2006/10/26


これは、あるショーグン候補生の記録である。

彼の名前はロディック。
少年とも青年とも言い切れぬ年齢で、身長はおよそ175センチ、髪は茶色で少し
カールがかかっている。目の色も茶色だ。だいたいは緑色のグリーンアース製のような
軍服を着ており、それにレッドスター製のブーツ、という服装で行動をしていた。
彼の出身はレッドスター国という記載になっていたが、本当のところはどうなのか
よくわからない。ただ、彼が最初にショーグン候補生として所属した国がレッドスター
であったというのはまぎれもない事実である。

彼は日記を書いていた。それは、彼がレッドスター国に候補生として入隊したところ
からはじまっている。彼の日記には現在も各地で活躍するショーグンたちの名が
ところどころに登場する。
以降は、彼の日記を原文のままで抜粋したものである。




○◎月○■日

ついにこの日が来た。
レッドスター司令が直々に、ボクたち候補生を指導してくれる日。
ああ、ボクはあなたを雑誌で見たときから虜になったのだ。
そのブロンドの髪、青い瞳、スレンダーなボディ。どれをとっても完璧だ。ボクの思い
描いていた理想の女性。
もうこれは運命だとしか言いようが無い。ボクはあなたのために生まれてきたのだと
思っている。だから、きっとあなたもボクと出会えることを運命だと感じてくれる
だろう。この瞬間を何度夢見てきたことか。なんて素晴らしいことなんだろう。
明日が待ち遠しい。



○◎月○×日

なんたることだ!
今日、ついにボクはレイチェル司令に会えるのだと思って信じていたのに!
現れたのはレイチェル司令の姉、キャサリン司令だったのだ!
顔はまぁまぁだとしても、こんな年増女はボクの好みじゃない。なんたる屈辱!
資料室で過去の戦績を調べた。たいしたことない、人の手助けばかりの記録。
キャサリン司令はコネでも使っているのだろうか?
それでもレイチェル司令の姉なのだろうか?
許すことは出来ない。
明日はどんな手を使ってでも追い出してやる。



○◎月△☆日

ひどい目にあった。新型戦車が歩兵に破壊されるなんて、どういうことだ?
しかも向こうの歩兵は無傷に近い。鋼鉄の鎧でも着ているとしか思えない。いや、
きっと報告に無いだけで、キャサリン司令はそういった小細工をしているのだろう。
それならボクが負けても仕方の無いことだ。
なんて卑怯な女なんだ。
レイチェル司令ならこんなことにはならないだろう。
ああ、早くあなたに会いたい。



○△月●日

今日、天使に会った。
天使はボクに「大丈夫?」と優しい声をかけてくれた。
赤毛の美しい少女。
ボクはずっと、赤毛の女はろくでもない女だと思っていた。改めなければならない。
だって天使は赤毛の髪なのだから。
君がくれたこのハンカチは宝物にしよう。



○△月○◎日

天使の名前を知った。
ドミノ。なんて美しい響きなんだ。
また君の顔が見たい。君もきっとそう思っていることだろう。ボクにはわかる。
明日、模擬戦の申請書を作成しよう。君に会うために。
ボクには君を傷つけることなんてできないが、これも仕方の無いことだ。
慈愛に満ちた君ならきっとわかってくれるだろう。
今度はボクが、倒れた君に手を差し伸べてあげるんだ。



○△月○□日

ドミノに言い寄る男がいた。他国の人間だ。ストーカーだろうか?
眼つきが異常だ。怪しい。
ボクが守らなければならない。



○△月○●日

男の正体がわかった。
グリーンアース国のイーグルとかいうやつだ。
以前、ボクがグリーンアース国にいたとき、こいつと会ったことを思い出した。
あの頃ボクは軍で父の手伝いをしていた。
そこにはハンナショーグンという美しい女性がいた。
ボクは彼女に憧れていた。そのときのボクには彼女がすべてだった。
一度だけ、彼女に話しかけられるチャンスがきた。
それをこいつが邪魔をしたせいで逃してしまったんだ。ボクは失望に包まれた。
苦い思い出だ。
イーグルショーグン、最低な男。
こいつ、ドミノにまでその毒牙にかけるというのか。最低だ。最低だ。最低だ。
あの男から、何としてでもドミノを守らなければならない。



○△月△☆日

イーグルと模擬戦をした。挑発したらまんまと引っかかってきた。馬鹿なヤツだ。
だがヤツは負けたくない一心で、とても卑怯な手を使ってきた。
あの素早さは一体なんなんだ?どんなトリックなんだ?
まるで1度に2回行動しているようだ。
くそ、どこまでも最低なヤツ。
(※以降、読むに耐えない暴言が続くので、ここでは省略する。)



○月○▲日

ボクは騙されていた!ひどく欺かれていた!
やはり赤毛女にろくなやつはいない。とんだ暴力女だ。
模擬戦なうえに歩兵のみというハンデまでつけてやったというのに。
なんだって歩兵があんな動きをするんだ?
しかも戦いが終わったあと、あの女は酷くボクを罵った。
イーグルにボクが何をしたって言うんだ。被害者はボクなんだ。
けれど、あの女はそれを認めようとしなかった。くそ!

そんな中、ボクは素晴らしい発見をした。
町の図書館でよく見かけた黒髪の少女が、あの暴力女と一緒にいるのを見たのだ。
ボクが本を落としたときに拾ってくれた優しい少女。彼女はボクを好いてくれている
のだとわかっている。眼差しを眼鏡で照れ隠ししているようだが、間違いない。
きっと赤毛女はボクの悪口を彼女に吹き込んでいるんだ。
なんたることだ。彼女の誤解を解かなければ。



○月○■日

今日も図書館に行くと彼女が本を読んでいた。
窓際の広いテーブルだ。ボクは彼女の向かいに座って本を読んだ。
とても静かで有意義な時間だった。
彼女はボクに顔を上げることは無かったけど、彼女の気持ちは察している。
この幸せな時間を守りたい。



○月○★日

アスカのことをいろいろ調べた。
アスカ……素晴らしい響きだ。
イエローコメットの姫、しかも飛び級してレッドスターに留学するほどの才媛。
まだまだ幼いけれど、あと3年もすればボク好みに育つかもしれない。
なんとしてでも彼女の誤解を解く必要があるだろう。



○月△△日

はじめてアスカに話しかけた。
「ボクが手伝ってあげようか?」と。
図書館で、勉強を見てあげようと思って親切に声をかけたのに。
「あなた誰? 邪魔しないでくれる」とアスカは言い放った。
ボクから話しかけてあげたというのに。
まったく、これだからインテリ女は嫌いなんだ。
世間知らずなのか礼儀がなっちゃいない。

ああ、ボクにはやはりあなたしかいないんだ。
レイチェル司令。
どうすればあなたに会えるのか。



△月×日

ブルームーン国から来たサーシャショーグンが、ボクたち候補生に挨拶をしてくれた。
長いその美しい髪が揺れるたび、ボクは頭がくらくらした。
聞きしに勝る気高さだ。薔薇のような魅力。
これは運命のいたずらなのか?
レイチェル司令、ボクはあなたのために生きている。
けれど、ああ。サーシャショーグン。
ボクは今日からあなたのものだ。
あなたのその手に触れたい。



△月★日

サーシャショーグンは、しばらくここに留まるのだという噂を聞いた。
もしそれが本当だとしたらこんなに嬉しいニュースは無い。
今日もあなたに会うことができなかった。はじめて会ってからもう2日。
ボクはもう、あなたの姿無しには生きられない。
けれど、このニュースのおかげで耐えることができる。
まだまだ機会はたくさんあるはずだ。



△月○□日

凄い情報が飛び込んできた!
今夜、ボクは興奮して眠れそうに無い。
なんとあのレイチェル司令が候補生の査察に来るという。
その日がいつなのかはわからない。けれど近いうちに必ずだそうだ。
ああ神様!これはボクに与えられた試練なのでしょうか!
レイチェル司令とサーシャショーグンが同じ場所にいるなんて!
ボクにはどちらも選べない。
神様、こんな未熟なボクを許してください。アーメン。



△月○×日

久しぶりにサーシャショーグンの姿を見ることができた。
廊下を歩くあなたのなんと美しいことか。
しかも、あなたはチラリとボクを見てくれた。
その視線がどれだけボクの心を満たしてくれるか知っていますか?
サーシャショーグン、もしやあなたはボクのためにここへ留まってくれたのですか?
ボクにはわかっています。



△月△◎日

これは夢ではないのか?
ボクが今日、体験したことは現実だったのか?
窓から少しだけ見えたその姿は、本物だったのか?
レイチェル司令は明日、候補生へ挨拶をしてくれるのだという。
ついにあなたに会える日がくるんだ。
ボクの運命の人。



△月△○日

レイチェル司令が模擬戦の相手をしてくれることになった!
この喜びをどう記せばいいのかわからない。
ボクにはわかっている。
あなたがボクと親しくなるキッカケを探しているということを。
その日はきっと記念日になるだろう。二人のはじまりの日だ。
レイチェル司令のそばで、サーシャショーグンがボクをずっと見つめていた。
ああ、サーシャショーグンの気持ちを踏みにじることなんてできない。
ボクはなんて罪深い男なんだろう。



□月☆日

神様!ボクは何か悪いことでもしたのでしょうか!
なぜこんな目にボクがあわなければならないのでしょうか!
レイチェルは酷い女です!
ミサイルを3発も、しかもあちこちに放つなんて!
(※この後、暴言が続く。)
姉妹そろってとんでもない(※卑猥な表現なので削除した。)

なぜボクが始末書を書かなければならないのです?反省文まで!
すべてドミノが悪いんだ!ボクのことを悪く言いやがって!
いつボクがストーカーをしたんだ?
クソ!
サーシャだってボクを卑しい目で見やがった!
少し手を握ろうとしただけだってのに!クソ!クソ!クソ!

もうここにいる女なんて信じることができない。
ボクは絶望の淵に立っている。



□月△×日

この日、ボクは資料室で素晴らしい写真を見つけた。
今までのクソ女たちはこの人と会うための踏み台だったと思える。
この人を知ってしまった以上、もうボクはここにいられない。
彼女の華やかさに比べれば、どいつもこいつもたいしたことはない。
少し年増にも感じるが、それを補える艶やかさが彼女に備わっている。

みなさんさようなら。
ボクは、この運命の人に会いにいくことを決めました。
キャンドル様、ボクは今からあなたに会いに行きます。

さよなら。





……以上で彼の日記は終わっている。
この後、彼は「無実の証明として、この日記を残しておきます」という書置きを残して
蒸発したわけであるが、隊内には彼からのストーカー被害、セクシュアルハラスメント
ととられる暴言の被害を受けたとの報告をする女性隊員が絶えない。
彼がブラックホール軍のスパイであった可能性も捨て切れないが、寮の同室であった
候補生からの報告では、そういった事実を確かめることはできなかった。

レッドスター国では彼の行方を全力で捜索中だが、依然としてわかっていない。


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