渡辺 淳一
 
     
1933年 札幌市に生まれる。 札幌医大卒  元同校整形外科講師 医学博士
  1965年  「死化粧」で新潮同人雑誌賞を受賞
  1969年  「心臓移植(後の白い宴)」
  1970年 「光と影」で直木賞受賞
  1979年 「遠き落日」と「長崎ロシア遊女館」で吉川英治文学賞を受賞
  1983年 「静寂の声〜」 で文藝春秋読者賞受賞
  2003年 各分野の功労者に与えられる紫綬褒章  菊池寛賞
現在まで130冊に及ぶ著作を発表
            
はじめて読んだのは「病める岸」
初版本であるから、かなり前である。就職して本を買う金ができ、盛んに乱読を始めた頃である。
渡辺淳一の本は、読むたびにいつも医学的な知識を与えられ、充実感があった。
以下に載せる本は、ほとんどその当時に読んだものである。
最近の「失楽園」「愛の流刑地」など男女の愛がテーマのものはあまり読んでいないです。
      
花埋み  日本で初めての女医の生涯を描いている・・・というキャッチフレーズに惹かれて、すぐ
 買ってみたようだ。題名の読み方は「はなうずみ」なのか・・・よくわからなかった。
 
 〔本の裏の解説から〕
  学問好きの娘は家門の恥という風潮の根強かった明治初期、遠くけわしい医学の
  道を志す一人の女性がいた。
  日本最初の女医、荻野吟子。
  夫からうつされた業病を異性に診察され屈辱に耐えかねた彼女は、同じ苦しみに
  あえぐ女性を救うべく、さまざまの偏見と障害を乗りこえて医師の資格を得、社会運
  動にも参画した。血と汗にまみれ、必死に生きるその波乱の生涯を克明に追う長編。

 (読んだ当時の感想)
    久しぶりに感動の大作を読んだ。
  渡辺淳一は資料を集めて、それを縦横に駆使して長編を書ける作家だということを
  初めて知った。
  場面は途中から北海道開拓と重なり様相が変わるが、読み終えてみると、かえって
  その方が小説全体に厚みを与えていて良い。
  医者や看護婦の仕事の大切さを再認識するとともに、自分も頑張らねばと思う。 

死化粧

・死化粧
・訪れ 
・ダブルハート
・霙

 〔本の裏の解説から〕
  母親の脳手術と解剖。そして、死出の化粧をめぐる人々の姿を、苛酷なまでの濃密
  なリアリティを持って描き、芥川賞候補となった新潮同人雑誌賞受賞作「死化粧」
  他にいずれも直木賞候補となった佳篇「訪れ」「霙(みぞれ)」と、心臓移植に材をとった
  話題作「ダブルハート」を収録。
  直木賞作家の受賞以前の純度の高い4編。

 (読んだ当時の感想)
  渡辺淳一の作品は医学的なものが多いが、この本では自分が医師として臨んだ
  数々の場面がそのまま書かれているようだ。
  表題にも現われているが、回復の見込みがない患者が多く登場する。医学の限界
  を痛感する主人公の苦悩と、どこやら諦めたような態度が全編に流れている。
   ・「訪れ」はガンの進行していく状態をつぶさに書いている。
    患者・宇井の死に対する恐怖が凄まじい描写で後半に登場する。
   ・未熟児が身体障害児になってしまうという内容の「霙」は、知恵遅れ、特異児童の
    世界を扱っていて深く考えさせられる。

病める岸

 ・プレパラートの翳
 ・血痕追跡
 ・点滴
 ・セックスチェック
 ・黄金分割 
 ・十五歳の失踪

〔本の裏の解説から〕
  美しいチフス菌の毒に魅せられ生体実験を行う医師、
  異型輸血による死がもたらした父子の真相、
  オリンピック候補の女子スケート選手が、実は男ではないかと疑念を持たれる事件等
  いずれも何らかの病気か、病的状態で悩む人たちを主人公にし、私達の置かれてい
  る今日的状況を描破した力作6編を収録。

(読んだ当時の感想)
 ・黄金分割、セックスチェックは一般人にも理解できるように分かりやすく説明してある。
 ・プレパラートの翳
   チフス菌をばら撒いた男の心理描写が主である。美しいチフス菌に魅せられた男の
   矛盾したような心理の中に一種の「真理」のようなものを感じてしまう、すぐれた短
   篇である。
 ・全般に渡辺淳一は「事件」を解説して見せるような短篇が多いが、それが独りよがり
  の解釈ではなく、当人の心理を完全に理解したかのような印象を読者に与える。医
  学知識の豊富な作家である。

自殺のすすめ

・夜の声
・形見分け
・贈りもの
・優しみの罠
・浜益まで
・自殺のすすめ

 題名を読むとびっくりするが、これは作者が自殺をすすめているわけではない。

 〔本の裏の解説から〕
  孤高、白髪のY教授に自殺未遂を嘲笑された学生Uは、教授の指摘通りに頚動脈
  を切って死んだ。教授は晩年を脳溢血に倒れ老醜をさらして逝った。「自殺」をめぐっ
  て逆説とパトスが織りなす表題作。
  三人の暴漢がもたらす不安と、不治を自覚する隻脚の老患者の姿をハードボイルド
  タッチで描く佳作「夜の声」。
  クールな視点で日常の襞に埋もれた人間の本質を抉る注目の作品集。

 (読んだ当時の感想)
  渡辺淳一の作品は病院と医師がよく描かれるが、この短編集にも多い。
  どの短篇も秀作で再読の必要がある。
  「浜益まで」は、彼の作品の中では珍しく純文学的である。
  にしん漁の衰えた寒村に住んでいる人間の息音が感じられる。
  20時間を歩き通して村に帰ってくる出稼ぎの男達に「郷愁」を感じた。この一篇に
  関しては水上勉に通じるものがある。

富士に射つ 〔本の裏の解説から〕
  山麓のゴルフ場で、富士に向かって大きくクラブを振った瞬間、草鹿が見たものは
  なんであったか。
  彼はそのために狂気の世界にひきずりこまれてゆく。1966年富士山麓のジェット機
  墜落事故を背景にして、平凡な一市民がいつ巻き込まれるかもしれない、現代の恐
  怖を描き出した異色の長編小説。

 (読んだ当時の感想)
  精神科医が登場するのは渡辺淳一の作品にはめずらしいと思う。
  富士山付近での飛行機の事故、乱気流など、作者は資料収集のために、かなり文
  献を読んだらしい。(衝突について結論を曖昧にしたのはちょっと物足りないが。)
  テーマ、内容はよく精選されているが、展開面で発展性がやや乏しく、狭い部分で
  深まりがあった。日本の作家の特徴であろうか。松本清張などとはその点、異なる。
  精神病の種類について興味深い記載があった。(第一章)


白き旅立ち
〔本の帯の解説から〕 
  残された最後の命を燃やし尽くすように、自分の体を医学に捧げた女性がいた。
  彼女が生きた証しとして残そうとしたものは・・・・。

〔帯・・著者のことば〕
  近代日本の黎明期、一人の女性が、なにゆえ自ら腑分けをのぞんだのか、どのよう
  な時、女はそれほど強くなれるのか、そして、鮮やかな命の燃やし方をできるのか。
  美幾の墓におまいりした時から、私はこの薄幸の中で消えた一人の女性と、その周
  辺を現代によみがえらすことを願ってきた。

 

  
     

  熊谷 達也・・
     
1958年 宮城県仙台市生まれ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 東京電気大学理工学部数理学科卒。
 中学校教員。保険代理店業を経て、
1997年「ウエンカムイの爪」で第10回小説すばる新人賞を受賞して
 作家デビュー。
2000年、凶悪犯罪の陰に見え隠れするニホンオオカミを追った「漂白
 の牙」で第19回新田次郎賞受賞。
 著書に「まほろばの疾風」「山背郷」「マイホームタウン」がある。
 東北地方に伝わる伝承や民話をベースにした作品群は、民族学会
 からも注目されている。
             
 邂逅の森
 (かいこう)
 
 

 ★★★

 名作である。明治から大正の時代が舞台となる。
  マタギや鉱夫のことを克明に調べて、その世界の住人に成りきって書き上げた
大作。秋田荒瀬村打当(うっとう)に生まれた松橋富治は、同じ村に生まれたほ
とんどの男子がそうであるように、気づいてみるとマタギになっていた。
 鈴木善次郎を頭領として、父の富左衛門、長兄富雄、柴田万吉とともに山形の
肘折温泉を拠点として1月から2月いっぱいの寒マタギを旅マタギとして過ごす。
やがて父は月の輪が全くない、全身が真っ黒の「ミナグロ」を獲ってしまい、マタ
ギをやめた。
 富治は比立内の集落で行われる「アメ」という魚取りで、地主の長兵衛の一人
娘・文枝と会う。夜這いをかけてまんまと結ばれるが、長兵衛の怒りをかい、阿
仁鉱山の鉱夫として村から追い出される。

 鉱山の仕事にも慣れ、弟分の小太郎と密かに熊獲りに出かけたりして順調に
暮らしていたが、突然の大雪崩に遭う。怖じ気づいた小太郎は鉱夫をやめ故郷に
帰るが、マタギの血を呼び覚まされた富治は小太郎の後を追って八久和村に行
き、マタギの生活をはじめた。そして、小太郎の姉で、娼妓をしていたイクと所帯
を持つ。イクはすっかり貞淑な妻となり、娘も生まれる。

 娘のやゑを熊田の鉄五郎に嫁がせた後の富治の前に、文枝と幸之助が現れ
るが、富治はあらためてイクを大事に想っている自分に気づく。イクが行方をくらま
して、富治の両親を訪ねていく場面・・・あてもなくイクを探し続ける富治・・・
やがて、二人が出会った肘折に思い当たる・・・後半の一連の場面は涙なしには
読めない。

 イクとの穏やかな日々を取り戻した富治は、鉄五郎達と組んで猟場に出る。
  ーーおめぇの潮時がいづになるがは、心配ねぇ、ちゃあんと山の神様が教ぇで
     くれるべよーーーー
 肘折温泉でひさしぶりに会った善次郎の言葉を胸に猟場に出た富治は、これま
で見たこともない巨大なクマを目にする。小太郎が大けがを負って鉄五郎達と引き
上げた猟場に一人残った富治。
 山のヌシと壮絶な戦いをくり広げ、満身創痍になりながらヌシを倒す・・・。
 右足を失い、死を覚悟した富治の前に現れたのは倒したはずのコブグマだった。
のっそりと歩くクマの歩調に合わせて富治は体を動かし続けた・・・。

 ふと気がつくと、富治は、とある峰の上に立ち、足下に広がる谷間を見下ろして
 いた。うっすらと空が明るくなっていた。
 いつの間にはクマは姿を消していた。
 かわりに、朝靄がたなびく谷あいでは、妻のいる小さな村が、いつもと変わらぬ
 佇まいで春の訪れを待っていた。

新参教師

★★★

 T火災海上保険を42歳にして退社。仙台市立青葉中学校の数学教員となった
 安藤亮大。出世の道をひた走っていた安藤が教育現場に足を踏み入れて、巻
 き起こす事件の数々を民間人の視点から書き上げている。
 職員室の無愛想な雰囲気、ノートパソコン自前、出勤簿のいい加減さ、学級名
 簿に記された「同○」「同×」意味不明の記号、進路指導主任、研究主任の有
 名無実、修学旅行の夜の見回り・・・・免許更新制・・。
 やがて起こる事件は
  ・ホンダS2000のタイヤが切られる・・意外な犯人
  ・ciub HEAVENのナナコちゃんとの写真
  ・探偵・田中新一の登場
  ・安藤が火災海上保険を退社したのはリストラ寸前だったという怪文書
  ・成田美里を疑う・・
  ・最後の手 青葉中学校を退職・・・
 意外な結末は??
懐  郷

★★★

 七つの短編から成っている。
  ・磯笛の島 
    かつて、妻と一緒に漁に出て、命綱が岩に絡まったことに気づかず海女
    の妻を死なせてしまった北村聡介は、十年間、名古屋で日雇いを続けて
    いた。
    「オイエノイチダイジ」 という、父からの電報で帰郷した聡介は海女の妙
    子と再婚させられてしまう
    やがて、夫婦で漁に出たある日・・・。
    危機に立った聡介の耳に響き渡る元の妻・琴子の磯笛・・・。
    磯笛・・海上に浮上してきた海女の吐き出す呼気が発する音である。    
  ・オヨネン婆の島
    電気もなく里村まで歩いて三時間という、島の開拓地に住む太一郎の一
    家。オヨネン婆は子供や孫が生まれるたびに黄楊(つげ)の木を千本植え
    ている。
    東京への移住を決意した太一郎をオヨネン婆は励ます・・。
  ・お狐さま
    田舎町の教師となった昭吾の妻・小夜子は、慣れない田舎暮らしを続け
    ていたが、ある日、集落の氏神様である稲荷神社で、狐に出会う・・・。
    喪服姿でクワをふるう小夜子。小夜子の奇異な行動を見守る写真屋、豆
    腐屋(油揚げ)、隣の住人・おキク婆さん。
    お稲荷様のご利益か??・・。
  ・銀嶺にさよなら
    大学の山岳部で、先輩の松木に恋した敦子は安保反対の国会闘争に
    参加し膝を痛めた。
    松木を忘れるために出羽三山踏破に出かけた敦子は・・・。
  ・鈍行列車の女
    出稼ぎに行ったまま正月に帰らなかった夫の雄一郎を訪ねて、東京に
    辿り着いた昭子は、都会に出る雄一郎の気持ちを知る。
    「冬場の出稼ぎは、単に金を稼ぐためではなく、決して叶うことのない夢
     や憧れに、少しでも近づき、つかの間の充足を味わうためのよすがに
     なっている。」
  ・X橋にガール
    16才で孤児となり気が付いたらX橋(仙台駅裏)に立つパンパンガールに
    なっていた淑子(よしこ)。
    はじめて恋心をいだいたウォルターは朝鮮戦争に行きそのままアメリカに
    帰って消息が途絶えた・・。
    徳兵衛のマスター・徳さん、淑子に働き口を世話しようとする女医・・
    毎日を生き延びるために大切なものをなくしてしまった淑子は、今夜も
    X橋に立っている。
  ・鈍色の卵たち
    集団就職した教え子・聡を訪ねた教師の貴子は、夜間高校に通わせて
    もらえない聡に、工場をやめて盛岡に帰ろうと誘う・・・。
 まほろばの
 疾風(かぜ)

★★★

  さりげなく書いた物語のような感じがするが、 巻末に参考文献が40冊あげら
 れている。古代東北の兵乱から日本人はどこから来たのか、渤海史、アイヌの
 伝承と民族など・・・。
  アテルイが伊治公アザ麻呂の子であるという設定で、アザマロの後を継ぎ蝦
 夷を率いて大和に立ち向かう姿が描かれている。
  アザマロもアテルイも大和と同じように米の栽培を進めながら、大和からの独
 立国家を作ろうとする。大和の大軍を数度にわたって撃ち破るが坂上田村麻呂
 が征夷大将軍となってからは苦戦する。それは力攻めによるのではなく、開拓
 民の保護をしながら次第に北上するというやり方である。戦いも遊撃隊をとっか
 えひっかえ繰り出すという方法で、大軍をうまくおびき寄せて一気に壊滅を図る
 アテルイの方法とは相容れない。
  劣勢になったアテルイは妻となった巫女のモレとともに投降し、平安京に送られ
 天皇の前に引き出される。命を助けれることになったアテルイとモレの取った行
 動とは・・・。
  大和にとっての神とは祟りを鎮めるものであるが、蝦夷にとっては穢れを清め
 るものであること、収穫の神は人工的に作られた田にはいない・・など、日本人
 の心の原点に迫る記述も多い。
漂泊の牙

★★★

  ニホンオオカミが「サンガ」と呼ばれる山の民によって守られ生存していたと
 いう設定。
  城島郁夫は大学の非常勤講師をしながら世界中をまわってオオカミを調べ
 ている。ある日留守を守る妻つ娘がオオカミらしき動物に襲われ妻は命を落と
 す。城島は仙都テレビ局の丹野恭子とともにオオカミの跡を追う。
虹色にランド

スケープ

★★★

 この作家は本当にジャンルが広いという感じがする。
 これはバイクを通して、どこかで繋がっている男女を次々と描いた作品。
 最後に夫を失った妻の心情が描かれる。リストラに合い、腑抜けのような生
 活を送る夫であったが、亡くなってみればかけがえのない存在だったことに
 気づく・・。
内容(「BOOK」データベースより)
勤めていた会社を解雇され再就職もままならず、自分の保険金で妻子の生活
費を捻出しようと、バイクの事故を装って自殺を図るために北海道にツーリング
に出かける男(「旅の半ばで」)など、ヴィンテージ・バイクと、それらにかかわる
無器用で、それでも必死に己の人生を生きる男女7人の姿を描く、連作短篇集。
バイバイ・

フォギーディ
 
 

★★★

 これは良書
 中・高・大学生など若い人にぜひ読んでもらいたい一冊である。
 舞台は函館のH高校。ここで例年行われている文化祭だが今年は一味違う
ものになりそう・・・。
 というのも、文化祭の時期というのは、憲法(第九条中心)の改正の国民投票
を間近に控えていたからだ。
 生徒会長の杉本岬は文化祭に憲法改正を絡めようとしているのである。

 この憲法改正がひとつの大きなテーマである。国民投票というのはもちろん架
空の世界なのだが、これを現実の世界に登場させ、若い人たちに考えさせると
いう点では最も適切な書である。
 脇役(主役?)の僕、田中亮輔は岬の幼友達。
 岬の物に動じない、しかし、周囲の人の声にしっかり耳を傾け、周囲をいつの
間にか自分の応援団のようにしてしまう岬の類まれな資質に惚れ込んでいる。
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内容(「BOOK」データベースより)
 憲法改正についての国民投票実施が決まった春、函館H高校女子生徒会長
の杉本岬は、全国の高校生による模擬国民投票に向けて動き出す。メディアに
取り上げられ有名人になった岬だが、掲示板サイトに彼女を批判する書き込み
がされ苦境に陥る。
 岬の同級生の田中亮輔は地元パンクバンドのギタリストだが、憎からず思って
いる岬を助けたいと願いながらもなすすべがない。国民投票の結果は?そして、
二人の恋と未来はどうなるのか?政治オタ女子高生とイマドキパンク青年が、も
やもやした日々をぶっ壊す。 

光降る丘

★★★

 夢を抱いて満州に渡った耕一は、終戦間際兵役にとられ、家族と別れ別れに
なる。シベリア抑留から帰還した耕一は満州に残った家族の消息が消えてしま
ったことを知り愕然とするが、生きるため宮城県北の地に開拓民として入植す
る。
 この耕一と仲間が艱難辛苦を経て開拓を続けていく様が描かれる。
 小説は、この耕一と、現在開拓地を襲った地震の被害を絡めて、交互に展開
する。シベリアの抑留に比べたら楽なものだ・・・開拓に挑む耕一の覚悟と行動
が読み手の心に響く秀作である。
 炭焼き、なめこづくり、イチゴづくり・・・。木材の伐採、県の補助金・・・。開拓に
関連する出来事も興味深い。
 地震による開拓地の崩壊は開拓二世・三世達に暗い影を落とすが、一世達の
努力を無駄にしないため、逞しく復活する・・・そんな希望を十分に抱かせる一
作である。
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内容(「BOOK」データベースより)
 2008年6月14日。栗駒山中腹の共英地区は凄まじい揺れに呑み込まれた。崩
れる山、倒壊する家々、故郷の危機に胸引き裂かれる智志、そして、祖父が行
方不明に!いつ終わるともしれない捜索活動の中、智志を奮い立たせるのは、か
つて祖父が話してくれた、戦後開拓時代の物語―シベリアからの帰還、村づくり
の苦労、仲間の死、初めて電気が灯った日、起死回生のイチゴ栽培―土と汗と
涙と、なによりも笑いに満ちた、「あのころ」と「いま」の物語。
ゆうとりあ

★★★

 この作家の本はいろいろなテーマを取り上げていて、深く考えさせられる。
 定年を迎えた克弘は妻が見つけてきた、「ゆーとりあ」と名づけられた分譲地?
 田舎の農作地付きの所に移り住む。
 妻は畑作り、克弘は手打ちの蕎麦屋を目指すが、二人の前に次々と難題が持
 ち上がる。
 サル、イノシシ、熊の登場である。
 気丈で猟銃を持ち、マタギのような加奈子に助けられ、何とか難を乗り切るが
 動物と人間の共存について深く考えさせられ悩まされる。
 動物を守るNPO活動にも参加したことのある加奈子が、捕獲した熊を撃つ場面
 は読み手の心の琴線を触れる。
 「猟銃を手にして・・・加奈子さんの背中は、霧雨に煙る空と同じように、静かに
 泣いているように克弘には思えた。
 紆余曲折を経て、ゆーとりあは理想郷に近づきつつある。
 趣味とは何か、余生を生きるとは・・。
 同僚だった川村が熟年ロックバンドで活躍する姿を見て、克弘は考える。
 そして、川村と同じように四国巡礼に出る・・・。
烈風のレクイエム

★★★

 大作である。
 1部のはじめのあたりを読んでいる時は、潜水のことが詳細に語られたり
 函館の大火災の惨状が延々と語られたりして、なかなか進まなかった。
 このところ、予約の本が次々と入り、リタイヤも考えた・・。
 しかし、さすがに熊谷達也。1部後半から火災現場でたすけた静子との再会から
 俄然目を離せなくなった。

 夫と息子を失い、瀕死の女から子どもを託されたために生き残った静江。静江は
 口のきけなくなった男の子と必死に生きる道を探したが仕事も見つからず、立待
 岬の絶壁に立っていた。

 静江とともの歩み始めた敬介だったが、おりしも時は太平洋戦争。
 函館空襲が敬介一家に降りかかる。
 足に傷をおった敬介だったが泊組を解散しないという仲間とともに再起する。
 息子として育てた伸一郎との確執。

 再会した伸一郎と婚約者とともに夫婦で秋田に行こうとした洞爺丸は・・・。

 敬介の生き方は波乱万丈である。
 ひとつ超えれば次の災難が待ち構えているという感じである。
 しかし、人生とはそんなものではないだろうか。
 災難や苦労の大小があったとしても。

七夕しぐれ

★★★

 この作家が「部落」問題に取り組んだ一作。
 秀作である。学校関係者に読んでほしい一冊。
 重松清、奥田英朗の本と共通するものがある。
 学級内でのいじめや、教師たちの行動。
 子どもの世界と教師・大人の世界との隔たり。
 いじめの原因、実態にも深く切り込んでいる。
 中学は3人は、隣町の学校にいる友達の助けを借りずに、○○をばら撒く・・・。
 それでも事態は変わらないが、いじめは止む。
 この後どうなるのだろう。続編が出るような気がする。
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内容(「BOOK」データベースより)
 新緑まぶしい春。小学五年生の和也は県内の小さな町から憧れの仙台市に
 引っ越してきた。隣町に住む同級生ユキヒロとナオミと友達になろうとする和
 也に対して彼らは冷たい態度を取る。二人がクラスで浮いた存在で、江戸時
 代から続く因習がその原因であることを和也は知る。
 偏見にとらわれない子供たちの無垢な姿と、昭和の時代背景をノスタルジッ
 クに描いた傑作。 
リアスの子

★★★

 「七夕しぐれ」の続編のようになっているのに、中盤で気が付いた。
 学校現場にいる教師と生徒の関係、子どもの世界の難しさと教師の対応のあり
 方を考えさせる秀作。
 転校してきた希は赤く染めた髪、長いスカート・・スケバンそのものだった。
 学級の中をかき回すようなことをするわけではないが、田舎の刺激の少なかっ
 た生徒の中では完全に浮き上がっている・・。
 服装を改めず、学級にも溶け込まない希をどうするか。接し方を間違えば、希の
 ような服装や粗野な口のきき方が学級に蔓延してしまう恐れがある。
 そんな時、陸上部の女子二人が希をスーパーに誘ってくれた。
 ところが、スーパーで希が万引きしたとして警察に連れて行かれた・・。
 大人でありながら生徒の目線や心のあり方を大切にしたい和也はどうする・・・
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内容紹介。内容(「BOOK」データベースより)
 仙台在住の直木賞作家が描く、教師と生徒との信頼関係を描いた感動作。

 大学卒業後、教師となった和也は埼玉の中学校をへて、故郷の宮城県に戻って
 きた。都会とは異なる港町・仙河海市の中学校に赴任。
 のどかな雰囲気と濃密な人間関係にも慣れたころ、3年生の担任となる。
 新しいクラスには、転入生がいるのだが、その生徒・早坂希は、何かしら問題を
 抱えているようだった。
 そこで、陸上部の顧問でもある和也は教え子たちに一役買ってもらおうとするが
 …。1990年の春、かつて気仙沼の中学校で教壇に立っていた著者が、教師と
 生徒における「信頼」という小さな積み重ねの大切さを丹念に描いた感動の物
 語。 

         
           
                  
       
  垣根 涼介・・
  
      
 1966年 長崎諫早生まれ。筑波大卒。・・・・・・・・・・・・
    仕事と執筆の二重生活で書き上げた作品を投稿。
 2000年、「午前三時のルースター」で、サントリーミス
    テリー大賞と読者賞をダブル受賞。
 2004年 「ワイルド・ソウル」で大藪春彦賞、吉川英治
    新人賞、日本推理作家協会賞の三冠達成。
 2005年 「君たちに明日はない」で山本周五郎賞受賞。
   著書に「ヒートアイランド」「ギャングスター・レッスン」
    「サウダージ」「クレイジーヘヴン」がある。
 君たちに

 明日はない

★★★

  

 日本ヒューマンリアクト(株)というクビ切り専門の会社で働く村上真介が主人公。・・・・・・
 「怒り狂う女」に登場する芹沢陽子の観察によれば、「とうの立ってきたジャニーズ系のア
イドルを、一晩ぬか漬けにしたような顔。美男子といえばいえないこともないが、ぱっと見た
全体の雰囲気が、とにかく軽薄このうえない。
 アシスタントの川田美代子一緒にとリストラ候補者に向き合う・・・。
  ACT1 怒り狂う女
  ACT2 オモチャの男
  ACT3 旧友
  ACT4 八方ふさがりの女
  ACT5 去りゆく者

 これは面白い!!
  なかなかこれだけ中身の濃い本は書けないと思う。かつてオートバイのレーサーを目指し
 た真介、41才になった陽子・・・それぞれの生き方をからめて、軽妙にして深遠な物語が
 進行する。

 君たちに
 明日はない2

借金取りの王子
 
 

★★★

 シリーズ第2弾。このシリーズ、ただ面白いだけでなく深く考えさせられることも多い。
 山本周五郎賞受賞も頷ける。
 特に本書は素晴らしい。
  ・二億円の女・・・デパートの外商部でやり手のなぎさはリストラの面接を受け、退社を
            考えるが・・・。
  ・女難の相・・・・・生命保険会社に総合職で入社した松本だったが大学の時に想いを
            寄せた女の手ひどい嘲笑に会い女が苦手になった。
  ・借金取りの王子
            本書の題ともなっているこの短編は感動する。
            消費者金融の会社に勤めた宏明は小岩一号店の店長・池口美佐子
            にあこがれる。やがて池口は異動。
            店長となった宏明は店長会議で、ノルマを達成できない池口を責める
            ように命令されたがやらなかった。
            消費者金融をやめた池口と交際を望む宏明。池口にストーカー呼ば
            わりされても諦めず、
            「八か月会わずにいて、それでも気がかわらなければ、またここに来
             ればいい・・・。」
            という言葉を引き出す。
   ・山里の娘・・・・新潟・岩室温泉のホテルに就職し地元から一歩も出たことのない秋
            子。ホテルをリストラになって東京に出てみるのもよいかと考えるが・。
   ・人にやさしく・・真介の会社は人材派遣業も立ち上げるようになった。
            付き合っている陽子の会社に人材を派遣することになった真介が選ん
            だのは陽子の求めるようなタイプではなかった。 
  君たちに
  明日はない3

張り込み姫

★★★

 シリーズ第3弾が出ているのを知り、さっそく借りて読む。
 前作に劣らず傑作物だった。

 内容紹介から
 リストラ請負人・村上真介参上! テレビドラマ化の人気シリーズ最新刊!
 企業のリストラを代行する会社に勤める真介の仕事は、クビ切り面接官。「人間にとって、
 仕事とは何か──」たとえどんなに恨まれ、なじられ、 泣かれても、真介はこの仕事に
 やりがいを感じている。
 今回のターゲットは、英会話学校、旅行会社、自動車業界、そして出版社だが……。
 働く あなたに元気をくれる傑作人間ドラマ。 

 君たちに
 明日はない4
 
 

勝ち逃げの女王
 

★★★

 勝ち逃げの女王
   航空業界のリストラ。希望者を募ったところ退職希望者が予定者を大幅に
   上回った・・。今回の面接は、「退職を思いとどまらせる」という逆の仕事となった。
   スチュワーデス(CA)の世界、それは「出世」はない。合コン? の数の多いこと
   そして、CA(キャビン・アテンダント)はその経歴を花として結婚していく・・。
   主人公もそんな勝ち組の一人だ。
   
 ノー・エクスキューズ
   最近考え事が多くなった真介を社長の高橋が料理屋に誘う。
   そこで待っていたのはかつて高橋が「首を切った」山三証券の社員だった。

 永遠のディーバ
   才能とはなんだろう
   真介はかつてバイクレーサーを目指したが限界を感じて諦めた。
   今回面接した飯塚はバンドを、また飯塚が立ち寄るバーのオーナーはサッカー、
   いずれも圧倒的な才能を持つ者に出会ったことを潮に。
   才能とは何だろう。飯塚はかつてオーディション(全国大会)で優勝した竜造寺み
   すづの歌声に再会する。
   「自分はどうありたいのか、何を表したいのか。何を、どう伝えたいのか。それを
   真摯に見極め、追求していく気持ちの強さ。それこそが才能なのだ・・・。」
   垣根涼介はこの一編で「才能」について語りたかったのだろう。

 リヴ・フォー・トゥデイ
   外食産業で大きな業績を上げてきた森山。
   振り返れば高校でアルバイトを始めてやがて異例の店長、高校・大学でも続き、
   就職もそのまま「ベニーズ」へ。
   自分を支えてきたものは、「明日のために」ではなく今日の満足を得ることだと
   気づく。それは小学校高学年から受験戦争に追い込んだ母への抵抗でもあった。
   特A(社に必ず残す人材)だった森山は真介の面接を気に考える。

 クレイジー

 ヘブン

 旅行会社に勤める恭一は、漁村に嫌気がさして都会に出てきたサラリーマン。
 旅行会社の同僚が「美人局」にあい、話をつけに行って圭子と会う。
 圭子は中年のチンピラヤクザにつかまり、運命を呪いながら生きている。
 この二人がどうなるのか・・・。
 どんどん読み進めさせられる文体である。
 性描写と暴力描写も凄い! 冒頭の1、2ページを読むと大変な小説かと思ってしま
 うが、ストーリー性もあり、最終章が意外に爽やかに終わるので読後感は悪くない。
 
午前三時の
ルースター

★★★

 サントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞した作品ということで期待して読んだ。
 期待応えるような本だった。
 ベトナム・サイゴンの街に消えた父を探す高校生の中西慎一郎。随行した旅行会社の
 長瀬。テレビ局をやめた源内。現地サイゴンで雇った運転手とガイドの女を加えて、
 父親探しを始める・・。
 真夏の島に

 咲く花は

 ★★★

 名作である。
 この作家の求める世界の一端がここにあるような気がする。
 西欧中心の技術が進んだ国々(日本も含まれる)、そこで当然とされる「善」「勤勉」
 そのようなものが本当の真実かと問いかけてくる本である。
 内容(「BOOK」データベースより)
 この島には、今までの人生で知らなかったものが、絶対にある―。2000年のフィジ
 ークーデターで人種の違う四人の若者は、何を見つけたのか。日本から両親と移住
 してきた良昭、ガソリンスタンドで働くフィジアン・チョネ、父のお土産物屋を手伝うイ
 ンド人・サティー、ワーキング・ビザでフィジーに来た茜。「地上の楽園」を探し始めた
 男女の青春群像。 
 ワイルドソング
 
 

★★★

 これは戦後ブラジルのアマゾンに新大陸を求めて移住した人々の苦難の道を描くこ
 とが第一の目的だったと思われる。
 表土が浅く作物が育たないうえに雨季には畑地にした所が水浸しになってしまう。
 衛藤は妻と弟を失い、一人街へ逃れ紆余曲折の末、商売をし何がしかの金を得る。
 そして、再び訪ねた移住地で隣人の息子が生き残っているのを見つけて連れ帰った。
 衛藤に育てられた・・・と同じように移住地で生き残った松尾。(松尾はコロンビアマフ
 ィアに育てられる。)二人は日本政府への復讐を企む。外務省への銃撃、そしても移
 民政策に関わった三人の誘拐。この誘拐に絡んでテレビ局のニュース製作に携わる
 貴子が登場。この貴子を味方につけようと・・・が近づく。
 終章。垣根涼介の本は常にこれからを生き抜く人の旅立ちに光が当てられている。
 読者に清々しい読後感を与えてくれるのが嬉しい。
人生教習所
 セミナーに応募した3人を中心に物語が進むが、この本のテーマは「小笠原諸島・父島
母島」の歴史や、本土返還前後の人々のくらしなどを描くことにあったと思われる。
 もともと欧米系の人が住んでいたところに明治政府が開拓民を派遣。その後太平洋戦
争でアメリカが占領。そして日本に返還。変転する中で住民は翻弄されながらも生き続
ける。返還されなければ、アメリカ流の余裕のある豊かな生活ができたと考える人々も
居た・・・。
 小笠原諸島には飛行場がなく、船が唯一の交通手段だというのを初めて知った。
 原題に戻って・・・・
 三人が美しい自然の中でセミナーを通して学んだものは多い。人は人との関わりで
成長するということ・・・。
----------------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 ひきこもりの休学中東大生、南米へ逃亡していた元ヤクザ、何をやってもダメな女性
フリーライターなど―人生に落ちこぼれた人間たちが目にした「人間再生セミナー 小
笠原塾」の募集広告。
 錚々たる団体・企業が後援し、最終合格者には100%就職斡旋。一体、主催者の目
的は何なのか?遙かなる小笠原諸島で、彼らを待ち受けていたのは、自分たちが知ら
なかった日本と世界、そして美しい自然。
 今、彼らの中の「なにか」が変わりはじめた…。清々しい読後感へと誘う物語。
光秀の定理

★★★

























 

 凄いの一言に尽きる。
 明智光秀、光秀と親しくなった剣豪の新九郎、そして得体のしれない僧・愚息。
 この三人の生き様、考え方がこの話のテーマである。
 愚息の説く、「生死」について、文中の言葉を引用してみると

 「西方浄土などありもせぬもの」
 「では人は死ねばどうなるのだ」
 「どこへも行きません。死んだらその場で土に還る。それだけでござる。」
 「心はどうじゃ」
 「もともとなかったものでござるゆえ」
 「魂は、五体ありて初めて生じたもの。その元が消えれば、これまた消えるのは
  道理でござる」
 この信長と愚息のやり取り。 これが真実ではないかと想う。

 「釈尊は人の世の無意味なる必然をさとれ・・」
 「万物が無常であるという儚さ。人の苦悩もそのひとつに過ぎぬという頓悟。
  さらに言えば、それらの意味での宇宙との一体感・・つまり、それが解脱、涅槃の
 境地ということでござろう」

 愚息から語られる、このような言葉を垣根了涼介はどのようにして考え付いたのだ
 ろう・・凄いの一言である。
 
 また、光秀が何故信長を討ったのかということについて、

 人間関係の捉え方の違いがある。
 日本では、独自の「ゆるい」という人間関係がある。。絶対の支配者はいない・・。
 しかし、織田王朝が出現すれば、織田一族以外は全てが使用人となり
 自主性は担保されない、信長の好悪・尺度でのみ国中が埋め尽くされ、思想上、
 制度上の抜け道は全くなくなる。
 その未来図の息苦しさに光秀は耐えられなかった。

 細川藤孝のしたたかさについても触れている。まさに全てを見切る悪党であると。
 光秀が亡くなったから15年、新九郎は九州・松浦に帰る愚息を見送りについてい
 くが、道中細川藤孝に会う。
 光秀に味方しないばかりか愚弄した藤孝を襲おうとして二人だったが・・。

 作中に織り込まれた定理。
  4つの椀の中に石ころが一つだけ入っている。
   ・相手にどれかをあてさせる。
   ・入っていない2つを開ける。
   ・残りは2つ。最初に答えた椀を変えてもいい・・。
   ・5割の確率だと思うのだが、愚息の勝つのが7割を超える・・・これは何故?
  3つのさいころを振る。
   ・「6」が一つでも出れば相手の勝ち。
   ・一つのさいころで「6」の出る確率は六分の一。さいころが3つあるのだから
    「6」の出る確率は5割のはずなのだが・・何回もやっていると愚息が勝つ??
-------------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 永禄3(1560)年、京の街角で三人の男が出会った。食い詰めた兵法者・新九郎。
 辻博打を生業とする謎の坊主・愚息。そして十兵衛…名家の出ながら落魄し、
 その再起を図ろうとする明智光秀その人であった。
 この小さな出逢いが、その後の歴史の大きな流れを形作ってゆく。光秀はなぜ
 織田信長に破格の待遇で取り立てられ、瞬く間に軍団随一の武将となり得たの
 か。
 彼の青春と光芒を高らかなリズムで刻み、乱世の本質を鮮やかに焙り出す新
 感覚の歴史小説!! 

 君たちに
 明日はない5
 
 

迷子の王子
 

★★★

 このシリーズ。実に読み応えがある。
 今回は村上が結構下で二出て、面接者の考えを全面的に重視する。
 会社に居続けるか、やめるか゜、結局は本人が決めること・・・。
 老舗化粧品ブランドの滝川まりえは早稲田の法学部出身なのに場違いの職場に居る。
 周囲は学歴を考えすぐ地位を向上させようとする。下町に育ったまりえは地域と人が
 深く結びついた環境に育ち、社会にうまく馴染めないところがある。
 「自分の道は自分で決める」「あたしはあたしの背景で、頑張るだけだーー。」
 まりえは新しい会社であらたなスタートを切る・・・。
 エンジニアの蒔田は家電メーカーの不景気に直面。新たな液晶画面の開発が無意味
 なことを知らされる。研究とは、開発とは・・蒔田は悩む・そんな時、退職後農業に本気
 で打ち込む父の姿を見て考える。自分が本当にやりたかったものはなんだろうと。
 極度に人見知りの香織も・・・。
 3人の面接をした真介にも試練がやってくる。社長が時勢に合わなくなることを理由に
 会社を閉めることを決意したからだ。
 自分はいったい何をやりたいのだろう・・・真介は考える・・・。
 -------------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 一時代を築いた優良企業にも、容赦なく不況が襲いかかる。
 リストラ請負人・村上真介のターゲットは、大手家電メーカー、老舗化粧品ブランド、
 地域密着型の書店チェーン…そして、ついには真介自身!?逆境の中でこそ見えて
 くる仕事の価値、働く意味を問い、絶大な支持を得る人気シリーズ、堂々完結 
  

   
 
       


  今野 ・・
  
      
 1955年 北海道生まれ。 
       上智大学在学中の78年「怪物が街にやってくる」で
       問題小説新人賞を受賞。
       レコード会社勤務を経て執筆活動に入る。
      ミステリーから警察、伝奇、格闘小説まで幅広く活躍。
 2006年 「隠微捜査」で吉川英治文学新人賞を受賞。
 2008年 「果断・隠微操作2」で山本周五郎賞、日本推理作家
       協会賞を受賞。

   空手3段、棒術4段の腕前で「今野塾」を主宰。


 
 

  いんぺい

隠蔽捜査
 
 

★★★

 

 以前に読んだ岩木捷介の「巡査」のような雰囲気を持っている。横山秀夫の描く世界
 とも似ている。警察内部やそれを取り巻くマスコミ界などがテーマとなっている。
 警察庁長官官房・総務課長の竜崎伸也は、朝の新聞で、かつての重要事件の加害
 者だった30代の男が殺されたニュースに目をとめた。
 やがて起こる第二、第三の事件。かつての事件・・監禁・強姦殺人の被害者に連なる
 者の仕業か・・。秘かに進められる警視庁の捜査。指揮をとるのは竜崎の幼馴染みの
 警視庁刑事部長・伊丹俊太郎。
 警視庁と警察庁、そして警察庁刑事部長・坂上、局長・阿久根と長官官房・牛島参事
 官・・内部の思惑と確執。
 竜崎は変人と言われながら、キャリアとしての自分の立場、使命を忠実に果たそうと
 する。時には戦国武将が農民から年貢をもらう妥当性を例に挙げながら・・キャリアの
 生き様を頑なに守り続ける竜崎の姿は作者の最大の主張である。
 息子・邦彦がヒロインに手を出したことを発見し愕然とする竜崎。もみ消せと言う伊丹。
 竜崎は苦悩するが、「一つのことをもみ消したために、やがて起こることにさらに大きな
 エネルギーを費やさなければならなくなる。」という考えに至る。
 あくまでも正論を貫く竜崎の姿が清々しい。
 気丈な妻・美紀の存在も後半にクローズアップされてくる。
 幼馴染みの伊丹にいじられていたと感じていた竜崎だが、伊丹が逆に竜崎を常に恐
 れていたことなど・・多彩なテーマを含んで物語は展開する。
  妻と別居し一人暮らしの伊丹のマンションを訪ねた竜崎の伊丹の対決がクライマック
 スになっている。
 かつて監禁・強姦殺人事件の捜査に関わった警察官の行動は、それだけで大きなテ
 ーマになりそうだが本編では深く触れていない。
  
 果 断

 いんぺい

隠蔽捜査2
 
 

★★★


 山本周五郎賞をとった佳作である。
 前作が良かったので、期待して読んだ・・期待を遥かに上回っていた・・。
 息子の不祥事で、警察庁長官官房・総務課長から大森署の署長に異動になった竜
 崎。変人と言われながらも、信念を貫き通す姿が清々しさを生み、読後感が良い。
 「天使のナイフ」を読んだ時、これこそベスト1だと思ったが、隠蔽捜査2を読んだら、こ
 ちらの方が、より好みに合っていると思ってしまった・・。思わず笑ってしまう場面が
 随所に登場する。
 前作で所轄の嫌な刑事として登場した「戸高」が、後半の鍵を握ってくる。
 緊急配備の指令が出て、消費者金融を襲った三人組が大森署の管内を逃走した。
 緊急配備を潜り抜けた二人は他管内で捕まったが、一人は行方不明。
 そのうち、小料理屋での諍いがあったことに気づいた竜崎はその後の経過を追い、
 立てこもり犯に辿り付いた・・・。
 SIT(捜査一課特殊班)とSAT(狙撃班)・・どちらが動くか・・判断は現場に詰めた竜崎
 に任せられた。
 射殺は果たして適切だったのか。死んだ犯人の銃に実弾は残っていなかった・・。
 首席監察官・小田切の容赦ない追求。
 幼馴染?の伊丹刑事部長。
 胃の痛みから血を吐いて入院した妻の冴子。
 アニメ(風の谷のナウシカ??)のことを話す息子の邦彦。
 家族も登場させながら、竜崎の生きざまが語られる・・・これは凄い!!
 防犯対策委員会でPTA役員を前にして竜崎が教育やプライバシー、警察への協力
 などをかたる場面も参考になった。 
疑 心
隠蔽捜査3

★★★

  アメリカ大統領の訪日が決まり、竜崎は突然方面警備部長を命令される。
 かつての部下で女性キャリアの畠山美奈子の出現に心を揺さぶられる
 竜崎に敵対する野間崎方面本部管理官、大森署の貝沼副署長等のほか
 上司にあたる年下の方面部長も登場する。
 畠山美奈子への恋心を持てあました竜崎が相談した相手は伊丹・・。
初 陣
隠蔽捜査3.5
★★★
 竜崎の幼なじみで刑事部長の伊丹俊太郎が主役。
 伊丹が苦況に陥った時に電話をかける先は大森警察署。署長室・・・。
 この隠蔽捜査は目が離せなくなってしまった。続刊が待たれる。
転 送

隠微捜査4

★★★

 このシリーズは本当に面白い。
 一気に読むのがもったいなくて少しずつ読んだ。
 今回は公安、外務省、厚生省を巻き込んだ麻薬にからむ事件。
 竜崎一流の「当然」のことが主張される。
 --------------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 相次いで変死した二人の外務官僚。捜査をめぐる他省庁とのトラブル。そして娘を襲
ったアクシデント…。
 大森署署長・竜崎伸也に降りかかる難問の連鎖、やがて浮かび上がった驚愕の構
図。すべては竜崎の手腕に委ねられた!極限の緊迫感がみなぎる超本格警察小説シ
リーズ最強の新作。 
宰 領

隠微捜査5

★★★

 待ちに待った最新作。
 6月に発行されて、図書館で数十人待ち・・12月にようやく手元に届いた。
 このシリーズ、文句なしに良い。ページをめくるのがもったいないくらい面白い!!
 竜崎のまっとうにして「当たり前」の考え方が心に響く。
 警視庁刑事部長・伊丹から誘拐班の潜伏先とみられる横須賀行きを命じられた
 竜崎は前線本部の指揮を任せられ、独自の判断をする。
 伊丹の言う警視庁の 突入部隊SITではなく神奈川県警のSTSを使う・・・。
 時間がない・・地元のことを知っている者たちが良い・・。
 竜崎の決断はSTS達を奮い立たせる。そして神奈川県警のたたき上げ、刑事課長
 板橋も・・・。
 --------------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 大森署署長・竜崎伸也、今度の相手は「要人誘拐」そして「縄張り」――。
 大森署管内で国会議員が失踪した。やがて発見された運転手の遺体、犯人と名乗
 る男からの脅迫電話。
 舞台は横須賀へ移り、警視庁の“宿敵”神奈川県警との合同捜査を竜崎が指揮する
 ことに。
 県警との確執、迷走する捜査、そして家庭でも予期せぬトラブルが……
 全ての成否は竜崎の決断が握る! 白熱度沸点の超人気シリーズ最新長篇。 
自覚 

隠微捜査 5.5

★★★

 隠微シリーズは本当に素晴らしい。
 読み進めるのがもったいなくて、少しずつ慎重に?読む。
 こんな本はこのシリーズ以外には少ない。

 大森署長の竜崎と署内の各課の課長への指示。またかつての部下の悩み、
  伊丹の失態・・・。それらへの竜崎の対処は彼自身には当たり前なのだが
 ふれあった人々の心を掴む。

 副署長の貝沼は、婦女暴行未遂事件が自分の耳に入る前に新聞に
 すっぱ抜かれ、竜崎に知られないように新聞を隠す。そして、容疑者は無実では
 ないかと考えて釈放しようとするが・・・。

 ハイジャック犯阻止のためのスカイマーシャルの訓練に出された畠山美奈子。
 男たちに混じって訓練を受けるが、すっかり自信を喪失。かつて上司だった竜崎に
 電話をかけることを思いついた。竜崎は「どうして女性であることを利用しないのか」
 と 言う。比喩でもなく皮肉でもなく・・・。
 訓練を終え、男たちが東京駅で別れる時、美奈子に向かって一斉に挙手の敬礼を
 した。
 ここを読んだ時、涙が出た。

 第二方面本部長となった弓削は、野崎管理官の「大森署長が問題」という話を
 聞き、竜崎を呼び出したが事件発生で来られない言う。ならばと大森署に出向く。
 しかし、竜崎は現場に出ているという。署長自ら。
 本部長が来ているから署に戻るようにと言われて、竜崎はあっさり帰ってきた。
 人事を尽くして天命を待つ・・・やるべきことをやったので閑が出来たのだという。

 戸高が強殺事件の犯人に銃を発砲。怪我を負わせた。マスコミはどう騒ぐか、
 関本刑事課長は頭を抱えるが・・・。
 「あの署長には学ぶべきことがまだまだ山ほどある。いつまでも大森署長でいて
 ほしい」

 緊配がかけられた現場で、新米の「卒配」警官が職質をかけながら取り逃がした。
 その失態を責める関本刑事課長、本部の捜査員。久米地域課長は困惑するが、
 何としても新米警官を守ろうとする。
 野間管理官もやってきた。
 野間たち一行5人を前に、竜崎は「ここであなたがたが何をやっているのか、不思
 議でならないと」という。
 竜崎に呼び出された新米警官は、実は重大なことを掴んでいた。窃盗常習犯の
 「猫ぬけのタツ」を以前に近くで見かけていたのである。だから職質をかけたのだ。
 事件が解決して、関本が久米に言う。
 「あんたは部下を育てるのがうまいな」

 検挙率アップ・・それは簡単。少しでも方に触れる者を構わずどんどん署に連れ
 てくる。
 解決困難と思われる事案や市民の訴えに耳を傾けないこと・・・戸高達が上から
 の通達に対して取った行動である。

 大森署管内で殺人事件が発生。
 痛みは張り切って参加するが、竜崎は伊丹が参加するのであれは署長は必要
 ないと欠席。
 やがて、宅配便を装った男が浮上。室内に指紋もあったので伊丹は送検に踏み
 切った・・。
 まちがいなく犯人と思われたが。 
--------------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 この男の行動原理が、日本を救う! ?変人?警察官僚の魅力が際立つ超人気シリ
 ーズ第七弾。
 署長・竜崎伸也はぶれない。
 どんな時も――誤認逮捕の危機、マスコミへの情報漏洩、部下たちの確執、検
 挙率アップのノルマなど、大森署で発生するあらゆる事案を一刀両断。
 反目する野間崎管理官、?やさぐれ刑事?戸高、かつて恋した畠山美奈子、そして
 盟友・伊丹刑事部長ら個性豊かな面々の視点で爽快無比な活躍を描く会心のス
 ピンオフ! 

漏 洩

隠微捜査外伝

★★★

 大森署管内で連続婦女暴行事件が発生する中、一人の男が現行犯逮捕された。
 それを一社だけにすっぱ抜かれてしまった・・・。これは誤認逮捕なのか。
 副署長の貝沼は竜崎署長にそのことを言い出せない。
 二人の会話が本当に可笑しい。 
 「誤認逮捕かもしれません」 
 「それで、何が問題なんだ」 
 「・・・」 
 「捜査情報が漏れたとしたら、確かに問題だ。だが、被疑者を逮捕した事実は何も
    捜査上の秘密ではない。・・」
  「誤認逮捕は、問題はある。・・・だが、取り返しのつかない間違いではない。」
  「本庁の上層部が何か言って来ませんか。」
  「本庁の上層部?警察官よりマスコミを大切にする上層部なんていると思うか?」
 小説新潮歴代受賞作家・読みきり競演に載っていた。15ページほどの小編である。
海に消えた

   神々

 沖縄の海に人口の石造物が沈んでいるが、そのことをもとにミステリーに仕上げた
 ものである。
 参考文献「ムー大陸は琉球にあった」以下10数冊があげられている。
 元警察官で私立探偵の石神は、園田圭介から同級生・仲里麻由美の父の無念を晴
 らしてほしいとの依頼を受けた。
 仲里博士は沖縄の海を調査していたが、石版を捏造した疑いを持たれて自殺したと
 言う。
 石神は助手の明智、仲里麻由美とともに沖縄に向かい事件の解明に乗り出した・・。
 事件は意外に結末を迎えるがそれほど大したことはない。作者が書きたかったのは
 「沖縄の海底遺跡」と思われる。作者の特技の一つである「ダイバー」が登場する。
パラレル

 ★★★

 得意の刑事ものかと思って読み始めたのだが・・。
 深夜の人気のない道路で営業マンが少年3人の死体を発見。傍らにうずくまる女。
 続いて起こる二つの殺人事件。いずれも悪がきの少年達が被害者である。
 捜査にあたる神奈川県警の高尾・丸木。
 警視庁の冨野。
 しかし、これは刑事ものというよりはSFの色が濃い。
 「オズヌ」と名乗る賀茂晶は役小角が憑依した高校生。脇を固める役の高校教師・
 水越陽子。元暴走族の赤岩猛雄。
 「亡者」を祓う「鬼道衆」の鬼頭光一。
 「外道」を祓う「奥州勢」の安倍孝景。
 整体師で武道の達人・美崎照人。
 摩訶不思議な「オズヌ」の力を得て事件は解決に向かう。
 少年犯罪と法体系の不備にも深く切り込んでいる。
 犯人(首謀者)は実は・・・。
半夏生
 テレビドラマにもなっている「ハンチョウ」東京湾臨海署安積班シリーズの一作。
 (安積は他の警察署でも活躍するらしいが)
 東京台場で、一人の外国人が倒れた。病名不明のまま間もなく死亡する。
 新たな病原菌をばらまくというテロなのか・・・。公安、内閣調査室が動きだし、現場
 は緊張感に包まれる。
 安積警部率いる安積班の二人も病院に収容されるが、しぶとく情報収集に励む。
 ホームレスになつたばかりの原田は、外国人が倒れた際に真っ先に近づいたため
 事件に巻き込まれるが・・・。この原田の平凡な、しかしホームレスに成り果てるいき
 さつや考え方も、小説の脇役として捨てがたい。
凍土の密約
 図書館倶楽部である方が印象に残った本として紹介しておられたので図書館で借
 りて読んだ。今野敏の6冊目である。
 警察物であるが、公安官が主役。公安の世界からた見た事件捜査というのも興味
 を惹かれた。凍土の密約は太平洋終結の頃・・・。留萌と釧路を結ぶ・・・。
 以下は内容(「BOOK」データベースより)
 赤坂で殺人事件発生―被害者は右翼団体に所属する男。警視庁公安部の倉島は、
 なぜか特捜本部に呼ばれる。二日後、今度は暴力団構成員が殺された。さらに、
 第3、第4の事件が…。殺人者はプロ、鍵はロシア。倉島が、敵に挑む―。 
白夜街道
 今野敏の7冊目。この作家はどれを読んでもはずれがないような気がする。・・・・・・・・
 公安の捜査員・倉島は、かつて元ロシアのKGB・ヴィクトルと敵対して本当の恐怖を
 味わったことがある。そのヴィクトルが日本に再上陸したという・・。
 内容(「BOOK」データベースより)
  外務省職員がロシア貿易商と密談した後、怪死した!その貿易商と一緒に来日して
  いたのは、元KGBの殺し屋・ヴィクトルだった!警視庁公安部・倉島警部補は二人を
  追ってロシアへ飛ぶが…。マフィアとテロリストたちをも巻き込んだ緊迫の追跡捜査
  を描く、超硬質アクションノヴェル。  
わが名は
オズヌ
 以前「パラレル」を読んだ時に登場した「オズヌ」。
 このオズヌが初登場する本である。シリーズ初版。 
 内容(「BOOK」データベースより)
“いま平成の巷をゆるがす一七歳の反乱”―伝奇アクション小説の手錬れが放つ痛快
巨篇待望の文庫化成る。荒廃した学園を廃校にしニュータウン建設を諜る利権政治家
とゼネコンの策謀に戦いを挑む一七歳の高校生の一団。主人公・賀茂晶とその仲間た
ち。なんと賀茂の全身にみなぎる呪術のパワー。それは千年の時空を超え、平成の
闇を打ち砕くべく甦った修験道の開祖・役小角(えんのおづぬ)そのものであった。小角
が賀茂の身体に転生したものであった。圧倒的な非道の力で迫る権力の前に一七歳
の反乱が一矢を報いることができるのか―。 
警視庁
神南署
病院に入院する前にブックオフで仕入れた本。
テレビに入っていた安積班シリーズの一作。ヤクザに頼ることの恐ろしさが語られる。
----------------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 東京・渋谷で銀行員が少年数人に襲われ、金を奪われる事件が起きた。新設されて
間もない神南署の安積警部補たちは、男の訴えにより捜査を開始した。だが、数日後、
銀行員は告訴を取り下げてしまう。一体何があったのか?そして今度は複数の少年が
何者かに襲われる事件が…。
 二つの事件を不審に感じた刑事たちが、巧妙に仕組まれた犯罪に立ち向う!ベイエリ
ア分署シリーズの続編、待望の文庫化。  
東京湾臨界署
 安積班

花水木

  ★★★

 五つの短編集からなっている。ハンチョウ・安積のもとに集まる部下達の個性が
 引き立つ。
  ・花水木  ・入梅  ・薔薇の色  ・月齢  ・聖夜
東京湾臨界署
 安積班

陽炎

★★★

 

 ハンチョウ・安積の部下・部長刑事のの須田、村雨。
 太っていて動きも緩慢な須田は一見無能のように見えるが、事件を読む独特の勘を
 持っている。今回は、須田の能力が発揮される短編集と言ってよい。
 須田をうまく生かす安積も大したものである。
 最後に掲載されている「陽炎」。これは秀作である。感動する本に載せてしまった。
 予備校生・康太は気晴らしに海を見に来ただけだったのに・・・。
 小用を足そうと思った先に水着の女性たちがいいて・・・逃げ出した先の交差点で
 通りかかった車同士が衝突。さらに角を曲がったところで老人とぶつかった。
 逃げる康太は、ワゴンをひっくり返し近くにいた女の子を人質に立て籠もる・・・。
 とんでもない展開にビルから飛び降り死のうと考える康太・・・。
 なぜか女の子が止める。この女の子も友達に裏切られ希望を失っていた。
 取り巻いた警察官の中から安積が呼びかける・・・。
 「君は何をしたと思っているのだ・・・」
 この場面、どこか間の抜けた笑いを誘うようでいて・・・安積の優しさが伝わってきて
 感動する。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 東京湾にまたがるレインボーブリッジで、乗り捨てられている車が発見された。
 乗用車には、男女の連名で遺書らしきものが遺されていた。東京湾臨海署・刑
 事課強行犯係の安積警部補は、指令を受け、部下の須田と黒木を現場に向か
 わせる。
 果たして、追い込まれた男女の心中事件なのか?だが、現場から戻った須田刑
 事からは、『偽装心中』という意外な言葉が―。
 須田の仮説を信じる安積たちは、謎に包まれた事件の真相に辿り着けるのか!?
 (「偽装」より)。表題作を始めとする八編を収録した、大好評新ベイエリア署シリ
 ーズ待望の刊行。 
東京湾臨界署
安積班

 烈 日

  ★★★

 安積班のグループ分けの実態や、一人ひとりの個性、人間関係が詳しく語られてい
る。これを最初に読めば、テレビ放映されている「ハンチョウ」も違った見方が出来たの
かもしれない。(ただ、原作とテレビでは村雨のイメージがちょっと異なる。)
それにしてもこれは秀作である。
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 出版社の本の紹介から
 新しく庁舎が建てられた東京湾臨海署の刑事課に新たな刑事が配属された。安積班
にやってきたのはなんと水野真帆という女性だった。
鑑識課出身で、歪に膨張した水死体にも怯むことのない水野。だが、彼女には意外な
コンプレックスがあった・・・・・・。新顔の女性刑事は果たして安積班の一員として活躍
することができるのか(『新顔』より)。
安積、村雨、須田、黒木、桜井、交通課の速水、それぞれの物語を四季を通じて描く、
大人気警察小説、ついに刊行! ドラマでは味わうことの出来ない原作に感涙必至。
ヘッドライン

  ★★★

 

 やはり今野敏は良い。
 他の作家の本を読んで、なかなか進まない時はこの作家の本に戻れば良い。
 隠微捜査の竜崎や、安積班の安積警部補とは別の主人公・テレビの報道記者が
 主人公というのも興味深い。
 報道記者・布施が六本木の盛り場を行く場面が印象的である。アフリカ系をはじめ
 外国人がたむろする中を。
 布施はこのような場を徘徊し情報を得ているのだが、本人に言わせるとただ飲んで
 楽しんでいるだけ・・。今回もそんな場所でアメリカのCIA関係者と知り合ったという。
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 出版社商品の説明・・・内容紹介から
 夜11時の報道番組「ニュースイレブン」の記者である布施は、独自の取材で何度も
スクープをものにしている敏腕記者だが、会議には出ない、夜遊びがすぎる、など素行
に問題ありとしてデスクの鳩村からは睨まれている。
 最近、独自に布施が調べ始めたのが、1年前の猟奇的殺人事件。しかしこれは、未
解決事件の継続捜査を扱う警視庁捜査一課第二係の黒田が担当している事件でもあ
った。布施はまだ警察が掴んでいない何かに気づいているようだ…行きつけの飲み屋
で布施と話した黒田は、手詰まり感のある捜査状況を打開するため、布施に張り付く
ことにする。
 やがて、この事件には「マルガ教団」という新興宗教団体が関与しているのではない
かという疑惑が浮上する。一方、「ニュースイレブン」の女性キャスターの香山もこの未
解決事件に興味を抱き、布施とふたりで取材をすることになるが…。 
 化 合

★★★

 深夜の公園で殺人事件発生。
 珍しく現場に姿を見せた検事は「自白」を何より重視して、早期解決を図ろうとする。
 地元板橋署の刑事・滝下と組んだ本庁若手の刑事・菊川は、そもそも被害者と第一
 発見者の自宅から遥かに離れた板橋で事件が起こったことに疑問を抱くのだが、捜
 査本部の方向は検事主導で異なる方向に向く。イベントサークル主催者だった被害
 者に金銭を貸し、取り立ててをしている男が「紺色」のスーツを着ていたという理由で
 引っ張り自白をさせるという・・・。
 最初凡庸に見えた滝下刑事だったが、かつての失敗をもとに真実を追求する本物の
 刑事だった。やがて、第一発見者はホステスを自宅に送っていったことわかる。
警視庁FC
 警視庁に映画撮影の警護を担当する部署が誕生した。それが警視庁FC。
メンバーは室長の長門警視。まる暴の山岡、交通課の服部、静香、俺(楠)の5人。
やがて映画撮影が始まるが、突如殺人事件が発生する。被害者は助監督。犯人
は監督か、大女優か。
 手がかりがまったくないまま時は過ぎる。
 やがてプロデューサーの失踪が判明。謎は深まるばかり。楠は調査を命じられ、
山岡と一緒にヤクザの事務所を訪ねる・・・。
 分厚い本なのに最後まで目を離せず読ませられる。
 三分の二くらいを読んだ辺りで「もしや」という予感があったが、その予感は外れ
ていなかった。
 今まで読んだ今野敏の本の中では軽めの部類に入る。
最後の

戦慄

 考えてみれば今野敏はこの本のような格闘ものを数多く書いているのである。
 刑事ものを中心に読んできたので勘違いしがちになる。
 この本は近未来に(といっても現代と大してかわらないが)、人間をサイボーグ化し
 無敵に仕上げたゲンロク・コーポレーション社の脅威に立ち向かう者たちの物語。
 レッド・アメリカと呼ばれるキューバ、ニカラグアで人間業とは思えないほどの
 大量の惨酷殺人が行われた。誰が何のために・・・。内閣情報室から依頼をうけた
 名高きテロリストのアキヤマは、中国武術家の陳老人はじめ伝説のテロリスト三人
 ととにサイポークと化した恐ろしい者たちに戦いを挑む。
 かつての恋人・ジョナ・リーもサイボーグとなっていたが、アキヤマに協力するように
 なる。
 最終章、アキヤマ達はゲンロク・コーポレーション社に乗り込む・・・。
リ オ
 温泉で読んだ。
 ページ数が多いがどんどん読み進められる。
 容姿がはっきり目撃されているわりになかなか姿を現さないリオ。
 しかし、事件は次々と起こる・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 「彼女が容疑者だとは、思えない」警視庁捜査一課強行犯第三係を率いる樋口警部
補は、荻窪で起きた殺人事件を追っていた。デートクラブオーナーが殺害され、現場か
ら逃げ去る美少女が目撃される。
 第二、第三の殺人が都内で起こり、そこにも彼女の姿が。捜査本部は、少女=リオが
犯人であろうという説に傾く。しかし、樋口の刑事の直感は、“否”と告げた。
名手が描く本格警察小説。 
横浜みなと
みらい署暴対係

防波堤

 ヤクザが本当に嫌いな諸橋。
 徹底して戦う短編集。
 軽い感じでどんどん読み進められた。
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内容紹介より
 神奈川県警みなとみらい署の暴対係長・諸橋は「ハマの用心棒」と呼ばれ、暴力団
から恐れられている。昔馴染みのやくざ・神野の唯一の組員・岩倉が身柄を拘束され
た.素人に手を出したという。神野がそんなことをするはずがない。陽気なラテン系の
相棒・城島とともに諸橋は岩倉の取調に向かった。
 表題作「防波堤」他、横浜を舞台に悪と戦う諸橋班の活躍を描く6篇を収録。 
東京湾臨界
 安積班

夕暴雨

  ★★★

 どんどん読んで半日で終わってしまった。面白い。
 東京湾臨海署の新庁舎が完成し、移転の準備が進んでいる。そんな中でコミコンの
イベント会場爆破の予告がネットに入る。安積たちの警護にも関わらず、トイレで爆発
が起こる。果たして犯人は・・・。狙いは・・・。被害にあったのは5人。全く面識はない。
ただ、その時偶然トイレに居合わせていた・・・。
 強行犯が2つの犯を持つことになり、二班の班長になったなった相楽は功名心に走
るタイプで安積とはそりが合わない。そんななか、安積班は模索を繰り返す・・・。
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内容紹介より
 東京湾臨海署管内で大規模イベントへの爆破予告がネット上に流れた。安積警部
補率いる班と相楽班は警戒警備にあたるが、爆破は狂言に終わる。
 だが再び、翌週のコミックイベントへの爆破予告がネット上に書き込まれた。前回と
違う書き込みに、予告の信憑性を訴える須田刑事。須田の直感を信じた安積は、警
備の拡大を主張するが、相楽たちの反発をうけてしまう。迫り来るイベントの日。安積
班は人々を守ることができるのか? 異色のコラボが秘められた大好評シリーズ
 確 証

★★★

 これは楽しく読めた。
 今野敏には安積班の他にもいろいろな主役が登場する。
 今回は警視庁捜査3課盗犯係の萩尾と相棒となった女刑事・秋保の今羽が活躍する。
 イブや管内の宝石店が強盗に入られた後、12時間後に別な店で鮮やかな金庫破りが
 発生する。指紋照合でなければ開錠できないという金庫を見事に破った手口。萩尾は
 情報屋の迫田を疑う。
 今は車いす生活だが、かつては盗みが生きがいだった男である。
 そして起こる強盗殺人事件。3つの事件に関連があるとにらんだ萩尾の前に捜査一課
 の強引な面々が立ちふさがる。
 三番目の事件で、なぜ殺人が行われなければならなかったのか。そして開かれてい
 た金庫。盗みの現場にそぐわない二つの点が萩尾の心象から離れない・・。
ペテロ
 今回の主役の相棒は外国人教授のアルトマン?
 殺人現場に残された「ペトログリフ」の意味を探るよう捜査本部から言われた碓氷刑事
 は専門家を調べていくうちにアルトマン教授に辿り着き、その慧眼に一目置かされる。
 そして教授の仮推理?をもとに解決への道をつき進む。
 今回はアクションや意外などんでん返しもなく、「推理中心」の形になっている。
 大学研究室の複雑な人間関係や思惑が絡んでいる。
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 内容紹介より
 高名な考古学教授の妻と二番弟子が相次いで殺された。それぞれ現場の壁には異な
 ったペトログリフが刻まれていた。日本の神代文字と、メソポタミアの楔形文字だ。
 これらは犯人が残したものなのか?その意味は?
 警視庁捜査一課の碓氷弘一はペトログリフに詳しい人物を探し求める。そして出会った
 のは、考古学・言語学・民俗学に通じ、さらに鋭い議論のテクニックを持つ、風変わりな
 外国人―ジョエル・アルトマン教授だった。
 刑事も教授も、真実を究める姿勢は同じ。捜査のプロと学問のプロが、強力タッグで犯
 人を追いつめる。 
欠 落
 

★★★












 

 これは面白い。
 今野敏ワールド。そのものである。

 警視庁捜査一課の宇田川は、同期の二人としたしく酒を飲む間柄だった。蘇我は免職
 となったが、公安の仕事を続けているらしい。もう一人の大石(女刑事)は警視庁・SIT
 に配属された。

 やがて起るふたつの事件。
 一つは宇多川も捜査に参加する「身元不明の女性死体」。
 もう一つは「立てこもり」である。SITの大石は犯人説得に向かい、人質交換で犯人と
 一緒に行方をくらます。

 大石のことを気付いながらも、別の事件捜査に手り組むしかない宇田川。
 やがて事件は意外な広がりを見せる。三鷹署、沖縄管内で同じような身元不明の女性
 死体遺棄事件があった。執拗な捜査にも関わらず、身元が全くわからないという点が
 類似している。
 やがて、三警察署の合同捜査になるが、どうも今一つ、合同の感じがしない。
 公安から柳井警視正が参加。公安主導で何が起こっているのか。
 釈然としないタガの緩んだような活動。大石はいったいどうなったのか・・・。

 後半は、公安中心のような感じを呈するが・・。
 それにしても、マンネリのようでありながら、次々と新しいネタをもとに書かれる刑事も
 のは面白い。
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 内容紹介より
 SITに配属になった同期の女刑事が、身代わりとして監禁事件の人質になった――。
 警視庁捜査一課の刑事・宇田川は、別の殺人事件を追いながらも、彼女の安否が気
 にかかる。自らが関わる事件は、公安主導の捜査に変わっていき、宇田川は姿を消し
 ている元同期、蘇我との連絡を試みるが……。
 20万部突破、今野敏の集大成的警察小説『同期』のシリーズ第2作。
 この組織には、刑事によって解決されるべき謎がある。 

東京湾臨界
 安積班

晩 夏

★★★

 今野敏のこのシリーズは、事件の捜査過程が面白い。深まる謎や予想外の展開、
 意外な犯人という点では物足りないが、それらを補う面白さがある。
 パーティーで毒殺された男のグラスに交機隊の速水の指紋が付いていた。速水は
 暴走族から足を洗い会社社長の秘書をしている男の面倒を見、その男から招待され
 て、パーティーに参加していたのだ。
 速水は警察の取り調べを受けるが口を閉ざしたまま・・。
 速水の希望で面会を許された安積は、警視庁の捜査一課の若手刑事と組んで捜査
 にあたる。聞き込みで警視庁一課を鼻にかけ高慢な態度をとる谷口を(捜査に帯同
 を許された)速水が教育する?・・その様が面白い。やがて、谷口は安積の素晴らしさ
 に気づき始める
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 内容紹介より
 湾岸地域のクラブで毒殺事件が発生、そして漂流中のクルーザーからは他殺体が
 発見された。
 事件の重要参考人として浮かびあがったのは、安積の親友・交機隊の速水だった―。 
残 照

★★★

 速水がかなりの部分をしめる。
 これは興味深い。
 速水の運転のテクニック、暴走の取り締まり・・・凄さがいかんなく発揮されている。
 興味深い一冊。
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 内容紹介より
 東京・台場で少年たちのグループの抗争があり、一人が刃物で背中を刺され死亡
 する事件が起きた。直後に現場で目撃された車から、運転者の風間智也に容疑が
 かけられた。
 東京湾臨海署(ベイエリア分署)の安積警部補は、交通機動隊の速水警部補ととも
 に風間を追うが、彼の容疑を否定する速水の言葉に、捜査方針への疑問を感じ始
 める。やがて、二人の前に、首都高最速の伝説を持つ風間のスカイラインが姿を現
 すが…。興奮の高速バトルと刑事たちの誇りを描く、傑作警察小説。 
アクティブ
メジャーズ
 公安委員会。警察官なのだが、事件を追う刑事とは全く別な思惑で動く組織である。
 今野敏の手にかかるとこの組織の内幕が暴露された感じになる。
 興味深い本である。
 「凍土の密約」「白夜街道」の続編。
 事件は広範囲にわたるものではなく、意外な展開もない。
 倉島、配下に割り当てられた片桐、伊東との関わり(存在が希薄な男)と情報収集
 活動、また同僚の公安委員・白崎、西本らとの協力がずっと描かれる。
 公安のエース・葉山の動向を詐欺るのが仕事だったが・・・。
 葉山は、最後に「人的諜報活動」の大切さを言う。
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 内容紹介より
 警察庁警備局警備企画課の情報分析室「ゼロ」の研修から戻った倉島警部補に
 下った新たなミッション。
 それは、同僚で公安外事課のエース、葉山の動向を探ることだった。同じ日、新
 聞社の編集局次長が、マンションから転落して死亡した。自殺の線で事件を幕引
 きしようとする所轄の方針に、本庁と倉島は疑念を抱く。
 マスコミ界の大物の死、そしてエース公安警察官に降りかかる疑惑。
 二つを結ぶのは、謎の女性。マスコミ、ロシア、そして公安部と刑事部。
 さまざまな思惑が入り乱れる状況を、倉島警部補はどう読み解いていくのか。
 知的興奮がとまらない、国を守る公安警察官を描く警察小説。 
エチュード
 青森の温泉に行って、風呂に入った。大広間で休んでこの本を読みながら
 しばらくしてまた風呂に入る・・・そんなことを繰り返しているうちに読んでしまった。
 今野敏の本は、ダイナミックな展開が少なく、捜査本部でのやり取りや、聞き込みを
 通しての新事実の発見、新たな推理などが描かれていくのでどんどん読ませられる。
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 渋谷・新宿で相次いで発生した無差別殺傷事件。
 警察は衆人環視のなか、別人を現行犯逮捕するという失態を繰り返してしまう―。
 「犯人だ」と叫んで、逮捕に協力した男は気が付くと居なくなっている。しかも、
 駆けつけて犯人?を取り押さえた交番の巡査たちは、誰ひとり、「協力した男」の
 人相、風体を覚えていない。その男のことを思い出そうとすれば、犯人の顔かたちと
 重なってしまう・・・。
 心理調査官・藤森紗英は、「手品」のようなものではないかと考える。
 三回目の事件で犯人が残したつぶやき「エチュード」とは・・紗英のプロファイリングが
 次第に描かれていく・・・。
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内容(「BOOK」データベースより)
 渋谷・新宿で相次いで発生した無差別殺傷事件。警察は衆人環視のなか、別人を
 現行犯逮捕するという失態を繰り返してしまう―。
 警視庁捜査一課・碓氷弘一は心理調査官・藤森紗英を相棒に巧妙な「犯人すり替え」
 トリックの真相に迫る。 
虎の尾

★★★

 これは面白い。
 空手3段、棒術4段という作者の、格闘家としての姿勢や考えが描かれている。
 一瞬で相手の関節を外すことはできるのか。竜門の師匠・大城はできるという。
 大城はその使い手に心当たりがあるらしい・・・。
 竜門は修行途中の自分を強いとは思っていないが、大城は竜門こそ最強の使い手だ
 という。
 空手は自然体から繰り出すのが良い。構えてしまうと攻撃が限られる。
 相手からの仕掛けを利用する・・カウンターのような攻撃が一番・・・。
 沖縄人は本土の人と根本では理解し合わない・・・辛酸の歴史を持つ沖縄人の想い
 にも触れている。
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内容(「BOOK」データベースより)
 渋谷署強行犯係の刑事・辰巳は、整体院を営む竜門のもとを訪れた。琉球空手の
 使い手である竜門に、宮下公園で複数の若者たちが襲撃された事件について話を
 聞くためである。
 被害者たちは一瞬で関節を外されており、空手の使い手の仕業ではないかと睨ん
 でいたのだ。
 さらに竜門の師匠、大城が沖縄から突然上京してきた。彼もまた、この事件に興味
 を持っているらしい…。
 傷害事件の犯人を探るため、辰巳、竜門、大城は、夜の渋谷へ繰り出した―。
 異色タッグが帰ってきた!人気シリーズ最新刊!! 
連 写 

TOKAGE 3 

特殊遊撃捜査隊

 事件そのものはコンビニ強盗である。
 「トカゲ」が加わったのは、同じように事件が続き、しかも、機動性に富むバイクを
 使っているという点である。
 急展開は終盤だけで、平板に流れる。「とかげ」の上野、白石涼子達の役割、
 組織の内部、パトロールなどの大変さ・・・そういうものはよく描かれているが、
 とかげの凄さ、神秘性・・などをもっと強調してほしかった。
 終盤「宝石の展示会」が登場するが、緊迫感が足りない。
 ------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 東京都内でバイクを利用したコンビニ強盗が連続発生。
 しかも国道246号沿いに集中している。
 警視庁の覆面捜査チーム“トカゲ”にも召集がかかる。
 上野数馬と白石涼子は捜査本部が置かれた世田谷署へと急行、新設されたIT捜査
 専門組織・警視庁捜査支援分析センターも総動員されるが、解決の糸口が見つから
 ない…。
 漆黒のライダーはどこへ消えたのか? 
廉 恥

★★★

 安積班の本と似ているところがある。
 真っ直ぐな生き方は「隠避捜査」の竜崎とも共通するところがある。
 主役・樋口(係長)の警察内での心構え、上司、仲間への気遣い、それらが犯人の
 追求より重視されている感じがする。
 殺人事件の犯人はある意味では意外だが、ありふれた設定である。
 (現実の事件だと初期の段階で犯人が割れるのではないか・・。)
 謎ときの妙はさほどないが、娘との論議なども、読みどころがある。  
 ------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 世田谷署の刑事・樋口彰は、争い事が嫌いで、誰かとぶつならないように一歩いて
 いるところがある。
 だが、警察内ではそんな性格は協調性があって冷静沈着だと評価され、捜査一課の
 係長に抜擢されている。
 ある日、世田谷署に殺人事件発生の一報が入った。被害者は、水商売の若い女・南
 田麻里。
 刑事として事件を追う樋口のもとに、耳を疑うような情報がもたらされた。
 公立中学や高校に送られた脅迫メールの発信源リストの中に、樋口の娘・照美の名
 前があることが分かったのだ。
 警察官の自宅に強制捜査が入れば、マスコミの餌食になることは確実で、処分も免
 れない。
 そんな中、樋口に更なるピンチが訪れる。
 被害者の麻里が警察にストーカー被害の相談をしていたことを、新聞社の記者が嗅ぎ
 付けてしまった。
 ストーカー絡みの殺人を未然に防ぐことができなかったとなれば、警視庁幹部の責任
 は免れない。
 苦悩の中、樋口は刑事としての職務を全うしようとするがーー。
 警察小説の名手・今野敏が「もっとも等身大の自分に近い」と語る刑事を描いた、傑
 作ミステリー! 

 警視庁強行犯係・樋口顕のもとに殺人事件発生の一報が入った。被害者は、キャバ
 クラ嬢の南田麻里。麻里は、警察にストーカー被害の相談をしていた。ストーカーによ
 る犯行だとしたら、マスコミの追及は避けられない。
 浮き足立つ捜査本部は、被疑者の身柄確保に奔走する。そんな中、捜査の最前線に
 立つ樋口に入った情報―公立中学や高校に送られた脅迫メールの発信源リストの中
 に、樋口の娘・照美の名前があったという。警察官の自宅に強制捜査が入れば、マス
 コミの餌食になることは確実で、処分も免れない。樋口は更なる窮地に立たされた―。
 組織と家庭の間で揺れ動く刑事は、その時何を思うのか。 

東京湾臨海署
安積班

 捜査組曲

★★★

 これは秀作。
 安積が主人公のものは多いが、これは安積班長(警部補)と、その班員、周囲の人々
 をそれぞれ主人公にした短編集。

 組織を動かすものはなにか。
 人の心をつかんで組織を動かすものはなにか、考えさせられる。
 今野敏の文は簡潔にしてスピード感がありどんどん読める。軽々しい印象を受けるが
 テーマは深い。

 名作「隠微捜査」シリーズを思わせる。正義と組織のあり方が語られている。
  ・安積班の須田、村雨、黒木、桜井、水野がより身近に感じられる。
  ・鑑識の 石倉
  ・強行班2係で安積と張り合う相楽
  ・刑事課長
  ・そして交通隊の速水
  ・・・・
 速水が課長に言う
 「不協和音が組織に味わいや深みを与える」
 このことばも深い。
------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 お台場のショッピングセンターで、放火との通報が入った。安積班のメンバーが
 臨場した時には、警備員がいち早く消火活動を始めたので一大事にならずに済んだ。
 警備員に話を聞いた須田は、何か考え込んでいるようで・・・・・・。三日後、またして
 も同じショッピングセンター内で、強盗未遂事件が起きる――。珍しく須田が、この事
 案をやらせてくれと安積に頼むが・・・・・・(「カデンツァ」より。)
 安積班のメンバーをはじめ、強行犯第二係長・相楽、鑑識係・石倉、安積の直属の上
 司・榊原がそれぞれの物語を音楽用語になぞらえて描く、安積班シリーズの最新短
 篇集、待望の刊行。 

 スクープ

★★★

 これは面白い。
 主役の記者・布施と刑事・黒田。
 会えば、嫌い合っているような態度しかとらないがともに認め合っている。
 事件を追う嗅覚、行動が似ているのである。
 そして、布施はいつも危ないところを危機一髪で黒田に助けてもらっている。
 夜の酒場を徘徊し、神出鬼没。こんなところに・・・というような意外な場所に
 布施は根を張り情報を得ている。
 TBNの番組制作スタッフのひとり、女性アナウンサー・香山も布施の信者の
 ようなものである。
 布施は言う。「事件を解決しよう思って動いてるわけじゃない」
         「事件に遭っているひとを助けたい・・・それだけなんだよ」
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 内容(「BOOK」データベースより)
  TBNテレビ報道局社会部の布施京一は、看板番組『ニュース・イレブン』
  所属の遊軍記者。
  素行に問題はあるものの、独自の取材で数々のスクープをものにしてい
  る。時には生命の危険にもさらされるが、頼りになるのは取材ソースのひ
  とりでもある警視庁捜査一課黒田裕介刑事の存在だ。
  きらびやかな都会の夜、その闇に蠢く欲望と策謀を抉り出す。 
マル暴 甘糟
 

★★★

 面白い。
 組織犯罪対策係、いわゆるマル暴。甘糟はここに配置されてから自分には
 本当に向いていないと思っている。
 しかし、そんな本人の気持ちとは裏腹に結構やくざに気に入られたり、事件
 解決に重要な役割を果たしていくのが不思議・・・。
 群原にどやされながら。
 本庁から来た遠藤。権力をひけらかすだけの刑事かと思われたが、いつの
 間にか群原と協力し合うのも良い。
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 商品の説明・内容紹介より

 「事件発生?嫌だな…」史上最弱(?)の刑事登場! 

 撲殺事件の裏にあるのは暴力団の抗争か、半グレの怨恨か――
 弱気な刑事の活躍ぶりに笑って泣ける、著者会心作! 

 甘糟達夫は、35歳の巡査部長。北綾瀬署刑事組織犯罪対策課に所属して
 いるマル暴刑事だ。
 ある日多嘉原連合の構成員、東山源一が撲殺されたという知らせが入る。
 現場の防犯カメラに映っていた不審な車の持ち主とされる男は、行方がわ
 からない。
 署内には20数名からなる捜査本部が立ち上がり、甘糟と、コワモテの先輩・
 郡原虎蔵も加わることになった。
 捜査本部には、警視庁本部から派遣された捜査一課の捜査員も加わるが、
 捜査は思いがけない方向に……。

 【主な登場人物】
  甘糟達夫(あまかす たつお)
  「俺のこと、なめないでよね」――北綾瀬署刑事組織犯罪対策課の巡査部
      長。弱気。
  群原虎蔵(ぐんばら とらぞう)
   「てめえの頭で考えろ! 」――甘糟の先輩であり相棒。コワモテ。
  梶 伴彦(かじ ともひこ)
   「このヤマは解決したも同然」――警視庁捜査一課の警部補。エリート。
  唐津 晃(からつ あきら)
   「ゲンをボコったヤツは誰だ?」――多嘉原連合の若頭。人情派? 

  
    

      

  
 
 
  川井 龍介・・
     
1956年 神奈川出身
慶應義塾大学卒
毎日新聞記者などを経てフリーに????
 さすがにプロのライターは凄いものである。
 自分が住んでいる土地のことをここまで仔細に書かれてみれば、ただ驚くばかりである。
 深浦高校の野球部のその後のことも克明に追いかけているところが素晴らしい。
           
けっぱれ!

深浦高校野球部

 1998年、夏、青森。
 東奥義塾対深浦高校の試合は午後2時に始まり、午後6時20分に終わった。
その3時間47分の間に、深浦高校は122対0という高校野球に例のない点を
とられる試合を戦い抜いた。

 この本はこの試合とそこに登場した監督、選手の行動や心理を克明に描いた
ものである。
 深浦高校の工藤慶憲監督、東奥義塾の小笠原一監督(なんと浪岡町の出身)
 選手は聞いたことのある名字ばかり・・・・。

 内外の関係者のコメントも多い。大田幸司、山田高校長、光星学園監督、高野
連・・・・・・・復活をかける最近の試合では、竹越さん、大高さん、校長の成田先生
教頭の尾崎先生まで・・・・・・いろいろな人が登場する。

この本を読んでわかった深浦のこと
 ・1972年に暴風による高波で線路が崩壊、広戸ー追良瀬駅間で機関車もろとも
  海に転落。運転手が死亡。
 ・1998年 他県からきた自動販売機あらし、トラックが海に転落して死亡事故が
  おきた
 ・1999年 ホンジュラス船籍の船が沖合で座礁した
 ・トウモロコシ畑を荒らした熊を射殺

 ・1969年 深浦高校軟式野球部が県高校総合体育大会で優勝。県内で敵なし

東奥義塾のこと
 ・選手は全力で戦った。主砲の珍田はダイヤモンドを約14周、距離にして1.5q
  を全力で走ったことになる。
 

   
     

 

  

  青 木 雨 彦・・
 
      
 深浦に居た頃、某所より譲り受けた本。
 内田康夫を片っ端から読み、乱読に耽っていた頃である。
 久しぶりにエッセイ風の物を読んで新鮮な感じがした。
 それにしても、この作家の語り口はどうだ。いきなり核心
 に入り、読み手である私を共犯者のようにして語りかけ
 てくる。あなたもお仲間でしょ・・・と言われて、そうですと
 答えさせずはおかない・・・。 
表紙裏の著者紹介から
 昭和7年横浜市生まれ翠嵐高、早稲田大学文学部卒。
 東京タイムズ記者などを経て、フリーのコラムニストになった。
 早川書房での執筆は昭和35年「エラリィ・クィーンズ・ミステリ・マガジン」(現ミステリマガジン)に
 「東京三面鏡事件記者日記」を連載したことに始まる。 その後、同誌にノンフィクション・ガイド、
  インタビュー・コラム「街角のあなた」を続け、昭和45年か らは、『いかなるミステリも、ミステリで
 ある前に、小説でなければならぬ』との視点に立つ軽妙洒 脱なミステリ・エッセイをほぼ中断す
 ることなく書き続けた。
 それらのエッセイは「夜間飛行」「課外授業」(日本推理作家協会賞受賞)「深夜同盟」「共犯関
 係」「酩酊証言」にまとめられている。
 「偽証転々」は6作目にあたり、著者が平成3年3月に逝去したため、最後のミステリイ・エッ
 セイ集 となった。          
    





小川 洋子 

      

 1962年 岡山生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。
   83年 「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞受賞。
   91年 「妊娠カレンダー」で第104回芥川賞受賞。
  主な著書
    「冷めない紅茶」「やさしい訴え」「ホテル・アイリス」
    「沈黙博物館」「アンネ・フランクの記憶」
    「貴婦人Aの蘇生」「偶然の祝福」「まぶた」など。
              (新潮社の記述を参考にしました。)
 

博士の愛した数式
 

★★★

 映画にもなった話題作だが、なかなか読む機会がなかった。
 本屋大賞のページを作った時にこの本が2004年に受賞していることを
 知り、図書館で借りてみた。
 数字に対する新鮮な感覚にまず驚かされた。28が完全数であり、約数
 を足すと28そのものになるということ、完全数は6、496、8128であるこ
 と・・・。完全数である6は1、2、3  496は1、2、3、4、5、6・・・と自然数
 を足した数にもなっていること・・・。
 数の神秘が限りなく散りばめられた秀作である。
 
 博士はと言えば、47才の時の交通事故が原因で、記憶が80分しか持
 続しないという、通常の生活を営むには大きな障害を負っている。
 博士がルートと名付けた私(家政婦)の息子との触れ合いを通して、
 子ども向ける博士の温かい眼が描かれる一面もある。
 タイガースファンである博士とルートを誘い、3人で阪神の試合を見に
 行ったところで新展開が・・ しかし、やがてもとのさやにおさまる・・。 
 終末、ルートは成長し中学校の教員採用試験に合格したという。
 そして、私には闇に沈みゆく球場が見える・・縦じまのユニフォーム、
 キャッチャーミットに吸い込まれてゆく速球。その背中には完全数・28
 の背番号・・・。

 小川洋子はこの物語を書くためには多彩な数学の本を読んでいる。
 参考までに載せておくことにした。
  ・はじめまして数学1、2  吉田武・幻冬舎
  ・数の悪魔 エンツェンベルガー・晶文社
  ・天才の栄光と挫折 数学者列伝  藤原正彦・新潮社
  ・数学者の言葉では  藤原正彦・新潮社
  ・フェルマーの最終定理  サイモン・シン 新潮社
  ・放浪の天才数学者エルデシュ  ポール・ホフマン 草思社

ことり
 

★★★

 読書のコミュでどなたかが薦めていた一冊。
 以前に読んだ博士の愛した数式がとても良かったので別な本も読み
 たいと思っていた。
 
 身寄りのない小鳥の小父さんが遺体で発見され、抱いていた鳥籠の
 中にいたメジロが澄んだ鳴き声を響かせる。そして鳥籠から出て大空
 に飛び出すシーンから始まる

 この本に出てくる「小鳥の小父さん」も、世間一般からすれば、変人で
 ある。
 「ポーポー語」をはなし、他人と会話できない兄との生活。
 ゲストハウスで働きながら、幼稚園の片隅にある鳥小屋の世話をし、
 毎日同じようなことを繰り返しながら安穏に暮らしていた。
 やがて兄が亡くなる。小父さんは鳥小屋の世話を続けて、図書館史書
 の女の人と知り合ったりするが・・・やがてそれも終わりに近づく。

 小父さんと兄は変人であるが、現代を生きる私たちの欠けているもの
 に心を向けさせてくれる。
-------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 12年ぶり、待望の書き下ろし長編小説。 
 親や他人とは会話ができないけれど、小鳥のさえずりはよく理解する兄、
 そして彼の言葉をただ一人世の中でわかるのは弟だけだ。
 小鳥たちは兄弟の前で、競って歌を披露し、息継ぎを惜しむくらいに、一
 所懸命歌った。
 兄はあらゆる医療的な試みにもかかわらず、人間の言葉を話せない。
 青空薬局で棒つきキャンディーを買って、その包み紙で小鳥ブローチをつ
 くって過ごす。

 やがて両親は死に、兄は幼稚園の鳥小屋を見学しながら、そのさえずり
 を聴く。弟は働きながら、夜はラジオに耳を傾ける。
 静かで、温かな二人の生活が続いた。小さな、ひたむきな幸せ……。
 そして時は過ぎゆき、兄は亡くなり、 弟は図書館司書との淡い恋、鈴虫
 を小箱に入れて持ち歩く老人、文鳥の耳飾りの少女と出会いながら、
 「小鳥の小父さん」になってゆく。
 世の片隅で、小鳥たちの声だけに耳を澄ます兄弟のつつしみ深い一生
 が、やさしくせつない会心作。

注文の多い注文書
 小川洋子からの捜索物の依頼を、クラフト・エヴィング商會が受けて用意
 するというもの。
 幻想的な雰囲気の漂うものが注文されるが、しっかり応える・・・。
 この世界・・・よく理解できなかった。好みの問題か・・・。

 


  

  東 菜奈 ・ 東 君平・・
 
      
東 菜奈
 1965年、東京生まれ。日本大学芸術学部、米ダートマス大学大学
 院卒業後、旅行会社に勤務。通訳の仕事に携わる。東京デザイナ
 ー学院で学んだ後、絵本作家として活動を始める。執筆、イラスト、
 翻訳など活動は多岐にわたる。著書に「行ってみたいなあんな国」
 シリーズ、「はじめてのテーブルマナー」がある。
東 君平
 1940年、神戸市生まれ。22歳の時「漫画読本」でデビュー。
 切り絵を使った白と黒の世界が多くの人を魅了した。
 1963年渡米。帰国後、創作活動を続け、100冊を超える著作が
 ある。なかでも、1973年から毎日新聞に14年間連載した「おはよ
 うどうわ」はライフワークであった。1986年肺炎のため急逝。
 主な著作「おはようどうわ」全10巻、「あかちゃんえほん」全3巻。
風を待つ少年

東君平物語

 名作である。
 娘が父のことを調べ、その波瀾万丈の生涯を描いたものである。
 裕福な医者の家に生まれたが、戦争を契機に家業が傾き、極貧
 の生活を送る。職を転々としながら、ついに切り絵に自分の生き
 甲斐を見つける君平。彼の強く、優しい姿が瑞々しく描かれる。
 かな感性と強い信念さえあれば、どんな夢でも叶う・・
 そして、風は誰にでも必ず吹いてくれる・・
    
 
 

  
   

 中島 京子・・
 
      
 1964年東京都生まれ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 出版社勤務、フリーターを経て、03年「Futon」で
 デビュー。06年「イトウの恋」、07年「均ちゃんの
 失踪」、「冠・婚・葬・祭」がそれそせれ吉川栄治
 文革゜新人賞候補となるなど、高い評価を得てい
 る。著書に「さようならコタツ」「ツアー1989」
 「桐畑家の縁談」「平成大家族」「女中譚」など
小さいおうち
 作者の自叙伝かと思ったら違っていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 これまでミステリーや歴史ものが多かったのでちょっと異色の感じで読ん
 だ。平凡なわりに目が離せず読み進んだ。
 内容(「BOOK」データベースより)
赤い三角屋根の家で美しい奥様と過ごした女中奉公の日々を振り返るタキ。
そして60年以上の時を超えて、語られなかった想いは現代によみがえる。 
     

 
 

  

 鴻上 尚志
 
      
 1958年 愛媛県生まれ。早稲田大学法学部。・・・・・
 1981年劇団「第三舞台」結成。作・演出を手がける。
 2007年「虚構の劇団」主宰。
 舞台公演のかたわらエッセイスト、ラジオ・パーソナリ
 ティー、テレビ司会、映画監督などハス場広く活動し
 ている。
 紀伊国屋演劇賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞戯
 曲賞などを受賞。桐朋学園芸術短期大学教授。
八月の犬は

二度吠える

 サスペンス小説のつもりで図書館から借りたのだが、読んでみて
 全然違うのに驚いたた。20ページ程読んだところで止めようと思
 ったが、データベースなどの紹介を読むと「感動する・・・」と書いて
 あるので読み進めた。
 中盤から目が離せなくなり、そのまま読ま せられてしまった。
 医大を目指すがついに諦めた吉村。人付き合いの良さに隠され
 た家庭不和の中にいた長崎。学者を 目指して挫折、高校教師
 になるがそれも失敗した久保田。それぞれの生き方、仲間達と
 の関わりが読み手を惹きつけていく。
 -------------------------------------------------
  愛媛から出て、京都の予備校に入った山室は長崎、関口、吉村
 (一年後)後輩の久保田、伊賀達と知り合う。
 ロケット弾を一万発打ち合った鴨川、屋上から覗いた隣の社員寮
 思い出はつきない。
 しかし、長崎の恋人だった有希子に山室が恋してしまい、悩んだ
 有希子は自殺。
 仲間を崩壊させた山室。(自殺の原因が山室ばかりのせいでな
 いことは後にはんめいする。)
 24年経って死の床についた、かつての友人・長崎が山室に託し
 たのは、以前に失敗したままになっていた「大文字」に点を付け
 る「八月の犬」作戦。

 

   

 笹本 稜平(りょう)
 
      
 1951年 千葉県生まれ 立教大学社会学部社会学科卒業
 2001年 「時の渚」で第18回サントリーミステリー大賞と読
        者賞をダブル受賞。
 2004年 「太平洋の薔薇」で第6回大藪春彦賞受賞。
       警察小説の他、壮大なスケールの冒険小説を構築
       する作家として高く評価されている。
 主に作品に 「天空への回廊」「フォックス・ストーン」
         「極点飛行」「マングースの尻尾」
         「不正侵入」「駐在刑事」「恋する組長」
         「越境捜査」「特異家出人」「素行調査」
         「白日夢 素行調査官2」「未踏峰」などがある。
春を背負って
 

★★★

 連作で6つの短編から成っている。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ・春を背負って    ・花泥棒   ・野ざらし
  ・小屋仕舞い    ・疑似好天   ・荷揚げ日和
------------------------------------------------------------
  電子機器メーカーをやめて父の跡を継ぎ、梓小屋の小屋主となった長嶺亨は
 父の大学の後輩で、冬季間はホームレスをするというゴロさんの助けを借りて
 何とか経営に成功している。
  甲武信ヶ岳と国師ヶ岳を結ぶ稜線から少し長野方面に向かう辺りにあるこの
 小屋に起こる事件?や訪れる人々の物語。
  ・生きる力を無くして辿りついた美由紀。
  ・野ざらしで白骨化していた遭難者と、偶然その場で遭難しそうになった84
   歳の老登山家。
  ・脳梗塞で倒れたゴロさん。
  ・三人のパーティーが折からの悪天候で無人の梓小屋に閉じ込められる。
   そのなかの女性の夫が交通事故で危篤と言う・・・。
  ・小屋開きをしようとヘリコプターで運んで荷物の中に、子猫と小さい女の子
   が紛れ込んでいた。
  この本には、人生の縮図や夢、希望が詰まっている。
時の渚
 

★★★

 茜沢圭は妻と子を轢き逃げされが、その捜査に加われなかったことに怒り、刑事を
退職して私立探偵となって、独自の活動をしている。
 その西沢に元ヤクザで今は事業で財をなした松浦から、昔手放した息子を探す仕
事が舞いこんだ。松浦は末期がんで余命いくばくもないという。
 松浦の依頼と自分の事件を同時に追い求める西沢。
 わずかな手掛かりをもとに、松浦が赤ん坊を預けた居酒屋「金龍」をの女を探す西
沢の前に、女の複雑な事情と数奇な運命が見えてくる。まさに流転の人生である。
この辺りの作者の仕掛けが素晴らしい。
 やがて松浦の息子に辿り付き、ハッピーエンドかと思ったが、作者はとんでもない
伏線を張って待ち構えていた・・。西沢の父が残した手紙に書かれていたものは・・。
 死に面した松浦が西沢からすべてを打ち明けられて、言う。
「立派な親父さんじゃねぇか。お袋さんもなあ。決して恨んじゃいけねえよ。」
-------------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 元刑事で、今はしがない私立探偵である茜沢圭は、末期癌に冒された老人から、
35年前に生き別れになった息子を捜し出すよう依頼される。茜沢は息子の消息を
辿る中で、自分の家族を奪った轢き逃げ事件との関連を見出す…。
「家族の絆」とは何か、を問う第18回サントリーミステリー大賞&読者賞ダブル受賞
作品。
所轄魂

★★★

 笹本稜平の刑事物もなかなか良い。
 江東区内を南北に流れる運河、横十間川の周辺を埋め立ててつくられた親水公
 園に若い女性の死体が発見される。そして、第二、第三の事件が・・・。
 運河とカヤックを利用した連続殺人事件。
 女性の靴を持ち去り、痕跡を残さない犯人だったが、葛木達、所轄の刑事はカヤ
 ックの目撃談から一人の容疑者に辿り着く。彼は果たして犯人なのか・・・。
 事件の早期解決を図ろうとする捜査本部の中で、葛木父子の心が揺れる・・・。 
------------------------------------------------------------
内容(「BOOK」データベースより)
 城東署の強行犯係長・葛木が加わる殺人事件の捜査本部に、警視庁捜査一課
からキャリア管理官の一人息子・俊史が着任した。
 同時にチョウバ壊しで知られる捜査十三係の鬼係長・山岡も派遣されてきた。
その恰好の餌食とされた葛木父子の、警察官魂が試される。 
素行調査官

漏 洩

 腐れ切った警察上層部と、組織のためにその指示に従う者たち・・・。
 これほどかというくらい、利権に目がくらむ警察官が描かれる。
 ちょっと現実離れしていると思うが、さもありなんという目で読むとそんな一面も
 ありかと思ってしまう・・・。公僕の意味をしっかり考え直す必要がある。
 -----------------------------------------------------------
 内容紹介から
 入江、北本、本郷の警視庁人事一課監察係の3人は、仕手集団が絡んだ株のイ
ンサイダー取引疑惑を調べていた。対象人物のひとりだった捜査二課の戸田光利
は、課内で一身に疑惑を背負う形になり、追われるように退職。直後にくも膜下出
血で倒れてしまう。
 戸田の無実を信じる部下の沢井昭敏は、事件の真相を探ろうとするが……。
 追いつめられた沢井を、本郷たちは救うことができるのか? 
 好評警察小説シリーズ最新作。 
尾根を渡る風

★★★

 山岳小説として読み応えがあった。
 この作家の本は何より読みやすいのがよい。
 心が癒される。
  ・罪を犯し山に逃げ込んだが、どうにも行き詰ったとき犬に出会い・・
  ・山に取りつかれ、難所を駆け回り、ついに昔ながらの衣装まで身につける
   ようになった老人は仙人と呼ばれるようになったが、ふいっと姿を見せなく
   なった。老人はかつては高名な学者だった・・・。
  ・ストーカー? 山野を走るトレイルランの優勝者を母に持つ若者が何故?
  ・10年後に届いたメール。山小屋を営みたいという息子に猛反対した父はメ
   ールに心を動かされ・・・。
-----------------------------------------------------------
 内容紹介から
 捜査一課から駐在所長へ。
 奥多摩の自然と温かき人々が不遇の元刑事を変えていく……
 異色の「山岳+警察」小説!

 「駐在刑事」ドラマ化決定! 「水曜ミステリー9」(テレビ東京系)にて

 警視庁捜査一課の敏腕刑事だった江波淳史(えなみあつし)は、
 取り調べ中に容疑者が自殺したことで青梅警察署水根(みずね)駐在所所長へ
 と左遷された。
 亡くなった女性への自責の念から、江波が望んだ異動でもあった。
 駐在所の仕事と暮らしにも馴れ、山歩きを趣味とする江波は徐々に自らを取り
 戻していく。
 ある日、御前山(ごぜんやま)でペットの犬がいなくなったという連絡があり、
 山に入った江波の見つけたトラバサミが山梨で起きた殺人事件とつながってい
 く――。 


 

   
 
 齋藤 智裕
 
      
  1984年 東京生まれ 慶応義塾大学環境情報学部卒業
       俳優・水嶋ヒロとして、映画・ドラマ・CM等で幅
       広く活躍。
2010年 「KAGEROU」で第5回ポプラ社小説大賞受賞。
      本作が初の著書となる。
KAGEROU
 
 
 
 

 

 話題になっている本だとは知らず、ポプラ社小説大賞受賞というこ
 とで、図書館から借りた。初版発行から9日しか経っていないのに
 「第6刷」となっているのは凄い。
 1ページの文字数が少なく、どんどん読める。
 内容は、自殺志願者が「どうせ死ぬなら」と、臓器提供の説得に
 応じるというもの。麻酔を打たれてしまえば、それで終わりなのだ
 から一番楽な方法かもしれない。軽いタッチで進む・・・。
 もしかすると、とんでもない「どんでんがえし」が待ち受けているの
 かと期待してしまった・・・。
 終末で、大東康雄が二度と目覚めない深い眠りに落ちた時・・・
 キョウヤ・ヤスオの脳内の動脈が・・・。
--------------------------------------------------- 
内容(「BOOK」データベースより)
第5回ポプラ社小説大賞受賞作。『KAGEROU』―儚く不確かなもの。
廃墟と化したデパートの屋上遊園地のフェンス。「かげろう」のような
己の人生を閉じようとする、絶望を抱えた男。そこに突如現れた不気
味に冷笑する黒服の男。
命の十字路で二人は、ある契約を交わす。肉体と魂を分かつものと
は何か?人を人たらしめているものは何か?深い苦悩を抱え、主人公
は終末の場所へと向かう。
そこで、彼は一つの儚き「命」と出逢い、かつて抱いたことのない愛
することの切なさを知る。水嶋ヒロの処女作、哀切かつ峻烈な「命」の
物語。 
 
 
 
 
 


 塩田武士(たけし)
 
      
 1979年 兵庫県生まれ 関西学院大学卒業。・・・・・・・・・・・・・・・・・
        卒業後、神戸新聞社に勤務。
 2010年 「盤上のアルファ」で第5回小説現代長編新人賞を受賞し
        デビュー。プロを目指す将棋指しと新聞記者の熱い戦い
        を描いた本書は大きな話題となる。
 2011年 将棋ペンクラブ大賞を受賞。その実力でいま最も注目を
        集める新人作家。
女神のタクト
 

★★★

 久しぶりに音楽・クラシックへの関心を目覚めさせてくれた。・・・・・・・・・・・・・・
 ラフマニノフのピアノ協奏曲第三番
 イギリスの作曲家・エドワード・エルガーの「威風堂々」「チェロ協奏曲」
                          「エニグマ変奏曲」「愛の挨拶」
 機会があれば是非聴いてみたいと思った。
 あらすじは出版社の内容説明等に適切に書かれている。
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 内容説明から
進め、前へ。音楽は魂だ! 『盤上のアルファ』で鮮烈デビューの著者、待望の
最新刊。
30歳にして職と男をなくした矢吹明菜。旅先で出会った老人に「アルバイトせえ
へんか?」と誘われる。金がなく公演もままならない小さな楽団に、ある男を連
れてくれば報酬があるという。それが明菜と、一度は世界的に活躍した引きこ
もり指揮者・一宮拓斗、そしてオルケストラ神戸の出会いだった。
笑いがいつしか感動になる音楽の奇跡の物語。 
 内容(「BOOK」データベースより)から
どう見てもたよりない指揮者と、あまりに濃いメンバー。偶然、オルケストラ神戸
に足を踏み入れた明菜だが、そこで封印していた「音楽」への思いを呼びさまさ
れ―。笑いがいつしか感動になる、猪突猛進・情熱物語。 
盤上のアルファ  女神のタクトがよかったので、賞を受賞したというこの本を読んでみた。
 社会部から文化部にまわされ、くさっている記者のアパートに、「居酒屋で隣
 りに座り、なぐり合った・・」という理由だけで、転がり込んできた男があった。
 その男は将棋以外に全く取り柄がない。しかもタンクトップしか着ない、どう
 にも冴えない男だった。
 記者は惚れている居酒屋のママにうまく丸め込まれ・・・奇妙な三人の同居
 生活が始まる。
 面白い展開であるが、今一つ強く訴えかけてくるものがない。将棋を指す場
 面はそれなりの迫力があって良いのだが。
 この本が選考員の絶賛を浴びたというのであれば、自分の読みがまだまだ
 未熟だということだろう。
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内容説明・内容(「BOOK」データベースより
 選考会満場一致! 最強の受賞作、登場! 屈折した新聞記者が、偶然出会った
 将棋指しの大それた野望に、まったくの成り行きでつきあうことに。
 個性豊かな人物たちが織りなすおかしくて熱い人生逆転物語! 
 真田信繁三十三歳。家なし、職なし、目標・プロ棋士。とてつもなく迷惑な男が
 巻き起こすかつてなく熱い感動の物語。
崩  壊
 作家の考えている小説というのは、このようなものかもしれない。
 悲劇と不幸がやってくる現実。人間の欺瞞や業、奈落に落ちていくような運
 命・・・。バブルに乗って浮かれたが、はじけた後は市役所の職員だった兄の
 もとに、わずかの金を借りに来る叔父。弟の金回りの良さを妬み、汚職に手
 を染めてしまう父。それらに翻弄される家族・・・。
 市議が殺されるが、それは主題とはあまりかかわらない。作者の描きたかっ
 たことは・・・。親に振り回される子どもの姿だったのではないか。
 このような本を求める読者もいるのだろうが、私は・・・。
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内容説明・内容(「BOOK」データベースより
 地方都市・波山市の市議会議長が殺された。当直明けの夜、波山署の刑事・
 本宮宣親は遺体が安置されている病院に向かう。亡くなった議長の妻と娘は
 何かを隠しているようだった…。
 事件当時、被害者宅付近で聞こえた男女の声を手掛かりに、本宮は県警本
 部の若手女性刑事・平原優子と組み、事件の足取りを追う。
 捜査を進めていくうちに、奇しくも、本宮自身が封印していた高校時代の苦い
 思い出と事件が絡み合い―。
 時代に翻弄された人々の哀しみを丁寧に描いた感動の警察小説。 
雪の香り
 純愛ミステリーの傑作。
 この言葉に惹かれて、図書館で予約してしまった。
 ひと言でいえば、しまりのない記述。焦点の定まらない文が延々と続く。
 雪乃との出会いまでのまどろっこしい説明が最初に続いて、意味不明だった。

 山本謙一の切れのある文(関ヶ原)を読んだ後だったので、とても我慢できな
 かったが、頑張って60ページ読む・・・ついにリタイア。
 作家は読者に伝えたいことをそのまま書いてはいけないのである。読者の関
 心を確実に掴む・・・これが必要である。
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内容説明・内容(「BOOK」データベースより
 舞台は京都。新聞記者・恭平は捜査情報の中に、十二年前に失踪した学生
 時代の恋人・雪乃の名前を見つけ、驚愕する。
 なぜ彼女は消えたのか?取材を進める中で浮かび上がる雪の秘密。
 そして物語は運命の日、祇園祭の宵山へ…。
 気鋭の著者が「書き終えたくない」ほどの情熱を注いだ純愛ミステリーの傑作
 が誕生しました。 


 


 宮下 奈都 (みやした なつ)
 
      
  1967年 福井県生まれ。・・・・・・・・
   上智大学文学部哲学科卒業。

2004年「静かな雨」で文學界新人
     賞 佳作に入選してデビュー。

誰かが足りない


 レストラン『ハライ』についての記載が少ないので、このレストランの素晴
らしさはほとんどわからない。でも、この本の主題は其処にはないのでそ
れでよいのかもしれない。
 (ハライの客の)向かいの席は空いている。そこにやってくるのは・・・。
--------------------------------------------------- 
内容(「BOOK」データベースより)
予約を取ることも難しい、評判のレストラン『ハライ』。10月31日午後6時に、
たまたま一緒に店にいた客たちの、それぞれの物語。認知症の症状が出
始めた老婦人、ビデオを撮っていないと部屋の外に出られない青年、人の
失敗の匂いを感じてしまう女性など、その悩みと前に進もうとする気持ちと
を、丹念にすくいとっていく。 
  
 
 
 
 


 西 加奈子
 
      
  1977年 イラン(テヘラン)生まれ。関西大学法学部卒業
2004年 「あおい」でデビュー。 
2005年 「さくら」が20万部を超えるベストセラーとなる。
2007年 「通天閣」で織田作之助賞受賞。
2011年 咲くやこの花賞受賞。

漁港の

肉子ちゃん

★★★

 
 不思議な本だと思って読み始めたが、どんどん引き込まれて
ついに読了。
 本名・菊子なのにその名前で呼ばれることはない。焼肉屋を手伝う
太めの38才。それが主人公・喜久子(わたし・5年生)の母である。
肉子さんは単純でわかりやすい、誰でも信じてしまう・・・。でも憎め
ない・・・。
 私のまわりでおこるできごと(クラス友だちの、バスケットを巡る仲
間われ)、肉子さんの辿ってきた道、そして私自身の過去・・・。
日々の暮らしを描きながら、次第に核心に迫る手法が素晴らしい。

  
 
 

 

     

 桂 望実
 
      
 1965年 東京都生まれ 大妻女子大学卒業
 会社員、フリーライターを経て、2003年「死日記」でデビュー。
2005年「県庁の星」が映画化され、ベストセラーとなる。

ハタラクオトメ

 

「読んで面白い」という本として紹介があったので、図書館で借りた。
確かに面白い。主役・デブの「ごっつぁん」は太っていることを前面に出して
いる。ユニークである。いつも物を食べている・・・。
----------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 北島真也子、OL。157cm、100kgの愛くるしい体形ゆえ、人呼んで
「ごっつぁん」―。
 中堅時計メーカーに就職して5年が過ぎた彼女は、ひょんなことか
ら「女性だけのプロジェクトチーム」のリーダーに。
 任務は、新製品の開発。部署を超えて集められた5人と必死に企
画を立てるも、その良し悪しを判断される前に、よくわからない男社
会のルールに邪魔される。見栄、自慢、メンツ、根回し、派閥争い…。
働く女性にエールを送る、痛快長編小説。 

 
 


 橋本 紡 (つむぐ)
 
      
  三重県伊勢市生まれ。
第4回電撃小説大賞金賞を受賞しデビュー。
「リバーズ・エンド」「半分の月がのぼる空」などの人気シリーズ作品を
生みだし、近年は一般文芸作品を数多く手がける。
他の著書に「流れ星が消えないうちに」「もうすぐ」「葉桜」などがある。
イルミネーション・キス

★★★

 
5つの短編。
 1、2・・・幼なじみ、同級生の女の子同士・・これはよくわからなかった。
 3・・理想的な男性との付き合いより、不器用な男を選んだ後藤。
   「俺は後藤さんのことを大切にするよ。10年たっても20年たっても
    誕生日にはプレゼントを贈る。悲しいときは寄り添う。嬉しいときは
    いっしょに笑う。だってさ、俺は後藤さんのことが好きなんだ。」
   そんなノブ君がデザイナーとして名前が売れ・・・・ある日ケンカをし
   て、ふいと出ていく・・・・。
 4・・下に書かれている話。
 5・・出世街道を順調に進んでいた健太は同棲していた智子が妊娠し
   たのを知って育休をとる。智子も総合職として上を目指していたの
   で。「主夫」として健太は充実感を持つ・・・・。
  345・・感動する短編である。
------------------------------------------------------
 内容(「BOOK」データベースより)
 デザイン事務所で働くOL西野は上京して数年、東京での日々に流され
るまま生きてきた。同じことの繰り返しのように見えた日常の中で、年下
デザイナー伊藤の存在が、ふと気になりはじめ…。
 不器用な生き方の二人が恋を始めるのに必要なのは、イルミネーショ
ンに彩られた街なかで、今この瞬間に交わすキスだった―(表題作)。
誰もがそっと胸にしまってある大切なシーンを、やわらかな筆致で呼びお
こす5つの物語。 

 
 


 愛川 晶 
 
      
  1957年 福島市生まれ。
1994年 「化身」で第5回鮎川哲也賞を受賞。
     トリッキーな本格ミステリーを基調としながら、サイコサスペンス、
     ユーモアミステリ、人情ミステリと幅広く活躍。主な作品に、
     「七週間の闇」「根津愛(代理)探偵事務所」「六月六日生まれ
     の天使」「道具屋殺人事件 神田紅梅亭寄席物帳」など
ヘルたん
 
 図書館の「新刊」が紹介されるコーナーがある。
 そこに、毎回提示される中から次に借りる本を選んでいるが、この作家は
 その縁で見つけた。
 主人公・神原は両親が借金を背負って出奔。自身も生きている目標を見いだ
 せずに転々としている。
 ホームレスの一歩手前で辿り着いた成瀬の家。
 浅草寺の裏手にある古びた木造家屋で神原の生活が始まる・・・。
 推理の場もあるが、全体として淡々としたストーリーである。
 高校時代の先輩葉月、葉月を追いかけて登場した元担任の岩淵、認知症の
 タケさん、ヘルパーの講習会で知り合った志賀未来など、特異な人物設定も
 あるが、「広がり」には乏しい。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 元引きこもりの神原淳は、浅草に住む成瀬老人宅の居候となる。
 そこで出会ったヘルパーは、淳が高校時代に恋していた不良先輩・中本葉月。
 成瀬は実は伝説の名探偵で、淳はヘルパー講習の傍ら、探偵見習いも務める
 はめに…。
 推理と介護のフュージョン。新機軸の青春本格ミステリ。 

 

     
     
 平 安寿子(たいら・あすこ) 
 
      
  1953年 広島市生まれ 広島女学院高校卒業後広告代理店、
            映画館勤務などを経て、フリーライターに。
            アン・タイラーの小説に触発されて小説執筆を開始。
1999年 「素晴らしい一日」にて第79回オール読み物新人賞を
      受賞。
2005年 「本の雑誌」が選ぶお勧めベスト文庫ベスト10第一位
      に「グッドラックららばい」が選出される。
     著書に「もっと、わたしを」「あなたがパラダイス」 
         「風に顔をあげて」など多数。
こっちへお入り

★★★

 
 読者を落語の世界へ誘ってくれる秀作。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 江利は友達の友美の誘いで女ばかりの落語の会に出席。
 はじめはそのぎこちない出し物を批判的にみていたが自分で稽古をはじめ、
 大変さに気づく。そして、落語を通して自分の生き方も考えるようになる。
 対立する二人を一人の人間が語るのであるから、双方の見かたを
 理解しなければいけない・・・これが人間を一方的に判断しないことに繋が
 る・・。
素晴らしい一日 
 

★★★

 これは面白い。
 
 ・素晴らしい一日
   失業した幸恵は以前50万円を貸した友朗をパチンコ屋で見つけ、
   返済を迫る。そして、50万円の用立てのために友朗とともに「付き
   合いのある女たちをまわる羽目に・・・。
 ・アドリブナイト
   家でした美代子に間違えられ、死の床にある老人に一目会いに
   連れ出された瑠美。
 ・オンリー・ユー
   中原の高校時代のガールフレンド・由佳子は、つかず離れず。
   中原に彼女ができるたびにアクションを起こす・・・。   
 ・おいしい水の隠し場所
   ルイは、弁護士・沖村の事務所で高校の時の初恋の相手・室田
   に会う。
 ・誰かが誰かを愛してる
   建設会社部長の智明、部下の下山、二人と付き合ったことのある
   園部結子。今度の相手は智明が弟分として目を掛けている健太
   だと聞いて・・・。
 ・商店街のかぐや姫
   産婦人科の父の反対を押し切ってスーパー営業している努と一
   緒になった月恵。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 恋人に逃げられ、勤務先は倒産。ドツボにはまった三十歳の幸恵は、
 昔付き合った男に貸した金を取り立てるところから人生を立て直そう
 と考えたが…(「素晴らしい一日」)。
 卓抜なユーモア感覚が絶賛されたオール読物新人賞受賞作を含め、
 憂きことばかりの人の世を、もがきながら生きる人間像を軽やかに
 讃える傑作六編。 
レッツゴー
ばーさん
 60代を目前にした女性には参考になる本だと思う。
 なるほどと思ったり、思わず笑ったりする場面もあるが、ちょっと男性
 には退屈する。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 老化も含めて60歳は自由だ! そう思えば将来(不安はゼロではない)も
 どーんと受け止められる。
 人生をきれいに生き尽くせるかは50代が勝負! ユーモアあふれる短編
 連作。 
   
 
 

  
  
 石田 衣良 (いしだ いら) 
 
      
  1960年 東京生まれ。成蹊大学卒業。
     代理店勤務、フリーのコピーライターなどを経て、
1997年 「池袋ウエストゲートパーク」でオール読物推理小説新人賞受賞。
     同書はTVドラマ化され、ベストセラーシリーズになる。
2003年 「4TEEN フォーティーン」で直木賞。
2006年 「眠れぬ真珠」で島清恋愛文学賞を受賞。
再  生
 
 短編は「深まり」がないまま終わってしまう・・・そんな感じがした。
 ただ、「銀のデート」
 これは良かった。感動する本に入れたくなった。
 荻原浩「明日の記憶」に似たところがある。50代でアルツハイマー病になっ
 た夫に従う妻。
 ある日(勤労感謝の11月23日)、夫はデートの約束があると言って、盛装し
 て出かけていく。一人で外出などとても困難な状態なのに。
 夫の行き先を案じる妻は(あの人はもしかしたら)と胸が騒ぐ。
 銀座・和光ビルの前。夫が言う、
 「・・・・塚原さん、そのスーツ素敵ですね・・・。」
 「・・・・よろしかったら、ちょっと銀ブラして、お腹が空いたら鮨でも・・・」
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 内容(「BOOK」データベースより)
 妻を自殺で喪い息子を一人で育てるサラリーマン。家族を捨て、後悔の念に
 さいなまれるラジオディレクター。
 定年退職後、新たにタクシー運転手を目指す元トラック運転手。
 前触れもなく彼から別れを切り出されたキャリアウーマン。
 不況下で中小の広告代理店に入社し不安を覚える新入社員。
 単調な日々の仕事にうんざりする契約社員…。
彼らの平凡な日常に舞い降りた小さな奇蹟とは?感動作『約束』に連なる、現
代の心の渇きを潤す短編集。 
池袋ウエスト
ゲートパーク

★★★

 池袋を舞台にした若者たちの物語。
 高校を卒業して母親の果物屋を手伝い、暇なときは池袋西口公園にたむろ
 する真島誠、相棒のマサ、シュン。
 同じ高校だった安藤崇はGボーイズの頭。
 そのGボーイズと抗争を繰り広げるレッドエンジェルスのリーダー・京一。
 池袋に繰り広げられる事件や抗争を追って真島たちが動き出す・・・。
 これは面白い。退屈せずにどんどん読み進められた。
 2000年4月にテレビドラマになったらしい。 

 

    
 
 今井 彰 
 
      
1956年 大分県生まれ。
1980年 NHK入局。
      NHKスペシャル「タイス少佐の証言〜湾岸戦争45日間の記録」
              で文化芸術作品賞
     NHKスペシャル「埋もれたエイズ報告」で日本ジャーナリスト会議
              本賞、放送文化基金奨励賞受賞
     「シリーズ弁護士・中坊公平」でギャラクシー優秀賞受賞。
2000年に立ち上げた「プロジェクトX〜挑戦者たち」は菊池寛賞、橋田賞
     などを受賞。
2009年 エグゼクティブ・プロデューサーを経て退局。
 
 
ガラスの巨塔

★★★

 衝撃作であった。
 テーマが「真の報道」をめざす記者の軌跡のようなものだと思って読み進めてい
 た。バグダット、アメリカと、戦争の過酷さと本当の戦争の姿を描くために命をかけ
 る主人公・・・。そして、チャレンジX(プロジェクトX)。名もなき人たちの、「夢の実現
 にかける努力」に焦点をあてた名番組の制作者。
 しかし、真摯に番組を作り続ける主人公に全日本テレビの風は冷たい。異例の出
 世への嫉妬、中傷。そして、三流週刊誌からの誹謗。
 だんだん切なくなってきた。しかし、最後まで読み進めて、あらたな感動もあった。
 チャレンジXは主人公の生き方そのものであると・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 1万人を超える社員を抱え、国内外に82の支局を構える全日本テレビ協会。ここに、
三流部署ディレクターから名実ともにNo.1プロデューサーにのし上がった男がいた。
湾岸戦争時に作った1本のドキュメンタリーをきっかけに、受賞歴多数の社会派ディレ
クターとして名を馳せ、プロデューサーとして手掛けた「チャレンジX」は視聴率20%超
の国民的人気番組に。
 天皇と呼ばれる会長の庇護の下、「選ばれし者」の特別職に誰よりも早く抜擢され、
さらなる野望をたぎらすのだが…。悪意と情熱が交差するとき、栄光は汚辱に塗り
替えられていく。
 元NHK看板プロデューサーが書き下ろす問題小説。  

 
 

    
 
 山下 澄人 
 
      
1966年 神戸市生まれ。神戸商業高等学校卒。
      倉本聰の富良野塾第二期生
1996年 劇団FICTIONを主宰。作・演出・出演を兼ねる。
2012年 「緑の猿」で第34回野間文芸新人賞を受賞。
2013年 「砂漠ダンス」で第149回芥川賞候補。
      「コルバトントリ」で第150回芥川賞候補。

     札幌での演劇ワークショップ「Lab」など、様々な
     活動を行っている。 

 
コルバトントリ
 図書館の新刊コーナーに、紹介文が素晴らしかったので借りた。
 100ページくらいの薄い本で、1ページの行数も13。読みやすいのだが・・・。
 この文体、情景や場の描写、説明が少ない語り口。
 よくわからないまま移り変わる場面。
 馴染めず・・でも何となくずっと読んでしまって、結局よくわからなかった。
 読解力の不足を痛感する・・・。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 「ぼく」を通して語られる、いつか、どこかで暮らしていた人々の物語。
 おばさんは幼い頃、「ぼく」の母親が窓から捨てた油で顔に消えない痕がのこるが、
 のちに、刑務所に入った父親、交通事故死した母親のかわりに「ぼく」をあずかる。
 幼馴染みたち、アパートの飲んだくれのおじさん、月を見張っているおじいさん――。
 富とは無縁の人々を、静かな雨が包み込む。
 「永遠」にめぐる世界を閉じ込めたかのような奇跡的中編。 

 父は入院している。母は車にはねられて死んだ。ぼくはおばさんと暮らしている。
 ある日少年は父親の見舞いに出掛けた。不良の中学生、子鹿のような女の子、
 月の番人…やがて子供の姿の父と母に出会う。
 生者も死者も人間も動物も永遠を往還する―。 


 

    
 
 松波 太郎 
 
      
1982年 三重県生まれ 。一橋大学大学院卒。
2008年 「廃車」で第107回文學界新人賞を受賞。
2009年 「よもぎ学園高等学校蹴球部」で第141回芥川賞候補。
2013年 「LIFE」で第150回芥川賞候補。
 
Life
 だらだら且ぶらぶらの国、国王の演説から始まる。
 国王を辞任して二代目になるにあたっての挨拶である。
 何のことか意味不明だったが、フリーターの自分と同棲相手の宝田に
 子供が出来たこと・・ここが話の出発点らしいと・・終盤になって
 ようやく気付く。
 この展開、語り口・・・馴染まなかった。
 もっと違う書き方、構成があると思う。
 LIFE 東京五輪 西暦2011 の三篇があったが、
 1篇でリタイアしてしまった。
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 内容(「BOOK」データベースより)
 猫木豊、31歳。脳内で「365日毎日“だらだら且ぶらぶら”できる国の王」と
 して暮らす、ダメ男。
 ある日、パートナーの宝田から妊娠を告げられ、“だらだら且ぶらぶら”に未
 練を残しつつ、現実の生活と向き合い始める。
 しかし出産後、こどもの先天的障害が判明し、宝田は動揺を隠せない。
 いっぽう猫木は、ダメ男のくせにそんな宝田への不満を隠せない――。
 二人は互いに見当違いの三くだり半をつきつけ合うのだった
 本作は「命の誕生」を前に若い男女が直面する〈人生の苦難と歓び〉を描く
 感動作です。た・だ・し、本作は、いわゆるふつうの感動作ではありません。
 感傷からは遠い、思わず声を出して笑ってしまうユニーク且ユーモラスな文
 体こそが、読後の感動を引き出しているからです。とにかく面白い小説です。
 文学の世界に誕生した、この新しい才能に、ぜひご注目ください!
 第150回芥川賞候補作。 

 

    
 
 久坂部 羊 
 
      
1955年 大阪府生まれ 大阪大学医学部卒業
      外務省の医務官として9年間海外で勤務した後
      高齢者を対象とした在宅訪問診察に従事している。
2003年 「廃用身」で小説家デビュー。以後、現代の医療に
      問題を提起する刺激的な作品を次々に発表。
 
嗤う名医

★★★

 キレのある文。
 隙なく読ませる展開。小説として申し分ない。
 専門である医療の知識もふんだんに盛り込みながら、医療関係者の
 生の姿、悩みなどにも切り込んでいる。
 この作家の本をいろいろ読んでみたい。
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 内容紹介から
 天才的心臓外科医の隠された顔、最高の治療の為には誰にも妥協を
 許さない名医、
 患者の嘘を見抜いてしまう医者・・・・・・。
 現役の医師が皮肉を交えて医療に携わる人間を描く、ミステリー短編集。 

   ・“嫁”の介護に不満を持つ老人(「寝たきりの殺意」)。
   ・豊胸手術に失敗した、不運続きの女(「シリコン」)。
   ・患者の甘えを一切許さない天才的外科医(「至高の名医」)。
   ・頭蓋骨の形で、人の美醜を判断する男(「愛ドクロ」)。
   ・ストレスを全て抱え込む、循環器内科医(「名医の微笑」)。
   ・相手の嘘やごまかしを見抜く内科医(「嘘はキライ」)。
 本当のことなんて、言えるわけない。
 真の病名、患者への不満、手術の失敗。現役医師による、可笑しくて怖
 いミステリー。

いつか、あなたも

★★★

 深く考えさせられる本である。
 「あとがき」(この作家は今まであとがきを書かないそうだ)で、
 「この本はほぼ実話に基づいている・・もちろんフライバシーに配慮し、いろ
  いろ変えて・・・だから、どの作品もあまりハッピーな終わり方になってい
  ません。」
 「死は不条理で残酷。何の罪もない人に襲いかかり、翻弄しうろたえさせる。
  当事者はその中でもがき、苦しみ、精一杯努力しようと努力します。その
  姿は悲しく、切なく、ときに感動的です。」
 「私は非力な医師として、何の力にもなれませんでしたが、病気と闘った人
  々の姿を、何とか書き残したいと思っていました。」
 と、書いている。
 引用が多くなったが、この作家の思いを残しておきたかった。

 内容紹介が他の本にないほど詳しいので、読後感は簡単にした。
 在宅看護は回復のない患者に向き合うのである。
 死に向かう患者に寄り添う医師と看護師。自分にあてはめて読み終えた。
-----------------------------------------------------------
 内容紹介から 在宅医療専門クリニック看護師のわたし(中嶋享子)と
 新米医師の三沢、クリニック院長の一ノ瀬らが様々な患者本人と家族、
 病とその終焉、そして安楽死の問題にも向き合う。
 カルテに書かれることのない医療小説、六つの物語。

 【収録作品】
■綿をつめる
 膵臓がん患者の60代女性が亡くなった。わたしは三沢に死後処置――
 遺体に綿をつめる作業を教えることになった。
  大病院の医師ならば死亡確認後、カルテを書くだけだが、 在宅クリニッ
 クでは、医師も死後処置に取り組むのだ。

■罪滅ぼし
 認知症の妻を介護する夫。元は家庭を一切顧みないサラリーマンだったが、
 今は妻のために全身全霊で介護を続けていた。
 そんな夫を暖かくかつ厳しく見守るわたしたちだが……。

■オカリナの夜
  一ノ瀬院長の口癖は「高齢患者はすぐ楽になる」だが、末期患者が在宅
 で最期を迎える意義も大きいと語る。
 そして、骨髄腫患者本人への病名告知に関しては意外にも……。

■アロエのチカラ
 思い込みの激しい患者家族がいる。
 卵巣がん末期の妻を支える夫は、医者を信用せず、次から次へと怪しげな
 民間療法にはまってしまった。

■いつか、あなたも
 在宅医療は老人ばかりではない。
 26歳の女性患者は統合失調症に見えだが、症状は複雑だ。
 その女性がわたしに投げかけた言葉「いつか、あなたも」の意味は。

■セカンド・ベスト
 末期ALS患者の女性は人工呼吸器を拒否し、余命が危うくなってきた。
 安楽死も選択に入る中で、一ノ瀬院長が、わたしと三沢医師に提案した
 「セカンド・ベスト」とは。 


 

    
 
 矢作(やはぎ)俊彦 
 
      
1950年、神奈川県横浜市生まれ。東京教育大学附属駒場高校卒。
      高校在学中からダディ・グースのペンネームで漫画家として
      活躍。
1972年 「ミステリマガジン」に「抱きしめたい」を発表し、小説家として
      デビュー。
1998年 『あ・じゃ・ぱん』でドゥマゴ文学賞を受賞。
2004年 『ららら科學の子』で第17回三島由紀夫賞を受賞
 
ららら科學の子




















 

 評価の高い作品らしい。
 最後まで読んで心にストンと落ちるものはあった。
 しかし、途中に同じような出来事と回想の繰り返しが多く、なかなか集中
 できない。
 学生運動に参加し中国に脱出・・これは私たちの年代だと理解できる。
 その後の中国の改革転換、山間部への送還・・そして農村部での30年。
 このような変遷もさもありなんと思い、興味を持っては読める。

 日本にたどり着いてからの出来事に眼を惹くものが少ないのである。
 東京の変化はわかる。問題は同じ世代の心情、目標、行動の変化に深い
 洞察を加えていないことである。
 中国・農村での生活も、時々断片的に登場して盛り上がりがない。
 最終章は良い。中国へ、別れた妻の元へ・・・再び還る主人公の姿に共感
 できた。
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 内容・内容紹介から
 50歳の少年が見たニッポン
 本書は矢作俊彦氏が構想に15年以上、雑誌連載開始から6年を経て
 生れた待望の最新長編です。
 主人公は、1968年の学生運動で殺人未遂に問われ中国に密航した男。
 山に閉ざされた中国の村で生活から脱し、30年ぶりに帰還した彼。
 文化大革命、下放をへて帰還した
 男を匿う組織と蛇頭の抗争「彼」は30年ぶりの日本に何を見たのか。
 携帯電話に戸惑い、不思議な女子高生に付きまとわれ、変貌した街並を
 ひたすら彷徨する。1968年の『今』から未来世紀の東京へ―。
 30年の時を超え50歳の少年は二本の足で飛翔する。覚醒の時が訪れる
 のを信じて。 


 

    
 
 米澤 穂信(ほのぶ) 
 
      
1978年 岐阜県生まれ。
2001年 「氷菓」で第5回角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリ
       ー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。
2011年 「折れた竜骨」で第64回日本推理作家協会賞(長編及び
       連作短編集部門)を受賞。
満 願
 6篇のうち、夜警、死人宿、柘榴の3編を読み、これは駄目だと思った。
 でも・・と思いなおし、標題にある「満願」を頑張って読み、ついにクリア。
 内容紹介を読むと読書欲を刺さられる。読書メーターでも、多くの人が
 評価しているのだが。
 私には合わない。
 文は読みにくくない。しかし、読後に何が残るか・・・そんなこともあるの
 か・・・それで終わりである。

 「柘榴」は酷い。生活能力がない、どうしようもない男とついに別れること
 を決めた女。夫婦には高校生の娘が2人居たが、娘は父親の方に行くと
 いう・・・そして、娘たちがしたことは・・・。これはただ底知れぬ世界を描
 いてみせただけ。それでどうなるのかといえば、破滅の未来が待ってい
 るだけである。破滅と苦悩を描いて見せるのならば、わざわざ貴重な時
 間をさいて本を読む必要がない・・・私は最近そう思っている。
 「破滅」がテーマであっても、読者にそこから、自分が生きていくための
 希望や力を獲得させる・・それが本の力であると、私は思っている。
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 内容紹介から
  人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは―。驚愕の結末で
  唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、美しき中
  学生姉妹、フリーライターなどが遭遇する6つの奇妙な事件。
  入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる、ミステリ
  短篇集の新たな傑作誕生。 


 

    
 
 江上 剛 
 
      
1954年 兵庫県生まれ。、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。
      日本振興銀行元・取締役兼代表執行役社長。元みずほ銀行築地支店長。
2002年 経済小説『非情銀行』で作家デビュー
ごっつい奴

★★★

 軍隊を志願した丑松の教錬の過酷さ、終戦の混乱が臨場をもって語られ
 る。
 海軍に一緒に入った幼馴染の茂一は上官からの体罰で死亡。
 茂一の骨の一部をもらい、丑松は一念発起して大阪に出た。
 浮浪児のリーダー寅吉、海軍同期で食堂をやっている菅原、やくざの親
 分・石井たちとの付き合いの中で、商売を始めていく。
 体格がよく腕力も強い丑松の力強い生き方、爽快な姿が全編を貫く。

  菅原の食堂を奪った難波金融の湊は菅原の妹・弥生に恋心を抱く。
 丑松の周囲に現れる人物も興味深い。
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 内容紹介から
 商いの基本は、人を喜ばすことや!ちっぽけな定食屋の手伝いのかた
 わらヤミ商品を売って糊口をしのいだ男が、大阪を地盤に大外食チェー
 ンを築き上げようとしていた。
 小手先じゃなく、正面突破こそが成功につながる!いまだからこそ読みた
 い、痛快出世物語。 


 

    
 
 深水 黎一郎(ふかみ れいいちろう) 
 
      
1963年 山形県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。
      在学中にフランスに留学。
2007年 「ウルチモ・トルッコ」で第36回メフィスト賞を
      受賞しデビュー。
2011年 「人間の尊厳と八〇〇メートル」で
     第64回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞
テンペスタ
 

天然がぶり寄り娘と

正義の七日間

 うーん!
 かなり読み進めたのだが、全体の違和感が消えず、新たな展開も期待
 できず・・・ついにリタイア。
 小学4年生の女の子?ちょっと違う。
 中学生の設定でないとありえないような言葉遣い、江戸時代の刑場等に
 ついての知識、社会の奥底まで知っているような口ぶりなど・・・
 読者が素直に小説の中に入っていけない。
 この作家が書きたかったことはわからないでもないが、登場人物の設定、
 小説の構成、展開を大幅に見直すべきではないかと思ってしまった。
------------------------------------------------------
 内容紹介から
 笑いあり、懐かしさあり、最後に驚きと感動あり! 凸凹コンビが織りなす
 ドタバタエンターテイメント! 
 東京で大学の美術の非常勤講師を勤める賢一。30代も中盤に差し掛かっ
 ているのだが、ギリギリの収入の中、一人ほそぼそと日々の生活に忙殺
 されて過ごしている。
 そんな中、田舎に住む弟から一人娘を一週間預かって欲しいとの連絡が
 ある。
 しぶしぶ引き受けることになった賢一を駅で待っていたのは、小学四年生
 の美少女・ミドリ。
 しょっぱなから、毒舌で得体の知れないミドリに圧倒されながら、賢一とミ
 ドリの一週間の共同生活が幕を開ける・・・。
 ミドリの純粋でまっすぐな心に触れるたび、日々の生活で無くしてきた何
 かが見つかる、心の箍を外せる感動の長編小説 

 

 
 
 長沢 樹(いつき) 
 
      
1969年 新潟県生まれ。高校卒業後、映像関係の専門学校を経て
       テレビ番組制作会社に就職
2011年 「リストカット/グラデーション」で第31回横溝正史ミステリ
      大賞を受賞。
      同作を『消失グラデーション』と改題し作家デビュー。
      この作品は「このミステリーがすごい!」と「本格ミステリ・
      ベスト10」の両方で第6位に選ばれた。
リップステイン
 この文章は何だろう。
 思ったこと、周りの出来事、それらを闇雲に書く・・・。断定したり、唐突に
 会話を入れたり、その会話も、言った本人の思いが不明だったりする。
 要するに文と文がバランスよく繋がらないのである。
 非常に読みにくい。
 簡潔に言い切ってよい個所でも、解説をつけたような余分な文が入り込ん
 でいる。
 『・・・する』 という現在形は臨場感がありそうで、間延びする。過去形にし
 た方がテンポは出るのである。

 文についてあまりにも読みづらいので延々と書いてしまった。
 20ページほどでリタイヤしてしまったので内容がわからない。
 自分の読解力が不足しているのだろう・・・。能力不足か。
------------------------------------------------------
 内容紹介から
 僕は渋谷の街角で、殺人鬼を追うきみと出会った。ある時は「武者修行中」
 と笑い、またある時は傷だらけで電話してくる。
 世間が震える連続事件の現場に必ず現れる美少女。君は一体、何者なん
 だ?張り巡らされた謎、緊迫のクライマックス。
 ストーリーテリングの手腕が炸裂する、青春ミステリーの新機軸! 


 

 
 
 川内 康範
 
      
1920年 函館市生まれ。高校卒業後、数々の職業に就く。
1941年 東宝の演劇部へ入社。東宝退社後、新東宝やテレビなどの脚本家、劇
     作家としての活動開始。
1958年 テレビドラマ『月光仮面』が大ヒット。恋愛小説も発表。作詞活動も始め、
     「誰よりも君を愛す」、「君こそわが命」、「骨まで愛して」、「恍惚のブルース」、
     「花と蝶」、「伊勢佐木町ブルース」、「おふくろさん」など数多くのヒット曲を作
     る。
     海外同胞引き上げ、遺骨収集など、社会運動を通じて政治の世界に。
     佐藤栄作政権以来、歴代宰相の顧問を務め、辛辣な時評で政治評論家とし
     ても活躍。
2008年 居住地であった青森県八戸市の病院にて死去。
月光仮面

復刻版
 

魔人の爪
(サタン)

 図書館ボランティアをして返本整理中に見かけたので、終わってから借りた。
 少年少女向けなので半日で読んでしまった。
 テレビドラマをそのまま見ている感じ。
 面白い。「憎むな 殺すな 真贋糺す(まことただす)べし!
 「みんなで手を取り合って、たとえ貧しくても、心の美しい人々の住む日本」が
 実現することを願ってやみません・・・と復刻版のあとがきに書いている。
------------------------------------------------------
 内容紹介から
 バラダイ王国の秘宝を狙い、怪盗・サタンの爪の策動は激しさを増していた。
 窮地に立たされた名探偵・祝十郎!そして助けに現れた月光仮面までもが…!?
 最後に勝つのは正義か、悪か。舞台はついに決戦の地、バラダイの廃墟へ!
 月光仮面の力強い歌声が人類の愛と平和を守る!川内康範・原作小説復刻、
 ついに完結。 

 
 

 
 
 吉永 南央
 
      
1964年 埼玉県生まれ。群馬県立女子大学卒業後、
2004年 「紅雲町のお墓」でオール読物推理小説新人賞を受賞。
2008年 同作を含む「紅雲町ものがたり」でデビュー。
青い翅
 図書館の新刊紹介を読んで興味を持ったが・・・。
 この文章にはとてもついていけない。
 自然な流れを無視した文の挿入。前後が簡単に入れ替わる感じ・・。
 会話が展開に沿ってしっかり書かれない・・・。
 作者の思いを書くためだろうか、言い切りの文。
 やはり、この作家の良さを見出せないのは読解力の不足だろう・・・。
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 内容紹介から
 天才的な版画家が美しい蝶の木版画を残して失踪した。
 作品を託された友人は、「この一枚しか刷らない」という版画家の言葉を
 信じていたが、18年たって複製の存在を知る。
 大きな衝撃を受けた友人が依頼した調査から、思わぬ人物へと波紋が
 広がってゆく――。
 大好評「紅雲町珈琲屋こよみ」の著者が贈る長編ミステリー。 

 

 
 
 堀川 アサコ
 
      
1964年 埼玉県生まれ。群馬県立女子大学卒業後、
2004年 「紅雲町のお墓」でオール読物推理小説新人賞を受賞。
2008年 同作を含む「紅雲町ものがたり」でデビュー。
幻想探偵社

★★★

 

 何と、この方は青森県出身である。
 しかも、この小説は青森の地方紙「と東奥日報」に掲載されたものだという。
 面白い!。
 幻想の世界をより身近に日常的に描いてくれる。
 軽い感じで何処までも読める、そんな感じ。
 海彦とユカリには、成仏できない幽霊の姿が見える。
 その2人は心と体が遊離した(子どものままの姿と風俗嬢)女、2000円札を
 握りしめる書店の店主などを、その理由を探り当てて成仏させる。
 一番の問題は最初からずっと登場するヤンキー青年・大島。
 大島は自分が何故死んだのか、それすらわからない「記憶喪失」の幽霊。
 大島が海彦、ユカリと同じ中学の出身とわかり、その頃起こった、園芸部の
 事件を探る。大島は恋した女の子(今は母校の加藤先生)が他の事仲良く
 するのを見て、その子が造ったガーデンをめちゃくちゃにしたのだった。
 園芸部の顧問だった星野先生はその後、中学校をやめ、塾の先生になっ
 ていた。そして、事件は意外な方向に向かう・・・。
 ともかく、軽いタッチで読めるのが何より良い。
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 内容紹介から
 「東奥日報」にて2013年10月4日から一年間連載された『幻想探偵社』を、
 単行本化にあたり大幅に加筆修正。30万部突破の「幻想シリーズ」最新作。
 女子の前でひどくあがってしまう中井海彦は野球部に所属する中学二年生。
 ある日、父親から受験のためにクラブ活動を二年生までで辞めるように言わ
 れた海彦は、顧問に練習を休みたいと申し出る。
 急に暇になってしまった海彦は、帰宅の途中、入学時から気になっていた女
 子の生徒手帳を拾った。
 小路の先に楠本ユカリ本人の姿を発見し急いで跡を追う。ユカリが向かった
 雑居ビルの6階は「たそがれ探偵社」と書かれていた。
 「ここ、幽霊専門の探偵社なの」扉を開けたその瞬間から、海彦のとんでも
 ない二学期がはじまる!