日本消化器内視鏡学会甲信越支部

72.循環不全を来し、緊急手術により救命しえた巨大な横行結腸間膜原発extra- gastrointestinal stromal tumor(EGIST)の一例

篠ノ井総合病院 外科
小山  誠、五明 良仁、大野 晃一、鈴木 一史、斉藤 拓康、池野 龍雄、坂口 博美、宮本 英雄
篠ノ井総合病院 病理科
川口 研二

症例は76歳男性。近医より腹部腫瘤を指摘され、精査加療目的に当院へ救急搬送となった。来院時、腹部は著明に膨隆し、腹部全体に腫瘤を触知した。喘鳴、四肢浮腫も著明であり、低酸素血症、乏尿といった循環不全の状態であった。CTでは腹腔内に22×16cmの巨大腫瘤を認めた。消化管原発gastrointestinal  tumor(GIST)などが疑われたが、確定診断には至らなかった。腫瘤による体循環系への圧迫により全身状態が悪化していると考えられ、緊急入院した。原因解除による循環動態の改善以外に救命の手段はないと判断し、入院後3日目に緊急手術とした。開腹時に網嚢内にφ25cm強の巨大な腫瘍を認め、横行結腸間膜を貫いていた。胃、横行結腸、膵体尾部への浸潤が疑われた。手術は腫瘍摘出、幽門側胃切除、横行結腸部分切除、膵体尾部脾合併切除術を施行した。切除標本で、26×23×20cmと巨大な腫瘍を認めた。病理検査では中型類円形から短紡錘状細胞が増殖し、免疫染色ではc-kit陽性であった。核分裂像は10以上/50HPFであった。横行結腸間膜より発生しており、同時に摘出された他臓器への病理学的な浸潤を認めなかったため、横行結腸間膜原発extragastrointestinal  tumor(EGIST)と診断した。術後は挿管管理を要した。術後12日目、肺炎を合併し気管切開術を施行した。術後37日目に呼吸器を離脱し、術後56日目に退院となった。modified-Fletcher分類より腫瘍径、核分裂像、原発部位にて高リスク群のEGISTと判断し、イマチニブ300mg/dayを内服し、術後4ヶ月現在無再発で外来通院中である。医中誌にて「横行結腸間膜」、「GIST」をキーワードとして検索したところ、自験例を含め11例を検索しえたが、循環不全を理由に緊急手術となった症例は本例だけであった。巨大な横行結腸間膜原発EGISTにより循環不全を来し、緊急手術により救命しえた一例を経験したので、報告する。