2012年 武蔵野テンカラ会 釣行記 NO7

最後の大淵を越えるとすぐ先に魚止メのが見えて来る。左右から岩がせりだして狭くなった谷を渡るとに辿り着く・・・滝壺はさほど大きくはないが、流れ落ちる水勢ははげしい。水深もあり、強いしぶきが釣り人の竿を押し戻すかのごとく掛かる。ここはオモリをつけて沈めて見たが反応はなかった。この滝上に出るには右岸を高巻く・・・しかし昨年の踏み跡は雪と雨に流されており、渓流靴で斜面を蹴り足場を作り、小枝に掴まりながら必死になって登る事となった。
滝上は穏やかな流れとなり小淵が連続して相変わらず岩魚が釣れる。時計を見ると午後1時だ、予定の3時に林道に出るまでにはまだ2時間はある。そんな渓相の中をしばらく釣り上がるとやがては浅瀬が続く様になる。その浅瀬からは今度はヤマメの良型が釣れ出した、数は少なくなったが、どのヤマメも25cmクラスの美しい魚体である。放流魚には見られないオレンジ色の肌はじつに惚れ惚れとする・・・はやがて右に左にと屈折を繰り返し前方の見通しが悪くなる、初めて此処を訪れた時には不安になったものだった。だがそれを過ぎると、胸を躍らせた楽しい釣りも終焉を迎える事となる。浅瀬の前方に大淵が現れそのすぐ上流に左岸から小沢が流れ込んでいる。此処まで釣り上がって10時間、私達はその小沢へと足を踏み入れた。まだ本流は続くのだが予定の3時に林道に出るにはこの小沢を登り詰める方が早く辿りつける。沢には林道工事のなごりだろうか、大きなドラム缶やらポリタンやら、先ほどまでの静粛が打ち消される様な風景となる。
こんなでも小柄ながら逆さ毛ばりに岩魚が飛びついて来た・・・林道まではたいした距離ではないが、落差があるので疲れた身体にはかなり堪える。しかし、しばらくの間我慢をして登れば林道に出られる・・・私達が林道に到達したのは計画通りの午後3時だった。あとはこの林道を3時間半下るだけである・・・

平坦になったりまた落差のある流れになったりと、変化に富んだこの渓相は釣り人を飽きさせない。周囲の原生林も蕾をふくらませて、この谷にもかすかな春の息吹が感じられる。やがて、こので一番の落差があり大淵が連なる場所に到達した。ここからまではたいした距離ではないが、大岩が行く手を阻むこの辺りは、体力を消耗している事でもあり、両膝ががくがくする。転倒しない様に遡行は細心の注意が必要だ。これらの淵々にも源流岩魚は存在していた・・・ここでの特筆は40cmクラスの大岩魚の姿を見た事だった。残念ながら最初出た時にこちらの気配を察した様だ。何度も毛ばりを流したが二度と出てくる事はなかった・・・今回の特徴は釣れる岩魚がまだ黒々としていた事とほとんどが中型で、時には近いものも釣れた事だった。私達は釣れた岩魚はすべてリリースをした。こんなに釣れる岩魚が後日に来るとまったく姿を見せない事もしばしば経験している。
また会おうね・・・と繰り返し唱えて流れに戻した・・・

20年間通いつめて最高の釣果・・・渓魚に感謝しながらリリース・・・

は滑りやすい岩肌が続いた後いきなり良淵が現れる。この淵はかって大型の岩魚が釣れた実績がある。時間の制限のある中ですこし粘ると思いがけずにヤマメが掛かって来た。その淵を右岸から越すと落差のある流れとなりヤマメが釣れ出した。しかもどのヤマメも良型である・・・沢とは不思議なところだ。このあたりは昨年来た時にまったく釣れずに、もう魚がいなくなってしまったと嘆いた場所であった・・・やがては少し左に曲がるあたりから黄土色の岩畳状となり、左右に岩がせまりゴルジュ状態に変わる。此処からはヤマメの代わりに黒い岩魚が釣れ出し、やがて通らずの滝が現れる。この滝は左岸を登る事になり一旦竿をたたむ事とする。
此処からは良淵が続き楽しい釣りが出来る。高巻きの最後は滑りやすいので、むき出しになっている根っこを掴みゆっくりと降りた。これから先は良淵の連続で岩魚と遊びながら快適な遡行が出来る。いかにも魚が潜んでいそうな渓相が続き、私達は交互に釣り上がったが、やはり期待に答えてくれる結果が出た。まだ時期的には早過ぎるのだろう、釣れる中型岩魚はみんな肌が黒い。しかしその精悍な顔つきを眺めていると希少な源流岩魚の価値を感じる。いつまでも大切にしたいものである・・・
現在、午前9時ちょうど、先ほどまでの霧が雨に変わって来た様だ。気温もかなり低くなり雨合羽を通して寒さが伝わって来る。此処から次の滝までかなりの距離がある。じっくりと釣りを楽しみたかったが私達は少し先を急いだ・・・谷の間から見える空は灰色になり、雨も時々激しくなり身体は冷える。しかしながら、釣れている時にはそれを苦とは思わないものである・・・その後大きな岩がえぐれている場所を見つけて休憩兼昼食とする。
スーパーで買って来た焼鳥がじつに美味い。これで熱燗となれば最高だが深山の中ではそれは無理・・・・そのあとハムと醤油焼モチ,塩大福を食べればお腹は満ち足りる。ザックにある昼食用のパン類には手をつける事はなかった。

まったく姿を見せなかった淵で何故か良型ヤマメが釣れる・・・

うっすらと汗を流しながら渓の入り口に着いたのは5時30分。先ほどの釣り人の車は見当たらない、林道脇から簡単に入渓出来るこの先の支流にでも入ったものと思われる・・・の右岸沿いに続く山道へと入ると、まだ釣り人の足跡がない。少しずつ高度を上げて行く山道は所々に崖崩れがあり突破するのに難儀する事となった。上を見上げると今にも崩れそうな岩が数多く見える。急いで渡るにも足場がなく、急斜面に足を置くとずるずると崩れて、思わず身体が硬直する・・・この様な危険個所はの通った跡を頼りに慎重に進んだ。
一旦、を渡りさらに山道を歩く筈だったが、そこから先はほとんどの道が崩れていて、止む無く魚止メまでを遡行する事になった。水温はかなり低い様だ・・・渓流シューズを水に浸すと指先がしびれて来る、水温計を持っていなかったがおよそ3〜5℃位だろう。滑りやすい石を踏みしめながら遡行する事60分、ようやく右岸側が平坦な原生林となる。この辺りはキャンプには最適な場所だ。テントも充分張れる広さでマキに出来る倒木もある。一度此処でキャンプをして夕マズメを狙って見たいと思うが、重い荷物を背負って林道を下る苦労を考えると尻ごみをしてしまう・・・この原生林のなかを歩くと間もなく魚止メが近づいて来る。このは右岸寄りを大きく高巻くのだが、滝上に出るにはかなり足場が悪い。足を滑らすとあっという間に滝下に落ちてしまう・・・昨年からの僅かな踏み跡を頼りに此処も慎重に越えた。滝上はしばらく平坦な流れが続く、以前にはチビ山女魚の姿が走った場所も昨年秋に来た時には何故かいなくなっていた。隠れ場のない浅い流れでは流石のヤマメ達も住みにくいのだろう。しかし、今回は僅かな淀みに毛ばりを流すとまだサビの残った中型ヤマメが釣れて私達を驚かせた・・・

釣り人は入っていない様子・・・山道は荒れての臭いが漂っている

普通ならば先にゲートの前で待っている私達に挨拶をして、その日の割を話合う筈なのに、最近の釣り人はルールも知らないらしい・・・少し苛立ちを感じながら彼等を眺めていると、ワゴン車に乗っていた一人が降りてゲートに向かって行くではないか・・・そして、いとも簡単に鍵を開けて二台とも中に入り、また元の様にゲートを閉めて去って行ったのだった・・・ここの林道は、一般車は通行止めでゲートにはしっかりとした鍵が掛けられていた筈である。慌てて身支度をしてゲートに行くと、数字合わせの鍵が壊されている・・・あの釣り人達はそれを知っていた様である。私達もゲートを開けて入ってやろうか・・・と一瞬考えたが、明らかな違反をしてまで釣りはしたくない・・・私達はこれからの長い道程の第一歩を自分の足で踏みだした。この現状を管理している上野村役場は知っているのだろうか。これでは正直者が馬鹿を見るばかりである・・・

0日午前4時、耳元に置いた目覚まし時計のけたたましい音で目がさめた。まだ外は薄暗かったが車のエンジンをかけてライトを照らすと、前方に見慣れた車が停まっていた。I氏の愛車である。昨晩10時に着いて車中泊、久しぶりにぐっすりと眠る事が出来た。今日は午前5時に林道を歩き始める予定である。挨拶の為に車外に出ると雨こそ降っていないもののかなり寒い・・・軽い朝食をとり身支度を始めていると所沢ナンバーの車が二台やって来た。明らかな釣りスタイルのその人達は私達の車を過ぎて侵入禁止のゲートへと向かって行く。

神流川支流 沢へ

今回の釣行は小雨まじりで気温も低く、最源流にはまだ凍結している箇所もありテンカラには難しい条件だった。私達は毛ばりを沈めての釣りだったので対応が出来たが、ドライだったらおそらく反応がなかったと思われる。そして寒い冬を岩陰でじっと耐えて来た渓魚達も春の気配に気を許したのだろう。久しぶりに見る我々の毛ばりを本物と錯覚したのが今回の釣果だったと考える。これからシーズンに入り、釣り人との知恵比べが始まれば、どんどん学習を重ねて利口になり、拙い私達の釣り技ではとうてい太刀打ちが出来なくなるだろう。それにしてもこの沢は渓相もさることながら、原生林がすばらしい・・・
大自然の中で黙々と魚と対峙するだけで日頃のストレスが吹っ飛んでしまう。いつまでも今のままで残しておきたい最後の楽園だと思う。

                                                                                   渓忠

の岩魚は留守だったが、まだまだ楽しめる源流域・・・

もっとしっかりして欲しいゲート管理・・・正直者が馬鹿をみる現状だった・・・

沢は今年も原生林へと導いてくれた・・・

今回の釣果をふりかえる・・・いつまでも残したい源流岩魚達

4月20日

渓忠  Iさん

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