【はじめに】ミコナゾールは代表的なCYP2C9阻害薬であり、ワルファリンの作用を増強することが知られている。今回我々はワルファリンとミコナゾールゲルの併用による抗凝固作用の増強で大量血便が出現し、それを契機にサイトメガロウイルス腸炎、AIDSと診断した高齢者の一例を経験したので報告する。
【症例】72歳男性。2年前から発作性心房細動でワルファリン内服中。2013年6月12日近医受診時に上部消化管内視鏡検査で食道カンジダ症と診断。ミコナゾールゲルを処方され内服を開始した。6月19日深夜から6月20日朝にかけて大量の血便が出現し当院救急外来へ搬送された。血液検査ではPT-INR 8.45(PT-ACT 5%以下)と著明な凝固異常を認めたことからミコナゾールゲルによるワルファリン作用の増強が疑われ、そのことによる下部消化管からの出血が考えられた。入院後大腸内視鏡検査を行うとBauhin弁上に打ち抜き様潰瘍を認め、同部位からの生検より核内封入体が存在。PCR法でサイトメガロウイルス感染症と診断した。また入院時の血液検査でHIV抗体 82.00 S/COと陽性であり、さらにHIV Western blot陽性、HIV PCR 460,000 copy/mlと陽性であったことからAIDSの診断へと至った。その後輸血や凝固異常の補正を行い他院感染症内科へAIDSの加療目的に転院した。
【考察】ミコナゾールはワルファリンの作用を増強することが広く知られており、本例のように大量の出血を来たす報告も少なくないため、併用には厳重な注意が必要である。サイトメガロウイルス腸炎はBauhin弁上に最もよく見られ、打ち抜き潰瘍を高率に認めることが報告されている。さらに高齢者のAIDS患者も年々増加傾向にあり、サイトメガロウイルス感染症やカンジダ感染症と診断した際にはAIDSを念頭において診療を行うべきと考えられる。