戦争孤児になったIさん(当時11歳)は「父親名義の土地に叔母(父の妹)が家を建て、私は叔母の家で女中扱いされたりの。学校もろくに通えなかったわ」と。
 他にも親の遺産を児童では管理ができませんから、親戚に処分されてしまったという話を多く聞きました。お金は人格さえ変えてしまう恐ろしい魔物です。
 震災孤児も財産を利用しようという人もいるかもしれません。震災孤児の親の生命保険金や土地、貴重品などの遺産についての手続きを弁護士に相談しているという話を聞きました。親戚が親権者になり、管理するようになれば、何も知らない子どもであるだけ、どのように扱かわれるかわかりません。私たちと同じにならないかと心配しています。
 また、親戚から養子にだされた子もいました。養子先で奴隷扱いされたり、人身売買された子もいました。孤児は利用されてしまうのです。親戚を逃げ出し浮浪児になった子も大勢いました。自殺した子、精神異常になった子もいます。
 私自身、老人になっても孤児から抜け出せません。心に体に孤児の苦しみが喰い込んでいます。一生消えない傷になっています。
 戦争孤児たちは惨めだった過去を話できませんでした。「置いてもらった親戚の悪口はいうものじゃない」といわれ、孤児自身も言いたくありませんでした。孤児たちが語らなかった故に、孤児の実態が判明しなかった点も、理解されない理由だと思います。
 私たち孤児たちは、以上述べてきた理由から、親戚へ預けることに賛成できません。

 
◇ 孤児心理の無理解
 どれほど恐ろしさを体験しても、片親がいれば逃げ込む場がありますが、抱きしめてくれる人がいなくなりました。子のためには我が身を犠牲にして護ってくれた親です。世界中でたったひとりの母、心に染みこんだ母への思慕は、簡単には取り除くことができません。心が破裂しそうな悲しみを負った孤児です。
 孤児体験をしなかった人(ほとんど)は、一部を除き孤児心理の理解は困難と思います。とくに親のある子は、孤児が「なぜ悲しむのか。なぜ苦しむのか、なぜ泣くのか、不思議でならなかった」と、私が大人になってから友人にいわれました。私の夫や我が子も、孫たちも孤児の話をしても、体験のないことは想像できないようです。「余命1ヵ月」と宣告されたガン患者の心の奥底がわからないのと同じように、イメージがわかないものです。
 ある弁護士が「常に事件を扱い、遺族がどれほど苦しい気持ちでいるか、頭では理解していたつもりだった。しかし、妻が殺されて、この想像を絶する無念、苦悩をはじめて知った。理不尽な死、これほどの辛さはこの世にない」と。
 私の夫は病死しましたが病死は寿命です。人間には必ず死が訪れますから、病死なら仕方ないとあきらめられますが、まだある余命をいきなり絶たれた突然の死はあきらめきれません。信じられません。死を受け入れられません。理不尽な最期を遂げた無念、悔しさに、遺族は全身が硬直していく深い悲しみに襲われ、一生頭から離れません。それは孤児も同じです。病死後の遺族の苦しみと、災難死の遺族の苦しみは同一ではないのです。
 子どもはテレビで死んだ人が、またテレビに現れるので死んでも生きかえると思ったり、若者は核家族で身近な人の死に接していないため死の実感がわからないようです。体験がかないため心的外傷をうけている孤児の心の状態を理解できないでしょう。

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