【過去拍手集。】
------clap_novel-no,01[タロナカ]
「ナカジー?ナカジー、ほらーもう認めちゃおうよー。そうすれば楽になるよー」
多分。や、実はよく知らないけど。
今日も今日とて、意地っ張りで素直じゃないナカジをとりあえず壁際まで追い詰めて、いつものように降参を迫ってみているところ。
「き…」
「き?」
マフラーに埋めたままの口元から、少し聞き取りづらい言葉の断片。
…ホントはさ、聞き返さなくっても「キライ」の「き」だって解ってるんだけどさ。
「貴様なんか―――」
「うん?」
あ、違った。
首を少し傾げて問い返した時に見えたマフラーと帽子に隠れていない耳が、心なしか赤い。うーん、可愛い。
あれ、いや、でもこれって。
次の瞬間、勢いよく上げられた顔の、眼鏡越しの眼に睨まれた。
「貴様なんか大嫌いだ!!」
「うわぁい」
―――ナカジは今日も頑なに意地を張る。
と、言うか。
大嫌い。
嫌いの上に大がついてるよ。
本日、一歩後退。
------clap_novel-no,02[タロナカ]
垂れ幕が上がるとそこにはナカジとタロー。
共に正座。
「この度の拍手送信、誠に有り難うございます。このサイトを代表して、深く、心よりのお礼を申し上げます」
「えーと、これを励みに、今後もよりよい?サイトを目指して…しょ、しょーじん?して…えと。とにかく、これからも頑張るからよろしくね!」
「―――本日は、誠に有り難うございました」
「ありがとうございました!!」
一瞬タローを睨んだ後、深々と頭を下げるナカジ。
慌ててそれに倣うタロー。
「……なんかさ、これってやっぱ違くない?」
「どこがだ。サイト訪問者様の激励へのお礼として完璧だ。完璧じゃないのは貴様のトリ脳だけだ」
顔を上げ、首を傾げるタロー。
何を根拠としているのか、自信たっぷりに言って背筋を伸ばすナカジ。
「でもさー、普通お礼に求められるモノってこういうのじゃないと思うんだけど」
「―――ならば、どういうモノがお礼として相応しいのか例を挙げて見せろ」
「んー、たとえばぁ…こう、もっと色気のある内容とか?」
どさり、とナカジを押し倒すタロー。
「……はぁ?」
状況が飲み込めず、ただ見上げるナカジ。
「こう、さ、現在タロナカタロ中心サイトなんだから、もっとそれっぽい内容のお礼をね?」
「っ…しなくていい!退け!!」
「やだー。今日は折角拍手してくださった方の為にサービスたっぷりで―――」
言葉の途中、ナカジの肩口に顔を埋め黙るタロー。
「……?おい、どうした…?」
さすがにおかしいと思い、問いかけるナカジ。
「…っ……ぁし、が…痺れて……」
「………どけ、この大莫迦野郎!!」
げしん。
「ぎゃん!」
容赦なく蹴り上げ、タローの身体の下から這い出すナカジ。
転がるタロー。
「ひ…酷いよナカジ…」
「………」
「ぁああぁあ!やめて足は踏まないで!マジ痛いんだってば!!」
ナカジ、揃えて置いてあった下駄を履いて退場。
転がったままのタロー。
―幕―
------clap_novel-no,03[タロナカ]
「ナカジの一番って何―?」
「ギター」
「―――答えんの早いよ」
「因みに二番は唄で三番は音楽」
「ギターと唄と音楽が別々っておかしくない?」
「自分でやるのと聞くのは違う」
「ふーん……三番までびっちりか。ちょっと辛そう」
「何がだ」
「ナカジの一番になる事」
「―――貴様の一番も、サーフィンだろうが」
「あ、そっか。うーん…どうしたものかな」
・
・
・
「わかった!」
「は?」
「ナカジは、俺のナンバーレス!」
「…は?」
「ナカジの一番はギターでしょ?」
「…ああ」
「俺の一番はサーフィンだし」
「…らいしな」
「だから、ナカジは俺のナンバーレス!一番とか、そうゆーんじゃないんだよ。もう順番とか付けらんないの」
「………」
「で、今後の俺の目標はナカジのナンバーレスになる事!でどうよ」
順番なんか、つけた事がない。
一番か二番か、考えた事もない。
ならばコイツは、とっくにナンバーレスだ。
------clap_novel-no,04[タロナカ]
ナカジを、怒らせた。
きっかけは…ううん、今はもうそんな事言ってる段階じゃない。
「ナカジーナカジー」
「―――」
完全無視。顔の前で手を振ったりしてみるけど、マフラーに口元埋めてギター抱えて、視線すらよこしてくれない。
煩い、とか、うざい、すら言わないのは、ホントに相当怒ってる証拠だ。
「ナカジぃ…ねぇ、ごめんってば」
「―――」
一応謝ってみたりしてるんだけど、やっぱり聞き入れちゃくれないらしい。
何かなー…さすがに寂しくなってきたし哀しくなってきたし、折角ナカジが目の前にいるんだしちゅーもしたくなってきた。
あ、そうだ。いい事考えた。
ふ、と。遠慮なんかしないで至近距離でナカジの顔を、というか、眼を覗き込む。
強制的に合わせた視線。引力でも帯びてるみたいな黒い黒い瞳。
少し惜しいと思いながら、ふい、と自分から視線をそらす。多分反射的だと思うけど、ナカジの視線もそれを微かに追ってくる。
大丈夫、全部全部完璧に無視されてるわけじゃない。
「あ」
かたん。
微かに声を上げて、ちょっと椅子を鳴らして、俺は上を見ながらほんの少し腰を浮かせた。
「――?」
自然、反射的に俺の視線を追って上げられるナカジの顔。マフラーから覗く唇。
ちゃーんす。
ちゅっ。
「っ…!?」
「ぇへへー奪っちゃったー♪」
次の瞬間、顔を耳まで真っ赤に染めたナカジに殴り倒されて、その後一週間くらいまともに口もきいて貰えなかった俺。
あんまりだ。
------clap_novel-no,05[タロナカ]
小難しい理屈打ち棄てて
凝った常識蹴りだして
せめて届け 伝え こいごこ―――…
使っていたシャーペンでがしがしと乱暴に文字を塗りつぶし、それでもまだ収まらず、ぐしゃりと紙を握り潰してゴミ箱へ叩きつけた。
「あれ、ナカジってばトランプ?」
スランプだ、莫迦。
「もー駄目だよナカジ、ここは突っ込まなきゃ!」
突っ込むか阿呆。
「ナカジー?」
呼ぶな近付くな覗き込むな不愉快なんだよ!
覗きこむタローを極力無視して、投げ出したシャーペンを引っ掴んで、真っ白な紙を睨んで、神経質っぽくコツコツと机を叩く。
勿論、そんな事をしたって新しい歌詞が降って沸いて出たりはしない。代わりにさっき書きかけた俺にはまるでそぐわない言葉が、頭の中でぐるぐると回る。
ああもう、自分が信じられない。
0.3oHBの芯で中途半端に塗りつぶされ、ゴミ箱の中でぐしゃぐしゃと丸まっているそれは。まるで、自身が毛嫌いしている安っぽいラブソングのよう。
本当はもっと別の、いつも通り何処か捻くれた、俺の心そのものみたいな言葉が並んで綴られる筈だったのに。
コイツが、タローが、目の前をウロウロと歩くから!
「ね、ね、今度の新曲はどんな感じの曲?」
安っぽいラブソングでない事だけは確かだ。
「俺さ、実はさ、ナカジの作るラブソングっぽいのって聴いてみたいんだよね!」
―――コイツはどうしてこうも毎回、いらんタイミングでいらん事をのたまいやがる。
「絶対作らない」
「えー」
誰が作るものか。
誰が認めるものか。
この大馬鹿野郎宛のラブソングなど。