佐々木  譲
         
        
    1950年生まれ。
  自動車メーカー勤務を経て、75年「鉄騎兵跳んだ」でオール読物新人賞を
  受賞。
 1990年「エトロフ発緊急電」で日本推理小説作家協会賞、山本周五郎賞、
  日本冒険小説協会賞を受賞。2002年「武揚伝」で新田次郎文学賞受賞。
 他の著書に「ベルリン飛行指令」「天下城」「警官の血」「笑う警官」「警官の
        紋章」「暴雪圏」などがある。
               
 新宿のありふれた夜
  (スコラノベル)

★★★

 

 薄幸の難民少女に迫る暴力団の凶手と、警察の包囲網。・・・・・・・・・・・・・・・・・
こんどこそ退かない!男は奇策を手に最後の闘いに立ちあがった。
この本は面白い。文句無しに面白い。
    
 主人公はかつて学生運動でけがをして新宿にやってきた。
 理不尽に爆撃を受けるベトナム戦争への反対運動で頭を割られて・・・・・・
以来この街から出て行けず、人生に目標も持てず、スナックをやりながら日々を
送っている。
 やがて、住み慣れたスナックも新しいビルに生まれ変わることになり、主人公
のマスターは新宿を出ていかなければならなくなる。これと言って先の展望もな
く、行きたいところもやりたいこともない・・・・・。ともかくも最後の日の開店を決め
た。その最後の夜。暴力団の組長を銃殺し行き場を失ったタイの女の子が店に
転がり込んでくる。                        

 難民問題への思い入れも深い。作者自身がタイの少女を見た時に感じた新宿
の「国際化・アジア化」に正面から対峙している。                   

 この本は何年か前に一度読んでいるが改めて再読した。そのきっかけは下記
の「原寮」を読んで似たような本・・・・・ということで思い出したのである。しかし、
再読してみて原寮とは全然違っっていた。                      
 佐々木譲のほうが断然面白い。最後のクライマックスまで息をつかせず読ませ
る本は少ない。宮部みゆきの「スナーク狩り」と張り合えるかもしれない。   

黒頭巾旋風録

★★★

 痛快無比!!   こういう本に出会えるから読書はやめられない!!
 北海道の古老たちは、子供のころ親からよく「悪いことをしていると、黒頭巾が
こらしめにくるよ」と言われたのだという・・・原野の彼方からさっそうと馬で現れ
ては、松前藩の圧制に苦しむアイヌの人々を救い、また風のように去っていった
覆面の快人物だったという・・・作者が「はじめに」の項で述べている、黒頭巾の
言い伝えである。
 ところが、作者は実際の幕末の探検家・松浦武四郎のことを調べていくうちに
松浦武四郎からの聞き書きという形で知人が残した一節を見つけた。それが
この本を書き始めたきっかけになっているという・・。
 幕府が建立した官寺、臨済宗のアッケシ国泰寺に向かう僧・恵然はアイヌ人が
和人のために虐げられていることを知る・・。松浦武四郎
 帰らざる荒野

★★★

 函館戦争前後、馬飼いの善次郎は一時避難した美馬追村でイネと出会い結
婚。やがて虻田に移り友近牧場を開く。郡の名士となった善次郎だったが、詐
欺師の田島のために馬泥棒を追い命を失う。
 (善次郎が死ぬ前に)牧場にやって来ていた「百合」と心を通わせたために、兄
とうまくいかなくなり家を出ていた克也は、父を見殺しにしたことを悔やむ。
 やがて、帰郷した克也は田島と2人の手下を撃ち虻田を去った・・。
 滝川・・旭川・・富良野・・ 克也は銃撃に巻き込んで死なせてしまった谷田部
の妻・絹、息子の紀夫と白糠で所帯を持った。
 平穏に暮らす勝也の前に現れたのは友近牧場の石川だった。兄の夏彦が
死に、克也と百合の子ども・みゆきは、ならず者の喜美男に騙されているという。
絹と紀夫を残し、克也は友近牧場に向かう・・・。
 銃撃戦で倒れた克也に百合と娘が駆け寄る。
「おれが守るべきものは、これでよかったのか、この順番でよかったのか、誰か
 その答えをくれないか」
最後の言葉を残して克也は逝く・・・。
 北海道の牧場や原野を自在に駆け、銃撃戦に身をやつす、克也の生き様が
寂寥感と爽快感の中に語られる傑作。 
 北辰群盗伝

★★★

 北海道を舞台にした騎馬と銃撃戦が展開される。黒頭巾旋風録や帰らざる荒
野と似ている。
 函館戦争に参加したが夢破れ市井に身をおいて、米問屋の米かつぎをしてい
た矢島従三郎は、喧嘩の後に陸軍省の隅倉と名乗る男から声をかけられた・・。
隅倉から、函館戦争の生き残りであるの兵頭俊作が共和国騎兵隊を率いて、
北海道の各地で群盗をはたらいていることを知らされた矢島は討伐隊に加わる
ことを決意する。
 そもそも兵頭は、五年も経った今頃なぜ共和国騎兵隊を率いて反乱を起こそ
うとしているのか・・・。兵頭と会った矢島は、開拓使となった榎本武揚のロシア
交渉が陰にあったことを知る。兵頭の北海道共和国設立にかける夢を榎本は黙
って聞いていた。それを兵頭は容認と見た・・・。
 時代の変遷を見ようとしない男の願望が北の原野を駆け抜ける・・・。
 警官の血

★★★

 三代にわたる警察官の生き様を描いた秀作。 
 安城清二は戦後の困窮する社会の中で、警視庁の警察官になることを決意す
る。妻・多津の賛成もあって無事警察練習所を卒業し、やがて念願の駐在警官と
なった。市井の中に身を置き、上野の森の浮浪者や安アパートの人々の生活と
向き合う。
 男娼のミドリが首を絞められ殺害された事件、国鉄の少年が死んだ事件、二つ
に共通するものを感じて安城清二は事件を追うが、駐在所近くの五重塔が火事
になった夜に、陸橋から転落。謎の死を遂げてしまった。

 息子の民雄は清二の訓練所時代の仲間、香取、窪田、早瀬勇三の援助を受け
高校を卒業後に警察官となる。しかし、警察学校を終了した民雄に与えられた任
務は北大に入学して、全共闘の動向を探ることだった。
 任務は見事に成し遂げたが、民雄は精神を病む。しかし、やがて、父の後をつい
で天王寺駐在勤務となった民雄は駐在の仕事に生きがいを見出すようになった。
 民雄は早瀬と話をした後、以前のように精神が不安定となり、折りしも起こった
人質立てこもり犯に立ち向かい撃たれた・・・。

 名誉の死を遂げた民雄の後を引き継いで、和也は警視庁の警察官となった。
問題のある警官・加賀谷の動向調査を命令された和也は次第に加賀谷の捜査方
針に興味を持つが・・・。
 父と祖父の死の謎を解くべく、早瀬勇三と会った和也は、「罪は相対的なものだ」
という早瀬の言葉にうちのめされる・・
 いつしか、和也は加賀谷のような違法すれすれの捜査も行うが、切り札があっ
た・・・。
 終末・・捜査隊を率いて犯人逮捕に向う和也の耳に聞こえてくる。
 「遠くでホイッスルの鳴る音を聞いたように感じた。しかし、それは現実音でない
  と気づいた。それは、和也の意識の深層の中から、受け継いできた一族の記憶
  から聞こえてくる音だった。
  ホイッスルの吹鳴はもう一度聞こえた。和也を呼ぶ笛の音であり、また和也を
  鼓舞する音でもあった。祖父や父が、おそらくその在職中に何度も、誇らしく吹
  いたにちがいない笛の響きだった。
  和也はそのホイッスルの音を聴きながら通路を進み、エントランスを抜けた。」
 駿 女

(しゅんめ)

★★★

 藤原泰衡が頼朝に滅ぼされた後、出羽の豪族・大河兼任が叛旗を翻すという
 事件が起こった。この本はその史実を踏まえて書かれたものであろう。
 奥州は源氏に蹂躙されて、ただ黙っているわけにはいかない・・・アテルイ以来
 の反骨の精神が疼く・・。
 終末ーーー生き残った由衣は蝦夷の若者と鎌倉に行き、頼朝の馬に・・・。
 以下は「BOOK」データベースより
奥州糠部の地でのびのびと育った馬の巧みな十六歳の少女相馬由衣は、従弟の
八郎丸が元服するのに付き添い、平泉に赴く。しかし平泉は衣川館で義経が誅
殺されたという報に震撼していた。由衣らが人目を避けて飛び帰った村も、義経を
襲った藤原泰衡勢に焼き討ちにあい、身内は無惨にも息絶えていた。この混乱の
中で由衣は伯父から八郎丸が義経の落胤である事実を聞かされるが、頼朝の奥
州征討軍に平泉は炎上、頼朝の軍勢に抵抗した由衣は運命の大渦に翻弄されて
いく。 
うたう警官

★★★

 「うたう」は「歌を歌う」のかと思ったりするが、全然違う。
 警察内部の情報を告白することである。犯人が犯した罪を自白することをさす
 場合もあるらしい。
 内容(「BOOK」データベースより)
 札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。遺体の女性は北海道警
 察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。容疑者となった交際相手は、同じ
 本部に所属する津久井巡査部長だった。やがて津久井に対する射殺命令がで
 てしまう。捜査から外された所轄署の佐伯警部補は、かつて、おとり捜査で組
 んだことのある津久井の潔白を証明するために有志たちとともに、極秘裡に捜
 査を始めたのだったが…。
 ----------------------------------------------------------
  佐伯と仲間の刑事達が津久井を匿い、翌日の道議会へ出頭させようとする。
 真犯人を突き止めること、道警から津久井を守ること、この二つの目的達成の
 ために深夜の街に走る佐伯とその仲間達。仲間の中に内通者も・・。
 津久井が道議会に建物に入るまでの息詰まる攻防も読み応えがある。
廃墟に乞う
 北海道警の仙道孝司は、聞き込みの時に犯人であることを見抜けず、そのた
 めに被害者を死に追いやってしまった。
 事件以後、仙道は精神的ダメージを受けて療養に取り組んできた。
 仙道に復帰のめどが立ちそうになった頃、次々と事件捜査の依頼が入る。
 「私人」として警察手帳を持たない仙道が6つの事件に挑む。
密売者

★★★

  刑事に情報をもたらしてくれる存在である「エス」。
  警察には便利な人たちであるが、エスのために逮捕された者にとっては恨み
 の対象ともなる。
  釧路、函館、小樽・・・三か所で発生した殺人事件の被害者はいずれも「エス」
 だった。
  このことに気付いた佐伯、津久井、百合・・・。
  はじめは別々な事件の担当としてバラバラに捜査していたのだがやがて一本
 になる。この三人はかつて津久井が法廷で警察に不利な証言をする(うたう警
 官)のに活躍した面々である。
 物語は佐伯のエスだった男が妻と小学生の子どもを連れて姿を消したところか
 ら始まる。なんとしても夫婦と子どもを救いたい。三人と佐伯の部下、津久井の
 上司、退職した警察官・・・佐伯を中心としたグループが動き出す。
  謎とサスペンスに満ちた秀作である。
警官の条件

★★★

 警官の血に登場した安城和也。祖父の代から続く警官の家に生まれ、精神病
んだ父を見ながら育った三代目の警察官である。和也が問題のある警官・加賀谷
の逮捕に一役買うところから物語は始まる。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 都内の麻薬取引ルートに、正体不明の勢力が参入している―。裏社会の変化に
後手に回った警視庁では、若きエース安城和也警部も、潜入捜査中の刑事が殺
されるという失態の責任を問われていた。
 折しも三顧の礼をもって復職が決まったのは、九年前、悪徳警官の汚名を着せら
れ組織から去った加賀谷仁。復期早々、マニュアル化された捜査を嘲笑うかのよ
うに、単独行で成果を上げるかつての上司に対して和也の焦りは募ってゆくが…。 
地層捜査
 この作家の本をかなり読んでいる。
 「はずれ」がないので安心して借りられる。
 ただ、この本はちょっと惰性に流れる感じがした。
 昔、芸妓がいて置屋があった街。やがてバブルの崩壊と再開発。
 そんな街の成り立ちや変遷についても触れているのは良いがミステリーとしては、
わりと単純な構図である。
 途中の意外な展開、予期せぬ事態の発生、思いがけない事実の判明混沌とする
捜査・・・。そんなものが欠けている。
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 内容(「BOOK」データベースより)
  公訴時効の廃止を受けて再捜査となった15年前の老女殺人事件。当時の捜査本
部はバブル期の土地トラブルに目を向け、元刑事・加納もその線を辿ろうとするが、
謹慎明けの刑事・水戸部は、かつて荒木町の芸妓だった老女の「過去」に目を向け
る―。 
代官山

コールドケース

 内容紹介に詳しいので、簡単に。
 468ページある本を見たとき、完読できるか・・と思ってしまった。
 この作家の文はとても読みやすいので、気が付いたら中盤に入っていた。
 楽しく読めてよかった。
 水戸部と朝香のコンビも良い。
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 内容(「BOOK」データベースより) 内容紹介紹介より
 川崎で起きた殺人事件の現場に遺されたDNAが指し示すのは、十八年前に代官山
 で起きたカフェ店員殺人事件の“冤罪”の可能性……。
 この街で夢を追いかけた少女の悲劇。1995年、代官山・カフェ店員殺人事件。
 被疑者となったカメラマンは変死。
 2012年、川崎・女性殺人事件。代官山の遺留DNAの一つが現場で採取。
 「17年前の事件の真犯人を逃して、二度目の犯行を許してしまった、となると、警視
 庁の面目は丸つぶれだ」―。

 公訴時効撤廃を受け、再捜査の対象となった難事件に、特命捜査対策室のエース
 水戸部をはじめとした刑事たちが挑んでいく
 あの街にまだ緑深き同潤会アパートがあったころ、少女の夢と希望を踏みにじった
 犯人の痕跡が徐々に浮かび上がっていくさまは、まさに警察小説、捜査小説の白眉。
 刑事たちの息遣いが胸に響く、傑作長編ミステリです。
 「神奈川県警に先んじて、事件の真犯人を確保せよ!」
 好評「特命捜査対策室」シリーズ第二弾。 

      
  
   


    

  原 寮
   
 そして夜は甦る 
 
 (ハヤカワ文庫)
  西新宿の高層ビル街のはずれに事務所を構える私立探偵沢崎のもとへ海部と
 名乗る男が現れた。
  男はルポ・ライターの佐伯が先週ここに来たかを知りたがり、二十万円入った封
 筒を沢崎に預けて立ち去った・・・。かくして、沢崎は行方不明となった佐伯の調
 査に乗り出し、事件は やがて過去の東京都知事狙撃事件の全貌と繋がってい
 く。
  いきのいいセリフと緊密なプロット。チャンドラーに捧げられた記念すべきデビュ
 ー作。
                                    (カバーの解説から)
   
 この解説は少し手抜きかもしれない。沢崎が佐伯の調査に乗り出すことになるのは、東神グループの・・
元経営者から娘の夫を捜すように頼まれたからである。(それが佐伯である)              
 ここに至って一介の探偵が、巨大な財閥や都知事を相手に調査活動に取り組むことになるのである。
探偵に絡む不機嫌な警部、元同僚の渡辺、オリンピック候補になったこともある諏訪・・・・。      
 物語は複雑に絡んだ糸がほぐれるように次第にその全容をあらわしていく。            

 それにしても、この登場人物の都知事兄弟は何だろう。まるで、石原慎太郎と裕次郎そのものではない
か。この本が書かれた頃は、石原慎太郎はまだ東京都知事になってはいなかったのだから、未来予言の
小説かと思ってしまう・・・・・・。 (もちろん狙撃のところは全然現実と異なる)              
 
 これは原寮のデビュー作ということだから仕方がないと思うが、語り口がくどい感じで、読むのに時間が
かかった。もっと簡単にすませれるようなことを長々と説明している。 最後まで読んでやっと落ち着く。 
 機会があれば、直木賞をとったといいう「私が殺した少女」を読んでみたい。5年の沈黙の後に書かれ
たということなので、文が幾分すっきりしたものになっていることを期待している。               
 原寮が崇拝しているというチャンドラーの本も機会があれば読んでみたい。この物語に登場する沢崎の
ように、「探偵」に徹しているのだろうか。                        

  
 
 


 

 小林 久三
                
昭和10年  茨城県古河市生まれ。
        東北大学文学部卒。
        松竹大船撮影所助監督、映画プロデューサー。
昭和47年  「腐蝕色彩」 サンデー毎日新人賞 
                       (ペンネーム 冬木鋭介)
昭和49年  「暗黒告知」 第20回江戸川乱歩賞受賞。
昭和56年  「父と子の炎」第8回角川小説賞受賞。
                     
初めて読んだのは「暗黒告知」。
田中正造に深い関心を持っていたので、作家のことをあまり考えずに読んだ記憶がある。
足尾銅山や田中正造について幅広く知りたいと思って読んだが、その方面は思ったほど
期待できなかった。
              
 皇帝のいない八月
 
 (講談社)

★★

「青森の国道でパトカーがトラックの衝突事故に遭遇した・・・・」帯に書かれたこの
文を読んですぐ購入を決定した。この映画が話題になったのは遥か昔のことだ。
渡瀬恒彦かだれか忘れたが、そうそうたるメンバーが出演した映画だったと思う。
 冒頭のシーン一回だけで青森はもう登場しない。(青森や弘前の自衛隊を少し
は書いてほしかったが。)
 舞台は福岡・博多へ。
 革製品の業界紙「レザー旬報」の記者石森は、購入した寝台列車「さくら」の切
符が最後尾だったことから否応なく事件に巻き込まれていく。自衛隊の過激派分
子による政府転覆計画。闇をついて走る列車の中で石森は、かつての恋人江見
否子とともに拘束されながらも、事件に立ち向かう。
 政府転覆の「ブル・プラン」それは考えてみれば、常に私達の周囲にあるような
気もする。軍隊となった自衛隊が明確な目的を持って動き出せば、いつでも政府
は転覆する恐れがあるからだ。
 物語のクライマックスでは、巧妙に本線をはずされ大井埠頭に引き込まれた「さ
くら」に自衛隊の正規部隊が突撃、そして爆破。反乱分子35人は全員爆死を遂
げる。江見否子は混乱の中、藤崎と行動をともにしてしまう。
 「皇帝」は政治的に追い詰められ、大博打を打った佐林首相を指している。
  
 
 

 
 
 

 藤原  伊織

昭和23年生まれ。大阪出身。
東京大学文学部仏文科卒
    

 テロリストのパラソル
 
 (講談社文庫)
★★★
 アル中バーテンの島村は、過去を隠し二十年以上もひっそりと暮らしてきたが
新宿中央公園の爆弾テロに遭遇してから生活が急転する。
 やくざの浅井、爆発で死んだ昔の恋人の娘・塔子らが次々と店を訪れた。
 知らぬ間に巻込まれた犯人を捜すことになった男がみた真実とは・・・・
 史上初の乱歩賞&直木賞W受賞作。       (カバーの解説)
   
 ★が3つぐらい)  
 これは全共闘世代には必読の一冊か。
 直木賞選考委員の高橋克彦・井沢元彦・阿刀田高・北方謙三等が絶賛している。
 特に、高橋克彦の「30枚ほど読んだところで、私は選考していることを忘れた。主人公の造形と
いい、文章のゆるぎなさといい、構成の妙といい、どれを取っても完璧である。・・・・」というのが凄い。

 主人公である男を中心にかつての同棲相手であった女性の娘、元警官のやくざ、ホームレスの元
医者・・・・いずれも重い過去を引き摺っている面々が、主人公に惹かれるものを感じ協力して、不可
解な爆弾テロ事件を過去に遡って解決していく。

 男が全共闘時代に相手にしたものは戦後民主主義の否定ではなく、「この世の悪意である。その
得体のしれないものはぼくらが何をやっても無傷で生き残る」という言葉が心に残る。

 テロリスト桑野は、かつてこの男と共に戦ったのだか、やがて外国に渡り麻薬の力で日本に復讐し
「取り戻せないものは破壊する」という姿勢に変って行く。桑野と主人公の菊池(島村)の生き方の違
いに、乗り越えられない物悲しさを感じてしまう。
 

 
 ひまわりの祝祭 
 
  講談社
 直木賞・乱歩賞受賞第一作。
 圧倒的評価を得たダブル受賞作「テロリストのパラソル」をしのぐ書き下ろし
ニューハードボイルド。
 幻の歴史的名画をめぐっり、アートの世界に生きた孤高の男がたどる清冽
な愛。(カバーの解説)

 これは長い!夏の休みでもなければ読まなかったであろう。
 かつてフランスに渡った日本の画家が、秘密裏にゴッホの絵(8枚目のひま
わり)を持ち帰ったことがある・・・・という設定。巻末に参考文献も並んでいる。

 妻が自殺した跡、仕事もやめただ時の流れに身を任せるだけの生き方をし
てきた男の周辺が、ゴッホの絵を巡って一変する。
 亡くなった妻にそっくりの薄幸の若い女。誠実を売り物にしてきたという以前
の職場の社長の井上。新聞配達の佐藤。ヤクザの曽根。そして、ホモだという
が、喧嘩も滅法強く万能の原田。
 最後は銃撃戦となるが、作者が書きたかったのは、男の幼稚な生き方とそ
れを死ぬまで支えつづけた妻の姿にある。

 雪 が 降 る
★★★
 過去を引きずりながら平凡な日常生活を送る者、鮮烈な生きざまをみせて
死んでいく者、短い刹那に見せる人生のひとコマ・・・過去への想い・・・・ここ
には六つの人生がある。藤原伊織には短篇が合うかもしれない。
 ・台風  ・雪が降る  ・銀の塩  ・トマト  ・紅の樹  ・ダリアの夏

台風
 上司に重傷を負わせた西村。彼は不動産セールスの電話勧誘が仕事であ
るが、調子良さと押しの強さがない彼には成約などとても望めなかった。そん
な彼に上司がしたことは・・・・。

紅の樹
 ヤクザになり切れなかった堀江徹は、アパートの隣りに住む親子の幸せの
 ために命を投げ出す・・・。

   
 

 
           

 仙 川   環
                     
1968年 東京生まれ     (せんかわ・たまき)
       早稲田大学教育学部卒業後、大阪大学大学院医学部修士課程終了。
       医療技術、医療問題を中心に、精力的に取材を続けるジャーナリスト。
2002年 「感染」で第一回小学館文庫小説賞を受賞し、作家デビュー
          
 感染  (小学館文庫)

★★

 ウィルス研究医・仲沢葉月は、ある晩、未来を嘱望されている外科医の
夫・啓介と前妻との間の子が誘拐されたという連絡を受ける。
 幼子は焼死体で発見されるという最悪の事件となったにもかかわらず、
啓介は女からの呼び出しに出かけていったきり音信不通。
 痛み戸惑う気持ちで夫の行方を捜すうち、彼女は続発する幼児誘拐殺
人事件の意外な共通点と、医学界を揺るがす危険な策謀に辿りつく。

 医学ジャーナリストが描く、迫真の医療サスペンス!
 第一回小学館文庫小説賞受賞作。(カバーの解説から)

 ・臓器移植、なかでも「異種移植」についての問題提起という点では
  力作である。
 ・外科医の啓介が前妻と離婚して主人公と一緒になったあたりなど
  不可解な点が残るが、全体としてサスペンス調溢れる構成である。
  エピローグで主人公が故郷の田舎に帰り、老いた父とともに診療所
  で患者と向き合う生活を選ぶ・・・・こういう週末は爽やかで良い。

    
    
 


   

綾辻  行人
            
  十角館の殺人
   

講談社文庫

     時々名前がでる作家なので古本屋で見かけたのを幸い買ってしまった。
  登場人物がエラリイ・ルルウ・アガサ・オルツィ・カー・ポウ・ヴァン・・・それに
 江南(コナン)守須とくれば、それだけで楽しくなってしまう・・・・・・・。      

  綾辻行人22才の時の作品だというからこのような人物を登場させたのは含む
 ところが数多くあったのだろうか。シャレも入っていたのだろう。ただ作品がそん
 なにウィットに富んだものではないということと、登場人物が名前通りに独特のユ
 ニークな推理を駆使するという場面がみられないのが何とも残念。        

  結構どろどろした残酷な殺人があったりしてびっくりする。殺されるために登場
 したルルウやカーというのももったいない。                         
  「そして誰もいなくなった」に影響を受けて書いたということで、孤島で殺人者が
 わからないまま一人ずつ死んでいくという・・・・・願ってもないストーリーなのだが
 今ひとつ釈然としないものが残る。ネタがばれてしまわないよう、それ以上は書
 かないが、もう少し密室性を保って良かったかと思う。         

  解説で鮎川哲也が本格派推理小説の典型であると高く評価している。「本格
 派」という言葉が「十角館の殺人」に使われるとすれば、自分はこのごろ全然本
 格派でない推理小説ばかり読んでいたのか・・・・としばし考えてしまった。 

  このあとに、西村京太郎「名探偵が多すぎる(講談社) 」を読んだが、これはなる
 ほど本格派・・・・・・と感じ入ってしまった。 ★が3つ。       

   
 

 
      

 桐野  夏生
        
                きりの・なつお
    
1951年 金沢生まれ 成蹊大学法学部卒
1993年 「顔に降りかかる雨」で第39回江戸川乱歩賞を受賞。
1998年 日本のクライム・ノベルの新生面をひらいた「OUT」で
       第51回日本推理作家協会賞を受賞。

その他の著書に「天使に見捨てられた夜」「ファィアボール・ブルース」
          「水の眠り灰の夢」
          短編集に「錆びる心ろ「ジオラマ」がある。

               
 天使に見捨てられた夜 
 
 (ハヤカワ文庫)★★
 失踪したAV女優・一色リナの捜索依頼を私立探偵。村野ミロに持
ち込んだのは、フェミニズム系の出版社を経営する渡辺房江。ミロの
父善三と親しい多和田弁護士を通じてだった。やがて明らかにされ
ていくリナの暗い過去。都会の闇にうごめく欲望と野望を乾いた感性
で描く、女流ハードボイルの長篇力作。
   
 これは、女性であれば必読の一冊。桐野夏生の凄さを実感できる。
 女が男と同等に振る舞おうとする時に受ける扱い・・・・・・、男が思
っている女の姿・・・・・・を切実にここまで描ける作家はいなかったよ
うな気がする。主人公村野ミロは既成のイメージとは違うタイプの女
性である。その行動を追うのも面白い。前作「顔に降りかかる雨」
(江戸川乱歩賞・講談社文庫)から続けて読むと村野ミロの全体像
がわかるようだ。               
   
 柔らかな頬 
 
講談社
1994年8月
「現代の神隠しか 深まる謎 有香ちゃんちゃん失踪事件」
8月11日朝、千歳市支笏湖町温泉郷の石山洋平さん宅から、製版業森脇道弘さ
んの長女、保育園児の有香ちゃんが、散歩に出たまま帰らないという110番通
報があった・・・・という書き出しで始まる。

 犯人は誰かということより、不倫の関係にあった森脇の妻カスミと石山について
のストーリーが延々と続く。カスミが高校を卒業後に家出をして東京に出てデザイ
ナーを目指すまで。そして石山との出会い。この心理描写に多大の枚数を割いて
いる。
 有香が居なくなってから必死に娘を捜すカスミ。
 癌になって刑事を退職。余命幾ばくもない内海の登場。
 女のヒモになって転身した石山。

 364ページに及ぶ物語であるが、息詰まるサスペンスというよりはカスミという
女の生き方に焦点をあてた心理小説といった感じがする。
 死期を迎えた内海が後半部部で、3パターンほど謎解きの夢を見る。この辺りが
ミステリーとしてのクライマックスか。

 第39回江戸川乱歩賞

 顔に降り
  かかる雨

 主人公・村野ミロは夫・博夫に自殺され、後悔と憎しみの入り混じった複雑な・・
生活を送っている。
 ある日、親友でノンフィクションライターの宇佐川耀子が失踪。4700万円も消え
たことから、耀子の愛人の成瀬やヤクザの君島に疑われることになる。
 耀子はいったい何処にいるのか。
 探偵をしていた父・善三のように事件を探るミロの前に、少しずつ耀子の実際の
姿がわかってくる。虚栄心のかたまり、仕事の低迷、借金・・。そして、ついの暴
かれる意外な真実・・・。
 死体愛好家や解剖のビデオが登場したり「怪奇物」の要素もある。

 「柔らかな頬」で有香ちゃんが行方不明になり、その見えない姿を追って物語が
 展開する。
 本編では耀子の姿が見えない。「見えない人間を追いかける」という設定が似
 ている。

     
 
 

 
 

  歌 野  晶 牛??
    1961年 東京生まれ。東京農工大学卒業。・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 1988年 島田荘司氏の推挽を受け、「長い家の殺人」でデビュー。
 2004年 「葉桜の季節に君を想うということ」で第57回日本推理
       作家協会賞、第4回本格ミステリ大賞を受賞したほか、
       「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」で
        第一位を獲得した。
 2010年 「密室殺人ゲーム20」で第10回本格ミステリ大賞を受賞。
        初の複数受賞となる。
                     
 
さらわれたい女

  講談社文庫 

★★★

 
 これは面白い。主人公の「俺」の語りに乗ってどんどん読ませる・・・。・・・・・・
  「金を払って買う本」というのはこういうのを言うのであろう。

  「私を誘拐して下さい。」美しい人妻は、そう呟いて便利屋の手を握った。
 夫の愛を確かめるための狂言誘拐だというのだ。金に目が眩んだ俺は依頼を 
 引き受けた。
  完璧なシナリオを練り脅迫を実行。身代金までせしめたが、そこには思わぬ
  落とし穴が待っていた。二転三転、息もつかせぬ超・誘拐ミステリー。
                                 (後書きから)
  歌野晶牛という作家は与謝野晶子の子どもかなにかと思ったらそうでもない
 らしい。期待を抱かせる名前である。

 
 春から夏、

 やがて冬
 
 

★★★

 この作家は仕掛けと構成が素晴らしい。
 娘を交通事故(轢き逃げ)で失い、やがて妻も自殺という、やり場のない運命
に翻弄される平田誠。今は大手スーパーの本部長から、地方の保安責任者と
なり、未来に希望もないまま暮らしている。
 ある日、捕まった万引き犯は娘と同じ昭和604生まれだった・・・。
 放免してやった娘は、何故か平田に近付いて来る。彼女が同棲しているリョ
ウはどうしようもない男。働かず女の稼ぎを当てにし、暴力を振るうという・・。
 肺癌に犯されている平田は、この女・末永ますみに賭けようとする。しかし、
実はますみも平田に賭けようとしていた。それは平田の娘の交通事故・・・。
※感動する本に入れようと思ったが、もうひと工夫した終末であればと・・・。
-----------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 スーパーの保安責任者の男と、万引き犯の女。偶然の出会いは神の思い召
しか、悪魔の罠か?これは“絶望”と“救済”のミステリーだ。  
魔王城殺人事件
 

★★★

 子供向けに書かれた本。
 「かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランド」
 2003年から配本されている。(これまで28冊ほど)読んでみたい本がいろいろ
 ある。子供向けなので、平易で字も大きく読みやすい。
 この魔王城殺人事件・・・実に面白い。本格派の推理物は謎解き、仕掛けにこ
 だわるのであれこれ考え、楽しく読める。 
----------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 星野台小学校5年1組の翔太たちは、探偵クラブ「51分署捜査1課」を結成した。
いくつかの事件を解決し、ついに、町のはずれにある悪魔の巣窟のような屋敷、
デオドロス城(僕たちが勝手に名付けた)にまつわる数々の怪しいウワサの真相
を確かめるべく探険することに!潜入直後、突然ゾンビ女(?)が現れたかと思うと、
庭の小屋の中で謎の消失!
 新たに女子2人が加わった「51分署捜査1課」は再び城に。今度は小屋の中で
乳母車男(!?)の死体を発見してしまうのだが、その死体も消滅してしまう。やはり
デオドロス城には何かただならぬ秘密が隠されているのだ。 
桜の季節に君を

想うということ

 長編のわりにはどんどん読ませられる。
 だいたい一日で読んでしまった。
 蓬莱倶楽部という霊感商法の罠に嵌まった者たちと、その中の一人・久高の
 死の原因を追究しようとする探偵・成瀬将虎のお話。
 最初、セックスの話が出てくるので、どんな小説なんだと思ってしまうが、これ
 は最後のどんでん返しには不可欠なものだった。
 霊感商法に陥り、借金地獄に陥った古屋節子は、蓬莱倶楽部に脅され、その
 片棒を担がされるようになっていく。最後は久高の自動車事故を装った殺人に
 も・・・。
 物語は、20歳前の成瀬が高校卒業し探偵事務所に勤めるくだりがあり、やが
 てある事件の捜査のためにヤクザの世界に入り込む・・・。
 この頃と現在の出来事が交互に描かれていくので、30歳の主人公だと思って
 読んでいた。成瀬は電車に飛び込んだ麻宮さくらを救い、恋心をいだくようにな
 るが、この麻宮さくらこそ、純情可憐の目立たない美少女をイメージしていた。
 やがて終末。
 この作者独特のどんでん返しが待っている。
 唖然として、ただ成瀬の「解き明かし」を読むばかり。
 うーん! こうきたか!!という思い・・・。
 これでは読後感がすっきりしない。
 桜の季節に君を・・・・これに相応しい結末を読みたかった。
       
 
折 原   一
                                        
 黒 衣 の 女 
 
 

講談社文庫
 
 
 
 

 「わたしを探して欲しいのです。」と女は探偵社の男に言った。記憶を失った
彼女のアドレス帳には、見知らぬ三人の男の名前が記されていた。
 一見、無関係なこの男達が次々殺される。いずれも殺害の手口が似ており
現場付近では喪服姿の女が目撃されていた。
 いったい真犯人は誰か?
 めくるめく折原ワールドの真骨頂。    (解説から)

 これは面白い・・・・と思って読んだのだか・・・・・・・。

 大きく4つの章からなっていて、4回の殺人事件がある。その第一章を読んだ
時、ミステリー独
の臨場感のある文に唸った。久しぶりに楽しめそうな作家を見つけたと思った。
 中年の銀行マンの使い込みと失踪、その平凡な妻、愛人。打ってつけの登
場人物の勢揃いである。中年の男が愛人に約束を破られ、金の使い込みを諦
め、夜のうちに金を返そうと銀行に向かったその直後の思いがけない死。妻の
嘆き・・・・。

 第二章では街の嫌われ者、ヒモが仕事の男が死に、第三章では線路に落ち
た娘を救った、これも中年の生命保険会社の男が死ぬ。これらの「通り魔事件」
にからんだ、記憶喪失の「私」。四分の三くらいまでは息もつかせぬ展開に食
事も忘れて引きずり込まれた。 しかし・・・・・・

 これはどんな終末に向かうのかと真剣に考えたのだが、何のことはない。これ
だけダイナミックな話の結末が実に「理解し難い締めくくり」となる。
 ・第一章に登場した男の妻が再登場する。これはいったい何?はじめに描い
  てみせた夫婦の愛とかはどこへ行ったの、愛人・坂上美保はなんだったの
   ・・・・・・・・。思わず言ってしまう。
  もっと人物の心情にきちんと迫ってほしい。ミステリーはただ書けはいいとい
  うものではない。
 ・終曲で、前のページ数を何回も何回も示しながら説明をする・・・そのややこ
  しさ。
 ・他にも説明のつかないことが多すぎる。

 読後感の清々しさとか、教訓とか、そういうものを描かないのであれば、せめ
 て「納得」できる事件の解決・説明を書いてほしかった。

みな底の殺意

講談社

  古本屋で久しぶりに立ち読みをして、5・6冊の本の買ったが、その中の一冊。
プロローグで読み手を引き付ける作家である。殺人リストを持った「彼」と死にた
がっている「彼」、一人が川に入り、もう一方が助けようと続いて川に入る。そし
て、どうなるのか・・・・・・ここまで読んでつい買ってしまった。・・・・・

 息詰まるような展開である。次々と殺人がおこり、殺人メモに書かれる名前が
何時の間にか増えていくという不可解も加わって、息も付かせず読ませられる。
(この点は、岡島二人のクリスマス・イブに似ているところもある。)
 同じ会社の二人の死。襲われたが一命をとりとめ、夫の浮気調査と絡めて
調査を依頼した女子社員浅沼美代子。そして、探偵社の伊達兄弟。これと別枠
なのか、高梨小百合と、その恋人も加わって・・・・・。

 途中で「これは折原ワールド」だと気づいた。また、理解不能な結末を示され
るのかと危惧したが、今回は無難に犯人が登場する。

 それにてしも、トリックも描「きたいこと」もわかった時点で思うことは、この長
編に宮部みゆきのような、「ストーリー性」を持たせられないかということである。

    
 
 

 

  

  栗 本   薫
                             
 ぼくらの時代
 
 講談社


★★★

 ぼく栗本薫。22歳、みずがめ座。某マンモス私大の3年生。
 ---バイト先のKTV局内で発生した女子高校生連続殺人事件をロック・バンド仲間の
信とヤスヒコとで解決しようとするんだけど・・・
 若者たちの感覚や思考を背景に、凝った構成と若々しい文体によって推理小説に新
風をもたらした第24回乱歩賞受賞作。         (カバーの解説から)

 古本屋で見つけたこの一冊。初版が昭和55年となっているから、かなり昔に書かれ
たものであるが、若者から見た「理解してくれない大人」という言い方などは今の時代
にもそのまま当てはまりそうである。

 簡単に殺人が起こるという点では、「本格派の推理小説」に入る?のだろうか・・・。
アイドル歌手の「あい光彦」や芸能人の世界の裏側に触れながらストーリーは展開す
る。密室の謎などもあったりして、犯人がなかなかわからず、後半の意外な展開もあ
ってなかなか楽しめる。

 
 
 


 
   

  小 峰  元
     
  こみね・はじめ   1921年兵庫県生まれ。大阪外国語大学スペイン語科卒。
 貿易商、教員などを経て1943年毎日新聞社に入社。
 1973年「アルキメデスは手を汚さない」で第19回江戸川乱歩賞を受賞。
 その後、「ピタゴラス豆畑に死す」「ソクラテス最後の弁明」「パスカルの鼻は
 長かった」などの作品を発表、青春推理を分野として確立した。1994年逝去
                      
 アルキメデスは

手を汚さない
 

 講談社文庫

 堕胎手術で死んだ少女が残した謎の言葉「アルキメデス」70年代
の学園を舞台に、若者の反抗と友情を描く青春推理。
                      (カバーの解説から)
 まだ20代だった頃に話題になった本である。なかなか読む機会が
なかったが、江戸川乱歩賞を受賞作を一冊ずつ読んでいく途中で登
場してきた。青森図書館には、講談社文庫「江戸川乱歩賞全集」が
あるが、その中の一冊である。かなり期待して読んだ。アルキメデス
がこのミステリー全体にどのように関わってくるのか、興味津々であ
ったが・・。アルキメデスが浮力を発見した時の場面を劇にして文化
祭に上演したこと、アルキメデスは真理発見のために、その他のこと
には目を向けない人であったこと・・というあたりが関わって
いる程度。残念!
 工務店の社長柴本の娘・美雪の葬儀の場面から始まる。柴本は美
雪を妊娠させた相手を探し出そうとする。
 柴本が建てたマンションのせいで祖母を亡くした内藤、弁当に毒を
盛られて危うく一命を取り留めた柳生、その他同級生の男子、琵琶
湖に一緒に旅行した女子生徒達の登場し、学園が舞台となる。
 やがて、ストーリーは、柳生の姉の不倫相手の死、またその姉の
死・・と展開する。このあたりから、アルキメデスや「青春推理」との関
係がわからなくなてくる。最後は一連の話の結末にアルキメデスが関
係していたことが語られるのだが・・・、今ひとつ釈然とししないのは
私だけか。 




 
 
 

 辻  真 先
                        
 辻 真先の作品
 ・北海道・幽霊列車殺人号
 ・上州・湯煙列車殺人号
 ・信州・高原列車列車殺人号
 ・伊豆・踊り子列車殺人号
 ・長崎・ばてれん列車殺人号
                    
 弘前・桜狩り
 列車殺人号
 推理小説のコーナーでよく見かける作家である。古本屋で「弘前・・・」の名
前を目にしたので、さっそく購入。
 軽いタッチの読み物で、探偵役の「瓜生慎」はトラベルライターである。奥さ
んの元財閥令嬢である真由子、高校が決まったばかりの息子・竜とともに、
弘前から五能線・さくら温泉(架空)へと旅をして殺人事件に遭遇するという
ストーリー。

 第一の殺人は、真由子の初恋の人で偶然新幹線に乗り合わせた佐原清
志。ねぶたミュージアム(架空)で絞殺死体で発見されるが、奇妙だったの
は死体の顔を覆うようにブナ材のお盆が置かれていたこと。
 佐原が関係していた15年前の事件を追っている、正義感でキャリアの御
厨(みくりや)警部、佐原と共犯を疑われている九鬼博夫・・・。そして、自殺
志願の萩野奈々、認知症になっている奈々の祖母クラ。自殺のブログをみ
て近づいてきた籠坂、千々岩の二人を巻き込んで、第二、第三の殺人事件
が起こる。

 殺人が簡単に起こること、警察が念入りな捜査をしたりしないこと等で重
厚な感じではなく軽いテンポで話が展開される。
 犯人は予想外の人物なのだが、読んでいて鮮やかな逆転劇や意外性を
あまり感じなかった。


 
 



 
 
 

 伊坂 幸太郎
       
 1971年 千葉県生まれ 東北大学法学部卒業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  96年 サントリーミステリー大賞で、「悪党たちが目にしみる」が佳作。
 2000年  「オーデュポンの祈り」が第5回新潮ミステリー倶楽部賞。
    03年 「アヒルと鴨のコインロッカー」で第25回吉川英治文学新人賞。
   04年 「死神の精度」で第57回日本推理作家協会賞短編部門賞。
                        
 第21回
山本周五郎賞
 
 

ゴールデン

 スランバー
 

 

 表紙の裏の紹介にあった文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  本書は伊坂幸太郎的に娯楽小説に徹したらどうなるか」という発想から
  生まれた。直球勝負のエンターティンメント大作。冴えわたる伏線、忘
  れがたい会話、時間を操る構成力・・・・、すべてのエッセンスを詰め込
  んだ、伊坂小説の集大成である。

 全くその通りだと思う。
 ビートルズのアルバム「アビーロード」に収録されている曲のタイトルが
 このゴールデンスランバーであるという。ポールマッカートニーがイギリス
 の劇作家・トマス・デッカーの子守唄にメロディーをつけたもののようだ。
 宮城出身の金田首相が、仙台市をパレードしている時に、ラジコンヘリ
 に積んだ爆弾で暗殺されるという事件が発生。犯人に仕立て上げられ
 たのは宅配便の社員だった青柳雅春。誰がなんのためにやった暗殺な
 のか。背後の巨大な影・・・。ともかくも青柳雅春は逃げる。友人の森野
 森吾、小野カズ、
 樋口晴子、殺人鬼の三浦、何故か最初の病院の場面から出ていた保
 土ヶ谷康志は裏稼業を生業とする? ギプスをはめた男。青柳雅春が宅
 配便の集配時に助けたというアイドルの女の子も登場する。
 もともと殺人鬼を捕まえる目的で仙台市内に張り巡らせられた「セキュ
 リティポッド」が活躍して青柳雅春を追い詰めていく。
 途中でやめることがことが出来ず、最後まで読ませられてしまったが・。

BEE
 「しあわせなミステリー」の中に収録された一編。
 殺しを家業としている兜は、妻から庭にアシナガバチの巣があるといわ
 れ、駆除に取り組む。
 兜は恐妻家である。
 やがてスズメバチであると知るが、兜は殺虫剤を手に立ち向かう。 
  これはそんなに面白い話でも、サスペンス、ミステリーでもない。

 
 

  
 

 中島 博之・ 
                             
 1955年  茨城県生まれ。早稲田大学法学部卒。・・・・・・・・・・
       横浜弁護士会に所属する弁護士。
       94年、「検察捜査」で第40回江戸川乱歩賞を受賞。
       現役弁護士ならではのリアリティ、高い作家性で、
       リーガル・サスペンスの旗手としてゆるぎない評価
       を得ている。
       著書に「違法弁護」「司法戦争」「第一級殺人弁護」
        (表紙カバーの記載を参考にしました。)
                                                                        
第40回
江戸川乱歩賞受賞作
 

 検察捜査

★★★

 横浜の閑静な高級住宅街で、大物弁護士・西垣文雄が惨殺された。・・
 横浜地裁の美人検察官・岩崎紀美子は捜査を進めるほど、事件の
裏に大きな闇を感じる。日弁連と検察庁、そして、県警の確執・・。現
役弁護士作家が法曹界のタブーを鋭くえぐった・・・。
                         (表紙カバーの解説から) 
 東京高検の司法部長・森本、次長の龍岡、岩崎検事の事務官・伊
藤、そして、たたき上げで態度の悪い県警の刑事・郡司。西垣が担当
した事件(テラックス社の倒産)にかかわった弁護士の駒澤・・。
 後半に起こる第二の殺人事件が局面を一転させる。
 検察官減から端を発して、弁護士会の在り方、検察組織そのももの
見直しなど、根底に作者が投げかけている問題も大きい。
       
 
 





  

 赤井 三尋 (みひろ) 
                            
 1955年  大阪生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。
       ニッポン放送に入社
      小説は30代半ばから書き始め、文学界新人賞や
       江戸川乱歩賞で予選を通過。
    『二十年目の恩讐』(刊行時 改題『翳りゆく夏』)で
     第49回江戸川乱歩賞を受賞した。
        (表紙カバーの記載を参考にしました。)
                                                                        
第49回
江戸川乱歩賞受賞作
 

 翳りゆく夏

★★★

 東西日報に、かつて誘拐犯として死亡した朝倉の娘・比呂子の
入社が内定した・・・これを週刊誌が記事にしてしまった・・これが
事件の発端である。
 人事厚生局長の武藤、社長の杉野は比呂子をなんとか入社さ
せようと動き始める。武藤はかつての誘拐事件を担当した記者。
杉野は社主である「葉山」から事件を洗いなおせという命令を受
けていた。杉野から指名されたのは、かつて武藤と同じ横須賀支
局にいたことのある梶だった。
 20年前の誘拐は朝倉が主犯だったのだろうか。愛人と一緒に
四千万の現金を持って逃走中にパトカーに追い詰められ崖下に
転落死した朝倉。誘拐された赤ん坊はいまだに見つかっていな
い・・・。
 梶は誘拐が行われた病院のかつての院長・大槻を訪ね、当時
の状況を少しずつ再現し始める。犯人の巧妙な現金受け渡し。
警察と別れて行動しなければ赤ん坊の命はない・・・。意を決した
大槻院長は警察を振り切り、最後に歩道橋の上から現金をばら
撒くという意表を突く行動に出た・・・。
 誘拐された子の若い両親のその後の生活、誘拐が起こってい
た時に院長と同席していた証券マン、武藤と息子で朝倉比呂子
の大学の同級生・俊治、武藤の家のお手伝いをしている千代の
過去。
 梶が辿り着いた事件の真相は意外な真実を含ものであった。
  
 ラストシーンは、三年後東西日報の記者となった朝倉比呂子が、
アメリカの報道官から最初のインタビュアーに指名される・・。
月と詐欺師

★★★

 小説の醍醐味を実感できる本。
 お見事のひと言に尽きる。
 構成の見事さに感嘆させれらるばかりでなく、無駄のない文を
  操り、隙なく読み進めさせられる。
 希代の詐欺師を描いた希代の秀作と言える。

 灘尾財閥の灘尾儀一郎は子爵の娘と結婚していたが、美しく
 気高い娘を見染める。儀一郎は計略を持って娘の実家である
 米問屋を破産させ、娘を借金の穴埋めのためとして妾にする。
 両親と、儀一郎の妾にさせられた姉は自殺。
 残れた俊介は修行していた禅寺を出て還俗、儀一郎への復讐
 に向かう・・・。

 舞い戻った大阪で俊介は、自動車修理の会社社長で裏稼業が
 詐欺師と言う春日と出会う。(かぱんを奪った泥棒に足払いをか
 けたのが春日。これは・・・)
 俊介は父からもらった円山応挙の掛軸を一万円で売り、それを
 資金に春日に「仕事」を頼む。(その資金も実は・・・。)

 春日とその仲間、声帯模写が得意のミミック、情報を次々と手に
 入れるインテリ、結婚詐欺師のジゴロ、事務の智恵とともに、巨
 大な灘尾への戦いが開始された・・。

 儀一郎に意見したために首になったうえ、アカと密告され酷い目
 に遭った工学士の小山内、東京の(助っ人)の詐欺師も巻き込ん
 で、壮大な詐欺計画が展開される。

 息詰まるストーリーと無理のない構成にどんどん乗せられてしま
 う。終末にも大きな詐欺が登場するが、読み手に感動を与える
 詐欺である。
 
 最初に登場する(俊介が修行する修証寺の)名僧・。
 時の政府からも一目置かれるこの弦智が最後に登場するのも驚
 き・・・。
 そして、俊介と智恵、春日たちのその後は・・・。

どこかの街の

片隅で








 

 10の短編集
  クリーンスタッフ以外は単純な感じのミステリー・サスペンスである。
    赤井三尋にしては、ちょっと単調。
  クリーン・スタッフの憧憬・・・どもり癖があり、人前に出るのが苦手な娘。
      純朴な娘に光が・・・。感動する話である。
     誘拐の一齣は少し面白い。
 -------------------------------------------------------
 老猿の改心
  金庫破りが金庫に閉じ込められる
 遊園地の一齣
  現金輸送車を襲う計画を偶然聞いた男は犯人たちを脅すが・・
 クリーン・スタッフの憧憬
  このお話は感動する
  テレビ局の清掃をする娘に降りかかるものとは・・
 紙ヒコーキの一齣
  監禁され紙飛行機で助けを求める
 三十年後
  短編のわりに年月を経たお話。ビンゴのゲームが登場
 アリバイの一齣
  余計なアリバイづくり
 青の告白
  同僚の女教師に恋した男が、風邪薬のカプセルに青酸カリをつめる
 善意の一齣
  盗んだ車には赤ん坊が乗っていた。逃走中の車を止めた白バイの
   警官は・・
 花曇り
  これも短編を感じさせない。
  碁の名人の娘の結婚、本因坊との決戦まで。
 誘拐の一齣
  誘拐犯から身代金の要求があり、折りよくやってきた警察官たち・・。
死してなお君を
 本田靖春のノンフィクション「不当逮捕」との著作権上の問題があるため、
回収され絶版となっている本である。

 指揮権発動(法務大臣)にからみ検察をやめて弁護士に転じた敷島だっ
 たが、うまくいかず今は探偵のようなことをして糊口をしのいでいる。
 ある日、かつて造船疑獄で事情聴取をしたことのある華僑の海運会社
 社長・北江から依頼を受ける。行方不明の娘を探してほしいというものだ
 った。
 敷島は中野学校にいたという榊原とともに娼館のある「鳩の街」に入り込
 み、ヤクザの若鮎組と抗争になる。そして、そこで知り合った娼婦の夕子
 と恋に落ちるが・・・。

 売春無防止法の成立に関わる贈収賄、検察内部の権力争いなどがリア
 ルに描かれる。
 吉田茂、岸信介、佐藤栄作など実在の政治家の名前も登場する。

 読ませる文なので、物語の展開にそってどんどん進むが、テーマが今一
 つはっきりしない。
 夕子との出会いとその結末・・・これであれば良いと思ったのだか・・・。

         
 
 

 
     

 川田弥一郎
                                
 1948年  三重県松坂市生まれ。名古屋大学医学部卒。・・・・・・・・・・
       愛知県渥美郡田原町の総合病院に外科医として勤務
       専門は腹部外科
        (表紙カバーの記載を参考にしました。)
                                                                        
第38回
江戸川乱歩賞受賞作
 

 長い廊下

★★★

 総合病院が舞台となり、胃の手術が事件の発端となっている。
 胃の手術を受けた並森行彦は、手術が成功したにも関わらず、
病室に搬送される途中の長い廊下で呼吸停止になり、やがて
死亡。
 医療ミスを問われた医師の窪島だが、いくら考えてみても自分
の麻酔ミスとは思えない。患者の呼吸を確認しないでパラスチミ
ンを打ってしまったために、パラスチミンが切れた後に、手術中に
打ったマッスロンが働き、患者の呼吸を止めてしまったという・・
それは窪島には絶対に考えられないことだった。
 手術後、すぐ次の虫垂炎の手術が入り、病室までの搬送に立
ち会えなかったのがそもそもの原因だった。

 やがて、窪島の前に現れた薬剤師の山岸ちづ子とともに、事件
の解明に取り組む。次々と明らかになる意外な事実。搬送した看
護婦の一人・榊田十和子と、死亡した並森行彦の妻・良美の関
係。
 窪島の同期の乾医師、先輩医師の近田、副院長、М大学の医
局長、虫垂炎の手術を受けた菊地武史の交通事故死、そして関
東医科大学の新郷理事長・・・。
 エピローグで離島の診療所に勤務している窪島の前に現れた
のは・・・・。
 ストーリーが謎解きに終始せず、窪島の生き方にも触れ、ラブス
トーリーの要素も残している。秀作である。 

       
 
 


 不知火京介
                                
 1967年  京都府生まれ。大阪大学経済学部卒。・・・・・・・・・・
       監査法人に約三年勤務。退社後飼料工場、旅館従業員
       学習塾講師、家庭教師、森林組合職員など、さまざまな
       職業を経た後、2003年、「マッチメーク」で第49回江戸川
       乱歩賞受賞。
        (文庫本の記載を参考にしました。)
                              
第49回 
江戸川乱歩賞受賞作
 
 

 マッチメーク

★★★

 ちょっと珍しいプロレス・ミステリー。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「プロレスは八百長ではない。舞台芸術だ。」
 という信念のもと、お客が楽しめるプロレスを展開する新大阪プロ
  レス。
 新人の山田聡は30人の入門志願者が次々と脱落していくなかで、
  本庄とただ二人だけ残って人気レスラーを夢見ていた。
 ある日、会長のダリウス佐々木がタイガー・ガンジンーとの試合中
  に謎の死を遂げてしまった。死因はなんとヤマカガシ(蛇)の毒だと
  言う。対戦相手のタイガー・ガンジンーには動機がない。衆人環視
  のもと、いったどんな仕掛けが・・・。
 やがて門番のレスラー・丹下が最強であることを知り、弟子入りした
  山田は、国会議員でもあった佐々木の死の謎を解明しようとする。
 続いて起こった、丹下の思いがけない死。
 謎を呼ぶ「黒の猫爪カッター」。
 新会長となった鷲田、社長となった信州。丹下の婚約者・静香。
 山田と同郷で人気レスラーの武田。同じく大リーガーのカズヤ。
 同じ柔道部で大学でも続けている大地。同級生の鏡子。
 CWFチャンピオンの兵頭。さまざまな人物を登場させて物語は進
  行。
 犯人はプロレスを愛しプロレスに殺された男だった・・・。
 これは面白い。
 江戸川乱歩賞選考委員の井上夢人が
 「この本を読んだ後、プロレス中継をどこかでやっていないかテレビ
  欄を探してしまった。」
 と言っているが、プロレスの魅力が散りばめられた作品である。
 ミステリーという意味ではちょっと物足りないところがないでもない
  が。


 柳原 慧(やなはら けい)
                                
 1957年  東京生まれ。日本大学芸術学部卒。
       デザイン会社へ勤務後独立。
       現在、株式会社ブレイン代表。
                              
第2回
『このミステリーが
  すごい!』
 大賞受賞作。 
 
 

パーフェクトプラン

★★★

 垣根涼介の「ワイルド・ソウル」を読むのに手間取って、その後
に読んだので、もの凄く読みやすい感じがした。
 代理母の小田桐良江は1回目に産んだ子(第1号)の様子を見
に行き(虐待を知って)その子・三輪俊成を連れ出す。これに歌舞
伎町の店長達が力を貸し、株の操作をして金儲けをするという話
もむ。俊成の父・俊英は「インフィニティ」という投資会社を経営して
いるが、誘拐犯達(Enigma)の一人、張龍生のアドバイスでプチ
整形に関わる会社の株が上がったのを買い、儲けた。
 この本が取り上げるテーマも多い。代理母、胎児や受精卵を使
た若返り法、トロイの木馬という「ウィルス」を使い、他人のパソコ
ンを乗っ取ってしまう陰の男・・。
 この本が2004年に完成したのだから作者はかなりのパソコン
通である。
                                    


 森 詠 (もり えい)
                              

              

1941年  東京生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒。・・・・
      「週刊読書人」記者、フリージャーナリストを経て、
      71年に「黒い龍」で作家デビュー。
      81年「燃える波濤」で第一回日本冒険小説協会大賞・
         感謝感激大長編賞受賞。
      94年、「オサムの朝」で第10回坪田譲治賞を受賞。
       著書に「日本朝鮮戦争」「那珂川青春記」などがあり
       時代小説、青春小説など幅広い分野で執筆を続ける。
                     
 彷徨う警官
(さまよ)
 初めての作家である。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
警察小説は多くなったが秀作も多い。
テレビの再放送で、「ハンチョウ」をやっていたが、それと並行して読ん
だら、ちょっと物足りない感じがした。「ハンチョウ」がそれだけ凄かった
のである。それでも読みごたえはかなりあった。
 内容(「BOOK」データベースより)
警視庁蒲田警察署刑事課強行班捜査係長・北郷雄輝は、高校時代に
起きた強盗殺人事件の犯人をひとり追い続ける。事件で殺害された最
愛の人の無念をはらすために…。多摩川越しにいがみ合う神奈川県警
との確執、突然の公安からの圧力、事件の背後には公安が隠し続けた
北朝鮮絡みの不祥事が…。
法を守るべきか、恋人の無念を晴らすべきか。決断の時が迫る。実力
派作家、久々の本格警察小説。 

 
 


  北村 薫
               
1949年  埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。
       平成元年「空飛ぶ馬」でデビュー。
       平成3年「夜の蝉」で日本推理作家協会賞。
2008年 「鷺と雪」で第141回直木賞受賞
                     
 空飛ぶ馬
 女子大生の(私)が永年のファンであった落語家の春桜亭円紫と知り合
 う(恩師の加茂のインタビューの助手)
 以来、不思議な事件?について、円紫の謎解きを頼む・・・という設定。
  ・織部の霊  加茂先生は子どもの頃、伯父の家で織部切腹の夢を
           見た。織部の絵などもみたことがないのに何故?
  ・砂糖合戦  黙々と喫茶店のテーブルについた三人の女。砂糖を
           次々に入れていく゜わけは?
  ・胡桃の中の鳥  旅先で友だちの車からシートカバーだけが盗まれ
              た・・・。
  ・赤頭巾    公園に現れた赤い服の子どもが夜な夜な立っていると
            いう・・・・。
  ・空飛ぶ馬  酒や食料品を扱う店の若主人・国雄は幼稚園に木馬
           を寄贈した。その木馬がある夜、忽然と姿を消し、い
           つの間にか、またもとに戻っていた?
 北村薫は読みやすい文を書く作家である。機会があれば是非よんでみ
 たいと思っていた。軽いタッチの中に心温まるストーリーもある。
(さぎ)と雪
 エッセイ風の小説?
 淡々とした展開である。
 途中でまどろっこしくなってしまい、リタイア。
  ・不在の父
  ・獅子と地下鉄
  ・鷺と雪
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 内容(「BOOK」データベースより)
 昭和11年2月、運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」
 ほか、華族主人の失踪の謎を解く「不在の父」、補導され口をつぐむ良家の
 少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」の三篇を収録し
 た、昭和初期の上流階級を描くミステリ“ベッキーさん”シリーズ最終巻。
 第141回直木賞受賞作。 

  

     
  
 堂場 瞬一 (どうば・しゅんいち)
           
                    
1963年生まれ 茨城出身。青山学院大学国際政治経済学部卒
          新聞社勤務のかたわら小説を執筆する。
2000年 「8年」にて第13回小説すばる新人賞受賞。
        著書に「刑事・鳴沢了」シリーズの他、「約束の河」
        「神の領域」「標なき道」「焔」「ハッド・トラップ」
        「蒼の悔恨」「棘の街」「天国の罠」などがある。
                     
長き雨の烙印  刑事物を多く読んでいるので、初めての作家という感じがしなかった。
 出所した庄司は冤罪を主張し、野心を持つ弁護士の有田や元教師の本郷
を会長とする「支援する会」の助けを借りる。
 しかし、以前と同じ女児暴行事件が発生し、再逮捕される。20年前に庄司
を逮捕し自白させた脇坂刑事の手によって。
 庄司は本当に犯罪を犯したのか・・・。20年前に殺害された女児の父親で
今は外車の販売で財をなした桑原も登場する。
 庄司の親友であった刑事の伊達と弁護士の有田の行動をもとに物語が展
開し、緊迫した中に読者を引き込み、どんどん読ませてくれた。
 ただ、難を言えば終末が物足りない。桑原が庄司を付け回し・・。
---------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 殺人事件の犯人として連行される親友の庄司を、学生の伊達はただ見送
るしかなかった。
 県警捜査一課で中堅の刑事となった今、服役を終えた庄司が冤罪を申し
立てた。しかし、その直後に再び似通った手口の女児暴行事件が起きる。
伊達は20年前のある記憶を胸に、かつて庄司を逮捕したベテラン刑事・脇
坂と対立しながらも、捜査にあたるが―。 
ラスト・コード
  これは警察という官僚組織を批判した小説かと思ってしまった。
 変わり者で研究者の父親が殺された。家族として接してもらった経験もなく、
アメリカに留学させられた娘の美咲だったが、ただ一人の肉親として帰国す
る。
 渋谷中央署の筒井は美咲を空港で出迎えるよう命令された。
 そして、不可解な襲撃を受ける。それに対して所轄の品川中央署は実にそ
っけない態度をとる。事件性を認めないばかりか、厄介者をみるような態度。
これは何だろう。筒井の所属する渋谷中央署の上司の態度もよそよそしい。
 政治的に圧力がかかっていたのだ。何者も信じられなくなった筒井はかつ
て接触のあった探偵事務所の冴(元警察官)を頼る。
 やがて、警察の問題児・鳴沢了も陰ながら登場する・・・。
 
 筒井はかつて、殺人事件の犯人を追い詰めたが自殺された。その時、警
察上層部はただ組織の安泰を図ることばかりに終始したという過去を引きず
っていた。今回も・・・。
 筒井や鳴沢を泳がせている本庁刑事課や公安の幹部の動きが、筒井達と
同時に描かれ物語は進行する。
 美咲の父親が研究していたのは、ナノマシンという細胞より小さな機械で
あったが、会社であるイギリスの会社が不況で日本の支社は研究を取りや
めるよう言い渡されていた・・。
 解
 新聞記者をしながら小説家を目指す鷹西。
 父親が政治家で、やがて自分も政治家になるつもりだが当面IT産業で金
 を稼ぎ、自立した政治家をめざす大江。
 二人は大学生の頃からの親友である。
 この二人の行き方を交互に描きながら、新聞記者や政治家の世界を描く。
 二人の人生の軌跡を追うのがこの本のテーマであろう。

 思うに、自分は小説の終末がどうなるかを知りたいという一心で読書をして
 きたような気がする。
 しかし、考えてみれば終末は付け足しで、途中の意外な展開や登場人物
 の葛藤、克服などが大事なのかもしれない。
 この本はまさにそうだ。はじめから大江が政治家を引退した堀口を殺し、
 2000万の大金を奪うという事実が示されてしまう。
 新聞記者だった鷹西はその事件が未解決に終わったことにこだわる。そし
 て、時代小説家としてある程度余暇もできた頃、この時効となった事件の
 解明に取り組む。そして、大江に辿り着く・・・。
 大江を追い詰めようとする鷹西。まさにその間際、東北大震災・・・。

 小説は終末ではない、途中の出来事と展開が主かもしれない、そんなこと
 を考えさせられた一冊である。
 大江の妻・敦子の清清しい姿、政治家の妻として健気に振舞う姿も心に残
 る。
 --------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 現代を徹底照射。新しい堂場瞬一がここに。
 平成元年に社会へ船出した大江と鷹西はやがて学生時代の夢を叶え、政
 治家と小説家になる。だが、二人の間には忌まわしい殺人事件の記憶が埋
 もれていた・・・。平成という時代を照射するミステリー。


 
 

  

 柳  広 司 
                              
1967年 三重県生まれ。神戸大学法学部卒・・・・・・・・・・・・・・・
          新聞社勤務のかたわら小説を執筆する。
2001年 「黄金の灰」で第12回朝日新人文学賞受賞。
2006年 「トーキョー・プリズん」が日本推理作家協会賞の
      最終候補になる。
      著書にはじまりの鳥」「聖フランシスコ・ザビエルの首」
      「漱石先生の事件簿 猫の巻」などがある。
                     
ジョーカーゲーム

★★★

 これは面白い。
 秘録・陸軍中野学校など数多くの資料を参考にしたという。
 スパイとは「目立たないこと」という。
 結城大佐が育てた「D機関」の活躍が鮮やかに描かれている傑作。
 この作家の他の本も是非読んでみたい。
---------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 スパイ養成学校""D機関""。常人離れした12人の精鋭。彼らを率
いるカリスマ結城中佐の悪魔的な魅力。小説の醍醐味を存分に詰め
込んだ傑作スパイ・ミステリー。

パラダイス・ロスト

★★★

 ジョーカーゲームの続編。
 これも面白い。
 結城中佐の身元?(生い立ちなど)が暴かれそうになるが・・・。
 中佐ははるか昔にその事態を予想して、虚構の足跡を残していた。
 今回もこのD機関に属する天賦の才能を持つ諜報員が活躍する。
---------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 大日本帝国陸軍内に極秘裏に設立された、スパイ養成学校“D機関”。
「死ぬな。殺すな。とらわれるな」―軍隊組織を真っ向から否定する戒律
を持つこの機関をたった一人で作り上げた結城中佐の正体を暴こうとす
る男が現れた。
 英国タイムズ紙極東特派員アーロン・プライス。だが“魔王”結城は、
まるで幽霊のように、一切足跡を残さない。ある日プライスは、ふとした
発見から結城の意外な生い立ちを知ることとなる―(『追跡』)。
ハワイ沖の豪華客船を舞台にしたシリーズ初の中篇「暗号名ケルベロ
ス」を含む、全5篇。 
ダブル・ジョーカー

★★★

 諜報機関Dシリーズは3冊しか無いようだがこれはその2番目らしい。
 ともかく痛快無比!
 絶対に見破られないD機関のスパイ。
 敵がどんな罠を仕掛けていても、先手を打ち、出し抜いてしまう。
 こんな本を書ける作家は凄いと想う!
 ずば抜けた才能の持ち主である。
  ・ダブルジョーカー
  ・蠅の王
  ・仏印作戦
  ・柩
  ・ブラックバード
    アメリカに派遣されているスパイは
    結婚し、絶対にスパイと疑われないようにしていたが何故か告発
    される・・。
    そこには予想外の仕掛けがあった。着実にアメリカに根付くのだが、
    真珠湾に・・。
---------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 結城中佐率いる異能のスパイ組織“D機関”の暗躍の陰で、もう一つの
 諜報組織“風機関”が設立された。
 その戒律は「躊躇なく殺せ。潔く死ね」。D機関の追い落としを謀る風機
 関に対し、結城中佐が放った驚愕の一手とは?
 表題作「ダブル・ジョーカー」ほか、“魔術師”のコードネームで伝説とな
 ったスパイ時代の結城を描く「柩」など5篇に加え、単行本未収録作
 「眠る男」を特別収録。超話題「ジョーカー・ゲーム」シリーズ第2弾。 
ナイト&シャドウ

★★★

 さすがに柳広司。
 ジョーカーゲームと比べるとダイナミックさと奇想天外の展開という点で
 は少し劣るが。結構楽しめた。(アマゾンのブックレビューには辛口の感
 想もある)
 要人警護の研修のためにアメリカに派遣された首藤は大統領警護のシ
 ークレットサービスに所属する。
 アメリカ大統領の命を狙うものは多い。そのため、暗殺を計画したものは
 極刑となる。
 姉が銃の被害で死亡した美和子は銃撤廃の運動に参加し覚せい剤で
 ナイフを振りかざす男を首藤が取り押さえた事で知り合う。

 姉の残された娘モリー、その父のケイン。
 そして美和子の周りで事件が起こっていく。
 大統領の暗殺計画は以外にところで進んでいた。渡米した
 日本の首相と大統領のミュージカル観劇の場面は臨場感がある。

 首藤は一切の表情を隠し、美和子との「付 き合い」も
 仕事のためと思われた・・・。
--------------------------------------------------
 内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)
 命、信頼、誇り、沈黙。緊迫の展開と衝撃の事実から、SPの護るべきもの
 が浮かび上がる。エンタメに徹した柳広司は、こんなにも凄いのか! 
                     細谷正充(文芸評論家)
 ミステリーでしか表現できない手法でテロ問題に切り込んだ、柳広司の最
 高傑作を見逃すな! 末國善己(文芸評論家)

 矛盾だらけの銃社会アメリカで、不測の事態も予測するSP首藤。この男、
 凄い。円堂都司昭(文芸評論家)

 これぞプロの技。逆転の連続に酔いつつも、読者よ、油断するな。最後の最
 後まで絶対に油断するな。 村上貴史(書評家)

 まんまと作者の術中に嵌まってしまった! 自然な伏線と巧妙な筆致に唸る
 ばかり。 吉野仁(書評家)

 サムライSP、アメリカ上陸。外部に敵を求めがちな時代の空気を斬る新世紀
 謀略小説の白眉! 佳多山大地(ミステリ評論家)

 日本SP最強の男が『ダイ・ハード』を超えた。これはハリウッドで映画化され
 るべき作品だ! 香山二三郎(コラムニスト) 
 ---------------------------------------------------------
 知力、体力、先読み能力―すべてが一級のエリートSP・首藤武紀は、合衆
 国シークレットサービスで“異例の研修”を受けることに。
 初日、銃規制を求めるデモに遭遇した首藤は、突如暴れ出した男を瞬く間に
 制圧し、人質の幼女を助ける。しかしその現場には、大統領暗殺計画を示唆
 する二枚の写真が残されていた。超一流警護官たちに忍び寄る死神の影。
 2014年を撃ち抜く怒涛のオープニング&驚愕のラスト!! 

吾輩はシャーロック・
ホームズである
 夏目漱石がイギリスに渡り、英国文化に触れて文明とは何かについて考
 える。このあたりはわかるのだが、ワトスンの前に現れ、ホームズだと名乗
 る辺りは理解し難い。その奇妙な推理、キャスリーン嬢の前での軽薄な行
 動など、イメージに合わない。

 詐欺師の霊媒師が高齢会の途中で、青酸カリで殺されるのだが、この謎解
 きがずいぶんと遠回りでくどく、延々と物語の中心を占めていく。柳広司独特
 の速いテンポがない。
 文明とは戦争なのだということ、日本文化は漢籍によってもたらされたもの
 であるとか、考えさせられることも書かれているが、いろいろ要素が入りすぎ
 る。倫敦塔で劇の練習をするロバート卿のせいで、魔女の噂が広がったり、

 かつてホームズを出し抜いたアイリス・アドラー。その後イギリス人の法律
 家と結婚して南アフリカに渡り、かの地でなくなったという。その妹がキャス
 リーン嬢で、事件の背後に見え隠れする。
 最後まで頑張って読んだが、この作家にしては焦点の定まらない一冊だっ
 た。
 -------------------------------------------------
 内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)
 ロンドン留学中の夏目漱石が心を病み、自分をシャーロック・ホームズだと
 思い込む。漱石が足繁く通っている教授の計らいで、当分の間、ベーカー街
 221Bにてワトスンと共同生活を送らせ、ホームズとして遇することになった。
 折しも、ヨーロッパで最も有名な霊媒師の降霊会がホテルで行われ、ワトス
 ンと共に参加する漱石。だが、その最中、霊媒師が毒殺されて…。
 ユーモアとペーソスが横溢する第一級のエンターテインメント。 


 
 
 


 藤本 泉
                              
1923年 東京生まれ。日本大学国文科卒業。
1966年に「媼繁盛記」で第6回小説現代新人賞を受賞し文壇にデビュー。
1977年、『時をきざむ潮』で第23回江戸川乱歩賞を受賞。
1986年、西ドイツのケルンに移り住む。
                     
時をきざむ潮

★★★

 これはよみごたえがある。
 東北・三陸の閉ざされた村の一角を舞台にしたミステリー。
 昨今の作家と一味違うのは舞台設定が奇抜な割に、実在しそう
 な共産社会を形成する一帯。それを支える文章力であろう。
 よそ者や「お上」の意向を受け入れない頑なな姿。代々の巡査や
 関係者の不可解な死。文がぎっしり詰まった本なのにどんどん読
 み進めさせられてしまった。
 Wikipediaで調べると、この作家自体が不思議な人生を歩んでいる
 という感じがする。著作も謎めいたものが多い。
---------------------------------------------------
 内容紹介から
 三陸の辺鄙な海岸で、双生児と思われる学生の遺体が車の中か
ら発見された。地元署には、別の学生の捜査依頼が出されていた
が、高館刑事には二つの事件のつながりを直感し、接点を求めて捜
査を開始する。
 事件の舞台となった白蟹村は古い伝承と習俗をもつ閉ざされた社
会であった。刑事の執念の捜査が、まさに核心に迫ったとき、古代
伝承は不気味に甦る。

 

 
 大沢 在昌
                                              
1923年 愛知県生まれ。東海高校卒業。
      慶應義塾大学法学部中退。文化学院中退。
      「感傷の街角」で第1回小説推理新人賞を受賞しデビュー。
1988年 「女王陛下のアルバイト探偵」が「このミステリーがすごい!」
            ランキング15位となる。
1990年 「新宿鮫」がすごい!」ランキング第1位に輝き、ベストセラーとなる。
            同作で第44回日本推理作家協会賞、第12回吉川英治文学新人
     賞をダブル受賞。その後は中心線の「新宿鮫シリーズ」を筆頭に
     数々のハードボイルド・冒険小説を発表。
1993年 「新宿鮫 無間人形」が第110回直木賞
2006年〜2009年 日本推理作家協会理事長。
    
新宿鮫

★★★

 これは文句なしに面白い。
 直木賞を撮ったというのはちょっと意外だが・・・。
 読み始めて数ページで、以前に読んだことがあると気付いた。
 しかし、忘れていることが多いので、時間をかけて全部読んでしまった。
 分厚い本でちょっと手ごわかったが、どんどん読み進められた。
---------------------------------------------------
 内容紹介から
 新宿の街の闇でひそかに「アイスキャンディ」と呼ばれる新型の覚醒剤が
 売られていた。その密売ルートを追う鮫島の前に立ちはだかる、暴力団と
 地方財閥の兄弟たち。事件を追いつめる鮫島だったが、悪の手は鮫島の
 恋人・晶にも迫る。絶体絶命の危機に落ちた晶。
 果たして鮫島は恋人を救うことができるのか。 
語り続けろ、届くまで

★★★

 これは単純に面白い。大衆向けサスペンスといったところ。
 老人向けの煎餅を宣伝するため、老人会にボランティアで行っていた坂
 田は、ホモらしき玉井からセールスマン向けの 講演の講師を頼まれた。
 まもなく坂田の前に現れた刑事二人によれば、玉井は詐欺師だという。
 3億円の金を騙し取ったために、ヤクザにも追われているらしい。
 講演会場に前夜打ち合わせに行った坂田は、ヤクザらしき三浦の死体を
 発見した。
 これまで、大阪と北海道でヤクザやロシアマフィアとの争いに巻き込まれ
 危険な状態に陥りながらも、うまく生き延びてきた坂田に再び降りかかる
 災難。坂田はどう乗り切るか・・・。
 ボランティア仲間の咲子、教授、姫、ユキオさん、玉井の母、そして、
 ヤクザの黒崎、中尾、トニー健・・・。
 玉井が手に入れた3億円はどこに消えたのか、謎を追いかける坂田。
 ヤクザとの行き詰る駆け引きが読み手を離さない。
海と月の迷路
 軍艦島を舞台にしている。
 他の作家もここを舞台にしたものがあるが、この本は島の全体を細かに
 描いている。
 最初の部分で延々島の建物や施設、周囲などが語られ、クリアしようか
 と思った。
 少女が行方不明になるという事件が起こってから、俄かに目が離せなく
 なった。少女は男を引き入れ金を取っている母のところに帰りたくなかっ
 た。そして・・・やがて死体で海に浮かぶ。
 自殺か事故か。
 派出所の巡査・荒巻は、組夫の長谷川が言った「満月の夜に・・」という
 言葉と、「髪を切られてないかったか・・」という、言葉に引っかかる。
 長谷川が犯人かと行動を監視し、調べ始めた荒巻は長谷川の前歴を
 知り、別な方面に目を向ける。
 8年前にも少女が亡くなっていること、さらに終戦前後に東京で似たよう
 な少女殺害があったことなどがわかってくる・・・。
 550ページ程の本だが、中盤からどんどん読ませられた。
 秀作ではあるが・・・長い・・。
 人に読ませるという目標があれば、もっと文を精選すべきではないだろ
 うか。
---------------------------------------------------
 内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)から

 昭和34年。海に閉ざされた炭坑の島で満月の夜に一人の少女が不審死
 を遂げた。
 殺人事件を疑う若き警察官・荒巻の“許されざる捜査"は、しきたりや掟に
 支配された島に波紋を広げていく。
 暴かれていく人びとの過去、突きつけられる「警察官不適格」の烙印。
 いま警察の正義は守られるのか。
 次の満月、殺人者はふたたび動き出す――。 


 

  
 

 吉川  英梨
                              

              

1977年 埼玉県生まれ
 第三回日本ラブストーリー大賞エンターテインメント特別賞受賞。
2008年に「私の結婚に関する予言38」にてデビュー。
                     
18番テーブルの幽霊
 「しあわせなミステリー」に収録された一遍。
 火曜日になると決まって予約が入るが、依頼主はやってこない。
 そんなイタリアレストラン。
 そこへ爆弾魔が、逃走してやってくる。女性秘匿捜査官・原麻希シリーズ
 のスピンオフ作品ということだが、いまひとつサスペンスに欠ける。

 
 

  
 
 

 赤城 毅 (あかぎ つよし)
                              

              

1961年生まれ 東京都出身。
1998年 「魔大陸の鷹」三部作でデビュー。
   最新作に「氷海のウラヌス」「亡国の本質」「書物輪舞」
 http:/www.wrightstaff.co.jp/
                     
天皇の代理人

★★★

 これは面白い。
 フィクションなのか、ノンフィクションなのか、考えてしまう・・・。
 参照文献として40冊も掲げられているから、かなり史実を無重視した
 のは間違いないところ。
 登場人物も主役の二人を除けば、実在であるらしい。吉田閣下など。

 日本が中国らに進出。ドイツと結んで第二次世界対戦に参戦。
 そして、敗戦濃厚となりアメリカと平和条約を結ぼうとする、その流れ
 の中で、活躍する外交官と謎の「特命全権大使」。
 この特命全権大使・砂谷周一郎が異才を発揮し、緻密な計画と冷静
 沈着に行動する。ドイツとの条約阻止、アメリカとの講和のために縦横
 無尽の活躍ぶりをみせる。

 話の発端は銀座のバー「しぇりー博物館」で、「僕」が津村老人と知り
 合い、津村老人が経験談を語るというところから始まる・・・。
 中国の犯罪組織の暗躍、ドイツの防共協定、三重スパイ、日本和平
 工作に関わる人物の列車移動の護衛・・・。

 津村と砂谷が活躍する舞台に一緒に立てる・・・そんな感じでどんどん
 読み進められた。 
 「天皇の代理人」の意味は最後に明かされる。
---------------------------------------------------
 内容紹介から
 日本・イギリス・ドイツ・スイスの4国で起こった戦前外交の秘史を追う、
 ふたりの外交官。4つの事件は真実なのか、つくり話なのか―。
 ヨーロッパを舞台に秘密外交官の暗躍を描く、日本昭和史の物語。 


 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 原 宏一
                    
              
1954年 長野県生まれ 茨城県育ち。早稲田大学卒。
      コピーライターを経て
1997年 「かつどん協議会」でデビュー。
     書店員の熱心な応援により、
2001年 文庫化された「床下仙人」が2007年にベストセラーに
     なる。啓文堂書店おすすめ文庫大賞にも選ばれた。
     著書に「トイレのポツポツ」「東京箱庭鉄道」
         「へんてこ隣人図鑑」「極楽カンパニー」など。
                     
ヤッさん
 

★★★

 これは無類の痛快面白話。
 こんなホームレスは存在しないと思うし、完全な作り物という感じな
 のだが、人としての生き方が痛切に語られどんどん読み進めさせら
 れる。
 この作家に出会えたのは幸運である。
 続けていろいろ読んでみたい。
 タカオが雑誌記者の思惑に嵌り、予想外の記事を書かれて、信用を
 失墜。ヤッさんと別れて元の汚いホームレスに逆戻りするんが、自分
 を騙した女記者が依然として節操のない記事を書いていることを知り
 ・・・。復帰する場面が心に残る。
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内容(「BOOK」データベースより)
 誰が呼んだか“銀座のヤス”。親しみ込めて“ヤッさん”。築地市場と
 一流料理店を走って回り、頼られる謎の男。自分がなぜ宿無しかは
 語らないが、驚きの舌と食の知識を持つ。
 新米ホームレスのタカオは、ひょんなことからヤッさんに弟子入りして、
 「驚愕のグルメ生活」を味わうことに。
 市場も銀座も、最高に旨くて、人情はあったかくて、さっぱりと気持ち
 がいい。だが、誇りを持って働く現場には事件も起こる。ヤッさん&タ
 カオの名コンビが、今日も走る。 


 樋口 有介
                    
              
 群馬県前橋市生まれ 「ぼくと、ぼくらの夏」で第6回サントリー
 ミステリー大賞読者賞を受賞。
 「風少女」が第103回直木賞候補となる。

 主な著書に「彼女はたぶん魔法を使う」に始まる(柚木草平シリーズ)、
 時代小説 船宿たき川捕物暦」のほか、
 「林檎の木の道」「木野塚探偵事務所だ」「月への梯子」
 「夏の口紅」「海泡」「雨の匂い」「ピース」「11月そして12月」
 「刑事さん、さようなら」などがある。

                     
猿の悲しみ
 

★★★


 ミステリーとサスペンスを楽しみながら気楽に読める一冊である。 

 弁護士事務所の調査員、汚れ役引受係?の風町サエ。
 16歳で妊娠。仲間から抜けようとして、喧嘩沙汰を起こして殺人を犯してし
 まう。服役、出所後、息子の聖也ヲ抱え、この仕事を続けて7年。
 今回は二つの事案を調査。
 ひとつはプロ野球選手と離婚して3億円をせしめようという女の身元調査。
 女に不利なことを見つけ出して、3億円をまけさせようという男からの依頼
 である。
 もう一つは殺人事件の調査。
 出版コーディネーターの東宮路子が殺され、第一発見者の水沼が疑われ
 る。その水沼も殺される。犯人の狙いは?
  水沼の父はキャリアの公務員の隠し子だった。父親は大手の電機メーカ
 ーの娘と結婚し子どももいる。妻の姉は友愛協会という慈善団体で、集ま
 った寄付金の25パーセント(20億円)を「経費」として遣っているという・・。
 
 風町サエのキャラクターが独特で面白い。
 登場する人物が意外な面を表すのも意外性がある。
 
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内容(「BOOK」データベースより)
 殺人罪で服役8年、独身、16歳不登校の息子あり。職業:弁護士事務所の
 美脚調査員風町サエ32歳。ついでに命じられた殺人事件の調査。歪んだ
 愛の発端は34年前に遡る―口は悪いが情に厚い。
 著者渾身の長編ハードボイルド。 

風少女
 

★★★

 意外な結末、女の友情や嫉妬など切実なテーマを含んでいるのだが
 この読後感の爽やかさは何だろう。
 死んだ川村麗子の妹・千里の存在が大きかったのだ。
 犯人と話をし、東京へ戻るぼく・斎木。その前に突然現れた智里。
 学校を抜け出してやってきた智里は、最後に列車が動き出すと、「ホーム
 のベンチにぴょんと飛び乗り、目いっぱい背伸びをして、いーっとあかんべ
 えをした・・・・。」
 これである。
 小説はこれで終わらなくてはいけない。
 清々しさと夢、明日への展望を明るくしてくれる・・・そんな本がここにあっ
 た。
 この本が直木賞候補となるのも嬉しい。
 麗子に想いを寄せた竹内は遺書を残して自殺。
 かつて東大をめざし、今はスナックのマスター、氏家。小学校から氏家が
 好きで今も期待している女。
 圧倒的に綺麗で頭のよかった麗子のために、陰のような存在になってし
 まった同級生の女の子。
 不良仲間だった亀崎が付き合っている田中由美子が言う、
 「綺麗に生まれたからって、死ぬときは同じ・・・。綺麗だからって特別幸
  せになれるわけでもない・・・」
 この言葉、深く考えさせられる。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 赤城下ろしがふきすさぶ、寒い2月。父親の危篤の報を受けた斎木亮は、
 前橋駅に降り立った。そこで初恋の女性の妹・川村千里と偶然に出会う。
 彼女の口から初めて聞かされる、姉・麗子の死。睡眠薬を飲んで浴室で
 事故死、という警察の見解に納得のいかない、亮と千里は独自に調査を
 開始する。最近まで麗子と付き合いのあった中学時代の同級生を、訪ね
 るが――。
 著者の地元、前橋を舞台に一途な若者たちを描いた青春ミステリの傑作。
 風景を見る犬


















 

 沖縄を舞台にしている。
 沖縄の経済状態、人と人の関わり(密なこと)、生きるための仕事、そして
 儲けるためのいい加減さ・・・。
 売春宿を代々の仕事と考える母、町内の顔役?。探偵団も容易に組織で
 きる・・・。
 主役の香太朗は、アルバイト先でちょっと親しくした女が殺され、売春宿
 の一つのママが殺された事件に遭遇しする・・・。
 香太郎を取り巻く、幼なじみで医院の子・彩南、バイト先・アミーゴの経営
 者の娘(大学の博士課程? しかし変な女である)、殺された真巳子の妹で
 高校生の朋実。警察の反町・・・。
 沖縄を考えるきっかけにはなる。
 ミステリーとしては、ちょっと緩慢。犯人は予期しない人物だが、悲しさが
 漂う・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 青春ミステリーの異才・樋口有介が初めて沖縄の「今」を題材にして書下
 ろした長編小説。
 暑熱にうだる那覇市の旧赤線街で起きた二つの殺人事件に遭遇した高
 校3年生の青春は、一気に泡立ってしまう。 
 野良犬だから、見えるものがある。

 


 麻耶 雄嵩
                    
              
1969年 三重県上野市(現伊賀市)出身。京都大学工学部卒業
      
1991年 島田荘司、綾辻行人、法月倫太郎の推薦を受け、
      「翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件」でデビュー。
2011年 「隻眼の少女」で第64回日本推理作家協会賞、
      第11回本格ミステリ大賞受賞
                     
貴族探偵対女探偵  最初の「白きを見れば」を半分読んだあたりでクリア
 私の読解力が足りないのだろう。
 臨場感をあまり感じることが出来ず、ついて行けなくなってしまった・・。
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内容(「BOOK」データベースより)
 「貴族探偵」を名乗る謎の男が活躍する、本格ミステリーシリーズ第2弾! 
 今回は新米女探偵・高徳愛香が、すべてにおいて型破りな「貴族探偵」と
 対決! 期待を裏切らない傑作トリックの5編収録。 

 


 伊兼(いがね)源太郎
                    
              
1978年 東京都三鷹市生まれ。上智大学法学部卒業。
      新聞社勤務などを経て、
2013年 「見えざる網」で第33回横溝正史ミステリ大賞を
      受賞し作家デビュー。
2009年から2011年まで3回連続で江戸川乱歩賞の最終候補、
2010年には松本清張賞の最終候補に残っていた。
                     
 事故調
 作者が言いたいことはわかる。
 市役所の役所体質、自分の職責を全うしてしているようで、誰も責任を
 とらない。上へ上へと報告をあげる・・・上は上で下が処理したものとす
 る・・・。また、上がやったことに異を唱え、「浄化」しようとすれば酷い目
 に遭う・・・。
 この告発人は意外な人物であるのだが、それも腑に落ちない。
 もっとダイナミックにして、緻密な構成にできなかっただろうか。
 黒木の立ち位置が何となくはっきりしない。上司の佐川もそうだ。
 もっと明確にして、それが180度変わる場面を劇的に描いてほしかっ
 た。
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内容(「BOOK」データベースより)
 志村市の人工海岸で、幼い男児が砂に埋まり意識不明の重体となると
 いう痛ましい事故が起きた。回避できない事故と主張しようとする市に
 対し、世論は管理責任を問う。
 刑事から市役所への転職を経て広報課に勤める黒木は、経験と人脈を
 かわれて市長からの特命を帯び、被害者の家族や事故調査委員会の
 窓口役を任される。
 穏便に仕事を終わらせようと粛々と物事を進めていた黒木だが、届いた
 告発文から、事故には重大な見落としがあると気づいて―。
 実力派横溝賞作家が到達した人間ドラマの極北。
 静かに熱を帯びた男が、人工海岸陥没事故の真相究明に立ち上がる! 

 


 内山 純
                    
              
1963年 神奈川県出身。立教大学卒業。現在自営業。
      女流作家。
2014年、『B(ビリヤード)ハナブサへようこそ』で
      第24回鮎川哲也賞を受賞。
                     
 Bハナブサへ
ようこそ

★★★

 

 文章がぎっしり詰まっているが、そのわりにかるいタッチで読みやすい。
  ビリヤードの用語にかこつけた「バンキング」「スクラッチ」「テケテケ」
 「マスワリ」の4話。
 トリックは、4話「マスワリ」を除くと大したものではない。
 事件現場に居た者たちが見逃したこと、警察の捜査が手抜だったこと、
 それらをうまくつなぎ合わせて謎を解く。
 最初は解決が難しい事件価値言うん感じがするが、謎解きをされてみ
 ると、とんでもなく意外というわけでもない。
 4話に登場する、母屋とビリヤード室を地下通路でつなぐ構造。ここを利
 用した時間差、母屋とビリヤード室の前についていた防犯カメラ・・・こ
 れらを巧みに取り込んだ手腕は素晴らしい。
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内容(「BOOK」データベースより)
 僕―中央―は、大学院に通いながら、元世界チャンプ・英雄一郎先生が
 経営する、良く言えばレトロな「ビリヤードハナブサ」でアルバイトをしてい
 る。
 ビリヤードは奥が深く、理論的なゲームだ。そのせいか、常連客たちはい
 つも議論しながらプレーしている。いや、最近はプレーそっちのけで各人
 が巻き込まれた事件について議論していることもしばしばだ。
 今も、常連客の一人が会社で起きた不審死の話を始めてしまった。
 いいのかな、球を撞いてくれないと店の売り上げにならないのだが。
 気を揉みながらみんなの推理に耳を傾けていると、僕にある閃きが…。
 この店には今日もまた不思議な事件が持ち込まれ、推理談義に花が咲
 く―。事件解決の鍵はビリヤードにあり。安楽椅子探偵、中央のデビュー
 戦。
 第24回鮎川哲也賞受賞作。