【過去拍手集。】




------clap_novel-no,21[タロナカ子]

「ナカ子ちゃんはさ、季節でいつが好き?」

「秋だな。」
「え、意外…絶対春だって思った」
「何故だ?」
「だってほら、唄ってるじゃん。咲き誇れーって」
「あれはあくまで唄だ。好きかどうかはまた別の問題だと思うが」
「うーん…でもなー。イメージがなぁー」
「イメージ?私のか」
「うん。その黒いセーラーに薄紅の桜がもう超似合うっていうか」
「それは私のイメージではなく、お前の趣味の話じゃないのか」
「そうだけどさー」
「あっさり認めたものだなおい。」
「だってナカ子ちゃんって、俺の趣味そのまんまだもん」
「だが春は好かんぞ私は」
「えーなんでーどうせ9割俺の趣味なんだから残りの1割くらいおまけして春好きになってよー」
「貴様の趣味で私はこの恰好をしている訳ではないという事を、今から身体に叩き込んでやろうか」
「わ。銃刀法違反だからその長いのしまってしまって。てかいっつもその刀何処に持ってるの?」
「企業秘密だ」
「でもさー、何で春嫌いなの」
「…それはー…ふぇ、くしゅ」
「あー……花粉症?」
「くしゅっ!くしゅん!!…ああそうだ。この手のアレルギー体質の者に春を好きになれなど、馬鹿も休み休み言えという話…くしゅんっ!」
「……」
「何だ。気色悪い顔をして」
「んー、ナカ子ちゃんのくしゃみ、可愛いな〜って」
「貴様そこへ直れ今すぐ花粉分子レベルまで粉砕してやる」





------clap_novel-no,22[タロナカ]

 世界の色が変わる瞬間というのは、確かにある。


「ナカジナカジ!あのさ、今日の宿題なんだけどさー」
「…またか。少しは自力でやろうと気は起きないのか」
 例えば、今まで耳にしたこともないような音楽と出合った時。
 空気を伝わり鼓膜を震わせる音は、脳を揺らし全身を揺らし、そして俺の視野を無限大に広げる。
 怖いくらいに広がった視界で世界は瞬時に色を変え、今まで俺にとって何の意味も持っていなかったようなモノが、突然存在を主張して様々な意思を訴えかける。
 それらを必死で汲み取ろうと俺は音を追いかけ世界を追いかけ、そして自らも音を紡ぐ。
 例えば、などと言ったが、つい最近まで俺の視界を変えるものと言ったら大概の場合、音楽と決まっていた。
 音楽こそが俺の世界を作り上げ、作り変えていたのに。
「…んー、わっかんない」
「貴様…やる気ないだろう」
 今現在、音楽の他にもうひとつだけ、俺の世界の色を変えるものが存在してしまっている。
 その存在は俺の目の前で、いかにも軽そうな頭をこくんと傾げてみせた。
 数学の基本となる公式一つ碌に理解していないこんな奴が何故、と何度も考えた。
 考えたが、分からなかった。
 理屈ではないのだ。
 音楽と同じで、音楽以上に。
「あ、飛行機雲!明日は晴れるね!」
「おい」
 タローにつられて見上げた空は、どういうわけか、今までに見たこともないほど綺麗な色をしていた。


「付き合いきれるか。帰る」
「え、ちょ、見捨てないでよナカジ!」


 分かってはいても、素直になって認めるためには今しばらくの時間がかかる。





------clap_novel-no,23[ナカタロ]

「ナカジって、実は俺の事嫌いだろ」
 過去タローの口から同じ台詞を何度か聞いたことのあるナカジは、特に取り乱すこともなく、何を言うでもなく、ただ今回はもう少し相手の出方を見てみようと、しばしの間沈黙を守った。
 すると案の定、反応が返ってこない事に耐えかねたタローが、早々に痺れを切らす。
「…なに黙ってんだよ。こう、違うとか、そんなつもりじゃなかったとか、素直になれないだけなんだとか、何か言う事あるだろ」
 何か言え、と急かすその例えの内容は、自らの発言の否定を意味するものばかり。
 そんなに認めてほしくないのなら最初から言わなければいいのにこの馬鹿は、等と考えているナカジの根性は相当にねじれている、とクラスメイトの間で評判だ。
 そんなムーンサルト級のひねくれた性格を有している人物が、望まれた言葉を素直に言うだろうか。
「―――よく嫌いだって分かったな」
 言うわけがなかった。
 極めて真摯な声と態度を装って、ナカジが望まれたのと真逆の答えを提示すると、タローは一瞬表情を凍らせた。
 そして言葉の意味を理解した途端、肩を悲しみと怒りが入り混じった感情でもって震わせ、叫ぶ。
「ナカジの…っ…ナカジのバカ―――っ!!!」
 タローは気付かない。
 目の前でナカジが、タローをからかう時にいつも見せる相当に意地の悪い笑みを浮かべている事に。




「…あいつら、よく飽きねーなぁ」
 二人の様子を教室の一角から眺め、ニッキーが呟く。
「俺が見たことあるだけでも、もう2、3回は同じようなやり取りしてるぞ」
 呆れたようにそう言ったのは、同じく様子を見ていたショウ。
 彼が見ただけで2、3回。全数は推して知るべし。
「どっちもどっちでモノ好きって事だろ」
 つよしの発言に一同は同意した。
 何度も同じように突っかかるタローもタローなら、それを飽きもせずからかい続けるナカジもナカジ。
 本人たちは自覚もなく、認めもしないだろうが、周囲から見ればある意味立派なバカップルである。





------clap_novel-no,24[ナカタロ]

 急ごしらえの水溜りが、足元でばしゃばしゃと音を立てて跳ね上がる。
 跳ね返った雨水で制服が汚れる心配などしなかった。
 何故なら、突然の土砂降りでそんな些細な事を気に留める必要がないほど、既に全身びしょ濡れだったから。
「うひゃぁー、ひどい目にあった」
 普段滅多に利用しないバス停留所の屋根の下、濡れてしまったあとでは今更のような緊急避難を遂げて、タローは声を上げた。
「すげー雨。もしかしてまだ梅雨ー?」
「ただの夕立だろ」
 髪から滴る水を拭いながら季節感のずれた事を言い出すタローに、眼鏡の水滴を拭いていたナカジが呆れて突っ込む。
 空は厚い雨雲のせいで不気味なほど薄暗く、どこか遠く近い場所で雷が鳴っている。
 ふと、空の様子を窺っていたタローの視線がナカジに注がれ、直後不自然に泳ぐ。
「なんだ」
 それをナカジが見とがめると、視線はさらに周囲を彷徨った。
「あっと、いや、その、ずぶ濡れだなぁって思って」
 歯切れの悪い回答に、眼鏡をかけ直し自分と相手とを交互に見やって、ナカジは得心した。
 二人ともに頬や首筋、鎖骨の辺りに水滴を這わせ、しとどに濡れたシャツが肌に貼り付いて、うっすらと透けている。
「何考えた、スケベ」
「なっ…!ナカジには言われたくない!」
 言葉を濁し視線を泳がせた理由があからさま過ぎてそうからかうと、途端にタローの顔に血が上る。
 この類稀なる分かりやすさと、普段の諦めを知らないひた向きな純粋さ。
 愛すべき馬鹿とはきっとお前の事を指すのだろう、とナカジは考えなくもなかったが、それをわざわざ声に出すような性格はしていない。
「ってことは、やっぱ考えてたのか」
 代わりに口にするのは、少々捻くれた言葉。
「ぇ…あ…っ!」
 またタローの顔が赤みを増すのを見て、ナカジは口端を持ち上げて意地の悪い笑みを浮かべる。
 墓穴を掘った事に気づいて二の句を告げなくなっている少年から視線を外し、相変わらず土砂降りの空を見上げた。
 あいにくと、まだ止みそうな気配はない。
「―――ここからならお前の家の方が近いな。おい、走るぞ」
「ぇ、あ、うん」
 走り出す直前、一瞬話題が変わったことについていけず反応の遅れたタローの耳元に唇を寄せて、ナカジは意識して低めの声を吹き込む。
「俺に『は』とか言いやがった事、後悔させてやる」
「…なッ…!!」
 再び言葉を失い出遅れたタローを置いて、ナカジは土砂降りの中を走りだした。


「ッの……絶対、ナカジのがスケベじゃん…!」





------clap_novel-no,25[ナカジ21]

「ごちそう、さま」
 かちゃりと皿の上に箸をそろえて置き、正道は控えめな食後の挨拶をした。
 食卓に並べられた皿は全て空で、盛り付けられていた料理の全てが今や正道の胃袋に収められていることを物語っていた。
「おそまつさま。おいしかったかい?」
 並んだ料理は、返事を返しながら手際よく皿を重ねていく兄・仲路の支度によるもので、完食してもらった事が嬉しかったのか、尋ねる声はどことなく弾んでいる。
「…あぁ」
 その笑顔を直視できず、正道は微かに視線を彷徨わせたが、結局素直に頷いた。
「ならよかった」
「…っ…おい」
 食器をもって立ち上がろうとした兄を、正道は意を決して呼び止めた。
 しかし、呼び止めたはいいがその後に続く筈の言葉が容易には出てこない。
「…どうかしたのか?」
 訝しげな顔をした仲路に促されて、それでようやく意を決して口を開いた。
「そ、の……俺は口が悪くていつも憎まれ口しか叩けないけど、食事の支度だとか、掃除だとか、本当は、すごく有り難いと思って、る」
 今まで聞いた事のない謝辞に、仲路の瞳が一瞬驚きに丸くなって、それから徐々に喜びに細められる。
 が、今まで言えずにきた「伝えるべき事」を必死に言い募る正道には、その表情を見る余裕がない。
「俺、今まで反発ばっかして、ろくに礼も言えてなかった」
 せめて感謝の意だけでも伝えたいと懸命に言葉を選ぶが、どうしてもぶっきらぼうな物言いになって、それが正道には酷くもどかしい。
 それでも、言っておきたい。
「今更、だけど……ぁ、りがとう…」
 視線は下に外したまま、それでも僅かでも自分に素直になろうと決意して紡がれた弟の感謝の言葉は、仲路の心を打った。
 手にしていた食器を置いて、正道の頬を撫でるように触れる。
「いいんだ、俺は好きでやってるんだから。それよりも今は、正道がそうやって素直になってくれた事が何よりも嬉しいよ」
「え…」
 驚いて顔をあげた正道の視界には、兄の心からの笑顔。
 自然と二人の顔の距離は縮まって、程なく互いの唇が―――



「待てっ!待て待て待て待てぇっ!!!何だこれは!?何だこの気色悪い捏造はっ!?」
「禁断の兄弟愛・二人の和解、ツンデレな弟の感謝の気持ち編だよ!」
「だよ、じゃねぇえぇぇっ!!テメェの腐りきった有毒脳内妄想を白日に晒すな!!」
「素直になれない正道の為に具体例をあげてみたつもりなんだけどなぁ。こんな感じで是非ナカナカにも正道のデレ分を…」
「誰がこんなことするかぁあぁあぁっ!!!死ねっ!頼むから死んでくれっ!!」
「さてはて、これが実現される日は訪れるのか?乞うご期待☆」
「訪れてたまるかっ!!」





------clap_novel-no,26[タロナカ]

「…俺さ、ナカジのこと好きだよ。すっごい大好き。ずーっと引っ付いてたいくらい愛して―――」
「その四六時中しまりのない口を閉じろ脳味噌常夏野郎」
「常夏って一年中ずっと夏ってことだよね?すっげーナカジ!どうして俺がそうだったらいいなーって思ってること知っ―――」
「言っとくが、お前の願望を当ててやったわけじゃねーぞ。常春を通り越して常夏って意味だ」
「…?春の次は夏に決まってんじゃん。変なナカジ」
「……」
「でさ、俺はもうこれ以上ないくらい、もう春でも夏でも秋でも冬でもぎゅってして突っ込ん」
 がんっ。
「貴様はモラルという言葉が実在しているのを知っているか」
「…よくわかんないけど、えーととにかく。一年中ぎゅってしてたいくらい好きなんだけど、でもね、その」
「―――なんだ」
「この季節にマフラーはね、さすがにぎゅってし続ける自信がないよ…」
「余計な世話だ。というか、むしろ引っ付くな、一年中」
「えー…確かにさぁ世間じゃストールとか流行ってるけどさぁ、ナカジのそれってマジマフラーなんだもん。とろうよー、ぎゅってしたいじゃんかー」
「やかましい」



「―――というやり取りがあったわけなんですが、ナカジにマフラーを外させるにはどうしたらいいと思いますか。はいっサイバー君!」
「何ノリだそれは。つうか、無理だろ今更ナカジにマフラー外させるとか。むしろマフラーと眼鏡どっちか欠けるとナカジ的にキャラ立たないんじゃ」
「待てこら、ハッキリ言ってやるなよ」
「うっ」
「まてまてまてまて、お前も思うのかよっ!」
「じゃあ…じゃあ俺は一体どうすれば…!!」
「―――マフラーごと愛してやればいいんじゃね?お前の海のように大きな愛で」
「それだぁ!!」
「……よくそんなくさい台詞言えるなサイバー」
「そこよりタローの単純さに突っ込んだ方がいいんじゃねぇか?リュータ」





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