| アチェ被災証言 | |
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| 語られるアチェ津波被災の真実 | |
| 証言8「小さな診療所で見つけたマラリア診断キット」 | |
| Ardian;37歳男性、Meutia;23歳女性、2005年9月7日(水)、デュラッサラム(Durussalam)・ヘルスセンター(診療所)にてインタビュー) | |
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大津波で最も壊滅的被害を受けたラムプール村近くのヘルスセンターで、歯医者として働いているアルディアン医師に、津波が発生した直後の様子と同センターの状況について尋ねてみた。彼の自宅は海岸から離れていたため、幸い津波そのものによる被害は受けなかった。しかし、診療所の周辺では200人以上の死体が浮かんでいたため、しばらくは友人や知り合いを探し回ったという。その結果、遠縁の人や近所の人たちが亡くなり、津波前に50名いたセンター診療所のスタッフも12名が亡くなったことがわかった*1 。 また、津波直後の診療所は、室内がめちゃくちゃに破壊され、1メートル以上の水が滞留していた。1ヶ月かけてようやく再開されたが、新品の歯科治療機器はまったく使えなくなり、残っているピンセットやハサミといった小さな器具もさび付き、いまでもほとんど使い物にならない状態である。最近、ジャカルタの2つのNGOであるNerlinとJahijaによる全面的な協力を得て、1名しかいなかった総合医が1名加えられたが、周辺住民のほとんどが亡くなったか、もしくは他の地域へ避難しているため、患者の数は激減している。さらに赤十字が近くにテント病院を開設したこともその大きな原因の1つであろう。妊婦の出産もまったくなくなった。もちろん、5歳以下の子供のケアについては、これまで通り行っているが、その数も多くない。このように、診療状況は一変してしまっている。 |
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続いて、マラリアの状況については、赴任してきたばかりのムティアさんが、私たちが送ったマラリア診断キットの中身と診断の様子を示しながら、次のように説明してくれた。なお、津波以前に担当していた方は、津波のために亡くなった。同地域周辺では、マラリア擬似患者はもともと膨大にいたため、患者が仮性なのか真性なのか、すなわちマラリア患者を正確に判定することは難しく、診断キットはとても有意義であったという。診断キットのおかげで、マラリアの診断と治療が確実かつ効率的に進められるようになった。実際、擬似患者の15〜20%しか真性患者はいないことが明らかとなった。現在は、津波によって多くの人が亡くなり、また多くの人が他の地域へ一時避難しているために、現在ではこの地域でのマラリア患者は減少している。しかし彼女は、一時避難していた人たちがこの地に戻ってきたり、再び蚊の大量発生があると、マラリア蔓延の可能性があるため、その対策は不可欠であると警戒を緩めていない。この地域はもともとマラリアの高度発生地域であったからである。そのため、今後もマラリアの撲滅を目指さなければならないが、それはインドネシアだけでなく、グローバルな課題*2でもあると彼女は強調した。マラリア撲滅は、とりわけ医学的知見や医療技術において途上国のみで解決することは、少なくとも現時点では、ほとんど不可能である。将来にわたって、長期の国際協力が必要とされ、世界全体で取り組まなければならないグローバルな課題なのである。 「この診療所がいま最も必要としているものは何ですか?」という問いに、最初に返ってきた答えは、緊急の通信・交通手段であった。かつて9つの村を管轄していた同院は、津波でそのうち4つの村が壊滅したため、いまは残りの5つを管轄すればよい。しかし、患者を搬送する車はもちろんバイクすらないという。次に彼らが必要としているものは、医療検査機器(「ヘマトグラフィ」)である。彼らは、これをどうしても必要な機器と主張しているが、現在までのところ、政府からもNGOからも供給されていない。また、看護婦の間では、統一した白衣すらそろえられないと嘆きの声も聞かれた。 インドネシアからはるか何千キロも離れた日本からの善意の募金が、マラリア診断キットという形になり、津波被災地の小さな診療所で有効に使われていることを知り、とりあえず安堵したというのがいまの私の偽らざる気持ちである。また同時に、私たちにできることがもっと他にもあるのではないかと肌で感じたことは、本インタビューから得た最大の示唆といえよう。 *1 津波前からいた総合医1名と歯医者1名は、幸いにも生存していた。 *2 マラリアは、先進国よりも途上国で流行する傾向にあるため、先進国は解決に積極的でないが、世界全体でみると、エイズよりも患者の数も死亡者の数も多い。 |
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