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   脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)

東札幌脳神経クリニック 院長 高橋明弘



― Page1目次 ―
  【1】脳脊髄液(髄液)の働きと髄液減少
  【2】脳脊髄液減少症の主な症状と特徴
  【3】髄液減少の原因
  【4】脊椎部髄液漏出症
      1)脊椎部続発性(医原性)髄液漏出症{腰椎(硬膜)穿針後頭痛}
      2)脊椎部特発性髄液漏出症

【1】脳脊髄液(髄液)の働きと髄液減少

 髄液は動脈血液を原料として、血圧を動力源として、脳室内の脈絡叢で主に産生され、脳室とくも膜下腔を循環して、脳のてっぺんにある静脈で主に吸収されて静脈血液に戻ると考えられています。髄液には液の浮力で脳脊髄を守る作用、脳脊髄の環境を一定に保つなど潤滑油的は作用、などがあります。髄液が減少した状態で起き続けていると、頭蓋内の髄液が脊椎部に移動して液による脳の浮力が低下し、脳の位置が下方に移動して脳を支えている血管や神経が引っ張られ、又、痛覚感受性の高い頭蓋底部の硬膜に異常な圧が加わり、頭痛や脳神経の症状などが出現します。脳脊髄の潤滑油不足は脳脊髄全体の機能に異常を引き起こし、全身性の多彩な症状が出現します。

【2】脳脊髄液減少症の主な症状と特徴

 @頭痛・後頚部痛  A倦怠・疲労感 Bめまい・耳鳴り C視力低下・複視などの症状が起き続けると、出現または悪化し、横になると軽快します。

【3】髄液減少の原因

 髄液の減少は、産生量の低下、吸収亢進、漏出、これらの組み合わせで生じます。産生量の低下は、脱水症(原料不足)や低血圧症(動力不足)が原因となって生じます。吸収亢進は理論的には有り得るのですが証明されていません。漏出は、1)部位によりア)頭部から、イ)脊椎部から、2)原因により、ア)続発性:@医療行為によるもの(腰椎穿針によるもの、手術部位からのもの、髄液シャント術後の髄液流れ過ぎ)やA外傷性(頭蓋底骨折による髄液耳漏・鼻漏れ、脊髄骨折によるもの、刃物の穿刺によるものなど、硬膜を直接的に損傷する外傷が原因のもの)と、イ)特発性:原因がよく分からないもの(軽微な外傷が先行することはあるが、硬膜を直接的に損傷する外傷はない)、に分類されます。広義の脳脊髄液減少症はこのように広い疾患概念なのですが、一般的には脊椎部からの髄液漏出のみを指して使用されています。脳脊髄液減少症研究会の脳脊髄液減少症ガイドライン2007では、「脳脊髄液腔から髄液が持続的ないし断続的に漏出することによって髄液が減少し,頭痛,頸部痛,めまい,耳鳴り,視機能障害,倦怠などさまざまな症状を呈する疾患である」と定義して、脳脊髄液減少症=髄液漏出症を意味しています。

【4】脊椎部髄液漏出症

 1)脊椎部続発性(医原性)髄液漏出症{腰椎(硬膜)穿針後頭痛}


 腰椎(硬膜)穿刺部の針穴からの髄液漏出が持続することがあります。針穴から髄液が湧き出るように漏出するため、起き上がると激しい頭痛・後頚部痛・吐き気などの症状が出現して、横になると消失します。病変は腰椎部なのに、症状は頭部で、原因(病変)と結果(症状)が離れているのが特徴です。原因は針による硬膜の損傷(外傷)です。外傷に対しては、生まれつきもっている自然治癒力で対処が可能です。多くの場合、髄液が漏れにくい「横になる安静」を継続していると、針穴は自然に治癒します。自然治癒が得られなかった場合には、ブラッドパッチも有効な治療方法です。この腰椎(硬膜)穿針後頭痛が脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)のプロトタイプ(原型)です。

 2)脊椎部特発性髄液漏出症


 脊椎部特発性髄液漏出症には先天的な素因と外力の二つの因子が関係していると考えられています。マルファン症候群のような結合組織疾患では、硬膜が生まれつき組織学的に弱くて、特別な外力がなくても自発性に破裂してしまうことがあります。特別な結合組織疾患がなくても、脊髄神経根部の硬膜に生まれつき「くも膜のう腫」などの先天的な脆弱部位を有している人がいて、自然に、または、比較的軽微な外力で破裂することがあります。これらは、原則的には一箇所からの湧き出る様な髄液漏出で、腰椎(硬膜)穿針後頭痛と類似した症状と検査所見があり、このタイプは従来から特発性低髄液圧症として知られてきました。
 脊髄神経根部の硬膜は円錐形でリアス式海岸に類似した形態をしていて、その頂点を脊髄神経根が貫きます。津波はリアス式海岸で高さが増幅されますが、身体への衝撃により髄液圧が急激に上昇した際に、脊髄神経根部に水圧のエネルギーが集中すると考察され、脊髄神経根部は損傷を受けやすい形態をしていると考えられています。筋肉や骨格系は、身体への衝撃を吸収して和らげますが、筋肉や骨格の発達の程度には個人差があります。衝撃があまりにも強い場合には、衝撃を和らげるにも限界があります。脊髄神経根部硬膜の強度を超える衝撃が加わった場合には、誰にでも髄液漏出が起き得ると推測されます。このタイプの髄液漏出は最近気づかれ、外傷後脳脊髄液減少症と呼ばれ、日本で社会問題となっているものです。

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