Waiau river (TeAnau region)
ワイアウリバー(テアナウ地方)



えたいの知れぬワイアウの魚 

01年2月に訪れた時だった。
夕方、今夜の寝場所を探して車を走らせていると、
ゴルフ場をぬけ、砂利道を少し入ったところに、
川に下りられそうなレストエリアがあった。
前から「大きな魚がいる」、「夕方カディスが飛び面白いイブニングライズがある」、
と聞いていたので、気になって川を見てみる。
10mほどの崖の下に、薄暗い中ライズが見える。
すでに安定した頻繁なライズで、何尾かの魚が崖沿いの流れに沿ってライズしている。
一気に「釣りたい欲」が上昇し、竿を取りに車へ駆け戻った。
「この崖をこの暗さの中どうやって下りるのか?」、
「支度をしている間に、暗くなってしまうのでは?」、
「釣りするべきか?あきらめるべきか?」、
釣り竿をケースからゆっくりと出しながら考えた。
「あのライズを見てしまった以上、やらないわけにはいかない」。
気づいたときには、竿を握ってサンダルのまま崖を滑り降りていた。
砂まみれになりながらもライズに近づき、夕闇に急かされながら支度を終えた。
やっぱりカディスへのライズのようで、「バシャ」と派手にやる。
エルクヘアカディスを結び、何尾かいる魚なの中から、一番大きそうなヤツを探す。
手前で「バシャ」とライズする。
「水しぶきからしてそう大きくはなさそうだ」、
崖に沿う流れを、注意して見ていると「モワーン」とライズリングが広がった。
しばらく見ていると、「ポツッ」と口先を出してライズした。
「こいつだ!」。
ゆっくりと糸を出し、ライズに忍び寄る。
繰り返されるライズに、心臓の鼓動が加速される。
フライを魚の方へと投げ込むけど、暗くて自分のフライがどこを流れているのか見えない。
フライがライズの場所を流れようとしたとき、「ポツーン」とライズリングが広がった。
「これだ!」と突き上げた右手に竿は大きく曲がった。
それと同時に走り始めた魚は止まることなく、流心に向かってどんどんと進む。
鳴り止まないリールの音が闇へと吸い込まれて行く。
流れに身をまかせた魚は、止まることなくリールの糸を引き出してゆく。
魚との距離を縮めようと、川岸を走るが暗くなった川に足を取られ、
川岸のブッシュに行く手を阻まれる。
腰まで水につかり、必死に魚を追いかけるけど、
リールの音は止まず、バッキングラインもすべて出てしまった。
残されたリールはもはや何の意味もない。
竿は頼りなく曲がり、私を川の中まで引き込むかのように魚は流れを下った。
勝負にもならなかった。
「フーッ」と体全体の力が抜けた。
このでかい川とえたいの知れない魚、さらに包みこむ闇。
太刀打ちできないことは、はじめの突っ走りでわかっていた。
それでも、可能性に賭けて川を走ったけど、暗く深く重い川はあまりにも危険すぎた。
軽くなった糸を巻く間、魚が外れてくれたことに、
「それでよかったんだよ」と自分を慰めた。
やっとのことで巻き終えた糸の先には、情けないくらいにひん曲げられた針がついていた。
濡れた体で車に戻り、悪夢でも見てたかのように我に返った。
えたいの知れぬワイアウの魚だった。

テアナウ湖から流れ出るワイアウリバーは、巨大で深くどこを見ても渡れるところはない。
しかも、川の両岸のほとんどが水面まで張り出した木々に覆われている。
だから釣りができる場所は河原のある一部の場所に限れてしまう。

02年1月13日クルーサより
     
     テアナウ湖下のワイアウリバーは深く重い流れで、なかなか挑戦的


 
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