一瞬の世界
〜小魚を追うアメマスを仕留める〜
岬の先端部がザワザワと波立っているのを見つけた。よく見ると小魚が群れて移動しながら水面に浮かぶ何かを食べている波紋だった。200〜300尾はいるような小魚の大群で、突然水面に現れたかと思うとバシャバシャと騒ぎ、何事も無かったかのように水中に消える。そんな時が止まったような穏やかな光景を私はボーッと眺めていた。
すると突然、茶色く大きな影が小魚の後を追って現れた。ものすごいスピードで小魚の群れに突進する。明らかに小魚を捕らえようとする大型の肉食魚の影だった。逃げ場をなくした小魚は水面を飛び跳ね、陽の光があたってキラキラと輝き、「ガボッ」という大きな音と波紋をたてて、湖は再び静けさを取り戻した。
突然起こった目の前の光景にニヤリとするのが釣り師の心。この大型魚を釣るのが目的であり、こんな光景に出会うために早起きして湖に来たのである。
釣り竿を握る手に力が入っていた。茶色い影が現れたあたりを、小魚に似せたルアーを投げて、今にも釣れそうな空気に、じっくりとリールを巻く。投げては巻く。何度も投げるが、まったく釣れない。何か様子が違っていた。
茶色い黒い影は、小魚の群れに突っ込み、最終的に1尾の小魚に的を絞り、水面でガボッと食いつく。その一尾をルアーにしなければ、この茶色い影は釣れない。そう私は推測した。漠然とルアーを投げるのをやめ、茶色い影が水面に現れるをのを待った。風が水面をゆらし、太陽を反射し、木の葉はサラサラと音をたてた。
水面をピンピンと小魚が跳ねた瞬間、茶色い影がものすごいスピードで現れた。
「今だ!」
魚のスピードと進行方向を予測し、すかさずルアーを投げ、超高速でリールを巻き、魚の意識をルアーに向けさせる。タイミングこそが勝負で、一瞬の隙もない。
「グワッ」と竿が曲がり、大きな茶色い影がギラリと光った。「よし!」と大きくあわせ、魚の口にしっかりと針をかける。
完璧だった。小魚をたらふく食べている、ものすごいスピードの茶色い影は、58cmの太ったアメマスだった。写真を撮り終え、湖に逃がした。
魚との知恵比べ、自分の読み通りの釣り方。すばらしい魚に出会えた。大満足だった。湖畔に座り、コーヒーを飲んだ。ハルゼミの声が聞こえた。肌に心地良い風を感じた。さっきの穏やかな心に戻った。
2007年6月28日
トップページへ