2ナカ1ナカ ドッペル編でありえないくらいの甘々ラブラブ。
【if/救いの日】
それは、言ってみればとてもありきたりな願いで、とてもありふれた想い。
例えば、面白みもなく使い古されて何の意外性も伴わない言葉にするのなら。
世界が終わるその瞬間に、ただ二人で想いあっていられれば。
それだけで、報われる。
それだけが、救ってくれる。
この、手の下しようのない魂を。
「まあ、つまりはそういう事なんだよ。何も難しい事じゃない、たったそれだけの為に、そんな事の為に、俺はこうやってお前の傍にいるわけだ」
至極当然の事のように、当たり前の事を今更わざわざ口に出してやったのだとでも言うように、その男は少々厭味ったらしく繊細に笑った。
壊れてしまいそうには見えたが、消えてしまいそうには見えなかった。
「随分回りくどくて、自分勝手で、質が悪い」
もはや癖のように悪態をつく口とは裏腹に、少年は知る。
思えば出会った時から、この男の存在はどこまでも孤独だった。
一目で、何も持っていないと分かる程。
目が合ってうっそりと笑ったあの表情は、もしかしたら破顔していたのかもしれない。
ようやっと、自分の半身を探し当てたことに。
「回りくどくても、自分勝手でも、悪質でも粗悪でも、粗雑でも劣悪でも、届きさえすればなんだっていいよ」
思い知らせる事ができれば、まさにそれだけで十分だった。
内実なんてどうでもよくて、想いの種類など興味がなくて、その感情が狂気だと知りながら尚、執着だけが欲しかった。
まるで、不器用な恋のように。
「……恥ずかしい野郎だな」
少年が目を背けたのは拒絶や否定ではなく、それが直視できない程歪んだ真っすぐな告白だと気付いたから。
要するに、ある種の照れからくる視線の動き。
度重なる異常な程の束縛にはしかし、確かに逃げ道はあったのだ。
迷う事なく、振り返りもせず、その存在を肯定した上で逃げて逃げて逃げれば、きっとそこで途切れていた。
或は単純に哀れんでそれ以上の興味を抱かなければ、こんな理解にたどり着いたりはしなかった。
けれど、微かに確かに、想ってしまった。
哀れで薄汚くて醜悪で、紅く深く暗い狂気を抱いた、この半身を。
「――逃げなくなったね。決心はついたか?」
触れて抱きしめて囁く声は場違いに幸せそうで、同時にその根底に根付く冷たく暗い妄執を感じさせずにはいられない。
「…つくわけ無いだろう」
抱擁を拒まないのは確かにある意味の決心だったが、それは青年と同じ闇に呑まれるためのものではない。
二人だけで、二人きりで。互いだけを見て互いだけを必要として互いだけを求めて、深い悲しみや絶望や孤独、そんなヒトの闇の中で全てに幕を引く。
――そうじゃない。求めるべきは、そんな最期じゃない。
「お前こそ、いい加減にしたらどうだ」
一度受け入れた抱擁を突き放し、少年は言った。
きっぱりと、突き付けるように。
「――やめるわけ無いだろう。俺はお前を」
「そうじゃない」
誤解の言葉を、途中で断ち切る。
この、一種異様な執着をやめろと言っているわけではなかった。今となってはそれが不可能な事を一番理解しているのは、本人よりも少年の方かもしれない。
だから、少年――中嶋正道が止めたかったのは。
「いい加減、終わらせることばかり考えるのを止めろと言ったんだ。俺が、一緒に居てやるから」
真正面から、睨み付けるような強さで見つめて宣言する。
自分は気が違ったのかも知れないと思わなくはなかったが、本心なのだから仕方なかった。
「―――はは、ぁは…正道って、ホントお馬鹿さんだねぇ」
後藤仲路は、初めて見せる顔で破顔した。
「そんなんで、俺が救われるとでも思ってるの」
あまりに予想外の事態に、泣き笑う。
想定外、範疇外、想像を超えた言葉。
救われない、わけがない。
「知るか」
不器用に伸ばされた少年の腕が、不器用にしか生きられずにいた青年の頭を抱いた。
……甘々とか、ラブラブとか、書く度にズレていくような気がするんですが、これ如何に。
if。あり得るかも知れないし、あり得ないかも知れない、まるで夢のような救いの日。[石凪]
絵は仕様なので、ラブラブ分は入れた文字から感じ取って下さい。加工したらお兄ちゃんの涙消えた
どうあっても後ろからぎゅぅ、がすきらしい[浮絵]