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脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)

東札幌脳神経クリニック 院長 高橋明弘

 ― Page2目次 ―
 【5】診察
 【6】画像診断
    1)脳MRI
    2)脊髄MRI&MRミエロ
    3)RI脳槽・脊髄液腔シンチ
【7】その他の診断法
   1)腰椎穿刺での髄液圧測定
   2)硬膜外生理食塩水注入試験
【8】治療
   1)急性期保存的治療
   2)ブラッドパッチ
   3)保存的治療

【5】診察

 診断には問診が重要で、日常生活に支障を来す、毎日続く激しい頭痛、めまい、全身倦怠感などの症状があり、頭部打
撲、むち打ち症、慢性片頭痛、起立性調節障害,精神的なものなどと診断されて治療を受けても効果が乏しい場合には、
脳脊髄液減少症を疑うべきです。発症前に外傷、激しい運動や力仕事、体幹の捻り、激しいせき込み、息み、脱水になる
ようなエピソードの存在、髄液検査や脊髄麻酔受けた既往、等があれば可能性はさらに高くなります。

【6】画像診断

 1)脳MRI


 髄液量減少による頭蓋内圧低下を代償するために、脳や硬膜血管が拡張するので、造影MRIで脳や硬膜血管の拡張を評価します。脳の下方偏位を評価するためには矢状断撮影、冠状断撮影が有用で、高位円蓋部硬膜下腔やくも膜下腔の拡大(大脳のてっぺんの隙間)と小脳扁桃の下垂を評価します。

 2)脊髄MRI&MRミエロ


 髄液漏れが激しい例では、脊髄MRIで硬膜外に液体貯留が認められることがあります。MRミエロでは、脊柱管内や傍脊柱筋の筋層間に液体貯留像が認められることがあります。脳・脊髄MR検査では異常所見が認められないことも多いので、所見はあくまでも参考に留めて、問診で脳脊髄液減少症が疑われたら、RI脳槽・脊髄液腔シンチを行うことが重要です。

 3)RI脳槽・脊髄液腔シンチ


 @早期膀胱内RI集積像  A脳脊髄液漏出像 BRIクリアランスの亢進(脳脊髄液腔RI残存率が24時間後に30%以下)で髄液漏出の部位と程度を評価します。

【7】その他の診断法

 1)腰椎穿刺での髄液圧測定


 必ずRI脳槽シンチ、または、CTミエロの際に行います。髄液圧が低くなくても脳脊髄液減少症は否定できません。腰椎穿刺が行われると一時的に症状が悪化します。圧を測定するためにだけに腰椎穿針が行われると、後日施行されるRI脳槽シンチ、または、CTミエロの結果に影響を与え、病気による髄液漏れか?硬膜穿刺による髄液漏れか?の判定が困難になります。圧を測定するためだけの目的で腰椎穿刺は行ってはいけません。

 2)硬膜外生理食塩水注入試験


 腰部硬膜外腔に生理食塩水を注入して、脊椎部の髄液を頭蓋内に押し上げて、見かけ上、脳脊髄液減少状態を改善させます。症状の改善がみられると、髄液は減少状態の可能性が高いと判断します。

【8】治療

 脊椎部髄液漏出症は脊髄硬膜の骨折と考えると理解しやすいと思います。骨折が新鮮(急性期)であれば、骨折部位を
ギブスで固定し安静にしていると自然にくっつきます。しかし、固定せずに動かし続けて時間が経過してしまった後(慢性期)に
固定してもくっつきません。脊椎部髄液漏出症の治療の基本は硬膜内の髄液が漏れにくい姿勢、すなわち、厳重な安静臥
床を続けることで、硬膜の自然治癒を促すことです。ブラッドパッチは保存的治療に反応がなかった患者や慢性期の患者に対
して、髄液が漏れている部位の近傍に血液を注入して、再度外傷を負ったことを身体に認識させる方法です。ブラッドパッチ
は時計の針を巻き戻す方法でしかありません。ブラッドパッチ後にも安静が必要です。

 1)急性期保存的治療


 成人では3ヶ月以内、小児や若年者の場合は1年以内であれば、保存的治療に反応することがあるので、一度は試してみるべき方法です。髄液が漏れにくい厳重な安静臥床を約2週間連続で行い、硬膜の自然修復を促す方法です。保存的治療のチャンスを逃さないために早期発見が重要です。

 2)ブラッドパッチ


 安静臥床の保存的治療が無効な患者や、慢性期の患者にはブラッドパッチも有効です。髄液漏出部位近傍の硬膜外腔に硬膜外針を留置して患者自身の血液を注入します。安全確認のため、局所麻酔で患者と会話して反応を確認しながら行います。治療後は硬膜外腔に注入された血液によって、脊椎部の髄液が頭蓋内に押し上げられて、症状が大幅に改善する(急性効果:風船効果)ことがあります。その後は炎症(自然治癒力)が引き起こされて、硬膜の損傷部位が癒着により治癒します(遅発性効果)。従って、治癒するまでの期間は安静が必要です。治療後の安静臥床期間は、特発性低髄液圧症では1週間です。外傷後脳脊髄液減少症の場合、2週間の安静臥床は必要で、その後に起きている時間を増やして、有酸素運動を加えて行きます。治療後の経過は患者毎に異なりますが、改善していたものが一度ダウンして、その後にアップ アンド ダウンを繰り返しながら、徐々に回復するパターンが多いようです。特発性低髄液圧症で髄液漏出部位の近くに施行できた場合は1回で治癒することが多いのですが、外傷後脳脊髄液減少症の場合、病変は多発性であるため、1箇所からの1回の治療で治癒することは多くありません。通常は複数回の治療が必要です。

 3)保存的治療


 自然治癒力を高めるためには、バランスのよい栄養、規則正しい睡眠、禁煙、心穏やかに過ごすことが重要です。胃もたれ、げっぷ、吐き気、便秘等の胃腸障害や睡眠障害がある場合には、薬剤による対処も必要です。

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