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あれから六年
平成元年十一月に執筆した『ザ・酷税局』=税務職員からの告発=で、「『国税一家』意識は、その生い立ちゆえに幹部職員とOB幹部税理士や企業などとの癒着を深め、職場を腐敗させ、税務行政を歪めている」と、国税の職場独特の密室性からくる税務署幹部の汚職・腐敗に強い警告を発した。
残念ながら、その警告は、半年も経たない間に六十人の局署幹部の処分者を出すという、国税庁開びゃく以来の超大型汚職事件、いわゆる「大西ニセ税理士事件」で現実のものとなった。
この事件に衝撃を受けた国税庁長官と大阪国税局長は、平成二年八月に「綱紀の厳正な保持について」という異例の通達を出し、部内の引き締めを図った。
そして、大阪国税局は、この事件に深く関わった幹部を三年かけて退職させてきた。
しかし、二年後の平成五年に入り、大阪国税局を舞台に現職幹部(統括官)の逮捕や、元幹部の逮捕などが、またぞろマスコミをにぎわしている。平成六年九月には、査察部(マル査)幹部の懲戒免職処分が報道された。
以下、大阪国税局をとりまくここ数年間の主な汚職・腐敗事件を並べてみる。
「ニセ税理士事件」平成二年六月
平成二年六月十九日、大阪地検特捜部は、「関西財政研究会」代表の大西省二を税理士法違反の容疑で逮捕した。容疑は、顧客の不動産業者などからの依頼に応じ、所得税確定申告書の作成などの税理士業務を行ったというものである。彼は、昭和六十三年に同研究会を設立、二年余りの間に十数億円もの報酬を得ていたという。
そして、その後の調べの中で、大西はこの資金を元に、脱税指南と調査の便宜を受けるために、百人にのぼる大阪国税局・税務署の幹部職員を接待・供応していたことが判明した。大阪国税局は氏名を伏せたまま、七月五日、二名の税務署幹部を懲戒免職処分にしたことを発表した。東税務署特別国税調査官丹羽康雄と旭税務署統括国税調査官橋本孝雄である。二人は、「昨春からの約一年半に総額約五千万円にのぼる現金などを大西から受けとっていた」(毎日新聞七月五日)。
さらに、国税庁と大阪国税局は八月十日、大西から酒食の接待をうけるなどしていた同国税局と十五税務署の幹部職員三十八人と、その監督者二十人に対し停職以下の第二次処分をしたことを発表した。
「脱税パチンコ台業者の監査役にマル査OB」平成五年十月
大阪地検特捜部は、平成五年十月に東大阪市のパチンコ台業者「藤商事」を巨額脱税事件で摘発した。
この業者には大阪国税局査察部の元幹部(平成三年七月に兵庫県内署長で退職)が平成四年十月から顧問税理士になり、平成五年八月からは監査役に就任していた。
同社には、約二十年前に大阪国税局を退職したもう一人のOBが顧問税理士になっており、平成五年五月からやはり監査役を務め、申告書を作成していた。
「元幹部職員の顧問税理士が偽契約書―和興開発」平成五年十一月
大阪地検特捜部は、平成五年十一月に、和歌山市北部の大規模都市開発にからんで所得税脱税で和興開発社長を逮捕し、同社の顧問税理士の則岡信吾(四十六才)を共犯として逮捕した。
同税理士は、土地買収にあたり、契約日を半年さかのぼらせたにせ契約書をつくり、税率を低く適用する脱税指南をしていた。
則岡信吾は和歌山税務署の法人課税第二部門統括官で、平成二年七月に退職している。
「宇治税務署内で百万円収賄」平成五年十一月
京都府警捜査二課は、申告に便宜を図った見返りにたばこ小売業者から現金百万円を署内で受け取っていたとして、税務署元幹部を収賄容疑で逮捕した。元幹部は、宇治税務署個人課税第三部門統括官であった沢村修(四十八才)。沢村は、業者の平成二〜三年の所得の申告が過少申告であるのを知りながら見逃していた。
この事件で宇治税務署は京都府警の捜索を受けた。
沢村修は平成五年六月に吹田税務署個人課税第一部門統括官で論旨免職(退職金が支給される退職)処分となっていた。
「また宇治税務署…上地譲渡で収賄」平成六年三月
京都府警捜査二課は、平成六年三月三十一日、大阪国税局総務部税務相談室八尾分室税務相談官東寧雄(四十八才)を九百万円の収賄容疑で逮捕した。東は、宇治税務署個人課税第六部門(資産税担当)の統括官をしていた平成四年二月ごろ、田辺町役場の課税課課長補佐と結託し、納税者十数人の土地譲渡にかかる申告が過少であるのを知りながら税務調査をしないように取り計らい、謝礼として税務署内で現金をもらっていた。
この事件で宇治税務署は京都府警の二度目の捜索を受け、東は懲戒免職処分になっている。
「マル査幹部が懲戒免職」平成六年九月
大阪国税局査察部の総括主査S(四十五才)は、法人税法違反容疑で強制調査を受けた大阪府内の化学会社社長から無担保で千五百万円を借金し、平成五年六月に懲戒免職になった。
このS総括主査は、東大阪税務署法人第二部門勤務中にM化工鰍フ法人税調査を担当して社長と知り合い、昭和六十一年から平成四年にわたり計千五百万円を借金(?)していたというもの。
同社を平成六年に査察部が査察調査に入り、押収した帳簿などからこうした事実が判明した。
税務職員の犯罪は、こうした大阪国税局の事件の他にも次のようなものが新聞報道されている。
「一億五千万円を詐取」…沖縄(平成元年六月二日)朝日
沖縄県警捜査二課は、元沖縄税務署上席調査官で衣料設備会社社長比嘉俊夫(四十六才)を詐欺の疑いで逮捕。
比嘉は税務職員だった昭和六十年七月ごろ、土地の相続税の相談で税務署を訪れた知人から権利書や実印を預かり、知人の土地を無断で自分の所有であるように移転登記をした。さらに翌年一月ごろ、金融会社の役員にこの土地を担保に融資を申しこみ、一億五千万円の小切手をだましとった。
「集金の税金着服」…広島(平成三年十一月二十八日)朝日
広島西税務署で税金の徴収を担当していた大蔵事務官の男性職員(二十八才)が、集めた法人税・所得税の一部、約四百万円を着服したとして、広島地検に業務上横領の疑いで書類送検された。
「徴収職員二人が税金着服」…千葉・群馬計八百四十万円(平成四年十一月二十日)日経
千葉県・茂原税務署と、群馬県・沼田税務署の職員二人がサラ金の返済などに充てるために、納税者から納められた税金の一部を着服したとして、懲戒免職処分を受けていた。金額は計八百四十万円にのぼっている。
「税務職員が車を盗む」…福島(平成五年一月二十二日)河北新報
原町警察署は、二十一日、盗みの疑いで相馬税務署職員斎藤利光容疑者(二十一才)を逮捕した。容疑者は酒を飲んで帰宅途中の二十日午後十時ごろ、原町市桜井町の書店の駐車場に止めてあった相馬市の会社員の乗用車を盗み、市内を乗り回して自宅近くの駐車場に乗り捨てた。
根の深い「大西二セ税理士事件」
こうしてみてくると、全国で税務職員による事件が起こっているが、大阪国税局での犯罪は、次のようにその深刻さの上で際立っていることがよくわかる。
それは、まず幹部職員による犯罪であること。しかも、いわゆる「出世組」といわれる職員が起こしている。そして、税金着服などの単純なものでなく、納税者や税理士など外部のものと結託し、職務に深くかかわった事件である。
この点で、大西ニセ税理士事件は典型的である。この事件の主役大西省二の大阪拘置所での大阪地検の取り調べにおける供述調書(平成二年七月四日付)がある。ここで大西は次のように供述している。
「私が主宰していた関西財政研究会の平成元年一年間の収入と経費について申し上げます。
まず収入について申し上げると、
安保幸太郎 二億二千万円
古柴 清輝 七千五百万円
株式会社永島建設 一千万円
大谷 篤弘 五千五百万円
大企連関係 三千万円
鹿田 勝彦 千五百万円
高井 平 千六十万円
その他 二千万円ぐらい
の合計約四億四千万円ぐらいの収入がありました。
これらは何れも、確定申告と税務調査の報酬として私が受け取ったものです。
次に経費について申し上げます。
ビルの賃貸料 二十万円
給料 合計約百万円
ビール券等の税務署に対する細かい接待費(贈物)及び事務所の諸経費約八十万円。
一ヵ月合計約二百万円の計算になります。
次に税務職員に対する接待費としては約四百万円を一ヵ月に使っていました。
税務職員一人を接待したとして、
食事代 一万二千円くらい
クラブ 一軒 三万円から四万円
タクシー代 二万円から三万円、多い時で五万円
かかり、更にもう一軒ラウンジ等に行った場合には、飲み代一万五千円から二万円使いますので、合計しますと約八万円から十万円になります。
私は一ヵ月に八回くらい税務署員を接待していました。
一回接待する場合、税務署員は一人から四人くらいいましたので、大ざっぱな計算ですが税務署に対する接待費としては一ヵ月に
約四百万円ぐらいになるのです。その他不動産業者や飲み屋関係の人たちとのつき合いで一ヵ月に約二百万円くらいを使っていました。
こうしたつき合いで、私個人が飲み食いした金額は一ヵ月約二百万円ぐらいですので、全てを合計すると、一ヵ月あたり約一千万円が経費であります。ですから、平成元年一年間の経費は約一億二千万円となるのです。
以上、お話ししたとおり関西財政研究会の平成元年一年分の収入と経費は、
収入 約四億四千万円
経費 約一億二千万円
でありました」
大西は、別の供述調書の中で、所得税や資産税のごまかしがすぐに分かる確定申告を作成し、税務署の親しい幹部に連絡して担当者に調査に来てもらい、多額の簿外経費を認めてもらい、担当者に修正申告を作成してもらっていたことを供述している。この手口で納税者から高額な謝礼を受け取っていた。
そのために、懲戒免職となった二人の幹部をはじめ、多くの税務職員を接待づけにしていたわけだ。
この調査に携わった多くの担当者も、大阪地検で取り調べを受け、供述調書をとられ、「上申書」を提出している。懲戒免職を受けた丹羽康雄と橋本孝雄が大阪国税局資料調査課の出身であり、また、丹羽康雄は大阪国税労働組合の元委員長であった関係で、この調査担当者は資料調査課経験者や、同労組の役員経験者が多い。この中には、同労組の現在のトップクラスの役員を務めている者もいる。
この大西ニセ税理士に事件について、税理士や弁護士でつくる税務署オンブズマン(大阪市、代表委員・福西幸夫税理士)は平成四年十月に、大西と国税職員(氏名不詳)を所得税法違反容疑で大阪地検に告発した。
大西は、税理士法違反で有罪(懲役十ヵ月、執行猶予三年)が確定したが、懲戒処分となった二人の元調査官は「現金の授受はあったが職務権限は特定できない」「ワイロにしては金額が大きすぎる」と大阪地検特捜部は不起訴処分としていた。
オンブズマンは、大西の約一億三千万円の脱税と、国税職員がこの脱税を認めたと告発したものである。
これに対し、大阪地検は平成六年九月二十七日、大西を起訴猶予処分に、国税職員を不起訴処分とした。「大西が税務署員らの接待に一年間に数千万円使った事実は領収書などで確認できたが、企業と異なり個人は交際費の上限がないため経費として認定せざるを得ない」などがその理由である。
これにより、この国税庁開びやく以来の汚職事件は、国税職員は一人として刑事処分にならずに終結した。
この事件では、大阪国税局は懲戒免職者を含めて一切の関係者の氏名を公表せず、処分の人数を公表しただけである。
大阪国税局は世論に押され処分を発表する記者会見を開いたが、懲戒免職者の氏名、年齢、官職、処分の理由、処分に至る当局の調査内容など一切あきらかにしなかった。
この異常な会見に、報道陣は怒り、詰め寄ったが、河手大阪国税局総務部長は「内部のことなので差しひかえたい」とくりかえした。
大阪地検も、これだけの一大汚職事件をひき起こした国税職員の刑事処分を不問とした。大阪地検が脱税摘発捜査などの日頃の国税局とのつき合いから甘い処分をしたというのは、マスコミと世論の一致した見方である。
こうした、国税局の身内に甘い姿勢が、この根深い汚職事件の根を残すことになった。
こうした犯罪は、犯した個人が悪いことは言うまでもない。しかし、個人の資質が悪いで片づけ、「綱紀の粛正」をとなえるだけでは、いつまでたっても同じような事件が跡を絶たないのも事実である。
個々の事件の背景にある、「犯罪を生む土壌」にメスを入れないと、真の解決にならない。
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