車の故障 


1月9日車が壊れた。
ティマルという川からの帰り、上り下りの激しい山道で、
スピードが落ちてゆき、そのまま止まってしまった。
エンジンは動くのに、ギアが入ってくれない。
三菱ギャラン1989年式、走行距離は20万kmを越えている。
突然のアクシデントに、先と財布が思いやられる。
とにかく「なんとかせねば」と思っていると、後ろから来た車が止まってくれた。
引っ張ってもらうにも、ロープが無く、3人で押しても上り坂は進まない。
偶然地元の少年がバイクで通りがかり、ロープがあるか聞いてみると、
急いで家に取りに行ってくれた。
坂の上まで引っ張ってもらい、アクセルをふかしてみると、
ゆっくりながらも進むので、自力で近くのハウエアの町まで走ることにした。
ハウエアの町まであと少しというときに、再び坂道に捕まってしまった。
ボンネットを開けると、ツンと鼻を刺すようなイヤな臭いが漂っている。
でも、どこがどう悪いのかわからず。
めんどくさくなって、エンジンを止め本でも読んでのんびりすることにした。

強い陽射しで暖められた車の中を、ハウエア湖からの風が吹き抜ける。
車が来ない道は、静かで眠くなってしまいそうだった。
しばらくして、近くの家を訪ねてみた。
どこが入り口なのかわからない家にむかって、
「イクスキューズミー」と叫んでいると、
中から、家よりも古そうなおじいさんが出てきた。
訳を話すと、近くのガソリンスタンドまで乗せてくれた。
どこにドアを開けるノブがあるのかわからない車は、おじいさんよりも古そうだった。
車の中でいろいろと聞かれたけど、ほとんどがよく聞き取れず、
なんとか答えてみたものの、
おじいさんも私の英語を聞き取るのに苦労しているようだった。
ガソリンスタンドまで来ると、訳をスタンドの人に話してくれ、
おじいさんは、帰ってしまった。

ガソリンスタンドの人に話をすると、
とりあえず車を見てみよう、と私を乗せてギャランへと向かった。
ボンネットを開き、エンジンをかけると、すぐに故障を見つけた。
渋い表情のおじさんが言ったのは、「トランスミッションオーバーヒーティング」。
何それ?
トランスミッションがオーバーヒートしたことはわかった。
でもトランスミッションってなんだ?
とにかく「直るのか?」と聞くと、「ベリーエクスペンシブル」といって、
口にした金額は、10万円。中古なら5万円だった。
頭の中で羽の生えた100ドル札が羽ばたいている。
12万円出して買った車を、5万円出して直すべきか、
それとも買い換えるべきか、決断に迫られてしまった。
旅を初めて1ヶ月半。ついにこのときがきてしまった。
どうしよう・・・広兄と田舎道で途方に暮れる。
車がなければ、この旅はできない。車を買うには、また時間と面倒がかかる。
直してもまた別の問題が発生するかもしれない。
旅を止めて、日本に帰ることも頭に浮かんだ。

ハウエア湖の風は、私たちに冷たかった。
それでも車のエンジンは冷やされ、もとどおりギアが入ってくれるようになっていた。
少し走らせても、さっきまでの故障は嘘だったかのように、
なんの問題もなく走ってくれた。
それなら出発だ。
止まったら、またゆっくり冷やし、ついでに頭も冷やせばよい。
そんなぎりぎりな旅がうちらの旅ってもんでしょう。
車にもがんばってもらうことにした。
ということで、2日間を何事もなく過ごし、
ヤングリバーへ山ごもりの釣りに行こうとしたときだった。
再び発作を起こした車は、20kmしかスピードがでなくなってしまった。
それでもなんとかヤングリバーの入り口にたどり着き、
車を捨てるかのように、リュックにテント、食料、釣り竿を入れて、
2泊3日のヤングリバー上流へと向かった。

夢のようなヤングリバーでの釣りを終え、現実に戻って車に戻ると、
もはや車は冷えても元に戻らず、20kmでワナカの町を目指した。
「故障中」と書いた紙を、後ろに置いて、湖沿いの眺めの良い道を、のろのろと走った。
後ろから追い越してゆく車が、からかうかのように挨拶をしていってくれる。
自転車に乗ったおばさんまでもが、笑顔で横を抜かしてゆく。
途中上り坂で、止まってしまったものの、
のんびりとハウエア湖の風に吹かれていると、
再び動き出してくれた。
なんとか、ワナカの町までたどり着くことができた。
明日はいよいよ修理だ。
何日かかるか、いくらかかるか、それよりも直るかが問題だ。
この旅がまだ続けられるのか、なかなか上手く行かないもんだ。

02年1月12日クルーサより


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