風香(ふうか)
車から2時間ほど歩いたモエラキリバー(Moeraki River)上流にテントを張った夜のことだった。
日没とともに寝袋に入り、夜中に目がさめそのまま眠れなくなってしまった。
何時だっただろうか?目を開けても、真っ暗だった。
寝苦しい暑さというわけでもない。
ビールを飲みすぎたというわけでもない。
蚊が大量に入ってきたわけでもない。夕食に何か食べたか?
眠れない理由を探しているせいで眠れないのかとも思った。
まあ、早く寝たのだし無理して寝ることも無い。
目をあけたままボーッとしていた。
すると、なんとなく子供につける名前を考え始めた。
別に子供が生まれる予定というわけでもなく、結婚式の予定すらない。
「やっぱり男の子だろう」と男の子の名前を考えた。
「志」という感じが自分的に気に入っていて、「○志」にするかと考えてみた。
なんか押し付けがましいので、却下。
外人でも呼びやすい名前にしたい。例えば「セージ」とか「ユージ」とか。
「タクジ」とか「シンイチ」は呼びにくい。
いろいろ考えてみたけど、ありきたりの名前しか思い浮かばない。さらに眠れない。
それじゃあ、女の子ならどうだろうと考えてみた。
男の子がほしいだけに、女の子の名前なんて思いつくわけがない。
けど、思い浮かんだ名前をパズルでも解くかのように、一つ一つ掘り進めていくと、
「風香(ふうか)」という名前が浮かんだ。
「風」に「香」。美しい。
われながら驚くばかりに美しい組み合わせができた。
風はいろんなものを運んでくる。音、うわさ、暖かさ、季節、雨・・・
それを香りとして感じる。かなりオシャレ。
女の子に「香」とつけるのはなんとなく美しく、しかも品が良く聞こえる。
今まで会った女性のせいだろうか?
そして、「風香」という組み合わせに意味はなく、名前の押し付けがましさがない。
さらに「フーカ」と英語的な音でもある。
この名前が思い浮かんだ瞬間、自分の子供がほしくなった。
女の子を育てるのが楽しみになった。
南十字星の下、山奥のテントにいるのに、なんとなく幸せな楽しみな気分になった。
そしてこの名前を忘れないように何度も頭の中で繰り返した。
自分の子供に名前を付けるのはいつのことだろうか?
こんな遊び歩く生活を終え、ちゃんとした会社に勤め、安定した給料と休暇をもらって、
犬を飼って、平凡に生きる。
そのときやっと「風香」とのんびり遊べるのだろう。
こんな先の長いことを考えているうちに、意識は遠ざかっていった。
気がつけば、テントの外は明るくなり、鳥のさえずりが聞こえた。
02年2月8日Wanakaより
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