2009/02/10


今日の妄想。長文注意。






ホイップのダンナは一人がけのソファへ埋まるように座った。



「若者の相手は疲れるのう、ビリー」
「ダンナが無理をするからですよ」
俺も同じように腰掛ける。コーヒーの香りと共に、イワンが部屋へ入ってきた。
よく気が利く坊やだ。俺はその気遣いに感謝をして、コーヒーをすすった。
ブラック。ダンナには、ミルクたっぷりに砂糖が2杯。よく分かっている。

「演習でこんなに疲れたのは、レッドスターにいた頃以来じゃわい。あの時は
 しんどくてのう。とても演習だとは言えん程じゃった」
「そのお話、詳しく聞かせてください!」
……はじまった。
ダンナが呟いて、イワンが続きを聞きたがる。嘘だか本当だか分からない話が
延々と始まるパターンだ。やれやれ。
まあ、この休憩が長引くのならば大歓迎だ。
俺はソファに身体を倒した。

「あんまり良い話ではないぞい」
「俺も聞きたいっす、ダンナの昔話」
「むぅ、そうか。ビリーもそう言うのならば話してやろう。……あれは、そう、
 もう何年も前のことだ。レッドスターではな、新米ショーグンと候補生たちに
 戦場の緊張感を覚えさせるために、特別演習という制度があるんじゃが、
 ワシはアレに一度だけ参加したことがある。あれはしんどかった」

「ほう。珍しいですね。アレは軍の中でも参加の選定がランダムすぎて
 滅多に選ばれないらしいじゃないですか」
「いやあ、それがのう、タイミングが悪かった。後で大変な騒ぎになった
 二十四回目の特演でな。どうした、ビリー。急にこっちを見て」
「……いや、なんでもねぇです。続けてください」
「変なやつじゃのう」
俺は動揺を悟られまいと必死に抑えた。
「あの演習は、まるで地獄のようじゃったわい。酷い二ヵ月じゃった……」
そう、酷い二ヵ月だった。あの時のことはよく覚えている。
そうか、ダンナもあそこにいたのか。
俺の脳裏にあのときの荒野の風が吹いた。


特別演習は数年に一度、秘密裏に行なわれる。新人ショーグンと候補生たちに
戦場の緊迫感を経験させるのがその目的だ。そのため、余計な先入観をいれて
参加者の動きを鈍らせないように、詳細もごくごく少数のものにしか知らされない。
だから俺のように特別演習などただの噂話にしかすぎないデマだと思っている
奴らも少なくはなかった。

あの二十四回目を迎えるまでは。



同じ士官学校の候補生だったキャサリンやマックスは選ばれなかった。
俺だけが、補習合宿をするから必ず参加するように、とだけ言われ、指定の
バスに詰め込まれた。そのバスの中には俺と同じように集められた奴らが
いっぱいいて、皆事態を飲み込めなかったが、着いたホールの壇上で試験管が
語りだすのを見て、ようやくそれが特演だと気づいたのだ。
そうして、集められた俺たちは即席でチームを組まされ、演習場に放り込まれた。
そこは森も川もあったが、荒野という言葉がしっくりくる荒地だった。
俺たちのチームは森から少し離れた山の近くの基地があてられた。

特別演習では戦略が最も重視される。期限の二ヵ月より早く勝敗が決まれば、
帰路につくことを許されるからだ。そのために占領を狙う奴らがほとんどで、
正面衝突は避けられるだろうと、誰もが考えていた。

だが、この二十四回目の特別演習では、そうはならなかった。

まず歩兵隊を中心に出撃した、川の近くのチームの連中から大量の負傷者が出た。
それを見た別のチームが一週間後に戦車隊を中心にしてその近辺を攻めたが、何故
だか大量の戦車にコテンパンにされ、負傷者が増えた。仕方なくその地点を避けて
遠回りをしたところで俺たちは狙撃を受けた。訳のわからないところから砲撃され、
夜も昼もなく、一時も気を抜く暇のない日々が続いた。

チームを組んだボクスという名の男が俺に言った。
「ボクは特別演習のことを記録で調べたことがある。なんだかおかしい。
 こんなに大量の兵器があるわけがない。こんなもの記録にない」
「おかしいのは分かってる。まるで一方的だ。この攻め方には、戦略も何も
 感じねぇ……ただ破壊を楽しんでいやがるようだ。気にくわねぇ」
他の仲間も皆、俺の言葉に頷いた。
敵方になっているはずのチームから、無線が入った。
「大変だ、なにかがおかしい。敵味方区別なく攻撃を受けている」

そう、俺たちの予感は当たっていた。
後で分かったことだが、演習場に外部の人間が混じっていたのだ。

奴らは見境なく攻撃を行なっていて、弄ばれる不快感が荒野に満ちていた。
無線は続ける。
「救護班が来ないんだ。負傷者を手当てしたいが、薬が足りない。動けば
 攻撃がくる。頼む。どうにかしてもらえないだろうか」
「どうにかしろって言ったって……」
ボクスが頭を抱えた。俺は立ち上がりこう言った。
「奴らを叩くしかないな」
俺はこの時こう言い出したを、いまも後悔している。





つづく



・・・

難しい妄想になってますが頑張ります……。
ヘンなところがあったらすみません。そこはファンタジーということで!
……え? ダメですか、そうですか。



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2009/02/17


今日の妄想つづき。 長文注意。






演習場のほとんどは砂嵐の舞う荒野だった。川を挟んで大きな森があり、
狙われた連中はほとんど橋の近くで攻撃を受けていた。
おそらく、「奴ら」は森に潜んでいるのだろうと思われた。


血と火薬の匂いが漂った。負傷者がうめいている。いつまでたっても
救護班の来る気配がない。どうにかして、こいつらを試験官がいる街中まで
運ばなければならない。俺たちは「奴ら」の目を背け、橋を渡るために
どうすればいいのか話し合った。時間がない。



ホイップのダンナが遠い目をして呟いた。
「ワシは試験官をやっていたのじゃが、異変に気づくのが遅くてのう。負傷者が
 運ばれてくるまで救護班が攻撃を受けていたことが分からんかった。それに
 参加者のやることに手出しすることは禁止されておった」
俺にも、ダンナにも、あのときの荒野の不快感が蘇ってきている。
「部外者は街からずいぶん離れたところにいたんじゃ。ワシら試験管が、街では
 なくその場にいたとしたら、もっといろいろできたんじゃがのう」

そうか、ホイップのダンナは街にいたのか。
俺は身体を起こして、コーヒーをすすった。
「無線で連絡とか、こなかったんですか?」
イワンの言葉にダンナがうなずいた。
「演習は三ヶ所で行なわれておったんじゃが、砂嵐だか強い太陽光のせいだかで
 うまく通じなくてのう。まあ、特別といっても演習なんじゃから、危険なことは
 おきないと思っていたんじゃ」
――これは、演習なんかじゃない――
あの日、ボクスがテーブルを叩いて怒鳴った姿が浮かぶ。


「これは演習なんかじゃない!」
即席で作られたチームだけあって、俺たちの話し合いはなかなかまとまらなかった。
単にどこかの馬鹿が暴れているだけだろうと楽天的に構えるヤツがいた。また
どうせ特演は二ヵ月で終わるのだ、ここで時間切れを待てばいいじゃないかと
言い出すヤツもいた。
なるほど。こういうヤツがこの特演でショーグン候補から落とされるのだろう。
一向に進まない作戦会議に呆れて口をつぐんだ。そんな折にボクスが叫んだ。
「ボクは特演の資料を詳しく調べたことがある。この事態はどう考えてもおかしい。
 おそらく、予期せぬことが起きているんだ。もっとみんな緊張感を持つべきだ。
 負傷者を助けなければいけないんだ」
誰もそれに答えなかった。
反応など最初から期待していない、という風に、ボクスは淡々とこの周辺の地図を
広げて語りだした。
「奴らがこの森にいると仮定する。負傷者をこの森の近くの橋を渡って街の方に
 運ばなければならない。輸送車を使うのは確実だけれど、他の橋は街まで山を越え
 なければいけない道だから、他のルートは使えない。そうなれば、方法は限られて
 くる。……みんなでバラバラに動いて、奴らの注意を引かせる。分散させるんだ。
 その隙に負傷者を乗せた輸送車が、橋を渡る」
無茶だ。
と、誰もが心で呟いただろう。だが、反論する者はいなかった。
「誰かが囮になれ、というんだな」
「違う。奴らに反撃するんだ。結果的には囮になっているかもしれないけれど、
 ボクはそのまま奴らの頭を叩ければいいと思っている」
「その役目は誰が」
俺は即座に立ち上がり、手を上げた。
「俺が行こう」

ボクスが目を開いて俺を見た。
「いや、ダメだ。ビリー、ボクが行くつもりで」
「俺の能力の方がその作戦にあっている。そうだろう?」
沈黙が皆の賛同とみえた。
「さっさと終わらせて帰ろうぜ」
それは俺の本心だった。とにかく、この演習を終わらせたかった。荒野にいるのも
しんどかった。皆疲れた顔をしていた。


囮になるのが俺だと決まり、仲間たちに安堵感が漂った。負い目を感じていたのか
夜になってボクスは俺のテントをたずねてきた。
「本当は、ボク自身が一番ほっとしたんだと思う」
目線を下に向けながら俺たちは並んでコーヒーを飲んだ。
「でもビリーならできるっていう、期待があるのも確かなんだ」
「俺がしくじったら、さっさと逃げてくれ」
「そんなことはできない」
「これは演習じゃない。ここは戦場だ。第一に考えることは、負傷者を街に
 運ぶことだ。そのための犠牲だと思えば、なんでもない」
ボクスが顔を歪めて、俺を見つめる気配がした。俺は目線を合わせなかった。
「俺がやられたら、俺と同じ学校にいるマックスってやつに知らせてやってくれ」
「……わかった」
「それと、もう一人」
言いかけて口をつぐんだ。
「誰だい?」
「……いいや。もう一人、俺のことを尋ねるヤツがいたら、すまん、とだけ伝えて
 やってくれ」
コーヒーを飲み干した。苦味が口の中に広がる。


翌日、朝から俺たちは出撃の準備を整えた。俺に与えられたのはわずかな自走砲と
ロケット砲が数台と、一台の輸送車と少しの歩兵隊だけだった。それでも、
俺には十分過ぎるように感じた。
前日まで吹いていた砂嵐は少し弱くなっていた。俺たちの動きが悟られぬよう
作戦開始の折には風が強く吹くことを祈った。きれいな青空だった。

作戦の内容はこうだ。
まず歩兵中心の偵察部隊が森に近づき、奴らの注意を引く。その後に俺が間接砲部隊
で動いた奴らの背を襲う。ある程度の戦力が俺の方に向けられたら、戦車隊が森を
包囲する。負傷者を乗せた輸送車が橋を渡る。綿密に打ち合わせを行なった。
合図は無線で行なうことを決めた。合言葉は、アカノホシニスナアラシ。これは
ボクスが提案した。
なんだか本格的だな、演習とは違うという気がしてきた、と誰かが言って、皆が笑っ
た。即席のチームではあったが、まとまりつつあった。
俺はここでどうなろうと、気持ちよく逝ける気がした。

森に近づきすぎないよう注意をしながら移動した。幸い、奴らは俺の小さな部隊など
眼中にはないようだった。
奴らがいると思われる森を睨みながら、川を挟んで待機する。徐々に砂嵐が
強くなってきた。偵察部隊の動きを視認できなくなってきたため、俺はひたすら
ボクスから無線が入るのを待った。皆が動きはじめたら、例の合言葉がくる。

予定時刻が近づいて、俺は現状を確認できないかと、橋の様子を探るために双眼鏡
をのぞいた。
途端に砂嵐が弱まって、視界が少しよくなった。動く影が見えた。
「なんてこった」
くわえていたタバコが下に落ちた。
目の前で、森から這い出てきた「奴ら」が橋を渡っていく。
なんてこった。俺たちよりも先に奴らが動くとは。まるで考えていなかった。
なぜ奴らは動いたんだ?
まさか、俺たちが森に攻め入ることを察知して、先に攻めてきたのか?

結局、無線が入ることも、合言葉が使われることも最後までなかった。







つづく



・・・

あうあう。難しい。
次で終わらせられればいいな~と思ってますー。



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2009/02/25


今日の妄想つづきのつづき。






爆音が聞こえた。黒煙があがる。

いやに冷静な自分自身を心底嫌悪した。マックスが俺の立場にいたとしたら
仲間の危機に慌てる場面だ。真っ直ぐなその姿勢は見ていて気持ちがいい。
マックスと共に受けた演習の思い出が、やたらと懐かしくなる。

俺はまずタバコに火をつけた。息を吸い、煙を吐きながらどこを叩くべきか
考え始めた。状況を把握するのが先か。


「奴ら」は俺に背を向けている。貧弱なこの部隊の存在に気づいてはいるが、後で
どうにでもなると思っているのだろう。おまけに、ロケット砲の射程外だと
安心しているようだった。
これで奴らが俺の能力を知らないことが分かる。
だが、多少の部隊は森に残していくところを見ると、あとで俺の方も叩くつもりで
いるのだろう。数台のロケット砲がこちらを向き、数台の軽戦車が移動距離のギリ
ギリで待機をしている。やれやれだ。
無線はもうあてにならなそうだった。また大きな爆発音がする。激しい戦闘で
仲間たちは連絡を入れる暇もないだろう。
さて、どうするべきか。
もう一度タバコを深く吸って、考えた。



あのときの俺は、おそらく冷静を欠いていたんだろう。
俺の隊は自走砲やロケット砲ばかりだった。近づかれたらどうしようもない。
仲間を捨てて逃げようと咄嗟に思った自分に腹が立っていた。落ち着け、と
言い聞かすばかりで少しも動こうとしなかった。
そして、即席で組まされたあいつらの力量を信頼していなかった。
だがボクスは違った。
ボクスは俺のことを気にかけて、目の前の戦車隊を無理に抜け、俺の隊と合流
しようとしていた。
最初に双眼鏡でその様を見たとき、思わずにやけたことを覚えている。

ガラにもなく叫んだ。
「旋回しろ! 目の前の敵を叩く!」
これで一応は敵をはさみ討ちしたことになる。ロケット砲の範囲外だと
油断している奴らに攻撃を開始し、俺は突っ込んでくる仲間をフォローした。
それと同時に、双眼鏡で敵の親玉らしき姿を探した。
頭を叩けばどうにかなるかもしれねぇ。

先に見つかったのは戦車に乗ってこちらへ向かってくるボクスの姿だった。
輸送車も後ろに続いている。うまくすれば、無事に橋を渡れるかもしれない。
俺に構わず、そのまま橋へ向かってくれるといい。
そう伝えようとした瞬間、ボクスの隊が爆撃を受けてひっくり返った。
森からの攻撃だった。
「くそ!」
怒りに震えた俺は、指示を出しているらしい人影が森の近くをうろついているのに
気が付いた。あいつが親玉か。こんなことしやがって。
すぐにその方向へ攻撃を開始した。粉塵があたりを包んだ。
俺はその砂煙と爆風で身を隠し、単身で森へ近づき、橋脚のあたりで親玉を睨んだ。

あいつが原因だ。俺の脳裏を怒りだけが支配していた。

ヤツは俺の存在には気づいていない。
ロケット砲が森のあたりに砲撃をした。衝撃で石橋に叩きつけられた。
ヤツも同様だった。そして、ヤツが次の衝撃に備えて身を伏せたのを見計らって
俺はコートの懐からリボルバーを出し、近づいた。
ハッした顔でヤツが俺を見た。
「お前は何者だ? この国の人間じゃねぇな。両手を挙げてゆっくり立ちな」
返答はない。
「なぜこんなことを」
言いかけたとき、次の砲撃がきた。近場での爆発で、煙が舞った。俺がうろたえる
と、ヤツは急に走り出した。

殺さなければ!
俺はためらいなく引き金を引いた。

ヒトに向けて銃を撃つのは、それが二回目だった。







つづく



・・・


次こそいよいよ……最終回……かな?


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2009/03/10




今日の妄想つづきのつづきのつづき。






走っていた男の身体が弓なりにうねった。

殺した。まさか、殺してしまったのか?
俺は懐かしい硝煙の匂いが漂う自分のリボルバーを下ろした。
もう殺意をもってこいつを振り回すことはしない、と誓ったはずだった。いや、
殺していない。咄嗟に、俺は脚を狙った。そのはずだ。

銃をしまいながら男に駆け寄った。まだ男に息があることに気づくと、俺は
とりあえずホッとして、黙ってその男を見下ろした。
男は二ヵ所から血を流していた。足と、耳から。
「耳にも銃創……?」
気づいた瞬間、背筋が凍るような殺気を感じて辺りを見回した。森の木の影に、
銃を持った人影が見える。そう、敵は一人ではなかった。
こいつは指示を出していただけで、親玉が他にいるのだ。
親玉はすぐそこにいる。そこの、木の影に。まるでこいつはもう用無しだと意思を
示すように、冷静に引き金を引くような奴が。
俺は死を覚悟した。
息を呑んだ。


「ビリー!」
ボクスの声が緊張を解いた。横を見るとこちらに駆け寄ってきている。次に森の
木の影へ目を向けたときには、人影も殺気も消えていた。
逃げられたか。いや、助かった、というべきなのか。
ボクスは左腕を負傷しているようだった。そこを庇いながら、俺の身体が無事な
ことを喜んでいた。

俺の足元にいる男を見てボクスは叫んだ。
「うわ、どうしたんだ、こいつ!」
「おそらく、こいつが仕掛け人だ」
俺が声をかけたのと同時に、ボクスは懐の鞄から包帯を取り出して、虫の息である
その男の手当てをはじめた。
「よし、まだ生きてる! ビリー、手伝ってくれ!」
ボクスの左腕はだらん、と下りたままだった。片腕でやりづらそうに止血をはじめて
いる。俺は動かなかった。

助ける? こいつを?

「……なぜだ?」
「聞こえたのか、ビリー! そっち持ってくれないか!」
「気がのらねぇ」
「え?」
俺はボクスから目をそらした。答えがくるまでに間が空いた。ボクスは、俺に失望
したわけでも軽蔑したわけでもなく、ただ落ち着いた口調で言った。
「うん、そうだな。……じゃあ、輸送車を、呼んできてくれないか。戦いはだいぶ
 落ち着いた。街から、支援が来たんだ。だから安心してくれ」
「わかった」
背中で聞きながら、俺はすでに歩き出していた。自らを軽蔑しながら。
怒りはまだ消えていなかった。割り切ることができなかった。
報復をせずにはいられなかった。


そう。このときに、思い知ったのだ。
俺はこの国に、レッドスターにはいられない、と。
今までさんざん苦しめられたのに、倒れたソイツをいたわるボクスの姿が俺には
眩し過ぎた。おそらく、マックスがその場にいたとすれば、同じことをしただろう。
そして俺は、やはりその場に立ち尽くしただろう。
俺はここにいるべきではないのだ。合わない。
この国を出よう。
そう決めたのは、いつだったか。その後のことだったか。

「なぜあんなことを、奴を助けようなんて、思ったんだ?」
後になってボクスに聞いた。たしか、場所は病院だった。
「分からない。ただ、ケガしている人を見て、助けなきゃ、と思ったんだ」
ボクスに会ったのはそれが最後になった。片腕を失ったボクスは、軍とは全く
関わりのない世界へ歩き出した。
俺にはその姿すら眩しく感じたことを覚えている。


あんな酷い目にあったというのに、俺はまだ戦場にいる。

「まあ、そんなわけでの、負傷者はたくさん出たが、ワシたちは森を制圧し、なん
 とかこの危機を乗り切ったわけじゃな」
「すごいですね!」
イワンの声が一段と大きく響いた。ホイップのダンナは満足そうな顔をしている。
「こうした経験をブルームーンに伝えるために、故郷へ帰る決意をそのときに
 したんじゃよ。……む、もうこんな時間か」
時計のアラームが鳴った。
「さてと。続きじゃ、いくぞビリー! いつまで休んでおる!」
「へいへい」
「頑張ってくださいね!」
イワン坊やの頭を軽くなでてから、俺はホイップのダンナを追った。
いつからだろう。この国を居心地よく思い始めたのは。
この国はレッドスターのように、まっすぐな奴らばかりではない。だが、この国も
またレッドスターのように、信念をもっている。
皆、なにかしらの古傷を抱えながら生きている。
俺にはこの国が合っているのかもしれない。

だが、レッドスターにいた頃もそうだった。
マックスやキャサリンと過ごしながら、俺はここでならばうまくやっていける、と
深く思ったのだ。
だから、未来はどうなるか分からない。
けれど今はこの国が心地いい。
今の俺は、それに報いるために、やるだけだ。

つまらねぇことを思い出しちまった。
俺は帽子を深くかぶり直した。





おしまい


いやあ、ようやく終わりました。
ガラにも無い妄想をしてしまって申し訳ないです。
いろんな穴があるとは思いますが、勘弁してやってくださいw

ビリーの真面目な妄想は一度やってみたいなあ、と思っていたので
こんなカタチでできてよかったです。
お付き合いありがとうございました。

※サイトに載せる際に、少々の加筆修正をしました。
ビリーという、一癖あるキャラクターを掘り下げるのはとても楽しいです。


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