三浦  綾子??
    
 読書MLで懐かしい作家が話題になりました。以前この
方の2冊の本を読んで人間としての生き方を考えさせられ
ました。
 世の中を上手に渡るとか、人と表面的に万事抜かりなく
つきあうとか・・・・・・そういう考え方とは異なる、人間とし
て為すべきこと・・・原点を問い掛けるものでした。  
                
 
 泥流地帯 
 大正15年5月、十勝岳大噴火。自然の災禍は人々の暮らしにかかわりなく
襲いかかりすべてを泥の下に沈めた。 
 生活の厳しさに耐え、貧しさにも親の不在にも耐えて、明るく誠実に生きてき
た、拓一・耕作兄弟にも、泥流は容赦なくおしよせる。      
 突然の火山爆発、家も学校も恋も夢も、泥流が一気に押し流してゆく・・・・・。 
 真面目に生きても無意味ではないのか、それとも・・・・・・・・・・・・・・・
                             (カバーの解説から)  
 塩狩峠 
 暴走する列車、おびえる乗客。ハンド・ブレーキを握る信夫はとっさに線路に
飛び降りた。列車は不気味にきしんで信夫の上に乗り上げた・・・・・。
 明治末年、北海道旭川の塩狩峠・・・・・乗客の命を救うため自らを犠牲にし
た一青年の愛と信仰に貫かれた生涯をたどり、人間存在の意味を問う。
 無垢の魂が、いかに愛し、悩み、自己と闘ったか・・・・原罪の意識に目覚め
た人間の心の葛藤が実在のモデルを得て、迫真の筆致で描かれる。 
                             (カバーの解説から)     
   
  


  

 船 山  馨
    

 知人が、「もっとも印象に残った本」と言われて挙げたのがこの作家の「石狩平野」である。
さすがに、この本上・下 2冊を前にした時は、読み始めるのに「決心」が必要だった。
 しかし、読んでみると、これは確かに必読の一冊である。(★が3はつくであろう大作であ
る。)遥か昔に、パールバックの「大地」を読んだ時の感動を忘れないが、この本を読んだこ
とも終生忘れないだろう。日本にもこんな本を書けの作家がいたことを誇りに思う。
 石狩平野は余裕が出たら再読してみたい本の一つである。

 本の裏にある解説にあらすじが凝縮されている。
 

  

石狩平野

  上

★★★

 昭和初期、高岡鶴代の一家は開拓民として北海道に渡った。
13歳の時、開拓史の役人伊住家の女中になった鶴代は、伊住の
息子次郎を愛するが悲恋に終り、妊娠したまま壮太と結婚して明
子を産む。
 荒涼たる北海道を舞台に、大自然の猛威と時代の変革の怒涛を
毅然と受けとめ、健気にも戦い抜く鶴代の明るく強靭な生涯を描く
爽快な人間讃歌。本巻は鶴代の少女時代から中年期までを描く。
                             (解説から)
石狩平野

  下

★★★

 時代は変って大正・昭和の日本は激動期を迎え、歴史の波は北
海道をも包む。
 軍国主義の高揚していく中で、鶴代は、夫の壮太をはじめ息子、
娘夫婦。孫娘夫婦を次々に失い、孫娘の遺児二人とともに残され
る・・・・。
 歴史のただ中に立ち、不屈の闘志を持って石狩の大地とともに生
きる鶴代を通して近代日本百年の歩みと人間の限りない生命力を
追及した大作の完結編である。            (解説から)
  
  

    
  
  
   庄野  潤三??
    
大阪府出身。大阪外国語大学英語科卒業後
        九州帝国大学法文学部卒業
 高校教員、朝日放送社員を経て作家。
1954年 - 『プールサイド小景』で芥川賞
1960年 - 『静物』で新潮社文学賞
1965年 - 『夕べの雲』で読売文学賞小説賞
1969年 - 『紺野機業場』で芸術選奨文部大臣賞
1971年 - 『絵合せ』で野間文芸賞
1972年 - 『明夫と良二』で毎日出版文化賞、赤い鳥文学賞
 
                
 
夕べの雲

 ★★★ 

 名作である。
 「多摩丘陵の丘の一つの頂上に大浦一家の家がある。その大浦一家の夏の
  終わりから冬にかけての日常生活が穏やかな筆で描かれている。筋らしい
  ものは何もない。だから事件も起こらないし、問題もない。・・・・・ 」
 解説にこう書いてあるが全くその通りである。それなのに何故か読者を惹きつ
 け、最後まで読ませてしまう。
 これは何だろう。やはりこの作家の語り口である。こちらの心の奥にある子ど
 もの頃の思い出や家族愛の中に、ごく自然に入り込んでくるのである。
 ムカデや大きな甕、期末テスト・・。晴子、安雄、正次郎のに兄弟。
プールサイド小景  「夕べの雲」が良かったので、芥川賞をとったというこの作品を読んでみた。
 小編である。
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 夫は子ども二人をプールに連れて行きスクールで泳がせている。
 夕暮れ時、妻が向かえに来る・・・一見幸福で平凡な家庭。
 しかし、夫は会社の金を使い込み解雇されていた・・。
 先の見えない生活へのに不安。夫について知らないことが多いのに気づい
 た妻。
 「夫は帰ってくるだろうか。無事に帰ってきてくれさえすればいい。失業者だ
 って、何だってかまわない。この家から離れないでいてくれたら・・・。」
 どうも読後感がすっきりしない。純文学だとどうしてもこうなるのだろうか・・。
   
   


 

   志水  辰夫??
       
 老年にさしかかる主人公の生に対する思い、家族への心遣い、周囲の人への思いやり・・
それらが、時や場を変えて、幾つもの短編の中に描かれている。老いていく自分を退廃的にみ
ているようでいてそうではない。                               
 志水辰夫という作家についての知識がまったくないままに読んだ。    
 ミステリーを読んだ後に読むと、その文体のしっかりしていることにホットする。物語の舞台の
中に読み手をしっかり導いてくれる。
            
 いまひとたぴの 
 5つの短編からなっている (新潮社)・・・・・・・・・・・・・・・・
  ・赤いバス     ・七年のち  ・夏の終わりに 
  ・トンネルの向こうで
  ・忘れ水の記   ・海の沈黙  ・ゆうあかり 
  ・嘘    
  ・いまひとたびの
 小説新潮に載せられたものを一冊にしている。
みのたけの春
 北但馬の貞岡に住む郷士の榊原清吉。養蚕をしながら、
尚古館で剣術、三省庵で儒学を学んでいる。幼なじみの
諸井民三郎は貧乏ながら弟二人と妹、祖母の面倒をみて
いる。
 この二人を取り巻く人々と周囲で起こる出来事が物語の
中心である。時あたかも幕末で、倒幕運動にも翻弄される。
丁寧に描き込まれた作品だと思う。ダイナミックな展開や
読後感の爽やかさはあまり感じられない。

内容(「BOOK」データベースより)
時は幕末。北但馬の農村で暮らす清吉は、病身の母と借
金を抱えながらつましい暮らしを送っていた。ある日、私塾
仲間の民三郎が刃傷沙汰を引き起こしてしまう。友を救お
うと立ち上がる清吉。だがこの一件の波紋は思わぬ形で
広がってゆき―。若者たちが「新しい国」という夢に浮かさ
れた時代、変わりばえのしない日々のなかに己の生きる
道を見出そうとした男の姿を描く、傑作時代小説。 

夜去る川
 この作家の三冊目の本。
 派手な舞台設定や登場人物がなく、たんたんとした展開である。
 太刀まわりも切実感がなく、ちょっと物足りない。
文芸春秋の内容紹介から
 黒船が来航した年、檜山喜平次は素性を隠して渡良瀬川のほとりで
渡し舟の船頭となっていた。じつは喜平次は剣術指南だった父を盗賊
一味に殺され、敵討ちのために藩を出て流浪の身となっていたのだ。
 だが時代は転換期を迎え、敵討ちという古臭い重荷を背負わされた
喜平次は、武士たる己の進むべき道をどう見極めるのか――。
舞台は幕末でも、「シミタツ節」と呼ばれたリリシズムと格調高い文体
は健在。2年半ぶりの書下ろし長篇。
  
   

        
  
    
   
 
     
 五 木 寛 之
    
1932年  福岡県八女市出身。 
       早稲田大学第一文学部露文学科入学(中途退学)
       生後まもなく朝鮮半島に渡る。終戦後引き揚げる。
       本性の「松延」から夫人の親類の跡を継ぎ、五木姓を名乗る。

 1966年 第6回小説現代新人賞受賞 「さらばモスクワ愚連隊」
 1967年 第56回直木賞受賞 「蒼ざめた馬を見よ」
 1976年 第10回吉川英治文学賞受賞 「青春の門・筑豊編」
 2002年 菊池寛賞受賞。
 2002年 ブック・オブ・ザ・イヤースピリチュアル部門受賞 「TARIKI」
 2010年 第64回毎日出版文化賞特別賞受賞 「親鸞」上・下
 

              
親鸞と道元

★★★

 二人の作家の対談を掘り起こしたものである。
 私は曹洞宗なので、親鸞は相容れないところもあるが、真の仏教を追い
 求めた聖人ということで、関心をもっている。
 この書で改めて「死後の世界」ではなく、現世を生き切ることの大切さ考
 えさせられた。
 仏教=葬式のイメージから、極楽浄土は死後の世界と考えがちだが、釈
 迦も死後のことは語っていないのである。
 生物の輪廻、前世、業・・・人は望んで今の場に生まれてきたわけでは
 ない。しかし、生まれてきた場で生きるしかない。この意味は深い。

 また、仏教は書によって伝えるものではなく、師から直伝によって(口調
 やその時の態度など・・)伝えるものだということ・・これは重要だと思っ
 た。釈迦は、おそらく真理を悟られたのだろう。しかし、その真理は正しく
 伝わっているのだろうか・・・。釈迦の時代、文字はあったのに、書に表
 わしていない・・これも注目すべきである。
 対談集なので読みやすかったが、深く考えさせられる一冊だった。
 立松和平の書を続けて読んでみたいと思った。
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「内容(「BOOK」データベースより)
 長年、親鸞への想いを綴り続け、長編小説『親鸞』を発表した五木氏と、
 10年にわたって「道元」を連載し、2007年に単行本化した『道元禅師』が、
 泉鏡花賞、親鸞賞を受賞した立松氏。
 この両者が、ほぼ同時代に生きた二人の宗教者を対比して、何がちがい
 何が共通しているのかを探ろうとする対談。対談は断続的に行われ、の
 べ15時間に及んだが、立松氏の突然の死をもって終了した。
 本書には、五木寛之氏による、初めての立松氏への追悼文も収録され
 ている。 

著者からのコメント

 『親鸞と道元』の内容は、長い長い立松和平さんとの縁のなかから、自
 然に浮かびあがってきた主題である。
 この一冊のなかでふれているように、親鸞と道元の立場は大きくちがう。
 それにもかかわらず、宗教の根本精神において両者は火花を散らせて
 スパークする一瞬がある。
 それは究極の救いと悟りを、人間と宇宙の深い闇を照らす光として直感
 している点である。親鸞は「無碍光(むげこう)」という。道元は「一顆明珠
 (いっかみょうじゅ)」という。
 両者はそこに全宇宙と自己とが無限の光にみたされる瞬間を思い描くの
 だ。
 この連続対話は、エンドレスな語りを想定してはじまり、立松和平さんの
 死とともに終った。  

親鸞 

完結編 上

★★★

 親鸞より、周囲の者たちの陰謀やせめぎ合いの描くページが多く、小説
 を読む醍醐味もある。といって、親鸞の法然に対する想いや念仏に込め
 る願いがあいまいになるというわけではない。逆に周囲の出来事を描く
 ことによって浄土真宗の本瑞に迫っているのは不思議である。この作家
 の才能の計り知れないところであろう。文も非常に読みやすく、物語の
 舞台の中に自然に入っていける。
  ・親鸞の息子・善鸞の苦悩、行動的な妻・涼の夫を親鸞の跡継ぎにし
   たいという想い。親鸞の娘で夫の死去によって、子どもと親鸞のもと
   に身を寄せた覚信との諍い。
  ・昔人買いに売られたが商売に成功して大陸から日本に帰ってきた竜
   夫人は親鸞のために動いているように見えるが・・。
  ・覚蓮坊、かつて親鸞と比叡山でともに修行した怪僧は今は都の裏社
   会を牛耳り、親鸞の「教行信証」を盗み出させようとする。
  ・覚蓮坊と繋がりを持つ材木商・葛山申丸は大望のを抱く、一筋縄では
   いかない男
  ・葛山申丸に使える常吉は竜夫人に心酔し、得体のしれない動きをす
   る。
  ・覚蓮坊、葛山申丸と組む印地の党の若頭、借り上げの元締め・・。
 親鸞とこれらの者たちとの接点は上巻では語られない。
 弟子の唯円と問答する場面が描かれる。
 唯円「法然上人は、ただ念仏せよ、と教えられたと聞きました。疑いなが
     らも念仏するがよいと、いうことではないでしょうか。」
 親鸞「ただ念仏すれば浄土へ行けると、はおっしゃらなかった。」
    「死んだ後、自分は光の国に行くのだ、と固く信じたとき、生きてい
     ることが喜びとなる。死後の不安を抱えている限り、人は幸せに
     はなれぬ」
 唯円は親鸞の言葉のすべてを完全に理解できたわけではなかったが、
 親鸞が自分を正面から受けとめてくれているということははっきりわかっ
 た・・・。
 やはり親鸞上人の教えは難しいと思う。
 下巻に期待したい。凡人の私にもわかるように願いつつ・・・。
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「内容(「BOOK」データベースより)
 最初の作品『親鸞』(2008年9月1日~2009年8月31日連載)では、京都を
 舞台に比叡山で修行に励みつつ煩悩に苦しむ、8~35歳の若き日の親鸞
 が青春群像劇として生き生きと描かれました。次に前作『親鸞 激動篇』
 (2011年1月1日~12月12日連載)。
 越後へ追放され、そして関東を流浪する親鸞。土地の人々と交わるなか
 で、師の教えに追いつき追い越そうと苦悩する、36~61歳の姿が活写され
 ました。
 そして待望の第三部では、親鸞は京都へ帰還します。最も多くの業績を
 残したといわれる61歳から90歳までの、師を超えていく聖人の軌跡が、
 活気あふれる群像劇として綴られるのです。 

 信心と家族愛の間でゆれ動く、親鸞の真の姿―。
 20数年ぶりにもどった都では、陰謀が渦巻いていた! 

親鸞 

完結編 下

★★★

 親鸞と覚蓮坊の確執に終止符が打たれる。
 そして、親鸞の死。
 下巻は目が離せず一気に読んでしまった。
 親鸞を小説仕立てにした五木寛之の、まさに渾身の一作である。

 竜夫人が建立した寺に集まる念仏衆徒を一網打尽にしようと図った覚蓮
 坊だったが、にわかに現れた外道院金剛大権現に阻まれ、竜夫人の警
 護の者に倒された。
 竜夫人は宋に去った。
 葛山申麻呂は一商人に戻る。 

 親鸞の死期が近づく。
 娘の覚信は親鸞を家族愛も超えた「菩薩」ではないかと思い始めた。
 「親鸞さまが往生なさる時は、きっと驚くような奇瑞がおこるはずです。
  私たちはそれをしっかりとみとどけて、世の人々に伝えなければなりま
  せん。」

 親鸞はその日、朝から呼吸がとぎれたり、また大きくあえいだりしながら
 少しずつ静かになり、やがて昼過ぎに口をかすかに開いたまま息絶えた。
 自然な死だった・・・。覚信が期待していたような奇瑞は、なにもおこらな
 かった。 

 自らを悪人であるという親鸞。一人の人間として生と死を真摯に見つめ
 畏れる・・・そんな親鸞の人間らしさを感じた。

 釈迦も死については黙して語らなかった・・・共通するものが有るのかもし
 れない。

              
燃える秋
メルセデスの伝説
男だけの世界
白夜物語
遙かなるカミニト
こがね虫たちの夜
ガウディの夏
青春の門 自立編・上
青春の門 筑豊編・下
生きるヒント
日ノ影村の一族
雨の日には車をみがいて
蓮如物語
   
  



            
辻  仁 成
      
 1959年生まれ。78年 函館西航行卒業、成城大学入学。
  89年 「ピアニシモ」で第13回すばる文学賞受賞。
  94年 「母なる凪と父なる時化」で第110回芥川賞候補となる。
  96年「アンチノイズ」で第9回三島賞候補となる。
  97年「海峡の光」で第116回 芥川賞受賞
         
 海峡の光 
 少年刑務所で看守として働く「私」の前に現れた一人の受刑者。彼は子供
のころ「私」を標的にして執拗に繰り返されたいじめの扇動者だった・・・・。
                               (帯の解説から)
 純文学は文体がしっかりしているので、虚構の世界ではあるが自然に作者
の描き出す世界に入り込み、やがて主人公と一体化していくのがよい。

 主人公は小さい頃にいじめにあったが、やがて体が大きくなるとともに誰も
彼をいじめることなどなくなった。
 就職し、結婚。やがて、青函連絡船の行く末に見切りをつけて船を降り、刑
務官として再就職した彼の前に、かつてのいじめの扇動者が受刑者として姿
を現す。
 物語が進行するにつれ、この受刑者「花井」がよくわからなくなってきた。
 模範囚で通し仮出獄までこぎつけたのに、出所を嫌ったのか、理解できな
いような暴力を振るい逆戻り。
 そして、次の出所の機会にも主人公の斉藤に殴りかかる。
 花井の生きかた、彼の過ごしてきた道筋が不透明なので、推測が主となる。
面会にきた母親への冷ややかな態度。入院している父への無関心。
 そのあたりも不透明なままに幕引き・・・という純文学独特の世界には馴染
めないところが多い。

サヨナライツカ  この作家の二冊目。
 「海峡の光」を読んだのは、かなり前のような気がする。
 この「サヨナライツカ」、一気に読ませられた本ではあるが・・。
 自由奔走に生きる沓子、堅実な光子。
 二人の違ったタイプの女性を愛してしまった主人公。
 青春の思い出として片付けるにはあまりにも深追いしすぎていた。
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「内容(「BOOK」データベースより)
「人間は死ぬとき、愛されたことを思い出すヒトと愛したことを思い出すヒトとに
わかれる。私はきっと愛したことを思い出す」。“好青年”とよばれる豊は結婚
を控えるなか、謎の美女・沓子と出会う。そこから始まる激しくくるおしい性愛
の日々。
二人は別れを選択するが二十五年後の再会で…。愛に生きるすべての人に
捧げる渾身の長編小説。  
そこに僕はいた

★★★

 

 作者の小学校、中学校、高校で出逢った友達との思い出が描かれていて、
 自分の少年時代を思い起こされた。 思い出を蘇らせてくれる本である。
 前2作と異なり、実話のように語られるので読みやすく読後感も良い。
 すぐ仲間を作り、ガキ大将のように振る舞うこともあるが、実はさほど強くな
 い。好きになった女の子にはなぜか意地悪なことを言ってしまう・・・。
 今その女の子の写真をみ見ると、取り立てて美少女でもなかった・・・。
 福岡から北海道へ。転校が多かった主人公、再会を期待した友だち?から、
 「覚えていない」と言われたことも・・・。
---------------------------------------------------
「内容(「BOOK」データベースより)
 大人になった今、毎日楽しみにしていた学校はもうない。
でも友達は、僕が死ぬまで大切に抱えていける宝物なんだ――。
少年時代を過ごした土地で出会った初恋の人、けんか友達、読書、ライバル、
硬派の先輩、怖い教師、バンドのマドンナ……。
僕の人生において大いなる大地となった、もう戻ってはこないあの頃。
永遠に輝きつづける懐かしい思い出を、笑いと涙でつづった青春エッセイ。 
  
 
 


       
          
   又 吉  栄 喜??
    
 1947年 沖縄浦添村生まれ
        琉球大学法文学部史学科卒
        浦添市役所入所
 1975年 「海は蒼く」で新沖縄文学賞佳作
 1976年 「カーニバル闘牛大会」で琉球新報短篇小説賞
 1977年 「ジョージが射殺した猪」で九州芸術文学賞最優秀賞
 1980年 「ギンネム屋敷」ですばる文学賞及び
                 沖縄タイムズ芸術選賞奨励賞
 1996年 「豚の報い」で第114回芥川賞
  
       現在浦添市図書館勤務
 
                
 
 豚の報い 

 

 他に一篇

背中の夾竹桃

 陽気で、のびやかで、ひたむき沖縄式生き方!
 選考委員の圧倒的支持を得た受賞作 (カバーの解説から) 

  これはまずもって力に満ちた作品である。登場人物の一人一人が元気で、会話がはずみ、
 ストーリーの展開にも勢いがある。ユーモラスである点も大事で、このような哄笑を誘う文学
 は日本には珍しい。
  それがそのまま沖縄という地の力であり、元気であり、勢いとユーモアなのだろう。又吉
 さんにはそれを汲み出す優れた釣瓶がある。
  全体としてみればこれは一つの御嶽(ウタキ)の縁起譚だから、当然民話的な要素がた
 っぷり含まれているが、それが日常生活の場へそのまま通底しているのが沖縄という土地
 の二重性であり、力の源泉でもある。
                               (池澤夏樹氏の選評より)

    
  

  

  
 玄 侑  宗 久
    
 1956年 福島県三春町生まれ
        慶応大学中国文学科卒業
        さまざまな職業についたのち、27才で出家。京都の天龍寺専門道場にて修業。
       現在臨済宗妙心寺派、福聚寺住職。

 デビュー作「水の軸先」が第124回芥川賞候補となる。
        「中陰の花」で第125回芥川賞受賞 

  

中陰の花
 

他に、朝顔の音

「人は死んだらどうなんの?」「知らん。死んだことない」
「あんた喧嘩うってはんのか? お通夜とかでなんか言わはるやろ」
現役僧侶が生と死の間を見つめて選考委員全員の支持を集めた
                             (帯の紹介文から)
「おがみや」のウメさんの死と主人公夫婦の流産を折り込みながら
死や人間の生の不思議さに焦点をあてていく。
生きる。死ぬ。
 対談集を活字に掘り起こしたものなので非常に読みやすくわかりやすい。
 西洋医学は病気と戦う、病巣を取り除くという前提で成り立っているが、病気
 は、そもそも本人の体の一部である・・これはなるほどと思った。
 あたかも異物が発生したように考えるが、病巣は体がやむを得ず変化したも
 ので、病巣も頑張っているのだという・・・。
 死や輪廻についても触れている。
  ・排除するだけでは病気は治らない
  ・死と闘わない生き方とは
  ・がんになる「性格」「生き方」がある
  ・医療の仕組みがこわれる時
  ・「死後」と向き合う
  ・がんは『概念」の病気
  ・「不二」の思想と出会う
------------------------------------------------------------ 
 内容(「BOOK」データベースより)
 「現代人は死を恐れすぎている」と語る、禅僧にして芥川賞作家・玄侑宗久と
 「ガンは闘おうとすると治らない」と語る、先端医療の第一人者である外科医・
 土橋重隆による、生と死をめぐる異色の対談が実現!
 長年ガン患者の治療に携わってきた土橋氏の「患者さんの生き方・考え方が
 変わると末期ガンでも治ることがある」という言葉に、多くの檀家の死と向き合
 ってきた玄侑氏も大いに共感する。
 医と禅の第一人者が、常識のもろさ・危うさ、もっと自分らしく自由に生きる術
 について語り合う。 
 芥川賞作家の禅僧とガン医療の第一人者が語り尽くす!死と闘わない生き方
 とは。 
    
     
  


     
     
         
吉 村   昭
     

 この作家との出会いも強烈であった。「熊嵐」 ふと手にしたこの一冊の本に圧倒された。
 以後何冊か読んだが、吉村昭=熊嵐という印象が拭えない。
 重大事件を丹念に取材し、そこに生々しい人間と行動を再現させる・・・・・・・。一つ一つの
作品に重いテーマが横たわっている。
    
 熊  嵐 
 熊(ひぐま)の原野を切り開こうとする人間と、その開拓村を襲う一頭の熊。
どちらが闖入者だったのか?
 日本獣害史上最大の惨事は大正4年12月に起こった。
 冬眠の時期を逸した熊がわずか2日間ら6人の男女を殺害した。鮮血に染
まる雪、熊をひそめた闇、人骨を齧る不気味な音・・・・・・・。
 恐怖におののく人間の愚かしくも滑稽な姿と、ただ一人沈着に熊と対決す
る狷介な老猟師の孤絶の姿を迫真の筆に描き出す。   (解説から)
下弦の月
 大正末期の世情不安を背景に千葉の寒村で起きた鬼熊事件を題材にとり
数千名の警官をしり目に逃避行を続ける凶悪犯と、必死で彼を追う捜査陣、
新聞記者の活躍を描く。   (解説から) その他の短編7篇。
 磔   
 豊臣秀吉の治世下、京都と大阪で捕らえられたキリシタンは肥前に送られ
処刑された。他に3篇。
 破  獄  昭和11年 青森刑務所脱獄 
 昭和17年 秋田刑務所脱獄
 昭和19年 網走刑務所脱獄 
 昭和23年 札幌刑務所脱獄

 犯罪史に残る四度の破獄を実行した無期刑囚佐久間清太郎、男たちの息
詰まる闘いを入念な資料収集をもとに描く吉村昭渾身の力作長篇。
                                 (解説から)

   
  


  

   
   加 藤 幸 子??
    
  本名 白木幸子・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  昭和11年札幌生まれ
  昭和16−22年 中国、北京に滞在。
 北海道大学農学部を卒業後、農林省技術研究所に入所。
 日本自然保護協会勤務を経て、自然観察会代表。
 東京都公園審議会委員

 昭和57年「野餓鬼のいた村」で新潮新人賞。
 昭和58年「夢の壁」で芥川賞。

                
 
 ぼくのクォ・バディス

 野餓鬼のいた村

 夢の壁
   
   1983年発行

 清冽な文学に結晶させた女流新鋭の珠玉三編(帯の解説から)

 ・体の中に住む「鳥」の招待を求めて故郷へ帰る青年の心理を追い、自然
  保護の問題を提起する。

 ・山の過疎地で次第に生気をとり戻す自閉症児を爽やかに描いている。

 ・歴史の悪夢を凝視しながらも、民族を超えて可憐に心を通わせる中国人
  の少年と日本人少女を美しく語り上げ、日本文学に新天地をひらく芥川
  賞受賞作 

   
     


 
   
 百田 尚樹 (ひゃくた なおき)
    
 昭和31年 大阪生まれ  同志社大学中退。
 現在、放送作家。
  「探偵ナイトスクープ」(朝日放送;平成3年度
    日本民間放送連盟賞最優秀賞受賞)を
   はじめ多数の番組を構成。
                
 
 永遠の0 
    (ぜろ)
 

  ★★★

 これまで読んだ本の中で最も感動した名作の一つである。・・・・・・・・・・・・・・・・
 戦争と特攻隊について書かれたものは数多いのだろうが、ここまで読者を引きずり込
める本は少ないだろう。零戦や空母、太平洋戦争関連の著作30冊余りを読み込み、丹
念に史実を調べ、そして、フィクションに仕立てる・・・。まさに著者入魂の一作である。
 本を読んで涙を流すことはあるが、この本ほど感涙を絞ってくれるものはめったにない。
 概略について、以下に「BOOK」データベースより引用させていただく。
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 日本軍敗色濃厚ななか、生への執着を臆面もなく口にし、仲間から「卑怯者」とさげす
まれたゼロ戦パイロットがいた…。
人生の目標を失いかけていた青年・佐伯健太郎とフリーライターの姉・慶子は、太平洋戦
争で戦死した祖父・宮部久蔵のことを調べ始める。祖父の話は特攻で死んだこと以外何
も残されていなかった。元戦友たちの証言から浮かび上がってきた宮部久蔵の姿は健太
郎たちの予想もしないものだった。凄腕を持ちながら、同時に異常なまでに死を恐れ、生
に執着する戦闘機乗り―それが祖父だった。
 「生きて帰る」という妻との約束にこだわり続けた男は、なぜ特攻を志願したのか?健太
郎と慶子はついに六十年の長きにわたって封印されていた驚愕の事実にたどりつく。は
るかなる時を超えて結実した過酷にして清冽なる愛の物語。 
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主な内容は章ごとに次のようになっている。
 ・プロローグ     
 ・亡霊
 ・臆病者 片腕を失った長谷川
 ・真珠湾 
 ・ラバウル      ・ガダルカナル   ・ヌード写真   ・狂気   ・桜花
 ・カミカゼアタック  ・阿修羅       ・最期      ・真相
 ・エピローグ
臆病者の章から、それぞれ宮部少尉と関わった人々の話が始まっていく。
「真相」の章で待ち構えている真実は、さらに驚愕するものであった。
エピローグでは、最新兵器を持って待ち構える空母に海面すれすれという信じられない
飛行で接近、一気に上昇して垂直落下した宮部のゼロ。それを丁重に葬る空母の艦長
が描かれる。「日本にサムライがいたとすれば・・奴がそうだ。」
ボックス

★★★

 前回読んだ「永遠の0」が強烈に印象に残っている。
 この本への期待には高かったが、十二分に応える一作だった。
 「耀子、風を見る」から始まる高校ボクシングの世界。作者は5つの大阪の高校ボク
 シング監督にお話を伺い、この世界を丹念に描ききっている。その姿勢が秀作を生
 んでいる。映画化され、近日(H22.5)公開されるようである。
 天賦の才能に恵まれた鏑矢、弱い自分を鍛えるために地道にボクシングを始めた木
 樽・・・本当に強いのはどのタイプなのか・・・。これは他のスポーツにも共通するので
 はないだろうか。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 高校ボクシング部を舞台に、天才的ボクシングセンスの鏑矢、進学コースの秀才・木
 樽という二人の少年を軸に交錯する友情、闘い、挫折、そして栄光。二人を見守る英
 語教師・耀子、立ちはだかるライバルたち…様々な経験を経て二人が掴み取ったも
 のは!?『永遠の0』で全国の読者を感涙の渦に巻き込んだ百田尚樹が移ろいやすい
 少年たちの心の成長を感動的に描き出す傑作青春小説。 
影法師

★★★

 剣の腕も学問もすぐれた資質を持つ彦四郎。
 父を失い、母と妹と極貧の生活を送っている勘一だが、なぜか彦四郎の気に合い、
友の契りを結ぶ。道場での試合では彦四郎に全く歯が立たない勘一。しかし、道場
主や彦四郎からは天賦の才があると言われている。
 そんな二人だが、上意討ちを命じられた時、立ち会い方と結果によって大きく明暗を
分ける。勘一は見事首尾をとげ出世。彦四郎は背中を浅く切られたため、武士の風上
にもおけない弱虫と罵られた。
 やがて、勘一は潟の開墾に取り組み、殿様の側用人から江戸家老、筆頭か国家老
と驚くほどの出世をとげる。一方、彦四郎は藩を抜け浪々の末に労咳で命を終える。
 彦四郎の生きた道を探った勘一は、いくつもの窮地で彦四郎に助けられていたこと
を知り、愕然とする。潟の開発を阻止しようと刺客が現れたとき、また、江戸へ向かう
勘一一家に、家老・滝本が恐るべき居合いの使い手をさしむけたとき・・。
モンスター

★★★

 これは切なく哀しいストーリーだった。
 顔が醜いために謂れのない差別を受ける女。物心つく小学校から大人までずっと・・。
 顔とは何だろうと深く考えさせられてしまった。
 プロローグ
 彼女・田淵和子は幼稚園の頃、男の子と見知らぬ街へ行った。その男の子・英介は
 和子をナイトのように守ってくれた・・・。人生でたった一度自分を大切にしてくれた。 
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 内容(「BOOK」データベースより)
 田舎町で瀟洒なレストランを経営し、町中の男を虜にする絶世の美女・未帆。彼女の
 顔はかつて畸形的なまでに醜かった。周囲からバケモノ呼ばわりされ友達もできない
 悲惨な日々。
 そして思い悩んだ末、ある事件を起こしてしまう。追われるように移り住んだ「美女の
 街」東京。そこで整形手術に目覚めた未帆は、手術を繰り返して完璧な美人に変身
 を遂げる。そのとき、甦ってきたのは、かつて自分を虐げた町に住むひとりの男に対
 する、狂おしいまでの情念だった―。 
聖夜の贈り物

★★★

 クリスマスに起こった心温まる5つの話。
 百田尚樹の本はテーマは変わっても、読者の心にうったえかけてくる。
 ここに書かれた5つの話は絵空事ではあるが、読み手の心の琴線に触れるものに
 溢れている。
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 ・魔法の万年筆
   恵子は七年勤めた運送会社を首になり、失意のうちに街を歩き、初老のホーム
   レスに会う。自分もお金はないのに、ハンバーガーと熱いミルク、500円を与えた
   恵子はホームレスから「魔法の万年筆」をもらった。
   三つの願いが叶うという万年筆で、まず書いたのは「美味しいケーキが食べたい」
   二番目は「弟の会社が立ち直ること」。そして三番目に、隣に住む年下で役者志望
   の藤沢健作がスターになれますようにと書いた・・・。
 ・猫
   派遣でイベント・プロデュース会社に勤める雅子は、イブの夜、社長の石丸と残業
   する。仕事が終わり食事をおごられた雅子は、アパートで待つ猫のもとに帰る。
   毛が抜けて片目の猫。そこ猫をみようと石丸はアパートまでついて来た。そして・・
 ・ケーキ
   これは名作
   孤児の杉野は、美容師として働き始めた矢先、病魔に侵され死を迎えようとしてい
   た・・・。好きな大原医師とも別れの時が迫っていた。
   イブの夜、杉野の容体は奇跡的に開放に向かい信じられないことに、完治する。
   後遺症で右手の親指の機能が駄目になった杉野はケーキで働き始めた。そして、
   同じ職場の職人からプロポーズされ結婚。幸せを手に入れる。子どもや孫に囲ま
   れ、やがて死を迎える。
   舞台は再び病室・・・。
 ・タクシー
   友だちの和美と沖縄に旅行した香川依子は、スチュワーデスと嘘をつき、二人連
   れの男と知り合い、片方の島尾と付き合うようになった。本当は鞄職人なのに。
   東京に戻ってからも純粋な島尾は付き合いを求めるが、依子は次第に嘘をついて
   いることに耐えられなくなる。本当の姿を手紙にしたため、島尾との交際を一方的
   に打ち切ってしまった依子は、五年後のある夜タクシーに乗った・・・。
 ・サンタクロース
   両親が亡くなり恋人にも先立たれた和子は死を決意して、JRに乗り当てもなく西
   に向かった。(お腹の中には恋人との子が宿っていた。)
   ある駅で降り、どこか静かなところで睡眠薬でも飲もうと郊外の寂しい道を行く。
   日もすっすり暮れ、月明かりの中を歩く和子の前に教会が見えてきた。そして、サ
   ンタクロースが・・・。
   サンタクロース姿の牧師が言う。
   「愛する赤ちゃんに人生を与えてあげたいと思いませんか。」
   牧師を産んでくれた母も未婚だった。もし自分を産んでくれなかったら自分はこの
   世に存在しないし、子どもや孫も存在しなかっただろうと。
   和子は朴氏の言葉に、子どもを産むことを約束する・・・。
プリズム

★★★

百田尚樹は、「モンスター」の時に思ったが、多方面から書ける作家だと再認識した。
巻末に多重人格者についての書籍がズラーと並んでいる。
この本を書くために参考にした文献である。
多重人格者がアメリカで認知されてからその患者は何倍にも増えた・・・。
世の中はそういったものかもしれない。登校拒否も認知されたら当たり前のようにな
ってしまった。以前は学校に行かない子はほとんどいなかったのに・・・。
このつぶやきは深い意味を持つと思う。
岩本広志の中にかつては12人もいた「別人」が統合され、現在は5人。その1人に
聡子は惹かれる。広志の最もまともな部分を「受け持った」卓也である。(精神科医
の樋口女医は広志の治療を8年間続けてきた。)聡子と卓也はどうなるのか。後半
はそればかり考えながら読み進めた。聡子には夫もいるのである。
読後感は悪くない。爽やかな未来が開けているという予感がある・・・・。
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商品の説明・内容紹介から
世田谷に古い洋館を構える資産家の岩本家に聡子は足を踏み入れた。美しい夫人
から依頼されたのは、小学校4年生になる息子・修一の家庭教師。
修一と打ち解け順調に仕事を続けていた聡子だが、ある日、屋敷の庭を散策中に、
離れに住んでいるという謎の青年が現れる。青年はときに攻撃的で荒々しい言葉を
吐き、聡子に挑みかかってきたかと思えば、数日後の再会では、陽気で人当たりが
良く聡子を口説いてからかったり、かと思うと、知的で紳士然とした穏やかな態度で
聡子との会話を楽しんだり……。
会うたびに変化する青年の態度に困惑するが、屋敷の人間は皆その青年について
は口を硬く閉ざすのであった。
次第に打ち解けていく青年と聡子。やがて、彼に隠された哀しい秘密を知った聡子
はいつしか彼に惹かれはじめている自分に気づき、結ばれざる運命に翻弄される。
変幻自在の作品を生み出す著者が書き下ろした、哀しくミステリアスな恋愛の極致。 
幸福な生活
 18のホラー?短編集。この作家は本当にいろいろなものが書ける。
 最後のページに一行あり。
 この一行で真相が判明したり、逆転したりする。
 一話ずつ間を置いて読もうと思ったが、次々と読まされてしまった。
 最後まで読んでしばらくするとと「なんだ」と思わないでもないが、読んでいる時は
 どんな顛末になるのかわからず、面白い。 
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内容紹介から
 「道子さんを殺したのは、私なのよ――」
 認知症が進んでから母はよく喋るようになった。
 しかし、その話の大半は出鱈目だ。妻は自分がいつ殺されたのと笑うだろう。
施設を見舞うたびに進行していく症状。子どもの頃に父が家出して以来、女手ひと
つで自分と弟を育ててくれた母をぼくは不憫に思えてならない。
 久しぶりに訪れた実家の庭でぼくは、むかし大のお気に入りだった人形を見つけ
る。40年ぶりに手にした懐かしい人形。だが、それはおそろしい過去をよみがえら
せた……(「母の記憶」より)。サスペンス、ファンタジー、ホラー……、
様々な18話の物語、そのすべての最後の1行が衝撃的な台詞になっているとい
う凝った構成。
 『永遠の0』『ボックス!』『錨を上げよ』で話題の百田尚樹は長編だけじゃなかっ
た。星新一、阿刀田高、筒井康隆という名手顔負けの掌編小説集を世に送り出した! 
海賊とよばれた男

上・下

★★★







 

 この本から「不屈の精神の大切さ」を学ばせられた。
 次々と眼前に立ちふさがる障害に敢然と立ち向かう国岡鐵造。
 太平洋戦争後の廃墟の中から、日本の発展と民族の威信をかけて、「儲ける」という
 ことより国のために国岡商店は動く。
 はらはらさせられることかが多いが、読後感が良い秀作である。
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 内容説明・表紙裏の言葉などから
 物語は、敗戦の日から始まる。
 「ならん、ひとりの馘首もならん!」--異端の石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵
 造は、戦争でなにもかもを失い残ったのは借金のみ。そのうえ大手石油会社から排
 斥され売る油もない。しかし国岡商店は社員ひとりたりとも解雇せず、旧海軍の残
 油浚いなどで糊口をしのぎながら、逞しく再生していく。
 20世紀の産業を興し、人を狂わせ、戦争の火種となった巨大エネルギー・石油。
 その石油を武器に変えて世界と闘った男とは--出光興産の創業者・出光佐三をモ
 デルにしたノンフィクション・ノベル、『永遠の0』の作者・百田尚樹氏畢生の大作そ
 の前編。

 敗戦後、日本の石油エネルギーを牛耳ったのは、巨大国際石油資本「メジャー」た
 ちだった。日系石油会社はつぎつぎとメジャーに蹂躙される。
 一方、世界一の埋蔵量を誇る油田をメジャーのひとつアングロ・イラニアン社(現BP社)
 に支配されていたイランは、国有化を宣言したため国際的に孤立、経済封鎖でおい
 つめられる。1953年春も、極秘裏に一隻の日本のタンカーが神戸港を出港した。
 「日章丸事件」に材をとった、圧倒的感動の歴史経済小説。  

夢を売る男

★★★

 これは興味深い本だと思った。
 自分の書いた本を出版したいと思うものは多い。
 各社が行っている文学賞に応募する者はみなそうだろう。
 そんな書き手の心理に付け込んで「あなたの書いたものは素晴らしい・・是非わが
 社で出版したいが、全額負担するには・・」と言って、売れもしない本を作らせる。
 詐欺のようなものであるが詐欺ではない。自費出版とも違う。一応書店にも配布、
 本棚に並べられることがあるのだから。

 「本が売れないのは、本の価値がわからない者ばかりだから・・・」という作家へは
 手厳しい批判をしている。
 「要するに下手なのである。」「読者を惹きつける内容でない。」と。
 
 文学書に応募してきた者やブログで批評者を気取る者へ、巧みに出版の話を持ち
 かける牛河原と丸栄社の前に格安で出版物を作るライバル社が出現する。
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 内容説明・表紙裏の言葉などから
 『永遠の0(ゼロ)』の百田尚樹、大暴走!!
 最新書き下ろしは、出版界を舞台にした掟破りのブラック・コメディ! 

 敏腕編集者・牛河原勘治の働く丸栄社には、本の出版を夢見る人間が集まってくる。
 自らの輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーブ・ジョブズのような
 大物になりたいフリーター、ベストセラー作家になってママ友たちを見返してやりたい
 主婦……。
 牛河原が彼らに持ちかけるジョイント・プレス方式とは――。
 現代人のふくれあがった自意識といびつな欲望を鋭く切り取った問題作。

   
     



  

  
 稲見 一良 (いなみ いつら)
          
1931年 - 1994年 大阪府出身。
1968年 「凍土のなか から」で第3回双葉推理賞(『推理ストーリー』開催)佳作第1席を受賞。 
1985年 肝臓癌の手術を受ける。 小説家活動に打ち込むと周囲に宣言。
1989年 『ダブルオー・バック』にて本格的に小説家デビュー。
1991年 『ダック・コール』にて第4回山本周五郎賞、
     第10回日本冒険小説協会大賞最優秀短編賞を受賞。 
1993年 「セント・メリーのリボン」にて第12回日本冒険小説協会大賞最優秀短編賞を受賞。 
     第12回日本冒険小説協会大賞内藤陳特別賞が贈られた。 
1994年 わずか9冊を残して癌のため没した。
                                 ウィキペディアを参考にしました。
             
 ダック・コール 
 途中で読むのを止めようと思ったが完読して良かった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 この作者の素晴らしさは六つの短編の後半に凝縮されている。
 六編を読んで初めてわかってくるのかもしれない。そんな気がしている。 

 第一話 「望遠」
   幻のシベリア・オオハクシギを見たために、新興都市のPR映像撮影を棒に
   振ってしまった若者。
 第二話 「パッセンジャー」
   リョコウバトの大量殺戮とその場に居合わせた若者・サム。絶滅したこの鳥
   について作者の想いが書かせた一編ではないか。
 第三話 「密漁志願」
   不思議な少年ひろと出会った私。一緒に「男爵の森」から鴨の大群をおびき
   出して捕まえるという痛快な挑戦をする・・。
 第四話 「ホイッパー・ウィル」
   脱獄した4人と日系人の男たち。主人公は保安官に同道させられた日系人
   のケン。最後にインディアン系のオーキィを追い詰めながらも、生まれ故郷で
   の死を望むオーキィを見逃すという場面が清清しい。オーキィの吹くハモニカ
   にホイッパー・ウィルの鳴き声がケンの心に響く。
 第五話 「波の枕」
   乗っていた漁船の火災で大海に投げ出されて源三はグンカンドリとオサガメ
   に出会い命を救われる。
 第六話 「デコイとブンタ」
   デコイはおとりのカモ。ある日泥に埋まっている所をブンに拾われる。
   ブンによって生気を取り戻していくブン。
   そして、観覧車に取り残されたブンとデコイは・・。



 解説で
 「テーマは男が己の一生を支えるために必要な原風景の獲得である。そして、
  その原風景の獲得は常に自然や鳥たちとともにある。」
 と、言っている。その通りかもしれない。
 ダックコールというのは鴨笛という意味である。
 読み終わって考えてみれば、題名が主題を暗示している。 
  
  
   

 
 北  杜 夫
    
北杜夫で面白かったのは「怪盗ジバコ」です。
なんといっても明智小五郎やルパンの上をい
く怪盗ですから。
 「ドクトルマンボウ青春記」は名著といわれました。
 ドクトルマンボウ青春記  ドクトルマンボウ昆虫記  ドクトルマンボウ航海記
 高みの見物  奇病連盟  幽霊
 怪盗ジバコ  船乗りプクプクの冒険 ・・・・・・・
   

 



   

    
阿刀田  高
  
1935年 東京に生まれる。早稲田大学仏文科卒。
   国会図書館に司書として勤務しながら辛辣軽妙なコラム、
   SF、ミステリー執筆、のちに作家活動に入る
1979年 『ナポレオン狂』で直木賞受賞。『新トロイア物語』で
   吉川英治文学賞受賞。都会的で洗練された語り口の背
   後に、伝統的なモチーフによる恐怖をひめた作品が多い。
              

 一番はじめに読んだのはどの本だったのだろう。よく覚えていないが、気がついたら
短編集もたくさんあった。 (星 新一を読んだ時と似ている。)それぞれに作者の趣向が
凝らされていて退屈しない。                                    

 それらの中で特に印象に残る一冊と言われたら、「夜の旅人」であろうか。      
            
 夜の旅人に登場する主人公粉川忠さんの一途な生き方に共感を覚えたのを忘れない。
この本は阿刀田高の著作の中では異質である。ブラックユーモア的なところが全くない。
直木賞をとった「ナポレオン狂」のそもそものモデルがこの人であったということである。  
ナポレオン狂は、ナポレオンに入れ込んだ男が自分を訪ねてきた「ナポレオンそっくりの男」
に・・・・・・・・という話である。 これは、ゲーテの書物に入れ込んだ粉川氏の生き方に似て
いるのである。                                             
                       
 阿刀田高は粉川氏にあった時からこの人ををモデルにして正当な小説を書きたいと思う
ようになったということである。そして、初めて書き上げた長編が「夜の旅人」であった。  
 

              
 ナポレオン狂
 不安な録音機
 コーヒーブレイク11夜
 マッチ箱の人生
リスボアを見た女 
頭の散歩道 
恐怖特急 
待っている男 
食べられた男
黒い箱
Aサイズ殺人事件
過去を運ぶ足
霧のレクイエム
街の観覧車
アラビアンナイトを楽しむために
   
 風物語 
久しぶりに読んだ阿刀田高。
日常生活を描きながら、時の流れを織り込んだ懐かしさと切なさ・・・そんな感情が折り
込まれた短編が並んでいる。
人生を振り返り、その時々に想いを馳せるには良い本。
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【内容情報】(「BOOK」データベースより)
 中学時代、ほのかな恋ごころを燃やした美少女がいた。都会から田舎の中学へ転校し、
再び都会に去った少女に対して、少年は1度だけ直接話しかける機会があったが、結局
何も話せない。
そしていま、30年ぶりの同窓会で男は女にそれを語ってみると…。
時は風、風は人生-さまざまな人生の哀歓を巧みに描き出す大人の寓話集。

【目次】(「BOOK」データベースより)
  30年/遠い声/高台の家/シンデレラ・ボーイ/夜の顔/砂時計/紙人形/
 危険な絵本/七夕祭/住みよい町/足を見た男/ブランコ

アンブラッセ
 久しぶりに阿刀田高を読んだ。
 文体、テーマともに素晴らしい。読書家向けの本を書く。さすがにもと図書館職員。
 短編がいろいろあったが、「不老不死」が印象に残る。それは、その人のことをいつも
 思え浮かべること(生死はともかく)。3つの仙薬を混ぜて飲むこと、そして最後が父から
 子へ、そして孫へ・・・もう一人の自分を残す営み・・・そうかと思った。
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内容紹介から
 アンブラッセという言葉を教えてくれたのは、相沢さんだった。フランス語で「抱擁する」と
 いう、その意味も――。(めぐりあいて)
 誰もいない家に入って、花を替えテープレコーダーのスウィッチを入れてくる、それだけの
 こと。小百合が依頼された不可思議な仕事はいったい誰のため?(「家族の風景」)
 たわむれに田舎に向かう幸一が出会ったひとりの行商。見たい夢を見せてくれるという
 男の誘いに思わず乗った彼の脳裏に現れたのは……。(「夢売り」)

 名手・阿刀田高が紡ぐ、妖しくも優しい十篇の物語。大人の渇きを潤す、傑作短篇集。

  


                      
  安部 譲二・・
    
 本名:直也(あべ なおや)
 1937年 東京生まれ  麻布中学校卒  慶應義塾高校中退
    元・ヤクザの経歴を持つ。高校通信制課程卒業後、日本航空に入社
    するなど、多彩な職歴も持っている。
 1987年、刑務所服役中の体験を書いた 『塀の中の懲りない面々』がベス
    トセラーとなり映画化され、以後人気作家としての地位を築く
               【ウィキペディア(Wikipedia)を参考にしました。】 
                
塀の中の

懲りない面々

 刑務所の懲役囚たちの日常を描いた安部譲二の自伝的小説。
「塀の中」は刑務所、「懲りない面々」は、入出所を繰り返す累犯
罪者達のことを指している。
 23の話が載せられているが、何回か読み直しても興味深い話
が載せられている。
 (・木工場のベテランたち ・赤軍派兵士の脱獄など)
囚人道路
 明治22年、1000人の囚人たちの手で人跡未踏の網走・旭川
間の巨大道路工事が行われた。108キロにも及ぶ道路をなぜ政
府が強行したのか。また、完成後、生き残ったはずの700人の
囚人はどうなったのか。「塀の中を知る」著者だから気付いた歴
史の闇。近代史の謎に挑む。 (ここまで、表紙カバーの解説を
参考にしした。)
 旧御家人の二男でありながら、秩父困民党事件に加担したた
めに捕えられ、20年の懲役となった秋川鉄之介。
 秋川を中心に、網走・旭川道路の難工事が語られることになる。
 一方に工事を命じた、政府の責任者で時の宰相・伊藤博文が
いる。日清・日露で勝ち抜いたら、その得た領地や民をどのよう
に使うか・・・。植民地支配の実験であったのか。
 安部譲二は伊藤博文に憎悪を感じていだいたが、書き進める
うち伊藤に畏怖の年を感じるようになったという。このようにこと
は凡人や役人崩れの権力者にできる決断ではないと。
 終末・・完成間際で脱出に成功した秋川はアイヌの娘・トウル
シノと夫婦になり、アイヌとしての生活を送る・・。
   
 


 
 山本 幸久
    
1966年 東京都八王子生まれ。中央大学文学部史学科卒。
編集プロダクション勤務を経て、2003年「笑う招き猫」で
第16回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
著書に「はなうた日和」「凸凹デイズ」「美晴さんランナウェイ」
    「渋谷に里帰り」「カイシャデイズ」
    「ある日、アヒルとバス」「シングルベル」などがある。
 床屋さんへ
  ちょっと

  ★★★

 短編集のようになっているが、主人公は同じ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 父の代からの菓子工場を倒産させた宍倉勲は、その後繊維会社のに就職し
 定年を終える。物語ぱだんだん昔に返る形で進んでいく。
 ・桜
   出戻りの娘「香」が連れてきた孫の勇とともに墓地を見に行った勲は、そ
   こが昔の菓子工場に近いことに気づく。そして、ふと入った床屋が昔よく
   通った「バーバーハマナ」今は三代目だという・・。
 ・梳き鋏(すきばさみ) 
   香が突然連れてきたた交際相手布田。
 ・マスターと呼ばれた男
   繊維会社に勤める宍倉は赤道直下の国に出張し、かつて菓子工場にい
   た男と出会う。
 ・丈夫な藁
   男社会の会社の中で「未来」を語る女子社員・里見。自立を目指す娘の
   香。
 ・テクノカットの里
   中学生の娘・香の家出と連れ戻しに向かった宍倉夫婦。降り立った駅は
   テクノカット発祥の地。
 ・ひさぶりの日
   娘が職場取材にやってくる。
 ・万能ナイフ
   シシクラ製菓の「ナリタリーナ」に景品を付けると若手社員が主張・・。
 ・「床屋さんへちっょと」
   香は事業をいっしょにやってきた後輩の女に裏切られる。
   「バーバーハマナ」を訪ねた香は勇気をもらい・・・。
 全編に「床屋」が登場し、主人公の生活の一部となっている。
 読後感が爽やかな小説に久しぶりに出会えて良かった。
渋谷に里帰り
 前回読んだ「床屋さんへちょっと」が良かったので二冊目に取りかかった。
 軽いタッチの展開で、どんどん読み進められる。こういう作家もたまには良い。
 営業マンの峰岸稔は、坂岡千明の退社により渋谷方面を担当することになっ
 た。
 渋谷は生まれ育った街だが、「街を去った裏切り者」と言われてから、近づく
 ことがなかった・・。
店長がいっぱい

★★★

 これは良い。
 日常のありふれたチェーン店の出来事を軽く書いているようでそうでない。
 洋々たる未来が開けているわけでもないが、深刻でどうにもならないという
 わけでもない・・・。
 かれらの陰に温かい目を注ぐフランチャイズ事業部の霧賀。
 次々と変な企画を打ち出して、失敗を続ける二代目のとんでもない息子(社
 長。)細身の頼りない社長が、現場に出て「見習店員」を始めたが・・・。
 いろいろな店長に同化して、時にハラハラ、時に悩み、・・・興味深く読めた。
 ---------------------------------------------------------
 内容紹介から
 働くってくたびれる。けど、頑張ったその先には、温かい明日がある。
 倒産、家出、離婚、リストラ……人生思ったようにはいかない。
 “他人丼"専門の外食チェーン店を舞台に、それぞれの事情を抱え、
 迷いながらも一生懸命に働く7人の店長と、彼らを取り巻く個性豊かな人々
 の奮闘記。 

 夫を亡くしたばかりの真田あさぎは、小学生のひとり息子を育てるため、
 「友々丼」と名付けた“他人丼”の専門店「友々家」を開いた―。あれから30
 年余り。
 いまでは、百二十店舗を数えるまでになった。東京、神奈川、群馬…今日も、
 あちこちの「友々家」では、店長たちが、友々井をせっせと提供している。
 それぞれの事情を抱え、生きるために「友々丼」をつくり続ける7人の店長と、
 共に働く人々のちょっぴり切ない七つの物語。 

 
 


 


 有川 浩(ありかわ・ひろ
        
1972年生まれ。高知県出身。女流作家。
2003年『塩の街 wish on my precious』で第10回電撃ゲーム小説大賞受賞。
2006年『図書館戦争』は、「本の雑誌」が選ぶ2006年上半期エンターテインメ
 ントで第1位。2007年度本屋大賞で第5位を獲得。
2008年、『図書館戦争』シリーズで第39回星雲賞日本長編作品部門を受賞。
2009年『植物図鑑』も010年度本屋大賞にノミネートされる。
 フリーター
家を買う

  

 この作家の本は軽妙な中に人生の悲哀や僥倖、可笑しさをちりばめられて
いる。
 会社の社員研修を経て、晴れて正社員になった主人公だが、会社のために
真剣に働く同期や四方にうまく立ち回る同期の者達の狭間でうまく行動でき
ずに退社。以来アルバイトをしたりして何とか生活しているが、経理を仕事と
する父には疎まれている。
 ある日、母が被害妄想の鬱病になる。病院に嫁いだ姉に気合いをかけられ
ながら、家庭を全く顧みない父親とともに、母の介護をする主人公。
 やがて、夜の工事現場で気の良いオッサン達と働くうちに次第に社会を
直視できるようになっていく・・・。
 フリーターだった主人公が再就職のための心構えやポイントを取得していく
場面も参考になる。
阪急電車

★★★

 阪急電車沿線の駅ごとに章を立て短編が展開する。ただ、緻密な筋立てて
一つ一つの話は連続している。
 結婚しようと思っていた男を同僚の女にとられ、その結婚式に白いドレスを
着ていった女の話から始まる・・・。
三匹のおっさん

★★★

 痛快無比! ただ面白いばかりでなく、昨今の世相についてさりげなく論を
 唱えたり、人間の生き方に触れたりする。
 何より三人の硬骨にして正義感を貫く姿が良い。
 剣道師範だった清田清一、柔道有段の猛者立花重雄、機械をいじらせたら
 無敵の頭脳派、工場経営の有村則夫の幼馴染三人組。
 これに清一の孫・祐希、則夫の娘・早苗が絡んで・・・。
三匹のおっさん

ふたたび

★★★

 内容紹介に詳しい説明があるので、簡単に。
 この本は面白いばかりでなく、昨今の話題、若者から見た大人、老人、
 逆に大人から見た若者についての記載があって興味深い。視点を変える
 必要性を感じさせられる。
 今回は祐希の母・貴子が精肉店にパートに入る。お嬢さん育ちと周囲に
 思われている貴子が苦戦しながら社会性に目覚める。
 則さんの再婚の話が出て、娘の早苗は落ち込む・・・。
 万引き犯の母親にもいろいろな種類がある・・・。
 偽三匹の登場・・・。
 今回も多彩である。
 最後に本題とは異なる一編が添えてある。
 銀行員の娘はよく転校する。別れ間際の日々の中で、クラスの男の子と
 「花」を見に行ったことが女子の反発を生む・・。
 ---------------------------------------------------------
 内容紹介から
 剣道の達人・キヨ、柔道の達人・シゲ、機械をいじらせたら右に出る者なしの
 ノリ。「還暦ぐらいでジジイの箱に蹴り込まれてたまるか!」と、ご近所の悪
 を斬るあの三人が帰ってきた!
 書店万引き、不法投棄、お祭りの資金繰りなど、日本中に転がっている、身
 近だからこそ厄介な問題に、今回も三匹が立ち上がります。ノリのお見合い
 話や、息子世代の活躍、キヨの孫・祐希とノリの娘・早苗の初々しいラブ要素
 も見逃せません。
 漫画家・須藤真澄さんとの最強タッグももちろん健在。カバーからおまけカット
 までお楽しみ満載の一冊です。 
 
 


   

  

 西木 正明
    
1940年 秋田県生まれ。早稲田大学教育学部中退。・・・・・・
出版社勤務を経て、1980年「オホーツク諜報船」でデビュー。
          (日本ノンフィクション賞新人賞を受賞)
1988年 「凍(しば)れる瞳」「端島の女」で直木賞を受賞。
1995年 「夢幻の山脈」で新田次郎文学賞受賞。
2000年 「夢顔さんによろしく」で柴田練三郎賞を受賞。
近著に  「極楽谷に死す」
             「ウェルカム トゥ パールハーバー 」などがある。
 ガモウ戦記

 ★★★

 これは面白い。こういう作家に巡り会えるので読書はやめられない。
 戦地から引き揚げてきた蒲生太郎は、生まれ育った東京が焼け野
 原になり、親兄弟も亡くなったことを知り、知り合いの金木医師を頼
 って秋田仙北郡神代村に住むことになった。10才年上だが若く気だ
 ての良い敏子とともに紙芝居を生業としている。
 秋田の田舎の村を舞台にくり広げられる、可笑しくもあり、哀しみを
 秘めた連作集。この時代の風物や自然、野の食べ物などが方言で
 登場する大らかな物語でもある。
凍れる(しば)瞳

★★★

 ・凍れる瞳
  藤堂良子は毎年スタルヒン球場にある銅像を訪れ花を手向け、
  祈りを欠かさない。
  かつての恋人とスタルヒンが野球の試合をした・・・
  戦争で恋人は「戦犯」となり処刑が決まった。
  良子は東京に行き、スタルヒンに助けを求めたのだが・・。  
 ・統領(シカリ)と親友(ドヤク)
  叉鬼の古里として知られる「打当(うっとう)」に隣接する晩鳥内。
  叉鬼の統領(シカリ)高平清作は自分の家のすぐ近くを通る林道を
  いまいましく思っていた。
  高平を慕う前科4犯のガンゾウ。ガンゾウは一度だけ熊撃ちに成
  功したことがある。
 ・夜の運河
  タイから働きに来て父親を探すアラムは、店のオーナー・大石に
  頼んで名刺にあった電気工務店「荒井」に電話をしてもらう・・
 ・端島の女
  軍艦島で生まれ育った女は、惚れた男とともに東北の寒村に
  移り住む。やがて村がダムに沈むことになり・・。
  女は一人軍艦島に戻る。
 間諜

 二葉亭四迷

 この作家の本は読みごたえがある。
 二葉亭四迷の作家としての業績より、ロシア語に通じ、満州・中
 国を行き来した人物として描いている。ポーランド人で祖国がロ
 シアより独立することを願う・ブロニスワフ・ピウスーツキ。この樺
 太に住みアイヌ語とアイヌ文化を研究する男の生き方にも焦点を
 あてている。
 内容(「BOOK」データベースより)
 明治の文豪・二葉亭四迷は、日本陸軍の指令を受けたスパイだっ
 たのか!?ウラジオストック、ハルビン、北京…を舞台に彼の足跡を
 たどり、隠された真実を明かしてゆく。
 日露戦争前後に繰り広げられた諜報戦や遠くポーランドの独立運
 動との関わりまでをも描いた、史実に基づく壮大な歴史ミステリー
 の傑作長編。 

  
 



 白川道 (しらきわ みち)
        
1945年 北京生まれ。一橋大学社会学部を卒業後
 さまざまな職業を経て80年代のバブル期に株の世界
 に飛び込む。
1994年 体験を十二分に生かした「流星たちの宴」で
 衝撃のデビュー。エンターテインメント小説界の旗手
 と絶賛される。著書に「海は涸いていた」「カットグラ
 ス」病葉流れて」などがある。
     
最も遠い銀河
 

★★★

 読書のコミュニティーで「今年読んで最も印象に残った本」に挙げられ
 た一冊である。期待して読んだが期待にそぐわない秀作だった。
 上下2巻という長さを感じさせない、読み手を強く惹きつける文が続
 く。ただ、希望を言うと、読後感が爽やかなハッピーエンドを期待した
 いが・・・。
 内容(「BOOK」データベースより)
晩秋の小樽の海で、一隻の漁船の網が女性の変死体を引き揚げた。
その死体の首には、なぜか銀製のテッポウユリのペンダントが残って
いた。懸命の捜査も虚しく、事件は迷宮入り状態と化した―。
一方、東京の地で、新進気鋭の建築家として名を馳せている桐生晴
之。誰もが振り向くほどの容貌、権力に媚を売らない孤高の姿、友へ
の熱い友情。周囲から一目も二目も置かれる晴之だが、その過去は
ベールに包まれていた。
そして、彼の首にテッポウユリのペンダントが吊るされていることを誰
も知らない。人知れぬ哀しい純愛とたぎる怒りを抱え、建築家として
の成功を目指す晴之。彼と小樽の死体遺棄事件との間には、一体な
にがあったのだろうか。 
天国への階段
 最も遠い銀河が印象的だったので、話題作と言われたこの本も続け
 て読んでみた。やはり上下2巻。
 主人公の出身地である北海道・浦河はサラブレットの牧場が延々と
 続いている一帯である。
 以前北海道を何回か縦断しているが、その時に2、3回通っている。
 襟裳岬の近くである。 
 内容(「BOOK」データベースより)
家業の牧場を騙し取られ非業の死を遂げた父。最愛の女性にも裏切
られ、孤独と絶望だけを抱え19歳の夏上京した柏木圭一は、26年の
歳月を経て、政財界注目の若き実業家となった。罪を犯して手に入
れた金から財を成した柏木が描く復讐のシナリオ。運命の歯車が狂
い、ひとりひとりの人生が軋みだす…。  
単騎千里を走る

★★★

 息子と折り合いの悪い高田剛一は、嫁の理恵から息子が肝臓ガンに
侵されていると聞き、息子が楽しみにしていた中国の「単騎、千里を走
る」のビデオを撮るため、中国に渡る。ところが、踊り手の男は刑務所に
入っていると言う。
 高田は必死にビデオ撮りのために奔走する。
 

   



 
 

 

 佐々木 丸美
    
 北海道当別町出身 当別高校卒・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
 北海道学園大学法学部中退。
 1975年 「二千万円テレビ懸賞小説」に佳作入選した
     「雪の断章」でデビュー。同作はベストセラーに
     なり、後に斉藤由貴主演で映画 化された。
 -------------------------------------------
 詩的な美文と、ミステリー、ファンタジー、お伽噺、超常
現象、仏教思想などさまざまな要素を絡めた独特の作風
が特徴。
 物語同士に何らかの関連性を持たせ、奥行きがある独
特の作品世界を築き上げた。
 代表作は、札幌を舞台に孤児の少女の運命を綴った
 「雪の断章」犯罪と人間心理を巧に描いた本格推理長
 編「崖の館」など。
雪の断章
 
 

★★★

この本は凄い!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
細かい字で埋められているので、読むのが億劫になりそうなものだが
読み手を惹きつける文と内容の展開で、紙面から目を逸らさせない。
孤児の飛鳥は、あすなろ学園から本岡家に引き取られるが、本岡家
の人々の冷たい仕打ちに耐えかねて家を飛び出す。
そして、大通り公園で、それまでにも顔をあわせたことのある滝杷祐
也と出会う・・。
祐也、親友の史郎、祐也の家事を手伝いに来るトキさん、祐也の会社
の人で同じアパートの厚子さん、学校の友達の順子、管理人のおじさ
ん・・・。
いろいろな人たちとのふれあいの仲で成長していく。
本岡家の長女で史郎と同じ会社に勤める聖子の死をきっかけに、学業
に身が入らなくなってしまった飛鳥だったが、やがて立ち直り順子とと
もに北海道大学に合格する。
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内容紹介から
伝説の作家・佐々木丸美の作品集「佐々木丸美コレクション」第1弾! 
天涯孤独の少女・飛鳥は雪降る札幌で青年・祐也と出会い、彼に育
てられる。
2人の運命と苦しいほどの愛を描いた珠玉の名作がついに復刊! 
     
     
      


 

   

 窪 美 (くぼ みすみ)
    
「BOOK著者紹介情報」より 
1965(昭和40)年、東京都稲城市生まれ。
 カリタス女子中学高等学校卒業。
 短大を中退後、さまざまなアルバイトを経て、広告制作会社に
 勤務。
 出産後、フリーの編集ライターに。妊娠・出産を主なテーマとし、
 その他女性の体や健康、漢方、占星術などについて雑誌や書
 籍で活動中。
2009年、「ミクマリ」で第8回「女による女のためのR‐18文学賞」
 大賞を受賞。
ふがいない

僕は空を見た

 この本を読んで考えさせられることは数多いが、最初の部分は衝撃
 を受ける。
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 ミクマリ
   「あんず」のアパートに出かけていく僕(斉藤)
 世界ヲ覆フ蜘蛛の糸
   あんずは慶一郎に求められて結婚するが、子どもができない。
   姑は子どもができるのを何よりも楽しみとしているのに。
   あんずは何をやってもとろくさく駄目だと思っている。
 2035年のオーガズム
   斉藤を好きな松本松永七菜。
   兄は優秀だったが、物事を知りすぎたためか、新興宗教のよう
   な集団に入り込んでしまう。
 セイタカアワダチソウ
   斉藤の友だち・福田は、斉藤とあんずの写真をばらまく。
   福田はコンビニで働く田岡から勉強を教えてもらい、今の境遇
   から脱出しようと思う。
 花粉・受粉
   斉藤の母。助産婦をしながら息子を育てるが、卓巳はあんずと
   の写真をネットに公開され登校拒否になってしまう。リウ先生か
   ら声をかけられ、卓巳と話し合い、未来に光を見つけ出す・・・。
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内容紹介から
 これって性欲?でも、それだけじゃないはず。高校一年、斉藤卓巳。
ずっと好きだったクラスメートに告白されても、頭の中はコミケで出会
った主婦、あんずのことでいっぱい。団地で暮らす同級生、助産院を
いとなむお母さん…16歳のやりきれない思いは周りの人たちに波紋
を広げ、彼らの生きかたまでも変えていく。
 第8回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞受賞、嫉妬、感傷、
愛着、僕らをゆさぶる衝動をまばゆくさらけだすデビュー作。 
晴天の迷いクジラ  この作家の二冊目。
 内容の紹介に「感涙の物語」とあったので、今回こそはと期待を持っ
 て借りた。
 この作家、もの凄く読みやすい。字が詰まった文なのに、どんどん読
 み進められる。「読み手に沿った文」は高い才能を感じる。

 読後に「感涙」はない。迷いとやり切れなさ。そしてほんの少し希望
 ・・・といったところ。
 小さい頃から絵がうまかった野乃花は高校の時に絵を習いに行った
 塾の先生と肉体関係を持ち、妊娠して結婚。しかし、嫁ぎ先の議員
 一家に冷たくされ、子どもにも愛情を持てず家を出る。
 兄が引きこもり、妹はグレ、自分だけはまともに生きようと東京に出て
 きた由人はデザインの専門学校を出て、野乃花が社長をつとめる会
 社で働く。
 姉が病でなくなり母の目が過剰に自分に向けられ、耐えられなくなっ
 てしまった正子。
 この三人が、小さな湾に迷い込んだクジラを見に行くという設定。
 危なかった会社だったが、由人の先輩の畠山の奔走でなんとか踏
 みとどまる。
 「自分の心にゆるく由人は誓う・・・・だけど僕は死なない。たぶん。」
 これが感涙の物語だいうことになるのだろうが・・・。
 -----------------------------------------------------
内容紹介から
  壊れかけた三人が転がるように行きついた、その果ては?人生の転
機に何度も読み返したくなる、感涙の物語。


 
 
 



 小路幸也 (しょうじ・ゆきや)
        
1961年 北海道旭川市出身。在住。・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・
 広告製作会社を経て、メフィスト賞を受賞した「空を見上げる
 古い歌を口ずさむ」でデビュー。
 著書「東京バンドワゴン」「HEARTBEAT」「東京公園」など。
 魅力的な人物たちによる瑞々しい物語が、多くの読者に支
 持されている。
     
 

 東京

ピーターパン


 図書館の「新刊書のコーナー」に紹介されていたので予約。・・・・・・・・・
 この作家も学生時代にバンドをやっていたらしい。その頃の体験なども
取り入れられているのだろう。ギタリストだった・杉田辰吾は46歳の時に
家を出てしまい、その後ホームレスを続けている。「清潔な暮らし」をしな
がら。
 そのシンゴのファンで荷物の管理などに手を差し伸べる駐在所の巡査。
やがて物語の進行とともに関わりを持つようになる人々。
 そしてミュージックで繋がる仲間として一つの曲を作り上げる・・・。
------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
印刷所の平凡なサラリーマン、石井和正、34歳。元・伝説のギタリストで、
ホームレスの“シンゴ”、60歳。メジャーを夢見るバンドマン、“コジー”こと
小嶋隆志26歳。寺の土蔵に引きこもりの高校生・田仲聖矢16歳と、その
姉・茉莉26歳。
 「人を、撥ねてしまったんです」石井が起こした事故により、5人のセカイ
が交わるとき、物語が動き出す。小路幸也が贈る、ラブ&ミュージックな大
人の青春小説。 
僕は長い昼と

長い夜を過ごす

 ちょっと不思議な作家である。
 長編のわりには、内容にはダイナミックスな展開が少ない。
 二億円を手に入れてしまった主人公が実家の札幌に帰り、追いかけて
くる者に備えたり、過去の事件の謎に挑んだりする。その経過がゆったり
流れすぎる・・・。
 終盤、それまで協力してきた「ナタネさん」の正体が明かされ、ちょっと
感動を誘われた。
 ------------------------------------------------------
 内容紹介から
 ミステリ・青春・家族etc… 少し奇妙で胸を打つ小路ワールド最新作。
僕の一日は五十時間起きて二十時間眠る。拾った二億円と謎の〈種苗
屋〉ナタネさん。奪還屋、強奪屋。 非二十四時間睡眠覚醒症候群。
 15年前、強盗に殺された父親。ゲームプランナーとしての経験。すべて
のピースを活かして、周りのひとたちを守るんだ。 50時間起きて20時間
眠る特殊体質のメイジ。草食系でのんびりした性格に反し、15年前、父
親を殺されたというハードな過去の持ち主。
 現在はゲームプランナーをしつつ、体質を活かした〈監視〉のバイトをし
ている。だが、そのバイトのせいで二億円を拾ってしまい、裏金融世界の
魔手に狙われる羽目に。
 メイジは戸惑いながらも知恵と友情を武器に立ち向かうが、この利とも
枷ともなる体質が驚愕の事態を招く。 
少年探偵
 これは面白い。
 怪人二十面相の話にふさわしく謎が謎を呼ぶ。
 新展開が次々と待ちうけていて、中盤から後半は目が離せない。
 二十面相が、予告前にする布石を見破る明智。
 上野公園で念仏踊りをする学生、ロンドンの霧を模した「殺人スモッグ」
 時計を大量に盗む時計男。
 それらは小さな出来事のように思えるのだが明智の目はごまかせない。
 次に二十面相が起こす事件のために、世間の見方を偏向させるため。

 しかし、以前の怪人二十面相と異なるのは、明智は15数年後に再登場
 だということ。二十面相は新たな人物らしいということ。
 財閥で伯爵・西四辻家の双子の兄弟、その母、兄弟の姉の登場も面白
 い。明智の過去が明かされる(あくまでもこの作家の設定)。小林少年
 の登場のさせ方もユニーク。双子の兄弟の一人・芳雄を鍛える謎の紳
 士の正体が最後までよくわからないのも神秘的で良い。

 惜しむらくは
  この作家に、構成力?がやや欠けている。最初読んだ時、難解なこと
  を続けて書いて意味のわからない出来事や登場人物ばかり。読むの
  を止めようかと思ってしまった。
  明智の古くからの友達だという帝都新聞の記者・真山。
  この男の言葉遣いに品がない。現代風にしたいのはわかるが、作品
  を安っぽいものにしてしまう。明智のことを呼ぶ時や行動に対して、
  薄っぺらな言い方をするので、明智も底の浅いただの男に見える恐れ
  がある。シャーロックホームズの相棒・ワトソンのように、主役を大きく
  引き立てる役目を与えてほしかった。
 ------------------------------------------------------
 内容紹介から 
 江戸川乱歩生誕120年記念オマージュ第3弾! 
 世間を騒がせる怪人二十面相の秘密を知り、身を挺して真実を伝えよ
 うとした少年と、彼に「力」を授ける謎の紳士。
 退廃に沈むかつての名探偵が立ち上がり、少年と出会うとき、あの「少
 年探偵団」の冒険が再び甦る。
 少年探偵団の哀しくも美しい世界をご堪能あれ! 

 帝都を駆ける怪人二十面相と、再び立ち上がる明智小五郎、そして少
 年・芳雄。三つのピースが揃ったとき、新たなる“冒険”が幕を開ける! 

   
 
 



 
 
 
 
 川上 健一
        
1949年 青森県生まれ・・・・・            ・・・・・ ・・・・・
1977年 「跳べ、ジョー!BBの魂が見てるぞ」で
      小説現代新人賞を受賞。
2001年 自伝的青春小説「翼はいつまでも」が「本の雑誌」年間
      ベスト1に選ばれる。同作で坪田譲治文学賞受賞。
     
あのフェアウェイへ
 

★★★

 

 清々しい感動を与えてくれる爽やかな一作。
 ゴルフのことをほとんどわからない人や関心のない人もどんどん読み
進められる。ゴルフの知識がなくてもわかるのである。
 冒頭に次のような言葉がある。この言葉が強く印象に残る。
 「人生の最後にいくらの財産を得たかではない。何人のゴルフ仲間を
  得たかである。 ボビー・ジョーンズ」

 ・忘れ物・・・かつて自分がはじめてゴルフをやった時に使ったクラブと
         同じものがグリーンエッジに置き忘れられていた。
 ・時間ドロボー・・・義父はゴルフのマナーに厳しい。その義父が延々
            と時間をかけた・・・。
 ・いつの日かバーディー・・・練習場の通う雅則は通り道で花屋の女の
                 人から爽やかな笑顔で挨拶される
 ・優勝カップ・・・運よく優勝出来て上に持ち帰った優勝カップに娘が喜ぶ
 ・増毛リンクスへ・・・ 新婚の二人は初めてゴルフ場に足を踏み入れた
              が管理人は二人を温かく迎える。
 ・ドライバーショット・・・諍いを続けている親子を叔父が別々にゴルフに
               誘う。
 ・同級生   
 ・フェア・・・・・・ 仕上げたゴルフ場のコースは日本オープンに合ってい
           るのだろうか。
 ・パートナー・・・ 主婦の真由美にキャディーは天職か
 ・輝く・・・・・・・・ 認知症の義母をコースに出したら・・・。
 ・最後のコンペ 
 ・あるがままに・・風雨の激しい日にゴルフ場にやってきた杉沢は一人
           でコースに出てみた。

翼はいつまでも
 

★★★

  懐かしい青春時代を彷彿とさせる珠玉の一冊である。・・・・・・ ・・・・・・
 この作家は読者の心を掴む術を知っているようだ。
 本作では、中学生時代の泥臭い失敗談や甘い思い出を生々しく、そして爽や
 かに描いてみせる。
 野球部のこと。
 中体連で県大会を勝ち抜けそうなメンバーだったのに、相撲部の先生に強引
 に レギュラー3人を引き抜かれ、負けるまで・・・。悔しい思いを叩きつけたけ
 れど、反対に殴られ、先生たちには裏切られっぱなしだった。
 十和田湖に一人でキャンプをしたこと。
 処女を失うのが全国一という、わけのわからない噂を信じて、良からぬ魂胆を
 秘めて十和田湖に向かった僕。
 そこで、ホテルの手伝いに来ていた同級生の斉藤多恵に会う。
 多恵のピアノはこれまで聴いたことのない、人の心を打つタッチと響きを持っ
 ていた。
 そしてアベマリアの透明感あふれる高音・・・。
 交通事故で父母を失い、体に痣を負った多恵だが僕(神山)と出会い、自分を
 出していく姿勢を取り戻す。
 やがて、仙台の施設にいくことになった多恵との切ない別れ・・・。
---------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
初恋と友情…少年と少女の永遠のひと夏。中学2年生の時に初めて聞いたビ
ートルズで、さえない僕の人生は変わった。冒険の小旅行、憧れの少女との
交流。ひと夏の思い出が蘇る。第17回坪田譲治賞受賞の清冽な青春小説。
渾 身

★★★

 この作家の本は読後感が爽やかで良い。
 読書は何のためにするのか・・・読者の期待にこたえてくれる。
 
 物語の設定はやや無理なところもある・・
 多美子が英明の後妻にすんなり入ったこと。
 親友とはいえ、亡くなった先妻の麻里のことをいつも大事にしていること。
 隠岐の島で英明の両親に結婚の挨拶していないことなど・・。

 しかし、そんなことはテーマから考えれば些細なことである。
 麻里の残した琴世は「あのねえちゃん」と呼んで多美子を慕っている・・・。

 相撲の大一番も、凄まじい戦いや、同体・物言いなど、なかなか勝負が
 つかない。作者は相撲についてかなり詳しいことがわかる。
 しかし、相撲は結構一瞬で決まることも多い。
 長々とし取り組みは、「作り物」という感じがする。

 そうではあるが・・・これが小説のよさ、読書の良さなのである。
---------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 坂本多美子は夫の英明と、まだ「お母ちゃん」とは呼んでくれないが、前妻の
 娘である5歳の琴世と幸せに暮らしていた。隠岐島一番の古典相撲大会。夜
 を徹して行われた大会もすでに昼過ぎ。
 いよいよ結びの大一番。最高位の正三役大関に選ばれた英明は、地区の名
 誉と家族への思いを賭け、土俵に上がる。息詰まる世紀の大熱戦、勝負の
 行方やいかに!?
 型破りのスポーツ小説にして、感動の家族小説。 


 
 


   

 三田  完  (みた かん)
    
1956年浦和市生まれ。
 慶應義塾大学文学部卒業。
2000年「櫻川イワンの恋」で第80オール読物新人賞を受賞。
           デビュー。
2007年「俳風三麗花」が第137回直木賞候補となる。
モーニング

サービス
 

★★★

 浅草の裏通りにあるカサブランカ。ふと立ち寄ってみたくなるような喫茶店である。
店主はきちんとサイフォンでコーヒーを煎れる。思わず食べたくなるような、香りよく
焼かれたトースト。この店主も、ここに毎日現れる澄子、大造もみな過去に訳ありの
人達であるが、優しさは充分すぎるほど持ち合わせている。読後感の爽やかな小
説である。
 文が非常に読みやすい。
---------------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
喫茶「カサブランカ」の名物は、茹で卵と厚切りトーストがついたモーニングサービス。
溶けたバターの匂いと店主夫妻の人柄に惹かれ、今日もまた、風変わりな客たちが
やってくる。
藝者の大姐さん、吉原の泡姫、秘密を抱えた医大生…それぞれの複雑な事情も、
コーヒーと一緒に飲み干せば不思議と力が湧いてくる。じんわり温もる人情連作集。 
マリちゃん
 
 

★★★

 これは凄い!
 最初は芸能界の内幕を描いた小説だろう・・大したこともないと思って読んでいた
 のだが、後半とても目が離せなくなってしまい、マリちゃんと、その周辺に登場す
 る人たちと同化して、本の中に引きずり込まれてしまった。
 うーん!! 歌謡界に登場したアイドルのその後の末路・・。
 深く深く考えさせられた・・。一つの人生を終えたような感慨があり、しばらく呆然
 としていた。
  ・歌わせる男
  ・教える男
  ・書く男
  ・殴る男・・結婚した男は元アイドル・・
  ・儲ける男・・35年後のマリちゃんにあった不動産を営む男
  ・祷(いの)る女
------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
  「わたし、歌手になってお金を稼ぎます。早く家を出られるように」
  時は70年代、音楽プロデューサー、芸能プロ社長、ドラマ演出家、芸能記者…。
  暗い眸をした少女は、男たちの手によってトップアイドルに祭り上げられる。
  しかし、“禁断の愛”をきっかけにその人生はねじ曲がり、芸能界から忽然と姿
  を消す。
  残された男たちの胸に広がる茫漠たる想い。
  マリちゃんの「真実」はどこにあったのか―?
  成長し続ける東京の街、活力に満ちた芸能界、欲望と希望の狭間で揺れる男
  たちを活写した、感動長篇。 

  
 


  
  
  
 誉田哲也 (ほんだ・てつや)
        
1969年生まれ。学習院大学卒。・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・
2002年 「ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華」で第2回
   ムー伝奇ノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。
2003年 「アクセス」で第4回ホラーサスペンス大賞特別賞
   「ジウ」で新しい警察小説の担い手として注目を集める。
   「武士道シックスティーン」は人が一人も死なない青春
   エンターテインメントである。
     
武士道

シックスティーン
 

★★★


 これは面白い。
 青春感動もの。
 剣道の話もここまでわかりやすく、明快に書いてくれると良い。
 ただ敵を切る・・・それだけを目標に剣道をやってきた香織は、小さ
 な大会で無名の早苗に敗れ呆然とするが、やがて早苗が進学する
 と思われる東松学園に入学・・・。
 何のために剣道をやるのか、悩み始める香織だった・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
「ようするにチャンバラダンスなんだよ、お前の剣道は」剣道エリート、
剛の香織。「兵法がどうたらこうたら。時代錯誤もいいとこだっつーの」
日舞から転身、柔の早苗。
相反するふたりが出会った―。さあ、始めよう。わたしたちの戦いを。
わたしたちの時代を。
新進気鋭が放つ痛快・青春エンターテインメント、正面打ち一本。 
幸せの条件

★★★

 農業の素晴らしさに目覚め、生きがいを見つける主人公・梢恵(こずえ)
 の姿が良い。
 脱原子力、脱化石燃料、このためにバイオエタノールを作り出さなけれ
 ばならない。
 そのため専用の米を栽培する水田を確保する・・・という社命を受けた
 梢恵は長野の 農村に赴くが、親切で優しい人々に出会い、農業に取
 り組むことになってしまう・・・。
 米作りのための一つ一つの作業に驚いたり、畑作物の成長に感動した
 りする場面が清清しく好感が持てる。
 片山製作所の社長のことば
  「本当に必要とされる人間なんて、実際には大してありゃしないんだ
   ・・・むしろ大切なのは本当の意味で、自分に必要なものは何か、
   それを自分自身で見極めることこそが大事なんだ・・。」
 これが深く心に残る。
ヒトリシズカ

★★★

 小説の醍醐味を堪能させてくれる一冊。
 さすが、誉田哲也。
 シックティーン、幸せの条件とは全く異なる、ミステリー・推理物である。
 内容紹介にあるが、衝撃の展開が待っている小説。
 読み手の心を鷲掴みにするような、謎と行き着く先の見えない流れ・・。
 構成が素晴らしいのである。
 各章に別な刑事(巡査)が登場するのも、パズルを解くようで面白い。
 雑誌に期間を置いて連載されたものらしい・・。
 週末は必ずしもハピーエンドではないが、何故か読後感は悪くない。
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 内容(「BOOK」データベースより)
見えそうで見えない。手が届きそうで届かない。時と場所、いずれも違う
ところで起きる五つの殺人事件。その背後につらつく女の影。
追う警察の手をすり抜ける女は幻なのか。いまもっとも旬な著者の連作
ミステリー。
ストロベリーナイト
最初何ページか読んで止めようと思った。
目を覆うような場面が続くからである。
でも、シックスティーンなどの爽やかな青春ものを書いた作家なので・・我慢
して読み続けた。

殺しの場面も残酷である。
「死」に対する尊厳や家族・友人・知人の想い・・そんなものが吹き飛んで
しまうような殺人である。

ただ、感動した場面もあった。
姫川玲子は17才のとき暴行された。
裁判で相手の弁護士は少しでも被告人の罪を軽くするために容赦がない。
「必死で抵抗したにしては擦過傷が少ない、合意の上だったのではないか、
 そもそもあなたは処女だったのか・・・」

玲子は見えない圧力に屈しそうになる。
そのとき、暴行の犯人を逮捕するために戦い殉職した佐田倫子の声が耳元
で聞こえる。佐田は暴行後の病院にいる玲子を一生懸命励ましてくれた刑
事だった。
玲子が叫ぶ。
「ナイフをつきつけられ、抵抗を諦めなくてはならなくなったのが合意なのか。」
「警察官は殺されるかもしれないのに立ち向かったから殺されても仕方の
 ないことなのか。」
「あなたには奥さんがいないのか、恋人や、姉や妹は・・・愛する人がそんな
 目に遭ったらどうするのか・・・。」

警備の職員が玲子を取り押さえに向かう・・・が、途中で止まる。
玲子が振り返ってみると、傍聴席に並んでいる、取り調べに当たった警察官、
被害者の家族、驚くほどたくさんの人々が、起立し、玲子に敬礼していた・・
ここを読んだ時、涙が出そうになった。

しかし、その後の物語の展開は・・・。
姫川班の結束。刑事の行動、思索、見どころは多いが、殺人の場面が酷い。
犯人も、この人にするのか・・失望。
殺人ショーを企画、死体処理・・・この人数で、多数の殺人と死体の隠匿が
できるのかという疑問もある。
推理ものとしてみても、読者をうならせるものがない。
「死」や「殺人者に満足?を与えるという異常な世界を描きたかったのだろう。 
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 内容(「BOOK」データベースより)
 姫川玲子、二十七歳、警部補。警視庁捜査一課殺人犯捜査係所属。
 彼女の直感は、謎めいた死体が暗示する底知れない悪意に、追ること
 ができるのか。 
 青いシートにくるまれ、放置されていた惨殺死体熱気と緊張感を孕んだ
 描写と、魅力的なキャラクター。渾身の長編エンターテインメント。

ブルーマーダー
 姫川シリーズ、なかなか面白いが、暴行傷害や人のシーンが酷い。
 人間の尊厳や生き様があっという間に否定されてしまう。ヤクザ、暴走族上
 がりの半・・、中国マフィア・・
 それらを震え上げさせる謎の斬殺魔。想定外の武器を使い、肋骨を折り抵
 抗不能にして、死ぬまで痛めつける・・・。
 はじめはヤクザの組長だった・・。
 この作家・・本当によくわからない。
 武士道シックスティーン、幸せの条件などを書いた作家とは思えないのである。 
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 内容(「BOOK」データベースより)
 累計240万部を突破し、来年1月には映画公開も控える『ストロベリーナイト』
 シリーズ、待望の最新長編が完成! 
 あなた、ブルーマーダーを知ってる?この街を牛耳っている、怪物のことよ。
 池袋署に異動になった姫川玲子、常に彼女とともに捜査にあたっていた菊田和
 男、『インビジブルレイン』で玲子とコンビを組んだベテラン刑事・下井、そして悪
 徳脱法刑事・ガンテツ。
 今回、彼らが挑むのは、裏社会の住人を狙い撃ちにする謎めいた連続殺人事件。
 殺意は、やがて刑事たちにも牙をむきはじめる……。 
インビジタブルレイン
 ストロベリーナイトの後に書かれたようだが、姫川班のメンバーはあまり出てこな
 い。その意味では物足りないが、内容は濃い。
 今回は姫川と下井がコンビを組む。
 姫川の個人像が描かれる場が多い。
 ヤクザ・牧田への姫川の想い、牧田がヤクザになったいきさつなども語られる。
 牧田に心酔する川上の動き、ヤクザ社会のピラミッド型の組織・・。
  前2作と比べると暴力場面の残虐さは少ない。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 姫川班が捜査に加わったチンピラ惨殺事件。暴力団同士の抗争も視野に入れ
 て捜査が進む中、「犯人は柳井健斗」というタレ込みが入る。
 ところが、上層部から奇妙な指示が下った。捜査線上に柳井の名が浮かんでも、
 決して追及してはならない、というのだ。
 9年前に犯した失態を隠ぺいしようとする警視庁。反発して単独捜査をすすめる
 玲子。その中で彼女は禁断の恋を経験するが…
 隠蔽されようとする真実―。警察組織の壁に玲子はどう立ち向かうのか?シリー
 ズ中もっとも切なく熱い結末。 
ドルチェ
 簡単な事件かと思われたが、実は・・という感じの展開。
 ・袋の金魚
  1歳2ヵ月の子どもが溺死。行方不明の母が出頭。犯人は決定的と思われた。
  夫の暴力に悩んでいたらしいのだが、この女は実は・・驚愕の事実!!
 ・ドルチェ
  行きずりの男に刺された女には、大学の准教授や学生など多彩な相手がい
  た・・。
 ・バスストップ
  女が何者かに抱きつかれるという事件。容疑者とされた男(教師)は、なぜ停
  留所、頻繁に佇みバスを見ていたのか・・。
 ・誰かのために
  職場の男を殴り、また引きこもりに戻った男の飼っていたものは・・。
 ・ブルードパラサイト
  不倫の夫を刺した妻。包丁を手にした理由は娘に?・・・。
 ・愛したのが百年目
  酒酔い運転で友人を轢いてしまった男・・・。一緒に飲んで友人を送り届け、
  友人が車から下りた後、間違ってアクセルを踏んだということだったが。
 ちょっとした読書に相応しい、意外な謎を含んだ連作集である。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 彼女が捜査一課に戻らない理由。それは、人が殺されて始まる捜査より、誰か
 が死ぬ前の事件に係わりたいから。誰かが生きていてくれることが喜びだから。
 警視庁本部への復帰の誘いを断り続け、所轄を渡って十年が過ぎた。
 組織内でも人生でも、なぜか少しだけ脇道を歩いてしまう女刑事・魚住久江が
 主人公の全6編。 
ドンナ ビアンカ
 酒の配送会社に勤めるキ村瀬は配達先のキャバクラで、瑶子と会う。
 瑶子は中国からの留学生だったが勉強が進まず、副島の愛人になっていた。
 副島は居酒屋や中華料理店を経営する大手企業の専務。
 副島のおかげで居酒屋の副店長にさせてもらうが、瑶子との偽装結婚をさせら
 れる。
 瑶子が副島の愛人であっても愛しく思う村瀬。瑶子も素直な女で村瀬と会うひと
 時を楽しみにしていた。
 
 この村瀬の行動と、誘拐事件が同時に語られていくが、同時進行ではない。
 村瀬、副島、瑶子・・これらの関係が進んだ後に誘拐事件は起こっているので
 ある。誘拐された副島ちと村瀬はどうなったのか・・・所轄から師弟捜査員として
 捜査本部に派遣された女刑事・魚住は旧知の金本と捜査にあたる・・。
 2000万円の身代金はどうなる・・・。
 二つの出来事の並列は読者を飽きさせない。
 推理と村瀬の純な心根を考えながらの読書はなかなか良い。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 恋に墜ちたことが、罪だったのか。
 恋愛捜査シリーズ「ドルチェ」感涙必至の極上長編。
 41歳の純粋な男と27歳の儚い女。二人の不器用な恋愛が犯罪を導いたのか
 ――? 中野署管内で身代金目的の誘拐事件が発生した。被害者は新鋭の飲
 食チェーン店専務の副島。提示された身代金は二〇〇〇万円。
 練馬署強行犯係の魚住久江は、かつての同僚・金本と共に捜査に召集される。
 そして、極秘裏のオペレーションが始動した。 
増山超能力師

事務所

★★★

 これは凄い!
 超能力者が社会に認められ、「日本超能力師協会」設立される。
 こういう設定をして、学術的な裏付けを本当らしく仕立てる・・・。
 小説の妙である。文句なく面白い!!

 増山は超能力師1級の資格を持ち、事務所を構えている。
 所員はそれぞれ超能力師の資格を持つ3人。
 「魔女」と呼ばれけんか相手を炎上させ、仲間内を仕切っていた悦子は増田と
 出会い、能力を生かす探偵の仕事を始めた。男二人が主となる事件も起こる。
 見習いに入った明美は見かけは女だが、その実は・・・。
 増田は大きな秘密を抱えている。妻の文乃は・・・。
 明美と文乃の話は切ない。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 ちょっとおかしな新シリーズ始動!
 いまや事業認定された超能力で、所長の増山ほか、能力も見た目も凸凹な
 5人の所員が、浮気調査や家出人探しなど依頼人の相談を解決! 
 調査実績が信頼の証明。お客様のお悩みを、超能力で解決いたします!
 お困りの際は、迷わず当事務所まで。
 『武士道』『ストロベリーナイト』シリーズの著者による最高に楽しいエンター
 テインメント誕生!! 

   
  
 



 原田 マハ 
        
1962年 東京都生まれ。中学、高校時代を岡山市で過ごす。・・・・・
     関西学院大学文学部および早稲田大学美術史科卒。
     マリムラ美術館、伊藤忠商事、森ビル森美術館設立
     準備室にそれぞれ勤める。森ビル在籍時、ニューヨーク近
     代美術館に派遣され、同館に勤務。
     その後、フリーのキュレーター、カルチャーライターになる。
2005年「カフーを待ちわびて」で第1回日本ラブストーリー大賞受賞。
     同作は映画化され、35万部を超える大ヒットとなる。
     多忙を縫って年間150日は国内外へ旅に出る。
     自称「フーテンのマハ」
     
旅屋おかえり
 

★★★

 読み手の心にどんどん入り込んでくるような文を書く作家である。
 礼文島から東京に出てきて女優を目指した岡恵理子だったが唯一のレギュラー番
組「ちょぴっ旅」が打ち切りとなったしまう。
 行き場を失った「おかえり」は筋萎縮性側索硬化症(ALS)になった鵜野真与のため
に「旅屋」になることを決意。桜が満開の角館に旅立つ・・・。
 全体が二つの話で成り立っている。
 前半が角館、後半は江戸ソース江戸悦子社長からの要望で愛媛・内子町を訪ねる。
そこには江戸社長の妹の娘が居るという・・・そしてその人は「おかえり」の所属する
よろずやプロの萬鉄壁社長と関わりがあった。
 感動する本に入れたい秀作である。
 冒頭に弘南鉄道・黒石が出てくるのも嬉しい。(名前だけ・・)
本日はお日柄もよく

★★★

 この作家に「ハマり」そうである。
 読み始めて気が付けば3分の1くらい読んでいる・・・。
 今回はスピーチの妙が語られる。
 久遠久美、二ノ宮こと葉の結婚式のスピーチ、今川議員死去にともなう小山田党
 首の追悼スピーチ・・・感動する。
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 内容(「BOOK」データベースより)
二ノ宮こと葉は、製菓会社の総務部に勤める普通のOL。他人の結婚式に出るたび
に、「人並みな幸せが、この先自分に訪れることがあるのだろうか」と、気が滅入る
27歳だ。けれど、今日は気が滅入るどころの話じゃない。なんと、密かに片思いして
いた幼なじみ・今川厚志の結婚披露宴だった。ところが、そこですばらしいスピーチ
に出会い、思わず感動、涙する。伝説のスピーチライター・久遠久美の祝辞だった。
衝撃を受けたこと葉は、久美に弟子入りすることになるが…。 
楽園のカンヴァス

★★★

 この本は凄い。
 前作の2冊の印象があったので、軽妙なタッチの内容を予想したが全く違う。
 この作家は履歴にもあるが、美術の分野が専門なのである。
 その本領を十二分に発揮して、読者を魅了する一級品の本を書き上げたのである。
 ピカソをうならせた画家、アンリ・ルソー。その描くものの素晴らしさ、情熱が強烈に
 迫ってくる。秀作のひと言に尽きる本である。
 物語は大原美術館の一介の監視員・早川織絵が展示室で仕事をしている場面から
 始まる・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
ニューヨーク近代美術館の学芸員ティム・ブラウンは、スイスの大邸宅でありえない
絵を目にしていた。MoMAが所蔵する、素朴派の巨匠アンリ・ルソーの大作『夢』。
その名作とほぼ同じ構図、同じタッチの作が目の前にある。持ち主の大富豪は、
真贋を正しく判定した者に作品を譲ると宣言、ヒントとして謎の古書を手渡した。
好敵手は日本人研究者の早川織絵。リミットは七日間―。ピカソとルソー。二人の
天才画家が生涯抱えた秘密が、いま、明かされる。  
カフーを待ちわびて

★★★

「楽園のカンヴァス」で完全にこの作家に脱帽と思ったが、この本もさらに凄い
第1回日本ラブストーリー大賞受賞というのも頷ける。
この作家、いったい、いくつのテーマを持っているのだろう・・・。
感動する本に入れました。
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出版社/著者からの内容紹介から
沖縄の離島・与那喜島で、雑貨商を営みながら淡々と暮らしている友寄明青(35)の
ところに、ある日「幸」と名乗る女性から便りがやってきた。明青が旅先の神社に、ほ
んの遊び心で残した「嫁に来ないか」という言葉を見て、手紙を出してきたのだ。
「私をお嫁さんにしてください」
幸からの思いがけない手紙に半信半疑の明青の前に現れたのは、明青が見たこと
もないような美(チュ)らさんだった。
幸は神様がつれてきた花嫁なのか?戸惑いながらも、溌剌とした幸に思いをつのら
せる明青。
折しも島では、リゾート開発計画が持ち上がっていた。反対する少数派だった明青も、
幸が一緒なら新しい生活に飛び込んでいけると思い、一大決心をする。
キネマの神様

★★★

 この本は映画ファンにとっては欠かせない一冊であろう。
 かつての名作やエピソードが随所で語られる。その映画を見たことのない人にとっ
 ても、まるで一緒に映画を見た気分にさせられる・・・そんな魅力に満ちた一作であ
 る。
 斜陽化し客が激減している映画界。しかし映画は映画館の暗闇で見るべきもの、
 DVDでみるのは本当の映画ではない・・・・という言葉には同感である。
 かつての名画を上映するテアトル銀映が廃館の危機に陥るが、ブログ「キネマの
 神様」を立ち上げた仲間、映画雑誌会社の主人公、同僚の新村、編集長の引き
 こもりの息子・・・・みんなの力で乗り切る。
 ギャンブル好きの主人公の父親がブログに書いた名画へのコメント、それに批評を
 加えてきた、映画界の大御所ローズ・パット・・・・。物語を盛り上げるための作者の
 「仕掛け」もふんだんにある。 
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内容(「BOOK」データベースより)
四十を前に、突然会社を辞めた娘。映画とギャンブルに依存するダメな父。二人に舞
い降りた奇跡とは―。壊れかけた家族を映画が救う、奇跡の物語。 
まぐだら屋のマリア

★★★

 内容の紹介に詳しく説明があるので簡単に。
 この作家の本は読み手に感動と勇気を与えてくれるものが多い。
 作り物のお話と言ってしまえばそうかもしれない。
 登場人物、物語の舞台、発生するいろいろな出来事・・・・本当に作り物という感じ
 がする。しかし、読み手にとってはそんなことが気にならない。
 小説が読み手に「希望と力」を与えてくれるものであるならば、まさしくこれは素晴
 らしい小説である。生き抜くことの大切さを訴えかけてくる秀作である。
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内容(「BOOK」データベースより)
 いま、自分が呼吸し、生きているのが、この人生でよかった――。
 尽果(つきはて)に暮らす人々とそこに流れ着いた青年が“終点”から引き返す勇気
 を得るまでを描く、感動の成長小説。
 東京・神楽坂の老舗料亭「吟遊」で修行をしていた及川紫紋は、料亭で起こったある
 事件を機にすべてを失った。料理人としての夢、大切な仲間、そして、後輩・悠太の
 死……。
 後悔と自暴自棄な気持ちを抱えて、職場から逃げ出した紫紋は、人生の終わりの地
 を求めて彷徨い、“尽果”(つきはて)という名のバス停に降り立った。行く当てもなく
 歩くうちに、崖っぷちに佇む小民家「まぐだら屋」にたどり着く。戸を開けると、鰹の香
 りがいっぱいに広がる店内とカウンターのかたわら作業する女性に紫紋は目を離せ
 なくなる。
 その女性は、皆からマリアと呼ばれ、店に訪れる客たちに素朴であたたかな食事を
 振舞ってくれるのだった。マリアとの出会いで紫紋の頑なに縮こまった心と体が解き
 ほぐされていく。所持金も、行くあてもない紫紋は己の過去を隠してまぐだら屋の手
 伝いをするようになる。
 マリアに惹かれながらも、自身の過去が枷となり葛藤する紫紋。だが、そのマリアも
 聞いてはいけない大きな秘密があるようで……。彼女の左手薬指の切り落とされた
 ような傷、一人暮らしの部屋に置かれた2つの位牌、まぐだら屋の老女将が残した言
 葉――彼女の過去に秘められた壮絶な事件とは。
 そして、紫紋は再び未来へ踏み出すことができるのか。まぐだら屋に集う人々と人生
 の目標を見失った青年が、“終点”から引き返す勇気を得るまでを描く、感動の成長
 小説。 
永遠をさがしに
 原田マハは実にたくさんの「引き出し」を持っているものだと感心させられる。
 この本は、音楽、とりわけチェロに造詣が深くなければ書けないものである。
 巻末に東京都交響楽団ならびに同団チェリスト、高橋純子さんのご協力とアドバイ
 スをいただいたとある。
 いろいろに片の協力を得たとしても作家本人にある程度の知識と思い入れがなけ
 れば書き上げることはできない。

 チェリストをめざした和音の母・時依は挫折し、娘に期待をかけるがそれもかなわ
 ず、離婚して行方をくらます・・・。
 時依にあこがれチェリストの道を歩んだ真弓は、和音の父と結婚したと言って梶ヶ
 谷家に住み着く・・・。父がアメリカのボストン交響楽団に招かれ不在の間に。
 やがて和音と真弓は・・・・。
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内容紹介
  小路幸也  原田マハ 中村航 小松エメル 穂高明
 人気作家5名が、東京の新しい原風景を描く、珠玉の作品集! 

 川が青く光る夜、やさしい「奇跡」が起こる――。
 学生時代の恋人と再会した夜に、
 音信不通だった母と出会った日に――
 それぞれの想いが響き合う、5つの感動ストーリー。

イベント「東京ホタル」とのコラボレーションから生まれた
注目の作家たちによる極上のアンソロジー! 

東京ホタルとは……
自然と共生できる都市にという願いを込め、
隅田川に10万個のホタルに見立てた「いのり星」を流すイベントです。
2012年から始まり、毎年開催されます。 

 響き合う幸せを、音楽を愛する人々と分かち合うために。ふたりは、チェロを弾き続
  けていたんだね。世界的な指揮者の父とふたりで暮らす、和音16歳。そこへ型破り
 の“新しい母”がやってきて―。
 母と娘の愛情、友情、初恋。そして家族の再生物語。 

生きるぼくら
 

★★★

 いじめに合い、引きこもりになった人生。
 母親がついに人生に別れを告げ、行方をくらます。
 行き場を失った人生は、蓼科の住む祖母・マーサを訪ねる。
 そして、ばあちゃん、つぼみ、人生の同居生活が始まった。
 駅前の蕎麦屋の志乃、高齢者施設の田端さん、村の若者たち・・・
 さまざまな人たちと、ばあちゃんの田んぼで自然の米作りを
 始めた人生は、逞しく生きる力を身につけていく。
 この作家の本に登場する主人公は、行き場を失ってたどり着いた先で
 温かい心を持った人に出会うという設定が多い。
 まぐだら屋、・・・・ その他
 また、自然米づくりについてもよく調べている。
東京ホタル
 小路幸也  原田マハ 中村航 小松エメル 穂高明 の短編書き下ろしである。
 ホタルへの想いが、いろいろな面から書かれているので興味深い。
 
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内容紹介から 
 人気作家5名が、東京の新しい原風景を描く、珠玉の作品集! 

 川が青く光る夜、やさしい「奇跡」が起こる――。
 学生時代の恋人と再会した夜に、
 音信不通だった母と出会った日に――
 それぞれの想いが響き合う、5つの感動ストーリー。

 イベント「東京ホタル」とのコラボレーションから生まれた注目の作家たちによる極
 上のアンソロジー!

 東京ホタルとは……
自然と共生できる都市にという願いを込め、隅田川に10万個のホタルに見立てた
「いのり星」を流すイベントです。
2012年から始まり、毎年開催されます。 

ジヴェルニーの食卓

★★★

 この作家は実に幅広いテーマで本を書いているが本書は専門の、絵画・画家を
 テーマにしたものである。
 絵が苦手であまり関心がない私でも、引きずり込まれてました・・。
 印象派の画家たちを目の前に蘇らせてくれるような珠玉の一冊。
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内容紹介から 
 「この世に生を受けたすべてのものが放つ喜びを愛する人間。それが、アンリ・マ
 ティスという芸術家なのです」(うつくしい墓)。
 「これを、次の印象派展に?」ドガは黙ってうなずいた。「闘いなんだよ。私の。
  ――そして、あの子の」(エトワール)。ドガ
 「ポール・セザンヌは誰にも似ていない。ほんとうに特別なんです。いつか必ず、
 世間が彼に追いつく日がくる」(タンギー爺さん)。「太陽が、この世界を照らし続け
 る限り。
 モネという画家は、描き続けるはずだ。呼吸し、命に満ちあふれる風景を」(ジヴェ
 ルニーの食卓)。
 マティス、ピカソ、ドガ、セザンヌ、ゴッホ、モネ。新しい美を求め、時に異端視さ
 れ、時に嘲笑されながらも新時代を切り拓いた四人の美の巨匠たちが、今、鮮や
 かに蘇る。
 語り手は、彼らの人生と交わった女性たち。助手、ライバル、画材屋の娘、義理の
 娘――彼女たちが目にした、美と愛を求める闘いとは。『楽園のカンヴァス』で注
 目を集める著者が贈る、珠玉のアートストーリー四編。 
総理の夫

★★★

 実に良い。
 ハラハラする場面もあるが、痛快傑作のお話である。
 まさに現在と同様、閉塞する日本を舞台に、相馬凜子が首相として大改革に挑む。
 夫である「私」は鳥類学者。なにも協力することはできないが、妻を愛し守ること
 についてはだれにも負けない。
 最終章、凜子の体調に変化が・・・。
 政治家がこうであればと思わせてくれた秀作。
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内容紹介から 
 20XX年、相馬凛子は42歳にして第111代総理大臣に選出された。
夫である私・日和は鳥類研究家でありながらファースト・レディならぬ
ファースト・ジェントルマンとして、妻を支えようと決意する。
凛子は美貌、誠実で正義感にあふれ、率直な物言いも共感を呼んで支持率ばつぐん。
だが税制、エネルギー、子育てなど、国民目線で女性にやさしい政策には、
政財界の古くさいおじさん連中からやっかみの嵐。
凛子が党首を務める直進党は議席を少数しか有せず、他党と連立を組んでいたのだが、
政界のライバルたちはその隙をつき、思わぬ裏切りを画策し、
こともあろうに日和へもその触手を伸ばしてきた。
大荒れにして権謀術数うずまく国会で、凛子の理想は実現するのか?
山本周五郎賞作家が贈る政界エンターテインメント&夫婦愛の物語。 
太陽の棘(とげ)

★★★

 これは素晴らしい。
 内容紹介に詳しく書かれているので詳細は省く。
 沖縄に派遣されたアメリカ人の複雑な心境。
 アメリカ人に対する沖縄の人々の態度、気持。
 それらを物語のパックにしながら、絵の力、素晴らしさが全編に漂う。
 原田マハは実在の精神科医に出会い、細かに聞き取っている。また、巻末に
 参考文献やHPとして30数点を載せている。沖縄についての細やかな考察の
 もとに書かれた秀作である。
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内容(「BOOK」データベースより) 内容紹介より
 サンフランシスコにある医院のオフィスで、老精神科医は、壁に掛けられた穏やかな
 海の絵を見ながら、光と情熱にあふれた彼らとの美しき日々を懐かしく思い出してい
 た……。
 結婚を直前に控え、太平洋戦争終結直後の沖縄へ軍医として派遣された若き医師
 エド・ウィルソン。
 幼いころから美術を愛し、自らも絵筆をとる心優しき男の赴任地での唯一の楽しみは、
 父にねだって赴任地に送ってもらった真っ赤なポンティアックを操り、同僚の友人たち
 と荒廃の地をドライブすること。
 だが、ある日、エドは「美術の楽園」とでも言うべき、不思議な場所へと辿り着く。
 そこで出会ったのは、セザンヌや、ゴーギャンのごとく、誇り高い沖縄の若き画家たち
 であった。
 「互いに、巡り合うとは夢にも思っていなかった」その出会いは、彼らの運命を大きく変
 えていく。

 太平洋戦争で地上戦が行われ、荒土と化した沖縄。首里城の北に存在した「ニシム
 イ美術村」そこでは、のちに沖縄画壇を代表することになる画家たちが、肖像画や風
 景画などを売って生計を立てながら、同時に独自の創作活動をしていた。
 その若手画家たちと、交流を深めていく、若き米軍軍医の目を通して描かれる、美し
 き芸術と友情の日々。史実をもとに描かれた沖縄とアメリカをつなぐ、海を越えた二枚
 の肖像画を巡る感動の物語。 

 私は、出会ってしまった。誇り高き画家たちと。太陽の、息子たちと―。
 終戦直後の沖縄。ひとりの青年米軍医が迷い込んだのは、光に満ちた若き画家たち
 の「美術の楽園」だった。奇跡の邂逅がもたらす、二枚の肖像画を巡る感動の物語。 

あなたは、

誰かの大切な人

 40代、50代を迎えた女性の生き方、知り合った外国女性たちの生き方、両親のこと
 ・・・静かにしっとりと語られる。
 読んでいて、人の生き方来し方などに想いを馳せる・・・そんなひと時を持てる。
 最初の最後の伝言。文字通り美容師のヒモだった男は出棺の時にようやく現れた。
 あきれる娘たちの耳に越路吹雪の歌が響く・・・。
 「あなたの好きな人と踊っていらしていいわ
  ・・・・・・・
  けれども私がここにいることだけ どうぞ忘れないで」
 娘たちはろくでなしの父への母の想いを知るのだった・・・。
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内容(「BOOK」データベースより) 内容紹介より
 家族と、恋人と、そして友だちと、きっと、つながっている。大好きな人と、食卓で向か
 い合って、おいしい食事をともにする―。
 単純で、かけがえのない、ささやかなこと。それこそが本当の幸福。何かを失くしたと
 き、旅とアート、その先で見つけた小さな幸せ。六つの物語。 

 咲子が訪れたのは、メキシコを代表する建築家、ルイス・バラガンの邸。かつてのビ
 ジネスパートナー、青柳君が見たがっていた建物。
 いっしょにいるつもりになって、一人でやって来たのだ。咲子が大手都市開発企業に
 勤めていたころ、とあるプロジェクトで、設計士の彼と出会った。
 その後二人とも独立して、都市開発建築事務所を共同で立ち上げたが、5年前に彼
 は鹿児島へ引っ越していった。彼はそのちょっと前に目を患っていた。久しぶりに会
 った彼の視力は失われようとしていた。
 青柳君の視力があるうちに、けど彼の代わりに、咲子はバラガン邸の中に足を踏み
 入れた。 ──『皿の上の孤独』を含む、六つの小さな幸福を描いた短編集。 

   
  
  


    

 有吉玉青 
     
    
南下せよと彼女は言う  
 旅先の7つの物語

 最初の短編「アムステルダム」を読んでクリアしてしまった。

     


  
  
 白石 一文
        
 
1958年 福岡県生まれ 早稲田大学政治経済学部卒。
 出版社勤務を経て、
2000年「一瞬の光」でデビュー。
  文庫本で20万部を超えるベストセラーとなる。
 
 著書に「僕の中の壊れていない部分」「どれくらいの愛情」
          「心に龍をちりばめて」などがある。
    独自の視点と秀徹した文体で、カリスマ的人気を博す。
    この胸に・・・」は13作目。
     
この胸に深々と

突き刺さる矢を抜け

 上巻を読み終えたところでクリア・・・。
 現在の格差社会について、その原因や根底にあるものについて
 仔細に作者の考えを述べている。
 また、月に立った宇宙飛行士が考える「神」「創造主」などについて
 新たな視点を示してくれる。
 物語の進行より、作者の主張を入れるのが執筆の目的のような気がする。
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 内容(「BOOK」データベースより)
「週刊時代」の編集長、カワバタ・タケヒコは、仕事をエサに、新人グラビア
アイドル、フジサキ・リコを抱いた。政権党の大スキャンダルを報じる最新号
の発売前日、みそぎのつもりで行った、その場限りの情事のはずだった。
世俗の極みで生き続けた男が、本来の軌道を外れて漂い始める、その行き
着く先にあるものは?白石一文が全身全霊を賭けて挑む、必読の最高傑作。 

 


 沼田 まほかる
        
  
1948年 大阪府生まれ。主婦、僧侶、会社経営を経て・・・・・・・・・
2004年 50代の時に初めて書いた長編「九月が永遠に続けば」で
      第5回ホラーサスペンス大賞を受賞。
2010年 「痺れる」が「本の雑誌」上半期ベスト2位、「猫鳴り」がお
     すすめ文庫王国 2010-2011」エンターテインメント部門
     第1位に選ばれる。
  その他の著書に「彼女がその名を知らない鳥たち」
            「アミダサマ」がある。
     
ユリゴコロ
これはとにかく読ませる本である。
たいてい、間を置いたり、途中で少し惰性になったりしながら・・・また復活し
て読む・・そんなことがあるが、この本にはそれがない。
とにかく本を手放さず読ませられてしまう。
久しぶりに一日で読んでしまった。
恐るべき筆力・・・まさにその通り。

内容は主人公の父親がガンに侵され余命いくばくもない、そんなと時に母親
が交通事故で死亡、恋人の千絵も行方不明というところから始まる。
そして、父の持ち物を片付けようとして、偶然見つけた4冊のノート。そこには
驚愕すべき女の一生が書かれていた。
殺人をいくつも犯したというその女は自分の母親なのか、
それとも入れ替わった?母親がいたのか・・・謎をはらんだ物語が展開していく。
その女が逢った男は今の父親なのか・・。
ドッグランを備えた喫茶店を経営する主人公は店で働く細田さんに多大の面倒
をかけながら、父の部屋にあったノートを読むために実家に通う。
父と方の祖父母は亡くなり、母方の祖母は老いて病院に福祉施設に入ってい
る。昔のことは覚えていない。
父母とも、親戚や近所の人とは付き合いを持たなかった・・・。
自分はいったい何者?

読み終えて・・・好みの点でいえば、現実からちっょとずれていると感じる・・
         読後感も清々しさはあまりない。
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 内容(「BOOK」データベースより)
亮介が実家で偶然見つけた「ユリゴコロ」と名付けられたノート。
それは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文だった。
創作なのか、あるいは事実に基づく手記なのか。そして書いたのは誰なのか。
謎のノートは亮介の人生を一変させる驚愕の事実を孕んでいた。
圧倒的な筆力に身も心も絡めとられてしまう究極の恋愛ミステリー!


 

  
 

 安西 篤子
   
       
1927年 神戸市生まれ。
1945年神奈川県立横浜第一高等女学校卒。
1953年中山義秀に師事して小説を書き始める。
1964年「張少子の話」で直木賞。
1993年「黒鳥」で第32回女流文学賞
     
紅 梅
割り切れない話が多い・・。
直木賞作家ということで、人間の生きざまに深く切り込んでいる。ただ、
それで人間はどう生きるべきなのか、また残された者たちはどのように
歩を進めるか・・その道筋を示すのが小説の醍醐味であると思うので、
物足りない感は否めない。
武家の妻たちの凛とした生き方はわかるのだが・・・。

夫が衆道(今でいう「ホモ」であり)、殿さまご寵愛の男児と良い仲とな
りやがて・・・。(金雀児)
 
愛した夫は婿。仲間内の飲み会で喧嘩が起き、止むを得ず相手を切っ
てしまい・・・(梔子・くちなし)
嫁いだ先の姑と夫が変死。残された舅と嫁は・・。嫁には実家に絶対
帰れぬ訳があった(蘇芳・すおう)
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 内容(「BOOK」データベースより)
公用で江戸へ出ていた児玉新之助は二ヵ月ぶりに国元に戻ってきた。
しかし、家に帰ると妻のきわの姿が見えない…。軽輩武家の貧しさの中
で、幼い後継ぎの養育に辛酸を嘗めた賢夫人が、気立てのよい嫁の離
縁を当主に強要する不可解(紅梅)、家格の低い家から嫁いだ女の、絶
え間ない気苦労と夫への不信に揺れる哀切(菖蒲)―四季の花の風情に
擬えて、命の瀬戸際に愛をつらぬく、凛とした武家の女たちを描く、傑作
短編集。 

  

  
 

 大山 淳子
   
       
2006年 東京都出身。
      映画脚本『三日月夜話』で城戸賞入選(キネマ旬報掲載)、
2008年 『通夜女(つやめ)』で函館イルミナシオン映画祭グランプリ受賞
      そのほかラジオコンクールでふたつの賞を受賞。
2011年 『猫弁〜死体の身代金〜』でTBS・講談社ドラマ原作大賞を受賞!
     
あずかりやさん
 
 

★★★

 いつか自分で本を書いて見たい・・そう思うことがある。そのイメージは
 まさにこの本の中にある。
 現実にはなすかもしれない、幻想的である。
 実際にはありえないような「あずかりやさん」。

 主人は、母親が去り父親も出て行った家に1人で住んでいる。
 菓子屋だったために「さとう」とつけられた暖簾をそのまま掲げて。
 主人は目が見えないのである。

1話は暖簾が語る。
 女の子が紙を預ける。それは後でわかるのだが、どうやら両親が不仲
 で別れそうな雰囲気だったことと関係がある・・
 1人の男の子が、見知らぬ女の人から言われたと言ってカバンを預ける。
 1日百円で・・それは母親からのお金らしかったのだか、主人は点字の
 本を作ってくれるボランティアの相沢さんにあげてしまう・・。相沢さんの
 兄らしき人が傷害事件を起こして逮捕された後、主人のところに預けた
 物があった。主人はそれが鞄だったと嘘をつくのである。

2話は自転車屋に天井から展示されていた名車が語る。
 両親が別れ、別居している父親に買ってもらった自転車。
 少年はそのことをなかなか母に言い出せない。
 少年はみすぼらしいママチャリに乗る同級生の女の子と出会い、母親が
 手に入れてくれた古自転車の有難さに気づく。

3話、社長として忙しさにかまけて息子の世話を見なかった父親と息子。
 二人とも前後して「あずかりやさん」を訪れる。父親は遺言状を預ける・・。
 息子をそれを確かめに・・。和解した親子・父親は主人に感謝して、価値
 のある古いオルゴールを主人に預ける。無期限に・・・。

4話 柿沼奈美は夫とわかれ実家に帰ってくるが、「あずかりやさん」で留
 守番をしている笹本つよしから「星の王子様」の本をもらう。
 (奈美はかつての少女、つよしはかつとの少年)

5話は主人の恋。主人が生き返らせた「社長」と名づけられた猫が語る。
 石鹸のにおいがする「石鹸さん」は、20年前に図書館で「星の王子様」の
 本を盗んだという。返そうと主人を訪ねたのだ。その石鹸さんは社長(主
 人が生き返らせた猫)を助けようとして交差点で・・・。

エピローグ
 目が見えなくなったきた社長と主人は奇跡を待っている・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 高級自転車、遺書、一通の封筒、大切な本…。あずかってと言われたも
 のをあずかり、それがどんなものだろうと、一日百円。
 心やさしい店主・桐島透が営む、不思議なお店「あずかりやさん」を舞台に、
 お客さまが持ち込む「あずけもの」に隠されたそれぞれの思いと秘密が交
 差する。
 悩み傷ついていた心がじんわりと癒される物語。


 
 

   

 室積 光(むろづみ ひかる)
   
       
1955年  山口県光市出身  東京経済大学卒業
      テレビの俳優として活動。『3年B組金八先生』に保健体育
      の伊東先生役で出演。
      劇作家として、東京地下鉄劇場主宰。
      脚本、演出も俳優まで手がける。
2001年 初めての小説『都立水商!』(小学館文庫)は、新宿歌舞伎町に
      設立された水商売の専門学校を舞台にするというユニークな
      作品で、大きな話題となりコミック化もされている。
2007年より仕掛け屋本舗主宰(水島裕、沢村翔一と共同)。
     
史上最強の内閣
 
 

★★★

 これは面白い。
 並行して、藤原正彦「日本人の誇り」を読んでいたので、アジアの脅
 威に敢然と立ち向かう政府、言いたいことをはっきり言う総理以下の
 大臣。読後感が良い一冊。
 北朝鮮指導者の長男、ぶくぶく太っているが、どのあたりか掴めない
 部分もある。ユーモアセンスに溢れた展開が待っている。
 長男を助けに来た筋金入りの男たちをアイドルとして売り出してしま
 う・・・。
 忍者の孫? 服部が首相の意を受け、諜報活動に活躍するのも面白
 い。
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 内容(「BOOK」データベースより)
  国家の危機に、真の内閣が立ち上がった! 

 北朝鮮が、日本にむけた中距離弾道ミサイルに燃料注入の報が! 
 中身は核なのか? それとも……。
 支持率低迷と経済問題で打つ手なしの政権与党・自由民権党の浅尾
 総理は本物の危機に直面し、京都に隠されていた「本当の内閣」に政
 権を譲ることを決意した。

 指名された影の内閣は、京都の公家出身の首相を筆頭に、温室育ちの
 世襲議員たちでは太刀打ちできない国家の危機を予測し、密かに準備
 されていた強面の「ナショナルチーム」だった。果たして、その実力は? 

 アメリカですら「あないな歴史の浅い国」と一蹴する京都の公家出身の
 二条首相は、京都駅から3輛連結ののぞみを東京駅までノンストップで
 走らせたかと思えば、その足で皇居に挨拶へ。

 何ともド派手な登場の二条内閣は、早速暴力団の組長を彷彿とさせる
 広島出身の防衛大臣のもと「鉄砲玉作戦」を発動する。果たしてその結
 末やいかに? 
 「こんな内閣があったら……」書店員さんたちの圧倒的支持を受けた痛
 快作が待望の文庫化。
 笑って笑って、涙する、史上初の内閣エンタテインメント!! 

達人

山を下る

★★★

 面白いのひと言に尽きる。
 80歳の俊之が信じられない技で、簡単に相手を倒したり骨抜きにし
 てしまう。
 「失禁のツボ突き」は、驚くべき・・・笑ってしまう凄技。
 ヤクザの組長や新興宗教の教祖、政界与党の幹事長、首相まで
 この技の犠牲になる。
 奇想天外のお話なので、わくわくしながら・・・笑いながら、あっという
 間に読んでしまった。
 マンガを読んでいる感じ。
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 内容紹介から
 訳あって山に籠もり一人きりで生活する山本俊之は、10年ぶりに訪ね
 てくるはずの孫娘・安奈が誘拐されたことを知り、東京へ向かった。
 山を下りたのは実に42年ぶりであった。安奈の父は弁護士で、訴訟を
 目前にしているカルト教団が関わっているようだ。
 80歳という高齢であるが「昇月流柔術」最後の後継者である俊之は、
 安奈の妹でひきこもりの寛奈とともに手掛かりを探すため渋谷へ向か
 うと、早速不良から因縁をつけられる。
 そして、俊之が繰り出した恐ろしい技とは…。
 笑いと涙の書き下ろし小説。 

   

  
 
 
 桜木 紫乃
   
       
1965年 北海道釧路市生まれ。釧路東高校卒業。
      裁判所でタイピストとして勤めたあと専業主婦。
2002年  「雪虫」で第82回オール讀物新人賞受賞。
2007年 デビュー作となる「永平線」で注目を集める。
2013年  「ホテルローヤル」で第149回直木賞受賞。
     
ラブレス

★★★

 これは凄い。 
 百合江と里実の対照的な二人の生き様が語られる大作である。
 秋田から駆け落ちした父母。父は炭鉱夫から不毛の開拓地へ移り、
 酒に溺れた日々を送っている。何も言わず子どものことにも構わない
 母。
 10歳まで旅館に預けられていた妹の里実は、そんな父母や開拓の
 暮らしを毛嫌いする。
 姉の百合江は薬屋に奉公するが、旅の一座の歌手に惹かれ出奔。
 妹の里実も早々に釧路に出る。
 生きていれば何とかなる・・・旅の一座の「流れ者の生き方」に染まっ
 ている百合江。
 堅実に、自分の意志を貫き、生活力の旺盛な里実。
 荒んだ目をした三人の弟。
 酒びたりになってしまった母を引き取る百合江。
 生生流転。次々と降りかかる出来事。これでもかと・・・。
 300ページに満たない本なのに、実に中味が濃い。大作である。
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 内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)
  謎の位牌を握りしめて、百合江は死の床についていた――。
  彼女の生涯はまさに波乱万丈だった。に溺れる父の暴力による支
  配。
  道東の開拓村で極貧の家に育ち、中学卒業と同時に奉公に出され
  るが、やがては旅芸人一座に飛び込んだ。「歌」が自分の人生を変
  えてくれると信じて。それが儚い夢であることを知りながら―。

  一方、妹の里実は道東に残り、理容師の道を歩み始めた……。
  流転する百合江と堅実な妹の60年に及ぶ絆を軸にして、姉妹の母
  や娘たちを含む女三世代の凄絶な人生を描いた圧倒的長編小説。
  他人の価値観では決して計れない、ひとりの女の「幸福な生」。
  「愛」に裏切られ続けた百合江を支えたものは、何だったのか?
  今年の小説界、最高の収穫。書き下ろし長編。 

ホテルローヤル

★★★

 読後感が清々しいわけではないが、味わいのある一冊。
 さすがに直木賞。
 なにより文が素晴らしい。
 切なく生きる人々の心の奥と襞に寄り添って描いている。
------------------------------------------------------
 内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)
 ホテルだけが知っている、やわらかな孤独
 湿原を背に建つ北国のラブホテル。訪れる客、経営者の家族、従業員は
 それぞれに問題を抱えていた。
 閉塞感のある日常の中、男と女が心をも裸に互いを求める一瞬。
 そのかけがえなさを瑞々しく描く。 
  ・恋人から投稿ヌード写真撮影に誘われた女性店員
  ・「人格者だが不能」の貧乏寺住職の妻
  ・舅との同居で夫と肌を合わせる時間がない専業主婦
  ・親に家出された女子高生と、妻の浮気に耐える高校教師
  ・働かない十歳年下の夫を持つホテルの清掃係の女性
  ・ホテル経営者も複雑な事情を抱え…。 

 

  
 
 
 大石 英治
   
       
大石英治 1961年生まれ
鹿児島県出身。経済誌のライターを経て小説家へ転身。
日本冒険作家クラブにおいて、長年幹事を務める。
     
神はサイコロを

振らない
 
 
 
 
 

★★★

 神はサイコロを振らない・・だが、神は、ほんのちょっと悪戯を起こしたのかも
 しれない。
 大事なものを奪われて道に迷っていた人々に、家族が再生するきっかけを与
 えてくれた。
 今を懸命に生きている全ての人々に、いつかきっと、ささやかに奇跡が訪れ
 ることを甲斐は祈った・・
 ありふれた時空間ひずみの事がらかと思ったが、最後まで読んで素晴らしい
 本だとわかった。
  ・悪徳代議士の父を刺そうと宮崎から東京への飛行機に乗った息子。
   息子が飛行機自己で死んだと思った父がしたことは・・・。
  ・音楽家の娘を売り出し、金もうけを何より大事にする母親。
   皮肉にも娘は事故をきっかけに有名に・・・。
  ・幼い息子を一人で飛行機に乗せ東京に向かわせた夫婦のその後は。
   離婚、夫はホームレスにまで落ちた・・・。
  ・駆け落ちした若い二人  ・芸能人を目指した男 
  ・強盗をはたらき行方をくらました男
  ・・・・・・
 この作家の本をもう少し読んでみたい。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 かつて、忽然と消息を絶った報和航空402便YS?11機が突如、羽田空港に
 帰還した。
 しかし六十八名の乗員乗客にとって、時計の針は十年前を指したまま……。
 戸惑いながらも再会を喜ぶ彼らと、その家族を待ち受けていた運命とは??。
 歳月を超えて実現した愛と奇跡の物語。 

 

  
 
 
 加藤 元(げん・女流作家)
   
       
1973年 神奈川県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科中退。
2009年 「山姫抄」で小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。
2011年 「泣きながら、呼んだ人」で<さわベス>文芸部門第一位を獲得。
     その他「私がいないクリスマス」や「金猫座の男たち」など。
     
ひかげ旅館へ

いらっしゃい
 
 
 
 
 

★★★

 軽妙なタッチで進むが結構内容は濃く、悩みある人々への貴重なアドバイス
 も折り込まれている。
 女がいる夫と距離を取るため、亡くなった父の旅館を訪ねた「なるみ」の前に
 生前の意外な父の姿が・・・。
 しばらく父の残した旅館に留まって「おかみ」のような仕事を手伝うなるみ。
  ・父親と二人の子ども連れ・・・母親は・・・
  ・妙に仲の良い夫婦と思ったのだが、実は・・・
  ・板前を兼ねる番頭の天藤にも、越え難い悩みがあった
  ・父と親しかったという弁護士の蝗沢と、毎年現れる「星の間氏」は・・
 「つらいことがあるなら、いつでもかげ旅館にいらっしゃい」
 父の言葉がどこからか聞こえてくる。
 深刻な事態が登場人物を悩ませているのだが、どこか癒される本である。
 なるみと旅館のメンバーを中心としたこの物語。ぜひシリーズ化してほしい。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 いつも手紙でなるみの相談にのってくれたのは、母と別れた父だった。
 でも、もう父はいない。母と別れて旅館を経営していた父が、病気で亡くなっ
 たのだ。
 夫と破局寸前のなるみには、もう頼る人はいない。父のいた旅館へ行って
 みよう。意を決して向かった先には―ヘンな町の人々と従業員。
 旅館を勧めない案内所のおばさん、人造人間のように無表情の料理人、
 時代劇言葉をしゃべる小学生。旅館に泊まりに来るお客も当然変わり者ばか
 りで…居場所を失った人たちが大切な何かをみつけてゆく、どこか優しく温か
 な物語。 

 


 梨木 香歩
   
       
1973年 神奈川県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科中退。
2009年 「山姫抄」で小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。
2011年 「泣きながら、呼んだ人」で<さわベス>文芸部門第一位を獲得。
     その他「私がいないクリスマス」や「金猫座の男たち」など。
     
春になったら

苺を摘みに

 やさしさが漂う一作。
 作者の想いや願いをそのまま投影したような
 ウェスト夫人の考え方や行動が描かれる。

 女を騙すことに躊躇しないジョー。
 尊大なナイジェリアンファミリー。最後には王になった・・。
 ユーゴスラビア難民の姉弟は、人が見ていなければためらいなく万引きする・・・
 その道徳観はウェスト夫人の大の努力にもかかわらずかわることがなかった。
 「西の魔女が死んだ日」など小説を読んでみたい。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 「理解はできないが、受け容れる」それがウェスト夫人の生き方だった。
 「私」が学生時代を過ごした英国の下宿には、女主人ウェスト夫人と、さまざ
 まな人種や考え方の住人たちが暮らしていた。
 ウェスト夫人の強靭な博愛精神と、時代に左右されない生き方に触れて、
 「私」は日常を深く生き抜くということを、さらに自分に問い続ける―物語の
 生れる場所からの、著者初めてのエッセイ。 

 

 

 宮本 輝
   
       
1947年 兵庫県神戸市生れ。追手門学院大学文学部卒業。
      広告代理店勤務等を経て、1977年「泥の河」で太宰治賞を、
      翌年「螢川」で芥川賞を受賞。
     その後、結核のため二年ほどの療養生活を送るが、回復後、
     旺盛な執筆活動をすすめる。
     「道頓堀川」「錦繍」「青が散る」「流転の海」
     「優駿」(吉川英治文学賞)「約束の冬」「にぎやかな天地」
     「骸骨ビルの庭」等著書多数。
     
夢見通りの人々
 アマゾンのカスタマーレビューによれば、この本への評価は高い。
  (5つ星のうち 4.6) 
 確かに読ませる本ではある。
 夫が残した文房具店の一角だけを売らず、煙草屋を開いていたトミの
 突然死。店を正体不明のパイク乗りに壊されたのが原因。
 トミは一人だけ自分に優しくしてくれた春太に遺産を残すことを、包み紙
 に書くのだが・・・。
 自分の家の時計店から万引きをして貯金。パチンコ屋の幼馴染の娘と
 駆け落ちした高校生の哲太郎。娘は妊娠していた。やがて所持金を使
 い果たし帰ってきた2人は・・・。

 うーん! 今ひとつ釈然としない。何だろう。良く分からない。
 たぶん、感性が鈍っているのだろう・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 その名前とはうらはらに、夢見通りの住人たちは、ひと癖もふた癖もある。
 ホモと噂されているカメラ屋の若い主人。
 美男のバーテンしか雇わないスナックのママ。
 性欲を持て余している肉屋の兄弟…。
 そんな彼らに詩人志望の春太と彼が思いを寄せる美容師の光子を配し、
 めいめいの秘められた情熱と、彼らがふと垣間見せる愛と孤独の表情
 を描いて忘れがたい印象を残すオムニバス長編。 

錦  繍
 この作家が好きな方が多いのはわかる。
 さすがに芥川賞作家。文に切れ間がない。(途中で読者を飽きさせない)
 大会社の令嬢と結婚。仕事、家庭、何不自由なく暮らしていた男に降って
 わいた不幸。心中未遂事件? 実は逢瀬を重ねていた中学校の同級生に
 一方的に切りつけられたのだ・・・。
 妻にしても青天の霹靂。愛し合っていた夫の裏切り?愛していながらの別
 れ・・・。
 アマゾンのカスタマーレビューでは最大限の評価を書いている方が実に
 多い。「宮本輝を知らない人に、一度は読んでほしい本」
     「大人と呼ばれる年代の方に、強力にお薦め・・」
 うーん! 
 何だろう。
 妻を本当に愛しているなら、昔の同級生とは何回も逢わないだろう。
 離婚後、もっとまともな仕事をし、静かにひっそりと暮らすだろう。
 北の北海道の地に渡ってしまうこともあるだろう。
 妻は、意にそわない再婚を絶対にしないだろう。
 再婚して生まれた子が障害児だった。再婚した夫は息子のために、もっと
 真剣にいろいろなことをするべきだろう。将来の息子の生活のために。
 父親が元夫のことを悪く言わない・・・これがわからない。女を取り替え、
 仕事を取り替え、女にすがりついて、目標のない生活を続けているという
 のに・・・。
 本を読んでいて、涙が出そうになったり、感極まったりする、そんなストー
 リーになのだか、そんなことは一度もなかった。実に淡々と筋を追い、そ
 の先が知りたくて読んだという感じである。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさ
 かあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的
 な事件ゆえ愛し合いながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年
 の歳月を隔て再会した。
 そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る―。
 往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、
 愛と再生のロマン。