永 井 路 子 
  
永井路子は作家というより歴史学者のような方だと思います。  
  武士の誕生や武家政治の確立期については大変よく研究されています。  
  
 NHK大河ドラマ「草燃える」の原作になったつわものの賦・炎環・はじめは  
  駄馬のごとく・・・・・など。源頼朝と頼朝を取り巻く人々について、全く違った
 視点から光をあてて解釈してみせました。 また、二代執権北条義時や梶
 原景時・三浦義村などの考え方や立場を心情を見事に描いています。  
 つわものの賦(ふ)  源頼朝の旗揚げから承久の変まで
 炎環(えんかん)  鎌倉武士の生きざま
 はじめは駄馬のごとく  ナンバー2の人間学 北条義時・源義経・徳川秀忠・平時忠・明智光秀・藤原不比等・他
 執念の家譜  三浦光村・曽我兄弟・松永久秀・長谷川等伯・小早川秀秋・他
 相模のもののたち  中世史を歩く
 雲と風と  最澄の生涯
 噂の皇子  平安時代に生きた人々を描いた8つの短編
 王朝序曲 上・下   藤原冬嗣を中心に桓武天皇と平安遷都の時代を描く
 悪霊列伝   吉備・祟道(早良親王)・菅原道真・他 
 続悪霊列伝   平将門・楠正成・他 
 うたかたの   儒学者を夢見た一人の男の生きざまを傍らにいた、6人の女性の目を通して描いている。
 乱 紋

 永井路子歴史小説
 全集 16

 久しぶりに永井路子の本を読んだ。(23.6)
 NHK大河ドラマで「江〜姫たちの戦国〜」が放送されているが、首を傾げる場面ばかり。
 「江」とはどんな人物だったのだろうと思った時、この本にめぐり会えた。
 佐治与九郎(お市の姉の子)、豊臣秀勝(秀吉の姉の次男)、そして、徳川秀忠。
 三人の夫に使えた江は、無口で何を考えているのかよくわからなかった。二人の姉・茶々
 と初とは対照的でいつも目立たなかった・・。
 歴史の流れの中に静かに身を浸らせながら、激動の時代を逞しく生きた江の姿に魅入ら
 れて700余ページの重い本を抱えながら一気に読んでしまった。

 

  

 

   司馬 遼太郎 
   
 司馬遼太郎についてはコメントするのも恐れ多いような気がする。               
初期のものはともかく、円熟期や晩年のものは強力な説得力があり、並みの作家は遠く
及ばない。この点では松本清張の書く歴史物も同じである。                   

 司馬遼太郎が凄い作家であると思ったのは「北のまほろば」を読んだ時である。    
この本には司馬遼太郎が青森県を訪ねた時のことが書かれているが、500ページ近い中
に青森県関連の史実や逸話がぎっしりと詰まっている。                    
自称?郷土史家の私が今から調べたとして、死ぬまで頑張って書き上げるであろうこと
・・・・・・そのほとんどが既に司馬遼太郎の本に書かれている。 
(吉田松陰が弘前市を訪ねているが、そのことについて私が書いたものもあります。)
その「北のまほろば」はと言えば、「街道をゆく」のシリーズの中の41番目の著作に過ぎな
いのである。いったい司馬遼太郎はどれほどの読書量なのであろう・・・・・・。  


 
 覇王の家    徳川家康の生涯を描いた長編。忍従の後に徳川幕府300年の礎を築いた家康について作者独自の
 視点が冴える。
 箱根の坂   人生の終盤かと思える年代で関東制覇に乗り出す北条早雲。越え難い坂を越えた早雲への思い入
 れは深い。
 関ヶ原   関ヶ原を壮大なスケールで描いた大作。決戦に臨む武将達のさまざまな人間像が描かれるが石田三
 成を評価してくれた点が嬉しい。
 王城の護衛者    5つの短編集。会津の青年藩主松平容保、長州の大村益次郎、岩倉具視の片腕玉松操、
 人斬り以蔵、河井継之助など、時代を生きた人間に焦点をあてて書いている。
 戦雲の夢   関ヶ原の戦いに敗れ、再起をかけて大阪夏の陣に立ち上がる長曽我部盛親の悲運の生涯を描く。
 幕末   幕末の暗殺事件、桜田門外の変など12の事件を描いている。
 真説宮本武蔵   5つの短編集。宮本武蔵、千葉周作など。
 馬上少年過ぐ   7つの短編集。伊達政宗、坂本龍馬など。
 義経   戦いの天才源義経。その生涯に司馬遼太郎が思いをはせる。
 最後の将軍   15代将軍徳川慶喜、その栄光と失意の生涯を描く。この本で、慶喜が明治を生き抜き大正2年まで
 存命であったということを初めて知った。
 空海の風景   上巻しか読んでいない。芸術院恩賜賞をとった書なので暇ができたら完読したいところである。
 歴史を考える   歴史を題材に4人と対談したのをまとめたもの。
 北のまほろば   青森県内各地を歩き、広く題材を集めて歴史の中の北の大地に思いをはせている。

 
 

            

  

  杉本 章子 
            
        
 あまり聞きなれない作家かもしれません。直木賞を受賞した「東京新橋雨中図」を除くと
写楽まぼろし・名主の裔(すえ)・男の軌跡など著作は少ない方です。 杉本章子の作品の
中で一番はじめに読んだのは写楽まぼろしです。本屋でたまたま目に付いた「写楽」に惹か
れて買ってしまいました。その前まで高橋克彦の「写楽殺人事件」読んでいたせいでしょうか。
謎の多いこの浮世絵師に興味を持ちました。

 いきさつはともかく、読み進めるうちに杉本章子の世界ぐいぐいに引きずり込まれていきまし
た。江戸時代の風俗も、人物の動きもまるでその場にいるように的確に描写してくれます。 
「江戸」を描かせれば、宮部みゆきという作家も素晴らしいが、杉本章子にはまた違った深み
があります。本格的に江戸時代を研究した方でないと描けない場面も数多く出てきます。     
 江戸から明治へと移り変わり変転の中を生き抜く男たちを描いた「名主の裔」「残映」なども
秀作です。                                       

       
名主の裔
 江戸最後の名主の生き方を描いている。
残映・ほか
 南町奉行も務めた男が明治の世にひっそりと生き抜く姿がある事件とのか
 かわりで描かれる。
写楽まぼろし
 大胆な筋立てで写楽を作り上げ、写楽がいた江戸時代の市井の生活を生
 き生きと描いている。
東京新橋雨中図
(他に 男の軌跡)
 江戸から明治へと移り変わる社会の波にもまれながら、画家として生きる
 小林清親の姿と人々の哀歓をえがいている。
爆弾可楽 
ふらふら遊三
 時代の波に翻弄されながら生きた風変わりな異色落語家の生涯を描いて
 いる。(解説から)
春 告 鳥
女占い十二か月
 1月〜12月生まれの市井に生きる女性の生き方が語られる。
 草双紙「女用知恵鑑宝織(おんなようちえかがみたからおり)に書かれた
 占いは、当たっていることもあれば完全に外れていることもある。
 幸せをかみしめる女、自分の運命と身を委ねる女、占い本に振り回された
 女・・・。読後感の爽やかなものもあるが、何とかならないのかと考えさせ
 られものも多い。(「けいどう」で吉原送りになったおみつなど。)
 この占い本は実際に江戸時代に売られていたらしい。
お す ず
 春告鳥と2冊借りて読んだ。表題の「おすず」は一作目にしか登場せず。
 おすずの許嫁だったが、吉原の引手茶屋の内儀と昵懇になってしまった
 信太郎が主役となって全編に登場する。おすずは信太郎に裏切られても
 諦めきれずにいたのだが、押し込み強盗に入られ、操を奪われて自害し
 てしまう。
 その後、芝居小屋に寄せている信太郎の前にさまざまな事件が起こる。
 信太郎は幼なじみで、岡っ引きを目指す元吉とともに事件解決にとり組
 む。
 「オール読みもの」に間をおいて掲載されたせいか、5つの短編に中で、
 信太郎をめぐる人々が何回にもわたって説明される。登場人物も多く、読
 んでいて、かなりくどい感じもする。江戸情緒や時代背景は細かいが、
 スリルとサスペンスという点では物足りない。 

 

  
 
  杉本 苑子 
       
1925年 東京都新宿区生まれ。文化学院卒。
1952年 「燐の譜」で『サンデー毎日』の懸賞小説に入選。
      吉川英治に師事する。
1962年 『孤愁の岸』で第48回直木賞
1977年 『滝沢馬琴』で第12回吉川英治文学賞
1977年 『戦乱 日本の歴史』(小学館)
1986年 『穢土荘厳』で第25回女流文学賞
                       
滝沢馬琴

上・下 

 高名な作家であるので、いつか読みたいと思いつつなかなか機会がなかった。
 読んでみて、さすが・・と思うばかり。
 時代考証がしっかりしていて文章も素晴らしい。
 馬琴を取り巻く家族、妻・息子・嫁・孫、そして兄弟。
 頑なで筋を通そうとする馬琴の一途な姿がひしひしと伝わってくる。
 片目から両目へ失明しながら、家族を支えるため、そして大作を完成させるた
 め、馬琴は書き続ける。最後に頼りになったのは、無口で愛想のひとつもなく
 学問の素養もないと思われた嫁のお路の力を借りて、ついに「南総里見八犬
 伝」を完成させる。
埋み火

上・下

 内容(「BOOK」データベースより)
時代を超える作品世界を構築した近松門左衛門の魅力は、何に由来するのか。
綿密な考証と卓越した構想力によって、その謎を説き明かす。
     
 

 

   中津 文彦
                   
1941年 岩手県一関市生まれ。学習院大学政経学部卒業。新聞記者を経て、
  82年 「黄金流紗」で第28回江戸川乱歩賞を受賞してデビュー
  85年 「七人の共犯者」で第12回角川小説賞を受賞。
 近著に、「えちご恋人岬殺人事件」「させぼ西海橋殺人事件」
      「ねむろ風蓮殺人事件」など、「さすらい署長・風間昭平シリーズ」
      他に、「謙信暗殺」「つるべ心中の怪塙保己一推理帖」などがある。
                       
 風の浄土 
 久しぶりに中津文彦の本を読んだ。
 この作家は義経を追いかけていた頃よく読んだ。(司馬遼太郎、大仏次郎などの
 著作と共に。)
 ただ、遠野物語殺人紀行を読んだときに、この作家の文体が馴染みにくくなり、
 以後遠ざかっていた。(この本の着想、遠野の山奥に住む人を解明・・・は、説得力
               があって興味深い。)
 さて、風の浄土。
 これは今まで読んで知っていた、阿倍一族、前九年・後三年の役、藤原三代、義経
 の平泉への逃避などの知識を整理する意味でも凄く良かった。
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 Amazonの内容紹介より
 少年時代の源義経は、鞍馬山の天狗に出会った。父の仇をとりたいと訴える義経に
稽古をつけてくれた彼らは、平家を討ち、源氏の再興を目指す「草の根党」の面々だっ
た。
 彼れに導かれて、義経は奥州の都、平泉。その広大さと繁栄ぶりに驚く義経は、藤
原秀衡の庇護を受けることとなるのだが―。初代・藤原清衡による壮大な都造りと、
秀衡の庇護を受けた源義経の悲劇を軸に、平泉の都と藤原三代の栄枯盛衰を描く、
壮大な歴史巨編!  
ジンギスカン
 殺人事件
 モンゴル研究に関する日本での第一人者、砂原教授が自宅近くの井の頭公園で
殺害された。教授が団長を務めるはずだったモンゴル訪問団の五人のメンバーの
一人に推理作家、中小路信が加わった。
 果てしないモンゴルの大草原をひた走る大陸横断国際列車のなかで、第二の事件
が起こった。事件の鍵は、奥州平泉から逃れたといわれる義経北行伝説の真相と、
義経ジンギスカン説にあると、中小路は推理したが・・・。
 モンゴル取材旅行した著者が義経伝説の謎に迫る歴史ミステリーの傑作。
                                    (本の解説より)
成吉思汗の鎧  三陸海岸で連続殺人事件発生!
 事件の背後に潜むのは義経北行伝説の謎か?      (帯の見出しより)
遠野物語
殺人紀行
 千歳空港を飛び立った全日航ボーイング727型機が遠野山中で墜落、乗っていた
115人全員が死亡した。たまたま遠野に取材にきていた東朝新聞記者結城は、ニュ
ースを知り、現場に一番乗りした。
 凄惨な墜落現場では、マスコミ各社が取材合戦を展開、遺体収容も順調に進む。
だが、異変が起こった。どう数えても2遺体多く収容されているのだ。
 この謎の解明には結城は、ひとりの男を追いつめていった。遠野から光りきらめく沖
縄へと…。 遠野物語に隠されている“秘密”がひき起こす連続殺人事件。
 著者会心の紀行ミステリー。           (紀伊國屋書店の内容詳細から)
     
 


   東 秀紀 (あずま・ひでき) 
                   
1951年 和歌山市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
                 ロンドン大学大学院終了
2001年 日本建築学会文化賞を受賞。
1994年 「鹿鳴館の肖像」により、歴史文学賞を受賞。
著書    「荷風とル・コルビュジェのパリ」「ヒトラーの建築家」
      「東京駅の建築家 辰野金吾伝」
                       
 異形の城 
 題名が目にとまって借りた。初めての作家である。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 建築家でも有名な方のようだが、歴史も丹念に調べて安土城と信長、光秀の
 事跡と心理描写を良く描き出している。
 佐久間信盛、林通勝、荒木村重 ・・信長の勘気に触れたために過去の業績
 にもかかわらず冷遇された者達。(村重はついに離反した。)
 かの者達のようにはならない・・・ついに光秀は立つ。
     

 
  


   三田 誠広 
                
1948年 大阪生まれ。早稲田大学文学部卒業。・・・・・・・・・・・・・・・・・
1977年 「僕って何」で芥川賞受賞。
著書   「いちご同盟」「鹿の王」「パパは塾長さん」「地に火を放つ者」
      「迷宮のラピア」 他多数。
                    
桓武天皇

★★★

 この作家の本を初めて読んだ。
 「僕って何」は有名だが、題名が軟弱な感じがして読むこともなかった。
 今回県立図書館でこの本を偶然見つけたのだが、読んでみて良かった。
 完全な歴史物である。登場するの藤原四家の人物名が細かに記されている。
 南家の仲麻呂はじめ11人、北家・小黒麻呂など9人、式家12人、京家2人。
 皇族・百済王家・その他を含めて100人近くの名前と簡単な説明が巻末に載
 せられている。
 桓武天皇・山部王の若き日から天皇になるまで、そして天皇としての施策に
 ついて精魂込めて書ききった大作である。三田誠広がこのょうに史実を丹念
 に調べて書く作家だということに驚かされた。
菅原道真

★★★

 桓武天皇に続く歴史物の2冊目。
 若き日の在原業平との出会い、儒者として、勉学に励む日々。
 道真は信念を持ち、古来の中国の例を参考にしながら、帝の決め方、臣とし
 てのあり方を奏上する。
 儒学の弟子でもあった皇子が予想外に帝位につく。この宇多天皇の信頼を
 得て、右大臣まで上りつめた道真だったが、藤原北家や皇籍離脱した源家
 一派のために罪に落とされる。背後には宇多上皇の関与を排斥しようとした
 醍醐天皇とその取り巻きの思惑が絡んでいた。
 時代の背景を丹念に描いているため、多少取り付きにくいところがあるが、
 最後まで興味深く読み進められた。
 四面楚歌。
 「あなたはいつも一人です。」
 妻の宣来子が言う。
 道真15歳、宣来子10歳から連れ添った妻だった。
 大宰府に強制的に移される道真が生涯でただ一度読んだ恋歌

  君が住む宿の梢をゆくゆくと
  かくるるまでも かへりみしはや

  涙が出そうになった。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 太宰府、受験の神様として知られる菅原道真の“政治家"としての生涯を描
 いた本格時代小説。
 抜きんでた才覚を見込まれ、儒者でありながら右大臣まで上りつめた道真。
 貴族たちのうごめく野心と、業平と高子らの恋の傍らで、政治家として奔走し
 た劇的な生涯を描く本格歴史小説。 

霧隠れ雲隠れ
 前2作が良かったので、かなり期待して読んだが・・。
 軽いタッチの痛快忍者ものである。
 面白おかしく・・これだけを望むのであれば格好の本。
 言葉遣いが現代なので、何とも武士の時代という感じがしない。
 今の建物や今の喩をを言ったり・・・。
 関ヶ原、大阪の陣も戦いの臨場感がない。細川や大谷を訪ねる幸村の態度、
 言葉遣いは、現代の若者そのもの・・・。幸村そのものが戦術を語れる以外は
 まるでお調子者なのである。
 霧隠才蔵、猿飛佐助(女)が空を飛ぶ・・全くのおとぎ話。
     

 

  

   北原 亞以子 
     
 江戸の情緒と人情味溢れる世界の描き手として欠かせない作家の
 一人・・・・・東京の下町生まれ。
 1969年 「ママは知らなかったのよ」で第1回新潮新人賞
 1989年 「深川澪通り木戸番小屋」で泉鏡花文学賞
 1993年 「恋忘れ草」で直木賞
 1997年 「江戸風狂伝」で女流文学賞
                 
 深川澪通り
 
 木戸番小屋 
 川沿いの澪通りの木戸番夫婦は人には言えない苦労の末に、深川に流れて
来たと噂されている。
 思い通りにならない人々は、この二人を訪れて智恵を借り、生きる力を取り戻
してゆく。
 傷つきながらも、まっとうに生きようとつとめる市井の男女を、細やかに温かく
描く、泉鏡花賞受賞の名作集 (解説から)
あんちゃん
 久しぶりに北原亞以子の本を読んだ。本のコミュでどなたかが絶賛しておられ
たので期待が大きかった。テーマがそれぞれ異なる七話の短編集。
 ・帰り花
   かつて子どもの自分に優しくしてくれた手習いの師匠を訪ねるおりょう
 ・冬隣
   忠右衛門が矢場の女と浮気し、夫婦の仲に亀裂が入るが・・。
 ・風鈴の鳴りやむ時
   おしんは建具師の国松と所帯を持つはずだった。お蓮さえ現れなかったら
 ・草青む
   婿養子の吉兵衛は晩年を妾のおつやとひっそり暮らそうとするが・・。
 ・いつのまにか
   平穏無事な生活を手に入れたお俊の前に弟の文次郎が現れる
 ・楓日記
   秋田・佐竹藩に関する異聞。殿様のお顔をしみじみと仰いだ方はいない
 ・あんちゃん
   百姓の末っ子・捨松は江戸へ出て名をかえ、店を持つまでになったが・・。
夜の明けるまで
 

★★★

 名作短編集である。北原亜以子の素晴らしさがわかった。
 ・女の仕事
 ・初恋
 ・こぼれた水
 ・いのち
 ・夜の明けるまで
 ・絆
 ・奈落の底
 ・ぐず
内容(「BOOK」データベースより)
江戸の片すみ・澪通りの木戸番小屋に住む笑兵衛とお捨。心やさしい夫婦の
もとを、痛みをかかえた人たちが次々と訪れる。借金のかたに嫁いだ女、命を
救ってくれた若者を死なせてしまった老婆、捨てた娘を取り戻そうとする男…。
彼らの心に温かいものが戻ってくる物語全8作。第39回吉川英治文学賞受賞
作。
東京駅物語
 読後感を書き始めて、BOOKデータベースを見たら、こちらの方が的確に書か
 れていることがわかり、そのまま引用させて戴いた。江戸物でない作品なの
 で新鮮な感じがした。「木戸番小屋」のような心温まる話はあまりない。
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 内容(「BOOK」データベースより)
中央停車場の工事現場で働く青年、自由恋愛を夢見て東京へ出てきた田舎娘、
ステーションホテルを根城に結婚詐欺を繰り返す男、化粧室で変身し男を誘って
小遣い稼ぎをする女教師…。今も昔も、ある者は夢を、ある者は挫折を胸に秘め
て降り立つ東京駅。明治・大正・昭和の激動期を通して、複雑に絡み合う人間
模様を「グランドホテル形式」で描く。人情語りの名手・北原亜以子の意欲作。 
澪つくし

深川澪通り木戸番小屋

  いま、ひとたびの  花柊               澪つくし     下り闇
 ぐず豆腐        食べくらべ        初霜          ほころび
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 内容(「BOOK」データベースより)
 江戸深川。人の心に灯をともす木戸番夫婦の物語。
 孤独や後悔を抱え生きる人達にそっと手をさしのべるぬくもりに満ちた八篇を
 収録。 

慶次郎縁側日記

★★★

 最初の一話「その夜の雪」で同心・森口は娘を失う。(自害)
 自害せざるを得なかった娘の心情を想えば自然に涙が溢れる・・・。
 娘を失ってみて初めて分かる復讐の心。何もかも捨てて仇を討とうとする森
 口のの前に、長年仕えてきた岡っ引きの辰吉が立ちはだかる・・・。
 二話以降は、隠居した森口(慶次郎)の周囲に起こる出来事や事件を描いて
 いる。 
 深川澪通り木戸番小屋と似ているようで異なるのは、慶次郎がいつも中心に
 いて解決に一役買っているわけではということである。
 このシリーズは飯炊きの佐七、妻を殺された過去を持つ岡っ引きの辰吉、慶
 次郎の婿の晃之助など多彩な人を巻き込んでいる。
----------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 最愛の一人娘を亡くして数年、今は隠居の元南町奉行同心・森口慶次郎。
しかし、彼のまわりでは何故か日々事件が起こる。そのたびに元腕利き同心は
決して重くはない腰をあげることになる。江戸の人情と粋がにおい立つ連作集。
祭りの日
 祭りの日  目安箱        黒髪     かぐや姫  御茶漬け蓬莱屋
 冬ざれ    そばにいて  風光る  福きたる

 慶次郎の活躍場面は少ない。
 岡っ引きの吉次が結構登場する。
 「拝みこんで嫁になってもらった女だった。
  吉次は女に不自由させないように街周りに精を出した。
  つまり、商家におしかけ賂をもらうのである。
  そんなにしてまで尽くすが。 吉次の気持ちを逆なでするように、
  女は男と駆け落ちした。」

 これは短編にはなっていないが、そんな吉次に取調べを受ける「古傘買い」
 のおとことの絡みで書かれている。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 この俺が江戸という神輿を担ぐ男になる。そう思っていた。昨日までは――
 憧れの江戸へとやってきた表具師見習いの亮太は尋ね当てた親方の家で
 兄弟喧嘩のとばっちりを受け、一文なしで放り出された。
 一夜にして転落した悪の道。他人の金で腹を満たし、更なる悪事に手を染め
 ようとする若者を元同心・森口慶次郎は救い出せるか。
 「隣人の悩み」を生涯かけて描いた著者が遺した最高傑作シリーズ第14作。 

たからもの 

深川澪通り木戸番小屋
 
 

★★★

  木戸番の夫婦の優しさが漂う。
  ふっくらして良い香りのするお捨が、悩む人たちに寄り添う・・
  お捨と一緒にいると、生きる希望が湧いてくる。そんな話が
  散りばめられている。秀作である。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 江戸・深川。木戸番の笑兵衛とその妻、お捨は、人にいえない苦労の末に
 深川に流れてきたと噂されている。
 無口だが頼りがいのある笑兵衛と、ふっくらとした優しさで人々を包み込む
 お捨のもとには、困難な人生に苦しむ人々が日々、訪れる。
 悲しみや愁いを抱えた人たちの背中をそっと押す二人。
 生きてゆくことにささやかだが確かな希望の灯をともす、八篇を収録。
 今年3月に逝去した著者による、このシリーズ最後の1冊。 
ぎやまん物語
 300年近い年月、人から人へと渡りながら、世相とそこに生きる人々の姿を描
 いている。
 連作形式の大作である。
 ただ、鏡が見聞きしたことを語るという形式になっているため、歴史的な場面
 での、臨場感が欠けるのは否めない。壮烈な場面、音、人声が書かれないか
 らである。
 人物の考えや心根の記述も、第三者的になる・・・。
 --------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 秀吉への貢ぎ物としてポルトガルから渡来したぎやまんの手鏡。
 秀吉から於祢(ねね)へ、お茶々へ、お江へ、さらには赤穂義士や田沼意次、
 尾形光琳、シーボルト、新撰組、彰義隊―へと、時に贈答品、時 には呪われ
 た品として持ち主が代わっていく中で、鏡に写り込む のは江戸という時代の
 色と、人々の心模様──。
 2013年3月に急逝した直木賞作家・北原亞以子さんが、十年あまり書き継い
 だ一大江戸絵巻『ぎやまん物語』がいよいよ刊行です。
 鏡を語り手に選んだことについて北原さんはこう書き残しています。
 「鏡は人の顔だけでなく、様々なものを映します。鏡がそれを持っている人のど
 ういう様子を映すかで、その人の内面まで描くことができたらと思っています」
 端正かつたおやかな文章で、生涯江戸時代に生きる人々を愛し、書き続けた
 北原さんの集大成ともいえる作品です。 

  

 
  
   白石 一郎?
             
 正統派の歴史小説作家というところか。
 直木賞を受賞した「海狼伝」、柴田練三郎賞の「戦鬼たちの海、」海将ー若き日の小西行長」など
海を中心とした作品が多い。」
 山田長政の波乱の生涯を描いた「風雲児」も読み応えがありそう。
       
戦鬼たちの海
 織田信長が天下統一を目指して伊勢・志摩の平定に乗り出した時、
志摩の土豪から身を起こした九鬼嘉隆は真っ先に信長の摩下に馳せ
参じた。
 信長の知遇を得て、九鬼の運命が開けた。文録の役で織田水軍の
総大将として海戦に明け暮れた戦国大名の数奇な人生を描く。 
                             (解説から)
蒙古の槍
 1274年の蒙古襲来で島を襲った蒙古兵に5歳の孫を無残に殺され
た老漁夫は、復讐のため独り島に残った。老人は孫を刺殺した蒙古兵
を殺し孫の恨みを晴らそうと待ち構えていた。
 九州、瀬戸内海、小笠原など、島と海にまつわる7つの物語が掲載
されている。
 その中のひとつ「鉄砲修行」が特に印象に残る。
 
 
 
 
  
   
  宮城谷 昌光 

昭和20年生まれ
早稲田大学文学部
「夏姫春秋」で直木賞受賞

         
 天空の船 

 商の湯王を輔け、夏王朝から商王朝への革命を成功に導いた稀代の
名宰相伊尹の生涯と古代中国の歴史の流れを生き生きと描いた長篇
小説。桑の木のおかげで水死をまぬがれた「奇蹟の孤児」伊尹は有る
竿氏の料理人となり、不思議な能力を発揮、夏王桀の挙兵で危機に
瀕した有竿氏を救うため乾坤一滴の奇策を講じる。 (解説から)
天空の船

 下 

 夏王桀に妹をささげることで有竿氏の危機をすくった伊尹は桀のライ
バルとして台頭してきた商の湯王から三顧の礼を受け、湯王の臣とな
る。伊尹のねらいは夏と商の和親だったが、時代の流れはこれを許さ
ず、ついに夏と商は激突し夏朝は滅亡する。湯王は商王朝を開くが、
伊尹の仕事はまだ終わりではなかった。      (解説から) 
  
 
 
 
 
 佐木 隆三?
           
昭和12年 北朝鮮生まれ
51年 「復讐するは我にあり」で直木賞受賞
 大津事件と時の大審院長児島惟謙(これかた)の硬骨を
描いた秀作を読んでこの作家の素晴らしさにふれることが
できた。
 「護法の神」児島惟謙の毅然とした態度に感銘を受ける。
西郷隆盛との駆け引きも興味深い。死語爵位奏請の動き
があったが、大津事件が支障になった。その時、遺族が
「大津事件を捨て、爵位を受けたとあっては、故人が浮か
ばれません」と奏請の運動を断ったという。
勝ちを制するに至れり

 明治24年5月11日、国賓として日本を訪れたロシア皇太子が、滋賀県
大津で、沿道警備の巡査津田三蔵に斬りつけられ負傷した。世に言う「大
津事件」だが、国中が津田三蔵の処遇をめぐって、カンカンガクガクの大論
争。
 モスクワ、レニングラードを取材し、新資料を駆使して「大津事件」の顛末
を描いた意欲的な長篇小説。
勝ちを制するに至れり

 「わたしは「復讐するは我にあり」以来、犯罪者を書いてきたが、いつか
裁く側に視点を据えたいと思った。そこで出合ったのが大津事件だった。
                               (あとがきより) 
 国家をゆるがせた大津事件の全体像に社会講談の方法でせまった著者
会心のノンフィクション・ノベル。
  
 
 

    

 佐藤 雅美?
       
1941年兵庫県生まれ 早稲田大法学部卒
会社勤務を経て68年からフリー
85年「大君の通貨」で新田次郎文学賞受賞
94年「恵比寿屋喜兵衛手控え」で第110回直木賞受賞
恵比寿屋喜兵衛手控え
 争いは世の常、人の恒。江戸の世で、その争いの相談所が恵比寿
屋のような公事宿だ。ある日、若者が恵比寿やを訪れ、兄が見知らぬ
男に金を返せと訴えられたと相談した。
 喜兵衛は怪しい臭いを感じ取る。事件の真相は如何に?
 江戸の街に生きる市井の人々を愛情込めて描く長編歴史小説。
                           (解説から) 
私闘なり

敵討ちにあらず

 この作家の本はかなり前に読んだ。
 今回は二冊目。八州廻りの十兵衛が旅先でさまざまな事件と出会うと
 いうもの。
 文は緻密にできているようだが、事件へのかかわりがわりと「さらり」と
 逃げるようにところがある。
 十兵衛と事件先で何故かたびたび出会う火盗改めの樋口新三郎。新
 三郎は自分の懐を満たすために賄いを求めてあちこちに出没していた
 と思ったのだが・・・。
 幼い頃に別れた妹を探していた。終章で解決するのが、この物語の一
 つの見どころでもある。
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 文芸春秋・担当編集者一言から
ご存じ“八州廻りシリーズ”第8弾です。武州からあてもなく北に向かった、
お馴染み十兵衛一行。壬生で町奉行を務める旧知の吉村兵太左衛門を
訪ねるが、彼は名門の総領息子から逆恨みされた挙げ句、命を落とすは
めに……。怒った十兵衛がとった行動とは? 普段は面倒ごとを嫌ったり、
ちゃっかりしたところもある十兵衛ですが、今回は正義漢ぶりと剣の腕を
披露します。
天才絵師と幻の生首

半次捕物控

 題名になっている「天才絵師と・・」は最後に載せられている短編である。
 淡々と読んだ。
 事件のからくりが意外だったりするのだが、あまり驚かないのは、文体に
 「転機」を感じさせるものがないのかもしれない。
 仇討の場に双方が現れない、左利きの辻斬り?の横行、ドラ娘と替え歌
 で馬鹿にされる話・・・。
 それぞれに予期しないようにドン返しではあるのだが。

 岡っ引きの半次と剣の道場を開いている小三郎との掛け合いは余談とし
 ては面白い。奥女中を務めたこともある佐和に恋している小三郎は、佐和
 との仲を取り持つように半次に頼んだり、縁談の邪魔をしたりする。女房も
 いるのに。
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内容(「BOOK」データベースより)
 九つの子が川縁で見つけた生首を描いた絵があまりにも見事なので多色
 刷りの瓦版にすると、「気味が悪い」と江戸中で大騒ぎに。それでも生首の
 主は分からずじまいで、そのうち生き写しの男があらわれて悪事がばれた
 ものだから、瓦版は狂言だったと非難囂々となる表題作。
 半次のひらめきが難題を解いていく。連作読み切り捕物帖。 

 
 


 
    

 小笠原 京?
       
東京本郷生まれ 武蔵大学教授
 「蛍火の怪」「瑠璃菊の女}(旗本絵師シリーズ)
 「見返り仏の女」(新人物往来社)

 「かぶきの誕生」(明治書院)
 「出雲のおくに」(中央公論)
 「都市と劇場」(平凡社選書)

  寒桜の恋  
 江戸の四季折々の風物詩を背景に、各篇とも、事件の進行につれて、新三
郎得意の枕絵ができあがっていく、という趣向もさることながら、前作「蛍火の
怪」の文庫本あとがきでも記されているように、このシリーズには、各巻とも
「作者だけのひそかな仕掛け」がほどこしてある・・・・・。 (解説から) 

 この「仕掛け」を全く考えなく読み終えてしまった。
  ・菖蒲の別れ   ・七夕の恨み   ・菊酒の名残り   ・寒桜の恋

 主人公は千三百石の御使番を勤める旗本の三男でありながら、武士を嫌っ
ての町屋暮らし、菱川師宣の版下絵師をしている。この主人公が出入りの番
頭や市井の差配などの力を借りながら何事件を解決していく。

 四つの事件は結構血なまぐさく、読むのが厳しい場面も多かったが、捕り物
帳としては一流のものらしい。
 

 
 


 乙川 優三郎?
       
東京本郷生まれ 1953年2月17日〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
生後すぐに千葉県に移る。千葉県立国府台高等学校卒。
ホテル・観光業の専門学校卒業後、国内外のホテルに勤務。会社経営や機械翻訳の
下請を経て、作家になる。この間に、酔った勢いで書いた小説が最終選考に残った
ことから小説を書き始めた、という逸話がある。

時代小説を数多く書き、好きな作家に山本周五郎を挙げている。2001年にその周五郎の
名を冠した賞を『五年の梅』で受賞し、翌年に周五郎が辞退した賞を『生きる』で受賞した。
        ==受賞歴==
*1996年 『藪燕』で第76回[オール読物新人賞]
*1997年 『霧の橋』で第7回[[時代小説大賞]]
*2001年 『五年の梅』で第14回[[山本周五郎賞]]
*2002年 『生きる』で第127回[直木三十五賞|直木賞]
*2004年 『武家用心集』で第10回[中山義秀文学賞] 
   (フリー百科事典・ウィキペディア(Wikipedia)より)

 五年の梅
 名作短編集である。
 山本周五郎賞を取った本を読み進めていて巡りあうことができた。
 舞台を江戸時代に置きながら、男女や夫婦の心の機微や運命を巧みに
 書き上げている。短編のひとつ五年の梅」は、主君に諫言するために
 許婚の弥生と別れた男が蟄居を命ぜられる。弥生は金貸しの男と一緒
 になり、盲目の娘を産む。その時主人公の助乃丞は、弥生を不幸にして
 のぼせあがっていた自分に気づく・・・。運命に流されながらも、自分を
 見つめ直し、やがて弥生と娘を迎える助乃丞の姿が切々と描かれてい
 く。
 その他の短編
  ・後瀬の花  ・行き道  ・小田原鰹  ・蟹
芥火(あくたび)
 味わいのある短編集である。
 この作家の凄さを感じ始めている。たんたんとした日常生活を描いてい
 るようで内に秘めた埋火のような情念が見える。
  ・芥火
   囲われの身から開放され、自分で店を持とうとするかつ江。
   以前に働いていた水茶屋のおかみ・うらのしたたかな生き方を手本
   としながら、可能性に向けてやるしかない・・・。
  ・夜の小紋
   兄の信兵衛が休止したために、由蔵は魚油問屋の店を継ぐことにな
   った。紺屋(こうや)弟子入りして五年目、小紋の図案や型彫りを生
   業にするつもりだった由蔵はふゆともわかれる。兄の息子が一人前
   になるまで・・。
   それから十年。由蔵はふゆが染めた小紋て・・・。
  ・虚舟
   親のための働きに出て、放蕩を重ねた父が死んだ後も母と弟に金
   を巻き上げられるいし。一人娘と別れて暮らし、一人の夜に晩酌を
   楽しむ・・・。
  ・柴の家
   三百石の家に養子に入り、さしたる仕事もなく登城する信次郎。
   妻と義母は生まれた息子にしか関心がなく、夫婦の仲はとっくに冷
   え切っている。
   やがて、瀬戸助という陶工と孫のふきと出会い陶房に通い始める。
   瀬戸助が死に、のこされたふきと焼き物に取り組む信次郎は、家を
   でることを決意する・・・。
  ・妖花
   住み慣れた浅草から川向こうに住むようになった「さの」。
   夫の柳吉は職人気質の仏師で、家を留守にすることが多い。
   不満ばかりのさのの前に柳吉の世話になっているという「むめ」が
   現れる。
    着物を替え、壊れかけた家庭を修復していくしかない・・・。
自撰短篇集・武家篇
 

男の縁

 秀作が集められている。
  八つの短編から成っているが、一つ一つが読み手を惹きつけて離さな
 い。 
  ・悪名
    幼馴染の多野と重四郎。お互いに想いがありながら別な相手と一
    緒になり、別れ、今は料亭の仲居と客。
    強請り、酒びたりなど評判の良くない重四郎が姿を消して・・・。    
  ・男の縁
    「御家中興記」を編纂する宇津木丈大夫の前に、早見伝兵衛が現れ
    自分の出自を語る。新陰流の使い手であることを隠し仕官してきた
    死病に冒された早見伝兵衛は乱心を装い藩の不正者を誅するため
    に乱闘を起こす・・・。
    丈大夫の家で伝兵衛と居合わせたことのある犬井庄八が伝兵衛を
    討ち取る。
  ・旅の陽射し
    重い病に犯された医師の意伯と妻の万は銚子に旅をする。
  ・九月の瓜
    勘定奉行の宇野太左衛門は、かつて政争により親友だった捨蔵を
    裏切ったと言う負い目がある。
    廃れて暮らす捨蔵を訪ねた太左衛門は・・・。
  ・梅雨のなごり
    藩政の改革のために文字通り骨身を削って働く無口な父。
    ただの酒飲みに見えた伯父(母の兄)小市。
  ・向椿山
    庄治郎は医学を修めるために江戸に遊学。残された十六才の美沙
    生は、明るく気丈な娘に見えたが・・・。
  ・磯波
    姉妹の奈津と五月。
    奈津は妹の言葉に騙され、想いを抱いていた直之進をあきらめる。
    道場を継いだ直之進と五月の夫婦に隙間風が・・・。
  ・柴の家
    芥火(あくたび)におさめられている。
冬の標(しるべ)
  絵を描くことの好きだった末高明世は有休舎の岡林有休(葦秋)のもとに
 通い、蒔絵師の倅・平吉、小録の武家の次男・小川陽次郎と知り合う。
  やがて、明世は結婚し、一児ををもうけるが主人は病没。舅も亡くなって
 家は零落する。
  絵を捨てきれない明世は姑と一人息子と暮らしながら、有休舎に行く。そ
 して、成人した光岡修理(陽次郎)と会う。修理は婿入りを機会に貧しい暮
 らしから脱していたが、満たされないものがあり、絵に向かっている。
  時代は幕末の変動期。一人息子の順一郎と修理は勤王派となり、藩内
 の対立に巻き込まれていく。女の生き甲斐と自立を求めて、絵に進む明世
 の姿が描かれている。
 生きる
 内容(「MARC」データベースより)
藩衰亡を防ぐため、家老から追腹を禁ぜられた又右衛門。跡取りの切腹、
身内や家中の非難の中、ただひたすらに生きた12年を問う。苦境に人の心
を支えるものとは?
麗しき果実
 この作家の文は格調が高く巧みである。
 他の本と一緒に読んでいるとその差に驚かされる。
 この本も蒔絵の世界を余すところなく緻密に描いて隙がない。
 3章に分かれているが、1章を読み終えた時点で貸し出し期限になり完独
 読を断念。内容紹介に的確に述べられているので引用させて戴く。
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 内容紹介
 朝日新聞朝刊に連載された乙川優三郎氏の力作の単行本化。松江で蒔
絵師の一家に育った主人公理野は、兄の修行に付いて江戸にのぼる。
 厳しい修行の途上で兄は亡くなるが、理野は田舎に帰らずそのまま工房
で蒔絵職人として身を立てようと決意する。羊遊斎や酒井抱一など実在の
芸術家の中にたくみに虚構の人物を組み合わせ、江戸の町を背景に、女性
の立場から見た江戸職人の世界を描く時代小説の傑作。
内容(「BOOK」データベースより)
原羊遊斎、酒井抱一、鈴木其一など実在の人物の間に虚構の女性主人公
を泳がせ、女性の眼から見た蒔絵職人の世界や出会った人々、そしてやる
せない恋心を描いた渾身の力作。 
霧の橋
 目次を見て「霧の橋」の項があったので短編集かと思ったが、長編だった。
 惣兵衛と房之助は長年の友だったが、惣兵衛が想いを寄せてきた小料理
 屋の女将をめぐって諍いを起こす。女将がかつて領外追放となった普請奉
 行の娘だったからだ。酔いに任せ房之助は惣兵衛を切ってしまう・・・。
 そして年月が流れ、惣兵衛の息子・与惣次は仇討を遂げたが、兄の公金
 横領に絡み、武士を捨て、「紅屋」の婿となっている。
 物語はやがて惣兵衛を名乗るようになった与惣次の「商人としての生き様」
 を描いたものである。「紅」をめぐる商人同士の争い、裏での駆け引きを
 通して与惣次は次第に商人らしくなっていく・・・。
 最終章、父と房之助の諍いの元凶となった女将・ふみが現れ・・・。
 巧みな文体と江戸時代の商人、街並みが描かれ、その世界に浸れる秀作
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内容(「BOOK」データベースより)
 刀を捨て、紅を扱う紅屋の主人となった惣兵衛だったが、大店の陰謀、父
親の仇の出現を契機に武士魂が蘇った。妻は夫が武士に戻ってしまうので
はと不安を感じ、心のすれ違いに思い悩む。
 夫婦の愛のあり方、感情の機微を叙情豊かに描き、鮮やかなラストシーンが
感動的な傑作長編。第七回時代小説大賞受賞作。 
トワイライト

シャッフル

 うーん!
 最初の老いて海女をやめ、夫の介護をしながら暮らす絹江。昔の海女仲間
 聡子は一人暮らし。2人ともこれから先に明るい未来はない。新聞配達、夏
 場のアルバイトなどで何とか食いつないでいる。2人は昔を想いながら海に
 行く・・・。
 インドネシアで知り合った日本人と結婚して房総に落ち着いたオリーだった
 が優しかった夫に先立たれてしまった。それでも、オリーはたびたび現れる
 夫の姿に励まされ一人で生きていく・・・。
 この2つの短編を読んでいるうちはなかなか良いと思った。
 13の短編が収録されている。
 最初は良かったが、次第に退廃的な雰囲気が漂う。
 各短編が何らかの脈絡を持ったり、関連付けると読み応えも出ると思うが
 それはない。ただ、舞台が房総の海沿いの町だというだけ。
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内容(「BOOK」データベースより)
 歓楽の灯りが海辺を染める頃、ありえたかもしれない自分を想う。
 『脊梁山脈』で「戦後」を描き、大佛賞に輝いた著者の「現代」小説。宝石の
 ような時間もあった。
 窮屈な現実にも追われた。まだ思い出に生きる齢でもないが、やり直せない
 ところまで来てしまったのか。
 房総半島の街で自己を見失いかけ、時に夢を見、あがく、元海女、落魄した
 ジャズピアニスト、旅行者、女性郵便配達人、異国の女……
 「これぞ短篇」「珠玉」としか言いようのない滋味あふれる13篇。 

 老いた海女、落魄のピアニスト、ライムポトスと裸婦、家に辿りついた異国の
 女…。
 房総半島の小さな街で何かを見つけ、あるいは別れを告げようとしている男
 と女たち。夕闇のテラス、シングルトーンの旋律…。

 
 

    

   
  
 海老沢 泰久?
       
1950年 茨城県生まれ 国学院大学卒・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 国学院大学折口博士記念古代研究所勤務ののち、著述業に専念。
1988年「F1地上の夢」で新田次郎文学賞受賞
1994年「帰郷」で直木賞受賞
 他の著書に「監督」「オーケイ」「男ともだち」「満月」「空に満月」
青い空
 江戸から明治に移る動乱の時代を、一人のキリシタン類族の若者を通して
描き切った作者渾身の大作。
 後に宇源太と名前を変える藤右衛門はキリシタン類族の村に生まれた。
幼馴染のおみよが庄屋の息子に手篭めにされ、仕返しに行ったおみよの
兄は逆に殺されてしまう。藤右衛門は庄屋の息子を殺し江戸に逃げるが
そこから攘夷と倒幕に揺れる時代の波に翻弄されていくことになる。
 僧達の堕落。大国主命の教えを説く塚本彦弥との出会い。道場主の
吉野新三郎、勝海舟との出会い。
 作者が描きたかったテーマは日本人と宗教の問題だと思われる。キリ
シタン類族の存在とその差別、また江戸時代を生き抜いたキリスト教の
実態である。巻末に30数冊の参考文献が掲げられているが、史実も踏ま
えながら、詳細に書きあげているのがわかる。
 仏教については非常に厳しい記述が多い。神道に指導者や教義がな
いことに付けいって神社を寺の附属物にし、神道を葬り去ろうとしたこと。
また寺や僧は寺請制度で保護され、宗教としての道を忘れ金儲け
だけに走っていたことなど・・。
 明治政府が天皇を現人神として祭り上げるためにキリスト教を禁止した
こと、廃仏毀釈の嵐、平田篤胤や本居宣長等が唱えた本来の神道とは
異なる、神道の組織作りをしようとしたことなど・・。
 また、相楽総三と赤報隊のことにも触れるなど、多彩である。
700ページの歴史長編を読むのはちょっと手間だった。
無用庵

隠居修行

 この後、シリーズものになりそうな気がする。
直参旗本の日向半兵衛は偶然助けた新太郎を養子にし、家督を譲る。
気ままな隠居のはずが、さまざまな難事が持ち込まれる。
 弟で目付の松平半次郎(婿養子に入った)、勝谷用人、そして、謎の
男・聖天の藤兵衛達の助けを借りながら、難事件を解決していく。
 ・女の櫛 ・尾ける子 ・聖天の藤兵衛 十両の鶯 ・金貸し
星と月の夜
 夜の街に働く男と女。どこにでもありそうな男女の出会い・・。
 9編の男女をめぐる話が並んでいる。
 この作家がこんな話を書くというのは面白い。1950年生まれというのも
 頷ける。
  ・マハナージのおばさん
    北島仁志は広瀬照美に恋しているが、マハナージのおばさんは
    照美に40才の写真家を紹介してしまう。そして、照美はやがて大
    人の魅力に惹かれていく。
    一方仁志はとろけるような声を出し、体をくねらせながら離す佐田
    博子を紹介される。
    マハナージのおばさんは二つの工作をしたわけだが、何のために?
  ・その他
ヴェテラン

★★★

 温泉に行って、浴槽から上がってしばし本を読む・・・という目的で、古本
屋で購入したのが、この本と次の「孤立無援の名誉」である。
 この作家については歴史ものを書くというイメージがあったが、山際淳司の
ような内容で驚かされた。かなり前に書かれたものだが、野球ファンにはこ
たえられないような珠玉の一冊である。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 西本聖、平野謙、石嶺和彦、牛島和彦、古屋英夫、高橋慶彦―個性豊か
な6人のプロ野球選手はスーパースターではなかったが、職人芸の心意気
とプロフェッショナルな野球魂を持っていた。
 6人それぞれが過去の栄光を捨てて、逆境に立ち向かい、野球に人生を
賭けたかを温かく描いた感動のノンフィクション。 
孤立無援の名誉

★★★

 野球の話は一つだけ。あとはさまざまなスポーツ(その他も)から題材を
得ている。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 退場。最後の試合でルールどおり毅然とした態度で、プロ野球審判の名誉
をかけ信念をつらぬく“仏の昇さん”。野球、F1レース、サッカー、テニスなど、
スポーツの世界を舞台に、いずれもプロであることに誇りを持ち、それゆえに
孤独な男たちを、男だけの世界を描いて、快い余韻をひびかせる短編小説集。 
帰  郷
 この作家が直木賞をとった作品を是非読んでみたいと思って図書館で借
りた。
 インパクトが少ない作品である。直木賞がこのようなものなのか・・・ちょっと
わからない。地方の工員が栄光の場に立つことになり、充実した日々を送る
が、やがて派遣期間が過ぎれば元の職場に戻らなければならない・・・・。
その時の空虚な気持ちはわからないわけではないが、それでどうしたのかと
いう、その後のインパクトが欲しかった。
 この本には同じような短編が6編載せられている。
 静かな生活に戻る主夫、昔の場所に舞い戻る野球選手というテーマのもの
もある。
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出版社/著者からの内容紹介
F1エンジンの組み立てのメンバーに選ばれて世界中を駆け回った男の日常は
栄光に充ちていた。が、解任後は普通の生活が待っていた
 
 
 


 宇佐江 真理(うえざ まり)
          
1949年 函館市生まれ 函館大谷短期大学卒・・・・・・・・・
1995年 「幻の声」でオール讀物新人賞受賞
2000年 「深川恋物語」で吉川英治文学新人賞受賞
2001年 「余寒の雪」で中山義秀文学賞受賞
  他の著書に「我、言挙げす 髪結い伊三次捕物余話」
         「深川にゃんにやん横町」
おはぐろ

とんぼ
 

江戸人情堀
物語
 

★★★

 これは珠玉の短編集である。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 趣味人クラブのコミュで「今年読んだ本ベスト」に挙げた方がおられたので、
図書館で借りた。六つの堀沿いに住む市井の人々の哀感とため息、そして
幸せをほのぼのとしたタッチで描いてみせる。

 ・ため息はつかない・・薬研堀
   口うるさい母と暮らす豊吉。母と言っても死んだ父親の妹が母親代わりな
   のである。18才になった豊吉に、店の娘・おふみとの縁談が持ち上がる。
   おふみは行かず後家と陰口をたたかれている次女で、でっぷりと太って
   いる・・・。
   おっ母さんが殺され、その嫌疑が豊吉に降りかかった時、振られたお梅の
   嘘を見抜くために立ち回ったのはおふみだった。
 ・裾継・・・・・・・・・・・・油堀
   遊女から加茂屋のという子ども屋(遊女屋)の女将になった「おなわ」
   先妻の娘は成長して反抗的になり、旦那も金を持ち出すようになった。
   その陰に合った事情とは・・・。 
   お人好しと言われながら、先妻の亡骸を先祖代々の墓に入れることを決
   めるおなわ。裾野補強にあてられる布という意味を持つ「裾継」はおなわ
   自身である・・。
 ・おはぐろとんぼ・・・・稲荷堀
   板前の娘として父親に仕込まれたおせんだったが、女の料理人を認め
   ない江戸ではただの奉公人にすぎない。
   やがて上方からやってきた銀助が親方になる。はじめはとても馴染めない
   親方だと思ったが・・・。やがて、母親と一緒に去った妹を見つけ出してくれ
   た銀助に好意を抱くようになる。
 ・日向雪・・・・・・・・・・源兵衛堀
   陶工の梅吉は、金の無心に現れ、給金も持っていく兄の竹蔵を恨みに思
   っていた。母が亡くなった席にも少ししか顔を見せなかった竹蔵。
   兄弟のつまみ者の竹蔵だったが、惚れた女が病に倒れ最後まで面倒を
   みるためだった・・・。心中した竹蔵と女を供養するように日向雪が降る・・。
   一人の女をとことん惚れぬくということを教えてくれた竹蔵・・。
 ・御廐河岸の向こう・・夢堀
   勇助は色白の赤ん坊だった・・・。
   やがて生まれ変わりや前世の話をするようになった勇助に、おゆりは戸惑
   う・・・。
 ・隠善資正の娘・・・・・八丁堀
   先妻の娘は先妻が殺されたときに行方不明になったままである。
   同心の隠善資正は居酒屋で先妻の面影が感じられる娘と会う・・。

余寒の雪

 

 ・紫陽花
   かつて吉原の遊女屋にいた直は、今は押しも押されもせぬ大店「近江屋」
   のお内儀。
   そのお直のもとに、昔の店の妓夫(客引き)・房吉がやってきて、同い年だ
   った梅ケ枝の死を告げる・・。
 ・あさきゆめみし
   両国広小路・金毘羅亭の女浄瑠璃に熱をあげ、「駒ちゃん連」の元締めと
   なった正太郎。日頃から気に入らない伊勢屋の直助が女浄瑠璃。京駒に
   手を出し、正太郎の姉を嫁にほしいと持ちかけてきた時・・・。
 ・藤尾の局
   両替商「備前屋」の内儀は、先妻の子どもたちが暴れると、娘と一緒に
   逃げ出すような、腹を立てない女だったが・・・。
   かつて大奥で藤尾の局と呼ばれていた・・・。
 ・梅匂う
   小間物屋を営み、へちま水を商う助松は、見世物小屋の女力持ち・大滝
   と出会い・・・。
 ・出奔
   お庭番川村修富の甥・勝蔵が行方をくらまし、やがて死体で見つかった。
   勝蔵に何があったのか・・・。
 ・蝦夷松前藩異聞
   栄吉こと蠣崎将監広伴は、藩主松前昌広の「発疳(はっかん)」という心の
   病に苦しめられる・・・。
 ・余寒の雪
   知佐は江戸に行く叔父夫婦同行した。江戸の道場で腕試しが出来ると喜
   んでいた知佐だったが・・・。 
 たば風
 
 

★★★

 
 三作目で宇佐江真理の凄さに驚かされる・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 歴史作家であることを印象づける短編集である。

 ・たば風
  許嫁の幸四郎が倒れ、破談になった「まな」は小姓組の小菅伝十郎に嫁ぐ。
  ときは流れ、常軌を逸した藩主を宥(なだ)めるために奔走し、誤解された伝
  十郎はお城に詰め続け、まなにも監視が付けられた・・・。ある夜、身体不自
  由のはずの幸四郎がまなのもとを訪れ、まなと伝八郎を実家に逃す・・・。  
 ・恋文
  松前藩留守役次席の赤石刑部と夫婦になった「みく」。
  呉服問屋のむすめであったみくは、子ども達が成人した今も、勝手行動を
  とる刑部に馴染めない。刑部が隠居して松前に帰るのを機に別れることを
  考えていたが・・・。
 ・錦衣帰郷
  蝦夷地探検で名を馳せた最上徳内を、楯岡村(山形)の庄屋茂右衛門を
  絡ませながら描いている。農家の出ながら、江戸で学問を積み、計り知れ
  ない苦労の末に武士となった徳内の生の姿が語られている。
 ・柄杓星
  村尾仙太郎の許へ嫁ぐことになっていた杉代は幕府の倒壊の混乱に巻き
  込まれる。仙太郎は彰義隊に参加、北海道に渡り函館戦争へ・・・。
 ・血脈桜
  維新前夜に揺れる松前藩で6人の娘が、藩主正室の警護に当たることに
  なった。松前・光善寺のある血脈桜のもとで桜を愛でた日に、「さな」は、
  血脈桜に「見守ってくれ」と哀願する。
 ・黒百合
  維新で働く気力を失った父と兄を養うために、剣の演舞小屋で働く千秋。
  父と兄に愛想をつかし、松前藩士の紋十郎と逃げようとする千秋は黒百
  合の伝説に願いを込める。千秋は紋十郎から送られた黒百合を受け取っ
  ていたのだった。
   蝦夷の伝説・・黒百合を愛する人に送り、それを相手が受け取れば、二
            人は必ず結ばれるという・・・。

寂しい写楽
 久しぶりに写楽の本を読んだ。
 これまでに、杉本章子「写楽まぼろし」高橋克彦「写楽殺人事件」を読んで
 いる。どちらも秀作であった。
 宇江佐真理の写楽は上記二冊と比べると、やや物足りない。
 写楽が果たして何者なのかと・・わくわくするような展開になっているわけで
 はないので。
 写楽を斉藤十郎兵衛という能役者とし、それに係わって浮世絵を仕立て上げ
 る者たちに焦点を当てている。
 山東京伝、葛飾北斎(鉄蔵)、幾五郎(後の十返舎一九)など、蔦谷重三郎を
 中心に多彩な顔ぶれである。蔦谷のの番頭をしたこともあるとして、滝沢馬琴
 も登場する。また、蔦谷から狂歌を出した太田蜀山人も登場させている。 
夕映え

★★★

 前記の「寂しい写楽」を除くと、これまで短編集を読むことが多かった。
 これは作者が精魂こめて書きあげた長編の秀作である。
 松前藩の武士であった栂野尾弘右衛門(とがのお・こうえもん)は、謀反の罪
 を着せられたため、江戸に出て町人となる。やがて「福助」婿となり、岡っ引
 きの仕事を見つける。
 物語は「福助」の女将おあきを中心に進展するが、背景に幕末から明治へと
 揺れ動く中で、弘右衛門(弘蔵)がかつて籍をおいた松前藩の姿も描かれる。
 函館出身の作者が丹念に文献を読み、大作を書き上げたという感じである。
 幕府と官軍の戦い、彰義隊、榎本武揚の戦いなど詳しく描いている。
 松前に行った息子の良助は・・・。
 松前に帰郷した弘蔵夫婦だったが、住みなれた江戸に帰る・・・。
 最後まで読み終えて大きな感動があった。
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 内容(「BOOK」データベースより)
江戸の本所に「福助」という、おでんが評判の縄暖簾の店があった。女将のお
あきは、元武士で岡っぴきの亭主と息子の良助、娘のおてい、そして常連客た
ちに囲まれて、つつましいが、幸せな暮らしをしていた。
しかし、江戸から明治に代わる時代の大きな潮流に、おあきたち市井の人々も
いやおうなしに巻きこまれていく。そしてついには、息子の良助が彰義隊に志
願してしまう…。幕末・江戸の市井に生きる人びとの人情と心の機微を描き切
る、著者渾身の傑作時代長篇。 
明日のことは知らず

髪結い伊三次捕物余話

 6編の短編だが、伊三次が事件や出来事に関わる連作集である。
 この作家には、当たりはずれがちょっとある。
 この本はどちらかいうと平坦・・。インパクトに欠ける。
 予想外の事件が起こったり、難解な謎が立ち塞がったというのがあまりない。
 伊三次の芸者をしている女房、幼少ながら健気な娘、歌川豊光のもとに弟子
 入りして絵の修行をしている息子・伊与太、伊与太の恋人で、松前藩に奉公
 にあがっている茜、伊三次の弟子・九兵衛・・・。
 それらの者の周辺に起こった出来事が穏やかに語られる・・・そんな本である。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 人気の髪結い伊三次シリーズ最新作は、人情味あふれる短編6作を収録。
 あやめを丹精することが生きがいの老婆が、庭で頭を打って亡くなってしまう。
 彼女の部屋から高価な持ち物が消えていることを不審に思った息子は、伊三
 次に調査を依頼する。暗い過去を持つ、花屋の直次郎が疑われるが……。
                              (「あやめ供養」)
 伊三次の弟子、九兵衛に縁談が持ち上がる。相手は九兵衛の父親が働く魚
 屋「魚佐」の娘だが、これがかなり癖のあるお嬢さんだった。
                              (「赤い花」)
 浮気性で有名な和菓子屋の若旦那は、何度も女房を替えているが、別れた
 女房が次々と行方知れずになるとの噂があった。このことを聞いた伊三次は
 同心の不破友之進に相談する。         (「赤いまんまに魚そえて」)
                         
 伊三次の息子、伊与太が心惹かれ、絵に描いていた女性が物干し台から落
 ちて亡くなった。葬式の直後、彼女の夫は浮気相手と遊び歩いていた。一方、
 不破家の茜は奉公先の松前藩で、若様のお世話をすることになっていた。
                              (明日のことは知らず)
 仕えていた藩が改易になった男。知り合いの伝手を辿って再仕官しようとす
 るが、なかなか上手くはいかず、次第に困窮していく。(「やぶ柑子」)

 「不老不死の薬」を研究していた医者が亡くなった。彼の家には謎の物体が
 残されていたが、ひょっとしたらそれが高価なものかもしれないと思った家主
 は、伊三次に調べてもらうことに。(「ヘイサラバサラ」)
 
 伊三次の周りの人々が、さらに身近に感じられる一冊。 


 
 


 高田 郁 (たかだ かおる)
               
1959年 兵庫県宝塚市生まれ。中央大学法学部卒業。??
1993年 集英社レディスコミック誌「You」にてマンガ原作者
     (ペンネーム・川富士立夏)としてデビュー。
2007年 「出世花」で第2回小説NON短編時代小説賞奨励
     賞を受賞し、作家デビューする。
    
八朔の雪
 

みおつくし
料理帖
 

★★★

 これは秀作である。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 主人公「澪」の姿と周りの人々との心の通い合いが実に良い。
 この本は、わずか1カ月の間に10刷発行しているがその理由がわかる。

 ・狐のご祝儀・・ぴりから鰹でんぶ
 ・雪・・ひんやり心天(ところてん) 
 ・初星・・とろろ茶碗蒸し   
 ・夜半の梅・・ほっこり酒粕汁

 故郷の大阪で水害で両親を失い、天満一兆庵の女将・芳に救われた澪だ
 ったが、天満一兆庵が消失。芳とともに江戸の片隅に住んでいる。
 蕎麦屋「つる家」の手伝いをしながら、やがて主の種市から店を任せられる
 ようになる。
 大阪と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と負けん気で、新し
 い味に挑戦していく・・・。
 江戸一と言われる「登龍楼」の妨害(まね)やつけ火にあっても立ち直る澪。
 澪のひた向きさと、澪を見守る人々の温かさが胸を打つ名作。
 どこか得体のしれない小松原。医師の源斉。
 長屋のりょう。りょうの夫で大工の伊佐三。
 そして、大阪での幼馴染ではないかと追われる吉原の太夫・・・。
 連作が待たれる。 

出世花
 

★★★

 名作である。
 この作家は内容、文章力ともに優れた作家である。

 和菓子屋「桜花堂」の主人夫婦から養女にと言われるが、驚くべき事実が
 明 らかになる。
 第二話は棺職人・岩吉の切ない恋が髪切り事件とともに描かれる。
 第三話は死の寸前にある女郎の「湯灌」を頼まれたお縁が、奇妙な事件に
 巻き込まれる。
 第四話は寺の青年僧で兄のように慕う正念の意外な出自と哀しい生き方が
 明 らかになる。(以上は解説から一部引用にしました。) 
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 内容(「BOOK」データベースより) 
 不義密通の大罪を犯し、男と出奔した妻を討つため、矢萩源九郎は幼いお
 艶を連れて旅に出た。六年後、飢え凌ぎに毒草を食べてしまい、江戸近郊
 の下落合の青泉寺で行き倒れたふたり。
 源次郎は落命するも、一命をとりとめたお艶は、青泉寺の住職から「縁」とい
 う名をもらい、新たな人生を歩むことに―――。
 青泉寺は死者の弔いを専門にする「墓寺」であった。直に死者を弔う人びと
 の姿に心打たれたお縁は、自らも湯灌場を手伝うようになる。悲境な運命を
 背負いながらも、真っすぐに自らの道を進む「縁」の成長を描いた、著者渾身
 のデビュー作、新版にて刊行!!

晴れときどき涙雨

高田郁のできるまで

★★★

 これは素晴らしい。
 2ページ程の短編ばかりなのだが、一編一編に心温まる話があり感動する。
 この短い話の中で読み手の心を掴む・・高田郁は凄い!!
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 内容(「BOOK」データベースより) 
 今、一番泣ける時代料理小説『みをつくし料理帖』シリーズ著者・高田郁、
 初のエッセイ集。 雲外蒼天を信じ、日々を送る人へ届けたい言葉がありま
 す。 

 漫画原作者・川富士立夏時代に漫画雑誌「オフィスユー」に四年半にわたっ
 て寄稿したエッセイに、長編書き下ろし分を加え、高田郁の素顔に迫る一冊
 がここに完成。 

あ い

永遠に在り

★★★

 不朽の名作と言ってよい。
 関寛斎という、素晴らしい医術を持ち、名を残しながら、晩年北海道の開拓
 に取り組んだという異色の偉人。それを妻の立場から描いている。

 いつも物事を良いほうに捉えてみせる、あいの姿が素晴らしい。
 寛斎が郷里の前之内村で開業しても患者は誰も来なかった・・
 徳島藩の侍医となった寛斎は以前から居る漢方医たちから脚を引っ張られ苦
 渋の日々を過ごす・・そんな時、いつも明るく励ましたのは、あいだった。
 徳島の医宅を引き払い、八男・五郎の居る北海道で開拓の道に進む寛斎。
 老いた、あいは進んで従う・・。

 あいの姑になった年子の言葉。
 「寛斎はあんな風だから、人から誤解を受け易い。
  子供たちとだって、これからも色々あるだろう。
  けれど、あいが居れば大丈夫さ。関寛斎を支えることの出来るのは、この世
  で唯ひとり。あい、お前だけなんだよ。」
 これが心に響きます。

 関寛斎は実在の人物であり、十勝・陸別町には開拓の先人ということで資料
 館がある。機会があれば是非訪ねてみたい。
  北海道足寄郡陸別町大通     電話0156-27-2123
 「関寛斎診療所」もある。これは?
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 内容(「BOOK」データベースより) 
 齢73歳にして、北海道開拓を志した医師・関寛斎。藩医師を経て、戊辰戦争に
 おける野戦病院での功績など、これまでの地位や名誉を捨ててまでも寛斎は
 北の大地を目指した。
 その彼を傍らで支え続けた妻のあい。幕末から明治へと波乱の生涯を送った
 二人の道程を追う歴史小説。
 妻の視点から描く、歴史の上に実在した知られざる傑物の姿とは――。
 そして、二人が育んだ愛のかたちとは――。
 高田郁が贈る、歴史小説にして最高の恋愛小説! !
 愛する事の意味を問う感動の物語。 

ふるさと

銀河線

軌道春秋
 
 

★★★

 珠玉の短編集。この言葉はこの本のためにあるよう・・・。
 読み手の心を捉え、感動の波を送る・・・素晴らしい作家である。
 ・お弁当ふたつ
   夫の背中がうらぶれていると思った妻。会社を訪ねて夫がリストラされて
   いたことを知り愕然とする。夫は毎に何をしていたのだろう。後をつけた妻
   が見たのは・・・。  
 ・車窓家族
   大阪神戸を走る私鉄から見える集合住宅の一室はカーテンがなく、老夫
   婦の生活がそのまま見える。その姿に癒される客がいる。
 ・ムシヤシナイ
   父親から勉強を強制され続けてきた息子は、自分の気持ちを抑えきれな
   くなり、駅で蕎麦屋を営む祖父のもとに現れる。
 ・ふるさと銀河線(内容に紹介)
 ・返信
   陸別で不慮の事故死をした息子の面影を偲ぶために夫婦は陸別町にや
   ってきた・・。「ここは何もないところですが、そこが良いのです・・・」
   満天の星だけ・・・。
 ・雨を聴く午後
   不動産の会社に務める男は、かつて住んでいた古集合住宅の部屋に入
   り込む。そこは安住の地に思えたが・・・そこに住む女には深刻な悩みが
   あった。
 ・あなたへの伝言
   アルコール依存症悩まされる女。
   女は更生し立ち直った年上の女を尊敬し頼りにしていたが・・・
 ・晩夏光
   認知庄の姑を看取ったなつ乃は息子と離れ一人暮らしをしている。
   ある日、なつ乃は物忘れがひどくなっていることに気づく。
 ・幸福が通り過ぎたら
   大学で苦楽を共にした、桃、梅、桜の三人は30数年ぶりに会う。
   女ながら造り酒屋を継いだ桜は、自分だけが苦労していると思っていたが
   男二人にも耐えがたい事情を抱えていた・・・。

 あとがきで作者が
 「この本をお手にとって、ありがとうございます。」
  ・・・・・・
 「あなたの明日に、優しい風が吹きますように。」
 と、言っている。
 この言葉に励まされる・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより) 
 ベストセラー「みをつくし料理帖」シリーズ、「銀二貫」の著者が、初めて現代の
 家族を舞台にした珠玉の短編集。
 両親を喪って兄とふたり、道東の小さな町で暮らす少女。演劇の才能を認めら
 れ、周囲の期待を集めるが、彼女の心はふるさとへの愛と、夢への思いの間
 で揺れ動いていた(表題作)。
 遠い遠い先にある幸福を信じ、苦難のなかで真の生き方を追い求める人びと
 の姿を、美しい列車の風景を織りこみながら描いた感動的な9編を収録。

  

  

 山本一力 (やまもと いちりき)
             
1948年 高知県生まれ。 都立世田谷工業高等学校電子科卒業
       旅行代理店、広告制作会社、コピーライター、航空会
                社関連の商社勤務などを経て、
1997年 「蒼い籠」で第77回オール讀物新人賞を受賞。
2000年 初の単行本「損料屋喜八郎始末控え」を上梓し、
      時代小説の新しい書き手として注目を集める。
2002年 「あかね空」で第126回直木賞受賞。
    
あかね雲
 
 
 
 

(文藝春秋)

 希望を胸に身一つで上方から江戸へ下った豆腐職人の永吉。己の技量一筋に生きる
永吉を支えるおふみ。やがて夫婦となった二人は、京と江戸との味覚の違いに悩みな
がらもやっと表通りに店を構える。彼らを引き継いだ三人の子らの有為転変を、親子二
代にわたって描いた第126回直木賞受賞の傑作人情時代小説。  
(「BOOK」データベースより)
----------------------------------------------------------------
 一部・二部に分かれている。
 一部は永吉が亡くなり、おふみも体調を崩すまで。
  一部の前半で、永吉と所帯を持ったおふみの爽やかさが目立つが、おふみの父母
   が相次いでなくなり、おふみは長男の榮太郎を溺愛するようになる。そのようすが
   苛立たしいくらい・・・。弟の悟郎、妹のおきみは理解しがたい母の姿に悲しい思
   いをさせられている。
 二部はおふみが亡くなり、葬儀を取り仕切る榮太郎の前に姿を現した平野屋の平六
   がヤクザの親分の傳蔵を伴い、昔の証文をネタに京やを乗っ取ろうとする・・。
 明けない夜がないようにもつらいことや悲しいこともあかね色の空が包んでくれる・・
だいこん

★★★

(光文社)

 この作者の二冊目を読んだ。
 あかね雲は映画化のビデオを先に見てしまったので、筋がわかってしまい今ひとつと
 いう感じがあった。やはり、先のわからないストーリーは読み応えが違う。
 主人公の「つばき」の逞しい生き方に魅了させられた。
 内容(「BOOK」データベースより)
 江戸に心から愛されている一膳飯屋がありました。知恵を使い、こころざしを捨てず、
 ひたむきに汗を流したおんなの生き方。直木賞作家の魅力あふれる細腕繁盛記。 
  
 


  村木 嵐 
             
1967年 京都生まれ。 京都大学法学部卒業・・・・・・・・
2009年 「春の空風」が松本清張賞候補となる。
2010年 「マルガリータ」で第17回松本清張賞受賞。
     現在は故司馬遼太郎氏布陣・福田みどりさんの
     個人秘書を務める。
    
マルガリータ
 
 

★★★

 ローマ少年使節団の4人の帰国後の生涯を描いた力作である。
 主人公は棄教した千々岩ミゲル(清右衛門)とその妻となった
 珠である。
 千々岩ミゲルが何故棄教したのか、作者は豊臣秀吉との関係
 で千々岩ミゲルに好意的に解釈している。
 ミゲルは司祭をめざす三人と袂を分かち、大村喜前と有馬春信
 に仕えるが、棄教した者として茨の道を歩むことになる。
  
  


  

  
  市川 森一
             
1941年 長崎県生まれ。 日本大学芸術学部卒業・・・・・・・・・・・・・・・・・
      作家・脚本家。
      代表作にNHK大河ドラマ「黄金の日々」「山河燃ゆ」
      「花の乱」
      映画「異邦人たちとの夏」(日本アカデミー賞最優秀賞脚本賞)
      小説「紙ヒコーキが飛ばせない」「夢暦長崎奉行」「蝶々さん」
    
幻日
(げんじつ)

★★★

 上記・村木嵐の「マルガリータ」に似ているところがある。・・・・・・・・・・
 村木嵐は阻害されていた千々岩ミゲルに光を与えてくれた。
 この本ではその息子が天草四郎時貞という設定にしている。
 巻末に100以上の参考文献が載せられている。島原の乱やキリシ
 タンの実態、領主・松倉(島原)・寺沢(天草)の苛政について詳細に
 調べたものと思われる。
 幕府の上使・老中松平信綱にも焦点を当てていて、読み応えがある。
 「才あれど徳なし」と世間から見られていた信綱だが、投降した百姓を
 処断せず、自領の忍藩に連れていく。それは、原城に上がった最終の
 日に、「西空に日輪が二つ並んでいるのを見た」ためである。その中に
 亡き妻の顔があった・・・。息子にそのことを語ると、「それはこの地方
 に、この季節になると見える『幻日』でしょう」と言われてしまう。
 その時、信綱は眼下を漕ぎだしていく小舟に天草四郎を見た・・・。
------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
九州キリシタン王国建国は、目前だった!
一揆軍の総大将・天草四郎は、天正遣欧使節・千々石ミゲルの息子だ
った。
そして幕府軍を震撼させた長崎要塞化計画とは―ほとんど取り上げられ
ることのなかった文献をもとに、日本史上最大の一揆といわれる島原の
乱を大胆な推理で活写する、著者渾身の長編歴史小説。  
  
  
  
  

  
  
  伊東潤 
         
      
1960年 神奈川県横浜市生まれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
早稲田大学卒業後、日本IBMに長らく勤務。
現在はコンサルティング・サービスの会社を経営しつつ
歴史・時代小説を執筆。
主な著書は「武田家滅亡」「山河果てるとも」「疾き雲のごとく」など
    
戦国奇譚

 首

★★★

 北条が関わった戦いが舞台で、首を とる武士達のさまざまな姿と
 葛藤を描いている。
  ・瀕死の友から頼まれた首を自分の手柄にしてしまった男
   なんとその友は陣地に帰ってきた。
  ・間違って氏政の三男の首を取ってしまった男
  ・摩利支天を信じ、戦いで常に傷を受けたことのない新三郎は
   4つの首をとってはならないという夢を見た翌日・・。
  ・首を拾って自分の手柄としたことに味をしめた清右衛門が
   次に拾った首の本当の持ち主は・・・。
  ・他二編
戦国鬼譚
 

★★★

 長が武田勝頼を攻めた時に、親戚筋や家来衆が次々に裏切るの
 だが、その顛末を克明に描いている。
  ・木曾谷の証人
   木曾義昌と義豊の兄弟
  ・要らぬ駒
   下條家
  ・画龍点睛
   信玄亡き後、甲斐に舞い戻った信虎。
   信虎の六男・信廉はどうする・・。
  ・温もりいまだ冷めやらず
   信玄の五男・仁科五郎盛信と、織田信長五男・源三郎
  ・表裏者
   穴山信君
義烈千秋

天狗党西へ

 悲惨な結末が結末が予想される物語なので、事件の前後関係や
流れを知ろうと思い、どんどん読み進めた。
 水戸藩で著名な藤田東湖の息子・小四郎を中心に展開する。
 尊王攘夷を叫び、日本が外国の植民地とならないことを強く訴え
て結成された水戸天狗党。しかし、いつの間にか水戸藩内の対立を
うみ、やがて討幕運動とみなされてしまう。意を決した一党は、徳川
慶喜に血気の意するところを伝えようと京都を目指す。
 幕府からの討伐命令を受けた諸藩の動き、壮絶な戦い、苦難の
冬の山越え・・・・。夜明け前の舞台に躍動しようとする人々の姿が
苦闘の中に描かれている。
--------------------------------------------------
 内容説明から
一人また一人。困窮する故郷のために、男たちは結集した! 水戸
藩から京を目指した貧しくも屈強な義士たちの血と涙の行軍。幕末最
大の悲劇を描く歴史巨編。 
国を蹴った男
 

★★★

戦国を生き抜く者たちのさまざまな思惑や行動を、緊迫感の中に
描き切った珠玉の短編集。
以下、6つの短編を短くまとめてみた。

・浪人大将
 所領を追われ信玄の牢人衆となった那波藤太郎。
 「安んじた地位を得ている者ほど怖気づくのが早い」
 との言葉通り、領地より金を求める、信玄から勝頼へ、激動の
 時代を駆ける。

・戦は算術に候
 石田三成とともに、秀吉に仕えた長束は兵糧、軍費などの計算に
 もの凄く堪能だった・・・。
 算術以外の要素も存在すること、道具は使いこなしてこそ道具・・。
 三成は関ヶ原の土壇場をそれを思い知る。

・短慮なり名左衛門
 上杉謙信の跡目をねらう景虎と景勝。
 その両派の間で御館の乱がおこり、名左衛門は景勝のために身を
 賭した活躍をするのだが、国衆を抑え景勝の権力を強めようとする
 直江兼続の計略に・・・。

・毒蛾の舞
 賤ヶ岳の戦いに柴田勝家軍として参加した佐久間盛政は、かつて
 恋心を抱いた、前田利家の妻・まつの言葉に惑わされる。
 「又左を男にしていただきたい。」
 盛政は利家が突入すれば、勝てる場を作り出した・・・。

・天に唾して
 秀吉の茶堂・山上宗二は堺の自立を求めて秀吉と対立。小田原に
 居場所を定めるが、やがて小田原攻めが始まった。宗二は開城し
 降伏する使者となって秀吉のもとを訪れる。交換条件として、吾妻
 鏡の正本提出を謂われ、その通りにしたのだが・・・。
 秀吉を藤吉と呼び、屈しなかった男・山上宗二の最期まで・・。

・国を蹴った男
 蹴鞠職人の目を通して見た今川氏真を描く。
 父・義元が桶狭間の戦いで死んだ後も生き残り、仇を討つでもなく
 領国を信玄、家康に侵されてしまう。京に出て蹴鞠をしたり・・・。
 転々として、幕府が開かれた後の1614年、77歳で死去。

幻  海
 

★★★

 これは面白い。
 黄金の地が伊豆半島南端にあるという奇想天外なストーリー。
 秀吉配下の水軍の船に乗り、沼津から伊豆半島沿いに南下し
 北条水軍と戦い、その寄る城を落としていくシサットと徳川水軍の
 向井弾正。
 当時の戦術を細かに調べ、伊豆半島も実地調査したというこの作
 家の描写が冴える。
 秀吉の走狗は誰か?という小謎もある。 
--------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースよ)から
 1588年、長崎に上陸したイエズス会士レンヴァルト・シサットは、布
教の行き詰まりを打開すべく秀吉の元に向かった。秀吉は、近く行う
東国征伐に同行し、彼の航海学・天文学の知識を生かすなら、東国
に布教の拠点を作ってよいという。
 布教の想いを胸に、伊勢大湊から伊豆半島に至るうち、「奥伊豆に
黄金の国がある」という噂を耳にするようになる―黒い竜に守られてい
る、というその国の実態は驚くべきものだった!怒涛のような筆致で描
き出す、歴史海洋冒険合戦譚。 
叛 鬼

★★★

 最初、登場人物が多く相互関係や時代背景を把握するのが難し
 かった。
 30ページ程読んだあたりでクリアしようと思ったが、我慢して継続。
 長尾景春が主君である「山内上杉」に叛旗を翻したあたりから俄
 然面白くなりどんどん読み進めた。
 山内上杉と同一歩調をとる扇谷上杉、その中心は江戸城を築いた
 太田道灌である。
 管領・上杉を敵とした景春の戦い、上杉と敵対する古川公方を手
 を結など離散離合を繰り返し、下剋上に漬かっていく。古川公方の
 後に関東入りした堀川公方、伊勢新九郎なども登場する。
 本格的な戦国時代が始まる少し前の関東の騒乱が描かれ、新鮮
 な感じて読み終えることができた。
--------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースよ)から
 好かぬ小僧だ―。関東管領を継いだ上杉顕定を一目見て、景春は
思った。腹悪しき主君との軋轢は深まり、やがて叛旗を翻した景春は、
下剋上を果たす。長きにわたる戦いの幕が、ここに切って落とされた。
 対するは、かつて兄と慕った巨人・太田道潅。さらには、駿河で勃興
する新世代の雄・北条早雲も動き出す。叛乱に次ぐ叛乱は、新たな時
代の創始者たちを呼び覚ましていく―。 
城を噛ませた男

★★★

 25.1 東京旅行の列車内やジャズ喫茶で読んだ。
 この作家、戦国時代の関東を書かせたら無類の面白さを描いてみ
 せる。幻海、叛鬼・・・。多数の参考文書をもとに自在の創造力を発
 揮して読み手を戦国時代に引きずり込んでくれる。

 ・見えすぎた物見
  下野の国人・佐野氏は北条から上杉、上杉から北条へと、表裏こ
  の上ない立ち回りをして生き延びている。本拠地。唐沢山城の筆
  頭家老・天徳寺宝衍(ほうえん)が策謀の中心となっていた。
  宝衍は北条に近づこうとした者たちのために、主君・宗綱から放逐
  される。しかし、宝衍は秀吉、家康と近づき、戦国の世を渡りゆく。
  ついに、佐野の新領主として帰り着く・・・。
  また、この城の物見二人は遠望の異変をいち早く察知したり、城
  に近づく者をたちどころに見破る技を持っていたというおまけつき。
 ・鯨のくる城
 ・城を噛ませた男
  「このまま信州の国人でおわりたくない・・」
  真田昌幸は、秀吉と北条との火種を考える。
  沼田城が秀吉の裁定により北条方に属されたが、越後、信濃、武
  蔵、下野四国の交通結節点にある名胡桃城だけは真田の支配下
  になっていた・・・。
 ・椿の咲く寺
  滅亡した武田の生き残りが、家康の暗殺を企む。出家させた末娘
  の寺で・・・。
 ・江雪左文字
  小早川秀秋を如何にして家康側に引き入れるか。
  岡野江雪は少年の頃の石合戦を思い出す。敵方に味方しようか
  こちらに味方しようか、迷う新手の集団に・・・・。
-------------------------------------------------
出版社/著者からの内容紹介から
 われらの流儀で戦わせていただく
 戦国時代。賭けるのは、命。信じるのは、己の腕。 
 「全方向土下座外交」で生き延びた弱小勢力もついに運の尽きが。
 起死回生はあるのか?(見えすぎた物見)
 落城必至。強大な水軍に狙われた城に籠もる鯨取りの親方が仕掛
 けた血煙巻き上がる大反撃とは?(鯨のくる城)
 まずは奴に城を取らせる。そして俺は国を取る。奇謀の士が仕組ん
 だ驚愕の策とは?(城を噛ませた男)
 のるか、そるか。極限状態で「それぞれの戦い」に挑む人間を熱く
 描いた渾身作全五編を収録!
 劇的かつ多彩。「豪腕」伊東潤の描く壮烈な物語に、痺れろ。 

巨鯨の海

 

 図書館の新刊コーナーで紹介されていたので予約して借りたが、
 鯨漁と太地に関わったは短編ばかりだった。
 途中飛ばし読みをして全容を掴んだ。
 和歌山県にあるこの町。江戸時代から明治までの移り変わりの中で
 一貫した漁法を守り抜いた男たちのようすや苦悩が描かれている。
 この作家には清々しく終わるものが少ないという感じがする。
 機会があれば太地を訪ねてみたい。
  http://www.town.taiji.wakayama.jp/
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 内容(「BOOK」データベースよ)から
 和を乱せば、死。江戸時代、究極の職業集団「鯨組」が辿る狂おし
 き運命! 

 仲間との信頼関係が崩れると即、死が待ち受ける危険な漁法、組
 織捕鯨。それゆえ、村には厳しい掟が存在した──。 
 流れ者、己の生き方に苦悩する者、異端者など、江戸から明治へ、
 漁村で繰り広げられる劇的な人生を描いた圧巻の物語。 

 網を打つ者。とどめを刺す者―。おのおのが技を繰り出し集団で鯨
 に立ち向かう、世界でもまれな漁法「組織捕鯨」を確立し繁栄する
 紀伊半島の漁村、太地。

黎明に起つ

★★★

 北条早雲については強い関心をもっていた。
 この本への取り掛かりは、富樫倫太郎「北条早雲 青春飛翔篇」を
 読み終えた後だった。
 富樫倫太郎の本と比べると、参考文献をもとにして重厚に書かれた
 という印象が強い。前著は良く知られていない少年から壮年への過
 程を描いているので創作部分も多い。爽快感がある。
 そういうわけで、本書を読むときは、駿河に下向するまでのことは、
 ちょっと駆け足で読んでしまった。
 駿河に到ってからの新九郎(宗瑞)の関東制覇への足掛かりとその
 後の戦いを読んだ。堀越公方、扇谷上杉との連携、離反・・。
 それらの経過が子細によく描かれていて、興味深く読んだ。
 山内上杉、古河公方との駆け引き、また三浦一族との戦い・・。
 三浦は武士の世を守るため、宗瑞は民の世を作るために戦う。
 下剋上の先駆けとなった宗瑞の、「民を大切にする政治」という考え
 方がテーマとなっているのが興味深い。
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 内容(「BOOK」データベース)から
 京都を主戦場に、11年間も繰り広げられた権力闘争・応仁の乱。
 それによって荒廃した都の姿に絶望し、挫折から立ち直り、関東の
 地に新天地を求め、守旧勢力を駆逐し、、民のための秩序を希求
 し、覇権を打ち立てた北条早雲。
 その国家像と為政者像を注目の作家が描く歴史巨編。 
峠越え

★★★

 徳川家康を整理して読むにはちょうど良い。
 桶狭間・・今川義元の滞在する場所を織田方の梁田に教えたのが家
 康だというくだりは面白い。
 「衆に秀でた者は己を知ろうとせぬ。それにはんして、凡庸なものほど
  己を知ろうとする。」
 「乱世では己を知る者ほど強き者はおらぬのだ・・・」
 雪斎の言葉が心に残る。
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 内容紹介から
 最注目作家・伊東潤×戦国の覇者・徳川家康
 吉川英治文学新人賞、山田風太郎賞、歴史時代作家クラブ賞。
 次々と主要文学賞を制圧する著者が、ついに上洛を果たす!
 過酷な乱世を勝ち抜いた天下人、その「生きる力」に迫る。

 この世には、凡人にしか越えられない山がある――。
 信長でも秀吉でもなく、家康こそが天下人たりえた理由とは?
 大胆不敵の大仕掛け、当代無双の歴史長編!

 幼き頃、師より「凡庸」の烙印を押された男は、いかにして戦国の世を
 勝ち抜き、のちに天下を覆すことになったのか。
 本能寺の変。信長、死す――。家康の人生最悪の危機は、最大の転
 機でもあった。

 山岡荘八『徳川家康』、隆慶一郎『影武者徳川家康』、司馬遼太郎『覇
 王の家』。名だたる傑作のいずれとも異なる、真実の姿を活写する! 

  
天地雷動

★★★

 勝頼がなぜ長篠の戦いに臨んだのか、無謀な突入までの経過はどうな
 っていたのか、それらに明確に応える一冊である。珠玉の作。
 山県、内藤、馬場・・・名だたる武田の宿老たちと勝頼の側近・長坂釣閑
 との確執。
 信玄没後、3年は戦いをしてはいけないという遺言を宿老たちは守ろうと
 する。それは勝頼には自分を軽視する態度にしか思えなかった。
 信玄を超えたい勝頼には耐えがたかった。
 
 一方、秀吉は鉄砲3000丁の用意を信長に命令され、今井宗及とともに
 大難題に取り組む。
 鉄砲の重要性は武田も十分に分かっていた。しかし、武田も鉄砲を持っ
 ていたのだが、玉と玉薬が不足してしまった。武田に玉薬を供給してい
 た者たちを抑えられてしまったのである。
 玉と玉薬が武田にあれば、戦いの帰趨はわからなかった・・。
 
 敗戦と討ち死にを覚悟した宿老たちが勝頼を逃がそうと死地に赴くのを
 見て、勝頼は宿老たちの想いを知る。
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 内容紹介から
 信玄亡き後、戦国最強の武田軍を背負った勝頼。
 これを機に武田家滅亡を目論む信長、秀吉、家康。息詰まる駆け引きの
 果て、ついに合戦へと突入する。
 かつてない臨場感と、震えるほどの興奮! 待望の歴史長編! 

 最強武田軍vs信長・秀吉・家康連合軍!戦国の世の大転換点となった長
 篠の戦い。
 天下を狙う武将たちは何を思い、合戦へと突き進んだのか。
 熱き人間ドラマと壮絶な合戦を描く。

野望の憑依者  足利幕府の陰の立役者で、悪逆非道と言われた高師直。
 物語は闘犬をなにより好んだ北条得宗家・高時とのもとに行き、高師直が
 連れて行った闘犬と高時自慢の闘犬が戦うあたりから始まる。
 「力なきものは何も出来ぬ」「死ねば土に帰るのみ」
 師直は後醍醐天皇の反乱を鎮めるために向かった足利高氏に、討幕を
 そそのかす。
 以後は、史実に従ってどんどん展開してゆく。この作家の文は読みやすい
 ので歴史の知識を得るのにちょうどよい。

 ただ、カスタマーレビューで評価があまり高くないのは、歴史の出来事を
 駆け足で辿っている感じで、高氏、直義の人間的模様を深く見つめ描き
 きっていない。師直についても同様である。
 悪逆非道というよりは当時の武将であれば当然考えるようなことがほとん
 ど。ただ、師直は天皇も廃位と武士だけによる政治を考えていたというの
 は興味深いが。

 それにしても、足利高氏(尊氏)を感情で生き、尊王の考えを脱しきれない
 愚か者のような描き方をしている。のちに師直、直義を廃し(毒殺)、自ら室
 町幕府の基礎を確立した、したたかな尊氏を書いてほしかった。直義も同じ。
 (尊氏と師直に対抗するため、南朝に膝を屈し、深謀遠慮する直義の人物
 像にもっと迫ってほしかった。)
 師直上杉能憲に謀殺される師直。謀殺前後の場面にもっと緊迫感を持た
 せて締めくくってほしかった。師直の腹心だった佐平次が意外な面を見せ
 は良かったが・・・。
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 内容紹介から
 時は鎌倉時代末期。足利家の家宰・高師直は、幕府より後醍醐帝追討の
 命を受け上洛の途に就く。
 しかし師直は思う。「これは主人である尊氏に天下を取らせる好機だ」。
 帝方に寝返った足利軍の活躍により、鎌倉幕府は崩壊。建武の新政を開
 始した後醍醐帝だったが、次第に尊氏の存在に危機感を覚え、追討せよ
 との命を下す。だが師直はすでにその先に野望の火を灯していた。
 婆娑羅者・高師直の苛烈な生き様を伊東潤が描いた南北朝ピカレスク、
 開演! 

 悪に生き、悪に死す―婆娑羅者・高師直、降臨。動
 乱の南北朝時代。悪は正義を凌駕し、抗争が抗争を生む。
 野望に生きる者たちが戦いの果てに見たもの。 

池田屋 乱刃
 
 

★★★

 さすがに伊東潤。
 そんなに有名でない人物に焦点を当て、池田屋事件を描き切った傑作であ
 る。
 これまでよくわからなかった宮部鼎蔵吉田稔麿についてもかなり理解が進
 んだ。
 これまでは、新撰組の活躍する本を読むことが多かった。近藤勇、沖田総司
 少人数ながら敢然と不逞浪士に立ち向かうという場面、喀血する沖田、剣
 技が冴える近藤。
 しかし、内実は違う。
 宮部たち勤王志士たちは、捕縛された古高を救い出すか、京都の町に火事
 を起こし天皇を動座させるか・・・過激な発言をする者と穏健派の者たち。
 議論が白熱すると、刀を抜くことになる・・・それを回避するために、志士達の
 刀を集めて階下に保管した。そのため、皆脇差しかなかったのである。

 新撰組の密偵として志士に近づいた福岡は攘夷の熱に逆にまかれ、新撰
 組にはむかう。吉田稔麿は長州藩屋敷に使いに出されたのに、わざわざ 
 志士救出に向かい命を落とす。
 桂小五郎は武士の体面を捨て逃げ出した・・・。
 
 池田屋事件に関心を持つ人には必読の一冊である。
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 内容紹介から
 「乃美さん、わたしは卑怯な男だ」
 明治十年、死の床についた長州の英雄・木戸孝允こと桂小五郎が、かつて
 の同僚に「あの事件」の真実を語り始めた――「池田屋事件」。
 事件後、日本は「明治」という近代国家に向かって急激に加速していく。
 池田屋で新選組に斬られ、志半ばにして散っていった各藩の「志士」たち。
 福岡祐次郎、北添佶麿、宮部鼎蔵、吉田稔麿……。
 吉田松陰や坂本龍馬といった「熱源」の周囲で懸命に生き、日本を変えよう
 とした男たちの生き様と散り際を描く。
 幕末とは、志士とは、維新とは――
 日本を動かしたあの「熱」はなんだったのか。
 最注目の作家が熱く描いた「志士たちへの挽歌」。
 幕末京都の、熱くて一番長い夜。道半ばで斃れ、日本の礎となった男たちを
 描ききった連作長編。 

 

 


  板東眞砂子 
             
 昭和33年 高知県生まれ。土佐高校、奈良女子大卒。
        イタリアのミラノ工科大学などで2年間デザ
        インを学ぶ。
 デビュー作は児童文学「ミラノの風とシニョリーナ」
 第15回柴田錬三郎賞 - 『曼荼羅道』(2002年)
 第116回直木賞 - 『山妣』(1996年)
 他著書に「死国」「狗神」「蛇鏡」「蟲」
    
桃色浄土
長編を延々と読んで一つの世界を知ることはできたが
感動があまりなかった。終末で山津波が起こるが、この後の展開には
消化不足が残る。破戒僧・映俊がしぶとく生き残ってしまうのも納得が
いかない。
 内容(「BOOK」データベースより)
大正中期、四国の隔絶された漁村に異国船が現れた。目的な高価な
桃色珊瑚。乱獲の結果、珊瑚は採れなくなって久しかったが、イタリア
人エンゾはあきらめずに海に潜り続ける。そんな彼に惹かれていく海
女のりんを幼なじみの健士郎は複雑な気持で見つめていた。やがて
採れないはずの珊瑚が発見されたことから、欲望にとり憑かれた若者
たちが暴走し始め…。直木賞作家の傑作伝奇小説。 
   
  
  
  
  
 
  田牧 大和 
             
 1966年、東京都生まれ。明星大学人文学部英語英文科卒。女流作家。
       市場調査会社に勤務の傍ら、インターネットで時代小説を発表。
 2007年 「色には出でじ 風に牽牛」(『花合せ』)で全選考委員からの絶
       賛を受け第2回小説現代長編新人賞を受賞し、作家デビュー。
      著作に『泣き菩薩』『三悪人』『緋色からくり』『身をつくし』がある。
    
三悪人

★★★

 

これは面白い!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドキドキの痛快篇と言ったところ。
後に天保の改革で南町奉行となる鳥居耀蔵が水野忠邦とではなく、遠山金四郎
と組んで活躍するのも面白い。
この作家が女性であるというのは、案外知られていないかもしれない。
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 内容(「BOOK」データベースより)
吉原を舞台に遠山・水野・鳥居の騙し合い!それは目黒祐天寺の火事から始ま
った―若き遠山金四郎、水野忠邦、鳥居耀蔵、三つ巴の知恵比べが、花の吉原
で動き出す。『花合せ』で注目の著者が贈る時代長編! 

騙されたら、騙し返せ。駆け引きこそが生き甲斐だ―。目黒・祐天寺の火事に隠
された、水野忠邦の非情なたくらみ。そのからくりを知った遠山金四郎は、鳥居
耀蔵と手を組み、水野に「取り引き」を持ちかける。ひとりの遊女の行く末を巡って
絡み合う。三者三様の思惑とは。三つ巴の知恵比べが、花の吉原で大きく動き出
す。

泣き菩薩

★★★

 安藤広重が八代州(やよす)河岸定火消同心という設定。
  (広重は26歳まで実際にこの職にあった。26歳で祖父方の親戚の者に家督を譲
  り、絵師となったのである。)
 広重は絵を描く以外たいしたことはないが、幼馴染で同僚の西村信之介、
 猪瀬五郎太とともにも「頼まれ火付け」の一味・狐火と戦う。
 大柄で強力の五郎太、深謀遠慮、策士の信之介は広重のことを「重坊」と呼ん
 でいる。
 江戸に頻繁に付け火らしい家事が起こり、三人は出火のあった寺を調べ始める。
 上司で与力の小此木は剣の達人。最後に狐火の凄腕の浪人を倒す。
 読みやすい文と量で、先へ先へとせかせられるように読むことができた。
 「三悪人と」と同様、痛快な一篇である。
春疾風

★★★

 三悪人の続編。
 遠山金四郎、鳥居耀蔵、水野忠邦が登場。手を取り合ったり、裏をかいたり。
 今回は鳥居耀蔵の出番が多い。遠山金四郎は時折登場という感じ。
  寺社奉行としての水野忠邦の起死回生の一手。それは大奥をも巻き込んだも
 のだった。その成功のために手を貸す鳥居耀蔵、料理番の彦六、そして遠山
 金四郎の活躍する。
 二本松大炊に面倒を見てもらったという、「小夜」も恩人の無念を晴らすために
 立ち回るが・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 浜松藩では、幕閣での出世のために自ら願い出て転封した、藩主・水野忠邦打
倒の不穏な動きが起きていた。江戸上屋敷に、転封の際、諫死した二本松大炊
の幽霊が出るとの噂まで立っている。
 そこで、金四郎と耀蔵は、忠邦のため一計を案じることにする。遠山金四郎、鳥
居耀蔵、水野忠邦、後に袂を分かつことになる三人が繰り広げる、好評『三悪人』
に続く、悪知恵を絞った化かし合い。 
とんずら屋

★★★

 この作家の本は痛快無比。続きを読むのが楽しい。
 さる藩の殿様に繋がる弥生は東慶寺から伯母の営む船宿に引き取られ、影の
仕事も請け負っている。
 その裏稼業とは「とんずら屋」現代の「逃がし屋」である。
   ・駈込  ・往帰  ・夜逃げ  ・出戻  ・奪還  ・木戸破
 後半は弥生を狙う家老の一派、別な思惑で弥生を付け回す二人組、謎の若旦
那・進右衛門が絡んで・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 借財がかさみ、首が回らない。亭主や奉公先の無体にこれ以上耐えられない。
そんな人は、回向院裏の『浜之湯』に祀られた小さなお地蔵様にゆくとよい。そう
すれば「とんずら屋」が、舟で逃がしてくれるという―。
 隅田川の船宿『松波屋』、一門で営む裏稼業。昼は船頭、夜は逃がし屋、その
正体は女性!?ヤバい奴ほど、恰好いい。痛快時代活劇。 
ほそ道密命行  柳沢保明、水戸家の思惑が絡み、芭蕉と供の曾良の旅が危険にさらされると
 いう設定なのだが、二人が狙われる背景がはっきりいない。
 よくわからない背景のまま物語が進み、敵?が監視し、時には襲い来る。
 芭蕉を殺せばどうなるというのか?? また、殺すのであれば、もっと手だれの
 者を多数仕向ければ一気に片がつくと思えるのだが。
 芭蕉隠密説はよく論じられるところであるが、この辺をシビアに描いてほしかっ
 た。
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 内容(「BOOK」データベースより) 
 風のように漂泊したいという俳聖・芭蕉。しかし、旅の先々で五代将軍綱吉の側
用人・柳沢保明と水戸徳川家の思惑が交錯し、さらに東照宮普請にまつわり、伊
達家がからむ。まさに不穏な道中―。 
身をつくし

清四郎よろづ屋始末
 
 

★★★

 第一話 おふみの簪
  清四郎はかつては奉行所の与力だったが、奉行の命で偽分銅の不正を訴え
  る。そのために主である奉行・榊は自刃。清四郎は町人となった。
  よろづ屋を営む清四郎のもとに難題が持ち込まれる。
  簪職人・平次は好きになった「おふみ」が平次の前から姿を消す。
  おふみの好きだった桜の簪を作り続ける平次は、ある日相模屋の女中・おく
  めが、おふみにあげたはずの簪をつけているのを見つける・・・。
 第二話 正直与兵衛
  正直者の与兵衛は休んだ茶屋で、団子の包みを取り違え、一分金を
  手にしてしまう・・・。
  一分金の持ち主は赤子をつれた二人の侍だった。
 第三話 お染観音
   「みをつくし料理帖」にちょっとにたところがある。
    煮売屋を営むお染。さまざまに味付けを工夫し、清四郎と与力の木暮の
    心に染みる料理を作るのところが何とも言えない。
    幼い娘を抱え、健気に明るく生きる姿も二人には気に入られている。
    そのお染の過去が絡む話は、読み手に深い味わいと感動を与えてくれる。
とうざい
 この作家の本は読みやすい。
 人形浄瑠璃の一座に起こる出来事を、人形遣いや三味線、語りなどの役者の
 立場や行動を中心に描いている。
 特別な謎解きやどんでん返しはない。
 上方からやってきた子供をつれてやってきた隠居風の正兵衛、その正体は?
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 内容紹介より
 柄は大きいが気は小さい、若き紋下太夫の竹本雲雀太夫。二枚目役者も裸足
 で逃げ出す色男、「氷の八十次」こと人形遣いの吉田八十次郎。江戸で流行り
 の人形浄瑠璃、木挽町は松輪座に、今日も舞い込む難事件。

 人形浄瑠璃に人生をかける男たち。とびきりの「芸」で綴る、笑いと涙のお江戸
 文楽ミステリー!
 「濱次お役者双六」シリーズで話題の著者、田牧大和の新境地! 

甘いものでも
おひとつ

★★★

 和菓子の世界に浸れる一冊。
 読後に、久しぶりに本舗菓子屋に行ってみようか・・そんな気になった。
 父母が亡くなり、叔父に「百瀬屋」を追い出された晴太郎・幸次郎の兄弟は
 父の弟子だった茂市のもとに身を寄せ、「藍千堂」という小さな菓子屋を営む。
 叔父の執拗な妨害にあいながらも、桜など四季の香りを出せる菓子づくりに
 取り組む。
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 内容紹介より
 大江戸スイーツ切り貼り屏風
 小さな菓子所藍千堂を切り回す兄弟に訪れる様々な難問奇問。
 季節季節の菓子に見立てて見事解決。時代人情話のお披露目でござい! 

 晴太郎、幸次郎兄弟が営む藍千堂から今日も飛び切りのお菓子がひとつ。 

 
 


  加藤 廣 
             
    1930年 東京生まれ 東大法学部卒。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    中小企業金融公庫、山一證券にて要職を歴任。
    その後、経営コンサルタントとして奔走する傍ら小説を書き始め
    75歳の時、「信長の棺」で作家デビューを果たした。
    「秀吉の伽」「明智左馬助の恋」と続く「本能寺三部作」は文庫と
    併せて150万部を記録。
    このほか「謎手本忠臣蔵」「空白の桶狭間」「求天記」
          「安土の幽霊」などの著作がある。
    
神君家康の

密書
 

★★★

 75歳という驚くべき年齢でのデビュー。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 自分の頑張ればできるかも・・・希望を抱かせてくれる。
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 三つの短編からなっている。
  ・蛍大名の変身
    源氏の名門・京極家の当主高次。源氏の名門ではあるが、
     今はいささか一万石の大名である。妹の龍子が秀吉の側室
    となるが、その座も茶々がより脅かされている。やがて徳川
    の世となり八万石となるが・・・・。
    蛍大名と言うのは女の尻の光で出世することからつけられた。
  ・冥土の茶碗 
    織田信長から柴田勝家に下された貴重な高麗茶碗。
    この茶碗が勝家の生き様とともに語られていく。
    信長の後継問題、しずが岳の戦い 勝家の自害・・・
    今この茶碗は根津美術館に青井戸茶碗「柴田」として伝わっ
    ている。
  ・神君家康の密書
    石田三成憎しで関が原の戦いで東軍に加担した福島正則。
    秀吉の忘れ形見・秀頼を守るという起請文を書くという言質を
    家康からとったのだが、起請文は一向に届かない・・・。
 ---------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 女房の尻の威光に縋る蛍大名と異名を取った京極高次。しかし
関ヶ原の勝敗は彼の籠城によって逆転した。
 雲の動きが災いし、宿敵・秀吉軍が迫る北ノ庄城。信長下賜の
井戸茶碗でお市と茶席を設けた柴田勝家の最期の戦術とは。
 東軍最強を誇る猛将・福島正則。強すぎるが故に家康に警戒さ
れた彼は、ある賭けに出た。取引は呆気なく成功したが…。
 戦国覇道の大逆転劇に与った三武将。歴史を変えた三つの落城
秘話。   
空白の桶狭間
 
 

★★★

 この作家の二冊目である。
 高齢になってから小説を書き始めた作家ということで、強い関心を
持っていた。
 桶狭間の戦いに新解釈を持ち込み、思い切った仮説のもとに前篇
を構成している。奇抜ではあるが、論理的に構成されていてとても面
白い。世情伝えられている「奇襲」は今川の細作が多方に配置され
ているので不可能だったのではないかという作者の考えには共感で
きる。
 風雨が予想外に激しかったとしても、今川本陣に辿りつけるものだ
ろうかと疑問は消えない。
 それを打破するための信長のは別な動きをする・・・これは納得でき
る。
 背後で画策したのは木下藤吉郎であったというのも頷ける。
 藤吉郎の蜂須賀との交わりや各地を放浪して情報活動に取り組む
姿も自然である。
 徳川家康も信長を今川の本陣に入れるのに一枚かんでいるのだが、
後にはそのことに一言も触れていない。
 信長像の描き方も納得できる。
  
 
 


 朝井まかて
            
     
 1955年 大阪生まれ 甲南女子大学文学部卒
       コピーライターとして広告制作会社に勤務後独立。
 2006年 大阪文学学校に入学し小説を書き始める。
      「実さえ 花さえ」が初めて書き上げた作品で
      第3回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞した。
    
実さえ花さえ
 

★★★

 秀作である。読み手の心に染み入る温かさがある。・・・・・・・・・・・・・・・
 この作家に出会えた幸運を喜びたい。
 巻末に参考文献が26冊載っている。
 丹念に描かれた作品である。
 感動した本に追加した。
  ---------------------------------------- 
内容(「BOOK」データベースより)
  江戸・向嶋で種苗屋を営む若夫婦、新次とおりんは、人の心を和ませる
草木に丹精をこらす日々を送っている。
 二枚目だが色事が苦手な新次と、恋よりも稽古事に打ち込んで生きて
きたおりんに、愛の試練が待ち受ける。
 既にしてプロ級、と選考委員絶賛のデビュー作!
すかたん

★★★

 朝井まかての二冊目。
 知里がどうなるか、目が離せず読み進めるうちに読み終えていた・・。
 「すか」は「はずれ」、「たん」は「たれ」。つまり、ミスや失敗ばかりするこ
 と。また、その人。
 「まぬけ」にとってかわった語。「このおたんこなすの唐変木!」
--------------------------------------------------------
 内容説明より
 江戸の饅頭屋のちゃきちゃき娘だった知里は、江戸詰め藩士だった夫の
大坂赴任にともなって、初めて浪速の地を踏んだ。急な病で夫は亡くなり、
自活するしかなくなった知里は、ふとしたはずみから、天下の台所・大坂で
も有数の青物問屋「河内屋」に住み込み奉公することに。
 慣れない仕事や東西の習慣の違いに四苦八苦し、厳しいおかみさんから
叱責されながらも、浪速の食の豊かさに目覚め、なんとか日々をつないで
いく。
 おっちょこちょいで遊び人ながらも、幻の野菜作りには暴走気味の情熱を
燃やす若旦那に引き込まれ、いつしか知里は恋に落ちていた。障害だらけ
のこの恋と、青物渡世の顛末やいかに。書き下ろし長編時代小説。 
恋 歌

★★★

 明治時代の小説家、歌人であった三宅花圃(かほ)が師であった中島
 歌子を入院先に見舞い、歌子の自宅の整理を手伝う。そして布紐で括ら
 れた奉書包みを見つけ読み進める・・。
 そこに書かれていたのは、水戸藩士に嫁いだ水戸藩御用達宿「池田屋」
 の娘・登世の人生だった。
  この本は、樋口一葉とともに、中島歌子の弟子であった三宅花圃が語る
 ような形で書かれている。

 登世の夫となった林忠左衛門は水戸天狗党として、諸生党との内紛を戦
 う。
 以前に伊東潤「義烈千秋 天狗党西へ」を読んで、天狗党への思い入れ
 があったので、非常に興味深く読んだ。
 「水戸藩士が明治になって活躍できなかったのは、内部抗争で優秀な人
  材を失ってしまっから・・」
 「薩長と違って、大意の前に少意をすてるということが水戸藩士には出来
  なかった」
 「水戸藩士が内部に苛烈になるのは、藩が貧しいため・・」
 こんな記述があり、なるほどと思った。
 それにしても、中盤、林忠左衛門に嫁してから、展開が緩やかで少し疲
 れた。後半、投獄されてからの悲惨な場面が胸を打つ。
 そして、終盤。
 歌子の秘書のような仕事をしている「澄」、威圧的で物言いにも顔つきに
 も険がある女と一緒に登世のその後の部分を読む・・・。
 このあたりにきて、この本の凄さに気づいた・・。感動した!!

 旅行で福井・敦賀に行ったとき、パンフレットに「武田耕雲斎像」
 「武田耕雲斎等の墓」「ニシン蔵(水戸烈士記念館)」などがあった。
 機会があれば訪ねてみたいと思う。
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 内容紹介より
 樋口一葉の歌の師匠として知られ、明治の世に歌塾「萩の舎」を主宰し
 ていた中島歌子は、幕末には天狗党の林忠左衛門に嫁いで水戸にあ
 った。
 尊皇攘夷の急先鋒だった天狗党がやがて暴走し、弾圧される中で、歌
 子は夫と引き離され、自らも投獄され、過酷な運命に翻弄されることに
 なる。
 「萩の舎」主宰者として後に一世を風靡し多くの浮き名を流した歌子は何
 を思い胸に秘めていたのか。幕末の女の一生を巧緻な筆で甦らせる。 
 落涙の結末! 

阿蘭陀西鶴

★★★

 前半は、盲目の娘・おあいからみた西鶴が描かれるが、娘は父を全く評価
 していない。母の死にも嘘涙を流して、実際は家族を顧みていない。
 弟二人を養子に出して後顧の憂いなく俳諧に打ち込む・・・そんな父が許せ
 ないのである。
 父との確執がありながら、母から教わった家事をこなしていくおあい。
 要領が良く、あまり働かないが憎めないお玉とともに。
 日常の淡々とした描写と西鶴に対する偏った記述のオンパレードのように
 感じて・・・途中でもういいかな・・・とリタイアも考えたが最後まで読んでしま
 って良か った。

 中盤から、西鶴の創作への悩み、娘への想いが次第におあいに理解され
 ていく。
 また、盲目の娘を気遣い、娘と身を寄せるように生きる姿が描かれ読者を
 惹き付けていく。

 おあいが亡くなり、西鶴も翌年亡くなる。この親子の永年の想い、生き方を
 集大成したような最終章を読み終え、感極まってしまった。
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 内容紹介より
 「好色一代男」「世間胸算用」などの浮世草子で知られる井原西鶴は寛永
 19年(1642)生まれで、松尾芭蕉や近松門左衛門と同時代を生きた俳諧師
 でもあり浄瑠璃作者でもあった。俳諧師としては、一昼夜に多数の句を吟
 ずる矢数俳諧を創始し、2万3500句を休みなく発する興行を打ったこともあ
 るが、その異端ぶりから、「阿蘭陀流」とも呼ばれた。
 若くして妻を亡くし、盲目の娘と大坂に暮らしながら、全身全霊をこめて創
 作に打ち込んだ西鶴。人間大好き、世間に興味津々、数多の騒動を引き起
 こしつつ、新しいジャンルの作品を次々と発表して300年前のベストセラー作
 家となった阿蘭陀西鶴の姿を描く、書き下ろし長編時代小説。
 芭蕉との確執、近松との交流。娘と二人の奇妙な暮らし。
 創作に一切妥協なし。傍迷惑な天才作家・井原西鶴とは何者か? 

先生のお庭番
 

★★★

 

 この作家。
 本当に味のある本を書く。
 国禁を犯して日本地図をじ国に持ち込もうとしたシーボルト。
 シーボルトはもともとドイツ人であったらしいのだが、日本の情報を仕入れる
 ために、阿蘭陀商館に入り込んだらしいという話もある。
 シーボルトが日本の内情を知り、本国に報告する職務を追っていたのは確
 かなようだ。(シーボルトを密告したのは間宮林蔵ではないかという説もあ
 る。)
 シーボルトのために、処刑されたり罰を受けた者は多い。
 そんなシーボルトの素晴らしい一面を切り取って描いてくれたのが本作。
 植木商の下働きだった熊吉は、職人のだれもが出島に行くのを渋ったため
 一人前の職人として、シーボルトのところにまわされた。
 植木の知識が少ない熊吉だったが、シーボルトの意に沿うように不断の努
 力を続ける。
 シーボルトは多彩に花を咲かせる日本の自然をこよなく愛する。
 そして、いつしか、素晴らしい花々をオランダに根付かせられないだろうか
 と考えるようになる。
 熊吉は日本の良さを認めてくれるシーボルトを尊敬し、何ヶ月もかかる阿蘭
 陀へ、枯らさずに届けるための工夫に邁進する。

 シーボルトのもとに身請けされ、妻となった女も、興味深く描いている。
 最終章が読後感を爽やかにしてくれる。
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 内容紹介 内容(「BOOK」データベースより)
 長崎の出島を舞台に、シーボルトに仕えた若き庭師の奮闘物語。土と草花
 を通して、日本の素晴らしさを実感できる人情時代小説。 

 西洋に日本の草花を根づかせたい。長崎の若き職人がシーボルトと共に伝
 えたかったもの。 

御松茸騒動
 秀作ではあるが、ちょっと物足りない。
 文の切れがないのかも。
 緊迫感と史実に対する考察が少ないのが難点。(参考文献は13冊もある。)
 亡き父の親戚・三兵衛も最後までひょうきんなままで終わるのももったいな
 い。

 尾張藩士・榊原小四郎は書類をきちんと作成したり、金の計算をしたりでき
 ない「武士」達の中で仕事をしながら、何とか尾張藩を立て直したいとやきも
 きしていた。
 ところが、藩を思う小四郎は御松茸同心という、どうでもいいような閑職?に
 追いやられて愕然とする。左遷である。
 3年で絶対に戻ると心に言い聞かせて、右も左もわからない山仕事に精を出
 す小四郎。
 尾張藩を借金まみれにし、隠居させられた前藩主・宗春に対しても良い印象
 を持っていなかったのだが・・・。
 宗春が民の信望を集めていること、財政再建の手も打っていたことをしり、
 改めて見直すようになった。
 また、藩士としての勤めではなく、妻子とともに過ごす日々を慈しんだ父へ
 の見方も変わってくる。
 そして、尾張藩のために御松茸の仕事に精進する。その姿が実に良い。
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 内容紹介 内容(「BOOK」データベースより)
 江戸中期、松茸は幕府への貴重な献上品であり、松茸狩は尾張藩主が好
 む一大行事であった。
 算術が得意な江戸育ちの尾張藩士・小四郎はそれを生かして藩財政の立
 て直しを夢見ていたが、なぜか「御松茸同心」を拝命。
 尾張の山守に助けられながらも松茸不作の原因を探る日々が始まった。
 やがて小四郎は、山に魅せられ、自分の生きる道を切り開いていく――。
 数式でははかれない世界がそこにはあった! 
 直木賞作家が描く、傑作時代小説! 

 松茸とれなきゃクビ!?頭の切れる若き藩士が、御松茸同心に飛ばされた!殿
 への上納2000本は用意できるのか?
 やる気のない面々に囲まれて、藩士・小四郎は右往左往する。
 やがて、幕府に蟄居を命じられた傾奇大名・徳川宗春公の幻影までちらつ
 いて…。 

  
 
 

   
 

 辻井南青紀
               
1967年 兵庫県生まれ 早稲田大学卒業
      京都造形芸術大学準教授。
      読売新聞記者、NHKディレクターを経て。
2000年「無頭人」で第11回朝日新人文学賞受賞。
    
蠢く吉原
 時代背景を丹念に描き、人買いと吉原、心中へと焦点を当てている。
 作者渾身の一作なのだろうが、救いようのない世界が描かれていて
 読後感がよくない。
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内容(「BOOK」データベースより)
 幼い頃、江戸に売られてきた平太とお七。大川橋での別れから十余年、
平太は奉納相撲で江戸中を沸かせる強力に、お七は将来吉原を背負って
立つと噂される花魁=司となっていた。
 春、人買い上がりの豪商・弥平による花見の席で、司の放ったひと言が
弥平の逆鱗に触れる。この女を丸裸に剥いて内奥まで貫き、打ち震えさせ、
屈服させたい―激情にかられ、弥平はしきたりのすべてを踏み越えて司を
我がものとする。
 しかし、お七の心は決して思うにまかせない。そしてある夜、お七は平太
とともに、江戸から、弥平の元から消えた―。 
   
 
 
 
  
 
  重人
               
1948年 山形県酒田市生まれ 千葉大学工学部卒業
      京都造形芸術大学準教授。
      読売新聞記者、NHKディレクターを経て。
1999年 「超高層に懸かる月と、骨と」で第38回オール読物推理小説新人賞受賞。
2004年 「夏の椿」(原題「天明、彦十店始末」)が松本清張賞の最終候補となり。
2007年 「蒼火」で第九回大藪春彦賞を受賞。
2009年 逝去。
    
北重人遺稿集

花晒し

(はなざらし)

★★★

 この作家に出会えた幸運を喜びたい。
 亭主が亡き後、翁稲荷の元締となった・右京は、先代の一の手下・歳三
 、死んだ姉さん芸者の恋人であった小向弥十郎の助けを借りて町内のも
 め事を解決する。
   ・秋の蝶
     姉さん芸者の墓参りに出かけた右京は、会いたくない男 桧垣と
      会ってしまう。
   ・花晒し
      内の若い娘たちが神隠しに・・・。
   ・二つの鉢花
      櫛屋のの店先には折々の鉢物が置かれている。その櫛屋の強
      情な主・九蔵が桂屋に騙され借金を負う。
   ・稲荷繁盛記
      霊験あらたかな稲荷神社に仕立てあげる見事な仕掛け・・・。
   ・恋の柳
      息子の小五郎を育てながら、寺子屋の師匠をしている千 嘉は
      女好きの久太郎に想いを寄せそうになる。
 後半二編に右京は登場しないが、長屋を舞台に起こる事件や暮らしが
 描かれている。
 秀作である。(感動する本に追加
白疾風
 

白疾風

★★★

 この作家の本はテーマが素晴らしい。
 伊賀の忍者だった「疾風の三郎」は、戦国が終わり、徳川の時代になって
 から、かつて助けた娘と夫婦になり、水田を開拓して平穏に暮らしている。
 だが、後にやってきて一緒に村を作り上げてきた村長・土屋平蔵(甲府の
 出)が埋蔵金の在り処を記した図面を持っているという噂が流れ、風魔の
 一党が村を襲う。
 平和な日々を送る元伊賀忍者の心情、村を守るための決意。
 人の世の生き様を考えさせる、現代にも通ずる指標がある秀作。
 戦火に焼かれた人々を目にして生きる希望を失った娘を妻とし、夫婦で助
 け合う姿、村を侵す者に敢然と立ち向かう姿・・・感動を誘う。
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内容(「BOOK」データベースより)
 待望の書き下ろし。時代ミステリーの面白さはここにある!
 金脈に埋蔵金!? 武蔵野の谷の村が何者かに狙われる。
 かつて伊賀の忍びとして活躍した三郎は、自分の村を守るため村人と共
 に戦う。
鳥かごの詩

★★★

 60歳を迎えた主人公が昔を振り返るという設定で始まる。
 自分の昔とは随分違っているのだけれど、なぜか当時を懐かしみながら、
 一気に読ませられてしまった。
 私たちの世代には必読の一冊かもしれない。
 新聞配達店に住み込んで、予備校や夜間大学に通った者が身近にもい
 た・・。
 新聞配達の地域にすむ高校生のサキへの想いもわかる・・。
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内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)
 生きることも、働くことも、こんなにまっすぐだった。

 昭和41年の東京下町。山形・酒田から出てきた受験浪人生の康夫は、生
 活の糧を得るために住み込みの新聞販売店に勤めることになる。〈個室あ
 り〉のふれ込みに惹かれてやってきたものの、蓋を開けてみればそこは段
 ボールで仕切られただけの大部屋暮らしだった。同居する配達員も人生に
 挫折したような風変わりな連中ばかりで、おまけに配達先も元ヤクザの爺
 さんやひと癖もふた癖もある住人ばかり。慣れない東京や仕事に悪戦苦
 闘する康夫は、やがて恋に悩み、のっぴきならない事件に巻き込まれてい
 く。
 あの頃の風景、下町の人情、そして団塊の青春を描いた著者初の現代小
 説。急逝した作家、渾身の青春譜。

夜明けの橋

★★★








 

 江戸の町が造られていく過程や、江戸に集まってきた来た人たちのいきさ
 つ、暮らし、成功談など、庶民目線で描いている。
 藤沢周平のように、読者を物語の中に自然に惹き込んでくれる。
 しっとりとした読みやすい文である。

  ・日照雨(そばえ)
  ・日本橋
  ・梅花の下で
  ・与力
  ・伊勢町三浦屋
 日照雨は、旗本癖をつけられる刀屋、旗本の無頼派たちから抜けようとす
 る男が登場する。ちょっと結末が悲惨だが、残りの4編には未来がある。
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内容紹介・内容(「BOOK」データベースより)
 首都建設の槌音が響く江戸の町。名の聞こえた武辺の人でありながら、
 訳あって脱藩した父を持つ宗五郎は、父の死後、町人となり刀の目利きで
 生計を立てていた。
 ある日、父の旧知へ刀を届ける道中、行く手を不穏な侍たちに囲まれる
 (「日照雨」)。
 日本橋建設に紛れ込んだ少年吉之助が、蠢く時代の中で見たものとは
 (「日本橋」)。他、運命に果敢に挑む人物たちを捉えた連作短編集。

 名も無き男の人生だろうが、この手で拓いた人生だ。もはや死に場所など
 ない新しい時代。
 開府まもない江戸で武士を捨てることを選んだ男たちの矜持。
 遅咲きの本格派として注目された著者の遺作にして最高傑作。 

  
 
 


 今井 絵美子
               
  1945年 広島県生まれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 1998年 「もぐら」で第16回大阪女性文芸賞佳作
 2000年 「母の背中」第34回 北日本文学賞選奨
 2003年 「小日向源伍の終わらない夏」で
                   第10回九州さが大衆文学大賞・笹沢左保賞受賞
         他の著書に「鶯の墓」「秋の蝶 立場茶屋おりき」など
    
美作の風  津山藩と一揆のことを調べて書き上げた一作なのだが・・・。
 津山藩の譜代の家臣・圭吾は、大庄屋の娘・美音を妻としている。
 形は武家の養子としたものの農民の娘を嫁にしたことで、姑の於
 里久は美音に辛く当たる。圭吾は勘定方から郡代預けとなり、農
 民を取り締まる役に付く。折しも藩の年貢米の取り立てが厳しくな
 り、農民の不満が高まる。
 やがて、徳右衛門や弥治郎を中心に多数の農民が集結する。徳
 右衛門達の願いは新しい農民の国を作ることだった。しかし、それ
 は叶えられるはずのない高望だった。
 過酷な藩の仕置きに翻弄される圭吾・・・。
 この話、一揆を中心としたものと考えると中途半端な気もするし、
 圭吾や友だった草間惣介、逢坂、妻の美音の生き方を描いたとし
 たら物足りない。女流作家の良さが表れている分、思い切った切
 り込みがない。
  
 
 

 
 
 内館 牧子
               
  1948年秋田生まれ。武蔵野美術大学卒業。東北大学大学院修士課程修了。
    三菱重工業に入社後、13年半のOL生活を経て、1988年 脚本家デビュー。
    テレビドラマの脚本に「ひらり」「毛利元就」「週末婚」「私の青空」「昔の男」
    「白虎隊」「塀の仲の中学生」など多数。
 1993年 第1回橋田賞、1995年 作詞大賞、2011年モンテ・カルロテレビ祭で
    三冠を受賞。
 2000年9月より女性は角横綱審議委員に就任。2010年任期満了により退任。
 2011年4月東日本大震災復興構想会議委員の就任。
    他の著書に「エイジハラスメント」
    「二月の雪、三月の風、四月の雨が輝く五月をつくる」など多数
    
十二単を着た悪魔
 
 

★★★

 これは面白い
 タイムスリップして、平安時代に紛れ込んだ「雷」
 しかも、源氏物語という設定されたような世界。
 ここでの生活は雷の思考や行動が、これまでにないほど積極的で
 人にも頼られるようになる。
 雷の眼と行動を通して、源氏物語の世界を描くという視点も良い。
 この作家は横綱新審議員として知っていたが、作家としてなかな
 かのものであると今頃気づく。
 豊富な参考資料を読みこなし、史実を徹底的に重視しながら、砕け
 た調子で描く源氏物語の世界は、この上なく面白い。
 この物語の中心を「弘徽殿の女御」にしている点も斬新で面白い。
 考えてみれば、光源氏は本当に女に奔走である。精神的な障害も
 あるのではないかと思ってしまう。この光源氏と兄の一宮(後の朱
 雀帝)の関係を雷は弟の「水」と重ね合わせて捉えている。
 最終章
 現代に戻った雷は・・・。
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 内容紹介より

日本では、千年前から男は情けなく、そして女は強かった……。
本家本元よりもリアルで面白い、もう一つの『源氏物語』
就職試験を五十八社続けて落ち、彼女にも振られた二流大学出身
の雷。

そんな時、弟の水が京大医学部に現役合格したとの知らせが入る。
水は容姿端麗、頭脳明晰、しかもいい奴と、非の打ち所がない。雷
はアルバイトで「源氏物語」の世界を模したイベントの設営を終え、
足取り重く家に帰ろうとするが、突然巨大な火の玉に教われる。
気が付けば、なんとそこは「源氏物語」の世界だった。

雷は、アルバイト先で配られた『源氏物語』のあらすじ本を持ってい
たため、次々と未来を予測し、比類なき陰陽師として、その世界で
自分の存在価値を見出す事に成功する。光源氏という超一流の弟
を持ち、いつもその栄光の影に隠れてしまう凡人の帝に己を重ねた
雷は、帝に肩入れするようになるが、その母親・弘徽殿女御は、現
代のキャリアウーマン顔負けの強さと野心を持っていて……。

人間の本質を描き続けてきた内館牧子が描く、本家本元よりも面白
い、もう一つの「源氏物語」。 
光源氏を目の敵にする皇妃と、現代からトリップしてしまったフリー
ターの二流男が手を組んだ。構想半世紀、渾身の書き下ろし小説。

  
 

  

 五味 康祐
            
   
1921年 大阪市生まれ。明治大学専門部文芸科。
1953年 「喪神」で第28回芥川賞を受賞。
   柳生連也斎、 剣法奥儀 柳生武芸帳などを発表。
   クラシック音楽・オーディオの評論家でもある。
   「五味手相教室」「五味人相教室」「五味マージャン教室」などの著作もある。
   交通事故を起こし有罪判決を受けるなど、多彩な人生を送る。
1980年 死去。
    
 薄  桜

★★★

 丹下典ぜんが紀伊国屋文左衛門、堀部安兵衛等と知り合い
 赤穂浪士と関わっていくあたり、中盤でクリア。
 次の予約の本が入ったこと、NHKのテレビでこの話の結末を
 見てしまったので・・・。

 それにしても、一昔前の作家は凄いと思う。
 臨場感の持たせ方がうまい。文にもある種の品格がある。
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 内容紹介より
 旗本随一の遣い手と言われた丹下典膳は、はからずも左腕を
失い市井の浪人となった。
 一方、一刀流堀内道場の同門である中山安兵衛は、高田馬
場の敵討で剣名を挙げ、播州赤穂藩浅野家の家臣・堀部安兵
衛となる。立場は異にしても、互いに深い友情を感じる二人。
だが、浅野内匠頭の殿中刃傷は、二人の運命をさらに変転させ
た。時代小説界の巨人が、侍の本分を貫く男たちを描いた名篇。

 
 

   
 
 上田 秀人
          
     
1959年 大阪府生まれ。大阪歯科大学卒業。歯科医。
1997年 「身代わり吉右衛門」が小説CLUB新人賞佳作。時代小説を中心に活躍。
2009年 「奥右筆秘帳シリーズ」が「この文庫書き下ろし時代小説がすごい!」の
      第1位に選ばれる。
2010年 「孤闘 立花宗茂」で中山義秀文学賞。
   
   主な著書に、「天主信長、我こそ天下なり」「日輪にあらず 軍師黒田官兵衛」
         「大奥騒乱 伊賀者同心手控え」など
   死ぬまでに100冊本を書くことを目標としているとのこと。
    
 梟の系譜 

宇喜多四代
 
 

★★★

 これは凄い。
 この作家とめぐり合えたのは嬉しい。
 豊臣政権の5大老であった宇喜多秀家についてよくわからなら
 なった。徳川、前田、上杉、毛利は歴史上有名であるが、宇喜
 多がどこからどのように出現したのか。
 この本は秀家の父・直家の生涯を描いている。
 備前を治めていた浦上家の家老だった祖父が討たれ、路頭に
 迷った少年時代から、備前一国を支配し、秀吉の与力となるま
 での権謀術数の数々・・・。戦いに明け暮れてて年月。
 それらが、この作家によって実に分かり易く描かれている。
 とにかく読みやすい。
 これは何故だろう。
 段落を短く切る。会話を多くし、読み手を人物に同化させる。
 場面の切り替えが適切・・・。
 いろいろ考えられるが、とにかく読み手に隙を与えず読ませる。
 こんな本に久しぶりに出会った。
 つづけて次作を読んでみたい。 
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 内容紹介より
 天文三年(1534年)、備前・砥石城へ浦上家の重臣・島村宗政の
軍勢が押し寄せてきた。守勢は、もう一人の重臣・宇喜多能家。
一時は主家をしのぐ名声を得た能家であったが、8年前に中風を
患い隠居の身となっていた。戦陣にも立てない能家は籠城を諦め、
息子・興家と孫の八郎を城から落ち延びさせることを決意する。
 能家最期の抵抗の間に城を脱出した興家親子の、食うにも事欠
く放浪の旅がはじまった。追手を避け一時は旧師の寺を頼り、そ
の後は備前福岡の豪商の家に親子で身を寄せる。
 能家の敵討と宇喜多家再興を果たせぬうちに、興家は商家の娘
を後妻にもらい、義母と折り合いの悪い八郎は商家を飛び出す。
近くの寺で過ごすうちに月日が流れる。
 父・興家は商家で亡くなり、毛利氏や尼子氏の跋扈する中国地
方の情勢も風雲急を告げ、直家と名を変えた八郎は旧主・浦上宗
景に召し出される。梟雄・宇喜多直家が踏み出した最初の一歩だ
った
妾屋昼兵衛4

 女城暗闘

★★★

 これは面白い。
 妾屋という設定もユニークだが、妾を世話することで、大家や高
 禄の武士との繋がりを持っているというのもに何となく納得させ
 られる。二人の用心棒、大月、山形の助けをかりて持ち込まれ
 る難題を解決していく、痛快物である。
 この本では、大奥の問題解決に至っていないので続編で明か
 されると思われる。
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 内容紹介より
 大奥に将軍家斉の子を殺めた輩がいる……。小姓組頭・林出羽
 守は獅子身中の虫を炙り出すべく、大奥を探る女を用意せよと妾
 屋昼兵衛に厳命。
 白羽の矢が立ったのは仙台藩主の元側室・八重。だが、かつて
 体を張って彼女を守った大月新左衛門も場所が大奥では何もで
 きぬ。女の欲と嫉妬が渦巻く大奥で八重の孤闘が始まった。
 読む手が止まらぬ第4弾! 
天主信長

我こそ天下なり

★★★

 これは良かった。
 一気に読ませられた。この作家の文は実に読みやすい。
 織田信長についての知識はある程度あるので「歴史をおさらい」
 するような感じでどんどん読み進めたのだが・・・。
 後半、「これは!!」という展開。
 光秀による本能寺の変、秀吉の中国大返し、これを斬新な解釈
 で描き切って見せる・・・これは面白い。
 さもありなん・・・と思わせるのも凄い!
 信長の思い切った博打?は成功するのか。
 竹中半兵衛の知力と、志半ばに倒れる姿が心に残ります。
 また、今、大河ドラマになっている「軍師官兵衛」についての記載
 多い。(この本の主役かとおもう場面もある。)
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 内容紹介より
 神になりたかった信長 天皇の地位を簒奪し、東アジア征服を企
 図していたといわれる織田信長。だがその野望はさらに大きく、
 神となって世界に君臨しようとするものだった。骨太歴史長編 

 数万の一向宗徒を殲滅。武田を滅ぼし、北陸から上杉、中国の
 毛利へも派兵。
 誰の目にも織田の天下は目前に見えていた。だが、信長の目論
 見は違っていた。
 時を要する統一事業への焦り。
 豪華絢爛たる安土城や常宿・本能寺を使った大からくりとは。
 竹中半兵衛や黒田官兵衛、秀吉、光秀を巻き込み、恐るべき世
 紀の計画が、まさに実行に移されようとしていた―。 

国禁 

奥右筆秘帳

★★★

 これは面白い。
 「この文庫書き下ろし時代小説がすごい」のベストシリーズ第一位
 に輝いたというのもわかる。
 奥右筆としての立花併右衛門の毅然とした態度。仕事を全うしよう
 とする行動が心強い。
 右衛門を守る隣家の剣豪柊衛悟の活躍も光る。
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 内容紹介より
 天明(てんめい)の飢饉(ききん)に苦しんだ津軽藩(つがるはん)から
 の石高上げ願いに、奥右筆組頭立花併右衛門(おくゆうひつくみが
 しらたちばなへいえもん)はロシアとの密貿易を疑う。
 国是である鎖国を破り、利権を握らんとするのは誰か。幕政の闇に
 触れる併右衛門を狙う者は数知れず。
 愛娘瑞紀(みずき)が伊賀者(いがもの)に攫(さら)われ、護衛役の柊
 衛悟(ひいらぎえいご)と救出に向かうが!?
 緊迫の第二弾!<文庫書下ろし> 
隠密 

奥右筆秘帳

★★★

 秋田・新玉川温泉に宿泊したが、ホテルの図書室に単行本や
 文庫本がたくさんあった。時代物も、いろいろな作家のものが
 あった。
 このシリーズは同じ設定で12冊出ている。
 登場人物も立花右衛門を、隣家の柊衛悟を中心に松平定信、
 将軍家斉、将軍の父一橋治済、謎の僧、御庭番、伊賀者・・。
 史実をある程度踏まえて書いているので深まりもある。
 この作家は現役の歯医者さんというのも面白い。
-----------------------------------------------
 内容紹介より
 一族との縁組を断り、松平定信を敵に回した立花併右衛門。
 だが愛娘瑞紀は、なんと縁談相手の旗本家に掠われてしまう。
 それでも定信は、将軍家斉(いえなり)の暗殺未遂事件の黒幕探し
 を併右衛門にあえて依頼する。
 併右衛門をかばい手裏剣を肩に受けた衛悟に殺到する刺客たち。
 人気爆発シリーズ白熱の第七弾!
小袖の陰

御広敷用人
大奥記録(三)

★★★

 上田秀人の本は痛快にして面白い。
 温泉で寝転がりながら読むのに最適。
 このシリーズ…1〜3と続編もぜひ読んでみたい。
 御広敷用人・水城聡四郎は商家の娘を嫁にもらうが、これがなんと
 将軍吉宗の養女になってからの嫁入り。聡四郎が紀伊にいた時か
 らの吉宗との付き合いがあったためである。聡四郎の勤め・御広敷
 用人は将軍のそばに控えるがとりわけ信任が厚い。
 大奥と対立する吉宗は紀伊からお庭番を入れたため、伊賀者から
 も快く思われていない。
 聡四郎は吉宗の命を受け、手練の家臣とともに戦う。
  -----------------------------------------------
 内容紹介より
 将軍・吉宗による登用で御広敷用人となった水城聡四郎。
 しかし、具体的な担当はなく無任所のままだった。そこへ吉宗から
 直々の命が下り、竹姫付きとなる。竹姫には京都から新たなお付き
 の女中がくるが、その女中が大奥の火種となる―。
 一方、伊賀者を敵に回した聡四郎を新たな刺客がつけ狙う。
 聡四郎に最大の危機が。 
         
    
寵臣の真
ちょうしんのまこと)

お髷番承り候5

 将軍家綱を巡る争い。
 史実にはほとんど登場しないが、由比正雪事件にかかわった紀州
 藩主頼宣は戦国時代を経験した最後の武将として将軍職を欲して
 いる。さらに家綱の兄弟である、綱重、綱吉が絡む。
 頼宣の息子・光貞は50代になりながら未だ藩主になれず・・。
 次期将軍の座を巡る争いは面白い。
 ただ、この一作は惰性に流れた感じがする。
  -----------------------------------------------
 内容紹介より
 お髷番深室賢治郎は絶対的な忠義を誓う4代将軍家綱から目通りを
 禁じられてしまう。麹町で起きた浪人衆惨殺事件を報せず、逆鱗に
 触れたのだ。だが、そこには紀州藩主頼宣の関与があった。
 将軍であろうと迂闊に手出しできぬ難事。
 賢治郎は事の真相を探る。
 待ち受けるは次期将軍を巡る陰謀。次々にに襲いかかる黒鍬者、
 根来者を討ち破り、家綱の信頼を取り戻せるか、孤独な闘いが始ま
  る!
鳳雛の夢
(ほうすうのゆめ)

★★★

 伊達政宗の一代記。
 政宗についてはこれまで他の本で読んだことがあった。
 また、NHK大河ドラマになった時は欠かさず見たので、蘆名や周辺
 小大名との戦いなども大体わかっていた。秀吉の待つ小田原に遅参
 するいきさつ、その後の振る舞いも。
 そういった知識を思い起こしたり、新たな解釈を得たりして興味深く読
 み進めることができた。
 宇和島の初代藩主となった政宗の長男・秀宗、幼いころから秀吉の
 もとに人質として出され「表裏者の息子」と言われ鬱屈した半生を送っ
 てきたが政宗と初めて胸襟を開いて話し合う場面は心打たれる。政宗
 は秀宗の想いを初めて知り、心から詫びるのである。
 正室・愛姫との初めの3年の不和など・・・。
 政宗のもとを片時も離れず、常に先を見据えて的確な進言をしてきた
 名軍師・片倉小十郎、小さな神社の神官の次男だった小十郎が政宗
 に使えるようになったのは姉が政宗の乳母になった為である。
 以来、政宗は師と仰ぐ禅僧・虎哉宗乙と小十郎によって奥州の雄とな
 っていくのである。
 やがて、天下は家康のもとで定まり、小十郎は病床に。
 小十郎を見舞った政宗は「奥州制覇」と書いた紙を渡す。2人の、また
 伊達藩士達の夢だった・・・棺桶に入れて持って行けと・・・。
 ここを読んで涙が出そうになった。
 東北人の一人として、伊達に天下をとってほしかった・・・。
 -----------------------------------------------
 内容紹介より
 奥州制覇――吾の夢に、そなたは要る。伊達政宗一代記。
 戦国乱世――初陣から人取り橋の戦い、摺上原の合戦、小田原参陣、
 大坂冬の陣・夏の陣、と乱れ行く戦国を、寵臣・片倉小十郎との熱き絆
 で生き切った伊達政宗の生涯を描く、感動巨編。 

 

  
 
 
 藤本 ひとみ
          
     
1959年 長野県生まれ。
    西洋史への深い造詣と綿密な取材に基づく歴史小説に定評がある。
    フランス政府観光局親善大使を務め、現在フランス観光機構(AF)名
    誉委員。パリに本部を置くフランス・ナポレオン史研究学会の日本人
    初会員。

   著書に「皇帝ナポレオン」「マリー・アントワネットの生涯」「いい女」
       「離婚美人」「アンジェレリク 緋色の旗」
       『幕末京都守護職始末』シリーズ「天狗の剣」「壬生烈風」、
       「幕末十姫伝 京の風 会津の花」など多数。

    
維新銃姫伝
 

会津の桜
京都の紅葉

★★★

 歴史物は取り掛かりが億劫なところがある。読み進めてからも、くどい文
 が並んでいると途中で投げ出しそうになる。
 この本にはそれがない。
 フィクションは入っているが史実も丹念に追いかけている。
 それなのに読み手を惹きつけて離さない。
 素晴らしい作家の一人である。
 主人公の八重と大川大臓を交互に書き、会津を追われた者たちの、それ
 ぞれの生き方を描き出して見せる。家老として藩士や民を引き連れて最北
 の地・斗南に向かう大臓。片や八重は主のいない女家族とともに米沢へ。
 朝敵となった会津の人々の行く手には艱難辛苦が待ち構えていた。
 しかし、やがて西南戦争に巡査として徴用され、かつての恨みを晴らす会
 津武士たち。 政府の役人に取り立てられ自分の居場所を見つける者たち
 もいる。
 会津を陥れた維新の元勲にも生涯の終末がやってくる。
 木戸孝允の病死、西郷隆盛の自刃、大久保利通の暗殺。
 会津の人々にとって恨みは果たされたが・・・。恨み・汚名、それらは新しい
 世界で、自分たちの力を発揮することによって晴らされていくものではない
 か・・・この言葉に真実があるように思えた。
 会津を人々に理解を示し新政府の腐敗を訴え反乱を起こした江藤新平、大
 臓を抜擢した谷干城なども登場する。
 大河小説を読み終えた気分がする。 
 
 中央公論の紹介文が的を得ているので引用させていただく。 
--------------------------------------------------------
 内容紹介より抜粋(中央公論新社 渡辺千裕)
 本書は『幕末銃姫(じゅうき)伝』(中公文庫)の続編にあたり、会津落城後
の八重を描いている。元号が明治と改まった1868年、会津藩士たちは各地
に散る。
 やがて八重も京都府顧問の地位を得た兄に誘われ、運命に導かれるように
して京都へ。将来の夫となる新島襄(じょう)と出会い、同志社英学校の設立
に奔走する?というところまでは、多くの人もご存じかもしれない。
 だが、著者は英学校設立までのプロジェクトと並行して、女性として結婚の
悩みに直面する八重の姿を描く。ある男性への振りきれない恋心の顛末(て
んまつ)、西南戦争勃発に再び銃を手に取って戦地に向かうなど、史実から
想像の翼をはばたかせた藤本さんの筆が光る。
 
 

 

 諸田 玲子
          
     
1954年 静岡市生まれ。 上智大学文学部英文科卒。
      外資系企業勤務を経て
1996年 「眩惑」でデビュー。
2003年 「其の一日」で第24回吉川英治文学新人賞
2007年 「奸婦にあらず」で第26回新田次郎文学賞
2012年 「四十八人目の忠臣」で第1回歴史時代作家クラブ賞作品賞
   著書に「狸穴あいあい坂」「恋かたみ 狸穴あいあい坂」
       「幽霊の涙 お鳥見女房」
       「花見ぬひまの」など多数ある。
    
心がわり

狸穴あいあい坂

(まみあな)

★★★

 穏やかな、しっとりした江戸情緒と、旗本下級武士と家族の心根が伝わっ
 てくる一冊。
 乙川優三郎・海老沢泰久・宇江佐真理等の作家に通じるものがある。
 結寿を中心とした7つの短編集。
 御手先組から無役の御小普請に格下げになってしまった夫・万之助は
 身籠った結寿を離縁しようとする・・・。
 最終章の「夫婦」での結寿の決意と生き方が読み手の心を深く捉える。
 この本は「狸穴あいあい坂」「恋かたみ 狸穴あいあい坂」の続編と思わ
 れる。機会があれば、この2冊も読んでみたい。
--------------------------------------------------------
 内容紹介より
 かつての想い人への恋情を胸に収め、夫・万之助との平穏で温かな日々を
 過ごす結寿。
 平穏に過ごしていたが、居候の老女のもとへ親戚を名乗る大男が転がり
  込むが…。
 人気時代連作シリーズ最新作。 
来春まで

お鳥見女房

 大きな事件も起こらず、謎をはらんだ筋立てでもない。
 身のまわりに発生する難事を、それなりに解決していく・・・という話。
 しかし、この作家の文体は何だろう。知らないうちに半分を読ませられてい
 た。そして終末。読後感は悪くない。
--------------------------------------------------------
 内容紹介より
 主が家督を譲り、“お鳥見女房”も引退することに。が、珠世を頼る者は引き
 も切らない。大人気シリーズ最新作。矢島家はおめでたつづきだった。お鳥
 見役のつとめで遠国の密偵に出た嫡男は命からがら戻り、不妊だった嫁は
 懐妊、長女も初子に恵まれた。が、来る者は拒まずで、誰でも受け容れる珠
 世には、倫ならぬ恋や夫婦、親子の不和、不幸せな境遇ゆえに犯した罪の
 解決など難題が持ち込まれる……。
 知恵と慈愛に満ちた、円熟の連作短篇。 
ともえ
 作者は義仲を敬慕した芭蕉の墓が、巴御前、義仲とともに義仲寺にあるの
 を知り、この物語を書いたという。
 芭蕉が郷里の伊賀上野でも江戸でもなく大津の義仲寺を永眠の地に選んだ
 わけを、近江の女流俳人・河合智月(智月尼)との心の交流に絡めている。
 女流作家だからだろうか。淡い恋の体裁をとって、延々と芭蕉と智月尼の交
 流を描いている。同じような場面、同じような二人の心根が何回も描かれて
 いるという印象が強かった。
 むしろ関心があったのは「巴御前」だったので余計にそう思ったのだろう・・。

 巴御前が義仲と一緒に戦死したのではなく、別れて落ち延びたらしいといわ
 れている。
 本書では巴が義仲と別れてから、人質になっている息子の義高を助け出そ
 うと鎌倉に向かうという設定である。
 途中捕らえられ和田義盛に身柄をあずけられて、(義高が討たれた後)義盛
 の妻になる。
 しかし、和田一族が和田の乱で滅亡すると養子にした朝比奈義秀とともに
 落ち延び・・その後一人で、義仲が死んだ大津に戻り庵に住む。それが義仲
 寺である。
 巴御前が義仲の正妻ではないこと、正史には登場しない人物だと初めて知
 った。
--------------------------------------------------------
 内容紹介より
 芭蕉、最晩年の恋を描く時代長篇!! 時空を超えるのは、無償の愛―
 最晩年の芭蕉と、運命的に出会った智月尼(ちげつに)との、短くも切実な心
 の交流。
 その魂のつながりに、五百年前の巴御前と源義仲の縁(えにし)が美しく絡
 む。近江と鎌倉を往還する、感動の時代ロマン。 

 
 
 


 

  

 藤原 緋沙子
          
     
高知県生まれ。立命館大学文学部卒。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
小松左京主宰の「創翔塾」を経て、執筆活動に入る。
時代小説の名手として読者の熱い支持を受け、精カ的に作品を発表。
累計部数は300万部を超える。
代表的なシリーズにNHKドラマとなった『藍染袴お匙帖』『隅田川御用帳』
       『橋廻り同心・平七郎控』『見届け人秋月伊織事件帖』
       『浄瑠璃長屋春秋記』『渡り用人片桐弦一郎控』などがある。
                         (新潮社 著者一覧から引用)
    
 百年桜 
 これは人情話ということであるが、いま一つ、感動がほしい。
 市井の不条理、うまくいかないこと、すれ違い・・・。
 いろいろあるのだろうが、「それがどうなるのか」というのが大事なのである。
 読者は現に生きている。悩みも多い。
 その読者に「進むべき道筋」を示してくれるのが読書であると私は思っている。
 ・百年桜
 ・霞切
 ・山の宿
 5編あるのだが、3編を読んだところでクリア。
--------------------------------------------------------
 内容紹介より
 真実を知るために、恋しい人に会うために、人は運命の川を渡る。新兵衛の
 店に押し入って来た賊は、覆面から見覚えのある目を覗かせていた。満開
 の百年桜の下で別れた幼なじみの伊助。義兄弟の誓いを立てた俺たちの
 再会は、こんな形で叶うというのか――。
 「書下ろし時代小説の女王」が田川の渡しに託して描く、五人の男女の切な
 い人生模様と新たな一歩。
 おとなのための人情時代小説決定版。
恋 椿 

橋廻り同心
平七郎控
 

★★★


























 

 この作家への評価が一変した。
 江戸のいろいろな橋を紹介しながら人情ものに仕立て上げる、その手法が
 素晴らしい。

 ・桜散る 
  川崎のお大師で、九鬼縫之介に因縁をつけられていた「おちせ」を救った
  鉄之進は九鬼の仕返しに遭う。兄が家督を継いだ時に九鬼に意地悪をさ
  れ切腹したのだ。
  おちせは九鬼に迷惑をかけたことを悔い隅田川に身を投げた。
  九鬼は「親父橋」で別な娘を殺していた・・。
  橋を叩いて歩くだけの橋廻り同心・平七郎が「黒鷹」と言われていた頃の
   気概を取り戻す・・・。

 ・迷子札
  盗人かに足を洗い、孤独の中に生きる音蔵が初めて優しくされた。
  長屋の隣に住む母子から。
  その娘が行方不明になる。迷子にならないように付けた迷子札が一石橋
  のたもとに落ちていた。
  かつての盗人仲間の仕業だった・・。

 ・闇の風
  仙吉が窯元の親方に大けがを負わせ遠島になった。
  女房のおまつは、交易船の船頭・竜次の、島に金や米を届けてやるとい
  う話にのせられて、金を稼ぐために船宿で酌婦まで身を落としながら耐え
  る・・・。
  やがて仙吉は島帰りとなるが、親方や竜次に・・・。
  かつて仙吉をお縄にし時、おまつが半時待ってくれと言う願いを聞かなか
  った平七郎が解決に挑む。
  おまつの面倒をみる幼馴染・幸吉の姿も良い。

 ・朝霧
  父を殺され、継母と逐電した仇を追って江戸に出た妙。
  父の仇・格之進と継母・志乃は元柳橋で団子を売っていたが、志乃が病
  になる。格之進と妙は、かつて思い合う仲だった。格之進が死を前にした
  妙を看病する姿に心を打たれた。
  格之進が父と刃を交えたのには訳があった。
  志乃を失った格之進と妙は戦いの場に・・。
  平七郎は格之進の遺志を受け、陸奥国上松藩に訴える。
  平八郎の「橋廻り同心」の役目を超えた行動を北町奉行・榊原は理解して
  いた。

坂ものがたり
 夜明けの雨・・聖坂・春
  言い交わした女がいながら、奉公先の娘との縁組をした吉兵衛。好きだっ
  たおまつ女郎に身を落としていることを知る。商売もうまくいかず吉兵衛は
  自分の行く末を模索する。

 ひょろ太鳴く・・鳶坂・夏
  母が家を出て行方知れずになり、酒びたりの父を捨て、直次郎のもとに走
  ったおやえ。残された源治は鳶と戯れるのがただ一つの楽しみだった。
  一本気の直次郎は、安兄に掛け金をだまし取られ、親方から破門される。
  自分で簪を造りおやえと細々と生きていく。
  直次郎は安兄と喧嘩になり江戸所払になるが・・・源治の立ち直り、母の
  所在がわかったこと・・希望をのこした終末である。
 秋つぱめ・・逢坂・秋
  お幸は、夫・清之助が自分をおいて、坂の上の女を訪ねることに耐えられ
  なくなる・・。
 月凍てる・・九段坂・冬
  又四郎は兄の仇を求めて江戸にやってくる。
  幼なじみのおふくの助けを借りて仇討をはたす。
  − 俺は、仇討を果たしたものの・・・一番大切なものを失ったのだ

切り絵図屋清七

 紅染の雨

★★★

 温泉で読んだ。
 この作家。当たり外れがある。
 短編よりはシリーズものの方が登場人物の情愛が現れてよい。 
 --------------------------------------------------------
 内容紹介より
 武家を捨て、町人として生きる決意をした清七郎改め清七。与一郎や小平次
 らと切り絵図制作を始めるが、絵双紙本屋・紀の字屋を託してくれた藤兵衛か
 ら、世話をしているおゆりの行動を探ってくれと頼まれる。
 男と会って金を渡しているおゆりを見て動揺する清七だったが。
 江戸の風景を活写する人気書き下ろし時代小説第二弾。 
 
 


 

  

 植松三十里
          
     
 1954年 埼玉県生まれ東京女子大学文理学部史学科卒業。
 1977年 婦人画報社に入社する。
 1980年 退社。7年間アメリカで暮らす。帰国後は建築関係
       ライターとなる。
 2003年 「桑港にて」で第27回歴史文学賞を受賞。
 2005年 「三人の妾」で小学館文庫小説賞優秀作品入選。
 2009年 「群青 日本海軍の礎を築いた男」で第28回新田次郎
       文学賞を受賞
       「彫残二人」で第15回中山義秀文学賞受賞。
    
 千の命
 

★★★

感動大作である。
「医」のために邁進した人物の一生を生々しく描いている。
出産という、妊婦の苦しみと、人間の誕生、感動が直に伝わってくる周作である。
より多くの人に読んでほしいと思った本である。
--------------------------------------------------------
 内容紹介より
 命の数だけ、生きていく意味がある。
 出産が命がけだった時代、死産の際に、苦しむ産婦を楽にし、母体を救う「回生
 術」をあみだした賀川玄悦の生涯。
 独学で医術を学んだ玄悦には、わからないことが山のようにあった。赤ん坊はど
 こから出てくるのか。胎児は十月十日、頭を上にしているのだろうか。……
 不思議に思い始めると、きりがない。西洋医学がほとんど紹介されていない江
 戸中期に、世界に先駆けて胎児の正常位置を発見した賀川玄悦の偉業は、
 医学史の中で、燦然と輝いている。書下ろし長編小説。 
 
 

  

 池波正太郎
          
     
 1923年 東京生まれ
  戦後を代表する時代小説・歴史小説作家。
  「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人・藤枝梅安」「真田太平記」など、
  戦国・江戸時代を舞台にした時代小説を次々に発表する傍ら、美食
  家・映画評論家としても著名。

 1957年 「錯乱」で第43回直木賞
 1986年 紫綬褒章

    
 剣客商売

 春の嵐
 

★★★

 初めて読んだが、この作家の本は面白い。
 剣の立ち会いの他に、人情や温かい料理が入り読者に多彩な読後感を
 持たせてくれる。
 剣客商売シリーズは続けて読んでみたい。

 引退し、孫ほど年も違う「おはる」と鐘が淵の隠宅に暮らす秋山小兵衛の
 もとに、事件が持ち込まれる。
 短編かと思ったら一冊で完結の長編だった。
 老中・田沼意次、政敵となった松平定信。二人の仲たがいを助長しようと
 暗躍する御三卿・清水家。
 小兵衛の息子・大治郎の名を語る、無類の刺客が暗躍する。
 
 解説で常盤新平がねこの作家を絶賛している。
 「一冊目の剣客商売を手に取ると、簡単に『春の嵐』までよんでしまい、さ
 らにすすんで『浮枕』までいってしまい、『黒白』まで読まなければ気が済ま
 なくなる。」
 「疲れた時、何か辛いことがあった時、私は必ず池波さんを読んでいる。」
 「剣客商売には、小兵衛とおはるが住む鐘が淵の家に春の光が差し込み、
 すると暗雲がたちこめてきて、それが間もなく去って再び、明るい日ざしが
 隠宅にさしてくるといった印象があった。」
 「作者が小兵衛」の年齢に近づくにつれて、陰影に富んだ結末になってくる。
 それが私には痛々しく感じられる。」

 
 
 

  

 山田風太郎
          
     
1922年 兵庫県生まれ
    「魔界転生』や忍法帖シリーズに代表される、奇想天外なアイデアを用い
  た大衆小説で知られている。
  「南総里見八犬伝」「水滸伝」をはじめとした古典伝奇文学に造詣が深く、
  それらを咀嚼・再構成して独自の視点を加えた作品を多数執筆した。
  幕末、明治を題材にしたもの、推理小説、時代小説も手がけた。
    
幕末妖人伝
 

★★★

 この作家は多彩である。
 忍者ものとお色気ものを書く作家だと思い込んでいたがこの本を読んで、
 評価を一新。
 時代ものを史実をもとに各筆力が素晴らしい。
 図書館にある、「正統もの?をいろいろ読んでみたい。

 幕末妖人伝 
  からすがね検校・男谷検校 勝小吉(海舟の父)の親であり、剣聖と言
  われた男谷精一郎の祖父にもあたる、この男の一代、やりたい放題、
  色と金の地獄を極楽として楽しみぬいて大往生を遂げた。

 ヤマフの逃亡
  幕末、老中にもなった太田備後守資始の家臣・立花久米蔵の波乱の人
  生を描いたもの。ペリー来航への対応を批判したために大目付から睨ま
  れ、主家からも追放された久米蔵は反旗を翻すが・・。妻と義母、娘を殺
  され、それでも生き延びる。
 
 おれは不知火 
  肥後の人斬りと言われた河上彦斎。佐久間象山を斬った男である。この
  彦斎は幕末を生き延びたが、過激な攘夷の思想は持ち続けた。象山の
  息子・格二郎は父の仇をねらう。
  
 首の座 江藤新平
 東京南町奉行 鳥居耀蔵 
 新撰組の道化師 芹沢鴨

誰にでも

できる殺人
 

★★★

 この作家は凄いと思う。
 昔、忍法帖シリーズをちょっと読んだときはお色気ものを書くだけの作家だと
 思ったのだが。
 6つの短編を繋ぐ緻密なネタと構成は素晴らしい。
 かなりおどろおどろしい世界である。伝奇的な雰囲気が漂う。
 それでも読まずにはいられない・・読んでみると思ったほど怖くもない・・。 
 --------------------------------------------------------
 内容紹介より
 アパート「人間荘」16号室の押入れから一冊のノートが発見された。そこには、
 その部屋に住んだ代々の住人が書きついだ人間観察、人間荘で起きた6件の
 犯罪―錯覚による殺人、出来心による殺人、善意による殺人、怠慢による殺
 人、正当防衛による殺人、口ふうじのための殺人―の記録が綴られていた。
 何故に、ひとつのアパートを舞台に住人たちの間で連鎖犯罪が起きたのか?
 その背後には恐るべき真実が…。 

 

  

 木内一裕
          
     
1960年 福岡市生まれ 東京デザイナー学院九州校卒業。
         漫画家、漫画原作者、映画監督、脚本家、小説家。

   『狂犬ブギ』で少年ジェッツ第1回新人まんが賞佳作入選。
1983年 「BE-BOP-HIGHSCHOOL」で第8回ちばてつや賞優秀新人賞。
1988年 「BE-BOP-HIGHSCHOOL」で第12回講談社漫画賞一般部門賞。
 

    
喧嘩猿
 両親から捨てられ、育ててくれた(大店を営む)養母ともそりが合わず、
 旅に出た捨吉は死に行く男から「石松」という名前をもらう。森の石松の
 誕生である。
 この石松がヤクザの争いやいざこざに巻き込まれ立ち回る。痛快物。
 登場人物の人間性や生き方を深く考えず、軽く読めた。
 清水一家のことは出てこない。
 孤児をたくさん引き取って面倒をみる黒駒の勝蔵が、大岩・小岩を引き連れ
 次第に大親分になっていく・・。黒駒の勝蔵は悪役と思っていたが、ちょっと
 見方が変わった。
--------------------------------------------------------
 内容紹介より
 盗まれた名刀・池田鬼神丸を巡り、男たちの生き方が衝突する。森の石松、
 黒駒の勝蔵、法印大五郎、武居の吃安……。時は嘉永六年。
 鬼才・木内一裕が書き下ろす新・講談、“幕末侠客伝”が現代に浮上する。 

 売られた喧嘩は必ず買う。度胸だけを頼りに己の信じた道を進むだけ。
 世間を敵に回しても、生き方だけは変えられぬ。馬鹿と呼びたきゃ呼ぶが
 いい。
 こんな糞みてえな世の中で、命を惜しんでまで生きていてえとは思わねえ。
 名刀・池田鬼神丸を巡り、男たちの生き方が激突する!
 デビュー作『藁の楯』映画化の著者が書き下ろす、七作目にして、痛快の
 極み。 


 

 
 
 
 澤田 瞳子
          
     
1977年 京都府生まれ。同志社大学文学部文化史学専攻卒業。
      大学院も修了。
2011年 「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を最年少受賞。
2012年 「満つる月の如し 仏師・定朝」で第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、
      第32回新田次郎文学賞受賞。
    
 満つる月の如し

仏師・定朝

 読みやすく、時代背景をしっかり押さえていていろいろ参考になった。
 ただ、宮廷の政権をめぐる争いや、それを取り巻く女性の思いも細か
 に書いていてやや焦点がぼける。
 定朝が隆範の指導を受けて、真実の仏の姿を彫り上げる・・・このあ
 たりをメインに大河小説にしてほしかった。

 定朝は仏像づくりにたぐいまれな能力を発揮するが満足してはいな
 い。救いを求める人、貧しく死んでいくものを前にして仏像は眼も開
 かず、ただ黙しているのみ・・。
 仏像造りに真剣に取り組めない定朝に比叡山の若き僧・隆範は仏
 像製作を依頼し、協力していく。

 定朝の父の代から庇護している道長。
 道長のために、皇太子の位を追われた敦明親王の非道な振る舞い
 をするばかり。親王に同情する中務。道長に批判的な彰子は敦明親
 王をなにかとかばうが・・・暴挙をとめるために一計を案ずる。
 中務は計略を敦明親王に伝えようとするが・・・。

 事件の責任を一身に負おうとする隆範は・・・・。
 …定朝は仏像が人々に与える安楽と恵に気づく・・・。
----------------------------------------------------
出版社からのコメントから

 時は藤原道長が権勢を誇る平安時代。若き仏師・定朝はその才能を
 早くも発揮していた。
 道長をはじめとする顕官はもちろん、一般庶民も定朝の仏像を心の拠
 り所とすがった。が、定朝は煩悶していた。貧困、疫病が渦巻く現実
 を前に、仏像づくりにどんな意味があるのか、と。
 華やかでありながら権謀術数が渦巻く平安貴族の世界と、渦中に巻
 き込まれた定朝の清々しいまでの生涯を鮮やかに描き出した傑作。
 最少年で中山義秀賞を受賞した気鋭の待望の最新刊。 

関越えの夜
 小説とは何だろう・・考えさせられてしまう。
 人生に希望を持てなくなった話、しがらみを抜け出さず行き詰まる話。
 悔恨・・・そんな話をいくら書いても読み手にはストレスが残るばかり
 である。
 そんな局面に立ったらどうするか・・何らかの指針を与えてくれるのが
 小説だと私は思っている。この本は精緻な文で人々の困惑や悩みを
 語るがそれ以上のものがない。
 中山義秀文学賞・新田次郎文学賞を連続受賞した本なので「名作」な
 のだろうが。

 商品の代金を受け取り、江戸に変える途中で紛失してしまった手代の
 話から始まる12の短編集。
 側室に上がるのが嫌で死出の旅に出た娘と手代、不義を働いたが夫
 は咎めず仏門に入ってしまう。残された妻と弟の辿った道は・・・。
 女郎に入れあげる息子が女に愛想を尽かされ、地道に商売に励むよ
 うになった。
 喜ぶ父の前に気立てのよい娘が現れる。恵比寿がくれた娘だ・・父親
 は息子の嫁に決めたのだが、婚礼に付いてきたきた女を見て・・・・。
-----------------------------------------------------
 内容紹介より
 両親と兄弟を流行り風邪で亡くし、叔母に育てられている十歳の少女
 おさき。
 箱根山を登る旅人の荷物持ちで生計を立てている彼女は、ここ数日、
 幾度も見かける若侍が気になっていた。旅人はおおむね、道を急ぐも
 の。おさきの視線に気づいた若侍は来島主税と名乗る。人探しのため
 西に赴く途中だというが…
 東海道を行き交う人びとの悲喜こもごもを清冽な筆致で描く連作集。

 

  

 土橋 章宏
          
     
1969年 大阪府豊中市生まれ。関西大学工学部卒業。
2009年 「スマイリング」で函館港イルミナシオン映画祭グランプリ受賞。
      同年「海煙」で第13回伊豆文学賞優秀作品賞受賞。
2011年 「緋色のアーティクル」で第3回TBS連ドラ・シナリオ大賞入選。
      同年「超高速! 参勤交代」で第37回城戸賞を同賞初の審査員
      オール満点で受賞。
      著書に『超高速! 参勤交代』がある。 
    
幕末 

マラソン侍
 

★★★

 痛快無類の面白さ。
 「超高速 参勤交代」の映画があったが、この作家の原作である。
 この本を読んだ後であれば、絶対に見ただろう!
 
 遠足(とおあし)・・ 藩主が命じた遠距離走行である。
 50歳以下の96人の家臣がこの遠足に挑むのだが、本気で走る者
 は少ない。
 途中で道を外れ、江戸で知り合った女と会おうとする男は、料理が
 不味い(と思わせていた)妻に見透かされていた・・・。
 代々公儀隠密「草」を務めてきた男は、「殿、乱心」の報告をし、公
 儀の反応を窺おうとするが・・・コースを外れて国目付のもとに連れ
 て行かれる男が見た者は・・・。
 優勝候補?の足軽は、駆けのためにわざと負ければ10両やると
 買収されるが・・・。
 隠居していた栗田又衛門はかつての好敵手・槍の勘兵衛の一子
 (9歳の伊助)が出場することを知り、何かとアドバイスをし、ついに
 は一緒に走る・・・。

 藩主・板倉は藩士たちの行動をしっかりと把握していた・・
 名君だったのでは・・・。
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 内容紹介より
 黒船の来航により、風雲急を告げる幕末の世。安政二年(1855年)、
 安中(群馬県)藩主・板倉勝明は、藩士の心身鍛錬を目的として安
 中城内より碓氷峠の熊野神社までの七里余り(約30キロ)の中山
 道を走らせた。
 “安政の遠足"とも呼ばれ、日本のマラソンの発祥である。美しい姫
 をめぐりライバルとの対決に燃える男。
 どさくさ紛れに脱藩を企てる男。藩を揺るがす隠密男。
 民から賭の対象にされた男。余命を懸け遠足に挑む男。
 涙と笑いの痛快スポーツ時代小説!! 

超高速

 参勤交代
 

★★★

 マラソン侍が良かったので、図書館でかなり予約者が多かったが
 申し込んだ。
 文が平易で、どんどん筋を書くので読み進めやすい。ほとんど午前
 中で読んでしまった。同時に読んでいた、伊藤潤「野望の憑依者」
 はなかなか進まないのに。

 これは面白い! こんな作りごとのどこが・・という人もいるかもしれ
            ないけれど。
 諸葛孔明の生まれ変わり?と言われる城代・相馬の奇作と閃きに
 任せて、殿さま・内藤政厚醇(まさあつ)と7人の剛の者が江戸へ向
 かう。大きな宿では渡り中間を使い行列に見せる。あとは近道を
 ひた走り。戸隠流の雇われ忍者・雲隠段蔵の案内で。
 しかし、この雲隠は、途中まで案内し金をもらって雲隠れ?しようと
 思っていた。
 かつて無敵の忍者と戦い、己の非力を知り、酒に溺れた日々を送
 っていた段蔵だった。ある日妻子が荒んだ生活をしていることをし
 り、金を与えようと思い、殿さま一行を手助けしたのだった。金を
 もらえばそのままとんずらしようと思っていた。
 しかし、訪ねた先で娘から「おじさん、仲良しはいるの」といわれ、
 ハッとする。自分に友はいるのだろうか・・・今までの生き方は何だ
 ったのだろう・・・雲隠は目覚める・・・。
 
 単純に面白い話なのだが、民を大事にする内藤、身を売るしかない
 ないお咲の内藤への恋心、それに応える内藤・・。
 閉所恐怖症に苦しむ内藤は幼い頃両親から目をかけられず、乳母
 から冷たい仕打ちを受けていた。お咲が閉所恐怖症を治そうと、
 押し入れの中で手を差し伸べる場面・・・。
 心が揺さぶられる場面もしっかり設定されている。
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 内容紹介より
 ときは享保20年初夏、改革の嵐吹き荒れる八代将軍徳川吉宗の
 時代。一万五〇〇〇石の磐城湯長谷藩に隠し金山嫌疑がかかり、
 老中から「5日以内に参勤せねば藩を取り潰す」と無理難題ふっかけ
 られた。8日はかかる六十余里を実質四日で走破せねばならない。
 カネも時間も人も足りない小藩は、殿様以下七名で磐城街道と水戸
 街道、さらには山野を踏み越えて江戸城本丸へとひた走る。
 一行の前に立ちはだかるのは公儀隠密、御庭番、百人番所の精鋭
 部隊。湯長谷藩の運命や如何!? 

 
 
 

  

 童門 冬二
          
     
1927年 東京生まれ。東海大学附属旧制中学卒業。
      目黒区役所係員から、東京都立大学理学部事務長、
      広報室課長、企画関係部長、知事秘書、広報室長、
      企画調整局長、政策室長を歴任した後、
1979年 退職、作家活動に専念。
      在職中に蓄積した人間管理と組織の実学を歴史の
      中に再確認し、小説、ノンフィクションの分野に新境
      地を拓く。
    
足利尊氏の生涯 
 

(知的生きかた文庫) 

 伊東潤「野望の憑依者」を読んだ後なので、この本で動乱の時
 代をかなり整理できた。
 目新しいことは少ない。尊氏が尊王の気持ちを持ち続けていたこと
 優柔不断だが、ひとたび決意をすると勇猛果敢な武将であったこと
 などを再認した。弟の直義を好意的に見ているのは良いと思った。
 楠正成の評価も高い正成は優れた武将であり策略家であったが
 身分を重視する建武新政権のなかで、公家から低く扱われて活躍
 の場がなかったことが悔やまれる。
 新田義貞は尊氏にとって敵であり、尊氏は後醍醐天皇に反旗を翻
 すというより、新田を側近から取り除くために戦う・・・これを理由とし
 ていた。
 それにしても後醍醐天皇にはたくさんの皇子がいた。(護良親王と
 2、3人かと思っていた。)北畠顕家、新田義貞・・・それぞれ後醍醐
 天皇の皇子をいただいて地方に赴いたり戦ったりするのである。

 この作家の文は現代文、武士の独特の言い回しなどは書いてい
 ない。描写も平易で読みやすいが、重厚性に欠ける。
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 内容紹介より
 「三代ののちに天下を取れ!」―鎌倉幕府の失政に端を発した日本
 史上空前の大騒乱期、源氏きっての名門、足利尊氏はこの“遺言”
 を胸についに立ち上がった。
 英主後醍醐帝との連携離反、宿敵新田義貞、楠木正成、護良親
 王との凄絶な戦いを通し、男のロマン、男の本懐をうたいあげる。 

 
 

  

 折口 眞喜子
          
     
 鹿児島県生まれ。熊本県の短大を卒業後、就職。
2009年 「梅と鴬」で第3回小説宝石新人賞を受賞。
             『踊る猫』がデビュー作となる
    
恋する狐

★★★





















 

 さらりと書かれているようで奥は深い。
 これだけの書き手に巡りあえて幸運であった。
  ・蛍舟 
    蛍の季節に船頭・銀二が語る「法師」の話
    「成仏できずにさまよう哀れな魂を一緒にあの世に連れていく
     それが私の務めなのです。」
    精気を吸われながらも、対岸の人外の者が棲む場所に向かう。
  ・いたずら青嵐
    風は悪いものを運ぶ時もあり良いものを運ぶときもある。
    蕪村の描いた絵が吹き飛ばされ枝にかかったおかげで、子ど
    もと出会い、何のために絵を描くのか考え直す・・・
  ・虫鬼灯
  ・燕のすみか
    燕の落ちた巣の中から見つけた貝。おたかはそれをお守りに
    していたが、子が出来ずに悩む義姉に貸す・・・義姉は無事出
    産を終えるが、貝は消えていた。そして・・
  ・鈴虫
    名刀は良き使い手に会うと鈴虫のような音を響かせる。
    喜代は剣の試合をする佐々木に名刀を届ける。売られる寸前
    に。
  ・箱の中
    亡くなった祖母の柳行季の中から見つけた小箱。絶対にあけ
    ないようにと父にも言われたのにおりんは開ける。現れた小鬼
    は祖母の秘密を見せてくれる・・・。
  ・鵺のいる場所
    産んだ子を病で失い嫁ぎ先を追い出された女。実家からも追い
    出されすっかり人間不信に陥り寺に身を寄せていたが、女と出
    会った蕪村は自分に似たものを感じる。
  ・ほろ酔い又平
    絵に描けないようなものを描く、今にも動き出しそうな・・・。
    無村は目の錯覚かもしれないが、そんな錯覚を起こさせる絵を
    描きたいと思う・・。
  ・恋する狐
    無村は商家からもらった鮒鮨を、狐に化かされだまし取られる。
    「鮒は惜しいけど、めったに見られんものやし・・・」
    公達に 狐化けたり 宵の春  ふと句が浮かぶ無村・・。

   ざっと概観して書いてみた。
   9編に無村が関わっている。無村を登場させたのは連作にするこ
   とと、作品全体に温かさを出すためだと思われる。ともすると、お
   どろおどろしい世界になりそうだか、「まやかし」と人間がほど良
   い距離を保ちながら共存することの大切さがわかる。
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 内容紹介より
 俳人・与謝蕪村が出会った、愛おしい人々と、いたずら好きの物の
 怪たち。

 うだるように暑い夏の日。
 忙しなく人が行き交う家から逃げ出した末吉は、涼しい蔵にもぐり
 込む。
 大きな甕に入りうとうとまどろんでいると、どこからかボソボソと怪し
 い声が聞こえ……。(「虫鬼灯」) 
 小説宝石新人賞作家が描く、9つの優しい妖異奇譚。 

 
 

  

 周防 柳
          
     
1964年 東京都出身 早稲田大学第一文学部卒業後、
      編集プロダクション勤務を経てフリーの編集者・ライター。
2013年 「八月の青い蝶」(「翅(はね)と虫ピン」を改題)で、
      第26回小説すばる新人賞を受賞。
      「逢坂の六人」は二作目。
    
逢坂の六人

★★★

 六歌仙を自在に解釈している点が何とも興味深い。
 少年・阿古久曾(あこくそ・・くそは「丸」と同じ意)は、母の住む逢
 坂で、伯父のような存在の在原業平をはじめ、不思議な歌人たち
 にであう。幼き眼を通してみた未知と優美・隠微の世界が取り混ぜ
 て描かれている。
 大友黒主が語る、大海人皇子と大友皇子との戦い、敗れた大友皇
 子に繋がる大友一族の所業。天武の皇統が途絶え、天智天皇の
 皇統の復活など・・・興味深い歴史も語られる。
 喜撰法師は二種しか残していない謎の人物だが、これを紀貫之本
 人としているのも面白い。
 六歌仙の5人と逢坂の関で会ったことで、紀貫之がこの6人を古今
 集の序文で取り上げ、すぐれて歌人としてクローズアップこさせたと
 いう説も面白い。六歌仙そのものは、それまでは全くの無名の人た
 ちで、紀貫之が何故この6人を取り上げたのも不明とされてきた。 
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 内容紹介・内容(「BOOK」データベース)より
 史上初のやまと歌の勅撰集、『古今和歌集』成立をめぐる物語。
 紀貫之の忘れ得ぬ体験を描いた、小説すばる新人賞受賞第一作。

 みかどの命により、紀友則、壬生忠岑、凡河内躬恒とともに、初の
 勅撰和歌集の撰 者となった紀貫之。
 のちに『土佐日記』を著したことでも知られる才人・貫之は、この勅
 撰和歌集の編 纂に心血を注ぎ、 序文「仮名序」を執筆する。そこ
 には「近き世にその名きこえたる人」として、六 人の歌人の名が記
 されていた。
 後世に六歌仙と称される、在原業平、小野小町、大友黒主、文屋康
 秀、僧正遍 照、喜撰法師である。
 この個性的な歌人たちと紀貫之との交流を鮮やかに描いた書き下
 ろし長編小説。

 『古今和歌集』成立の裏側に秘められた、俊才・紀貫之と、個性的
 な六歌仙との出会い―。
 情熱的な美丈夫・在原業平、醒めた美女・小野小町、謎の怪僧・遍
 照たちとの人間ドラマを鮮やかに描く長編小説。 

 
 


  

 東郷 隆
          
     
1951年 横浜市生まれ。 国学院大学卒業。同大学博物館研究所助手、
      編集者を経て作家に。
1994年 「大砲松」で芳川栄治文学新人賞。
2004年 「狙うて候ー銃豪 村田経芳の生涯」で第23回新田次郎文学賞。
2012年 「本朝甲冑奇談」で第6回舟橋聖一文学賞。
    
忍者物語 
 巷間伝わる忍者のイメージは、闇を斬り裂き木から木へ飛び移ったり
 水中深く潜ったり、城壁をよじ登って天守閣の上に立ったりする・・。
 武家屋敷の屋根裏、床下を自在に移動し、煙の如く消えることも・・・。
 そんな有る意味、華やかな面ではなく、地道な忍者像が描かれてい
 る。
 場面に期待したほどの緊迫感がないが、忍者を考える上では参考に
 なることも多かった。
 内容紹介がとてもくわしいので以下に長々と載せた。
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 内容紹介・内容(「BOOK」データベース)より
 これが本物の「忍(しのび)」だ! 
史実だから面白い! 練達の筆致で描く傑作歴史小説集! 

闇から闇へ――のはずが歴史の表舞台に現れた忍者の真実の姿とは!?

【収録作品】
「鈎の系譜」――足利九代将軍vs甲賀・伊賀衆の決戦の行方は?
「蜘蛛舞い」――古代土豪「土蜘蛛」の末裔が放つ幻術とは?
「伝鬼坊の死」――忍者から剣豪に転職?修行の旅で真剣勝負
「二代目」――江戸で初代服部半蔵の息子が辻斬りでご乱心!?
「はるの城」――島原の乱に参陣した甲賀衆はなぜか老人ばかりで…
「川村翁遠国御用噺」――御庭番が抜け荷探索のため隠密で新潟へ…
「異国船御詮議始末」――ペリーの黒船で忍者がスパイ活動?

「現実の忍者は諜報活動の他にテロ・ゲリラ戦・偸盗のプロであり、
その働き振りは決して誇れるものではなく、一般の武士たちは長く彼らを
卑賤視し続けました。
本書では多少なりとも史料に残る忍者たちをとりあげています。
が、色も匂いも無く、闇から闇へ消え去ることを理想としてきた大多数の
忍者にとって、名を残すということは決して褒められた行為ではなく、本
書に登場する人々はいわば「落第忍者」のうちに入るのではないか、と
思っています」
  ――著者「あとがき」より
 

 
 


  

 連城 三紀彦
          
     
1948年 名古屋市出身。 早稲田大学政治経済学部卒業。
      真宗大谷派の僧侶。
1977年 「変調二人羽織」で第3回幻影城新人賞(小説部門)を受賞
1984年 「宵待草夜情」で第5回吉川英治文学新人賞受賞。
1984年 「恋文」で第91回直木賞受賞。
    
女 王







 

 男女の情念を描く
 著者はそういっていたと言うことだが、これは邪馬台国についての自説を
 述べたものである。
 江戸時代末期、邪馬台国と卑弥呼について研究を進めていた荻葉春生は
 自説が本当だと思い込んでしまう。
 そして、卑弥呼を蘇らせるために異様な行動に出る。
 それは、子どもを作るため色街の女と交渉。
 父なのに祖父と名乗り、その子に、邪馬台国であったと思われることを
 吹き込む。

 神がかりの卑弥呼だけでな、人間としての卑弥呼。
 女として子どもを出産。それを隠匿するために・・・。
 魏からの使いがやってきて、遭難。浜辺に打ち上げられるという設定。
 そして・・・ 
 春生はそれを真実だと思い込み、邪馬台国の真実を伝えなければと
 思ってしまった。 

 邪馬台国の場所、「月」を「日」と読み替える手法。
 水行10日、陸行20日・・・これは、卑弥呼が魏に、邪馬台国の正確な場所を
 しられないための迂回路・・・など、なるほどと思われるような
 説が散りばめられていて、興味は尽きない。
 ただ、長い。とても長い。5 20ページの厚い本を読むのが本当に大変だった。
 この作家がこんな本を書くとは想像できなかった。
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 内容紹介・内容(「BOOK」データベース)より
 東京大空襲、関東大震災、南北朝時代、そして邪馬台国……
 ある男の奇妙な記憶と、女の告白、ひとりの老人の不審死が壮大な歴史の
 謎へと導く。

「序章を拝読したときに、どこへ連れて行かれるのだろうと驚いた」
                               (田中芳樹)

 戦後生まれの荻葉史郎の中にある東京大空襲の記憶。だが彼を診察した
 精神科医・瓜木は思い出す、空襲の最中にこの男と出会っていたことを。
 一方、史郎の祖父・祇介は旅先で遺体となって発見された。邪馬台国研究
 に生涯を捧げた古代史研究家の祖父は、なぜ吉野へ向かい、若狭で死ん
 だのか? 
 瓜木は史郎と彼の妻・加奈子ととともに奇妙な記憶と不審な死の真相を探
 る旅へ。
 だが彼らに立ちはだかったのは、魏志倭人伝に秘められた邪馬台国の謎
 であった。

 衝撃の展開、男女の情愛……
 連城ミステリのすべてが織り込まれた傑作! 

恋 文
 多彩な本を書く作家である。
 直木賞受賞作ということで期待して読んだが・・・それなりではあった。
 お人よしのひとが登場して、実際にはあり得ないような話が展開する・・・そん
 なイメージの短編集である。
 もどかしいのである。登場人物の「誤解」などもスムーズに解決されず・・。
 でも、読ませる文で飽きずに読めたのは良い。
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 内容紹介・内容(「BOOK」データベース)より
 マニキュアで窓ガラスに描いた花吹雪を残し、夜明けに下駄音を響かせア
 イツは部屋を出ていった。
 結婚10年目にして夫に家出された歳上でしっかり者の妻の戸惑い。しかし
 それを機会に、彼女には初めて心を許せる女友達が出来たが…。
 表題作をはじめ、都会に暮す男女の人生の機微を様々な風景のなかに描
 く『紅き唇』『十三年目の子守歌』『ピエロ』『私の叔父さん』の5編。
 直木賞受賞。 
 
 


  

 安住 洋子
          
     
1958年 兵庫県尼崎市市生まれ。 大阪府枚方市で育つ。
1999年 「しずり雪」が第3回長塚節文学賞短編部門大賞を受賞し、
      同作を含む「しずり雪」でデビュー。
2012年 「春告げ坂 小石川診療記」が第18回中山義秀文学賞の
      最終候補となる。
      他に「夜半の綺羅星」日無坂」「いさご波」などがある。
    
遙かなる城沼

★★★


 

 女流作家の描く歴史小説は温かみがあってよい。
 村瀬家という、他から見れば平凡な家に起こるさまざまな出来ごと。
 父の過去の所作、家族思い。隣家の同輩との付き合い。
 幼友達との諍い、別れ・・・。
 自分と妹(勝気で剣に優れている)の結婚、それらが波乱を含みなが
 ら、自然に流れる。決して豊かな暮らしではないが、家族が力を合わ
 せて、逞しく生きている。
 館林藩の浜田藩への国替えという歴史的な事実はあるが、史実を追
 いかけるようなものではない。
 読後感が爽やかな秀作である。
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 内容紹介・内容(「BOOK」データベース)より
 人の絆の大切さを描いた書き下ろし時代小説 

 館林藩の武士である村瀬家の長男惣一郎は、弟や妹、友人と塾や道
 場通いを続けていたが、藩校に行くことになった弟に幼馴染みの寿太
 郎が乱暴し、惣一郎から離れていった。
 父源吾は、罪人を逃がしたことで家禄を減らされていたが、何か事情が
 ありそうだった。
 そのうち成長した惣一郎は、病に倒れた父に代わって藩の仕事を行う
 ようになる。
 そんなある日、筆頭家老の岸田が殺された。表向きは、病死とされた。
 それは藩を二分しての内紛が背景にあり、源吾は牢破りの件もその派
 閥争いと関わりがあると、真相を語ったのだった。
 やがて、浜田藩への国替えが決まる。嫁を迎え子どもの生まれた惣一
 郎は、家族とともに、主君の松平斉厚に従った。そこに故郷に帰りたい
 と、寿太郎からの手紙が届く――。
 家族や友情の絆の大切さを歌い上げた、著者久々の書き下ろし時代小
 説。