■世界樹の迷宮2 プレイ妄想日記


★世界樹の迷宮プレイ妄想 読む前に
ネタバレは極力控えていますが、あくまでもプレイ日記なので
ゲーム内容に触れる部分も多々有ります。それについての説明も
一切ないので、ゲームをプレイしてから読むことをオススメします。



★登場人物紹介(プレイ時に選択したクラス。名前や設定は妄想です)

ギルド名『ラヴィアース』


・ギルド登録メンバー
左から「クラス:名前/妄想設定」となっています。

ソードマン:ウェンド/夢を追う新米冒険者。

ガンナー:レニーナ/比較的無口で影のある女の子。

メディック:タナフィ/ウェンドと同じ孤児院で育った幼なじみ。

レンジャー:フェナ/森の番人。ウェンドたちとは幼なじみ。

パラディン:アークス/騎士。

ペット:モートン/ウェンドが助けて懐いた。が、もっぱらレニーナの傍にいる。

ペット:ロイ/フェナが助けて懐いた。


他、妄想日記には登場しないけど、する予定だったキャラたち。↓
アルケミスト:レニィ、ダークハンター:アヴリル、レンジャー:ゴア、
ドクトルマグス:イヴェット、バード:ドリー、ブシドー:ラウカ、
カースメーカー:ラナマクタ



以上。
ほとんどの名前は新しく考えましたが、一部はそれっぽい名前を
文献から探してつけてみました。


以下、妄想プレイ日記のはじまりはじまり。


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ソードマン「ウェンド」の視点


とにかく、俺は手続きをするために、冒険者ギルドに向かった。
女は俺の後ろからついてくる。にこりともしない。話もかけてこない。
手にある銃を握り締めて俺の姿をじろじろと見る。
ちぇ、妙な女に関わっちまったなぁ。

冒険者ギルドの受付に登録の旨を言うと、ギルド名を聞いてきた。
さて、困った。俺はそんなことをちっとも考えていなかった。
第一パーティもこの女しかいない。
返答に詰まっていると、女が俺に隠れながら呟いた。
「ラヴィアースよ」
「あ、ああ。そっか。ラヴィアースで頼むよ」
「ギルド名ラヴィアースな……」
作業をしながら、受付の男はちらちらと女を見てくる。俺は聞いた。
「あのう、なにか?」
「ああ、失礼。いやそこのお嬢さんに見覚えがあったような気がして」
俺の後ろに隠れていた女がビクッと反応した。
なるほど。それで俺に一切の手続きを任せたわけだ。

受付の男は続けた。
「確かあなたは……」
「違います!」
「いや、しかし、確か行方不明のお嬢さんで……」
「あ!」
俺がとっさにあげた大声で会話が途切れた。あまりに大きな声だったせいか
周りまで静まった。まずい。皆の目が女に向かないようにする約束なのに。
どうにかしないと。俺は慌てた。
「あ、いや、そ、そのう」
女が困った表情をしている。受付の男は不思議そうな顔で俺を見ている。
「どうした?」


「こ、この人は俺の妻だ!」
うわ。何を言っているんだ俺は。
「だ、だから、たぶん、人違いだろう。な?」
女に同意を求めながらも、我ながら苦しい言い訳だと思った。
これは殴られても仕方が無い。
だが女は少しも動揺せず答えた。
「ええ、あなたの言うとおりだわ」

「……はぁ、それは失礼。夫婦で迷宮に挑むとは。難儀なことだな」
手続きは終わった。
こうして、俺たちの冒険がはじまってしまったんだ。


「すまん。レニーナ。とっさにあんな言い訳しかできなくて」
「あんな目立つところで私たちは夫婦だと言ってしまったのだから、
 当分は夫婦のフリをしましょう。ね、あなた」
「怒ってるのか?」
「怒ってなんかいないわ。誤魔化すことはできたのだし」

「でも、俺たちさっき出会ったばっかりだぞ」
「いいじゃない。私は身を隠して迷宮で冒険できれば、それでいいの」
「でもなぁ」
「いつまでもグチグチ言わないで。さあ、仲間を探しましょう。ウェンド。
 空飛ぶ城への新婚旅行へ出かけるために」
「妙な冗談は言うなよ」


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ガンナー「レニーナ」の視点


私がこの男に声をかけたのに理由はなかった。
ただ、街の中で困っていたところを助けてもらった。
それだけ。
なんとなく、彼なら私の代わりに冒険者の登録手続きもやってくれると
感じたのかもしれない。

「あんたが結婚してたとは思わなかったな~」
フェナという女性が彼に声をかけた。レンジャーだそうだ。
ウェンドとは顔見知りらしい。彼が私に目くばせをした。
「うん、まぁ、そうなんだ」
彼はたどたどしく嘘を続ける。私は何も言うまい。
ここでボロを出すのはよくないと知っている。

「よぉ、ウェンド。噂の、美人の奥さんを見に来たよ」
「タナフィ! 来てたのか!」
「お前が迷宮に挑むって聞いてたからさ、そろそろじゃないかと待ってたんだが。
 まさか夫婦で来るなんてねぇ。知らなかった」
「あ、ああ。タナフィが学院に行っている間にいろいろあって」

メディックらしい男がウェンドへ親しげに話しかけてきた。
フェナが愉快そうに笑う。
どうやら、この三人は顔見知りらしい。

フェナ、レンジャー。タナフィ、メディック。
私は妻らしく、彼の友人を覚える。
この夫婦ごっこがいつまで続くか分からないけれど、やるからには完璧に
しようと思う。私が身を隠すのにも、きっと役に立つだろう。
もうあの世界には戻りたくない。もうあの家に戻る気がない。
それでも、いつかきっと見つかって連れ戻される。
それまでの夢だとしよう。

ウェンドが呼びかけて、彼女らは私たちのギルド、ラヴィアースに加わった。
フェナの紹介でパラディンのアークスという男も加わった。
アークスは騎士だ。もしかしたら私の顔に見覚えがあるかもしれないと
身構えたが、ただの危惧にすぎなかった。

それからウェンドは、公宮へ迷宮に入る許可を申請しそれを滞りなくすませ、
戻ってきた。
「申請がおりたよ。まずは迷宮の1Fの地図を埋めろってさ」
彼は私の顔を見て話す。
「行こうか、レニーナ」
私はうなずいた。彼はにっこり笑う。そして歩き出した。
先に行った彼に寄り添うよう、彼の友人達も歩き出す。

その光景がなんだか気に食わなくて、私は踏みとどまった。
距離がある。
私は孤独だ。

しばらく眺めていると、唐突に彼が振り返った。
「レニーナ。行こう」
もう一度うなずき、私は一定の間をとりながら彼の後ろへついていく。
ウェンドの背中を見ながら、私は少しだけ彼のことを知りたくなっていた。


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ソードマン「ウェンド」の視点


俺は少し驚いている。

1Fの地図を作る為にあちこち歩いて、魔物に出会い、戦った。
いつものように俺は剣を振る。前に森で迷ったときと同じようにフェナの
投石が俺を支援する。俺にはこの戦いの先が見えていた。次は俺が斬る。

そうしたら、不意に背後からドンと音がした。
焦げた匂いと共に魔物が倒れる。
レニーナの銃の威力を見た。彼女は、俺たちの背後から冷静に銃を撃ち
魔物を倒していく。
なんてこった。強いじゃないか。俺はクチがあいた。
フェナもタナフィもアークスさんも驚いていた。

うーん。俺の出番は無いかもしれない。

でもそうじゃなかった。彼女が打つまでには時間がかかる。
そうか、俺は彼女の前に立ち、その銃撃が来るまでに敵を引きつけておけばいい。
迷宮を歩くうちに、俺は彼女の銃との戦いが楽しくなっていった。
こういう戦い方もあるんだと思った。

冒険の合間に、レニーナと俺はあらゆるケースでの戦いに備えて話し合った。
魔物の数が多かったときはどいつから倒すか。
剣が通じにくい相手だったらどうするか。
レニーナは頭が良かった。戦いで俺が標的に迷ったときは
するどく声をかけてくれるし、未知の魔物に遭遇しても冷静だ。
俺はこんなすごい女の子を見たことが無い。

すごく後悔した。
いくらレニーナのためとはいえ、夫婦だなんて妙な嘘をついたことに。
銃を撃つ彼女はすごくきれいだ。


……迷宮の1Fも2Fも広いと思ったけど、どうやら3Fはかなり広そうだ。
おまけに、今の俺たちでは倒せそうにない強そうな魔物がうようよしている。

空飛ぶ城への旅は、まだ始まったばかりだ。


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ガンナー「レニーナ」の視点


迷宮3Fの地図を埋める頃、酒場の主人が私へ話しかけてきた。
「よう、ラヴィアースの美人ガンナーさん」
私たちは同じテーブルでひとときの休息をとっていたところだった。
なぜ私を選んで話しかけてきたのか。

「実はよう、公宮の手ごろな依頼があるんだが、あんたの亭主なんか
 どうだい?」
「ウェンド。あなたへの依頼みたい」
隣でエールを飲んでいたウェンドは、それを小さく吐き出した。
私がとっくに慣れている嘘に、彼はいつまでも慣れない。
依頼は簡単なものだった。
ソードマンとして彼に兵へ指導をして欲しいとのことだった。
ウェンドはそれを快く引き受け、ひとりで去っていった。

残された私にフェナが問う。
「ね、ウェンドとどう知り合ったの? なんで結婚したの?」
「俺も聞きたいな、それ」
タナフィが頷き、アークス氏も続く。
「あんまりそう問いかけては失礼ではないかな。まぁ、私も興味はあるが」
みんなの興味深げな顔がおかしくて、私はつい笑ってしまった。
フェナなんてテーブルに身を乗り出している。
だから、たっぷりと引きつけていった。
「秘密」
三人は不満げに声が出した。
「ええーずるいっ」
「うまいなぁ」
「ううむ。そうくるか」

しばしの雑談が続き、私はふと外を見た。
ウェンドの帰りが遅い。
そういえば、彼と出会ってから離れて行動するのは初めてのことだった。
宿では別々の部屋に寝泊りしているけど、寝る直前までロビーで話をする。
それが当たり前の生活になりかかっていた。

「ただいまーっ」
人一倍大きな声が酒場に響いた。
その顔を見て、私が明らかに安堵している事に私は戸惑った。
ウェンドは当然のように私の隣へ座った。
「おかえりなさい」
礼節な妻を演じる私に、彼は満面の笑顔で答えた。

私はまた戸惑っている。


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ソードマン「ウェンド」の視点


5Fではあらゆる獣が融合した魔獣、キマイラが冒険者を襲っているらしい。
そのキマイラ退治を公宮から依頼された。

が、その前に俺たちは4Fに3日間居続け、遊撃隊の支援をしなければいけない。
それが先に受けた依頼だったからだ。

迷宮の中で、黒い獣を連れた呪術者がキマイラ討伐へ向かったらしいことを 聞いた。
俺はピンときた。その人はきっと、ギルド「ベオウルフ」の呪術者だ。
前に俺たちへアドバイスをしてくれた人だ。
俺は慌てた。
おそらく、彼ではキマイラを倒すことはできない。
手遅れにならなければいい。
時間のたつのが長く感じる。

日が落ちた。3日めの夜。これが最後の夜更けだ。
みんな、さすがに疲労がたまっている。
レニーナの顔も曇っていた。銃を握り締めながら、身体をダルそうに動かす。
「レニーナ、大丈夫か?」
「ええ。平気」
彼女は薄く笑った。たぶん、辛いんだろう。
「彼らが心配だわ」

え? と俺は思わず声を上げた。
「先にキマイラ退治に行った彼とあの獣。早く、追いかけないと」
レニーナも俺と同じように嫌な予感をもっていたらしい。
「俺も同じ事を考えてた」
彼女はとても不安そうな目をしている。
「大丈夫。きっと間に合うよ。頑張ろう」
気休めかもしれないけど、と付け加えて、俺はいった。
「まずは俺たちが生き残らないと」
「そうね。他人の心配をしてる場合じゃなかった」

薄暗くなった周りの木々をぐるりと見回す。
ううう、と唸り声が聞こえた。
レンジャーのフェナが俺たちに目配せをする。
「さあ、次の相手はどんなやつかな」
俺がいうと、レニーナがふふ、と笑った。
「ウェンドといると負ける気がしないわ」


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ガンナー「レニーナ」の視点


キマイラの断末魔が迷宮の木々たちにこだました。
私たちはついにキマイラを倒したのだ。

戦いの疲労を忘れて、私は部屋の外へ走った。
「レニーナ! どうしたんだ!」
後ろからウェンドの声がした。私はそれを無視する。
黒い獣の元へと急ぐ。悲しげだったあの瞳を思い浮かべる。
主人を失ってさぞ悲しかっただろう。


傷ついたあの黒い獣の元へ駆け寄ると、それはすでに事切れていた。
冷たくなった肉体に触れ、黒い毛をなでた。
主人を奪ったキマイラの最後を知り、満足したのだろうか。
私たちは間に合わなかった。

「ごめんね……」
私は身体から噴出す涙を止められなかった。
追いついたウェンドが、静かに私の肩へ手を置いた。

黒い獣は、私が幼い頃を一緒に過ごしたフレネーに似ていた。
フレネーの死を迎えたときの光景が、横たわる獣の姿とかぶる。
あのときも眠りゆくフレネーに、私は何も出来なかった。
涙がとまらない。

そのとき、後ろの草がガサっと鳴った。
魔物が来るのか、と身構えた私たちの前に現れたのは、一匹の熊だった。
この屍をあさりに来たのか。私は銃を構えた。
「レニーナ。ちょっと待ってくれ」
そんな私を押しのけ、ウェンドが熊に近づいた。

「こいつ、こないだ4Fで手当てしてやった熊だ」
「あらあ、ほんと」
フェナも近づいた。
熊は人懐こそうにウェンドへ擦り寄ってきた。
「どうしたんだよおまえ」
ウェンドの問いかけに、熊は舌を出して答えた。

「まぁまぁ、とにかく、今は報告をしなければならんだろう。
 ひとまずは公宮に戻ろうではないか」
パラディンのアークスが私の肩を叩いた。
「気持ちは落ち着いたかね」

首を縦に振ると、私は横たえた黒い獣に別れを告げ、歩き出した。
明日からは、6Fへ上る。


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ソードマン「ウェンド」の視点


レニーナと会ったとき、彼女は手癖の悪そうな冒険者たちに
からまれていた。彼らは男しかいないパーティーで、レニーナに
仲間へ加わるように脅してきたらしい。

俺が割ってはいると彼らは舌打ちをして去っていった。
そして、俺の手にある剣をじろじろと見ながら、レニーナは言った。
「あなた、親切にありがとう。ついでと言うのも変だけど、
 もうひとつお世話になってもいいかしら?
 世界樹の迷宮へ入りたいのだけど、勝手が分からないの」


あれから何日がたっただろう。
夫婦と扱われるのにもだんだんと慣れてきて、冒険者として一緒に
戦う日々が俺たちの距離を縮めたように思う。
俺にはもう彼女がかけがえの無い人になってきている。

そのレニーナが今日、いきなり怒った。
交易所の女の子が俺の服のほころびを見つけて直してくれたときだ。
ぎゅっと俺の腕をレニーナが引っ張った。

「どうせ、私は裁縫なんてできないけど……」
声が小さすぎて、よく聞こえなかった。
「え? なに? レニーナ、もう一度言って」
「なんでもない!」
そう怒鳴って先をすたすたと歩いて行ってしまった。

「ばーか」
「バカだなぁ」
「ぐあぉ」
フェナとタナフィに合わせて、熊のモートンが鳴いた。
「え? なんだよ、モートンまで。俺なんかした?」

俺の疑問には誰も答えてくれなかった。
レニーナはその日の夜になるまで、クチを聞いてくれなかった。


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ガンナー「レニーナ」の視点


元の部隊へと戻っていった騎士のアークス氏の代わりに、
5Fで再会した熊をパーティーにいれることになった。
熊にはモートンという名前がつけられた。
獣と戦うということに最初は戸惑ったけれど、なるほど、モートンは
よく私たちのフォローに入ってくれる。

ウェンドに懐いているものだと思っていたのに、モートンは
近頃、私のそばにいることが増えた。どうも好かれたらしい。

6Fから7Fに上がると、フロアに罠がたくさんあって、冒険が困難に
なっていった。
それでもウェンドたちはめげない。


私は、どうして世界樹の迷宮に挑み続けるのだろう。

キマイラを倒してフレネーを思い出したときから、私は出てきた
あの家のことを思い返すことが多くなってきている。
そろそろ戻るべきなのかもしれない。
冒険者になろうとしたときのキッカケなんて些細なものだった。
ずっと自棄になっていてもしょうがない。
今ではそう思う。
私が迷宮で戦う理由は無くなりはじめていた。

だけど。
ウェンドの顔を見るたびに、家へ戻る決心が鈍る。
彼はいつまでこのマヌケな嘘をつき続ける気でいるのだろう。
彼はどうして迷宮に入るのだろう。

まぁ、いい。
今は考えないようにしよう。
彼と戦うのは楽しいから。


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ソードマン「ウェンド」の視点


サラマンドラの咆哮を扉の前で聞き、俺は少したじろいだ。
8Fに辿り着いた俺たちでさえ、奴には敵いそうにない。
どうすればいいんだ。
むあっとした熱気が空気に混じる。
どうすればいいんだ。

「ウェンド、落ち着いて」
モートンに寄り添うように、レニーナが立っている。
「私たちの目的は、サラマンドラと戦うことじゃないわ」
「そうだけど、けど……」
俺たちが公宮に依頼されたミッションをこなさなければ
次の階へ行くことができない。
「どうすればいいんだ」

「私に考えがあるの」
レニーナが俺たちに策を話した。

「モートンも、分かるわよね?」
柔らかい身体を彼女がなでると、モートンは嬉しそうな顔をした。
「よし、それでいこう」
俺がそういうと、みんながうなづいた。俺は息を吸い込み、顔を叩いた。
傍にレニーナがきて、俺にいった。
「ごめんなさい。あなたは戦いたいだろうけど」
「いや、いいんだ。俺はまだそんなに強くない。今は、次の階へ
 行くことができればいいんだ」
レニーナは不思議そうに俺を見て聞いた。
「どうして、そこまでして……迷宮に挑むの?」
「え?」
「ごめんなさい。いま、聞くようなことじゃなかったわね」


レニーナが離れるのを待つようにして、メディックのタナフィが俺の 肩を叩いた。
「このミッションが終わったら、どこであんな良い嫁を見つけたのか、
 全部喋ってもらうからな。覚悟しとけ」
「なんで今まで聞かなかったんだよ」
おかげで嘘をバラすタイミングが無くなったんだぞ、と心の中で付け加える。

「お前が嫁さんにずーっとべったりだったんじゃんか」
「じゃあ、なんで今更そんなこと言うんだよ」
タナフィは鼻のあたりをぽりぽりとかいた。
「嫌な予感がした」
「こんなときに、不吉な事いうなよ」
「あー。そういうんじゃなくて。お前はほら、女心ってやつに疎いから」
「なんだよ」
「ま、あとでな」
含みの入ったタナフィの態度に苛立ちと疑問をもつ。
まあ、いまは関係ない。

さて、扉を開けようか。


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ガンナー「レニーナ」の視点


3階層は氷の世界。凍える手先が銃口を揺らす。
どうやら私たちは炎の魔人を倒したことで、ギルド「エスバット」の
メンバーに目をつけられたらしい。
「これ以上樹海を探索するべからず」と忠告を受ける。
この先、「エスバット」との戦いになることは間違いないだろう。


こんなことを知ったら、「彼」はなんて言うのだろう。
「彼」は「エスバット」のガンナーに憧れていた。
自分も冒険者になり、旅をするのだと嬉しそうに言っていた。
だから「彼」の注目を浴びたい一身で、私もガンナーを目指したのに。
「彼」は私のことなど、元より女として見ていなかったのだ。
だから私は「彼」の口から、「彼」が婚約したことを聞くことになったのだ。


「レニーナ、どうした? 寒いのかい? 呪法を使おうか?」
メディックのタナフィの声で思考が飛んだ。
「いいえ」
「昔の男のことでも考えてた?」
私は身構えた。「なぜ、そう思うの?」
「このあいだ、街でフェナが噂話を聞いてきたんだ。行方不明になった
 貴族のお嬢様の噂。興味あるかな」
「……ないわ」
「ウェンドにどうして近づいたのかわからないけど、貴族の余興に
 付き合う気は無いんだ。俺も、ウェンドも、フェナも」
「突然なにを言い出すの?」
「今度のミッションをこなしたら、俺たちのギルド、ラヴィアースは
 いよいよ大公宮のお気に入りになるかもしれない。
 そうしたら、レニーナ。君の顔ももっと多くの人に知られる」
銃を握り締めた。私の手は震えていた。
「お遊びは終わりにしてくれ」
「あそびなんかじゃないわ」
「もう俺たちを貴族の都合で振り回さないでくれ」
「どういうこと?」

タナフィは私に背を向けた。
遠ざかる足音が雪に埋もれて鈍い音をたてる。
「レニーナ! 見てくれ! これだろ、氷の花って」
積もった雪を掻き分けて、公宮で言われたままに氷の花を探していたウェンドが
嬉しそうに私へ呼びかけた。
「モートンが見つけたんだ。よしよし、いいやつだな、おまえ」
熊のモートンとウェンドがじゃれ合う。
その笑顔を私は見れなかった。


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ソードマン「ウェンド」の視点


「俺が行ってくるよ」
そう言った時に、レニーナが顔をあげた。
「俺がひとりで13Fに行ってみる」
「やめときな」
酒場のオヤジが割って入った。
「俺の勘じゃあ、この依頼はろくなもんじゃねぇ。やめときな」
「そうかもしれない。けど、俺はほおっておくことなんてできない」
「殺されるかもしれないぜ」
「なんとかなるよ」
席を立った。
「やめときなさいよ!」
フェナが俺の腕を掴んだ。「私もこの依頼はおかしいと思う」
「無理だよ、フェナ。こいつ頑固だから」
テーブルに道具袋をのせながら、タナフィがいった。
袋の中をあさっている。
「どうせ行くなら、準備は万全にしておけよ。……獣避けの鈴が無いな。
 買いに行こう」


俺はひとりで迷宮にはいり、13Fに着いた。
ひとりでいるせいか、いつもより更に迷宮は冷たく感じる。凍えそうだ。
氷りついた床が孤独感を強めた。

指定された場所に着くと依頼主であろう衛士らしき人物が立っていた。
「依頼を受けてくれたんですね。ありがとう。穴はここです」
これが調べて欲しい、とかいう横穴か。
俺は中に輝く物があるかどうか確認しようと、穴を覗いた。

無い。
やっぱりか。
後ろから物音がする。
俺は準備してきた雷鳴の斧を握り締めた。


逃げていく男が視界から消えると、俺は糸を取り出して街に戻った。
酒場でラヴィアースのみんなが待っていた。
「ウェンド!」
みんなが俺に駆け寄ってきた。
よく帰ってきたなぁ、と酒場のオヤジが笑う。
フェナとタナフィが安堵した顔で俺に笑いかける。
モートンが擦り寄ってくる。
その一番後ろに、レニーナが立っていた。俺は彼女の顔を見て言った。
「ただいま」
レニーナは顔を伏せて、俺の腕にしがみついた。まだなにも言わない。
俺は自分の身体が沸騰するのを感じた。
「その、やっぱり、依頼は嘘だったよ。盗賊は逃げていったから
 もう大丈夫だと思う」
レニーナは下を向いたまま軽くうなずいた。
手を伸ばして、俺は彼女の金色の髪をなでた。


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ガンナー「レニーナ」の視点


15Fで彼らは待っていた。いえ、待ち受けていた、といったほうがいい。
冷気が私たちの緊張をいつまでも引っ張っている。

私は構えていた銃を下ろした。吐いた息が白く散っていく。
「エスバット」のライシュッツとアーテリンデは床に倒れこんだ。
誰もが憤りを感じていた。なぜ彼らと戦う事になったのだろう、と。
アーテリンデはか細い声で私たちに自らの気持ちを訴えた。
「彼女を、お願い」


ウェンドやフェナがタナフィの呪法で回復している隙をついて、私は
横たえたアーテリンデに近づき、囁いた。
「久しぶりねアーテリンデ」
「ごめんなさい。あなたを迷宮に入れまいと、噂を流したのは」
「いいのよ。いつか必ずお父様たちに知られると
 私には分かっているのだから」
すぐそこまで、父の使いは迫っているのだろう。
でもあの家に戻る前に、やることができた。
「アーテリンデ。あなたの願いは聞いたわ。必ず叶える」
私は彼女に誓ってみせた。
アーテリンデが満足そうに微笑むのを見て、私は覚悟を決める。


その夜は皆疲れていた。

私は近づく別れを惜しみながら、部屋で銃の手入れをしていた。
いつもならばウェンドと語り合う時間だった。
まだ迷いがあった。でも、もう断ち切らなければならない。
見つかってしまったのならば仕方がない。お父様がみんなに危害を加える前に、
私は家へ帰らなければならない。
夫婦ごっこはもう終わり。
ロビーには行かないようぐっと我慢をした。

早めに明かりを消し、ベットに入ると、私はウェンドの顔を思い浮かべた。
彼には私のすべてを話しておくべきなのだろうか。
とんとん。
私の部屋の扉をたたく音がした。開けると、宿屋の女主人がたっていた。
「ね、アンタの旦那がロビーで寝ちゃっているんだけど、
 困るから引き取っておくれよ」

ロビーへ行くと、私たちがいつも語り合うソファの上でウェンドが
寝息を立てていた。女将が気を使ってくれたのだろう。毛布がかかっている。
まったくもう。
すぐに起こそうとして、手が止まった。
私はしばらく、その寝顔を眺めていた。


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ソードマン「ウェンド」の視点


俺は昼間起きた事を整理していた。
「エスバット」の連中は守りたい人がいるから、俺たちと戦ったという。
何人の冒険者が倒れてきたのだろう。
それはエゴだ。
でもそうして「エスバット」を倒した俺たちも同等だ。
やりきれない気持ちがもやもやとして、どうしたらいいのかわからない。
レニーナはどう思っただろう。

カチリ、と時計の針の音を聞いた。
宿屋のロビーには誰もいない。俺はソファに寝転んだ。
今夜はなかなかレニーナが来ない。いつもなら、とっくに来ている時間だ。
まぁ、彼女も疲れているんだろう。
俺は古く汚れた天井を眺めながらもう一度考えをめぐらしはじめていた。


・・・

温かな感触で目が覚めた。レニーナが俺の顔を覗いている。
いつのまにか眠っていたらしい。
「こんなところで寝ちゃダメよ」
「あれ? うん、ごめん」
頭がぼうっとして感覚が鈍い。俺はソファから起き上がろうとしたけど、
足がついてこなかった。
「ウェンド」
「ん?」
「あなたに話しておきたいことがあるの」
「君が貴族で、婚約者がいるってこと?」
レニーナが黙るのを見て、あっと俺は口をつぐんだ。
ぼうっとしていた頭が急に覚める。慌てて付け足した。


「あっ、と、フェナやタナフィが街で噂話とかで、聞いてきて、俺に話すから、
 でも俺は、レニーナが言いたくないんならいいやと思って、それで」
ふふっとレニーナが笑った。俺は言葉に詰まった。
「ごめん」
「何を謝るの?」
「ごめん。なんか、色々と。婚約者がいるのに、夫婦とか。あっと」
「それは気にしなくていいわ。婚約が嫌で逃げ出したんだから。
 それに、そのおかげで、言い逃れができたこともあったんだし」
レニーナはそっと俺の隣に腰掛けた。
「あなたに言っておきたいことは、それだけじゃないの」
彼女はときどき間をおきながらゆっくりといった。

「私ね、好きな人がいたの。でも、その人は私の知らない人と結婚した。
 彼は冒険者に憧れていたわ。だから私は彼の期待に応えるよう、
 必死に努力した。彼の結婚を知って、裏切られたと思ったわ。
 何もかもがどうでもよくなった。お父様はそんな私を見て急に
 お見合いをするように言ってきたわ。たぶん、お父様は私を気遣って
 そうしたのだろうけど、失恋したばかりの私にはわずらわしいだけだった。
 こうなったら私だけでも冒険者になってやる、と思って、家を飛び出したの。
 だけど、逃げている手前、ギルドの手続きをすることができなくて。半ば
 諦めかけてたときに、街角で変なやつにからまれて、そして、あなたが
 助けてくれた」
俺は頭をかいた。

「ひとりの冒険者として迷宮に行くようになって、いろいろなことを経験して。
 あなたに声をかけて、本当に良かったと思った」
「そっか」
「だから、一度、家に戻ろうと思うの。ちゃんとお父様と話をするために」
俺たちは顔を合わせた。
「いつ? いつ頃に?」
「探索が、落ち着いたら」
「そっか」
ほっと胸をなでおろした。彼女が今いなくなったら、俺は途方に暮れてしまう。
「ウェンド。あなたはこんな私を、貴族ではなく、まだ冒険者と見てくれてる?
 まだ私を仲間だと思ってくれる? 私と迷宮に挑む気はある?」
不安そうに問いかける彼女の目を見て、俺はタナフィの態度を思い出した。
タナフィは貴族が大嫌いで、レニーナを遠ざけるようになってる。
俺もやっぱり貴族は好きになれない。だけど、彼女は別だ。貴族として振舞う
レニーナを見たことはないけど。

「俺は、ええと、君と一緒に空飛ぶ城に行きたいと思ってる。その、君が、
 俺の夢に付き合ってくれるとしたら、だけど」
我ながら臭い返しだな、と思った。
彼女は安堵した顔で頷く。
「俺の両親は、小さい頃に死んじゃったんだけど、冒険者だったんだ。
 空飛ぶ城に通じる道を探して、旅をしてた。だから、俺は、どうしても
 あの城に行きたいんだ」

この夜、はじめて俺たちは戦い以外のことを話し合った。


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ガンナー「レニーナ」の視点


スキュレーを倒し、四階層に辿り着くと「ラヴィアース」の名声は
広く街中に知れ渡った。酒場での依頼も増えて私たちは途端に
忙しくなった。
お父様の寄越した従者には、もう少し待つように言った。

桃色の花びらが舞う迷宮の中で私はタナフィと話し合った。
「ウェンドにだいたいのことは話したわ。もし、良かったら、
 あとでタナフィ。あなたのことも話してくれない?」
彼は相変わらず私の顔を見ようとしない。
貴族そのものが嫌いなのだ、と私は直感した。
「……まず、ウェンドの話を聞くといいよ」
仲間として彼とは仲良くしたいのだが、そううまくいきそうにない。

ウェンドは、タナフィとは同じ孤児院の育ちなのだと言っていた。
そしてその孤児院が貴族のワガママによって取り壊されてしまったことも知った。
だけど、とウェンドは加えた。
「だけど、タナフィは孤児院にいるころから、ずっと貴族が嫌いだったんだ。
 お父さんが、ほんとは貴族なんだってさ」


その日は良い天気で、ウェンドたちがアヴリル――最近知り合った
ダークハンターの名前だ――の頼みにより、出かけていったため
私は街をぶらぶらと歩いていた。
交易所で銃を買い換えた後、その扉を開くと道の反対側に
「エスバット」のライシュッツが立っていた。

「グランスフォルテ嬢」
「レニーナでいいわ」
「あなた方、ラヴィアースに頼みがあるのだ。酒場で話を聞いて欲しい」
「アーテリンデになにかあったの?」
「ラヴィアースに探し出して欲しいのだ。失礼を承知の上で」
「わかったわ。酒場に行ってみます。でも、これだけはお願い。
 私の前で、その名もギルド名も、あまり言わないでほしいの」

ラヴィアース……

ギルド名が多くの人に呼ばれるようになり、その名声がウェンドの顔を
笑顔にさせるたび、私は目も耳も塞ぎたくなる。

私は卑怯だった。ウェンドにあのとき、言えずにいたのだ。
そのギルド名が、私が好いていた「あの人」の名前をとったことを。
私は卑怯だ。
今更、彼にそのことを伝えるのが怖いなんて、どうかしている。


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ソードマン「ウェンド」の視点


俺はすごく機嫌が良い。
冒険は順調だし、街の人は俺たちによくしてくれるし、
迷宮の景色はきれいだし、レニーナが気持ちの良い顔をしている。
きっと俺にぜんぶ話して、すっきりしたんだろう。よかった、と心から思う。

戦いのときに彼女がやろうとしていることもよく分かるようになった。
フェナがつくった隙をついて、レニーナの構えた銃の攻撃を合図に、
俺が斬り込む。これが気持ちいいほどよく決まる。

俺たちは無敵だ。
だから、落ち込んでいた「エスバット」のアーテリンデには自信をもって言えた。
あの魔物は俺達が必ず倒す、と。
レニーナだってうなずいていた。

きっと俺たちはもうすぐ空飛ぶ城に行ける。
空にいる父さんや母さんは喜んでいるかなぁ。
なにもかもが順風満帆だ。
俺は機嫌がよかった。
だけど、そう思っていたのは、俺だけだったらしい。


フェナが酒場でこそこそと俺に近づいてきた。
「なんか、最近レニーナが暗い顔してるときがあるじゃん。
 悩みでもあるんじゃないの? 聞いてあげたの?」
「え? そうなのか?」
フェナとタナフィは呆れ顔で俺を凝視した。ふたりともそれ以上何も
言おうとしなかった。だから、俺から聞いた。
「レニーナ、何か悩んでんのかな」
フェナがうなずいた。タナフィは鞄の中身を整理しているのか、
色々な道具を机に並べている。その作業を黙々と続けながら言った。
「女が悩むことといったら決まってるだろ」
「なんだよ」
「昔の男」
俺はイスから転げ落ちた。

「大丈夫?」
酒場のオヤジと話していたレニーナが俺を起こしてくれた。
「うん、大丈夫」
「見てウェンド。これ、引き受けてきたわ。頑張りましょう。
 きっとまたあなたの名声が上がるわよ。ふふふ。家で寝転んでる貴族達を
 ぎゃふんといわせてやりましょ」
レニーナはその紙を掲げて、俺に見せた。紙にはこう書いてある。

『公告砲撃協会より領内全てのガンナーに緊急指令。
 協会の長が名誉の戦死を遂げた。全力を用いて仇を討て。』

これはむしろ君の名が上がるんじゃないか。
と思ったけど、黙っていた。
珍しくうきうきしているレニーナが、かわいかった。

昔の男、か。俺は息をついた。


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ガンナー「レニーナ」の視点


ばさり。羽ばたく音。緩やかな風。舞い降りる黒い人影。
神秘的なその姿に、私は唖然とした。翼を持つヒト。

20F。空飛ぶ城への道を開く為に、彼は私たちに条件を出した。
この先にいる魔物を倒せ。
なんだ、そんな簡単なことでいいんだ。
ウェンドがそう言ったとき私はぞくぞくした。
この人がどんどん好きになっている。


魔物を倒しに行くその前の夜、私はラヴィアースのみんなに話をした。
用ができたので魔物を倒したら、一時的に冒険から抜ける、と。
テーブル越しに各々の反応を探った。けれど、誰も疑問はもたなかったらしい。
ひとまず私はほっとした。
変な誤解を持たれる前に、戻ってきたらみんなにすべてを話そうと思う。
だけど、ウェンドと偽の夫婦だということだけは、打ち明けることに迷いが残る。
ばかね、私も。
自分に呆れてしまう。


みんなが部屋へ引き上げて行った後、ウェンドは暗い顔で私に聞いてきた。
「一旦、家に帰るんだね」声がとてもか細かった。
「そうよ」
「やっぱり、そのう。婚約者と、結婚、するから?」
驚くよりも呆れながら、彼を見つめた。ウェンドはさんざん私と話をしておいて
何も分かっていない。
「どうしてそう思ったの」
「婚約者がいて、一度、家に帰るって言うから、それで……」

「正式に断わる為に帰るのよ」
「な」
ウェンドの顔が高揚した。
「なあんだ、そっか。よかったあ。君がもう戻ってこないのかと思った」
「でも、そうなる可能性はあるわ。お父様が私を外へ出さないように
 部屋へ閉じ込めるかもしれない」
「そ、それは困るよ!」
「そうなる可能性は高いけど、でも仕方のないことなのよ」
「じゃあ、もし、そうなったら、俺が君を迎えに行くよ」

再び私はぞくぞくした。
「あ……レニーナさえ、よければ、だけど」
私はウェンドに寄り添った。
「必ず来てね、約束して」
こんな、少女みたいな言葉が自然に出てきてしまう。

「ね、寝ようか。そろそろ。とにかく、明日は魔物を倒さないと」
「そうね」
彼が私の髪に触れる。
もう魔物には負ける気がしない。


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ソードマン「ウェンド」の視点


翼を持つ人の天敵、魔物ハルピュイアを倒した後、俺達はついに
空飛ぶ城へと踏み込んだ。
俺は感動で胸が震えるのと、涙が出そうになるのを必死でこらえた。
レニーナが俺の横にいた。俺は、沸き起こる衝動に耐えられそうに無くて
彼女の手を握った。レニーナは俺の顔を見て微笑んだ。

そしてレニーナはいなくなった。家に戻ったんだ。
いつ、また会えるのか、そんなことを聞くのも照れくさくて、俺はただ
見送っただけだった。
彼女がいなくても、空飛ぶ城の探索は続ける。そう彼女と最後に約束をした。
レニーナの家にもラヴィアースの名が轟くように。


あるとき、頃合を見計らって空飛ぶ城の探索中にタナフィと話をした。
レニーナが、タナフィの態度を気にしていたからだ。
彼女の話をしたとたんにタナフィは不機嫌そうな声を出した。
「お前の嫁になったからって、やっぱり、貴族は貴族だよ。
 自分勝手で自信過剰だ。もう戻ってこないかもしれないぜ。
 そうしたら、俺はせいせいする」
「レニーナは違う。お前だってずっと一緒に戦ってきたんだからわかるだろ。
 それに、あの孤児院が無くなったのだって、レニーナのせいじゃない」
「ふん。いいから、黙って探索を続けようぜ。お前の親父が夢見てた
 空飛ぶ城に来てるんだ。すげえよな、この中」
「タナフィ、俺は彼女のことで話したいことがあるんだ。だから、そのう」

「なぁ、ウェンド。お前さぁ、ザッカスさんが奥さんと二人で旅してることに
 憧れて、ああいう嫁を見つけてきたんだろ」
「う」
「分かり易い奴だな」

そう、俺は小さいとき剣を教えてくれたザッカスさんとその奥さんである
メルダさんの姿に憧れていた。俺の両親も冒険者だったから、ということもある。
夫婦は戦友であり、同じ目標をもち、同じ敵を相手にして、絆を強固にしていく。
父さんも母さんもたぶん、ザッカスさんたちのように旅をしていたんだろう。
いつからか俺は俺自身もそうしたいと思っていた。

だから、最初のギルド登録のとき、とっさにレニーナと夫婦だという言い訳を
したんだと思う。他にどう言えば誤魔化せたのか、いまでも分からない。

「いま、ザッカスさんとメルダさん、どこを旅してるんだろうな。ほんと、
 いい夫婦だったよなあ」
返す言葉が無くなった。
だけどな、実は、夫婦じゃないんだよ、俺たち。
……だめだ、今更嘘だなんて言えない。
タナフィは俺が黙るのを見て安心したようで、城の壁を叩きながら
話題を変えた。

「それにしても。胡散臭そうな城だな。とんでもない秘密でも隠していそうだ」
「……そうだな」
うなずいた。俺も、嫌な予感がした。
父さんと母さんは空飛ぶ城の中にみんなの暮らしを平穏にさせるような
すごいお宝があると踏んでいたようだけど、残念な事に、そんなモノがある
雰囲気は微塵も感じられない。
むしろ希望を握りつぶすような不気味な空気が、この城にはあった。
よくわからないけど。

レニーナならこの城のことをなんて言うだろう。
俺はまた彼女の事を考えた。
彼女がいないのがもどかしくて、しょうがない。


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ガンナー「レニーナ」の視点


「ばあや、下がっていて」
引き金を引くと、ドンという音と共に扉が開いた。鍵のあった部分から
焦げた匂いが漂う。煙が出ている。
私は狼のロイ――私たちと冒険してきた仲間だ――を先頭にして走り出した。
念のために家に連れてきてよかった。
「さあロイ。ウェンドのところまで戻りましょう」
私の部屋だった場所にそっと別れをした。

机にはお父様とお母様宛に手紙を残しておいた。これでお父様たちが分かって
くれるとは思ってない。だけど、今は話し合う余裕さえ持ってくれないのだから
仕方が無い。
強硬手段だけど、こうするしかないのだ。

心残りになりそうなものはすべて整理した。もう私がこの家に戻る理由は無い。
私を慰める為に用意された腑抜けた貴族との結婚も、令嬢としてただ大人しく
この家で過ごす事も、今の私にはできない。
冒険する喜びに目覚めてしまったのだ。

メイドたちがロイの姿を見て恐れおののいている。それでいい。
家の中を駆け抜けて、私は門を出た。振り返る。
あの頃の私のすべてだった、「あの人」がくれた物は、暖炉に放り込んできた。
いつか、お父様達が私を冒険者だと認めてくれるまでこの家には戻らない。
前を向くと世界樹が見えた。
私はその頂上を見上げて、彼のことを想う。ウェンド。


「よう、久しぶりだな」
酒場の亭主は私を見て口元を緩ませた。
「ラヴィアースの面々はいま出てったとこだぜ」
「私がいない間、どんな仕事をしてたのか教えてくれない?」
「いいぜ」


樹海の木々への薬品散布、暖をとるための材木集め、父娘の仲直り、
日照りで困る村人のための供物運び等々……。
なるほど。探索は続けているようだ。
請け負った仕事の選び方はいかにもウェンドらしい。
「俺の個人的な仕事もやってもらった」
感慨深そうに亭主が笑う。

「おっと。俺の苦手な奴が来やがった。ちょうどいい。
 きっとラヴィアースが引き受けた仕事の話だろう。
 アンタ聞いておいてくれよ」
亭主はそう告げると、さっと奥に引っ込んだ。
同時に冒険者ギルドのギルド長が酒場に現れる。私は彼女の前に立つと
声をかけた。
「お久しぶりです」
「レニーナ!」
顔まで隠した全身鎧の下で、彼女が驚いているのが分かる。
「まさか。そなた、いつのまに冒険者になったのだ?」
「ちゃんと手続きはとっています。私の亭主が行いました。
 彼に代わって、仕事の話は私が承ります」
隣に並んだ狼のロイの毛皮を撫でながら、私は高ぶる気持ちを
必死に抑えた。
大丈夫。脅える事は無いのだ。
私はもう、貴族じゃない。


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再びガンナー「レニーナ」の視点


遅い。
私が家を飛び出してから、3日が過ぎた。いつもならウェンドたちが戻ってきても
いい頃なのに、ちっともその姿が見えない。いったいどうしたことだろう。
彼になにかあったのか?
いえ、そんなことは無いはずだ。

「……遅ぇな」
酒場の亭主が、私の方を見て呟いた。
「そんなに時間のかかる仕事だとは思わなかったがなぁ」
「詳しく仕事の内容を教えてくれない?」
私は酒場の亭主に詰め寄った。
「前に教えたとおりだぜ。樹海に残された要救助者を全員助けだしたら、すぐに
 戻ってくるはずさ」
ああ。
どうして私は、いま彼の傍にいないのだろう。
焦る気持ちを抑えて、手を組んだ。こんなときに祈る事しかできないなんて。


「お、レニーナがいる」
「わあ、戻ってきたんだ!」
タナフィとフェナの声がして、私は飛び上がった。でも、ウェンドのひときわ
大きい「ただいま」が続かない。彼の姿が無かった。
「おかえりなさい」
「あなたの方こそ。お疲れ様」
フェナと握手して、再会を喜び合った。熊のモートンが私にじゃれついてくる。
その毛皮をなでた。
私の顔をタナフィが嫌そうに見つめる。
「タナフィ、ウェンドはどこ? 一緒ではなかったの?」
「一緒だったさ」
言葉はそれ以上続かなかった。
「あなたが私を疎んじているのは知ってるわ。でもお願い、ウェンドの場所を教えて」
タナフィは答えない。私に背を向けて、酒場のカウンターに腰掛けた。

「タナフィ。あなた、貴族を嫌っているのよね。……私、もう貴族じゃないわ」
それに返事をしたのはフェナだった。
「えっ? どういうこと?」
「屋敷を飛び出してきたの」
「マジかよ」
タナフィもついに私の方を見た。胸をはって言う。
「私、本当の意味で冒険者になるつもりよ」
「じゃあ早く追いかけたほうがいいぜ。あの馬鹿。あいつ、あんたを迎えに
 行くっつって、あんたの実家に一人で行っちまったんだから」
「……え?」
「そうよ、早く行ったほうがいいよ。なんなら、モートンも連れてく?」
フェナが文字通りに私の背中を押した。


「俺が君を迎えに行くよ」


ウェンドのことを想いながら、私は酒場を飛び出した。


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ソードマン「ウェンド」の視点


数日間迷宮を旅した疲れも忘れて、俺は大きな屋敷の前に突っ立った。
相当デカいぞ、この家。中に入るだけで一苦労だなぁ。
さて、どうしよう。
勢いだけで来てしまったことを俺は後悔した。
正面から入るつもりだったけど、身体はずいぶん汚れてしまっている。
このままじゃ門で追い返されるのがオチだ。
さて、どうしようか。


「ウェンド!」
呼ばれて振り返った先に、レニーナが立っていた。
「あれ、レニーナ? どうして?」
「ウェンド……私、3日前にここを飛び出したばかりなのよ」
「飛び出した?」
「あなたと冒険がしたくて。いてもたってもいられなくって……」
「なあんだ。そっか。じゃあ、俺、来た意味なかったなぁ。ごめんよ」
「そんなことないわ」
そう言ってレニーナが微笑んだ。久しぶりに会うレニーナは、やっぱり
キレイだな、と思う。

「遅かったのね。酒場でずいぶん待ったのよ。救助者は、見つけたの?
 ウェンド? どうしたの、ぼうっとして」
「あ、うん。救助者はすぐ見つけたんだけど、ついでに別の仕事もやっちゃおう
 と思ってさ。エスバット、覚えてるだろ。そのガンナーの爺さんが、俺たちに
 最強の銃を教えてくれたんだ。で、その材料を探してたんだよ」
「銃?」
「キミが、使うだろ。あ、まだ銃にはなってないんだけど、材料がここに……」
不意にレニーナが首から俺を抱きしめた。
すげー良い匂いと柔らかな感触が……いや、ええと。

「レニーナ、キミに、言おうと思ってたことがあるんだ」
彼女の肩を抱いて唾を飲む。よし、言うぞ。

「空飛ぶ城の探索がぜんぶ終わって、落ち着いたら」
「落ち着いたら?」
「俺と、ほんとのふうふにっむぐ」
レニーナが手を俺の頬につけ、口を塞いだ。

唇をそっと離したあとに、彼女は笑った。
「そんなに待てないわ。今すぐ教会に行きましょう」
「で、でも、俺たちがいま教会に行ったら、変に思われるんじゃないかな」
「……私たち、夫婦ですものね」
くすくすと笑い合った。

目の前の屋敷を見つめる。
「このまま、キミのお父さんに挨拶した方がいいかな」
「今はダメよ。聞いてもらえそうにないわ。だから、空飛ぶ城で、お父様が
 私たちの話に聞く耳を持つぐらいの手柄を立ててからにしましょう」
「分かった。じゃあ、そうするよ。……いまは、すごく汚れてるし」
「その日が楽しみだわ」
「じゃあ、戻ろうか」
レニーナが頷く。
「レニーナ、その、愛してるよ」
「私もよ」
俺たちはもう一度キスをして、仲間の待つ酒場へと歩き出した。
その先では、世界樹の迷宮が待っている。





END


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あとがき

世界樹2をリアルタイムでプレイしながら書き溜めたこの妄想を
とりあえず完結させることができました。良かった良かった。
妄想が迷宮のクリアまでいってないのは、私がこのゲームに
途中で飽きてしまい、クリア直前で投げ出した事情が反映されています。
なんだかんだで、基本はプレイ日記なのですw

さて、この妄想は割と私の中で盛り上がりまして、こっそり漫画にしたり
こっそり絵を書き溜めてみたりしていますが、この文章の内容に
添ったものに過ぎない上、ゲームのイラストの雰囲気を壊したくないという
気持ちが強いので文字以外の形で二次創作を発表することは
おそらく無いと思います。
しかし次が出れば……世界樹3の折には……w
いや、考えないようにしましょうw

最後までお付き合いくださりありがとうございました。






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