授業はじめのあいさつが終わり、北海先生が子どもたちに向かって第一声を放った。
「みんなは5年生になったんだよね。」
「ということは、今までに4回学校の畑で種まきをしたことがあるね。家でも植木鉢や花壇、畑に種まきをしたことがあるのかな。」
「あるにきまってんじゃん。」
「幼稚園でもやったよ。」
馬鹿にするなと言うばかりに、すぐ反応する子どもたちがいる。
「そうか、そうか、なるほどね。」
と不規則な発言も認めつつ、
「それじゃあ、ノートの新しいページに今日の日付を書いたら、今までにどんな植物の種をまいたことがあるか5つだけ書いてごらん。時間は2分。用意はいいかな、スタート!」
さっきまで不規則な発言をしていた子どもたちも、慌ててノートに向かう。
子どもたちがノートに鉛筆を走らせる音だけが聞こえてくる。
北海先生は、机間巡視をしながら珍しい植物の名前を書いている子のノートに☆印をつけていく。
「おっ、この植物の名前は、他の人はまだ書いていないな。☆をつけておこう。」
という具合である。
青森君が何も書かずにボーっとしている。
「青森君、1年生の時、みんなで植木鉢に植えた花は何だったっけ。思い出してごらん。」
「そろそろ時間だね。トップバッターとして発表してくれる人。」
子どもたちの手がパラパラと挙がり始めたとき、
「おれ、まだ挙げてないよ。」
「まだと言うことは、挙げようとしていたんだろ。先生にはわかったの!ノートに書いてある中から1つ発表して。」
「アサガオ。」
「アサガオです。」
と北海先生が言い直す。
「・・・です。」
板書の音が響く。
「青森君、次、女の子にあてて。女の子は男の子に、男の子は女の子にあてる男女リレーでいきます。」
次々と花壇の花と野菜を中心に植物の名前が出てくる。
10種類を越えたあたりから
「もうありません。」
「全部言われました。」
という声が聞かれるようになる。
「先生に☆印を付けてもらった人で、まだ発表していない人は立ってごらん。」
5人の子が立ち上がる。
「岩手さんから発表してもらおう。」
「はい、ビオラです。」
「パンジーの花を小さくしたようなやつだね。よく知っていたね。」
「宮城君は?」
「はい、えーと、アップルペパーミントです。」
「何だよ、それ?」
「香りを楽しむ植物だね。アップルって言うからリンゴの香りがするハッカなんだね。よく知ってたね。」
「お母さんが育てているのを手伝った。」
「そうか、みんなは今までにいろいろな種をまいて育てたことがあるんだね。」
「それじゃあ、もう1つ思い出したほしいことがあるんだけど、『種がちゃんと芽を出すように、みんながしたことはどんなこと?」
子どもたちの手が一斉に挙がる。
「畑起こし。」
「水をあげました。」
「草むしり。」
「肥料をあげた。」
次々と子どもたちの考えが出てくる。
北海先生は、黒板に『植物の発芽と成長』と書き、
「これからの勉強です。」
と一言言った。
「声をそろえて読んでみよう。」
子どもたちの声が続く。でも、『発芽』のところで声のトーンが少し落ちた。
「この中でわからない言葉はないかな。」
「発芽。」
つぶやきのように何人かの声が聞こえる。
「だれか、『発芽』を説明できる人いないかな。」
自信のありそうな手がいくつか挙がった。
「畑から芽が出ること。」
「土から芽が出ること。」
「種から芽が出ること。」
「今日から種のことを種子って呼ぶようにしようか。この方が5年生ぽいだろう。」
北海先生は、考えてきた親父ギャグをいつ言おうか考えていた。
「種子って3回言って覚えるぞ。さんはい!」
子どもたちは、声をそろえて言う。
「だれだおなかのすいているヤツは?寿司って聞こえたぞ。」
「えーっ、うそだーっ!」
子どもたちの笑い声が聞こえる。
「ははははっ、ばれたか。」
「先生、そういうの親父ギャグって言うんだよ。」
「そうか、まだ若いつもりなんだけどなあ。」
「でも、これで完璧に覚えただろう。」
「それじゃあ、種子が芽を出すときに必要なものは何か整理してみよう。」
子どもたちの手が挙がり次々と考えが出てくる。
(1時間目/10)
★「種まき」の「種」を強調したいところだが、この段階ではまださらっと流していく。
★子どもたちから出される植物の中には、ふつう種子ではなくて芋や球根を植えることの多いものも含まれるが、すべての発表が終わってから全体で確認していけばいい。
また、それらの植物にも種子はできることを知らせ、間違いという印象を持たせないようにしたい。
★子どもたちのノートに☆印を付けることは、机間巡視に意図を持たせる。また、子どもたちもどうすれば☆をもらえるか工夫をするようになる。
★どうしても取り組みの遅い子はいる。ちょっと声をかけることによってその子も動き出す。