マイナス20度の世界
〜糠平湖でワカサギを釣る〜
「鼻毛が凍る」という、感覚がわかるだろうか?
鼻毛が凍るというのは、鼻で息をすると、
水蒸気が鼻毛について凍り、
鼻毛が硬くとがり鼻の内側にチクチクと刺さる感覚。
言葉に表すと難しいけど、北海道の人ならたいていわかる。
マイナス20℃まで下がる条件は、
風がなく、まったく音のない世界で起こる。
耳鳴りのようなキーンと張り詰めた空気こそが、
時間さえも止めてしまったかのような世界を作る。
気温は低いけど、風がないため、それほど寒さは感じない。
だけど空気が動く鼻の中だけは、鼻毛が凍る。
1月3日上士幌町の糠平湖にワカサギ釣りに向かった。
突き刺すような光の強さ。深すぎる青い空。
空気が動かない世界は、なぜかボワンとした雰囲気がある。
そんな中、釣り場に向い氷の上を歩くと、
氷の上にちり紙のような白いものがたくさん落ちている。
マイナス20度の世界が作る芸術、霜の花(フロストフラワー)だ。
まだ氷がはったばかりの湖面は雪がなく黒く光っている。
霜の花は、空気中の水蒸気が氷にぶつかったことで、固まり、
徐々に結晶となって成長していく。
写真の結晶は、2センチほどの大きなものだった。
マイナス20度という世界がなせる技だ。
ワカサギ釣りは氷にドリルで穴を空けて、
その穴に釣り糸をたらして釣る。
群れで行動す魚なので釣れる時は次から次に忙しく釣れる。
そうなると氷の上という寒さは、いつしか吹っ飛び、
そのときばかりは、夢中になる。
氷の下から表れる小さなワカサギは紫色から緑、銀色に輝き、
氷の上で数回跳ね回ると、
やがて動きが止まり白っぽいワカサギへと自然冷凍される。
これが、北の釣り。マイナス20℃の世界なのである。
糠平湖は、発電を行うためにダムの水を抜いているため、
ときどき氷が割れる。きしむ音が山にこだまする。
氷を伝わりその振動が体に伝わる。
心配はないけど、どこか不気味に感じるのもまた興味深い。
このダムの水位の変化によって、陸に取り残される氷が、
さまざまな造形美を作ることも、ここ糠平湖では有名。
そんな、自然と人工が作る中で釣るワカサギは、
その場での天ぷらが最高の贅沢。
冷えきった体を解凍できる糠平温泉もありがたい。
マイナス20度の世界。
だからこそ、楽しめる釣りがある。
いまだかつて、ワカサギをここまでユーモラスに撮ったことがあるだろうか。と思う一枚。
霜の花フロストフラワーは 2センチほどの大きさだった