豊 田 有 恒
              
 思い起こしてみれば、この作家の本を読み始めたのは何時のことだろう。

 遙か昔・・・・・八戸市に住んでいたことがある。根城小学校の近くで、風呂屋も
あった。そこの下宿から大通りに出て、スケート場のある長根リンクの方に向かう
辺りに小さな書店があった。ある日スケート場からの帰り道(この頃暇をみてよく
スケートに行った。)ふらりと入ったこの書店で、正面の本棚に並んでいた一冊の
本を手に取った。、それが「陸奥の対決」である。
 その作者が誰あろう、豊田有恒。
 陸奥という青森に関係のある題名と、なにやら面白そうな帯の宣伝文句に魅せ
られてすぐにその本を買ってしまった。

                  
 読み始めてその日の深夜まで、一気に最終ページまで読んだような気がする。
それ程「陸奥の対決」は当時の私に衝撃を与えた、魅力的な本であった。
 東北に住む私に、「蝦夷(えみし)」の血を呼び覚ましてくれたこと・・・・
 歴史の中に自在に仮説を持ち込んで、その解釈を楽しむという分野があること・・・・・・・
読書の楽しみを教えてくれた作家、それが豊田有恒である。

 豊田有恒は、手塚治虫のプロダクションにいたこともあり、SF作家であるが、古代史を書く時は構えが違う。
東京大学中退という能力?を駆使して古典の資料等を熟読したうえ、未知の部分について想像を働かせて書く
ため、単なる絵空事に止まらない。特に騎馬民族征服説を取りいれた古代の大和と蝦夷を描かせたら右に出る
者はいない。聖徳太子、天武天皇なども面白い。
 この作家と出会えたことで私の読書志向が決まったのかもしれない。幸運であった。以来、豊田有恒が書いた
歴史物(特に古代史)を次々と読んだ。 豊田有恒の本はどれも説得力がある。ほとんどお勧め・・・
 
 最近この作家は韓国一辺倒のような感じである。

     
陸奥の対決
 小説・蝦夷征服史
 騎馬民族征服説を大胆に取り入れて、古代の東北に雄大な闘いのロマンが展開させている。
 西日本を統一して更に東進する騎馬民族の国家。陸奥に産出する黄金を求めて移り住む大
和の民人。
 渤海馬に乗り、都を捨てて陸奥の原野にロマンを求めてやってきた一人の武人、大野雄麻
呂が見た和人の侵略と、大酋長アテルイの勇気ある抵抗をダイナミックに書き上げている。
                                                                                                        (解説から)
倭王の末裔
小説 騎馬民族征服説 
 卑弥呼・神功皇后・応神天皇と続く古代の英雄群像=倭王の末裔達の波乱にみちた生涯を
描き日本国家誕生の謎に光をあてた雄大なロマン (本帯から) 
持統四年の謀者
小説・古代王朝
古代日本王朝の謎とロマン
 騎馬民族征服王朝が大和に統一国家を築く以前、畿内に割拠する大王(おおきみ)たちが
勇壮に飾った盛衰のロマン(本帯から) 
雪原のフロンティア
(陸奥の対決第二部)
 和人の侵略に対して蝦夷の大酋長アテルイの抵抗の狼煙があがる8世紀の陸奥。
 降りしきる雪の中、秋田城を目指して愛馬を走らせていた元近衛の武人大野の雄麻呂は、
渤海国の大使の姪である美貌の公主(ひめ)呂銀英(ルーインイン)にめぐりあい、渤海国か
らの贈り物である稀代の珍宝白熊の毛皮を京飾(みやこ)に送りとどけるよう頼まれた。だが、
公主と旅を続ける雄麻呂を待ち受けていたのは、蝦夷の大軍団だった。「陸奥の対決」完結
篇。 (解説から)
知謀の虎
猛将・加藤清正
 日・韓・中の資料を駆使して描く長編歴史小説。
 点火の英雄か、侵略の鬼か・・・・・・初めて書かれた名将の真実。 (解説から)
崇峻天皇暗殺事件  臣下によって殺された最初で最後の天皇・・・・・・崇峻天皇。古代史最大の謎に聖徳太子が
挑む。                                          (解説から)  
聖徳太子の反乱  時は6世紀。用明大王の死後、大和では蘇我氏と物部氏の権力抗争が激化していた。排
仏派の物部氏は穴穂部王子と結んで蘇我馬子を滅ぼし、王子を大王に、みずからは大臣と
なり仏教徒狩りを始めた。彼らにとっての脅威は用明大王の子・厩戸王子。暗殺を企てる大
王とかつての妻・刀自子妃、そして、物部氏の手からかろうじて逃れた厩戸王子は、仏教徒
とともに大王を倒すべく立ちあがる・・・・・・・・。壮大な古代ロマン。       (解説から)
倭の女王・卑弥呼
小説邪馬台国第一部
 北筑紫一帯を治める騎馬の民の王若卑狗と、漢の血をひく母との間に生まれた少女卑弥
呼は十一才の時に両親を殺され、復讐の想いを抱きつつ、逃亡の旅に出た。
 騎馬民族の誇り、一頭の馬、一振の真剣(まがね)の剣、そしてもって生まれた巫女の超
能力ーそれだけが少女卑弥呼の財産だった。
 該博な知識と精密な推理をもとに、若き日の卑弥呼の恋と冒険を描く古代SF。
                                                                                                    (解説から)
親魏倭王・卑弥呼  かつて叔父高卑狗によって父母を惨殺された卑弥呼も、いまや北九州の群小国家を統べ
る邪馬台国ノ女王となっていた。
 卑弥呼の次なる目標は父母の国朝鮮へ渡り、鉄製武器と馬を入手することだったが、また
彼の地にいるであろう叔父への復讐と幼児父母に聞いた漢文明への憧憬もあった。「倭の
女王・卑弥呼」に続き海原を疾駆しながら親魏倭王として活躍するシャーマン卑弥呼。新しい
視点で挑戦する古代SF。                              (解説から)
長屋王横死事件  奴の名は、大伴小虫。10才の時から長屋王に仕えてきた。そして今、すべての真実を明
かそうーーー。天武天皇の孫で聖武天皇即位とともに左大臣となった長屋王は、729年に
密告が原因で自害した。だが、藤原氏の陰謀とされるこの「長屋王の変」に真の黒幕が存
在した。歴史の闇に迫る古代史ミステリー。                 (解説から)
騎馬民族の思想  いわゆる「騎馬民族征服説」が江上波夫によってはじめて提唱されたのは、昭和23年で
あった。
 当時、この学説は、学会においては、黙殺あるいは一笑にふされた。だが、騎馬民族征
服説が唱えられてから四世紀以上もたった現在、この学説は多くの支持を得て、無視するこ
とは出来なくなっている。
 騎馬民族征服説の発想と根拠とを懇切にのべる本書は、古代史に造詣の深い著者なら
ではの、最高の入門書だ。                             (解説から)
モンゴルの残光  子ども向けのSF物かなと思っていたが、全然違っていた。
 豊田有恒の歴史観が余すところなく語られる、歴史ファンには必読の一冊である。

 【解説から】
  あの強大をほこったモンゴル帝国。もし、日本や西欧への進出が成功裡に終わっていた
    なら・・・。
  物語は元が世界を支配するジンギスカン紀元811年に始まる。虐げられた白人の怒りは
  激しい  抵抗運動となり、主人公シグナルトは白人支配世界を創るべく、タイムマシンで
  時を駆ける。彼の眼前を流れる巨大な歴史の姿を、若々しい筆致で描く著者の処女長編。

日本人と韓国人  久しぶりに豊田有恒の本を読んだ。
 ネット上で称賛していた方がおられたので、図書館から借りた。
 新しい本ではない。1985年発刊である。
 この本に書かれていることはちょっと古いが、今の時代に当てはまる部分もあると思われる。
 (これまでも作者が言ってきたことである。)一読する価値のある本である。
  内容は
   ・緊張の影が漂う街
   ・食事の作法、ここが大違い
   ・友達の友達は、友達
   ・韓国人が抱く、日本人への「恨」
   ・統治した側、された側
   ・南と北、日本人はどう見すえるべきか
   ・反日かに克日へ
   ・歴史を生きる韓国人、忘れて平気な日本人
   ・日本語と韓国語を比べて
  相変わらず歯切れがよく分かり易い。
 歴史を忘れる日本人、歴史を生きる韓国人(カバーの言葉から)
  日本人にとって、歴史は過去のもので、文字通り過ぎ去った事実でしかないが、韓国人
  にとっては、その歴史が今も生きている。ここで日韓の断絶が起こりやすい。
  日本から韓国への先端技術の移転問題で、韓国てだは、かつて日本に様々な文化を伝
  えてやったではないか、という論調が生まれた。それを聞くと、日本人としてはうなずけな
  い気持ちになる。なにも1500年前も昔の話をもちださなくてもいいじゃないかといいたくな
  る。しかし、韓国ではそれが時効にならないのだ。

その他に読んだ豊田有恒の本


英雄・天武天皇 邪馬台国作戦 火の国のヤマトタケル 韓国の挑戦 常識と非常識
聖徳太子の悲劇 古代史の謎 出雲のヤマトタケル 無窮花作戦 イワシの頭

   

 

  
井 沢 元 彦

 

 井沢元彦と豊田有恒、そして高橋克彦。この3人の作家の登場で私の読書 
傾向が決まったと言えるかもしれない。
 古代から近世まで、自在に推理力を駆使して、読み手を引きずり込むような
本を次々と書いてくれた。
 井沢元彦は、もともとは歴史ミステリーのなぞ解きから入ったが、他の二人と
比べると幻想やSFだけにに走らず、歴史をきちんと見据えて独自の解釈をして
くれるところが魅力である。
 歴史物は、当初は天智天皇や大海人皇子(天武天皇)、壬申の乱などが得
意な分野であったようだが、次第に時代が広がり、歴史全般についてコメントす
るようになった。最近は逆転の日本史がシリーズ化して発行されているが、こち
らの方はたまに書店で立ち読みする程度である。
                  
 最初に呼んだのは、義経幻殺録である。初めて呼んだ本がその作家の印象を決定づけてしまうことが多いが
この作家に、この本でめぐりあえたのが幸運であった。(2冊目で作家を意識したのだが)
              
Gen

「源氏物語」秘録

  角川書店

 源氏物語1000年の謎に挑戦!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 日本史の根底を覆す 書き下ろし歴史ミステリー
 心中か、殺人か?工作する謎を追い、歴史を遡る若き国文学者の苦悩と推理。独自の考証
 で描く著者渾身の長編推理。   (帯の紹介文から)


  角川源義を主人公にして探偵役?を演じさせているのは面白い。
  これに、折口信夫、柳田国男を登場させて、和辻哲郎の後期挿入論(源氏物語多作論者)
  説について論じていく・・・。矛盾点の主なものを二つあげると、
  ・第一巻桐壷の巻で始まった物語であるのに、第二巻の帚木(ははきぎ)でも「出だし」の
   ような書き方をしている。
   ・登場人物が突然何の伏線もなく出てくるのに、次の巻ではまったく登場しない。また、源
   氏の近くにいる人物なのに、特定の巻では全く登場しないというようなことがある。


  ミステリー仕立てのこの物語は、折口信夫から見せられた一通の手紙から始まる。
  「自分の家に伝来している『源氏物語』を一度みていただけないか。その写本というのは実
  は17巻しかない。それは散逸したからではない。・・・・・」
  奈良の吉野郡三之村(さんこう)に住むこの手紙の差出人の女性を訪ねて、源義は友人の
  榊増夫とともに吉野の山深く分け入って行く。
  そして、南朝の末裔である貴宮田鶴子と出会う・・・。
  物語は展開して、
  田鶴子と榊の駆け落ち。そして起こる謎の心中事件。
  その背後にあるものを追いかける源義は、榊が貴宮家に伝わる「三種の神器」をアメリカに
  持ち出そうとしたことを知る。このあたり、井沢元彦の太平洋戦争についての持論も語られ
  る。
  結局、二人は日本のためにならないと判断され、憲兵隊に抹殺されたらしい・・・。
  この物語の発端となった源氏物語17巻の写本は、闇の中へと消えてゆき、真相は不
  明・・・・。
義経幻殺録  源義経をジンギスカンになぞらえる説は昔から有名である。(高木彬光など)
 しかし、清朝の祖に当てはめてみせたのは、この作家がはじめてではないだろうか。これは
 面い。探偵役を若き日の芥川龍之介にして、歴史の謎に挑ませる・・・・。わくわくするような
 一冊。
 この本を読んでいるときは作者のことを全然考えなかった。(井沢元彦が何者かわからずに
 読了)しばらくして、猿丸幻視行を読んでも同じ作家だとは思わなかった。(この頃は作家名
 に無頓着だったようだ)
 ある日、あれ!という閃き?から、この本が井沢元彦の作とわかったのである・・・・・。
猿丸幻視行   猿丸太夫、百人一首にも登場するこの伝説の歌人の正体は?「いろは歌」にかくされた千年
 の秘密とは・・・
 目前に展開した友人の悲劇的な紙のなぞを解き明かす若き日の折口信夫の前に、意外な
 事実が次々に姿を現していく。暗号推理の楽しさも満喫させるスリリングな長編伝記ミステ
 リー。江戸川乱歩賞受賞。                               (解説から)
 民俗学者として名高い折口信夫を探偵役にして、その若き日の情熱を取り込んで筋立てを
 考えいるところが素晴らしい。伝奇の里の女性との出会いを描いて、生涯独身を通した折口
 博士を好意的に描いている、その心遣いが嬉しい。
 26才の著者が脚光を浴びるようになった一作である。
六歌仙暗殺考  不可解な心中事件から始まった連続殺人事件の謎に挑む、名探偵・南条圭の推理。殺害現
 場には僧遍照、在原業平といった六歌仙が、つねに残されていた。
 犯人を追う鍵は六歌仙の秘密にあるのだろうか。最も現代的な舞台設定と懐かしい探偵の
 世界。古典と現代を結び付ける、井沢元彦の歴史ミステリー。   (解説から)
隠された帝  1300年間埋もれていた数々の謎と真相。誰が?何故?天智天皇を殺したか? 
 現代人が歴史上の謎に挑戦するという点では、やや物足りないが、著者が資料を丹念に調
 べて書き上げたお勧めの一冊。
黎明の反逆者  父を異にするふたりの皇子中大兄皇子と大海人皇子との間にくすぶる私怨・確執。
 それはやがて天皇家を二分して古代史最大の争乱となって火を吹き上げていく。
 壬申の乱の背後に秘められた歴史の真相に挑む一大叙事詩。   (解説から)
 舞台も登場人物も古代。著者快心の一作である。   
天皇になろうとした

将軍

  足利義満を再認識させられた貴重な一冊。
 逆転の日本史の前段階的に書かれたと言えそう・・・。
 井沢元彦が得意の歴史推理を駆使して、能楽師世阿弥、金閣寺、大文字焼き・・・と、それ
 ぞれの意味するものを関連付けて、歴史の闇に灯りをつけてみせる。
 義満が天皇を越えることを望んで、そして、どうなったか・・・・・。
降魔の帝王  「娘さん、あんたには高貴な方の霊がついておる、闇の中の帝王が」みずきを見るなり、高名
 な霊能者は叫んだ。見知らぬ土地の松の下に埋められたドクロが呼んでいる。みずきはそん
 な悪に毎晩うなされていたのだ。真偽を確かめるべくドクロ探しに出かけて驚いた。実際にそ
 れはあったのだ!しかし警察は待っていたかのように動き出しみずきを逮捕・・・・・・・。
                                           (解説から)
 井沢元彦のこの種の小説は、どうも今一歩である。以下にも同じものがある。
卑弥呼伝説  「ヒミコは殺された」という謎めいた言葉をのこして古代史研究言えが密室で殺害された。
 犯人は誰か?動機は何か?トレジャー・ハンターである永源寺峻が、友人の殺人事件の真
 相に迫る。
 その鍵となるのは邪馬台国と卑弥呼。調査のため、峻は九州へと飛んだ。
 −−古代史を包む謎のペールがはがされるとき、すべての真実が明らかになる。迫真の長
 編歴史ミステリー (解説から)
陰画の構図  人気女優・倉本亜紀子が死んだ。ディレクターに自殺の予告電話があったこと、睡眠薬をの
 んだうえ、部屋が密閉状態でガス栓がひねられた状況から、警察は自殺とだんてい。
 だが、結婚を控え、幸せに満ちていた彼女の自殺に疑問を抱いた昔の恋人・立花透は、彼
 女の妹の由紀子らとともに真相解明に乗り出す。意表をつくトリックとアリバイくずしーー。
 長編ミ ステリー。                                   (解説から)
葉隠れ三百年の陰謀  化猫騒動で有名な佐賀鍋島藩。名君として知られる藩主閑痩(かんせい) が化猫に襲われ
 るという事件が起こった。化猫は龍造寺高房と名乗り、三百年前に絶えた龍造寺家に封土
 と政治を返せと言ったという。しかも近習の者が喉笛をかみちぎられて死んだのだ。閑痩が
 特に目をかける若侍・大隈八太郎が事件の探索方を命ぜられたが、再び化猫が現われ、ま
 た犠牲者が!? (解説から)     大隈重信を探偵役にしたところがよい。
落陽城の栄光 (SF)  記憶をなくとた男が漂着した先は、霊鳳(れいほう)という見知らぬ時代の浜辺だった。そし
 て、男は「本能寺の変」以降生き残った゛太閤信長゛と謁見を果たすーーーーー。
 生き長らえた織田信長が見据えた野望とは? 明智光秀謀反の真相とは何か、信長を狙
 う黒幕とは一体誰か? 戦国最大の事件である「本能寺の変」を大胆に読み解く長編歴史
 ミステリー。                                      (解説から)
顔のない神々  敗戦まぎわ、大日本帝国の復活を夢見る軍部中枢は、莫大な財宝と共に神聖の史書を台湾
 山中に封印していた。われわれがもっとも知りたかった、建国の謎を気鋭の作家・井沢元彦
 が解き明かす!(解説から)
義経はここにいる  ヨシツネに殺される・・・佐倉財閥の跡を継ぐことむになっている森川義行からの救いをもとめ
 る、謎の電話。そして、源義経の悲劇に符合する殺人事件が起こる。連続して起こる殺人事
 件の謎と、義経伝説、平泉の金色堂の秘密に挑戦する古美術研究家の名探偵・南条圭の
 巣入り新考証で描く、傑作歴史ミステリー。 (解説から) ・・・・・ それほどでもないと思う。
友情無限  久しぶりにこの作家の本を読んだ。
 文体が平易で、中学生くらいでも読める感じがした。こんな書き方をする作家だったかと思っ
 た。
 梅屋庄吉という「孫文」の経済的援助をし革命を全面的にバックアップした人物の物語であ
 る。長崎を出て身一つで中国、東南アジアに渡り、自在に生きた梅屋庄吉は孫文の中国を
 愛する心に触れ、支援を決める。
 内容(「BOOK」データベースより)
 辛亥革命の中心人物であり、「中国革命の父」と謳われた孫文。映画事業で得た財を元に、
 孫文を物心ともに支援し続けた梅屋庄吉。見返りを求め ず、アジアの発展に身を捧げた2
 人の男が描いた夢とは―。変革を予感させる今、必読の歴史ドラマ。 

  

 
    

 高 橋 克 彦
 
 
 「炎(ほむら)立つ」 がNHKの大河ドラマに登場した時、言葉にできないほどの
感動を覚えた。ついにこの日が来た。生きていて良かった・・・・・・。(ちょっと大袈
裟?) ようやく東北が脚光を浴びる時代が来たのかと感無量であった。しかも、
 原作が高橋克彦とくれば、期待は膨らむばかり。
 1年間続いたこの大河ドラマは期待に充分応えるものであった。一回も逃さず
見た。用事がある日は必ずビデオに録画してみた。(大河ドラマは好きでよく見る
がここまで徹底してみたドラマはない。)
 豊田有恒がこだわってくれた「蝦夷」、この虐げられた人々の知られざる真実、
その人間的な素晴らしさ、民族の魂・・・・・・・これを描き切ってくれた高橋克彦に
感謝するばかり。

 意外・・意外・・「総門谷」が高橋克彦だったとは・・・これも晴天の霹靂であった。

                        
 総門谷  この本の作者が高橋克彦だと気がついたのはずっと後。井沢元彦の義経幻殺録の場合
以上に、作者を意識しないで、乱読を続けていたせいであろうか。この頃読んだ半村良の本
とごっちゃになって、「壮大なSFの世界」に引きずり込まれて右往左往するばかり・・・・・・・。
いったいこの世界はなんなんだろう・・・・・・と思いながら、ひたすらその結末を知りたくて読み
進んでいた。
 本帯には次のように書いている。
 UFO、ナスカ地上絵、極移動、インカ脳手術、ムー大陸、死後復活、ノストラダムスの大予
言・・・・・・・・世界のあらゆる超常現象を呑み込む「絶対悪」と戦う若き超能力者・きり霧神顕!
                                             (上巻)
 復活した12死徒を綴る総門とは何者?空洞なる月にすべての秘密が隠されている。
地球征服を企てる総門谷の野望と、友を殺され復讐の鬼と化す超能力者・霧神顕!
                                             (下巻)
 岩手の早池峰山に登らなくては・・・・・・・今でもそう思っている。
 写楽殺人事件    江戸川乱歩賞を受賞したこの本が、「はじめて読んだ高橋克彦の本」だとずっと思ってい
た。この本は歴史ミステリー作家として、高橋克彦が精魂込めて書き上げたものである。
 参考文献が30冊近く記載されているが、文献を丁寧に漁ってその「隙間」に自分の推理と
解釈を押し込んだ力作である。
 写楽を知りたい人は必読の一冊。写楽を秋田の人とする設定がなにより嬉しい。
 北斎殺人事件  北斎の美術館で巨大軸装の絹本を見ているところから始まる。
 興味深い人物、北斎。その全容に迫る。
 歌麿殺贋事件  歌麿にアリバイがない。写楽が活躍した11ヶ月間。歌麿はどこで何をしていたのか?なぜ
作品を発表しなかったのか?やはり、歌麿が写楽だったのか。
 世界一の美人画絵師をめぐる現代の罠と、歴史の謎に挑む塔馬双太郎の冴え渡る頭脳。
大きな仕掛けでまたも読者を唸らせる高橋ミステリー。        (解説から)
 南朝迷路  伝説が殺人を呼ぶ。
隠岐・吉野・長野・青森・・・南朝伝説の地を繋ぐ殺意の罠!事件の鍵を握るのは「幻の乾坤
通宝」。  (解説から) 
 「黒石大川原の火流し」が登場するのが嬉しいが、高橋克彦の作品としては、今一歩。
 倫敦暗殺塔  明治18年のロンドンは日本ブーム。生活をナマで見せる日本人村が好評を博す。一方、
明治政府では、井上馨、伊藤博文、山縣有朋らが密謀を。そこへロンドンで日本人への殺
人が起きた。政府と日本人村にどんな接点があるのか?
 絶妙で壮大な構成の歴史ミステリー。 (解説から) 
 この時代背景と、場所(ロンドン)がいい。誰かが書いて欲しかったこの「幕末のヨーロッパ
に居た日本人」を高橋克彦が描いてくれたのが何とも言えず嬉しい。
 星の塔  7つの短編集。山奥の古い時計塔に隠された秘密を巡る表題作の他に、現代に甦る東北
の奇談7話。   (解説から)
 蒼夜叉  青森のキリスト伝説の地で、男が十字架で首吊り死。それを冷然と眺め、闇に消えた謎の
少年。
 さらに京都、香川と怪事は続き、例の美少年が現れる。これらの地には必ず怨霊伝説が存
在した。怨霊の跳梁、さらにソロモン秘法の謎を秘め、話は核心へと!壮大構想で興奮を呼
ぶホラー傑作。  (解説から)   ここまでの絵空事にはちょっとついていけない・・・・。

 
  火  城・・・

  佐野栄寿(後の常民)、日本赤十字の生みの親である。
  事典によれば、以下のような経歴である。

   ・1855年  長崎遊学
    ・1867年  パリ万国博覧会に出張して産業・軍事を視察
   ・1870年  兵部少丞となる。工部少丞となる。
   ・1873年  弁理公使としてイタリア、オーストラ ラリアに在勤、ヴィーンの万国博覧会には
           副総裁として出勤。
   ・1880年  元老院議官から大蔵卿  
   ・1882年  元老院議長 枢密顧問間
   ・1892年  農商務大臣

   この間、77年、西南の役に博愛社を創設ね官賊の区別なく傷病者を救療。これが87年、日
   本赤十字社と改称した。

   ・1887年 子爵。 日清戦争後、救護事業の功によって伯爵に進んだ。

   この佐野栄寿が幕末の攘夷・開国に揺れる時代に、才能ある人物を佐賀に集め、産業・文
  化の発展に力を注ぐ。この本は若き日の佐野栄寿の天衣無縫の生き方を描いている。
  **********************************************************************
  
    泣くということは一つの才能である・・・・・という書き出しで始まるこの長篇。
     佐野栄寿は、 その情熱と得意の涙を駆使して、からくり儀右衛門(田中近江)など、当時の
  進んだ技術や才能を持った人物を次々と説き伏せ、佐賀に集める。そして、ついに藩を動かし
  て蒸気汽船をはじめ、西洋の科学技術の習得に取り組む。
   「佐賀がこれからの日本の行く末を担う」という壮大な決意で臨むのである。
  揺れ動く時代に惑わされることもなく、定めた目標に向かって歩き続ける・・・・。

   文中には、井伊直弼の懐刀と言われた長野主膳、吉田松陰、佐久間像山など、時代を象
  徴する人物も多数登場する。
   高橋克彦の力作といって良いだろう。

かげゑ歌麿
 水谷豊が主演でテレビドラマにもなっている。
 スリル、痛快、歌麿の優しさが漂う秀作。
 これまで5冊のシリーズものが書かれてきたようだ。
 それらを全部読んでいると、登場する人物のことがよくわかるらしい。
 この一冊だけだったが大体の人間関係はわかった。
  歌麿が関わった女や娘に事件が起こり、歌麿は意外な力を発揮して戦う。
 盗賊の一味ともなったことのある娘だったが、父としての歌麿の優しさに気づき、絵に生きる道
  を見出そうとする。
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 内容紹介などからの引用
 このシリーズは、北町奉行所吟味方筆頭与力「千一」こと仙波一之進と、彼を取り巻く面々が
 活躍する話で、本書では、歌麿に関わる話が中心となって展開していきます。

 これまで、「だましゑ歌麿」、「おこう紅絵暦」、「春朗合わせ鏡」、「蘭陽きらら舞」、
 「源内なかま講」の5冊が出版されています。また、外伝として「京伝怪異帖」もあります。
 出版された順で言えば、このシリーズの2冊目にあたります。

 自分の子かもしれぬ娘が殺し屋・月影に誘拐された。娘を救うため、
 月影の呼び出しに応じて危地に飛び込む歌麿だが。表題作など三篇。 


 


  


 安部龍太郎
 
  
1955年 福岡県生まれ 久留米工業高等専門学校機械工学科卒。
      図書館司書を務める。
1990年 「血の日本史」でデビュー。
2004年 「天馬、翔ける」で第11回中山義秀文学賞受賞。
2013年 「等伯」で第148回直木賞受賞。
  「隆慶一郎が最後に会いたがった男」との伝説を持つ歴史文学の
   第一人者である。
 主な著書に
  「彷徨える帝」「関ヶ原連判状」「信長燃ゆ」 著書多数。
                        
 薩摩燃ゆ 

★★★

 歴史長編として読み応えのある一冊。
 調所広郷は、清濁併せ呑む、それを絵に描いたような人物。
 破綻寸前にあった薩摩藩の財政を立て直すために、黒糖の専売に取り組む。
 粗悪な条件で奄美の島の住人を働かせ、大阪の商人と組んで巨利を得るた
 めに手段を選ばない。
 また、琉球を通した密貿易、偽貨の鋳造にも手を染める。
 一向宗の取締りにも果断な処置をとる。
 自分を取り立ててくれた25代薩摩藩主・重豪(しげひで)・斉彬の祖父のために
 一身をなげうつ・・薩摩武士の典型的な人物である。この調所広郷の積極的
 な活動を描いた秀作である。
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 内容紹介から
 19世紀前半、破綻寸前だった薩摩藩の財政立て直しを命じられたのは53歳
 の側用人の調所笑左衛門広郷。借金を長期年賦にすることで実質帳消しにし
 た上、密貿易や離島からの搾取など非合法・非人道的なことも行いながら50
 万両の貯蓄をし、予備費も蓄える。さらに国内の治水などさまざまな改革を成
 しとげていく一方、若き日の西郷隆盛や大久保利通も積極的に推挙し、新し
 い時代への礎を築いていくが、重豪亡きあとは後継者争いのあおりを受けた
 あげく、汚名を一身に背負い自ら命を絶つ。
 しかし後の薩摩が明治維新の中心となることができたのは、まぎれもなく彼
 が私利私欲を捨てて汚れ役に徹して財政難を解消し、豊かな蓄えをしたから
 なのである。
冬を待つ城

★★★

 さすがに阿部龍太郎。
 フィクションを織り交ぜながら、東北人の想いをよく語ってくれた。

 九戸政実には3人の弟がいる。
 その一番下の弟・政則が主人公のような形である。

 政則が「山の民」である、藤七を訪ね、そこで遥昔の蝦夷の事を知る。
 ここを読むまでは、ただの九戸の反乱のお話だと思っていたが初めて
 東北に移り住んだ人々が、もともと大陸からやってきたものだというこ
 と。先人として北の開発に努めたが温暖化が終わり、南へ引き上げ
 る人々に背を向け北に残る。
 そして、やがて大和朝廷の征伐の対象となる・・・。
 人狩りから逃れた人々が山に籠もり、「山 の民」となる。

 九戸政実は東北の地と民を守ろうとしたのである。
 史実とはちょっとことなるかも知れない。
 中央の動きをよく知らなかった政実が、果敢に戦いを挑んだだけ・・・。

 朝鮮に進出しようとする秀吉が、寒さに強い東北人を「人狩り」によって
 集めようとしたのは、かつても大和朝廷が蝦夷を捕らえ使役に利用した
 のと同じである。

 最後に政則の家族や3番目の弟・康実が落ち延びたりするのはよかっ
 たが、これも史実とは異なると思う。
 全員がなで斬りになってしまったということになっている。
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 内容紹介・内容(「BOOK」データベース)より 
 籠城か、玉砕か――否、三成との知恵比べに勝利し、あとはただ冬
 を待つのだ! 天下統一の総仕上げに、奥州最北端の九戸城を囲んだ
 秀吉軍、兵力なんと十五万。
 わずか三千の城兵を相手に何故かほどの大軍を要するのか――
 奥州仕置きの陰のプランナー石田三成の真意を逸早く察知した城主・
 政実は、九戸家四兄弟を纏めあげ、地の利を生かして次々と策略を凝
 らした。あとは包囲軍が雪に閉ざされるのを待つのみ! 

 3千vs15万!50倍の大兵力で奥州北端の九戸城を囲んだ秀吉軍。
 その真意ははたしてどこにあるのか―。
 跳梁する間者たち、頻繁に飛び交う暗号文。その戦さ、降伏するだけ
 では済まぬらしい…。
 城主・九戸政実を頭とする四兄弟が結束すれば、形勢は五分と五分。
 石田三成の仕組んだ謀略に百倍返しする秘策を、今こそ実行に移せ!
 奥州北端の九戸城を狙った戦国最大級の謀略。直木賞作家、怒涛の
 歴史小説。 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 
 

時代小説受賞作家と作品
  
(主催:朝日放送、講談社)

 ※10回をもって終了 
  

 第1回 (1990年) 鳥越碧 「雁金屋草紙」
 第2回 (1991年) 羽太雄平 「本多の狐」
 第3回 (1992年) 吉村正一郎 「西鶴人情橋」
 第4回 (1993年) 藤井素介 「流人群像 坩堝の島」
 第5回 (1994年) 大久保智弘 「わが胸は蒼茫たり」
 第6回 (1995年) 中村勝行 「蘭と狗」
 第7回 (1996年) 乙川優三郎 「霧の橋」
 第8回 (1997年) 松井今朝子 「仲蔵狂乱」
 第9回  (1998年) 平山寿三郎 「東京城の夕映え」
 第10回(1999年) 押川國秋 「八丁堀慕情・流刊の女」
 
  

  

 羽太 雄平(はた ゆうへい)
 
  
1944年 台湾生まれ 東京育ち 東京都立港工業高等学校中退。
      広告会社社長を経て
1989年 「完全なる凶器」にて小説CLUB新人賞を受賞、作家生活に入る。
1991年 「ホンダの狐」で第二回時代小説大賞受賞。
     初期は主に伝奇時代小説。

     庭を流れる小川にヤマメが住む環境の中、小説の執筆に
     打ち込んでいる。
     趣味の家具作りは玄人はだし。
     日本推理作家協会員。

                        
 本多の狐 

★★★

 痛快物。
 もとは上杉の忍者集団だったという「本多の狐」は、今は加賀百万石の家老・本多
 政重に仕えている。
 その与兵衛率いる本多の狐が、浮田平四郎とともに、権現遺産の探索に向かう。
 切支丹に残された李朝活字の謎、天海の正体・・・・。読み手を惹きつける要素を
 ちりばめる工夫もあり飽きさせない。
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 出版社/著者からの内容紹介
 日光東照宮に隠された徳川家康の遺産とは何か?その争奪をめぐって、史上最強の
 忍者集団「本多の狐」が登場。対するは伊賀忍軍と柳生新陰流。その攻防は痛快無
 比の展開をみせる。
 坂崎出羽守の遺児を芯に据え、天海僧正や柳生十兵衛、本多正純などが活躍する
 スペクタクル雄篇!第2回時代小説大賞受賞。

 

  

 中村 勝行
 
  
1942年 東京生まれ 東京電機大学を卒業
1975年 脚本家デビュー。
1995年 中村勝行の名前で「蘭と狗」にて第6回時代小説大賞を
      受賞。著書に「享保異聞はぐれ柳生殺人剣」「享保異聞
                               はぐれ柳生斬人剣」など。 
     俳優の中村敦夫は兄にあたる。
     時代小説を書くときのペンネームは「黒崎裕一郎」。
                        
 蘭と狗(いぬ) 

★★★

 一代の傑物・高野長英。
 その生涯を描いた秀作である。
 長英を追う、岡っ引きと絡めながら物語は進行する。長英が火事場となった牢から
 脱獄し、諸国の友人らを訪ね歩くくだりは作者の想像も入っている。
 越後、米沢、江戸、宇和島・・・。資料すらの実話と想定が相まって読みごたえがあ
 る。
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 出版社/著者からの内容紹介
 放火して小伝馬町から脱獄した蘭学者・高野長英。焼死した女房の残した音の出な
 い鈴を手に執念の鬼となって追う岡っ引・瓢六……。

 あいつだ!板橋宿で牙をむいた狗。「もういっぺん、てめえを檻ん中にぶち込んでやる
 ぜ」と獰猛(どうもう)に吼えた岡っ引の、悪鬼のようなあの顔だ。だが、なぜ?なぜ江
 戸の岡っ引がここまで追ってくるのか。途方もない時間と労力をついやして、おれを追
 い続ける理由は?
 あの男の執念を支えているものは?相手の腹の底が見えぬだけに、長英にはいっそ
 う不気味さが募った。


 


  


 松井今朝子
 
  
1944年 台湾生まれ 東京育ち 東京都立港工業高等学校中退。
      広告会社社長を経て
1989年 「完全なる凶器」にて小説CLUB新人賞を受賞、作家生活に入る。
1991年 「ホンダの狐」で第二回時代小説大賞受賞。
     初期は主に伝奇時代小説。

     庭を流れる小川にヤマメが住む環境の中、小説の執筆に
     打ち込んでいる。
     趣味の家具作りは玄人はだし。
     日本推理作家協会員。

                        
 仲蔵狂乱 
 歌舞伎が好きな人にはあつらえ向きの一冊ではないか。
 市川団十郎、松本幸四郎、中村勘三郎・・・・。有名な役者が次々とと登場する。
 しかも、みんな人間臭い描写で。その生々しさが良い。
 読み終わった後に歌舞伎を見にいきたいという気持ちにさせられる。
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 出版社/著者からの内容紹介
 不世出の歌舞伎役者が辿る波乱の生涯を、熱い共感の筆致で描く。
 〈存分に舞い狂うてみせてやる……〉江戸は安永――天明期、下積みの苦労を重ね、実
 力で歌舞伎界の頂点へ駆けのぼった中村仲蔵。
 浪人の子としかわからぬ身で、梨園に引きとられ、芸や恋に悩み、舞の美を究めていく。
 不世出の名優が辿る波乱の生涯を、熱い共感の筆致で描く。
 
 
 
 
 

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朝日時代小説大賞



 

第1回(2009年) 該当作なし
第2回(2010年) 乾緑郎 「忍び外伝」 
         ※応募時タイトル「忍法煙之末」
第3回(2011年) 平茂寛 「隈取(くまどり)絵師」
第4回(2012年) 仁志耕一郎氏「無名の虎」
 


 乾 緑郎
 
  
1971年 東京都生まれ 東洋鍼灸専門学校卒。
      舞台俳優、演出家・脚本家を経て、鍼灸師の資格を得る。
     現在は鍼灸の仕事のかたわら、演劇の脚本も手掛けている。
2010年 「忍び外伝」で第2回朝日時代小説大賞を受賞。
     「完全なる首長竜の日」で第9回このミステリーがすごい!大賞
     受賞。
                        
 忍び外伝 
 文体が読み手を惹きつける。
 集中的にどんどん読ませられる本である。
 ただ、伝奇ものがそうなのだろうが、「だからどうした?」という意味では物足りない。
 伊賀の忍者が織田軍によって攻め滅ぼされる経過、伊賀の山河や忍者の実態、
 そして、作者が描きたかったのであろう、幻術師・果心居士の奏でる不思議な世界
 足利義満に取り立てられた観阿弥・・・。南朝の窺見(うかみ)・お式・・・。
 奇想天外な世界は半村良「妖星伝」以来であるが、今一つ馴染まない。 
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 内容紹介から
 第2回朝日時代小説大賞受賞作! 選考委員満場一致、激賞の“瞬決”!!
  表現力も抜群ならば、文章も秀逸――児玉清氏
  わずゾクリとする伝奇的設定――縄田一男氏
  筆力・構成力は、尋常ではない――山本一力氏
 伊賀の上忍・百地丹波によって一流の忍者に育てられた文吾は、己が何ゆえ忍びを
 目指すのか思い悩む。やがて北畠(織田)信雄率いる大軍が伊賀に迫るが――。
 伝奇あり、活劇ありの究極の忍者エンターテインメント!
  著者は2010年10月に第9回『このミステリーがすごい!』大賞も受賞している。
 完全なる

 首長竜の日

 このミステリーがすごい!大賞をとった作品ということで読んだ。
 漫画家の和淳美は植物状態で入院している弟・浩市とセンシングと行っているの
 だが、センシングなのか現実なのか、わからないような時を過ごす経験をする。
 連載していた漫画が打ち切りとなり、アシスタントの真希と別れ、淳美はかつて幼い
 頃に訪れたことのある奄美の小さな島に行く・・・。
 中盤から、衝撃の展開となり、作者の仕掛けが始まる。これは凄い!!
 どんでん返しに読みごたえがあるが、それでどうしたのかと言えば・・・「忍び外伝」
 と同様で、物足りなさが残る。
 岡島二人「クラインの壷」に似たものを感じた。(別物ではあるが)
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 内容紹介から
 『チーム・バチスタの栄光』(海堂尊著)以来の選考委員即決、第9回『このミス』大賞
 受賞、乾緑郎(いぬい・ろくろう)のデビュー作! 著者は、朝日時代小説大賞でも
 『忍び外伝』で大賞を受賞。新人賞2冠を果たすという大型新人の登場です。
 少女漫画家の和淳美は、植物状態の人間と対話できる「SCインターフェース」を通じ
 て、意識不明の弟と対話を続けるが、淳美に自殺の原因を話さない。
 ある日、謎の女性が弟に接触したことから、少しずつ現実が歪みはじめる。映画「イ
 ンセプション」を超える面白さと絶賛された、謎と仕掛けに満ちた物語。 
鷹野鍼灸院の
事件簿#2

 置き忘れのペイン
 

★★★

 これは面白い。
 主人公の真奈は自分の足首を治療してくれた鷹野の腕に惹かれて鍼灸師となった。
 そして鷹野の医院で働いている。
 院長(といっても真奈以外に従業員はいない)の鷹野は行方も告げずに「出張治療」
 にばかり出かけている。
 しかし、帰っていると見事な治療をし、患者も多数やってくる。
 そして、鋭い推理力を駆使する・・・。
 シリーズが楽しみである。
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 本の解説から
 鷹野鍼灸師の助手を務める真奈は、同級生で有名鍼灸院に就職し友梨から退職の
 相談を受ける。
 勉強熱心で優等生だった友人の相談に違和感を覚え、真奈は客を装って友梨の働
 く医院に乗り込む・・・。
 鬼と三日月
 尼子氏の盛衰と山中鹿之助の生涯に興味があり、図書館でこの本を借りた。
 「願わくは、我に七難八苦を与えたまえ」と三日月に祈った逸話などから国民教育の
 題材として戦前の教科書に採用され、山陰の麒麟児の異名をとるのが山中鹿介幸
 盛。(安来市のHPから)
 この人物の想いと活躍ぶりを知りたかったのである。
 本書は、尼子氏の去就や、親族・新宮党の粛清などを描いてはいるが、そのあたり
 のドラマチックな様相が伝わってこない。
 尼子氏と鹿之助の話というよりは、平将門から発する鉢屋賀麻党の宿願などに主題
 が移り、伝奇物になってしまう。
 歴史物としては、?。
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  内容紹介から
 虐げられた者たちの戦いが始まる-。 
 尼子家再興を目指す山中鹿之介らの前に、奇怪な忍法を操る鉢屋賀麻党が出現
 する。
 窮地を救ってくれた風魔の女忍びは、鉢屋党の恐るべき目的を語り始めるが……。
 超絶の忍法合戦と時空を超えた展開、書き下ろし長編時代エンターテインメント! 
 佐藤健&綾瀬はるか主演の話題の映画「リアル~完全なる首長竜の日~」原作者で
 あり、朝日時代小説大賞&「このミス」大賞W受賞作家の最新作!!

 

  
 

 平茂 寛
 
  
1957年 東京都生まれ 東洋鍼灸専門学校卒。
      舞台俳優、演出家・脚本家を経て、鍼灸師の資格を得る。
     現在は鍼灸の仕事のかたわら、演劇の脚本も手掛けている。
2010年 「忍び外伝」で第2回朝日時代小説大賞を受賞。
     「完全なる首長竜の日」で第9回このミステリーがすごい!大賞
     受賞。
                        
 隈取絵師

★★★

 これは面白い。
 絵師・恵斎が屋根裏から、大奥老女と僧の痴態を絵にしたためる場面から始まる。
 やがて絵をめぐって、定信と津山藩主の争い、恵斎は津山城に遣わされる。
 津山藩お抱えの狩野派絵師・如慶との絵対決、城下が人で溢れる万人講の開催
 物語は、読み手をひきつけてやまない題材を織り込みながら展開する。
 火事、藩主の絵師への変質的な入れ込みなどもある・・・。
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 内容紹介から
  幕府を揺るがす、大奥の秘事を描いた絵の行方は―。御抱絵師の鍬形恵斎が、
 松平定信の命で描いた大奥の秘事。ある日、その絵が何者かに盗まれてしまう。
 しかも、定信が盗賊として名を挙げたのは、想像を絶する人物だった!絵の奪還を
 命じられた恵斎は、諍いの渦中に飛び込んでいくが…。
 絵画への偏執的な愛情が、幕閣をも巻き込んだ騒動を引き起こす。
 第三回朝日時代小説大賞受賞作。 

 
 
 
 
 仁志 耕一郎

仁志耕一郎のページは同じものが、hon.12にもあります。

                
1955年 富山県生まれ。東京造形大学卒業後。
     広告制作会社や広告代理店勤務を経て、独立。
     その後、会社を解散し執筆に専念。
2012年 「玉兎の望」で第7回小説現代長編新人賞。
      「無名の虎」で第4回朝日時代小説大賞を受賞。
     時代小説の新たな書き手として大きな注目を集めている。
             
 玉兎の望
 

★★★

 

 最初ちょっと取り付き難かったが、読み進めるうちに関心が深まり
 どんどん読み進められた。
 幼なじみのサヨが祇園へ身売りに出され、貧乏と世の無情を嘆く
 藤兵衛。
 やがて、鍛冶の仕事に懸命に打ち込む姿が認められ、新しい鉄砲
 の開発もあり、幸運が付いてくるようになった・・・。
 国友の新しいリーダーとなった藤兵衛だったが、利権から見放され
 た旧年寄方の4家から恨みをかう。江戸表に訴えられたため、藤兵
 衛は江戸に呼ばれ留められる。
 しかし、藤兵衛にとってそれは一つの転機だった。
 やがて、新しい分野に興味を示す藤兵衛。
 鍛冶の技術を生かしてさまざまな発明や西洋品の製作に取り組
 んだ・・・これは意外な発見だった。
  (日本で最初の実用空気銃や反射望遠鏡)天体観測もしていた。
 サヨとの恋を貫く姿も清々しい。
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 内容紹介から
 鉄砲鍛冶の藤兵衛が暮らす琵琶湖の湖北、国友村。怠惰な年寄
方と貧しさに喘ぐ平鍛冶衆の不和が江戸にまで聞こえるほどになり、
幕府の発注も止められかねなくなっていた。
 危機感を募らせた藤兵衛は、ある秘策を思いつく――のちに一貫
斎の号を賜り、日本で初めて火を使わない鉄砲「気砲」を作った名
鍛冶師、国友藤兵衛の、一途な人生を描く傑作長編。
 小説現代長編新人賞受賞作。朝日時代小説大賞も受賞した大型
新人のデビュー作!

 
 
 



 

 稲葉 博一

                

1955年 富山県生まれ。東京造形大学卒業後。
     広告制作会社や広告代理店勤務を経て、独立。
     その後、会社を解散し執筆に専念。
2012年 「玉兎の望」で第7回小説現代長編新人賞。
      「無名の虎」で第4回朝日時代小説大賞を受賞。
     時代小説の新たな書き手として大きな注目を集めている。
             
 忍者烈伝
 

★★★

 

 これは凄い!
  伊賀の里の忍者(下忍)達の姿を壮絶な筆致で描き出している。
 幻術を会得した忍者・飛び加藤。
 北条・風魔、上野・箕輪城、上杉・春日山、武田・躑躅が崎・・
 心休まることなく流離う加藤の姿に忍者の生きざまを見せられる。
 すぐれた忍者ゆえに名将からは恐れられる。
 伊賀にとどまり名人と言われた下忍・上野の左の描き方も
 良い。
 人減らしのためか、廃寺の前に置き去りにされた赤子は伊賀の
  里に送られ下忍となった。
 きびしい修行、最後に忍者としての資質に欠けるとして毒殺され
 そうになるがかろうじて逃げのびる・・。
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 内容紹介から
 術が過ぎたために恐れられた「忍びの者」と、戦国という時代を
 駆け抜けた男たちの戦略、深謀、裏切り。最後に笑うのは誰だ?
 圧倒的筆力で描くノンストップ・エンターテインメント時代小説。