松本 清張
              
 この作家の本をいったい何冊読んだろう。
 内田康夫に凝り始める前の一時期、松本清張を全部読もうと思ってい
たような気もする。
 改めて本棚にある本の冊数を数えてみたら50余冊だった。
 内田康夫の約半分だったのは意外だった。おそらくこの頃乱読が盛ん
になってどんどん違う作家に目移りしたからであろう。

 この作家が書く時代物は好きだった。
 古代物はほとんど歴史学者に負けないと思う。集めた文献が半端では
ない。ひょっとすると大学教授以上に専門書を有していたのではないだろ
うか。
 戦国時代や江戸時代を扱ったものも凄いが、整理してみると、実に多
方面に触手を伸ばしている作家であることがわかる。

 現代ものを扱ったものはある程度惰性に流れたような気がする。
 (自伝は深くうったえてくるものがあり、新鮮な分野であった。)

                       
 一番はじめに読んだのは、「日本の黒い霧」である。ここに描かれる迷宮入りの事件や出来事の数々。
   ・帝銀事件
   ・下山国鉄総裁事件
   ・松川事件
   ・白鳥事件 (札幌の白鳥警部が銃で撃たれ死亡)
   ・ラストヴォロフ事件 (駐日ソ連の二等書記官行方不明)
   ・朝鮮戦争
 これらがアメリカ軍による組織的な犯行であり、これらの事件をきっかけにして、共産主義者の取り締ま
りが厳しくなったと推理している。

 この本は主義・思想が背景にあるが、私はそれらにはあまり関心がなかった。
 ただ、松本清張の大胆な推理と、読者を説得させる独特の語り口に惹かれたのである。
 確かに、帝銀に現れ行員全員に毒を飲ませた事件・下山総裁の鉄道による轢死事件、列車を脱線させ
た松川事件、それらに対する作者の推理は、状況をじっくり丹念に把握・検証し、論理的に自説を述べて
いる。そこには一切の異論を受け付けない鋭さがある。

                
 火の路

上巻

上下合わせると2600円。この当時は高い本であったが、思い切って買った。
ミステリーではあるが、古代史を推理するために書かれたといってよいだろう。

 飛鳥路を一人歩く気鋭のT大史学科助手高須通子。古代人の残したさまざまの謎の石は
何を語りかけるのか。
 殺傷事件にまきこまれた落魂の在野史家海津信六を助けた通子は、彼の示唆ではるか
イランへ旅立つ。見果てぬ学問の夢をのせて・・・・・・。
 壮大なスケールで描く巨匠の長篇ロマン。      (解説から)

 火の路

下巻

 灼熱のイランを旅する若き研究者高須通子。砂漠に聳え立つ沈黙の塔から遥か日本の飛
鳥に思いを馳せる。
 古代史家海津信六の挫折は何が原因だったのか。海津にまつわる死の影を追いつつ、
謎の石に挑む通子の論文も確信に迫ってゆく・・・・・。(解説から)
軍師の境遇 
 「おれが死んだら、あとはだれが天下を取るか遠慮なくいってみよ。」
 侍臣たちの返事に首を振った秀吉が頭に想い浮かべるのは、片足が不自由で、風采の上
がらぬ軍師官兵衛の姿だった。
 黒田官兵衛孝高、もと播州御着の城主小寺政職の家老で、秀吉の中国攻め以来、参謀と
して縦横の機略を振るい、その天下取りに絶大の功をたてたが・・・・・。あまりに卓越した才
ゆえに不運の境遇を味わう軍師の運命を描く。    (解説から)
 他に「逃亡者」・・・・鉄砲の名人稲富直家、細川忠興の妻を見捨てて敵に囲まれた城から
             出奔した               (解説から)
 信玄戦旗  戦国乱世のただ中に、天下制覇を目指した名匠武田信玄。その初陣から無念の死に至る
まで、波乱激動の障害をたどる迫真の長篇小説。
 大国の当主同士が一騎打ちを演じた唯一の合戦として名高い川中島の戦い、軍師山本勘
助の巧妙な活躍ぶりなど、歴史の転換点、名場面の仕組みを周到な時代考察をふまえて鮮
やかに描いていく。
 虚々実々の駆け引き、壮大な勇気、そして決断のあり様などに魅きこまれるうちに、今を生
きる私たちの処世や対企業組織の活路が見えてくる。
 巨匠による、異彩をはなつ歴史読物。            (解説から)
決戦川中島
 昭和29年から1年間 学習雑誌「中学コーへ」に連載されたということで非常に読みやすい
 ように工夫されている。
 信玄の生い立ち、信玄を守り立てた板垣信形、山本勘助、諏訪侵攻、川中島の戦い
 風林火山の旗、信玄の戦い方
 謙信の生い立ち、関東出陣、鎌倉・鶴岡八幡宮、など、よく分かるように描かれている。
 全体に武田信玄を中心に書かれている。
 家康との三方ケ原での戦い、信長の動向、野田城で鉄砲傷を受けたこと。
 今日の都に旗を立てようとして諦めざるを得なかった信玄の無念さが滲み出ている。
 乱  雲  「信玄軍記」(上記とは異なる) 「乱雲」の2つの物語。
この二つは同じ素材にもとづきながら、別の展開をしめしているが、しかし、この二作を合わせ
て読めば、信玄をめぐる戦国期の時代相を知ることができるし、同時に松本清張の人間観、
歴史観がうかがえる。
 「乱雲」は二年後に書かれた、「野盗伝記」の世界につながり、後に江戸期を背景とする伝
奇小説に発展する原型といえるが、「信玄軍記」はその後の史記ものに糸をひく作品であろう。
二篇の初期作品はそうした彼の文学世界の広がりをここに暗示しているようだ。 (解説から)
 火の縄  主家滅亡の後、細川家に随身した稲富治介は、風采のあがらぬ無骨者だったが、鉄砲に
かけては百発百中の名手で、諸大名を畏怖させたが、主君細川忠興夫妻に蔑視されて・・・
あたら戦国争乱の時代に戦陣の機会を与えられず、徳川の世にいたるまで不運な宿縁に
操られる。 不遇に身をおいた稲富伊賀直家の生涯を描く。     (解説から)
 柳生一族
   光文社
 天下統一を成し遂げた豊臣秀吉が、全国に命じた検地令。いわゆる「天下の石直し」で大
和柳生の庄の宗厳の領分には「隠田がある」と朋輩の松田織部之助に密告され、所領没収
となった。
 宗厳は血気にはやる三人の息子 (厳勝・宗頼・五郎右衛門)たちを諌め、互いにお家再興
を誓わせ、大和を去った・・・・・・・。
 優れた時代小説を数多く生んだ巨匠が描く短編傑作集。      (解説から)
 柳生一族
  講談社
 柳生一族のほかは、上記の本とは異なる短編が8編載せられている。
 徳川家康   人の一生の中には、3つの転機がある。まずは17、8歳のとき、友達の感化で悪くなる。
次は30歳、物事に慢心して老巧のものを馬鹿にする心に注意。最後は40歳、過去ばかり
ふりかえって将来を見なくなる。この3転機に注意せよ。
 青少年向きに書き下ろした伝記文学の白眉。       (解説から)
 奥羽の二人  不敵な野望と奔走さに満ちた若き伊達政宗と奥羽で対峙する蒲生氏郷。
 二人にとって超えることのできない大きな存在が秀吉であった。天下に志を得ずに終った
彼らの胸中の苦悶を描く表題作のほか、抗いがたい力に翻弄され、結局は身を滅ぼしてい
った武将たちの悲話十編を収録。待望の歴史小説傑作短編集。   (解説から)
 小説日本芸譯  日本美術史に光彩を放つ10人の名匠たちの生身の人間像を創造した異色作。
 古代国家が崩壊したあとに封建体制が再編成されてゆく。激動期に生きた芸術家たち。
 運慶・世阿弥・千利休・雪舟・古田織部・岩佐又兵衛・小堀遠州・光悦・写楽・止利仏師
私説・日本合戦譯  悲惨をともなうが、しかし、戦争ほど面白いドラマはない。指揮官の駆け引き、決断、将兵
の立場と心理。そらに加えて、運不運のハプニング。この本は、日本の国内戦争から「長篠
合戦」「姉川の戦」「山崎の戦」「川中島の戦」「厳島の戦」「九州征伐」「島原の役」「関が原
の戦」「西南戦争」の9合戦を選んでドラマを解明した読み物である。    (解説から)
 岸田劉生晩景  貧窮のうちに死んだ祖母の骨壷を探しながら小倉を訪ね、往時を回想する鎮魂の自伝的
小説「骨壷の風景」 
 画壇の主流に背を向け、荒んだ生活を送る天才画家。著者独自の鑑識眼を駆使して、卓
抜したテクノロジスト岸田劉生の晩年の悲劇を解明した表題作。
 老人の奥底にひそむ性と孤愁を生々しく描き出した「筆写」
 画狂人の気負いと孤独を捉えた「北斎」など、その他「鳥羽僧正」の全5編を収める。
                                         (解説から)
 大奥婦女記  江戸城に画然と仕切られた男子禁制の大奥。時勢に乗って権勢を謳歌する女、逆境のわ
が身を嘆く女、次代の隆盛を狙って秘かな策動を図る女・・・・・愛と憎しみと嫉妬と。さまざま
な思いを秘めて、女のさがが渦をなす大奥には、異常な確執が激しく火花を散らす。その実
相を冷徹な作家の眼が捉えた時代長編。                (解説から)
 鴎外の婢  在野の文学史考証家・浜村幸平は、鴎外の「小倉日記」に簡潔だが印象深く描かれ、日
記の中でほのかな透き絵となっている婢(女中)モトに興味を惹かれ、小倉に調査に向かう。
モトの戸籍に見た意外な事実。その娘の不審な死。いよいよ探索心を刺激された彼は孫ハ
ツの行方を追うが、彼女消息は突然断たれていた・・・・。
 文学史上の事実と虚構を巧みに結んだ異色推理中編。併録「書道教授」  (解説から)
      
 
 乱  灯

  上巻

 将軍徳川吉宗の下に届けられた怪文書。
南町奉行大岡越前探索内に起きる連続殺人事件の謎とは?  (解説から)
 乱  灯

  下巻

 殺人は殺人を呼び、大岡越前の前に事件は、恐るべき全容を現す。
苦悩する大岡の胸中の秘策とは?     (解説から)
 鬼火の町  朝霧の大川に浮かぶ無人の釣舟。漂着した二人の男の水死体。
川底に沈んでいた女物煙管は謎を解く鍵か? 反骨の岡引藤兵衛にのしかかる圧力の正
体は? 
 颯爽の旗本、悪同心、無気味な寺僧、大奥の女たちを配して、江戸を舞台にくりひろげ
る久々の長篇時代小説。     (解説から)
 彩色江戸切絵図  日本橋界隈に暮らす商人たちの静かな生活の裏面をあばいた「大黒屋」。信仰にから
む色と欲の世界を描いた「大和詣で」。虐げられ、ふみつけられた者の意地を爆発させた
「山椒魚」。他三篇。
 揺らぎ始めた江戸の時代相と名もない庶民の生活を巧みに描写、人情の機微と犯罪の
からくりを見事に解明した時代推理短編集。        (解説から)
 佐渡流人行  時代小説の第二集。誤解から役人の妻との過去を疑われた男が、逃れるすべのない絶
海の孤島佐渡に送られ、金山の湧き水を汲み出す水替任即として想像を絶する地獄の苦
しみを味わう「佐渡流人行」。下級役人の悲しい運命をたどる「甲府在番」江戸っ子の意地
を痛快に語る「左の腕」。ほかに「陰謀将軍」「腹中の敵」「秀頼走路」「戦国謀略」など戦
国時代に取材した力作八編を収める。            (解説から)
殺人行おくのほそ道
上巻
 銀座で洋装店を経営する美しい叔母は、倉田麻佐子の自慢だった。あるとき、麻佐子は、
叔母が叔父の山林を内緒で売ったことを知り、愕然とする。
 ひそかにその謎を探る彼女は、その山林売買の仲介をした海野がタクシーにはねられて
死んだことを知る。叔母は何故お金に困っているのか。海野の死は・・・・連続殺人事件の
始まりだった。     (解説から)
 紅刷り江戸噂  色と欲とからおこる事件を追い、人間の弱さと罪業を、江戸下町の風俗を背景に描く推
理傑作集。
 正月7日、日本橋の繊維問屋の主人庄兵衛が急死した。七種粥の中に毒草が混ぜら
れていたのだ。七草は女房お千勢がなずな売りから買ったもの。岡引の探索はなずな売
りを追うが・・・・・・・る。「七種粥」他五編を収録。         (解説から)
殺人行おくのほそ道
下巻 
 叔母の周りの人々が次々と殺されていく・・・・・。しかも、その土地が松尾芭蕉の「奥の
細道」に由来している。麻佐子は、5年前、叔父と二人で旅した「奥のほそ道」と連続殺人
事件の謎を解こうとして、やがて犯人と覚しき一人の男を知る。しかし、その男もまた、殺
されてしまうのだった。それでは真犯人はいったい・・・・・・。  (解説から)
カルネアデスの舟板  教授の職を追われ故郷へ身を引いた恩師を訪ねた玖村は大学への復帰を恩師に依頼
される。師弟の立場の転倒から生じた秘かな優越と侮蔑。しかし、玖村はその肚の中の
愉しみは、ふとしたことで覆される。本書に収戴された7篇の作品は、すべてデモーニッシュ
な人間性を追求する純然たる芸術作業の結晶だ。  (解説から)
 ドラマ化された「鬼畜」「喪失」等を含む。
 ゼロの焦点  A広告社の腕利き社員、36歳の鵜原憲一は、若く美しい妻を得て、ようやく独身生活に
さよならをしたところでだ。
 健康で精力的で、仕事は好調であった。何一つ、不満も不安もないはずの男であった。
 その彼が新婚一週間にして、突如失踪した。なんの足跡も残さず、煙のように消えたの
である。
 ひとり残された若妻、禎子は、夫の行方をさぐるため、不快謎の中に踏み込むべく、西の
古都金沢へと旅立つ。夫はなんのために失踪したのか。あるいは失踪させられたのか?
 「ゼロの焦点」は北陸の冷たい風光を背景に、追い詰められた人間の孤独と恐怖を描き
つくし、最初から恐ろしい緊迫感に読者を引きずりこんでゆく。
 著者が「僕の代表作」だと宣言する作品である。    (解説から)
十万分の一の偶然  東名高速道路で起こった事故の激突の瞬間を撮影したカメラマンがいた。
 年間最高賞をとったこの写真から、物語が展開する。
 落  差  一個の知性が崩壊してゆく過程は教育者において特に醜い。
 社会派を自他共に認める巨匠がこの好材料を得て、教育界に渦巻く黒い霧、教科書売
り込み競争に踊る醜悪な人間像を見事に浮き彫りにした作品である。
 作者の正義感はその鋭い筆に余すところなく託せられ、「教育」を強く問題提起した意
味においても読みのがすことはできない。    (解説から)
 風  紋  サラリーマン社会の錯綜する人間関係 !  新製品の成否に命運をかける食品業界の内
幕とマスコミの魔力 !  一企業の繁栄と衰退を見事に描く傑作企業長篇 (解説から)
 喪失の儀礼  製薬会社と癒着している医学界の現状を批判した東京都下の大学病院の医局員住田
友吉が名古屋のホテルで他殺死体となって発見された。その殺人方法は、手首の動脈
を切って、湯の中で徐々に脱血させ死亡させるという異常なものであった。
 二ヶ月後、ほぼ同じ方法によって開業医が・・・・・・・。
 医師と製薬界の荒廃した連繁と意外な愛憎関係がもたらした連続殺人事件を描く本格
推理長篇。                                (解説から)
 死の発送  6つき17火朝、東北本線「五百川」駅近くの草むらで、死体入りのジュラルミン・トランク
が発見された。被害者の身元は東京の三流新聞編集長山崎と知れたが、鉄道便による、
東京「田端」駅からのトランク発送者もまた、山崎自身だった !  部下の底井武八は、独
自の操作と推理で、謎に挑んだ。山崎は事件の二ヶ月前福島で殺されたN省元官吏岡
瀬が隠す横領金を以上な執念で追い、その探索の中で4人の人物に接触していた。
 6月の福島競馬をるぐる、それぞれの行動に、底井の疑惑は向けられた。  (解説から)
 歪んだ複写  東京郊外で発見された男の腐乱死体の身元を追及する二人の新聞記者は、被害者が
税務署員で、脱税事件の責任ほ負って退職した男であることを知り、意外な事件の核心
にふれてゆく。
 酒と女の供応明け暮れる悪徳税務署員の私行が招いた三つの殺人事件を通して、脱
税に、収賄に腐敗しきった税務署の驚くべき内情を描く。
 現代の黒い霧に挑む著者の代表的社会派推理長篇。      (解説から)
 潜在光景  二十年ぶりに再会した泰子におぼれていく私は、同時に彼女の息子の不信な目に怯
えていた。・・・・潜在光景
 実家の財産を独占しようと策略をめぐらす長女がはまった罠は・・・・黒い血の女

 ちょっとしたつまづきがその運命を悲劇に変えた・・・慎ましい生活人の心の暗部を映し
出す清張文学の絶品集。                        (解説から)

 強き蟻  澤田伊佐子は三十も年上の会社重役と結婚した。それは遺産を手に入れようという打
算の上に成り立っていたが、また彼女のまわりにはね欲望に身を焼かれて、蟻のように
うごめきまわる人物たちがいる。それらの男女が入り乱れ、欲望のままに犯罪を構成し
てゆく。サスペンスがこり小説の面白さである。           (解説から)
 黒い空  辣腕事業家山内定子が創った八王子郊外の結婚式場「観麗会館」は、その高級感が
うけて大変な繁盛ぶりだ。
 経営をまかされている小心な婿養子善朗はある日、口論から激情して妻定子を殺し、
死体を会館の名所である「岸壁」に埋め込んでしまう。
 門出を祝う式場が奇しくも墓場となり、その上空を不吉なカラスが飛び交い、新たな事
件が発生する・・・・・。
 川越の古戦場に埋もれた長年の怨念を重ねた、緻密な大型長篇推理。 (解説から)
 日光中宮司事件  10年前、日光におこった一家無理心中事件に疑惑 !  
 土地の一住職の熱心な懇願により、警察はついにこの事件の再捜査に踏み切った。
10年のブランクのために難航する捜査。事件直後、現場から消失した小切手の行方は?
捜査線上に浮かびあがった謎の朝鮮人は?
 終戦後の混乱期にみられた警察の強引な捜査に、鋭い批判の目を向けた表題作。
 他に8編を収録。松本清張の傑作短編集。       (解説から)
 事故
  別冊黒い画集1
 山梨県内の断崖の下で、血まみれになって死んでいる若い男が発見された。翌日、
湖畔の竹やぶの中から30過ぎの女の絞殺死体が出てきた。男は運転手であり、女は
興信所員だった。この二つの殺人と東京で起こったトラックの事故とはどうつながるのか?
その謎を追う「事故」と、密度濃いサスペンス小説「熱い空気」の二篇収録。(解説から)
 陸行水行
  別冊黒い画集2
 南朝鮮から日本に上陸して邪馬台国に至る旅程が、古代史の大問題になっている。
古代の人々が通ったであろう道をたどろうと思い立った二人はどうなったか? 邪馬台国
のロマンと古代史の推理がみごとに結晶した「陸行水行」のほかに、「形」「寝敷き」「断
線」の三篇を収め、日常性の中の人間心理をえぐっている。        (解説から)
 分離の時間  ホテルに偽名で宿泊中の代議士が殺された。被害者に人知れぬ男色趣味があったら
しいと偶然知った広告代理店の社員土井は、友人の週刊誌記者と代議士の足どりを追
う。
 やがて、二人は、代議士が日常的関連から断絶したいわば分離の時間の中で、癒着
した政財界の裏面、倒錯した性り世界に踏み込んでいたことをつきとめる。そして、事件
の真相は意外にも・・・・・・・。他に「速力の告発」             (解説から)
 霧の旗  殺人容疑で捕らえられ、死刑の判決を受けた兄の無罪を信じて、柳田桐子は九州から
上京した。彼女は高名な弁護士大塚欣三に調査を懇願するが、すげなく断られる。兄は
汚名を着たまま獄死し、桐子の大塚弁護士に対する執拗な復讐が始まる・・・・・・。
 それぞれに影の部分を持ち、孤絶化した状況に生きる現代人にとって、法と裁判制度
は何か? を問い、その限界を鋭く指摘した野心作である。     (解説から)
 黒い樹海  仙台へ旅立ったはずの姉が、意外にも浜松でバス事故に遭い急死 ! 身分証明書が不
明のため、知らせが遅れ、笹原祥子は事故現場へとんだが手がかりはなかった。
 新聞社へ勤めた彼女は、姉の交友関係の男たちを追求中する。同僚の婦人記者と、事
件の鍵を握る女性の相次ぐ殺人事件 !  マスコミに潜む人間悪を抉る現代推理の傑作。
                                        (解説から)
 遠くからの声  姉が結婚する前の交際に利用された妹は、姉の新婚旅行へもやって来た。妹の不思議
な行動の意味が、霧の中の遠い声となって哀しくひびく・・・・・・「遠くからの声」
 同郷で小学同級生で親友の間に何故殺意が生じたのか・・・・「殺意」
 人間の深層の動きを捉えて、生の実存を問う推理作品群8編。   (解説から)
 時間の習俗  神奈川県の相模湖畔で交通関係の業界紙の社長が殺された。関係者の一人だが容疑
者としては一番無色なタクシー会社の専務は、殺害の数時間後、遠く九州の和布刈神社
で行われた新年の神事を見物し、カメラに収めていたという完璧すぎるアリバイに不審を
持たれる・・・・・・。「点と線」の名コンビ三原警部補と鳥飼老刑事が試行錯誤を繰返しなが
ら巧妙なトリックを解明してゆく本格推理長編。             (解説から)
 神と野獣の日  核弾頭ミサイル誤射。早春の午後の平穏を破ってもたらされた報告は、総理官邸を戦慄
に凍りつかせた。Z国の核五発が東京に向かっている。すでに空中爆破は不可能というこ
の事態を知らされた国民はこのときいかなる行動をとったか?  巨匠松本清張が野心秘めて
挑むSF長編。                                 (解説から)
    
 
邪馬台国 

 清張通史@

空白の世紀 

 清張通史A 

カミと青銅の迷路

 清張通史B

壬申の乱

 張通史C 

天皇と豪族

 清張通史D

清古代の終焉

 清張通史E

火神被殺

以下5編

黒い霧
黒の回廊
半生の記

 



  
  
  
  
 水上 勉
     
  
1919年 福井県生まれ。立命館大学文学部国文科中退。

1961年(昭和36年) 第45回直木賞『雁の寺』
1961年(昭和36年) 第14回日本探偵作家クラブ賞『海の牙』
1964年(昭和39年) 第 4回婦人公論読者賞『くるま椅子のうた』
1965年(昭和40年) 第27回文藝春秋読者賞『城』
1970年(昭和45年) 第19回菊池寛賞『宇野浩二伝』
1973年(昭和48年) 第 7回吉川英治文学賞『北国の女の物語』、『兵卒の鬚』
1974年(昭和49年) 第11回谷崎潤一郎賞『一休』
1977年(昭和52年) 第 4回川端康成文学賞『寺泊』 
1984年(昭和59年) 毎日芸術賞『良寛』
                    Wikipediaを参考にしました。

                                                                    
蓑笠の人  この作家の本を初めて読んだ気がする。さすがに昔の作家は文が旨い。
読み手をしっかり惹きつけてくれる。
 ・蓑笠の人
   良寛について、その生涯を資料をもとに辿ろうとしたものである。ただ、
   引用がとても多く、小説仕立てになっていないのが残念。
   良寛が生活の場とした越後は飢饉が続き、とても一日遊んで暮らせる
   ような環境ではなかった。
   その中で良寛はどのように生きたのか、疑問も多く投げかけている。
 ・築地警察留置場
 ・衣笠三界
 ・破衣の群れ
   かつては僧にになることを夢見て寺で修行した主人公。師の竺源老
   師は弟子たちのことは先輩にすべて任せ、若い内儀との生活にふけ
   るばかり。
   やがて寺院生活に絶望し寺(等持院・・足利尊氏をまつる)を脱走。
   教師となった。
   同じく修行した太宗はつまずきながらも、寒村の住職となった。しかし
   その夜、住職就任の祝いで集まった金を持ち逃げし、流浪の生活を
   送る。僧がそこまで煩悩を捨てきれないものだろうかと・・ある年代に
   達してしまった私は思うのだが。
雁の寺
 直木賞を受賞した作品である。
 四部からなっている。
  ・雁の寺 
    背が低く頭の大きな異相の慈念は狐峯庵で慈海和尚と里子ととも
    に暮らしていたが、慈海和尚が行方不明となったのを機会に寺を出
    奔。
  ・雁の村
    若狭本郷の底倉の西安寺に現れた慈念は実の母ではないかと思
    われる菊の姿に失望し行方をくらます。
  ・雁の森 
    宇多野の奇崇院に身を置いた慈念。奇崇院住職は小僧を育てる情
    熱を持っていた。やがて住職の越雲和尚が倒れ、慈念は寺を去る。
  ・雁の死
    角蔵は育ての親ではなく、自分の本当の父はないか。その疑問を
    とくため、慈念は角蔵が三重の塔を建てている、裏比良の観知院
    に入り込む。角蔵は菊と暮らしていた。やがて・・・。
  水上勉の本は、人間の抱える暗い哀しみと向き合ったものが多い気が
  する。読後の爽やかさや生きる力を求めるものとは異なる。

        



   
  
 
   
  
森村 誠一
   
   この作家の本をかなり読んだと思っていたが数えてみたら案外
少なかった。 「終着駅シリーズ」に代表されるような、もともとな
んの縁もなかった人たちが、ふとしたきっかけからすれ違い、思
いもかけない方向に進  む・・・・・・・・というストーリー。
 意外な展開にぐいぐいと引きずり込まれて、日を置かず読了さ
せられてしまう。その巧みな文・・・・・・。
この作家の本はほとんど当たりはずれがないのも特徴である。
歴史物も是非読んでみたいがあまりみつけられない。
 「人間の証明」が映画化されて一般化された作家で、人間心
理の深層や社会問題への切り込みは鋭い。恐ろしいほどである。
 「悪魔の飽食」は本棚に飾ってあるだけ。深く考えさせられた。
「新人間の証明」(戦時陸軍第731部隊の所業がテーマ)を読ん
だ後に購入したのだが、「悪魔の飽食」を読むにはかなりの覚悟
が要る。
昭和8年 埼玉県生まれ。
   33年 青山学院大学卒
       ホテルマン勤務後
  44年「高層の死角」で江戸川乱歩賞受賞
  47年「腐蝕の孝造」で日本推理作家協会賞
  51年「人間の証明
  56年「悪魔の飽食」はともにベストセラー。
 
 近年では「忠臣蔵」など、歴史時代小説に
 も意欲的に取り組んでいる。
  (表紙カバーの記載を参考にしました。)
 
このページを作るために本を集めて愕然とする。題名をみて、ほとんど内容を思
い出せないのは仕方がないとしても、「この本を読んだ」という記憶がないので
ある。
 もし、本屋で暇つぶしに「森村誠一のコーナー」を見ていたら、きっと買ってし
まったかもしれない本が何冊もある。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
他の作家でも同じ本を買ってしまったという経験がいくつかあって、後で思い出
すといまいましいが、森村誠一の現代物に関しては頻繁に発生しそうである。 
            
銀河鉄道殺人事件
 さすがにプロの作家は違う・・・。
 森村誠一独特の世界。
 いくつかの事件が交錯する、まったく関連がないと思われた殺人事件が奇妙に
 結びついていき・・やがて犯罪の構図が 浮かび上がる。
 身元不明の二つの死体は場所が同じ北上川だったことから同じ犯人ではない
 かということになる。手口は絞殺、轢き殺しと異なるのだが。
 そして、猫屋敷の老婆の絞殺。
 3つの事件の絡み合いが解け、事件はおわったと思われたが・・。
 轢き殺しで川に捨てられた恋人はなぜ車の前に飛び出したのか衣子は釈然と
 しない・・。

 森村誠一の仕掛け、構図はすごい の一言。

悪  道
 さすがに森村誠一。
 徳川綱吉が急な病で倒れ、「影」が将軍に成り代わったという設定で
 さもありなんという世界を描ききって見せるところが凄い。
 柳沢吉保は影が入れ替わった事実を隠蔽するため、影を育てた者や
 影を見破った籠の添番役・流英次郎 御典医の娘・お袖を消そうとする。
 口入れ屋の軍平、非人組織の総支配・浅草弾左衛門の助けを借り、
 みちのくに逃れた英次郎達。
 すっかり綱吉になりきり、綱吉の誤った政治を改正しようとする「影」
 吉保に敢然と立ち向かう覚悟を決めた英次郎。
 絵空事のような展開であるが、歴史小説の醍醐味に溢れている。
 御三家の刺客

悪  道

 シリーズになったようである。
 この前に悪道「西国謀反」というのがある。
 「御三家の刺客」は3作目になるようだ。

 将軍のそば近くで守る・英次郎に将軍から直々に密命が下る。
 次期将軍とされた家宣の住む西城を守れというのである。
 名君になりつつある影の将軍に劣らない資質を備えた家宣になにが起ころう
 としているのか。
 英次郎は一統となった、かつての敵・貴和(女装の忍者)、村雨、陰の教育係
 だった道之介等とともに、紀州・尾張をバックにしたのではないかと思われる謎
 の一味と戦う・・。
 人身売買いと海外との密貿易、海へも舞台を広げる。
 外国の武器(フェンシング?)、必殺の「突き」躱せるか。英次郎と一統が強敵に
 挑む。
 家宣が市中にでたりする場面も面白い。まるで暴れん坊将軍?

 面白かったが、前半ちょっと長さを感じた・・。(後半は行き詰まる展開)
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 内容紹介から
 徳川家五代将軍・綱吉に成り代わった影将軍の善政によって、天下の悪法
 「生類憐みの令」も緩和され、江戸の町も明るさを取りもどそうとしていた。
 影将軍の秘密を知る、忍者の末裔・流英次郎と仲間たちは、奥州や西国で
 密命を果たし、江戸に帰着してからは影将軍の親衛役を務めていた。

 そんな折、英次郎は町なかで人買いに捕まっていたという娘を助けることに
 なる。ちさと名乗るその娘は、英次郎たちに保護されるとすぐに禁断症状を
 起こした。
 おそでの見立てによると、麻薬の中でも最も毒性の強い「阿芙蓉」のせいら
 しい。阿芙蓉使用者が江戸に現れたとなるとただ事ではない。
 他方、市中で頻発する「神隠し」の正体が、人買い商人の仕業であることが
 わかってくる。
 この阿芙蓉と神隠しが結びつくことで、組織的な巨悪がその輪郭を現してき
 た。もしかすると、幕府の屋台骨を揺るがすような事態が進行しつつあるの
 かもしれない。
 巨悪の候補に、なんと御三家の一家・紀州藩と、海商・十文字屋の名が浮
 かび上がってきたのだ。 

 江戸の街で頻発する神隠し。拉致されかけた娘を偶然助けた流英次郎は、
 彼女を手がかりに神隠しの正体に迫る。浮上した幕府の大屋台に巣くう恐
 るべき白蟻は、麻薬と人身売買により、幕政の根幹たる鎖国令を食い荒ら
 している。
 巨大な白蟻の巣に近づきすぎた流一統に、過去最強の海外からの刺客た
 ちがぞくぞく襲いかかる! 

  森村誠一の代表作の一つ。
 著者の言葉 
 「夢を背負って「町」へ出てきた一人の少女が殺された。彼女はその街の定住者
  になろうとして拒否されたのである。街に人生がぎっしり詰め込まれている。そ
  こには種々雑多な人生がごった煮のように無秩序に放り込まれている。・・・・」
 刑事・牛尾は新宿の街を歩いていて、若い娘が三人の若者に車に連れ込まれそ
 うになっているのを目撃。娘を助ける。娘は歌手をめざしやがて成功する。
 これがプロローグである。やがてこの出来事が意外な発展を見せ・・、終息する・・。
 これはこの作家の本によくみられる展開である。
 なんの脈絡もなく発生した偽装殺人事件。最愛の恋人を奪われた山地は犯人を
 探す・・・。やがて犯人の一人と思われる男から、恋人の実家に「真相を教えるか
 ら金を出せ」という電話が入る・・・。そして起こる連続殺人。
 複雑に入り組んでいるようで、緻密な構成により、緊張感を持って最後まで読み
 進めさせられる。作者が渾身を込めて描いた秀作である。
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 内容紹介から
 「私のネックチェーンは悪夢の預り証」謎の言葉を遺し、ホステス・立科由里は新
宿中央公園で殺害された。かつて人気歌手だった彼女の悪夢とは? 
 牛尾刑事は、チェーンが別件殺人被害者の物と知り驚愕する。二つの事件の接
点を、牛尾と偽装心中の被害者・数成真美子の恋人・山地繁樹が追うが・・・。さら
に浮上した容疑者らは次々不審な死を……。  
刺客請負人
森村誠一はやはり凄い。筋の組み立ても素晴らしいが、情景の描写が良い。
 江戸の四季や行事がさりげなく語られ、読み手を物語の場面に引き込んでくれる。
 内容(「BOOK」データベースより)
 許嫁を藩主に奪われ、故郷を追われ江戸に流れ着いた浪人松葉刑部、人呼んで
「病葉」刑部。元禄バブルの時代に、侍の魂を捨てきれない刑部が、その豪剣の腕
を買われて始めた稼業は、刺客請負人!森村流、人情味溢れる時代小説読み切り
シリーズ第一弾。  
挫折のエリート
読み応えのある短編集。
 ただ、内容は濃いが切なくなるお話である。
 家族や愛する女より、会社・仕事が大事だと考え行動する男達。その先には何が
 待っているのだろうか。人間の求めるもの、未来、本当の幸せとは何か、深く考え
 させられた。
  ・埋没社員
   何より会社を優先する高本は流産しかかっている妻を置一人で病院
   に行かせ自分は会社へ行く。その姿勢は部下にも強要する。
   会社が合併に揺れる中交通事故に遭った高木は・・・。
  ・プロ意識過剰社員
   中高年になって初めて本当の恋を知ったパイロットだったが、交通事故に遭った
   若い恋人を残し、ハイジャックされた機に向かう。北朝鮮に飛行できるのは自分
   しかいない・・・。
  ・復讐社員
   大学のワンダーフォーゲル部で、後輩を苛め死に追いやった佐倉と井田。
   出所した二人はスーパーから勧誘され勤めるが・・・。
  ・失脚社員
   正木は自分に恋する女を会社のために顧客に提供し、社長の娘に確認のスタ
   ンプを押した・・・。
  ・女衒写真
   この話は切なく辛い。雑誌ライターの中川は北国のK市かにの帰りの夜行列
   車で、美しく希望に輝く八城幸子と隣り合う。グラフィックデザイナーの学校に
   行くという幸子に中川は心をときめかされるが・・・。清らかで溌剌とした娘の
   前に大都会という魔物が待っていた。   
  ・競合社員・競合社員は以下
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内容(「BOOK」データベースより)
 高校・大学を共にしたライバルと同じ会社に入社、相手は都心の花形営業所長
 に、自分はその下で副所長になるという屈辱を味わった男のひそやかな憎悪を
 描く「競合社員」。
 社内ではまったくうだつのあがらぬ男女が、思いきって外形を変えたことで栄光
 を手にするが、思わぬ陥穽が二人をからめ取るサスペンス「美容整形社員」ほ
 か、サラリーマン世界での刺激に満ちた人間ドラマを生々しく描く七篇。 
高層の死角
東京--福岡。ワンマン社長と美貌秘書の連続殺人を繋ぐ鍵は?・・・・・・・・・・・・・・・・・
  巨大ホテルを舞台に展開する密室トリックとアリバイ崩しに挑む本格推理。
                                    (解説から)  
 第15回江戸川乱歩賞を受賞した秀作である。 
 ホテルマンを経験したこの作家でなければ書けない密室殺人のカラクリ、ホテル独
 特の仕組みと働く人々の動き・・・。
 パレスサイドホテルの社長・久住が完全な密室の中で殺害された。有力な容疑者
 と して浮上した秘書の有坂冬子には「鉄壁のアリバイ」があった。それは捜査員
 の一 人平賀刑事が殺害時刻に有坂冬子と一夜を共にしていたという・・・。 
致死海流
 入院中に病院の図書室から借りて読んだ。
 森村誠一の本を読んで空振りに終わることはほとんどない。今回も良かったが、ちょ
 っと筋が入り乱過ぎているといんしょうがある。
 内容(「BOOK」データベースより)
犬吠埼の沖合で若い女性の溺死体が発見された。黒潮の流れから、事件発生は御
蔵島と八丈島の中間当たりの水域と考えられた。そのころ八丈島で、八丈富士に向
かった一組の若い男女が戻らないという連絡があり、島を上げての捜索の結果、女
性だけが旧噴火口で絞殺されて見つかった。
 被害者の二人は同じフェリーに乗り合わせていたらしい。別々の場所で起きた二つ
の事件に、果たして関係はあるのか?正体不明の男の行方は?事件を追う刑事たちの
執念の捜査は、やがてひとりの容疑者をあぶり出す。だがその矢先第三の事件が。 
野生の証明 
 この本、なぜか2冊もある。初版を読んだのを忘れてしまって、第5版も買って読ん
 だという・・・。
 東北の寒村で戦慄すべき大量虐殺事件が発生!
 辺地のため発見が遅れ、犯人は完全に姿を消していた。三日後、一人だけ行方
 不明になっていた少女が近くの村で発見された。だが、事件の時のショックで記
 憶を喪失していた。
 それから2年の歳月が過ぎた。F県羽代市に、どこから流れて来たのか、10歳ぐら
 いの少女を連れた若い男が保険の外交員として住み着いた。何か目的があって
 来たらしく、彼はやがて羽代新報の若い婦人記者に接近し始めた。
 息もつかせぬサスペンス。人間の心に潜伏する凄まじい野生を追及した、話題の
 証明シリーズ第三弾 !   (解説から)
 解説で高木彬光が「とても面白い作品です。とにかく読んでごらんなさい。」という
 ほかはないといっている。名言である。
 棟居刑事の

   復  讐

 警視庁捜査第一課の横渡刑事は帰宅途中、暴漢に襲われた女性を助けようとして
 男と格闘し無念にも刃物で刺殺された。
 一方、襲われた女性も死体で発見される連続殺人事件が起きた。殉職の訃報を聞
 いた棟居刑事は激しい怒りを覚え、「仇はおれがとる」と亡き横渡の面影に復讐を
 誓う。
 そして、女性被害者の身辺を調査中、遺品から28年前に起きた棄児事件を報道し
 た古い新聞記事が見つかった・・・。
 燃える刑事魂が巨悪と対決する「棟居刑事シリーズ」第1弾。(解説から)
  花の骸   道路わきで殺されていたのは青森県からの出稼ぎ労働者だった。
 彼は金に困り仲間三人で強盗に入った屋敷で殺人を目撃していた。そして、もう一
 人も行方不明に。
 政財界の大物が出入りするその邸でいったい何が・・・・・・・。
 皮肉な運命のめぐり合わせを重厚に描きあげた傑作推理。  (解説から)

 「青森」の文字を見つけ、思わず買ってしまったが、この人物は別にどこの人でもよ
 かっのかもしれない・・・・・。森村独特の脈絡のない人々の出会いから始まる。

  夜の虹   誰が約束することもなく、一年に一度だけ神奈川県の箱根のホテルで顔を合わせ
てきた集まりがあった。それは通称「七夕の会」といい、都内の老舗旅館の息子や
金満家の老人、カメラマンなどメンバーはさまざまである。
 だが・・・そのメンバーの関係人物が月々と呪われるように死んでいく奇怪な事件
が発生した。
 一方、新宿に住み着く「総理」渾名される浮浪者が殺害された。そこには、途方も
ない悪の構図が描かれていた。人間の絆の怖さを描く本格推理の力作。(解説から)
新・新幹線殺人事件  博多発東京行きひかり116号で、トレンチコートの男が胸部を鋭利な刃物で刺され
 た。被害者は所持品より、五宝商事社長検見川幹朗と判明した。
 捜査本部は博多のホステス副島美代と親しく交際していたことを突き止める。事件
当日彼女は、ひかり116号より四十四分遅れのひかり4号で東京へ向かっていた・・。
 はたして、時刻表にトリックがあるのか・・・・。機械文明の便利さのかげて、崩壊し
 ていく家庭の姿をも見据えたトラベルミステリーの最高傑作。      (解説から)
  黒い神座   東京郊外で「猫心中」とよばれる奇怪な事件が起きた。死体はクラブホステスと彼
 女の飼い猫そして、この事件の真相を知る男が失踪。さらに農家の老人が殺害され
 壷が盗まれた。
 三つの事件を追う地方新聞の記者・勝野ジ純一郎は、連鎖のそこに得体の知れぬ
 大きな黒い影を垣間見る。
 日本がバブルに向かって驀進する高度経済成長期の政・財の構造をみごとに描き
 だした会心の長篇社会派推理!    (解説から) 
銀河鉄道殺人事件 
 八月二十一日、行き先を伏せたイベント列車、銀河鉄道X号が上野駅を出発した。
 トラベルミステリーマニアの学生高沢吾一も恋人に見送られて元気に乗り込んだの
だが、その日の夜、変わり果てた姿で、北上川に浮かんだ。もう一人の乗客と一緒
に・・・。
 乗客の夢を載せた列車で、一体何が起こったのか。東京と盛岡を舞台に繰り広げら
れる男と女の「聖」と「俗」を描くミステリーの傑作。    (解説から) 
  砂漠の暗礁   人間の根なし草が集まる街、新宿。製薬会社に勤める金沢高一もまた、そこに足を
向ける一人だ。 妻とすれ違いばかりの生活をおくっていた彼は、ある日、偶然出会っ
た藤村雅子という若い女性と一夜を過ごしてしまう。
 ところが、その夜、金沢の妻の愛人が新宿で殺されていた。そして、驚くべきことに、
同じ頃、雅子の夫も目黒で殺されていた!
 アリバイ工作を疑われた二人だったが、雅子はアリバイを否定した・・・・。
 長篇本格ミステリー。     (解説から)
  駅
 多種多様な人間が去来集散する巨大駅。その周辺では、絶えず事件が発生して
いる。
 歌舞伎町の繁華街から少し離れた公園で、中年の浮浪者が三人の無軌道な少年
になぶり殺しにされた。三日語、犯人の少年たちは逮捕された少年鑑別所へ送られ
た。
 だが、それは一連の事件の序曲だった。
 一年後、死んだ浮浪者と顔見知りの少女が絞殺され、更に一年後、浮浪者殺しの
少年の一人が事故死した・・・・。
 息子の客死の哀しみを乗り越え、捜査に没頭する新宿署牛尾刑事の活躍を描いた
長篇ミステリー。(解説から) 
  碧の十字架  終夜営業のコンビニに二人組みの強盗が侵入、アルバイトの店員を刺殺して逃走
した。被害者の恋人は諦めきれず、犯人の行方を追い始めた・・・・。
 ある夜、路に迷っていた南雲は、怪我をした記憶カ喪失の若い女性を助けた。南雲
は旅先で消息を絶ったまの妹の部屋を提供し、彼女の記憶の回復を待った。
 手がかりは、助けたときに彼女が所持していた一枚の写真だけ。だが、働きに出
た彼女に失った記憶の彼方から何者かの魔の手が伸びてきた。
 「過去」をテーマに人間の債務を描く、著者渾身の人間探究ミステリー。
                                          (解説から) 
新・人間の証明・上 中国人女性通訳・楊君里は、深夜タクシーの中で突然苦しみ出し、死亡した。彼女
は戦時中、離別した日本人の夫と子どもを訪ねて滞日していた。捜査にあたった棟
居刑事は、残された一個のレモンと遺品の小説集の一節「生体を裂きしメスにて檸
檬割る」から、戦時、陸軍の少年見習い技術員だったという作家をマークする。
 彼は満州の細菌兵器研究機関・第731部隊の隊員だった。
 戦慄すべき現代史の闇を抉(えぐ)る問題作。       (解説から) 
新・人間の証明・下  狂気の生体実験を繰り返した第731部隊。その関係者は戦後日本でも固く結束
していた。
楊君里はマルタ(人体実験材料)の奇跡的生存者だったのだ。
 棟居刑事の執念の捜査によって楊が辿った凄絶な運命が浮き彫りにされる。
 第731部隊の不正を追及した彼女の婚約者は謎の死を遂げ、弟は生体解剖され
ていた。そして、獄中で産んだ娘は・・・楊が命を賭して告発した戦時陸軍の恥ずべ
き犯罪にいまメスが入る!      (解説から) 
悪魔の飽食
 関東軍細菌戦部隊恐怖の全貌を描く。   (カバーから) 
士魂の音色
 魔剣 剣に将来を託し、武市半平太の命ずるままに暗殺剣を振るまい続けた岡田
     以蔵の末路。
 膿殺 世情騒然たる京都三条小橋のたもとにうずくまる老乞食と維新を焦る桂小
     五郎との奇妙 な交流。
 剣菓 西洋菓子の原型を日本で造り上げた紅屋留吉と維新後の永倉新八との不
     思議な因縁。
      
 幕末から維新の激流に翻弄されながらも、苛烈に生きた、志士たちの命運を刻ん
 だ9つの時代談。
刺客大名
 久しぶりに森村誠一の本を読んだ。
 (久しぶりと言っても、歴史物を立て続けに読んだのはそんなに以前ではないが)
 この作家は「はずれ」がないので期待して読んだが、痛快物でどんどん読み進める
ことができた。斬り合いでは多少凄惨な場面もあるが描写は的確。
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内容(「BOOK」データベースより)
 図らずも三十二万石大藩の後継となった山羽鹿之介。隣藩の婿殿・立石家良に、
家臣を殺され、女忍・るいと共に、仇討ちに乗り出す。
 だが家良には、諸藩から恐れられる螺旋永眠を筆頭とする凄まじい剣客陣が仕え
ていた。更には、かつて鹿之介の命を孜い、今も山羽藩の取り込みを画策する大老
・榊意忠がその後ろ盾であることが判明。
 凄絶を極める攻防のなか、自らの思いを封じ込め、るいは刺客に挑む。るいは、愛
する鹿之介を護りとおすことができるのか。一瞬の予断も許さぬサバイバル・ドラマ
開幕。 
地  屍
 探偵物は密室に尽きる。完全な密室殺人を決行したホストの私。
 誰も見抜けぬ技でモーテルを脱出したのだか、いとも簡単に捕まった。なぜ・・。
手形の複雑な渡りを逆手にとった犯罪など読ませる短編が並んでいる。
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内容(「BOOK」データベースより)
 都心の一戸建てに住む津田正吾の許に、深夜、痴漢に襲われたという若い女が
飛び込んできた。同情した津田が一夜の宿を提供したところ、女はそのまま居つい
てしまった。その直後から津田の周りで不審な事件が多発するようになった。そし
て津田が知った女の正体とは…(「地屍」)。
 表題作ほか日常にあふれる恐怖を散りばめた、奇妙な味を主題とした傑作ミステ
リー集。
祈りの証明
 2014.2月の最新作。
 新興宗教をめぐる事件を核にしているが、東日本大震災の残場や実態を描くため
 に書かれた一冊である。
 事件解決のために、棟居、牛尾刑事も登場するがわき役である。
 戦場と災害現場の違い
  それは日常化してある程度の心構えのある状態化か、突然奈落に突き落とさ
  れるか・・・である。
  そこから立ち直る気力は・・。
 戦場や災害現場を撮影する者は、人間性を捨てなければならない。
 助けられるかもしれない者を見捨ててシャッターを切ることに全力を注ぐのだから。
 避難所をまわって「俳句」づくりをすすめる人があり、家族や大事な人を失い、呆
 然とする人々を勇気づける。
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内容(「BOOK」データベースより)
 戦場カメラマンの長井創次は、東日本大震災に巻き込まれた妻の行方を捜しな
 がら被災地を取材していた。
 慟哭の渦と絶望の底を捜索・取材しながら、長井は死者の魂に寄り添う。
 平和な日常の徹底的な破壊から立ち直る不屈の意志と友情に触れるうち、長井
 は被災地に蔓延する新興宗教「まほろば教」の暗部に肉薄してゆく。
 一方その頃、棟居と牛尾のふたりの刑事も、邪教の調査に動き出していた。
 やがて長井が目にする、妻の失踪に隠された衝撃の真実とは―!?
 震災の現実を真摯に見つめた著者渾身の傑作長編小説! 
            
 夜明けの
コーヒーを
君と一緒に
 次期総裁候補が利権を貪る地方都市。市庁、警察、マスコミ、企業、ほとんどすべてに
権力者の息がかかったその都市で、一人の零細紙記者がペンの力で孤立無援の戦い
を挑む。使命感とジャーナリズムの気骨をもって金権構造を抉ろうとする記者を度重なる
妨害工作が襲う。そしてついには殺人事件が・・・。汚れた街に本当の夜明けは来るか・
                                         (カバーから)
魔  光
 名探偵の挑戦状の中におさめられた一編。
 内田康夫の他殺の効用も載っていて、続けて読んでしまった。
 魔光は、50万円の金を工面するために売春をする人妻から始まる。
 ヤクザの姉崎は売春をする女の部屋に踏み込み写真を撮っては脅すということを
 していたが、ある日、ヤクザ同士のけんかで刺された。犯人は誰か。牛尾刑事の
 推理が冴える。
南十字星の誓い
 久しぶりに読んだ森村誠一の一冊。
 舞台はシンガポール。
 時代は太平洋戦争末期。
 英国の支配を排除した日本軍とその後の経緯が背後に語られ興味深い。
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 内容(「BOOK」データベースより)
亡き祖母・繭から断片的に漏れ聞いた戦中秘話は、富士森由香の心の琴線に触れた。
栄光や国家のためではなく、祖母が遺した写真にうつる海月のような形をした蘭を始め
とする貴重な植物や文化財を戦火から守るために、交戦中の数カ国の人々が、民族を
越え、無私の情熱で結束したという。
信じられない歴史的秘話を今日に再生するため、由香は祖母の足跡を追う―。急迫す
る太平洋戦争の気配。世界の宝、植物園と博物館をめぐる熾烈な攻防。そして、戦火
の中に生まれる繭と華僑の若者・テオの悲恋。
太平洋戦争の最中、栄光や名誉、国家のためではなくひたすらに文化財を守った者た
ちがいた―。国境を越えた、友愛と冒険の感動巨編。 
永遠の狩人
 ちょっと入り組みすぎている。
 棟居は事件を追う刑事なのだが、この本では出番が少ない。牛尾刑事も登場するが
 同様である。
 戦場カメラマンだった大城が事件の謎解明に関わっていく。
 それにしても、二転三転である。
 大城に妻と子が殺されたのは、大城が戦地で撮った写真のせいか・・・という最初の
 推理(反乱軍の制圧や殺人を引き受ける「KC社」のプロが行なった)は一転して・・・・。
 殺しのプロ大高はもしかすると死んでいるのかも・・・。
 新たなプロ・謎の女?
 大城が所属することになった救命組織ライフリンクについての記載も多い。

 大物政治家・大槻親子、秘書も登場して、糸が複雑に絡み合い、息もつかせず読み進
 めさせてくれるのは嬉しいが、果てしなく続くような気もしてくる・・・。

 森村誠一のこれ以上ないほど緻密な構成のもとに書かれた一冊である。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 戦場カメラマンの大城は、海外取材中に妻子を惨殺されて生きる気力を失い熱海に
 隠棲した。
 ある日、隣人の芝田に助けを求めてきた少女、千種を保護したことが縁で、大城は芝田
 が属している救命組織ライフリンクの本部がある金沢まで彼女をエスコートするよう依頼
 される。ライフリンクの活動に共鳴した大城は金沢に滞在するが、台風一過の翌朝、能
 登金剛の海に自殺防止ボランティアの横井が死体で浮いているのが発見される。
 一方、警視庁捜査一課の棟居は、捜査本部が縮小した後も大城の妻子が殺害された
 事件が気にかかっていた。
 ―妻子を惨殺され、漂泊の果てに能登の断崖に辿り着いた男。
 自殺防止ボランティアとなった彼の前に現れたのは、あの犯人なのか?
 棟居刑事シリーズ最新作。

法王庁の帽子
 3番目に収録されている「魔光」を確かに読んだことがあると思ったら、他の本に収録され
 ていたものだった。他の5編は未読のようだ。
 この作家独特の緻密な構成、もつれた糸が次第にほぐれていく過程は読みごたえがあ
 る。後半から牛尾や棟居が登場するのも良い。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 妻を失い失意の式村は、妻と出かける予定だった南仏へと旅行した際に帽子を紛失する。
 帰国後、旅先で見かけた男性が死亡。彼の連れだった女性が、なくしたはずの帽子を被
 っている別の男と、車に同乗しているのを目撃する。
 因縁が犯人を追い詰める表題作ほか、森村ミステリのレギュラーが活躍する6編を収録。 
ホームアウェイ
 「ホラー」というのを、最後まで読んで強く感じた。
 ミステリー性もあるので、目が離せず一気に読ませられる。
 自然あふれる生活にあこがれて、いささかの不便を承知で、郊外のマンションにやってき
 た一家。
 体の不自由な老人の死、暴走族のバイク終結と妨害による事故死の発生、住み着き始
 めたホームレスの不可解な死・・。
 それらの犯人が、すべて予想外の人々とわかった時、本当の恐怖がやってくる。

 それにしても、こんな限界集落のようなマンションに、都心からよく調べずもせずにやって
 くる家族などいるものだろうか。駅からも相当離れているというのに。
 学校に2人の子どもを入れないといけないのだから、その時点でも気付くはずである。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 都心から離れた郊外で、念願のマイホームを手に入れた鶴川一家。
 初めは豊かな自然に囲まれ満足していたが、すぐに何かがおかしいことに気づく。
 ごみの収集がこない。テレビも映らない。バスも通っていない。
 しかも、住民は何故か老人ばかり。
 この完全な陸の孤島で、一家は恐怖の陥穽に嵌りこんでいく―。
 現代の病、人間の闇を描破したサスペンス・ホラー。 

      
 人間の剣  戦国編(一) 
   本能寺の首
 人間の剣  戦国編(二)  
   関ヶ原の雨  
 人間の剣  幕末維新編(一) 
   血煙り新撰組  
 人間の剣  幕末維新編(二)
   無銘剣対狂剣  
    
    


 

  
 西 村  京 太 郎 
      
 この作家はトラベルミステリーが有名になり過ぎて固定化された
見方をされることが多い。十津川警部が活躍する一連のシリーズ
ものは、大衆向けのわりに、文章がしっかりしていて、安心して読
める。最近のミステリー作家に多い雑な文章(ストーリーしか終え
ない筆力)と比較すると基盤の違いは歴然である。なぞ解きの醍
醐味も存分に堪能できる。テレビのサスペンスドラマにも数多く登
場しファンも多いようだ。 ???????????????
ところで、この作家は「この本が・・・」と思われるものを結構書いて
いる。 
西村京太郎のあまり知られていない本もいろいろ読んでみた。
   
 名探偵が多すぎる

  
  (講談社)

  神戸から別府にむかう観光船上。
 世界の名探偵、ポワロ、メグレ、クィーン、明智小五郎の4人にアルセーヌルパンと
 怪人二十面相が挑戦する。ルパンにねらわれた宝石商が殺される。血を望まない
 ルパンが何故殺人を・・・・・・?
  名探偵にそれぞれの持ち味を出させ、興味津々の読み物に仕立てた作者に脱帽。
  とにかく、時間を忘れて一気に読める。
  この他に名探偵なんか恐くない、名探偵も楽じゃない、名探偵に乾杯などの姉妹
 編がある。
 機関D情報
 
  (講談社)
  昭和19年の夏、海軍の関他に中佐は密命を帯びてヨーロッパに渡った。しかし、
 協力者の駐在武官矢部は、謎の死を遂げていた。
  スイスに向かう途中事故に会った関谷が病院で蘇生すると、大事なトランクが同行
 者と共に消えたいた。
  彼の周囲は敵のスパイだらけ。大戦末期の諜報戦をテーマにした、鮮やかなスパ
 イ小説。
 4つの終止符

 (講談社)

  下町のおもちゃ工場ではたらく耳の不自由な青年に降りかかる危難。
 病気で寝たきりの母が殺され、その容疑者にされてしまった青年は無実を叫びながら
 憤死してしまう。そしてなじみのホステスも後を追う。
  事件に疑問を持った年上のホステスが一人事件を調べる・・・。聾唖者とそれを取り
 巻く社会の在り方に鋭く切り込んだ一作。
 天使の傷痕
 
 (講談社)
  武蔵野を散策する二人が殺人事件に遭遇するところからこの話は始まる。
  主人公である新聞記者が、被害者が死に際に残した「テン」という一言をもとに、被
 害者に接触した人間達を追及していく。
  推理小説としても一級品だが、作者が描きたかったのは事件の背景を覆っている
 形児とその周囲の人々である。
  4つ終止符と同様推理仕立ての中に社会の問題に鋭く切り込んでいる。
 五能線誘拐ルート
 (講談社)
  青森県岩崎村にある「十二湖駅」で女性タレントが誘拐された。
 捜査にあたった十津川警部の裏をかく巧妙な犯人。
 特急北アルプス
 殺人事件

  (角川文庫)

  粉雪が舞う飛騨高山の民芸館で、若い女性の死体が発見された。被害者は阿井
 今日子。金持ちのパトロンを持ち、豪勢な暮らしをしていたらしい。続いて、私立探
 偵の死体が・・・・。
  事件の背後にひそむ複雑な三角関係。被害者への不審な電話。難事件に挑む十
 津川警部・亀井刑事の前には犯人の鉄壁のアリバイが・・・。
  巧妙に仕組まれた列車トリック解明の手がかりは? 著者会心のトラベル・ミス
 テリー。
 十津川警部
 「裏切り」

 (角川書店)

  日本一の繁華街・新宿歌舞伎町の治安を守るために新設された歌舞伎署。十津川
 の同期で一番の切れ者といわれる小早川が初代署長に抜擢された。
  開設早々、署員の加倉井刑事が泥酔して道路に寝ているところを轢き殺される。
  加倉井刑事と面識のあった本田課長の指示で、十津川は個人的に聞き込みを開
 始する。
  新宿の裏社会を牛耳る組織を突き止めるべく捜査を続ける十津川の前に、驚愕する
 真実が現れる。歌舞伎町を陰で操る黒幕と十津川警部の息詰まる頭脳戦を描いた
 長編サスペンス!!               【表紙カバー裏の解説を参考にしました】
     
浅草偏奇館の殺人

  (文藝春秋)

   ★★★

 古本屋で久々に見つけた西村京太郎の文庫本である。
 戦争前夜の浅草六区。暗い時代の予感に抗うようにエロ・グロ・ナンセンスの絢爛たる徒
 花が咲き乱れる巷で発生した踊り子殺人。
 芝居小屋・偏奇館の文芸部員であった「私」は仲間と協力して殺人鬼を追いつめるが、土
 壇場で満州に逃亡された。そして今、50年の時を隔て意外な真実が明かされる。著者
 懇親のミステリー巨篇・・・・・・と解説にある。
 これはミステリーの要素が少ない。踊り子が3人殺されるのだが、その犯人についての探
 索や推理の場面はほとんどない。警察にはサクソフォーンを吹いている楽士が逮捕され、
 厳しい取調べを受ける。当時共産主義者やアナーキストは、厳しい扱いを受けたが、この
 楽士も拷問を受けて亡くなってしまう。
  それを機に、事件を扱った脚本を書き芝居を打つ・・・・・・・。そんな浅草にどっぷりと浸
 かった「私」達が居る。
  戦前の浅草の賑わいや、其処に根を張って生き抜く人々が生き生きと描かれている。
  その意味では秀作である。
 犯人が本当は誰であったのか・・・・最後まで読んでわかるのだが、さほど驚かない。
   
 夜行列車の女

  (徳間文庫)

 カメラマンの木下が、東京から高松に向かう寝台特急「サンライズエクスプレス」に
 乗り、殺人事件に巻き込まれる。隣の個室の永井みやきと名乗った女がいつの間
にか入れ替わり、見たこともない女の死体が・・。
 事件は意外な展開を見せる。次々に起こる殺人事件との関連を求めて十津川警部
と亀井刑事が動く。老舗の和菓子店を営んでいた高品、恋人の小柳ゆみ。大和和菓
子社長の五十嵐、酒井法律事務所、そして、永井みゆき。塚本製薬の社長・塚本の
不可解な存在。付いていくのが厳しいくらいの展開である。
十和田湖南へ

殺意の旅

   (講談社)

 「夜行列車の女」の場合もそうだが、殺人事件がわりと簡単に起こり、そのトリック
解明がいま一つ。それよりも事件の背後に潜む関係者の思惑が中心となる。
 女を騙して貢がせていた画家の古木保男が十和田湖の別荘で殺される。
 その予告文が井関ゆきから、弁護士の中村に届けられる。中村弁護士と大学で友
人だった十津川が事件解明に動くが・・・意外な結末。
十津川警部

千曲川に
犯人を追う

 ちょっと推理の飛躍があるが、小説だと思えばこれも興がある。十津川と亀井が
 信州行く。
 内容(「BOOK」データベースより)
  東京で連続幼女殺人事件が発生、長野県上山田温泉で将棋の名人戦に挑戦
  中の宗方が捜査線上に。週刊誌記者が宗方を犯人と告発する一方で、謎の手
  紙を読んだ彼は大悪手を指して敗北した。しかも現地で宗方の愛人が行方不
  明、幼女もまた一人犠牲に。
  十津川警部の名推理が事件の真相を暴く!傑作長編推理。
東北新幹線

「はやて」

殺人事件

 これと上記の本は病院の図書館で借りて読んだ。題名が青森に関係するものだっ
 だので期待して読んだ。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 十和田への帰郷を楽しみにしていた男が、東京・中野で、刺殺死体となって、発見
 された。男の名は、奥田豪。奥田を慕うスナックのママ・佐々木明子は、遺骨を持っ
 て、青森に向かった。「はやて13号」グリーン車の6A―奥田が乗るはずだった席に
 は、謎めいた女が!奥田の過去の人間関係を探る明子に襲いかかる魔の手。そし
 て、東京の女性弁護士が、同じ「はやて」の車内で、毒殺された。明子を追って、
 十和田に来た十津川は、産業廃棄物処理場をめぐるトラブルを知った。旅情あふ
 れるトラベルミステリーに、胸を打つロマンと、社会的なテーマを盛り込んだ、巨匠
 渾身の最新傑作。 
祝日に殺人の

列車が走る

この本と下の「真夜中の構図」は温泉で浴槽の脇に座って読んだ。
短く筋をどんどん書いているのでどんどん読める。
犯人を二人の息子と目星をつけた警察はアリパイや動機を探るが、なかなかうまく
いかない・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 ラジオの深夜放送のリクエスト葉書で〈祝日に殺人の列車が走る〉という十津川宛
の挑戦状が届けられた。そして5月の連休最後の日、特急「有明」の車内で殺人事
件がおこった。
 被害者は千億円近い資産を持ち、2人の息子と5人の女がいた。そして第二の殺
人が…。
 容疑は2人の息子へ。莫大な遺産をめぐり、愛人と息子達の骨肉の争い。土壇場
に追いつめられた十津川警部に策はあるのか。興奮のトラベルミステリー。 
真夜中の構図
こちらは上記の本と比べると中身が濃い。
秘書の早川の前に次々と殺人が発生するが、犯人は影すら見せない。
常に先回りして実行する犯人は果たして誰なのか・・・。これは読みごたえがあった。
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 出版社/著者からの内容紹介
 入閣の条件は愛人の整理!大臣のポストを狙う参議院議員の太田垣は5人の女
 との訣別を図り、秘書の早川に交渉を命じた。その直後、女たちは次々と変死を
 とげる。傑作推理。(解説・中島河太郎)
北海道

殺人ガイド

北海道のJR地方線を舞台にした事件を数編載せている。十津川とそのチームが
北海道にすぐ飛び事件の解決に当たる。幸福駅の路線はなくなったが駅が売店
のような形で残っているなど情報も興味深い。
越後会津

殺人ルート

十津川が見えない敵のために犯人に仕立て上げられるという設定。
ハラハラする内容なので一気に読ませられる。犯人側のちょっとした交流の範囲の
ミスから、亀井を中心に鋭い追及が始まる。
三河恋唄
これは異色。
逆さ忠臣蔵の原稿を書いてい吉良義久が銃撃戦を受けて記憶を失うというところか
ら始まる。
作者が描きたかったのは、赤穂浪士に討ち取られた吉良の家臣は茶坊主などがほ
とんどで、武士は2、3人しかいなかったこと、にもかかわらず、武装した47士に厳然
と立ち向かっている。むしろ、吉良の方が忠臣なのではないか、新しい視点から討
ち入りを見る必要がある。
十津川警部達は、吉良義久を襲った犯人の姿を終末でようやくとらえる。
異色のもう一点は、句読点の「句点」が異様に多いこと。まるで小学校低学年用の
文かというくらいである。
「女将さんが、呼びにいって、吉良かせ、ロビーに降りてきた。」
「いって」を漢字にしないのも不可解。
伊勢志摩

殺意の旅

 警視庁の一警部である十津川が三重の伊勢市に乗り込み地元の警察署に対抗
 して捜査活動をするという、まさに絵空事のような展開。
 地元の警察署に全くないので止むを得ないのだが。
 それは警視庁管内で起きた殺人事件の捜査から始まった。
 身元がわからないまま、捜査が難航。この事件の背後には信じられないスケール
 の大きな犯罪計画が進んでいたのである。
 十津川の大胆な推理、十津川班の苦闘・・。
 楽しめたが、やはりノンフィクションの世界・・と思ってしまう。
 伊勢市警、市長、伊勢神宮さえも巻き込んでしまうのだから。
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内容(「BOOK」データベースより)
 東京の地下鉄で男が刺殺された。男の身元は不明だが、死ぬ直前に「セコ」という
 謎の言葉を残し、伊勢で購入した赤福餅を持っていたことが判明する。
 伊勢市へ向かう十津川警部と亀井刑事。そこではカルト宗教団体の不可解な土地
 買い占め騒動が起こっていた。
 捜査が進むうちに、十津川は恐るべき陰謀が進行していることに気づき…。
 捜査一課史上最大の作戦が幕を開ける!超弩級サスペンス。 
              
幻想の夏
 
 

★★★

 西村京太郎は長谷川伸と師弟関係にあったという。
 乱歩賞を受賞してからも長谷川伸の没後に発足した新鷹会(しんようかい)と
 関わり勉強会に出席していたという。
 その頃は地味で作品も少なかったようだ。
 この一冊は、その頃に書かれたものをまとめたもので、単なる謎解きに終わ
 るのではなく、人間の心の深層や、社会の歪みに触れたものがほとんどで
 ある。
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内容(「BOOK」データベースより)
 伊豆の別荘で夏の終わりを過ごす僕とあの人。「あの人」とは父の再婚相手、
つまり僕の継母だ。父の死後、互いにいたわりつつ穏やかに暮らしていた二人
の生活を壊すかのように、一台の赤いスポーツカーが別荘の前に停まった。車
から降りてきたのは亡き父の友人である小説家。彼が来ると濃くなる「あの人」
の化粧、マニキュアで染められた爪を見るたび、僕の心に何かが湧き起こり…。
本年度第45回長谷川伸賞受賞を記念し、表題作をはじめ「大衆文芸」に掲載さ
れた短篇の中からセレクトした傑作ミステリー集。 (2010年)
十津川警部 
さらば越前海岸
 人型ロボットの開発に絡む事件だが、ロボットの研究や細かな仕組みなどは
 出てこない。
 十津川の活躍場面も少ない。
 殺された早川の父親の執念などが描かれる。
 二つの自殺事件ょ仕組んだ犯人の心理や殺人までの経過についても詳しくは
 触れない。本当に軽いタッチで読める本である。
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内容(「BOOK」データベースより)
 東尋坊や越前岬、そして永平寺など、福井県は、自然と文化の名勝を兼ね
 備えた地である。
 4月初め、芦原温泉の老舗旅館に投宿した一人の男がいた。男の名は早川
 啓介。人型ロボットの研究開発では最先端をゆく昭和精密機械の社員であり、
 完成間近の新型ロボットの開発チームのリーダーでもあった。
 その早川が、越前の海に水死体で浮かんだ。宿の部屋には「ダメだ、ダメだ」
 と書いた手紙を残していた。地元の警察はそれを遺書とみて自殺と断定する。
 息子の死を自殺だとは信じられない父親の早川雄介は、独自に調べ始めた。
 相前後して、新型ロボットのデザインを請け負っていたデザイン工房ジャパン
 の北川愛の飛び降り死体が、浅草で発見される。こちらにも遺書めいたメモが
 残されていた。捜査に乗り出した十津川チームが、聞き込み捜査を重ねるに
 つれ、疑問が深まっていく。
 十津川の培われた捜査魂が、最先端科学の結晶人型ロボット開発競争の闇
 に斬り込む。 
   



         

    
  海渡 英祐 (かいと えいすけ)・ 
     
 1934年 東京生まれ。東京大学法学部卒業。・・・・・・・・・・
       大学在学中より高木彬光氏に師事。
   61年 「極東特派員」でデビュー。
    67年 「伯林 - 一八八八」で第13回江戸川乱歩賞を受賞
      その他の作品に「影の座標」「霧の旅路」
      「燃えつきる日々」「黎明に吼える」
      「咸臨丸風雲録」
            (表紙カバーの記載を参考にしました。)
                                                                    
第13回
江戸川乱歩賞受賞作
 
 

伯林 - 一八八八

★★★

 
 ドイツ娘との恋に煩悶する留学中の医学生・森鴎外が伯爵殺害事件に
遭遇、究明に乗り出す。事件の背後には鉄血宰相ビスマルクが !?
                              (解説から) 
 時代背景、舞台(ドイツ)、登場人物・・・素晴らしい設定である。
 森鴎外のドイツ滞在中の資料を丹念に調べ、当時の政治を動かしてい
たビスマルクに絡めて、フィクションとは思えない世界を描き出している。
踊り子・エリス、詩人・クララとの恋も物語に深みを与えている。
 城館で起こった殺人事件は、犯人足跡が雪上に残されていない、完全
な密室殺人・・。 探偵・森の推理が始まる・・・。
黎明に吼える
 全国に広がりつつある自由民権運動が激化した明治15年・東北。
 その思想に心魅かれていた福島県人・杉岡良助は、自由民権運動家
の兄をもつ伊吹早苗とふとした機会に知り合い、政府高官の暗殺を企
むグループに引き込まれる。
 県令・三島通庸と民権派の対立が険悪化した郷里福島に帰った杉岡
が、知遇を得た民権派の首領・河野広中から依頼されたのは、三島の
傀儡である帝政党に加入し、その動きを探ることだった。
                             (解説から) 
        



   





   
 

 阿部 陽一
     
1960年 徳島県生まれ。学習院大学法学部卒。・・・・・・・・・・・・・・・・
      日本経済新聞社に入社。
1990年 「フェニックスの弔鐘」で第36回江戸川乱歩賞。
      他に、江戸川乱歩賞の候補となった「クレムリンの道化師」
      「水晶の夜から来たスパイ」 
         (表紙カバーの記載を参考にしました。)
                                                                    
第36回 
江戸川乱歩賞受賞作
 

 フェニックスの
  弔鐘

 ニューヨークでVIPを乗せた旅客機が墜落。
モスクワではパイプラインが爆発。米ソ冷戦の復活を
狙う巨大な陰謀、その正体は?
   (表紙カバーの記載を参考にしました。)

 大統領暗殺の場面から始まるこの物語は、次第に広範囲に話がおよび
50ページを過ぎた辺りで読み進めるのを断念。これ以上頑張って読んで
も琴線に触れるものがないと判断・・・。
 審査員の中にも、非常に読みにくいということを指摘する方がおられた。
「通」が自由奔走に楽しむのに適したものと思われる。

        


   

 渡辺 容子
     
1959年 東京都生まれ。東京女学館短期大学卒業。
 20代前半からジュニア小説家として活躍。会社勤務を経て小説家に。
  92年、『売る女、脱ぐ女』で第59回小説現代新人賞受賞。
  96年、本作品で第42回江戸川乱歩賞受賞。
      『無制限』(講談社)はパチンコ業界の裏面を鋭く描くなど
      果敢な体験取材の基づくリアルな描写をしている。
      その他、『斃れし者に水を』(祥伝社)など。
             (表紙カバーの記載・その他を参考にしました。)
                                                                    
第42回 
江戸川乱歩賞受賞作

 左手に
 告げるなかれ
  ★★★

 スーパーで万引犯を捕捉する女性保安士・八木薔子のもとを訪れた刑事が
尋ねる。3年前に別れた不倫相手の妻が殺害されたのだ。夫の不貞相手と
して多額の慰謝料をむしり取られた彼女にかかった殺人容疑。彼女の腕にあ
る傷痕は何を意味するのか (ここまではAmazon・商品の説明からの引用)
 保安士の行動、万引きの現場を押さえるシーンなどに臨場感があり、どん
どん読ませてくれる。
 不倫相手の妻の死は、コンビニのスーパーバイザーたちが次々と謎の死を遂
げている事件と、何らかの関わりがあるのではないか。
 凛子は不倫相手だった男や、死の背景を探る探偵の協力を得て事件の解明
に挑む。やがて浮かび上がる怪しい人物、殺された女と諍いをしていた元マン
ション住人、コンビニの女店長、そして、マンションの一室引きこもりの若い男
最後に辿り着いたマンションの管理人・・・。
 犯人は予想外のところにいた・・・。行き詰まる逆転劇が待っている。
斃れし者に水を

★★★

 不倫する女が主役となる点では「左手に告げるなかれ」と似ている。・・・・・・・
 今回は作家。町内会長の死に関わったのではないかと思われる織田に好
意を持ち、糖尿病で検査入院した織田の病室の付き添いとなる主人公・藤
原真澄。
 やがて同じ病室の田中の死。急性アルコール中毒の症状だったが点滴袋
誰かがアルコールを混入したのではないかと疑う藤原。
 事件の解決のために行動する藤原だが、愛する織田への容疑は深まるば
かり。藤原のもとに送りつけられる「0 ト ワカレロ」というファックスは、いつ
の間にか「事件に首をつっこむな。これ以上出しゃばれば、必ず殺す」に変わ
る。
 同じ病室のヤクザの丈二、画家で巨匠と呼ばれる佐伯、商事会社の部長
岡崎、園田のおじいちゃん・・・・。そして、時々姿を消す付添婦の綾。いった
い犯人は誰か。織田なのかそれとも・・・。
 真澄は親友で病院の事務をしている小川さえ子や医師の結城、死んだ田
中の恋人で性転換をしたジェニー、そして幼馴染の漆原涼の助けを借りて
事件解明に取り組む。
 共栄ハウジングの抽選会をきっかけに事件は急展開。やがて解明する意
外な犯人と真実・・・。
罪なき者よ、

我を撃て

★★★

 ボディガードの世界を緻密に描いている。
 父が幼いころに溺れ、行方不明。高校生になった娘・小麦、通称は会長。
 この「まる対」を守るのが警備保障会社の二ノ宮舜の仕事となった。
 ボディガードの隙をついて、母親の再婚相手のことを探ったり、手こずること
 が多いが、小麦への想いも芽生える・・・。
 山あり谷ありの展開で、しっかり読ませてくれた。
 エクラ共和国の反政府ゲリラに対抗する民間軍事セキュリティ会社の「アサノ」
 この人物は不可解な動きをして後半の展開を深めている。
 義父の経営する会社の秘書・坂本。40歳で独身のこの女性の動きが、謎を
 よび、重厚感を与えている。
----------------------------------------------------------- 
内容(「BOOK」データベースより)
 『結婚式を中止せよ。さもなくば、惨劇が起きる』。警備保障会社に勤める二
 ノ宮舜は、アダルトグッズ会社社長の義娘、風間小麦の警護を任された。
 社長夫妻が挙式した数時間後、同会場で花嫁が脳幹をライフルで撃ち抜か
 れ死亡する。
 式の後、小麦は舜の目をかいくぐり、義父の経営する工場に潜入しようとする。
 その翌朝、小麦の自宅に一発の銃弾が撃ち込まれた。彼女を守れ。
 2km先から撃ち込まれた銃弾。
 想像を絶するボディ・ガードの世界を圧倒的な取材力で切り拓いた、前代未
 聞の感動大作! 江戸川乱歩賞作家入魂のボディガード・ミステリー! 

     
     



  

   

 薬丸 岳 (やくまる がく)
                            
 1969年 東京生まれ。駒澤大学高等学校卒。・・・・・・・・・・・・・・・・
       卒業後、俳優を目指し、劇団に入団するが、半年で退団。
       その後数々のアルバイトを経て、旅行会社に勤務してい
       たが執筆に専念するために退社。
       それまで、漫画雑誌の原作賞に3度佳作入選。
       初めての応募で第51回江戸川乱歩賞を受賞した「天使
       のナイフ」は、2年の歳月をかけて初めて執筆した小説で
       ある。     (表紙カバーの記載を参考にしました。)
                                                                        
第51回
江戸川乱歩賞受賞作
 

 天使のナイフ

★★★

 江戸川乱歩賞を受賞した本を読み進めようと思って、図書館で四冊借りたが、
その一冊目である。
 読み応えがある。これだけ読ませてくれる本はめったにない・・。

 展開が二転三転する。仕掛けが二重三重になっているのである。
 少年犯罪をテーマにしていて、参考文献が20冊ほどあげてある。2年の歳
 月をかけたというのが良くわかる大作になっている。
 ブ口ードカフェを経営する桧山は、三人の中学生の犯行によって、愛する妻を
 失い、娘の愛実と暮らしている。
  ・娘を預かっている保育園の保育士・早川みゆき
  ・ブ口ードカフェのアルバイト・歩美
  ・中学生を弁護する相沢弁護士
  ・三人の中学生、八木、沢村、丸山のうち、沢村は何者かに殺され、丸山
   ホームから突き落とされた。幸い命をとりとめたが。
   八木もやがて殺されて、疑いが桧山にかかる。
 三人を狙う犯人は誰か。その意図は・・・。一人生き残っていた中学生・丸山
 はどうなるのか。
 深まる謎の解明に取り組む桧山。
 ある日、何者かがブ口ードカフェのポストに入れた「ビデオテープ」から、一気
 に局面が動き出す。
 妻・祥子の過去。かつて群馬吾妻郡で起きた事件がもたらしたものは・・・。

虚 夢 (きょむ)

★★★

 薬丸岳の二冊目。「天使のナイフ」が素晴らしかったので期待して読んだが
期待通りの本だった。
 一人娘を通り魔に殺害された、三上孝一と佐和子の夫婦は破綻。
 孝一は作家としての道を閉ざし、夜の雑誌ライターに身を落とし酒に明け暮
れる日々を送っている。ある日孝一のもとの佐和子から電話が入る。
「藤崎を見かけた」と。
 統合失調症(以前は精神分裂症)の藤崎は、殺人の罪に問われず、4年で
社会復帰していたのだ。やがて佐和子は藤崎と同じ統合失調症の症状を現
すようになり・・・。
 藤崎を愛する「ゆき」。ゆきは知的障害を持つ弟に悩まされた過去を持ってい
た。キャバクラに勤めるゆきの客・田代。佐和子と一時は再婚した坂本。孝一、
佐和子と高校の文芸部で一緒だった精神科医の松岡。周囲の人々を巻き込
んで物語は行き詰まる展開を見せる。
 そして明かされる意外な真実。
 佐和子の思いに気付いた孝一は、作家としての再起を決心する。
 「おれにしか書けないものが、いや、どうしても書かなきゃいけないものがあ
  ることにやっと気付いた。」
 ミステリーとしても一級であるが、精神障害を持つ者が起こす事件をどうする
 べきなのか・・・深いテーマを抱えた秀作である。
 悪  党

★★★

  薬丸岳の三冊目。前記二冊が良かったのと、趣味人クラブの読書関連の
 コミュで「ベスト」に挙げていた方がおられたので期待して読んだ。
  読みごたえは十分である。
  姉がかつて強姦殺人に合ったために、成人して警察官になった佐伯修一
 は、同じような事件を起こして捕まえた犯人の口に拳銃を突っ込み退職。
 今は探偵事務所に居る。
  未成年者が殺人などを犯した場合、遺族には信じられないくらいの短期
 間のうちに出所し社会に復帰する。その犯罪者達はどのような生活を送っ
 ているのか・・・それを調べてほしいという以来が佐伯のもとに持ち込まれ
 る。暴行し現金を巻き上げ被害者を放置して死に至らしめた坂上。彼は振
 り込め会社で詐欺を続けているが、恋人は真面目な介護ヘルパー。坂上は
 やがて被害者の父親に刺され下半身不随になるが・・・。
  姉のゆかりを殺した三人の男、田所、寺田、榎木の行方も追いかけながら
 佐伯は様々な人々の調査をする。
  子ども二人を置き去りにし一人は餓死したが、母親はやがて再婚。幸せな
 生活へ。生き残って成人した男がしたことは・・。(復讐)
  事件を起こし荒んだ生活を送る男の母親が病床の死の床に息子を呼ぶ。
 居合わせた姉が語る決意。(形見)
  男に騙され信用金庫の金を横領した女。利用したことを自覚していない男
 の取った行動・・・。(盲目)
  ラーメンのチェーン店を営み、成功への道を進む田所を脅す寺田。田所は
 寺田を・・・。
 「悪党は自分が奪った分だけ大切な何かを失ってしまうことちゃんとわかっ
  ている。それでも悪いことをしてしまうのが悪党なんだよ。」
 坂上の言葉を噛みしめながら、佐伯は末期がんで死んでゆく榎木を見守る。
 エピローグ
  坂口の調査の時に知り合えたキャパクラのはるか(冬美)。
  はるかが自分にとってかけがえのない人であることに気づき、佐伯は盛
  岡駅に降り立つ。理容師をめざす冬美には、寺田から受けた傷がうっすら
  と残っていたが、やがて頬笑みに変わる・・・。  
闇の底
 薬丸岳の4冊目。前作と比べるとちょっと惰性に流れた感がある。
 参考文献として、
  「死刑執行人サンソン ー 国王ルイ十六世の首を刎ねた男」安達正勝と
  書いてある。
 内容(「BOOK」データベースより)
 少女を犠牲者とした痛ましい性犯罪事件が起きるたびに、かつて同様の罪
 を犯した前歴者が首なし死体となって発見される。身勝手な欲望が産む犯
 行を殺人で抑止しようとする予告殺人。狂気の劇場型犯罪が日本中を巻き
 込んだ―。絶対に捕まらない―。運命が導いた、哀しすぎる「完全犯罪」。
 『天使のナイフ』の薬丸岳が描く、欲望の闇の果て。江戸川乱歩賞受賞第
 一作。 
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 かつて、自分の不注意から妹を殺されてしまった長瀬は、警察官として
 この事件の捜査にあたる。
 「サンソン」を名乗る男が、物語の展開の中で常に登場してくるが、これが
 誰なのか、最後までわからない。この男が若い妻と一緒になったいきさつ、
 かわいい娘がの出生など・・・不明な部分をかなり残している感じがした。
 長瀬の父で弁護士をしている政樹は、息子と別れて生活し再婚している。
 その父が、墓参りで16年ぶりに会い、長瀬に言う・・
 「今度、ゆっくり話せないか」
 「一度、娘に・・・妹に会いに来てやってほしい」
 長瀬は曖昧に頷いて歩き出した・・・。
 このあたりを、もう少し発展させるのかと期待したが・・・。
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 終章が前作(虚無、悪党)と比べると、物足りない。 
刑事のまなざし
 薬丸岳はこういう本を書く作家だったのかと、五冊目にしてわかってきた感
 じがする。
 かつて、法務技官として、罪を犯した少年の更生に力を尽くしていた夏目は
 娘が、暴漢にハンマーで殴られ、植物人間状態になったのを機に刑事となっ
 た。その夏目が追う七つの事件。
 最後には夏目の娘を襲った犯人が浮かび上がってくる・・・。
 それにしても、全篇に漂う、「不幸な結末」、退廃的に終了する話ばかりで
 読後感が暗い。作者としては、それらの中に未来への一歩を踏み出してほ
 しいという願いを込めているのだろうが。読み手に希望を抱かせるような設
 定にできなかったのだろうかと思ってしまう・・・。
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内容(「BOOK」データベースより)
『オムライス』…内縁の夫が焼け死んだ台所の流しの「オムライスの皿」、
『黒い履歴』…クレーンゲームのぬいぐるみ「ももちゃん」、
『ハートレス』…ホームレスに夏目が振舞った手料理「ひっつみ」、
『傷痕』…自傷行為を重ねる女子高生が遭っていた「痴漢被害」、
『プライド』…ボクシングジムでの「スパーリング」真剣勝負、
『休日』…尾行した中学生がコンビニ前でかけた「公衆電話」、
『刑事のまなざし』…夏目の愛娘を十年前に襲った「通り魔事件」、
過去と闘う男だから見抜ける真実がある。薬丸岳だからこそ書けるミステリー
がある。 
友 罪
 衝撃作である。人は犯罪者どう付き合えるのだろうか。
 読者に投げかけるテーマは重い。
 東野圭吾の「手紙」にある意味、共通するところがある。
 過去に罪を犯した者が社会からどのような扱いを受けるか・・。
 男に騙され、AV女優になった女は、普通の会社勤めを願っているのに、
 追いかける男のために、故郷でも勤め先でも過去をばらされ脅される。
 子どもの目をえぐるという猟奇殺人を犯した男(当時中学生)に生きる道
 はあるのか。
 男から「話を聞いてくれるただ一人の友達」と思われた益田も、過去に、
 いじめを受けていた友達が自殺するのを阻止しなかったという悔恨を抱
 えていた。
 益田は男の正体を知った後でも、友達でいられるのか・・・。
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内容紹介(「BOOK」データベースより)
 ―過去に重大犯罪を犯した人間が、会社の同僚だとわかったら?― 
 ミステリ界の若手旗手である薬丸岳が、児童連続殺傷事件に着想を得
 て、凶悪少年犯罪の「その後」を描いた傑作長編! 
 ジャーナリストを志して夢破れ、製作所に住み込みで働くことになった益
 田純一。同僚の鈴木秀人は無口で陰気、どことなく影があって職場で好
 かれていない。しかし、益田は鈴木と同期入社のよしみもあって、少しず
 つ打ち解け合っていく。
 事務員の藤沢美代子は、職場で起きたある事件についてかばってもらっ
 たことをきっかけに、鈴木に好意を抱いている。
 益田はある日、元恋人のアナウンサー・清美から「13年前におきた黒蛇
 神事件について、話を聞かせてほしい」と連絡を受ける。13年前の残虐
 な少年犯罪について調べを進めるうち、その事件の犯人である「青柳」
 が、実は同僚の鈴木なのではないか?と疑念を抱きはじめる・・・・・・   
 不 惑
デッド・オア・アライヴ--江戸川乱歩賞受賞作家アンソロジーの中の一作
 7人の著者に与えられたテーマは「デッド・オア・アライヴ(生死の危機)」。
 さらに、各作品の登場人物が2013年9月7日正午の帝国ホテルに同時に
 存在するという時空間の共有の下、それぞれのミステリーが進行する。

 窪田が撮影する結婚式の新郎は、かつて恋人を縛り上げ、強盗を働い
 た男。そのため、強姦を疑われた恋人は自殺・・。
 夏目が登場した「刑事のまなざし」の続編。
 復讐しようとする窪田を夏目はどうする・・・。
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内容紹介(「BOOK」データベースより)
 結婚式のビデオ制作ディレクターをしている窪田には、十二年間眠りつづ
 けている恋人がいる。
 そして今日行われるある結婚式で、窪田は復讐を企てていた。  

        
 その鏡は

嘘をつく
 

★★★

 医者の息子は、医学部に入り家業を継ぐことが求められる。
 そのためには早くから高額の塾に通わせて、大学合格を勝ち取ろうとする。
 そして期待に応えられない子弟は無能の烙印を押される・・。
 この本ではそのプレッシャーに苦しむ者に焦点をあてる。脱落する者、裏口
 入学を考える者、また、それを冷淡に眺める者・・。
 事件は大学を抱える病院の外科医が鏡のある部屋で亡くなったことから
 始まった。自殺として片づけられたのだが、やり手検事の志藤は電気の
 ついた部屋、しかもカーテンがあけられていた状態での自殺を疑う。
 須賀は電車内での痴漢騒ぎを起こし、そのために自殺したといわれていた。

 亡くなった須賀のもとで働いていた女医の峰岸は、今は病院をやめ、医師
 をめざす子どもたちが通う塾で講師を務めていた。峰岸は何を考えているの
 か。峰岸の教え子で病院の息子・幹夫は学力が低く、到底医学部には入れ
 ない・・。痴漢の被害者も峰岸の教え子・・。

 夏目が「刑事のまなざし」にも登場していたとは、読んでいる時は気付かな
 かった。
 感動長編とは思わないが、病院経営者の子弟の実態などを考えさせらられ
 読み応えがあった。
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内容紹介(「BOOK」データベースより)
 エリート医師が、鏡に囲まれた部屋で自殺した。その後、医学部受験を
 控えた一人の青年が失踪した。
 正義感に溢れる検事・志藤清正は、現場の状況から他殺の可能性を見
 破り、独自に捜査を進める。その頃、東池袋署の刑事・夏目信人は池袋
 の街を歩き、小さな手がかりを見つめていた。
 二転三転する証言のなかで、検事と刑事の推理が交差する。乱歩賞受賞
 が描いた、人間の心、とは。
 連続ドラマ『刑事のまなざし』の夏目シリーズ極上の感動長編! 


  

    
 鏑木 蓮 (かぶらぎ・れん)・ 
     
  1951年 京都生まれ。仏教大学文学部国文科卒。・・・・・・
       塾講師、教材出版社、広告代理店などを経て、
 1992年、コピーライターとして独立。
 2004年、立教学院、立教大学が「江戸川乱歩と大
       衆の20世紀」を記念して創設した第一回立教・
       池袋ふくう文芸賞を、短編ミステリー「黒い鶴」
       で受賞する。 
          (表紙カバーの記載を参考にしました。)
                                                                    
第52回
江戸川乱歩賞受賞作
 

 東京ダモイ

  ★★★

 大作である。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 シベリアに抑留された関東軍の兵士たちの俘虜収容所での過酷な生活が
克明に描かれている。「東京ダモイ」というのは故国への帰還という意味で、行
き先の見えない抑留生活も者の希望として語られる言葉である。
 二等兵の高津は俳句の同好会を作り、そこに5人が集まった。川崎少尉、下
柳伍長、谷木兵長、田部井上等兵と高津である。それぞれ蟻穴、孤高、鉄心、
鶏口、歌神のいずれかの俳号を持った。
 事件はマイナス40以下と言われる寒波(マ口ース)の朝に発生した。日本刀の
ような鋭利な刃物で殺戮された鴻山中尉の死体が発見され、凶器はどこを探し
ても見当たらなかった。

 それから60年後の京都で、高津は自費出版をしようと、薫風堂出版の槙野を
呼び出した。やがて、かつて収容所で看護婦を勤めていたマリアの来日と死。
一緒だったと思われる鴻山秀樹(鴻山中尉の孫)の失踪、そして死。
 謎を追う高津と上司の朝倉晶子。
 高津の手記が要所で登場する。作者はシベリアの収容所生活を第一に描き
たかったと思われる。巻末に20冊近くの参考文献が紹介されている。

見えない鎖
  父親が突然刺されて死亡する。
  いったいなぜそんなことになったのか。生田有子は父が勤めていた警備会
 社の社長・中原とともに事件の解明に動く。
  幼い有子を残して男と去った母が原因なのか。
  やがて、牧場を営む及川が遺書を残して自殺する。及川の娘は、有子の父
 が警備を担当していた工事現場に強引に押し入ろうとして、穴に転落。重傷
 を負って植物状態のまま入院している。及川の娘が付き合っていたという若い
 男・三浦は「存在しない男」だった。
  ミステリーの部分より、母の行き方、有子の料理への想いなどが絡み、テー
 マがややあいまいになっている。
しらない町
 

★★★

 感動を与えてくれる一冊。
 愛人のところで酒を飲みながら死んだ父。その父の遺体にすがりつく母を見て
生きる意味がわからなくなり家を出た門川は、映画監督になる夢も挫折し、生活
のためにアルバイト生活を続けている。
 その門川が独居老人の死に直面する。「孤独死」に同情するボランティアや戦
友。果たしてそうなのだろうか。門川は部屋で見つけたフィルムに魅せられ、そこ
に登場する40代の女性を探したずねるうちに深く考えるようになる。
 友だちや知り合いをあえて作らず孤独に生きる門川は老人と自分を重ね合わ
にて老人の生きた道を調べていく。隊の少尉だった長塚。その他の戦友を訪ねる
が皆一様に口を閉ざすが・・・。
 岩手の戦友を訪ねて民宿に泊まるが、そこの息子で大学生・晋(文化財の発
掘をしている)と心を開いて語り合う姿も良い。
 読後に門川が前向きに生きる姿が浮かんできて感動した。
内容(「BOOK」データベースより)
 故郷の島根を離れ、映画監督を夢見る青年、門川誠一。今は大阪でアパート
管理のバイトで生活をしていた。ある日、亡くなった独り暮らしの老人、帯屋史朗
の遺品を整理していた時、誠一は部屋で8ミリフィルムを見つける。映っていたの
は―行商のため重いリヤカーで集落へと向かいながら、優しくほほ笑む女性の
姿だった。
 帯屋老人はなぜこのフィルムを大切に保管していたのだろう。誠一はドキュメン
トを撮ることを決め、映像が撮られた場所とゆかりの人たちを訪ねてゆく…。
 独居老人の遺品の8ミリフィルムに導かれた青年がめぐりあう、戦争という時代、
ありし日の故郷、人と人との絆の物語。 
甘い罠

小説 糖質制限食

★★★

 ミステリーを期待して読んだが、謎解きやサスペンスはいっさいなし。
 内容紹介にあるように、食のあり方を問うものである。
 糖尿病は、炭水化物を多くとらないことにより症状がよくなること。
 逆に炭水化物を摂取しないと脳の機能が働くなるということが危惧される。しか
 し、そうでもないらしいことなど・・・。
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 内容紹介から
 食べることは生きること、そして生きることとは──。
 料理研究家・水谷有明(みずたに ありあ)の葛藤。

 美人料理研究家・水谷有明(みずたに ありあ)は、大手スーパーチェーンの社長・
 城田洋(しろた ひろし)から、全国的に展開する和食レストランのメニュー監修を依
 頼された。
 キャリアアップを狙う有明にとって大きなチャンスだった。しかし、父親の糖尿病
 発症で食事療法「糖質制限食」を知り、炭水化物を中心とした和食メニューに疑
 念を抱くようになる。
 そんな有明の前に、主食を転換することの危険性を説く城田の理想が立ちはだ
 かった……。
 人類は何を食べてきたのか、主食とは何か、さらに文化を築いたものとは。
 人類史の謎に挑む「食」のミステリー。

終 章

〜タイムオーバー〜

 デッド・オア・アライヴ--江戸川乱歩賞受賞作家アンソロジーの中の一作
 7人の著者に与えられたテーマは「デッド・オア・アライヴ(生死の危機)」。
   さらに、各作品の登場人物が2013年9月7日正午の帝国ホテルに同時に
 存在するという時空間の共有の下、それぞれのミステリーが進行する。
--------------------------------------------------------
 マイクロバブルを開発(水耕栽培などに利用)した女社長が毒殺を謀られる。
 離婚寸前の夫が企んだものらしい。
 完全犯罪が成功したと思われた時意外な展開が・・・。   
京都西陣

シェアハウス
 

憎まれ天使

有村志穂

★★★

 就活がうまくいかず、77回も面接を受けている志穂。
 志穂は西陣織の機織り工場だった京町家に住んでいるが、いっしょになっている
 3つの家族の生き方に口出ししていく。
 交通事故で死なせてしまった女の子のことが忘れられず、車の営業をやめ、
 パートをしてるが、妄想に悩まされ閉じこもりがちな男。
 志穂は事故現場に現れた女を追い求めて・・・。
 不倫しているOL。相手の男の本性は・・・。
 学生時代に住んでいた京町家に退職後移ってきた老人夫婦。老人がかつての親
 友とかわした約束とは・・・。
 行き詰まりの人々に夢と希望を抱かせてくれる、読後感の悪くない一冊である。  
-----------------------------------------------------------
 内容紹介から
 「また、ごまかして生きている?」
 なぜだろう
 憎まれ口に胸が熱くなる。
 女子大生のお節介が崖っぷち住人たちに起こす奇跡!

 死亡事故を起こした元自動車セールスマン、
 不倫相手のために犯罪に走ろうとするOL、
 過去の恋愛を40年間妻に隠し続ける老人。
 京都西陣のシェアハウスには悩み多き住人たちが住んでいた。
 触れて欲しくはない彼らの内面にどんどん踏み込み、憎まれ口を叩く隣人・
 有村志穂。このお節介が本人たちも気付かなかった謎を解きあかす。
 ところが志穂にも言えない何かが……。
 “感動”の名手・鏑木蓮の人情ミステリー! 

殺意の産声
 レイプが女性にどれほどの傷を残すのか。まして、妊娠した場合は・・・。
 作者の訴えがひしひしと伝わってくるような一冊である。
 藍染作家を目指す美津子に降りかかった悪夢。出産とその後の結婚、そして離婚。
 その美津子が殺害され、かつてレイプした佐伯が容疑者として浮上する。
 別ストーリーで展開する美大生・翼は養夫婦に育てられ、実の母を探しながら自分の
 境遇に馴染めず、ナオミのもとに転がり込んでいる。ナオミは・・・た普通のスナックの
 ホステスかと思ったら・・・。
 最後まで読んでみると、いくつもの要素を抱えた作品であることが分かる。
 捜査に当たっている砂生も妊娠を隠しながら・・・。
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 内容紹介から 
 夏の猛暑日、京都市左京区で女性の絞殺体が発見された。被害者は染織作家・由
 良美津子、39歳。絞められた美津子の首筋には、藍色の染料が残っていた。
 時を同じくして、別の殺人事件で逃走していた指名手配犯が北九州市で逮捕された
 という一報が入る。
 犯人の佐伯旭は関西に住んでいた20年前に婦女暴行を重ね、美津子もその被害者
 のひとりだった。京
 都府警・捜査一課の準キャリア刑事・大橋砂生が捜査を進めると、美津子の周辺で
 目撃されていた怪しい男の存在が浮上する―。  
       


 

  

  早瀬 乱・ 
     
 1963年 大阪生まれ。法政大学文学部英文科卒業後、大学
       受験のため英語講師となる。
 1991年からは大学受験予備校を自ら経営するが、その後解
       散。
 2004年 「レイテの支流」で日本ホラー小説大賞長編賞佳作
      となる。
 2005年 「通過人の31」で江戸川乱歩賞最終候補となる。
      二回目の応募で「三年坂」が第52回江戸川乱歩賞
      受賞。  (表紙カバーの記載を参考にしました。)
                                                                    
第52回
江戸川乱歩賞受賞作
 

 三年坂
 

 図書館で五冊借りたが、その中の一冊である。・・・・・・・・・・・・・・・・・
 かなり頑張って読んだが、ついにリタイア・・。 
 選評で真保裕一が次のように言っている。
 「題材は興味深く、導入部もいい。その後なかなか本筋を見せ
  ないのは作者の狙いでもあったろうが、もう少し読者へのもて
  なしに力をそそいでいただきたい。」
 この選評が的を得ている。
        



               
 

 

  

 曽根 圭介
     
1967年 静岡県生まれ。早稲田大学商学部中退。・・・・・・・・・
       サウナ従業員、漫画喫茶店長を経て、その後無職。

 2006年 初めての作品が第52回江戸川乱歩賞で一次選考を
      通過する。
 2007年 「鼻」で第14回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。
      さらに、東京ダモイで第53回江戸川乱歩賞を受賞し、
      みごとダブル受賞を果たす。
         (表紙カバーの記載を参考にしました。)

                                                                    
第53回
江戸川乱歩賞受賞作
 

 沈 底 魚

  ★★★

 これは面白い。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 警視庁考案部外事二課(中国・北朝鮮を担当)の不破を中心に展開するサ
スペンス。朝毎新聞がスクープした「中国に機密情報漏洩、現職国会議員が
関与か・・」という記事を発端に、麻布(中国情報部)との駆け引き、警察庁内
部の権力争い、そして何より重大なのは外事二課内の疑心暗鬼・・。
 何を考えているかわからない若林、外事二課を仕切る五味の存在。そし
て登場した凸井理事官。
 情報漏洩に絡む人物名、シベリウス、マクベス、肉まん・・・モグラ、sまで。
真相にたどり着くまで二転三転の騙し合いである。時々頭がこんがらかりそ
うになったが何とか読破。終わってみれば痛快物を読ませられたという読後
感が残る。
 事件にほとんど関係ないような感じで登場する「王爺」の存在も面白い。


 作者・曽根圭介の受賞の言葉
  大学時代「ありきたりな人生は嫌だな」と考えた。・・・とりあえず身を持ち
  崩して退路を断つことにした。大学を中退したときは、「これで道をはずれ
  た」とほっとした。・・・漫画喫茶が時流に乗って支店が増えていった。・・
  危機感を抱き、辞表を出した。
  「順調に人生の階段を下っているな」と感慨に耽っているとき、ふと気が
  ついた。いつの間にか、身を持ち崩すことが人生の目的と化している。
  一念発起して図書館に通い、長編二作目で幸運にもデビューすることが
  できた。
 作者の言葉が強く印象に残った。
特命捜査

対策室7係

 面白く読めた--それ以上でもそれ以下でもない。
 辰巳麻紀主任は「竜巻?」捜査をかき乱して去る・・・と言われている。
 壮一郎への風当たりは容赦ない・・・ 同様に7係の男たちにも。このあたり
 はちょっと面白い。
 覚せい剤、オレオレ詐欺・・・さまざまな要素を取り込んで推理の幅を広げて
 いる。
------------------------------------------------------
 内容紹介から 
 鬼切壮一郎は新人刑事として捜査一課に配属になる。
 一課といっても殺人捜査係ではなく、「未解決事件」を専門に扱う特命対策
 室だった。配属初日、壮一郎は早速、辰巳麻紀主任と本所東署に向かった。
 岡田という窃盗の容疑者が、5年前に起きた失踪事件をネタに、量刑の取引
 を持ち掛けてきたのだ。
 事件とは、小久保清二が突然姿を消し、兄の亮一が殺人犯として疑われた
 事案を指す。通常、成人男性が失踪しただけでは警察は動かないが、清二
 の妻が亮一を犯人だと訴えたことと、亮一が現役の刑事であったことで、殺
 人犯捜査係が捜査に当たることになった。が、亮一と失踪を結びつけること
 はできず、3か月後に捜査は終了している。
 岡田は、清二がヤバい仕事に手を出して消されたのだというが……!? 

 




 貫井 徳郎(ぬくい・とくろう)
     
1968年東京生まれ 早稲田大学商学部卒業
  93年 第4回鮎川哲也賞最終候補作となった「慟哭」が
     予選委員であった北村薫氏の激賞を受けデビュー。
2006年「愚行録」で第135回直木賞候補、
2009年「乱反射」で第141回直木賞候補となる
主な著書に「失踪症候群」ほか症候群シリーズ、
「転生」「さよならの代わりに」「追憶のかけら」「夜想」など。
           (表紙カバーの記載を参考にしました。)
                                                                    
後悔と真実の色
 
 

★★★

 凄い作家の一人に出会えた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
矢来町交番に勤務する大崎巡査が夜間の通報を受けて出動し、
女性の惨殺死体を発見したところから始まる。
警視庁捜査一課・殺人犯捜査九係の主任・西條、西條に異常
な敵対心を持つ機動捜査隊の綿引の登場。
警察の必死の捜査にもかかわらず第二の殺人事件が発生。
犯人は死体から人差し指を持ち去り「指蒐集家」を名乗りだす。
西條、綿引の行き方、家庭・・・人間の生き方そのものにもふ
れながら行き詰る展開が続く・・。
 慟 哭  二つの場面が交互に同時進行していく設定。
 ・幼児誘拐殺人と捜査本部を指揮する警視庁捜査一課長
  佐伯警視
 ・新興宗教にのめり込んでいく男。
 これが何処で交錯するのか、スリリングな展開に息も付けず
 読み進めさせられる・・。
 男はかつて娘を殺されている。そして、新興宗教を影で操る
 司摩から教えられた「復活のための儀式」にのめり込む。
 それは黒魔術である・・・。

 「後悔と真実の色」に登場する西條もそうだが、佐伯も不倫を
 続けている。鬱屈した男の気持ちを細かく描写するところも
 かなり類似している。
 やがて、捜査一課長の娘が狙われる・・・。
 貫井徳郎の作品にハッピーエンドはないと思うが、ストーリ
 ーの展開と読ませる文体で、読者をエピローグまで飽かせず
 導くのが素晴らしい。

 ドミノ倒し
 うーん!
 この作家のユーモア小説はいまいちである。
 どんどん読み進めた。「締め」を期待したからである。
 しかし・・・期待は大きく裏切られた。
 「月影村」の住民の特異さと正義感そのものを描きたかったの
 だろうが・・。釈然としない終わり方だった。
 主人公の探偵と、月影の警察署長が幼なじみ(署長は東大卒
 のキャリア)という設定も面白いと思ったが、ほとんど意味が
 なかった。署長は間の抜けたような言い方をするが、本質をつく
 発言を時折して、大詰めでのドン伝返しを期待したのだが・・。
----------------------------------------------
 内容紹介から
 「元彼の殺人容疑を晴らして欲しい」探偵・十村の元に舞いこ
 んだ美女からの依頼。しかし事件に触れると別の事件に行き
 当たり、さらなる別の事件を呼び起こす……。 

 ひとつの事件が別の事件を呼び起こし芋づる式に掘り出される
 死体!死体!!死体!!!いったい何が起きているんだ!?
 油断大敵・貫井流ユーモア私立探偵小説。 

北天の馬たち
 1話
  女性を強姦した男に罰を与えてほしいという依頼。
  男が、「故買屋(盗品売買)」に泥棒に入るように仕向ける。
  競馬場でで当たり券を落として知り合い、いい仕事をあると持
  ちかける・・・。そして、人気のない場所にある故買屋を「探偵」
  させ・・・。
 2話
  見知らぬ男女を出会わせてほしいという依頼。
  絵画展の招待券を送り、会場で「口八丁」の山南が二人を結び
  つける。
  ところが、この女はどうも結婚詐欺らしいとわかり・・・。
 3話
  1、2話はここに向かうための布石だった。
  これはちょっと違和感がある。
  1、2の洒落た探偵二人の見事な立ち回り、わくわくする展開が
  俄かに、現実に呼び戻される感じ。
  遺産を巡る争いが浮かび上がる・・・。
 〆はもっと劇的にハッピーにしてほしかった!
 -----------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 毅志は、横浜の馬車道近くで、母親と共に喫茶店「ペガサス」
 を営んでいる。
 ある日、空室だった「ペガサス」の2階に、皆藤と山南というふ
 たりの男が探偵事務所を開いた。
 スマートで快活な彼らに憧れを抱いた毅志は、探偵仕事を手伝
 わせてもらうことに。
 しかし、付き合いを重ねるうちに、毅志は皆藤と山南に対してあ
 る疑問を抱きはじめる…。 
        
  

  

  

 横関 大
       
                                                                             
第56回
江戸川乱歩賞
受賞作
 
 
 
 

再 会

江戸川乱歩賞の本を読んでいて出会った。
賞にふさわしいような登場人物、過去の設定、そして現在に起こった事件・・。
子どもだった四人の成長と昔の面影を残しながら進むストーリーは目が離せ
ない。
-----------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
誰がうそをついている?幼なじみの四人が校庭に埋めた拳銃は、二十三年の時を
経て再び放たれた。それぞれの想い出が重なるとき、時を越えたさらなる真実が
目を覚ます―!全てはタイムカプセルにとじ込めた―はずだった。第56回江戸川乱
歩賞受賞作。
偽りのシスター
 
 

★★★

 

 軽い感じで一晩で読んでしまった。
 刑事もので深刻な事態も起こるのだが、流れるような展開で苦にならない。
 和也が射殺した探偵・甲斐の背後に何があるのか・・この最大の謎を最後まで
 引きずる設定も良い。
 楠見兄弟の前に「妹」を名乗って現れる麻美。屈託なく溶け込み、美味しい料
 理を作ったりする場面は爽やか・・・。
-----------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 麻薬密売の容疑者を射殺してしまいながらも、後輩の野口を身代わりに立て
 素知らぬふりをしなければならなかった、生真面目な刑事の楠見和也。その
 ことを誰にも話せず、良心の呵責に苛まれるが、ある時野口が自殺を図ってし
 まう。
 一方、会社をリストラされたことを弟の和也に話せずにいる楽天家の兄・楠見
 太一は、毎日公園で弁当を広げる生活を送っていた。
 そんな二人の前に突然、腹違いの妹を名乗る麻美という女がやってきた。
 困惑しながらも、天真爛漫な麻美に癒され、惹かれながら共に暮らし始めた三
 人。
 だが麻美も、太一と和也に言えない秘密を抱えていた。彼女の目的が明らか
 になった時、驚愕の事件が幕を開ける……。 
タイム&ドリーム

★★★

 ホテルの部屋を襲われ、縛り付けられた私に謎の男は相互にクイズを出し合う
 という・・
 私が出した「先ほど頼んだルームサービスの品」など、絶対に知りえないことが
 なぜわかるのか。この男の正体は・・・天外の展開・・面白い。
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 デッド・オア・アライヴ--江戸川乱歩賞受賞作家アンソロジーの中の一作
 7人の著者に与えられたテーマは「デッド・オア・アライヴ(生死の危機)」。
 さらに、各作品の登場人物が2013年9月7日正午の帝国ホテルに同時に
 存在するという時空間の共有の下、それぞれのミステリーが進行する。
   
   
    


 首藤 瓜於 (しゅどう うりお)
    
        
  1956年 栃木県生まれ 上智大学法学部卒。
 会社勤務等を経て、2000年「脳男」で第46回江戸川乱歩賞を受賞。
 CASA(現代美術振興協会)を主宰。
 「上野・谷中アートリンク)等のイベントを通じモダンアートを
 プロデュースしている。他の著書に「事故係 生稲昇太の多感」がある。
           (表紙カバーの記載を参考にしました。)
                                                         
                                                                             
刑事の墓場
 動坂署に異動になった雨森警部補は何かの間違いではないかと思って
いる。署長の桐山をはじめ、みんな無気力を絵にかいたような署員ばかり
と思えたが・・・。
脳  男

★★★

 これは凄い!ページをめくると、かなり読みにくい印象を受けるが取りか
かってしまえばどんどん読み進められる。
 連続爆発事件の犯人を追いつめた廃墟の倉庫で警部の茶屋は、緑川を
逃すが代わりに現場にいた鈴木一郎を共犯として逮捕した。この鈴木一郎
とは何者なのか。精神科医で鑑定役となった鷲谷真梨子の問いかけは一
向に進展しない。真梨子は、鈴木は感情が全くない、人間として基本的な
欲求が欠落しているのではないかと思い始める・・。
 真梨子はかつて自閉症と言われた子どもの調査をはじめる。
 終末で緑川が鈴木をねらい病院で爆弾を破裂させる。茶屋、真梨子、鈴
木の行動は・・・。

出版社/著者からの内容紹介
未知なるヒーロー誕生。乱歩賞受賞作
連続爆弾犯のアジトで見つかった、心を持たない男・鈴木一郎。
逮捕後、新たな爆弾の在処(ありか)を警察に告げた、この男は共犯者な
のか。
男の精神鑑定を担当する医師・鷲谷真梨子は、彼の本性を探ろうとする
が……。
そして、男が入院する病院に爆弾が仕掛けられた。
全選考委員が絶賛した超絶の江戸川乱歩賞受賞作


 

 

    

 貴志 祐介 (きし ゆうすけ)
    
        
1959年 大阪生まれ 京都大学経済学部卒。
       生命保険会社に勤務した後、フリーになる。
1996年「ISOLA」で第3回日本ホラー大賞長編賞佳作となり、
     「十三番目の人格ーISOLAー」と改題し角川ホラー文庫より刊行。
     翌年「黒い家」第4回日本ホラー小説大賞を受賞。各方面から高い
     評価を得、大ベストセラーとなり、99年11月映画公開された。
                                                         
                                                                             
 青い炎 
 以下にあるように感動の名作ではあるのだろうが・・・。
 事件を犯罪者の側から書くと、読者はだんだん切なくなってくる。これが
 途中から「リセット」されて、実は犯罪はなかったのだ・・・という設定になる
 ことを願い始める。
 この本もそうである。
 高校生である秀一の同級生たち。秀一を慕う紀子。無敵の大門、酒屋の
 ゲイツ。かれらに囲まれ無難な?高校生活を送るはずだった主人公に落と
 し穴が待ち構えていた。
 元義父を完全犯罪で抹殺すること、それに付随した犯罪に手を染めること、
 読み進めていくうちに本当に切ない気持ちにさせられてしまう。
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内容(「BOOK」データベースより)
 櫛森秀一は、湘南の高校に通う十七歳。女手一つで家計を担う母と素直で
明るい妹との三人暮らし。その平和な家庭の一家団欒を踏みにじる闖入者が
現れた。母が十年前、再婚しすぐに別れた男、曾根だった。曾根は秀一の家
に居座って傍若無人に振る舞い、母の体のみならず妹にまで手を出そうとし
ていた。
 警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意す
る。自らの手で曾根を葬り去ることを…。完全犯罪に挑む少年の孤独な戦い。
その哀切な心象風景を精妙な筆致で描き上げた、日本ミステリー史に残る感
動の名作。 

 

   

 黒川 博行
    
        
1949年 愛媛県生まれ 京都市立芸術大学美術部彫刻科卒。
      大阪府立高校の美術教師を経て、
1983年 「二度のお別れ」が第1回サントリーミステリー大賞佳作。
1986年 「キャッツアイころがった」で第4回サントリーミステリー大賞。
1996年 「カウント・プラン」で第49回日本推理作家協会賞
               (短編および短編集部門)
     「破門」は「疫病神」「国境」「暗礁」などに続く「疫病神」シリーズ
      第5弾。
                                                         
                                                                             
 繚 乱 
 

★★★

 面白い!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 2段の383ページ。
 前半登場人物が多く、最初にかかれている「登場人物」と照らし合わせて読む。
 この長さについていけるのかと思ったが、後半のスピーディーな展開にどんどん
 読み進めさせられた。
 競売屋の実態に材をとった痛快作。
 これだけ大暴れして、お構いなしに終わりそうなのはやはりフィクションだから?
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内容(「BOOK」データベースより)
 見さらせ、ど腐れども。そのシノギ、おれらが奪(と)ったる――名作『悪果』の相棒、
 堀内、伊達が復活。ふたたび、大阪を縦横無尽に疾駆する。策略と暴力がからみ
 あい、腐れのスパイラルはノンストップで奈落へ。黒川警察小説の、これぞ真骨頂! 

 かたや賭場摘発にからんで学校法人理事長を脅迫したことが発覚し、かたや愛人
 の“ヒモ"に刺され、ともに大阪府警を追われた、かつてのマル暴担コンビ堀内と伊
 達。
 競売専門の不動産会社に調査員として働く伊達は、ある日、出張で訪れた東京で、
 いまは無職の堀内を同業に誘い、二人は大阪に戻る。
 調査物件は敷地900坪の巨大パチンコ店「ニューパルテノン」。だが調べるほどに、
 裏で極道や半堅気、警察OBらが寄ってたかって食いものにしている実態が浮かぶ。
 「パルテノンは金の生る木や」、気づいた二人は……。
 2009年7月に刊行された『螻蛄』(新潮社)以来、著者3年ぶり、ファン待望の長編。

破 門
 他愛ないストーリーなのだが、喧嘩・暴力、脅し・・・次々と話が展開して、
 気軽にどんどとん読ませられた。暇つぶしによむのには絶好の本。
 舞台も一気にマカオに移ったり、カジノの賭博の仕組みや、かけ方などについ
 て、かなり詳しい解説をして見せる・・・やくざのシノギや、本家・二次団体、三
 次団体などの繋がりなどについても詳しく描いている。
 この本が直木賞を取ったわけは、わかるようなわからないような・・・自分の
 読み不足だろうか。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 映画製作への出資金を持ち逃げされたヤクザの桑原と建設コンサルタントの
 二宮。
 失踪した詐欺師を追い、邪魔なゴロツキふたりを病院送りにした桑原だったが、
 なんと相手は本家筋の構成員だった。組同士の込みあいに発展した修羅場
 で、ついに桑原も進退窮まり、生き残りを賭けた大勝負に出るが―!?
 疫病神コンビVS詐欺師VS本家筋。予想を裏切る展開の連続で悪党たちがシ
 ノギを削る大人気ハードボイルド・シリーズの最高到達点!! 

 
 


 日明 恩 (たちもり・めぐみ)
    
        
1959年 大阪生まれ 京都大学経済学部卒。
       生命保険会社に勤務した後、フリーになる。
1996年「ISOLA」で第3回日本ホラー大賞長編賞佳作となり、
     「十三番目の人格ーISOLAー」と改題し角川ホラー文庫より刊行。
     翌年「黒い家」第4回日本ホラー小説大賞を受賞。各方面から高い
     評価を得、大ベストセラーとなり、99年11月映画公開された。
                                                         
                                                                             
ギフト 
 

★★★

 最初、ちょっと意味の分からない部分が多く違和感があったが、読み進めるう
 ちに解消。(主人公は元刑事ということも想像できなかった。)
 非常に興味深い世界を描き出して見せたという点で秀作である。
 音、色に障害を持つ老婆は、事故現場で注意を促し続ける・・・。
 虐待され成仏できない犬。
 弟の行く末を心配し、濡れた体で現れる少女・・・。
 元刑事の須賀原と少年は彼らに心の安らぎを与えるために・・・。
 この作家の本をいろいろ読んでみたい。
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内容(「BOOK」データベースより)
 過剰追跡が原因で犯人の少年を死なせてしまった元刑事の須賀原。
 そんな彼が働くレンタルビデオ店に、奇妙な少年がやって来た。
 『シックス・センス』の DVDを見つめながら、ただ涙を流しているのだ。しかも毎
 日…。
 心に傷を負う元刑事と、“死者”が見える少年。孤独に生きてきた二人が、死者
 たちの謎を解き明かす。
 霊にまつわる事件を解決していくハートウォーミングミステリー。 
   
 


 香納 諒一
    
        
1963年 神奈川県横浜市出身。
1991年 「ハミングで二番まで」で第13回小説推理新人賞を受賞
1992年 「時よ夜の海に瞑れ」で長編デビュー。
1999年 幻の女」で第52回日本推理作家協会賞を受賞。
2007年 「贄の夜会」が『このミステリーがすごい!』ランキングの7位
   著書多数
                                                         
                                                                             

 

★★★

 この作家に出会えたのは嬉しい。
 長い長い謎解きの中に、人間の生きた過程が子細に描かれる。
 終末の解決まで、小さな謎が少しずつ解決されていくのも良い。
 同僚の刑事が押収物を横領しことを内部告発。そのため、本庁の刑事課
 から左遷された寺山。50歳になろうとしたている平刑事は妊娠9か月、
 やはり内部の事件を捜査したため左遷されてきた一之瀬明子と組むことに
 なった。
 認知症になっている老婆が、取り壊されつつある商店街の一角で発見され
 たところから始まる。
 老婆は代議士と建設大手を経営する兄弟の母と判明するが、その頃、老
 婆が発見された近くの取り壊し現場から白骨死体が発見され、にわかに
 混迷が深まる。
 学生運動の時代にもさかのぼり、事件の背景が少しずつ明らかにされて
 いく・・・。
 代議士の兄弟の生き方、母への屈折した想いが描かれる。
 左遷された二人の刑事は、組織の隠ぺいに敢然と立ち向かいながらも
 むなしさを感じている。何のために刑事を続けているのだろうか・・・。
 明子が産もうとしている子どもの父親、主人公の妻がかつて流産し子が
 できないこと、それは主人公が追った事件のせいでもあった・・・。
 長編の中に作者の想いが溢れた秀作である。 
 この作家の本をいろいろ読んでみたい。
-----------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 認知症の老婆に潜む秘密は、その哀しみとは何か?! 現在と過去が複雑に
  絡み合う殺人事件は、やがて「愛」や「家族」や「幸せ」の姿を、二人の刑事
 たちに突きつけてゆく。 
 現在を生きる意味を問う警察小説の誕生! 

 


 

 長岡 弘樹
    
        
1969年 山形県出身。筑波大学卒。
2003年 「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞
2008年 「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。
      同書を収録した文庫「傍聞き」は39万部のベストセラーとなる。
     他の著書に「陽だまりの偽り」「線の波紋」がある。
                                                         
                                                                             
 教 場 
 うーん!!
 なんだろう、これは・・読み始めてそう思った。
 正義と理性、それを求められる「警察官を養成する場」
 それを描いた小説のはずなのだが・・。
 教官の暴力、意地の悪さ・・・こんな中で育った警察官が優秀??
 道半ばで学校から逃走したり、行方をくらます者もいる。
 それも、仲間のせいにして、ケガを負わせたりして・・。
 これは非常に不自然。自分に適性がなければ警察学校を去る者はいるだろ
 う。戦前のスパイ養成所か何かと見間違うようながっこうなのである。

 教官の風間の学生一人一人に向ける目の確かさ、対応は凄いとは思う。
 その意味のスリルとサスペンスはある。
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内容(「BOOK」データベースより)
 君には、警察学校をやめてもらう。 

  「こんな爽快な読後の悪さは始めてだ! 警察学校が担う役割とはなんだろう
 か。
 篩にかけられた友もまた、警察官を育成するために必要なものだったのだろ
 うか。校庭のすみに育てられている百日草が示すものが、警察組織を守るた
 めの絆ではなく、市民を守るための絆であることをただただ願いたい」
   ――さわや書店フェザン店・田口幹人さん
 「復興を続ける警察小説ジャンルから飛び出した、突然変異(ミュータント)。
 警察学校が舞台の学園小説でもあり、本格ミステリーでもあり、なにより、
 教師モノ小説の傑作だ。
 白髪の教師・風間は、さまざまな動機で集まってきた学生それぞれに応じた
 修羅場を準備し、挫折を演出する。その『教育』に触れた者はみな――覚醒
 する。もしかしたら。この本を手に取った、あなたも。」
  --ライター・吉田大助さん

波形の声
 小説の役割は何だろう。そう考えさせる本だった。
 非常勤講師の谷村梢は担任する文吾の家に行き、首を絞めたのではないか
 と疑われる。それは梢が教えた簡単な工作・録音機づくりが関係していた?
 二作目からは全く違う人物、違う設定・・・雑誌に載せられたものをかき集めた
 のは止むを得ないとしても、ここまで一貫性がないのもどうかと思う。
 「謎」があり、それは最後に解決する。そして・・・あとは何もない。(作者はテー
 マを織り込んでいるらしいのだが、伝わってこなかった。)
  ・高齢になった男二人。互いに自尊心が強い・・。
  ・息子を殺された母親は、犯人の併合起訴を避けるために・・。
  ・部長と次長の出世争い。同年代の女二人。しかも息子と娘は夫婦・・る
  ・息子が誘拐され、名画を深海に落とすことが指示された・・。
 小説は読者に「生きる指針」のようなものを与えてくれるのが良いと思う。
 謎が意外な視点から解決される。それは良いのだが・・それだけだった。
 読後に未消化感が残った。読みが足りないのだろう・・。
-----------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 小学校四年生の中尾文吾が自宅で襲われた。補助教員の谷村梢は文吾から、
 スーパーで教師の万引きを目撃したと聞いていた。だが襲われる直前、梢の名
 前を呼ぶ声を近所の人が聞いていたという。疑惑の目を向けられた梢は……。
 「日常の謎」を描く珠玉のミステリー集。

 人間の悪意をとことん見据えたまなざし、心温まるどんでん返し、そして切なさは
 ビターに!奥の深い長岡ミステリー最新作7篇! 


 緒川 怜 (おがわ・さとし)
    
        
1957年 東京都出身。東京外国語大学卒業。
      共同通信覇者の記者となる。
2008年 「霧のソレア」(滑走路34改題)で
      第11回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、デビュー。
      他の著書に「特命捜査」「サザンの丘」がある。
                                                         
                                                                             
冤罪死刑
 

★★★

 奥の深い小説。
 迫力のある文体、展開で読者を離さない。
 山梨県警による、冤罪の捏造。犯人に仕立て上げるために県警をあげて
 証拠をでっちあげる・・。容疑者の車に被害者の毛髪を置く、目撃者に容
 疑者を印象付け、あいまいな証言を確固たるものにしてしまう手口・・。

 しかし、取り調べにあたったのは記者・恩田と昔から懇意にしていた真摯
 な姿勢を貫く刑事だったはず・・・。
 その刑事は病気で死期が近づき、恩田に真実を吐露する。
 捏造は確かにあった。しかし、奴が犯人なのは間違いない・・・。
 同じような事件を起こした幼児殺人の犯人の早すぎる死刑執行。
 この犯人が、別な誘拐事件にも拘わったのか?

 深まる謎、隠ぺい工作の中で恩田は真実に辿り着いたと思った・・・。
 ラストは眼が離せない。
 折しも、この小説がテレビの土曜ワイド劇場でドラマ化されていてこちらも
 興味があった。
-----------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 三年前に発生し、犯人逮捕で終結したはずの少女誘拐殺人事件。だが、
 その裏側にはあまりにも多くの嘘や裏切り、腐敗や汚職があふれていた。
 死期を迎えた刑事の告白、目撃証言に挟み込まれた意図、被害者の母の
 衝撃的告発、そして埋葬された記念品…。
 事件を洗い直すべく動き出した通信社記者と女性弁護士は、次々と意外
 な事実に突き当たる。ともに東京拘置所に収監されている死刑確定者と、
 勾留中の刑事被告人の間には、いかなる接点があったのか。
 ラスト10ページで明かされる驚愕の真相。
 「合法的殺人」に仕組まれたトリック。 

迷宮捜査
 一冊の本に詰め込んだ要素が多い。
 北朝鮮の工作員による裏切り者への制裁
 そのために公安の刑事を使って(薬剤で)殺害させる手口・・これが
 主題かと思わせる展開。
 刑事・名波のたった一人の身内である妹は重大な秘密を抱えている。
 過去に・・をしたというもの。
 上司の鷹栖は関係なさそうに見えたが・・・。
 3つの要素が絡むので、一言で言えばややこしい。
 どれかひとつに焦点を絞っても良かったのではないか。
 また、殺しの場面が残虐すぎるのも(私は)好みでない。

 ただ、この作者の文体、読者をひきつける展開は素晴らしいと思う。
-----------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 先読み不能! 慟哭、驚愕のラストが待ち受ける、本格警察小説の誕生! 
 母子殺害事件発生。捜査一課の名波はやり手の上司・鷹栖警部と密に
 連絡を取りつつ捜査を開始。
 だがその捜査は、誰も全く予想できぬ方向へと進んでいく──。 

 世田谷区の母子殺害事件現場にあった場違いな遺留品。
 それは、一年前に目黒区で起こった一家四人殺しのものと関連していた。
 同一犯の可能性が濃厚だが、上層部の意向で合同捜査本部は立たず、
 刑事たちは地道な捜査を強いられる。
 捜査一課の名波洋一郎は、やり手の上司・鷹栖警部と密に連絡を取りつ
 つ捜査を開始する。
 だがそれは誰も予想せぬ方向に進んでいく。 


 竹吉 優輔 (たけよし・ゆうすけ)
    
        
1980年 茨城県出身。
      図書館の司書として働くかたわら小説執筆を続け
20136年 「襲名犯」で、第59回江戸川乱歩賞を受賞。
                                                         
                                                                             
イーストウッドに

助けは来ない

 
 デッド・オア・アライヴ--江戸川乱歩賞受賞作家アンソロジーの中の一作
 7人の著者に与えられたテーマは「デッド・オア・アライヴ(生死の危機)」。
 さらに、各作品の登場人物が2013年9月7日正午の帝国ホテルに同時に
 存在するという時空間の共有の下、それぞれのミステリーが進行する。

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 これは面白い。
 組の若党の女に手を出したために、間もなく殺される叔父。
 俺は叔父を捕まえて監禁する二人の男と一緒にいる。
 一人は若党に叔父を渡して組員に償還しようとしている・・。
 絶体絶命のピンチ。
 若党が部屋のやってきた・・・。
 最後には痛快感が残るが・・・


 高野 史緒 (たかの・ふみお)
    
        
1966年 茨城県出身。
      図書館の司書として働くかたわら小説執筆を続け
1995年 日本ファンタジーノヘル対象の最終候補作「ムジカ・マキーナ」で、
      デビュウ―。
2012年 「カラマーゾフの妹」で第58回江戸川乱歩賞を受賞。
                                                         
                                                                             
悪魔的暗示
 デッド・オア・アライヴ--江戸川乱歩賞受賞作家アンソロジーの中の一作
 7人の著者に与えられたテーマは「デッド・オア・アライヴ(生死の危機)」。
 さらに、各作品の登場人物が2013年9月7日正午の帝国ホテルに同時に
 存在するという時空間の共有の下、それぞれのミステリーが進行する。
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 スパイやロシアが舞台。
 ちょっと付いていけずリタイヤ。
 以前「カラマーゾフの妹」を借りたが、これもリタイヤしている。

 


 遠藤 武文
    
        
1966年 長野県出身。
2009年 「プリズントリック」で第55回江戸川乱歩賞を受賞。
   著書に「トリック・シアター」「パワードスーツ」
       「天命の扉」など
                                                         
                                                                             
平和への祈り
 デッド・オア・アライヴ--江戸川乱歩賞受賞作家アンソロジーの中の一作
 7人の著者に与えられたテーマは「デッド・オア・アライヴ(生死の危機)」。
 さらに、各作品の登場人物が2013年9月7日正午の帝国ホテルに同時に
 存在するという時空間の共有の下、それぞれのミステリーが進行する。
--------------------------------------------------------
 街の小路で「熾天使ミカエル」に会い、この世の裁きが、その判断は
 私に託すことになった・・・と、とんでもないことを言われる。

 
 


 朔 立木 (さく たつき)
    
        
年令、氏名などが明かされていない。
法曹家で知る人ぞ知る弁護士だという噂がある。
著書「終の信託」は監督・周防正行、出演・草刈民代、役所広司で
    映画化されている。 
   また、「死亡推定時刻」はテレビ化されている。
                                                         
                                                                             
死亡推定時刻
 

★★★

 

 冤罪が作られる過程が語られる。
 作者が法曹家なので真実感がある。
 働かずぶらぶらしている男は、小遣い稼ぎに山菜を採りに入った場所で、
 学生鞄と死体を発見。鞄に入っていた財布から金を奪ったために、殺人の
 容疑者となってしまう。鞄や死体に付いた男の指紋から、警察は犯人と確
 信。絵に描いたような手順で、男に恐怖と諦め、絶望感を与えて自白調書
 を作成してしまう。(このくだりはちょっと極端だが)
 一審の弁護士は全くいい加減。私設にも拘わらず、何一つ被疑者の主張に
 耳を傾けず、したがって調査もせず、無期懲役を願っただけ・・・。
 再審に熱意を持つ国選弁護士によって、次々と暴き出される疑問点。冤罪
 を確信するが、判事も検事も全く耳を貸さない・・・。
 「読者はこの男が無罪であることを知っているから・・・・。
  もし、何も知らなかったら、前科2犯、鞄と死体に指紋・・自白・・
  こんな男を無罪だと思うだろうか?」
 作者が終盤に書いているこの言葉が重い。
 読後感は清々しくないが、重いテーマを持つ秀作である。
-------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)  
 山梨県で地元の有力者の一人娘が誘拐される事件が起こった。
 渡辺土建の社長・渡辺恒蔵の一人娘美加が、中学校から帰宅の途中何者
 かに誘拐された。
 美加の母親・美貴子が電話で受けた犯人からの身代金要求は一億円。
  「警察に言ったら娘の命はない」という常套句はなかった。
  地元の有力者である恒蔵の通報によって、直ちに県警本部と事件発生署
 との合同捜査本部が設置された。翌日、犯人から美貴子に連絡が入る。

 高速道路から身代金を投下せよと言う指示だったが、警察は美貴子に身代
 金を投下させず…。
 警察の指示に従った結果、身代金の受け渡しは失敗。少女は死体となって
 発見された!
 県警は、遺留品に付いていた指紋から、無実の青年を逮捕。執拗な揺さぶ
 りで自白に追い込んでしまう。有罪は確定してしまうのか?そして真犯人は?
 犯罪発生→捜査→裁判の実態を、現役弁護士である著者がリアルに描く。
 スリリングな冤罪ドラマの傑作。 


 


 嶋中 潤
    
        
1961年 千葉県生まれ 東京工業大学大学院修了
      リクルートグループを経て、宇宙関連企業で、
      国際宇宙ステーション関連業務に従事。
      現在、宇宙関連団体に在籍中。
1999年 第3回日本ミステリー文学大賞新人賞に応募し続け、
      8回目の2013年、晴れて「カウントダウン168」で受賞
                  (代理処罰に改題)
                                                         
                                                                             
代理処罰

 

 日系ブラジル人の妻・エレナが交通事故を起こす。そして、エレナはそのまま
 ブラジルに逃げ帰ってしまう。
 主人公・岡田は高校生の娘と、心臓手術をした5歳の息子を自分の母親に
 預け働いている。
 その娘が突然誘拐される・・。
 犯人の要求は、母親に2000万円を持参させろというもの。
 岡田は失踪したエレナを探しにブラジルへと旅立つ。
 その辺りまでは緊迫する感じだったが、ブラジルでの捜索、エレナとの出会い
 ・・・ちょっとサスペンス調が薄れる。
 謎の男女の登場・・・岡田の帰国・・・このあたりから、何となく劇的な展開が
 期待されなくなった・・・。
 わりと意外な解決に終わるが、驚愕の事実、謎ときにはもう一息。
 エレナの家族への想いなど、涙を誘わないわけではないが今ひとつ感動には
 至らなかった。
 無難な感じにまとまった一冊という感じである。
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内容(「BOOK」データベースより)  
 選考委員をついに落とした、感涙の家族愛ミステリー

 最愛の娘が誘拐された。
 サラリーマンの岡田に要求された身代金は二千万。
 息子の心臓移植、妻の謎めいた失踪……絶体絶命の父親に迫るカウントダ
 ウン。
 何度も最終候補に残りながら受賞を逃してきた著者の渾身の受賞作! 
 誘拐された最愛の娘。救えるのは、ブラジルに消えた妻なのか!?絶体絶命の
 父親、絶望のカウントダウンが始まる!
 第17回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。


 加納 朋子
    
        
1966年 福岡県北九州市出身。文教大学女子短期大学部文芸科卒業。
      夫は推理作家の貫井徳郎。
      日常の謎」を解くストーリーが特徴的である。ファンタジー風の連作短編集が多い。
1992年 「ななつのこ』で第3回鮎川哲也賞受賞。
1995年  「ガラスの麒麟」で第48回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)受賞。
1995年 「掌の中の小鳥」で第17回吉川英治文学新人賞候補。
2009年 「少年少女飛行倶楽部」で第25回坪田譲治文学賞候補。
                                                         
                                                                             
ななつのこ

★★★

 

 異色のすごい作家に出会えて嬉しい。
 鮎川哲也賞をとった作品ということで、ミステリーとサスペンスを想い浮かべたが
 全く違う。童話と日常生活に中に潜む「謎」を、ひと味違う観点から解き明かして
 みせる・・・その手法が冴える。
 7つの短編の中に、童話の中の謎ときと、主人公入江駒子の周りに起こった謎、2つ
 の謎解きがあって面白い。

  スイカジュースの涙
   ・はやての畑からスイカが盗まれる。夜を徹して見張りをしたのに。いつの間に・・
    道に点々と付いた血?の跡 スカイジュース?
  モヤイの鼠
   ・金色の鼠の置物が消えた?
   ・ギャラリーに飾った絵を見て画家が激怒・・しかし、オーナーはあっという間に
    絵を取り替えた・・どうやって/

  一枚の写真
   ・はやてたちが集まり夏休みの宿題の絵を描こうとしたら「青」の絵の具が消えていた
   ・小学生の時、駒子の写真を取った?友達から写真が送り返されてくる。今頃何故?

  バスストップ
   ・水色アゲハ、貴重な新種の蝶佐賀市に夢中になる子供たち。一つだけあった水色
    アゲハの標本をありが食い散らかす・・。
   ・停留所わきの米軍住宅地地区に入り込み、老婦人は何をしていたのかる

  1万2000年後のヴェガ
   ・和歌のやり取りをしていた老人は老婦人に求愛の歌を贈る。竹の下枝に短冊を
    結びつけたのだか、返歌がこない・・。
   ・デパートの屋上からプロントサウルスがはるか離れた保育園に移動した・・・。
  白いタンポポ
   ・はやてのお父さんが子供のころ、おもちゃの銃を友達に盗られた。
    それを綾乃さん(いつもはやての謎を解いてくれる人)は、紫に咲く紫陽花を探す
    ようにいう・・
   ・友達と馴染まない「真雪」をキャンプで世話した駒子。真雪はタンポポを白く塗る。
    キャンプ終わりの朝、アルミニウムの器がなくなる。来年佐久花の色は・・・。
  ななつのこ
   ・猫の和尚さんから子猫を貰ったはやて。しかし、はやての子猫も他に貰われてい
    った子猫たちもいっせいに姿を消す。7匹全部・・・。
   ・歯医者の窓からみたベチニュアは二個だったのに、瀬尾さん(バス停以来たびた
    び会う)と喫茶店で見たら4個だった。
    真雪と母親に合う。母親は「ななつのこ」のイラストレーターだった。
    プラネタリウムの中で真雪が行方不明になる。分かれていたお父さんにあ会うだ
    ったのに。
    「ななつのこ」の意外な作家(駒子に手紙でなぞ解きをしてくれる)の正体も明ら
    なる。
    プラネタリウムでアルバイトをする瀬尾が語る星の伝説の話も興味深い。
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内容(「BOOK」データベースより)  
 表紙に惹かれて手にした『ななつのこ』にぞっこん惚れ込んだ駒子は、ファンレターを
 書こうと思い立つ。
 わが町のトピック「スイカジュース事件」をそこはかとなく綴ったところ、意外にも作家
 本人から返事が。しかも、例の事件に客観的な光を当て、ものの見事に実像を浮かび
 上がらせる内容だった―。
 こうして始まった手紙の往復が、駒子の賑わしい毎日に新たな彩りを添えていく。
 第3回鮎川哲也賞受賞作。 

てるてるあした  アマゾンのカスタマーレビューを見ると評価が高いが、今ひとつ釈然としない作品だっ
 た。
 金に全くルーズな両親が破産寸前で夜逃げ。照代は母が遠縁だという鈴木久代を訪ね
 て、「ささら」の町にやってくる。高校合格も何もかも無くして。
 
 そして、サヤさんや三婆に会う。(そのうちの一人が元教師の久代)
 久代は照代に冷淡で自分で何でもできるようにしろという。暗澹とした気持になる照代
 だが、サヤさんや街の人たちに助けられ次第に自分を見つめなおしていく。
 そして、久代の病気の悪化。

 しかし、後半の展開はどうもしっくりとしない。照代の前に現れる女の子の幽霊。
 その正体は驚くべき人だった。そして、母と久代の関係も親戚ではない・・・。
 この展開は何だろう。読後感がすっきりしない。照代が久代亡き後、しっかり自立してい
 くであろういう思わせる点は良いのだが。

 ちょうど映画「ささらさや」を見た。舞台が「ささら」で三婆やユウタが出てくるので、なんだ
 ろうと思ったら、この映画の原作とこのま本は姉妹編になっているらしい。
 映画が素晴らしい感動作だったので、この違いにも驚かされた。
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内容(「BOOK」データベースより) 
 親の夜逃げのために高校進学を諦めた照代。
 そんな彼女の元に差出人不明のメールが届き、女の子の幽霊が現れる。
 これらの謎が解ける時、照代を包む温かな真実が明らかになる。
 不思議な街「佐々良」で暮らし始めた照代の日々を、彼女を取り巻く人々との触れ合い
 と季節の移り変わりを通じて鮮明に描いた癒しと再生の物語。 


 


 吉村 達也
    
        
1952年 東京都出身。一橋大学商学部卒。
      ニッポン放送制作部、扶桑社出向。書籍編集長勤務を経て、
      1990年より作家専業。
      志垣警部+和久井刑事シリーズ、烏丸ひろみシリーズ
      OL捜査網シリーズ、軽井沢純子シリーズなどのシリーズも
      のをはじめ、手がけた推理小説は膨大な数にのぼる。
                                                         
                                                                             
青荷温泉

殺人事件

 

 以前仕事で行っていたところに近いので期待して読んだ。
 うーん!
 フィクションの典型か。

 見合いの相手が、雪だるまの中で死体で発見されるという こと自体、ありえ
 ないのだが、犯人が宿泊者の中にいないというのも不自然。
 なにしろ冬の青荷は絶海の孤島のようなところだからである。

 見合いの一方の相手は警視庁捜査一課の刑事。
 上司の警部と、見合い場所の青荷温泉に出かけるという設定も本当の作り物
 という感じ。 

 事件は複雑この上なく絡み合っている。
 殺される愛沢雪子は、かつて3人の男と付き合っている。
 3人は幼馴染でとても親しい。そして、雪子に手痛い目にあっている。
 雪子と結婚した五木田は、生まれた子どもが黒石で何者かに殺されるという不
 幸を背負っている。

 犯人は誰なのか。雪子の父は尊敬を集める刑事だったが、雪子を虐待したの
 ではないかという噂もある・・・。 

 そして、謎の中年婦人。
 最後まで新事実が出てきて、退屈はしない・・・。
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内容(「BOOK」データベースより)
 和久井刑事のもとへ、“三島のおばちゃん”野中貞子からお見合い話が舞い込
 んだ。
 お見合い相手・愛沢雪子の人柄がいいのはもちろん、彼女が美人であり、指定
 してきた
 お見合いの場所が、温泉好きの志垣にとって憧れの「青荷温泉」であったことか
 ら、志垣と貞子はこのお見合いをぐいぐい推し進めた。和久井は一旦乗り気にな
 ってこの話を受けるものの、ノリノリのふたりとは対照的に、終始漠然とした不安
 を感じ続ける。

 お見合いの当日、吹雪の青荷温泉で、和久井たちは雪子と対面した。
 雪子のあまりの美しさに、和久井は本気で結婚を現実的なこととして考え始め
 ていた。
 しかし、温泉につかり、四人で夕食をとりながら話を進めるうち、雪子の口から語
 られたのは、悲惨な過去の事故。楽しかったはずの宴席は静まりかえり、それ
 ぞれが部屋で眠れない夜を過ごした。
 翌朝早く、外の騒ぎで目覚めた和久井たちは、宿の前に現れた巨大な雪だるま
 を目の当たりにする。
 そして、その中から現れたのは、お見合い相手の雪子の死体だった!!

 事件現場は、携帯もネットもつながらない雪に閉ざされた温泉宿。犯人はどうやっ
 て雪子を呼び出し、一夜にして巨大雪だるまを作り上げたのか? 驚愕のトリッ
 クとは……。
 志垣&和久井刑事の温泉シリーズ。
 『八甲田山殺人事件』 『「人間失格」殺人事件』に続く、青森の秘湯三部作のラ
 ストを飾る衝撃作。