何だかんだと箸を進め、食べ終わる頃になると菊丸が唐突に言った。
「ねー、今度の保健の先生どう思う?」
唇を尖らせて皆に訊く姿を見れば、自分は快く思っていないというのがバレバレであった。 そんな菊丸らしい様子に苦笑しつつも、それぞれ意見を述べる。
「ちょっと怖そうな先生だよね」
「だしょー?俺もそう思った!いかにも頑固って感じだし。あー、この前までの女の先生が良かったにゃ」
「英二」
眉を下げて困り顔の河村に同調して、露骨に嫌な顔をする菊丸を大石がたしなめた。
この二人はペアを組んでおり、自他共に認める相性の良さからゴールデンペアと呼ばれていた。
実力も全国区だ。
そんな相方をたしなめる大石は、相方とは違った意見を持っていた。
「確かに怖そうだけど、俺は前の先生より良いと思う」
「えー!?なんでなんで!??」
「僕も大石と同じ意見」
「不二まで!?」
納得いかないといった顔つきで菊丸は二人に迫った。
「厳しいけれど、理不尽なことは言ってなかったじゃない」
そう言って最後のイチゴを頬張った不二を見て、大石も続く。
「うん、俺もそう思う。自ら悪役を買ったってイメージを持ったよ」
「‥まあ、それは元からの本人の性格かもしれないけれどね」
どこか期待に満ちた顔の大石と、ふふ、と楽しそうに笑う不二。 その様子から二人が本気でそう思っているというのが分かった。
「前養護教諭は若い女性で生徒に人気があったが、それ故に用もない生徒が保健室に入浸りだったからな。 その辺は以前から保健委員を通して苦情が来ていたんだ。本当に保健室が必要な生徒が使えない事態に度々陥る、と」
やっと弁当を食べ終えた手塚が箸をしまいながら言った。
「だから、俺は今回の養護教諭は適任だと思う。社交的ではないが真面目で責任感がある人物だ」
滅多に聞かない手塚の他人を褒める言葉にメンバーは驚いた。
突き刺さる視線に気づいた手塚は眉を顰めた。
「‥何だ?」
「あ、いや、知り合いみたいに言うからさ‥」
河村が慌てて言うと「ああ、」と納得したふうに呟いた。
「春休み中にあった顔合わせに生徒会も参加して、その時少し話したんだ。
彼はここの卒業生だと言っていた」
「へえ、そうなのか。あ、じゃあ桃城先生のことも知っているのかな?」
テニス部の副顧問の桃城のことを思い浮かべた。 確か彼もここの卒業生だったはずだ。
「同学年で、テニス部仲間だったらしい。‥それくらいしか知らん」
「テニス部だったの!?そしたらほんとに俺らの先輩じゃん!」
「ああ、そうなるな」
「ちょっと親近感沸いたかも‥」
先程と態度を変えて興味深々の菊丸の様子にまた全員が苦笑した。 気分屋なのだ、彼は。
そんな中、一人まだ意見を述べていない人物がいた。
つまらなさそうに紙パックのストローを齧っている長身の男だ。
不二と菊丸がそれに気づいてちゃちゃを入れる。
「ちょっと乾。何いじけてるのさ?ストローなんて齧っちゃって、キモいよ」
「なんだよ、おにぎり一個まだ残ってるじゃん。食べないなら俺にちょーだい?」
「うー‥ん」
何か考えごとをしているように大した反応をよこさない乾に、影で青学の母と囁かれている大石が心配そうに訊いた。
「いったいどうしたんだ?何か悩み事か?」
「‥悩みっていうかさ、」
いつも饒舌な乾が歯切れ悪く答えを渋る様子に、メンバーは本気で心配になった。
不二は首を傾げ、菊丸も勝手にコンビニおにぎりのフィルムを剥いていた手を休めて聞く体制に入った。
「乾、言ってしまった方が楽な時もある」
「‥お前に言われたくはないんだが」
真面目に諭す手塚に、だったらいつものお前はなんだと苦笑すると、乾は意を決した。
その割には声の大きさが呟くようなものだったが。
「‥‥俺、あの先生苦手だ」