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2ナカ1ナカ お風呂場でイチャイチャらぶらぶ!





【人生の洗濯】

 風呂は人生の洗濯である。
 果たしてそう言ったのが誰であるのかなど知らないが、言われてみれば確かにそうだと納得する。
 身体についた一日の汚れを洗い落とし、そして今日という日を振り返る。思い出したくないことも多々あったりもするが、そこはそれ、洗濯なのだから洗い流せばいいのだ。
 が、しかし。
 今のこの状況では、洗い流そうにも洗い流せない。
 一体どうしてくれる先人よ。



「風呂はいいねぇ、人類が生み出した文化の極みだよ」
「この状況で突然何の話だ貴様」
 俺は隣で何事かわけのわからない事をほざき出した変態…もとい、後藤を睨んだ。
 この状況。
 つまり、自宅アパートの狭い風呂にどういうわけか大の男二人でつかっているという、むさ苦し過ぎる構図の事なのだが。
 一体何故こんな状況に陥っているのか。
「貧相な身体だからって照れなくてもいいんだよ正道、たまには兄弟水入らずでお風呂とかもいいよね」
「照れねてぇ!」
 貧相言うな!
 …で、なんでこんな状況になっているかというと、当然、こいつが俺の入浴中に押し入ってきたからだ。
 それだけならまだい…いや、よくないが、それ以上に問題なのは。
「大体これは何だ!何で俺が風呂場で手錠をかけられなきゃならねぇんだ!」
 一番の問題はそこだった。
 この変態は笑顔で風呂場に侵入し、同じく笑顔で素早く俺に手錠をかけやがった。
 言うまでもないが、こいつが用いる手錠が玩具であるはずがない。
「大丈夫。ステンレス合金は濡れても錆びないから」
「意味わかんねぇ!つかどうでもいい!」
 殴りかかろうとするが、手が繋がれているせいと湯船が狭いせいでバランスをもろに崩す。
 そしてやっぱり狭いので、倒れかけた身体は頭からお湯に突っ込む前に、後藤の身体へ寄りかかるようにぶつかった。
 まずい、逃げなければ。が、両手が繋がっているというのは思った以上に不自由だ…!
「こんな狭いお風呂場で暴れられたら面倒だなぁ、と思ってつけたんだけど…正道の方から襲ってくれるなんて、必要なかったかな」
 ろくにもがく事もできないうちに、いつの間にか後ろに回っていた腕が俺を拘束する。
 この男を前にしていると俺の中でいつも鳴りっぱなしの警戒アラームが、いよいよ赤く明滅して危険度が最高値に近づいた事を喧しくがなりたてた。
「断じて襲ってねぇっ!」
 こんな狭い場所でこんな野郎と密着しているなど、危険極まりない。
 どうにか抜け出そうと必死で両腕を突っ張り胸板を押し返そうとするが、悔しい事にびくともしない。距離が近過ぎて満足に力が入らない。
 …正面からまともに張り合ったとしても腕力その他で勝った試しがないのだから、この場合の言い訳に意味などないのだが。
「あぁもう駄目だよ正道、そんな風に動いたらお兄ちゃん感じちゃ」
「気色わりぃ事ぬかしてんじゃねぇっ!大体てめぇどこ触ってやがる!」
「正道の貧相なお尻」
「答えんな!」
 人の神経を逆撫でる事を最優先しているとしか思えない物言いに、今度こそ渾身の力をこめて腕を突っ張る。が。
 ごん。
 爪を立てることすら辞さない覚悟を決めた途端、それをわかっていたかのように突然拘束が外され、俺は風呂場の壁に後ろ頭で頭突きをかます羽目になった。
「っつ、ぅ…」
 痛みによって倍増した腹立たしさを尚煽るのは、打った後頭部を手で押さえるにも手錠の拘束を考慮して、鎖の部分が頭上を通過できる高さまで腕を上げなければいけないという不自由な事実。
 俺がそうやって痛む頭部を抱え込んでいると、急に湯船の水かさが減る。意外な事に、後藤が風呂から上がったのだ。
 …絶対に、さっき以上の何かを仕掛けてくると思っていたのに。
 しかして、俺のその予想は外れなかった。
「さて、そろそろ身体を洗ってあげるよ正道」
 この笑顔を胡散臭いと形容せずして、一体何を胡散臭いと評するのか。
 男はそんな微笑みでもって、俺に手を差しのべた。まさか、俺が大人しくその手を取るなんて思ってもいないだろうに。
 この変態に自分から接触を許すなど、マグマの海にダイブする以上の危険行為だ。
「激しく遠慮する。大体、身体を洗うくらい自分で…」
「手錠したままで?」
「…」
 思考する。手錠で両手を繋がれた状況下での、タオルの可動範囲を。
 …どう考えても、背中はお手上げだった。それ以前に、おそらく腕もまともに洗えない。加えて、俺はもともと身体が柔らかい方ではない。
「外せ。今すぐ外せ。速やかに外せ。そして風呂場から出て行け」
 それが結論だった。
 じぶんでも自覚しているきつめの視線をさらに険しくして、いっそ目で射殺してやろうかという呪いすら上乗せして睨むが、全く意に介されない。
「照れ屋さんだなぁ正道は。大丈夫だよ、心配しなくても隅々まで洗って綺麗にしてあげるから」
「誰がんな心配するか!―――って、テメェ!離せ!」
 ひょい、と。
 いつまでも手を取らずに睨んでいたら、まるで子供に対してしているかのように軽々抱えられて湯船から出されてしまった。
 何たる屈辱…!
「まぁ、いくら洗っても顔の造形は綺麗になりようがないけどねぇ」
 余計な世話だ!
 膝蹴りをくらわせてやろうと片足を持ち上げたら、片手であっさり止められた挙句、そのまま抱え込まれてしまった。
 しまった…こんな不安定な体制じゃあ、今まで以上に抵抗なんかできやしない…!
「あ、因みにタオルやスポンジの代わりに、お兄ちゃんの手で直洗いだから。その方が細かいところとか、普段手の届かない奥の方を洗うのに都合がいいしね」
「っ!!冗談じゃ、ねぇ…!いっぺん死にやがれど腐れ野郎っ!!」

 密室である風呂場に、独特の余韻を持って俺の絶叫が反響した。
 そして、それだけだった。


 風呂は、人生の洗濯である。
 しかし、その風呂までが俺にとって洗い流して忘れてしまいたい出来事の現場になってしまった時。
 人生の洗濯とやらは一体どこでしたらいいのだろう。

 残念ながら、先人はそんな事までは示してくれないのだった。











リクは『お風呂でいちゃらぶ』だった筈なのですが、結局いつもと変わりませんでした。誠に申し訳ございません。
お兄ちゃんが一方的にいちゃいちゃしても、正道がらぶらぶしてくれませんでした。
…これが当家21なりのいちゃらぶという事でひとつ!(←
こう、頑張って邪な目で見れば、こんなのもいちゃらぶに見えて…きませんかね無理ですかね。[石凪]
絵は仕様なので、正道んちの風呂はあんなに乙女デザインじゃないです。[浮絵]