歴史侍 四の太刀 作、工藤 麗 平成17年3月

 源義経の画像が笑っているように見えるのは私だけだろうか。声にするとすれば「ふふふ・・・」というような不敵な笑み。これは数多く残る武将の画像の中でも稀有なことだと思う。

 悲劇のヒーローとしてのイメージが強い義経だが、彼が本当はどんな性格だったかまではわからない。そこで彼の人生の場面に不敵な笑みを浮かべる義経を思い出していくと、彼自身が自分の人生を悲劇ととらえていたかどうか分からなくなっていく。

 夜な夜な鞍馬寺を抜け出し武芸の修行をする彼。五条の橋の上、弁慶の振り下ろす薙刀を扇を投げつけてひらりとかわす彼。不敵な笑みは悪童にさえ見える。一の谷の合戦で崖の上から攻め降りる彼。屋島の合戦で暴風雨に乗って船出する彼。自分の身を危険に投じることを楽しんでいるようにもみえる。そして、壇ノ浦の合戦では非戦闘員の水夫をも討つ。華麗な八艘飛びは攻めているのではない、逃げているのだ。「うぬらにつかまるわしではない」と。卑怯?否、天才なのだ。我々常人の価値観で彼を縛ることはできない。

 武将として純粋だった源義経。兄頼朝の想う武家政権による国家構想など知ったことではない。もし彼が伝説のとおり、衣川で死なず三厩から海を渡り、やがて大陸で活躍したとしても、彼ならやりかねない。そして、広大な草原を駆けるその顔はやはり、笑っているのだろう。

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