日本消化器内視鏡学会甲信越支部

70.除菌療法が著効した下咽頭MALTリンパ腫の1例

諏訪赤十字病院 消化器科
田中 泰裕、進士 明宏、溜田 茂仁、上條  敦、太田 裕志、武川 建二、山村 伸吉
諏訪赤十字病院 病理部
中村 智次

症例は65歳、女性。主訴は健診目的。当院の健診、上部消化管内視鏡検査で右梨状陥凹付近の下咽頭に隆起性病変を認め、非拡大NBI観察ではbrownish  areaとして認識された。生検でCentrocyte-Like  cellの著明な浸潤とlymphoepithelial  lesionを認めMALTリンパ腫と診断され、全身検索で他部位への浸潤はなく、Ann  Arbor分類でStage1であった。尿素呼気試験でH.pylori陽性であり、プロトンポンプ阻害薬、アモキシシリン、クラリスロマイシンによる除菌治療を行ったところ、除菌成功し、除菌5ヶ月後の内視鏡観察では、病変はほぼ消失し、病理学的にもリンパ腫細胞は検出されず、完全寛解と判定した。胃原発の低悪性度MALTリンパ腫Stage1に対するH.pylori除菌療法は有用性が証明されている。胃を除いたMALTリンパ腫Stage1に対しては、『ピロリ除菌』と『MALTリンパ腫』をキーワードに、1998年~2011年の医学中央雑誌で検索したところ、H.pylori除菌治療の奏功例は甲状腺原発1例と直腸原発1例しか報告がなく、下咽頭MALTリンパ腫に対してH.pylori除菌が奏功した報告は本例が本邦初である。H.pylori除菌治療は放射線療法や抗癌剤療法に比べ低侵襲であり、Stage1の咽頭病変に対しても治療法の選択肢に対する治療法の選択肢となる可能性があると考えられる。