日本消化器内視鏡学会甲信越支部

PL4.ワーファリンとミコナゾールゲルの併用による大量血便を契機として発見されたサイトメガロウイルス腸炎合併の高齢AIDS患者の一例

新潟県 厚生連 長岡中央綜合病院 消化器内科
中島 尚、福原 康夫、盛田 景介、堂森 浩二、佐藤 明人、渡辺 庄治、佐藤 知巳、富所 隆、吉川 明

【はじめに】ミコナゾールは代表的なCYP2C9阻害薬であり、ワルファリンの作用を増強することが知られている。今回我々はワルファリンとミコナゾールゲルの併用による抗凝固作用の増強で大量血便が出現し、それを契機にサイトメガロウイルス腸炎、AIDSと診断した高齢者の一例を経験したので報告する。

【症例】72歳男性。2年前から発作性心房細動でワルファリン内服中。2013年6月12日近医受診時に上部消化管内視鏡検査で食道カンジダ症と診断。ミコナゾールゲルを処方され内服を開始した。6月19日深夜から6月20日朝にかけて大量の血便が出現し当院救急外来へ搬送された。血液検査ではPT-INR 8.45(PT-ACT 5%以下)と著明な凝固異常を認めたことからミコナゾールゲルによるワルファリン作用の増強が疑われ、そのことによる下部消化管からの出血が考えられた。入院後大腸内視鏡検査を行うとBauhin弁上に打ち抜き様潰瘍を認め、同部位からの生検より核内封入体が存在。PCR法でサイトメガロウイルス感染症と診断した。また入院時の血液検査でHIV抗体 82.00 S/COと陽性であり、さらにHIV Western blot陽性、HIV PCR 460,000 copy/mlと陽性であったことからAIDSの診断へと至った。その後輸血や凝固異常の補正を行い他院感染症内科へAIDSの加療目的に転院した。

【考察】ミコナゾールはワルファリンの作用を増強することが広く知られており、本例のように大量の出血を来たす報告も少なくないため、併用には厳重な注意が必要である。サイトメガロウイルス腸炎はBauhin弁上に最もよく見られ、打ち抜き潰瘍を高率に認めることが報告されている。さらに高齢者のAIDS患者も年々増加傾向にあり、サイトメガロウイルス感染症やカンジダ感染症と診断した際にはAIDSを念頭において診療を行うべきと考えられる。