拍手御礼SS 「僕らの夏」


指の節に落ちた溶けたアイスの雫が、太陽もひれ伏す白い肌を伝って、今度は肘から地面へと落ちる。
その様を図らずしも目撃してしまった海堂は、目を細めて「滴れてる」とだけ告げた。
しかし、隣に座る当の本人はさして気にもせず、最後の一口を頬張った。 確かに根本的な解決にはなるが、すでに溶けた雫にはなんの意味もなさない。
仕方なく海堂はポケットから白いガーゼのハンカチを取り出して、甘い一筋を拭ってやった。 白い生地に透き通った水色が吸収されていく。
手首まで辿り着くと、手の平にハンカチを握りこませ、水道へ行くよう指示を下す。
黙って海堂の動向を見守っていた乾はふと目尻を下げて、まだ食べ終えていない自分のカップアイスをスプーンで掬った後輩に「うん」と幼く頷いてみせた。

「俺もカップのにすればよかったなぁ。海堂みたいにハーゲンダッツじゃなくてもいいからさ」
「…アンタが夏はスッキリ爽快・ソーダアイスがいいって選んだんだろ。何食べ終わってから言ってんスか」
「海堂と半分に割って食べたかったんだよ。それなのにお前気付かないでさっさと自分の選んでレジに持って行くから」
「そういうことは最初に言ってくださいっス。つか、早く手洗ってこいよ」

はーいと間延びした返事を返して乾は立ち上がった。
一歩日陰から出れば、ジリジリと焼け付く日差しが襲う。今日も暑い。

負けそうになりながらも水飲み場まで辿り着く。
触れた蛇口は熱く、流れ出る水は温い。公園の地面も焼けて少しの風で舞い上がる。
すべて夏の所業だ。

乾はせめてもと蛇口に指を押し付けた。
流水が、狭まった出口から勢い良く噴き出す。 まるで塩を噴いた鯨のようだ。

「…何やってるんだか」

海堂は遠目にその様子を捉えながらコンビニの袋に空になったカップとスプーンを入れて口を結んだ。
そうしている内に乾がびしょ濡れで戻ってくる。

「何やってるんスか。髪までびしょびしょっスよ」
「大丈夫。この暑さだからすぐ乾くよ。海堂もやってきたら?」
「遠慮するっス」

乾のテニスバッグからタオルを取り出して頭をがしがし拭いてやる。これではどちらが年上なのだか分からない。

「そう言うだろうと思って。はいコレ」

再び海堂の隣に腰掛けた乾が差し出したのは、先程の海堂のハンカチ。 ご丁寧に濡らしてきてくれたようだ。
受け取り、額に宛てがえば幾分か涼しさが得られた。
海堂が思わず目を瞑るのを乾は静かに笑って見ていた。

「夏だね」
「そうっスね」

帽子を被った子どもたちが前を元気に通り過ぎる。空には入道雲がたゆたっている。

「だけど、暑さにも誰にも負けないっスよ」
「俺もだ」


目眩いくらいの青を見据えながら。

今年の夏を制する誓いを立てる。





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