連載2回目 ※

本について彼是

 帰宅途中の某路線の車内にて。席に座って文庫本を読み耽っている自分の隣に二人組みの女子高生がやって来た。彼女達は座るや否や、以下のような会話を始めた。

「最近私本にはまってんだー」
「まじでー」
「最近泣ける本ばっか読んでて、読み終わると誰かに感動を伝えたくてしょうがないんだよー」
「ああ分かるー」

んー、どうやら最近の風潮なのか、泣ける本が流行っているようで。『セカチュー』とか『今、会いにゆきます』みたいな。泣ける本に関してはかなり疎いので誰もが知ってる作品名しか並べてみなかった。泣ける本は女子の間だけかと思っていたら、その会話が繰り広げられた数日後、同じ車内で男子高生が『博士の愛した数式』を読んでいた。どうやら男女問わず人気のようで。

 泣ける本ってそんなにいいのかなぁとぼんやり考えながら、自分が今まで読んだ本を脳内でリストアップしてみた。殆どが今の高校生が読むものかと疑ってしまうもので、読んだ自分ですら絶句してしまった。『HUMAN LOST (太宰治)』、『飼育(大江健三郎)』、『アメリカ素描(司馬遼太郎)』などなど。お、恐ろしい。不健康とまで行くのかどうかは知らないが。

 色々と考えてみたが、泣ける本が自分の性分に合わないとかじゃなく、自然に暗い、若しくは考えさせるような本に手が伸びてしまうってことに気付いた。現に皆が泣けるという物に対して涙を流すことの出来ない人間だからしょうもない話なのかもしれないが。一度上に書いたような本にはまると二度と迄は行かないが長い間その魅力に取り付かれて簡単に抜け出すことが出来ない。早い話がどつぼに嵌るということである。

 自分が最近読む本を友人に話したら異常だと云われた。たまに読むならまだしも、そういったものばかりは可笑しいとのこと。これが上に書いたような高校生に云われたら「嗚呼俺って可笑しいんだなぁ」ってある程度認識することが出来るが、異常だと云い放った友人は小学校高学年の時に『人間失格』を読破して、何か凄いものを感じ取った只者では無い人。そんな友人に云われてもねぇ…。

 兎に角、自分は暗くて考えさせる本を良く読む。当然、そういった本は深い。どれ位深いかと云われたら非常に深い。読んだ後に心の奥底に何かを感じ取る事が出来るくらい。『飼育』を読み終えた時も何か自分の心の中に言い表せない何かぼやけた物を感じ、そして次第にそれが具現化して行って何か大きいメッセージを感じる事が出来た。そしてちょっとしたショックを憶えた。偉そうなこと書いてるが、所詮阿房な若造が感じたことなんでお許しを。人生経験と年を重ねてもう一度読めばまた何か違う、若しくは今感じたことを発展させたような物を感じ取ることが出来ると思う。だから今は今でいいと思う。という名の開き直り。

 しかしいくら只者では無い友人が云ったとはいえ、確かにこういった本ばかり読むのはちょっと可笑しい。と今ふと思った。これから気分転換(息抜き)感覚でヒット作でも読んでみるか。



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