繰り返しお伝えします。つい二十分ほど前に、人間が突然蒸発するかのように消えてしまうと言う事件が、真っ昼間の繁華街で起きました。ただいま原因は明中とのことですが………あ、たった今、新しい情報が入ってきました。人間が蒸発してしまったときの状態を写したテープが届きました……ブイ、出ますか?……』
リポーターがそう言いしばらく経つと、画面が切り替わり、手ぶれのある映像が流れ出した。
その様は、男が両手を挙げ何か言ってその手を下ろした瞬間、その周囲の人間が一瞬だけ黒い影のようになり消え去ってしまう。と、言うモノ。
そして、それを見た周囲の人々は叫びながら逃げていき……。
そこで映像は途切れ、元のスタジオに戻った。

「……奴等……ですよね?」
「他には考えられないからな」
「ええ……」



『湧輝――』
杜若が着信のあった携帯に出ると、そう声がした。
「どうした?双十」
『今、テレビ見れるか?』
「ああ、けど何でだ?」
『見れば理由は分かる。局は何処でもいい。たぶん何処でもやってるからな』
「ああ……よく解んねぇけど、見ればいいんだな」
「どうしたんだ?」
「いや、判んねぇ……ただ、双十が……ま、いいや」
杜若は、手にしていた形態を操作すると、画面にテレビの映像を映し出した。
と、そこには、先ほどまで奏魏と結城が見ていたものが繰り返し映し出されていた。
「………これは!」
息を呑んで言う風見。
「さっき、通ってきた、街並みだな……風見さん、どうやら俺等にはちょっと休む時間さえないようだな」
止めてあったバイクにまたがると、ヘルメットを被りながら、杜若はそう言った。
「ああ。だが、今まで奴等はそれほど人間を襲ってはいなかったのだろう?それが、何故……?」
「そんなこと知るかよ……どっちにしても、闘るだけだろ?」
「そうだな」
「しっかしなぁ、町中ってのがダリィよな……それに、敵も消えちまったみてぇだし……」
「探してみるか……」
「この前使った、ホッパーってのでか?なら、悪いけど無理だぜ……奴は、たぶん自分たちの世界に戻った。つまり、周囲を見渡すそいつじゃ無理ってことだ」
「……そうか……」
「ま、いったん戻ろうぜ。それから何か手を考えればいいじゃねぇかよ」
「ああ……」
二人はそう言い、頷くと風見もバイクに乗り、もと来た道とは違う道を家に向かって走り出した。



「ところで、杜若……今のが、携帯電話というヤツか」
「ああ。あ、そっか。あんた等、過去の人間なんだよなぁ」
「そう、らしい。情報は持っているが、まさか、僅か三十年強で出来るとはな。もっとも、ライダー同士でなら、そんな物は不要だがな……常に電子頭脳で言葉のやりとりは出来る」
「けど、それも、俺とあんたでなら、だろ?双十は勿論のこと、結城さんも改造されているのは腕のみ」
「いや、いつやったのかは分からないが、結城はヘルメットの中に特殊なチップを組み込み、脳を刺激するシステムを作ったと言っていた。つまり、俺の出す特殊な波長を結城は、いや、ライダーマンは関知することが出来ると言うことだ」
「ほぉ、そいつは初耳だな」
「そう言えば、お前は、結城のカセットアームが本当に使えたのか?」
「ああ、この前のか……」
微妙に速度を落とすと、グリップから右手を放し、それを見るようにしながら、言葉を続けた。
「あれは、無理矢理押し込んだ。俺の腕はよぉ、取り外しができんだよ。腕だけじゃねぇ、足も首も、胴も腹も……頭さえ平気なら、俺の身体は幾らでも予備があんだ。っと、自分じゃどうしようもねぇくれぇに悲しいけどな……」
「杜若……」
ヘルメットではっきりとは見えないその表情の中、振り向いた風見には、涙が浮かんでいるように思えた。
「ハハ、ま、そんなこと言っても、俺が自分で望んでやったことだからな。俺は、親父が残したこの全身義体って言う、親父曰わく、外科技術の最先端の身体を……役立ててよかったと思う……ま、どのみち、DEVILが動き回るような世界じゃ、この身体は絶賛されるかも知れねぇけどな」
渇いた笑いの聞こえそうなその台詞を後に、二人は家まで言葉を交わすことはなかった。



『さて、次の狩りは、いつにするかな……』